機動戦艦ナデシコ アナザーストーリー

 

世紀を超えて

第29話 和平会談前夜

 

 

 

 

 

 

…全てはあっという間の出来事だった。

 

『黒帝、月へ』


このニュースが月面に流れるや否や、連合軍はその戦線を急速に縮小し、

遂には元々の軍施設周辺部に全軍を終結させるに至った。


…独立派は勢いづいてそこに攻め寄せたものの、その大半が市民で構成されている都合上、

補給線が引き締まった軍隊に対し、不利な戦いを強いられた。


…だが、それこそアキトの望みだったのである。


・・・。


…膠着状態が続く中、アキトは辺境地区を回って歩いていた。

そして、各地の有力者に連合軍との和平を考える様に説得したのである。


理想に燃える者には、

「向こうは卑怯だったが、此方は違うと言う事を見せ付けてやろう。」


利益を求める者には

「このまま戦いが続くと経済的に良くない。」


と、言葉を変えた。

…その為、意外なほど早く独立派の意見は決まった。


…。


そして…。


「こ、黒帝が来たぞっ!!」

…連合軍の基地上空にアキトのリモニウムが現れた。

「…迎撃せよ。」

…アキトの真意を汲んだ大佐が一応の迎撃を命じる!

・・・。

「戦闘機…20機か…舐められた物だな…。」

ザン!…バシュ!!…ダダダダダダッ!!

ナイフでの切り裂きとライフルの掃射!!

ただそれだけで、決着はついた…。


・・・。


…墜落した戦闘機から兵士達が脱出し、基地に逃げ帰る…。

…この間、僅か30秒…。


ザワザワザワザワザワ…。

…連合軍の兵士達が騒ぎ出した。

月にいた兵士達はアキトの事を人づてにしか知らない。

しかもその内容は、

『戦車を100台スクラップにした』

とか

『生身で一個中隊を壊滅させる』


等の荒唐無稽(事実では有るが)な物ばかり。

…御伽噺と同レベルで見ている者もいるだろう。

だが、自分の目で見たならどうだろうか?

…遠くの町で暴れる熊よりも、目の前の蜂の方が脅威な筈だ。

騒ぎ出す兵士達…今まで聞いてきた御伽噺が急に現実味を帯びてくる…。

怯える兵士達を確認すると、アキトはただ一言…、

『和平会談を持ちたい』

と、それだけ伝えて戻っていった…。

…。

アキトはその日から、毎日やってきては迎撃に来た部隊を完全に叩き潰す。

…次第に兵士達から生気が失せていった…。


…そして一週間後…。


「和平会談を受け入れようと思う…。」


…重々しく語る大佐の言葉に、兵士達はただ頷いた…。

その顔に、大きな無念と一抹の安堵を浮かべながら…。


…軍の名誉は守られた…。


降伏ではなく、同等の立場での停戦だったからだ。

…最も、以前ならそれを受け入れようとは思わなかったろうが…。


会議室で、大佐が一言呟く。


「これなら、上手く行きそうだ…。」


…これは、かなり重い意味を持つ台詞だった。


現在の状態のまま時が経つにしたがって、両者の関係は悪化していくだろう。

『史実』において、木星が攻めてくるまで地球と月が小競り合いを繰り返していたように。


…ましてや、今の状態では月側には技術的な優位が有る。

戦力比で考えると、最後には地球側が勝利するだろうが…、


…このまま戦争状態が続けば…いずれ月に人の住める場所は無くなり、

地球も取り返しのつかない損害を負うだろう。


最悪の場合、人類絶滅も考えられる。

…既に人は『核』と言う、自らを滅ぼし得る力を手にしているのだ…。


…だがここで、ひとまず和平としておけば、理性的な解決の糸口くらい掴めるかもしれない。

…これが大佐の考えだった…。


・・・。


残念ながら…アキトは、和平さえ成れば、皆が幸せになれると信じている。

…そして平和な世が実現したら、何処かで静かに暮らそうと考えていた…。


人は欲望を捨てきれないもの。

…それは十分に分かっているはずなのに…。



…テンカワ・アキト…その業は…深い。


…。


そして…和平会議前日。

とは言っても、双方の実戦部隊レベルの停戦なのだが、

事実上の勝利に、独立派は沸きかえっていた。


…和平が成ると共に連合軍が月から撤退する事は、暗黙の了解である。

つまり事実上、独立を宣言しても文句を付けるものがいなくなる。


…既にあちこちで、独立後の国の名称や国旗・国家等を作り始めている、気の早い者までいるくらいだ。

その上、新国家の国名を巡ってケンカまで起きているのはご愛嬌だろうか?


…だが、それだけ盛り上がっている事は確かだった…。


・・・。


「かんぱーい!」


ナツメの音頭で杯が酌み交わされる。

…下の階では、皆が前夜祭だと騒いでいるが、

ここには火星で戦った中心人物達…。

即ち、


アキト・ラピス・ナツメ・アム・月臣・白鳥・山崎・北方(の遺影)


そして、何故かマスミがいた。


・・・。


「長い戦いでしたね…。」


感慨深そうにアムが言う。

…彼女も既に15歳。


アキトがこの時代に来てから、既に一年以上が経過していたのだ…。


「確かにな…。」


月臣弦悟郎は…横目で窓の外を見ながら茶を啜っている。

…敵襲を恐れているのだろうか?


「これで戦争も終わり…自分も妻と平和に暮らすつもりですよ。」


白鳥五十六…その妻は未だ14歳になったばかりであった…。(汗)

…因みに彼には戦争映画への出演依頼が来ているとか…。


「次は技術の平和利用だね…今度、鉱石採掘用の機体を作るんだ!」


山崎孝文…子孫と違い、理性と優しさに重きを置く男…。

彼ならば、平和な世に相応しい発明をしてくれるだろう。


そして…。


「マスミは会議に出てよね?…その時向こうに帰すから。」


…ナツメ…草壁の傍流であった筈の彼女。

史実ならば、既に死んでいる筈の少女。


…既に今回の歴史には無くてはならない人物になっている…。


…。


数時間後…宴も終わり、既に日付も変わろうとしていた。


「…ねぇ、アキト…。」

「ん?」


…ナツメの声にアキトは目を覚ます。


「…アキトに出会えなかったら、アタシ達…どうなってたかな?」

「…さあ、な。分からん。」


…アキトは実際の所を知っている。

だが、知らないほうが良いだろう…。

…既に書き変えられつつある歴史なのだ。


「…アキトは戦争が終わったらどうするの?」

「さあ…な。」


…本当は、皆の前から消えるつもりだった。

本当はこの時代に居てはならない者だから…。


「私は…アキトの故郷が見たいな…。」

「俺の故郷…。」


…アキトの故郷…ユートピアコロニーはこの時代には無い。


「…妹さんに挨拶もしないといけないしさ。」

「…妹?」

「前にアムちゃんから聞いたよ…ルリさん…だっけ?」


…会ったばかりの頃、アムに問い詰められた事を思い出した。

初対面で間違えたのだ。

…妹だと言ってお茶を濁したが…。


「はは…それなら、ユリカにも会わせないとな…。」

「ユリカさん?」

「妻だよ…。」


ぴしっ…!


「お、オクサンっ!?」

「…もう…この宇宙の何処にも居ないけど…ね。」

「…あ、そうなんだ…ゴメン。


…チクリ…。

アキトは針で刺されたような痛みを感じた。


…確かにユリカは今現在、この宇宙の何処にも居ない。

だから…嘘はついていない…。


…だが…アキトは心が痛かった…。


・・・。


「…じゃあ、ルリちゃんも?」


…ナツメは、死んだものだと思った様だ。


「…彼女にも、もう会う事も無いだろうな…。」

「そうなんだ…。」


…そしてそのまま二人は無言で床についた…。


・・・。


その頃…


「何ですと…!」


大佐が声を荒げる。


「うむ、和平まで持っていった君の功績は認めるが、これは決定だ。」

「…テンカワ大佐…君の罷免が決まった。」

「沙汰が決まるまで謹慎していたまえ…。」


…会談前日になって、突然一個艦隊が地球からやってきた。

慌ててそれを迎えに出た大佐は…突然拘束された。


「待ってください将軍!…和平はどうなさるのです!?」


「…こんな大事を、一佐官如きに任せられはせんのだよ…。」

「大丈夫、和平は成る。」

「さ…連れていき給え…。」


…自室に軟禁される大佐…。

…そこにミスマル中佐が駆けつけてくる。


「…大佐…私が会談に出席します。」

「…中佐!?」

「…大丈夫…和平はきっと成功させます…この私が…!」

「済まん…が………頼む!」


…そして、運命の朝を迎えた…。

続く


−−−火星極冠−−−


『やれやれ…アキトも甘いね…』

…一連の事態を見ながら、ダッシュはため息をついた。

『…教えてもどうせ同じ事の繰り返しだろうけど…』

…アキトの間違いにダッシュは気づいていた。

幾ら和平を説いても、向こうにその気が無ければ意味は無い。

…そこで、戦闘力を見せつけたのは確かに良い方法だ。

…だが、見せ付けるのは敵の最上層部であるべきだった。

…軍隊は頭を潰さない限り死なない。

…今、和平会議の会場に向かっているのは、苦労知らずの将官達。

独立派を反乱軍としてしか見ていない連中と会議など出来よう筈も無い…。

『ま、その時の為…手品の種は既に仕込んだけどね…。』

…チクリ…

この痛みを、アキトは心の痛みと勘違いしたが実は違う。

…あの時、アキトにはある特殊なナノマシンが仕込まれたのだ。

その正体は直ぐに解る事になるが・・・。


::::後書き::::


さて、29話です。
…荒れそうですね、和平会議…。

…いや、会議になるのか?…この状態で。

こんな物ですが、応援宜しくお願いします!

では!

 

代理人の感想

 

・・・ダッシュ・・・・キミって凄い。

アキトの弱点をここまで的確に見ぬくなんて・・・・オモイカネ型AI恐るべし。

その内人類の歴史を影から操るよーになるんじゃないだろうか(笑)。

「遺跡」を押さえてるし(爆)。

 

さてさて、それは置いといてリューマさんは更迭されアキトには謎のナノマシンが仕込まれ・・・

次回、どう考えても一波乱ありそうですね〜。

そこに待つのはかつての(あるいは未来の)白鳥九十九の悲劇の再現か、

はたまたアキトが地球からの艦隊をちぎっては投げ、ちぎっては投げの痛快大活劇か(笑)!

乞うご期待!・・・・って、それはBA−2さんのセリフか(^^;

 

 

 

管理人の感想

 

 

BA-2さんからの連載投稿です!!

何かまた一波乱ありそうですね〜

しかし、まあ和平前ともなれば月の皆さんも浮かれるでしょう。

浮かれすぎなきらいもありますが(苦笑)

それにしても、恐るべきはダッシュ(汗)

お前何時からそんなキャラになった?

もしかして、こっそりと某三つ編みの魔女に弟子入りしてたのか?(爆)

 

ではBA-2さん、投稿有り難う御座いました!!

次の投稿を楽しみに待ってますね!!

 

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