機動戦艦ナデシコ  アナザーストーリー


世紀を超えて

第104話 異界との接点





…ピチャン…ピチャン…


「…うう、ここは…。」


アキト・ラズリは頬に当たる水滴で目を覚ました。


…だが、アキトは土砂に押しつぶされた筈…。

しかし…彼は何故か洞窟のような場所に倒れていたのだ。


「…ここは…どこだ?」


…キョロキョロと周囲を見回す。

そして良く見ると、背後には土砂が流れ込んでいる…。


「…土砂の重みで天井が抜けたんだな…。」


…事実、彼の足は未だに土砂に埋もれていた。

そこで力を込めてそこから抜け出した後、アキトは周囲を探る…。


「…ここは…宇宙船の中…か?」


…周囲は汚れきって埃まみれではあったが、間違いなく人工物であった。

しかも、戦闘の跡と思われる痕跡すら存在する…。


「これは…一体何時のものだ…?」


…唖然としながらアキトは先に進んでいく。

…と言うより、背後は土で埋もれている。…先に進むしかないのが本当のところだが。


「…何処まで続いて…いや、出口があるかも判らんな…ん?」


…ガツン


何かを蹴飛ばしたような音。

…アキトはその『何か』を拾い上げた。


「…消火器か。…しかもボコボコにへこんでいやがる…何があったんだ?」


…それは何故か『悪霊退散』の札が貼られた、ボロボロの消火器であった。

以前出てから約88話もの時間が…本当に久々の出番ではある。(爆)


…。


…そして、それから暫くして…アキトは少し開けた場所に辿り着いた…。


「…ここで行き止まりか。」


…目の前には蓋付きのベッドのような物が置いてある。

但し蓋は開き、埃が随分と溜まっているが…。


「…一体何の部屋だったんだ…。」


…アキトは部屋を物色した。

出口に関わる何かがあるかもしれない…そんな風に思ったのかもしれない。


「…これは…なんだ…?」


…そして、アキトがコンソールらしき物に触れたとき、異変が起きた…。


…。


…ヴヴヴ…

鈍い音が部屋中に響く…。


「…まだ…システムが生きているのか…!?」

『…正確には貴方のお陰で目覚めたところです。』


…!!


アキトは反射的にブラスターを構えた!

だが…そこにはスピーカーらしき物があるばかり…。


「お前は何だ。」

『私はこの艦を司る式神…貴方達で言う所のメインコンピュータです。』


「…メインコンピュータ…にしては随分人間臭い自己紹介だな。…まるでオモイカネだ。」

『似たようなもの。…何にせよ、再起動を感謝します。』


コンピュータはアキトにそう礼を言った。


「…俺はただコンソールに触れただけだが。」

『いえ、一度エネルギー切れでシステムダウンしておりました。…何らかの刺激が必要だったのです。』


「…エネルギーが切れていた…?」

『はい、100年前に。…ですが先ほどの重力波をエネルギーとして利用できたようです。』


「…エステバリスのようなものか…?」

『…もう少し距離が近かったらただのダメージですが、距離が遠かったのが幸いしました。』


…そこでアキトははっと気付く。


「おい、なら地上への脱出ルート知らないか!?」

『…検索終了。…ですが、お教えする前にこちらの条件を飲んで頂けますか?』


…前代未聞、コンピュータに交換条件を突きつけられる男…!


そんな新聞の見出しがアキトの脳裏を駆け巡る。

だが、アキトには拒否できる要素は何も無い…。


「まあいい、とりあえず言ってみろ。」

『…はい、一言で言えば…ある人を探し出し守ってあげて欲しいのです。』


「…ある人?」

『一人は私の友。…そしてもう一人は我々の主と同じ名をもつ女性です。』


…ふと、アキトは違和感を覚える。


「…友人はともかく…『主と同じ名前』とはどういう事だ…?」

『…同一人物に極めて近いものですが…そうですね、初めからお話しますか。』


「ああ、頼む。…この際情報は何だって欲しい。」

『…そうですか。…時に貴方は『遺跡』について何処までご存知です?』


「…古代人からの贈り物…火星の何処かに眠る秘宝。…裏の世界ならそれ位は漏れ伝わってくる。」

『…それと似たようなものが、我々の世界にも存在したのです…。』


そして…そのコンピュータは静かに語り始めた。

遥かなる異界の神話とでもいうべき物語を…。


…。


かつて…その世界で『遺跡』が見つかった。


…だがこの世界とは違いそれは人の手が届く場所にあり…、

見つけた人類はまだ古代人と言ってもいいレベルであった。


だが、偶然にもとある女性が遺跡に触れ…偶然にその一部を取り込んでしまうと言う事件が起きる。

…そして…その世界の人類は遺跡の力を手に入れた…我々よりずっと早く…。


…その女性の名は卑弥呼。

遺跡を扱う力。…それは血と共に遺伝し…彼の一族の長は、代々『卑弥呼』を名乗るようになる。


…彼の一族の持つ、人知を越えし力…。

それは人々を畏怖させ…遂には信仰の域に達した。


そして遂に…その世界では遺跡を扱える物たちと、それに従う者達…、

…即ち「呪術師」による統治が始まる事となる。


そして、彼らは自らの世界を「大和」と称するようになる…。


…。


時は流れた。…世界は順調に発展していった…。

だが…人が増え統治すべきものが増えるに従い、卑弥呼の負担は大きくなっていく一方であった。


それを見かねた側近の一人が卑弥呼を補佐させるべく遺跡の記憶…即ちメモリーを物色。

…遺跡からの遺物と感応できる人間を"開発"した。


…造られたその少女は周囲を驚かせるほどの成果を上げた。

そして遂には自らの複製を大量生産させることにすら成功する…。


…これにより、卑弥呼の負担は大幅に緩和された。

そしてその少女達は巫女と呼ばれ『星野瑠璃』の総称をいただく事になる…。



…。


「ぞっとするような話だな。…だが、解せん。」

『何がでしょう。』


話の途中…突然アキトが口を開いた。

…正直、長話に飽き飽きしているのだろう…。


…だが、同時に彼には一つの疑問がわきあがっていた。


「…お前らの世界の起こりはわかった。…だが、同じ技術なら何故ここまで差が出る?」

『…機動兵器の性能でしょうか…?』


「そうだ。」

『…では、そこもお話しますか。…少し長くなりますよ?』


…。


長い年月が過ぎた。

…大和の呪術師達は何時しか官僚化し、支配力の向上に神経を尖らせるようになっていた。


…そして、彼らの出した結論は人々の精神を支配する事であった。


当初、彼らは人々の脳に微弱な電気信号を送る事により、幻覚を見せると言う方法を生み出した。

これは、脳の活動が微弱な電気信号によって行われている事から可能になったのである。

…無論、彼らも細かい原理は知る由もなく、ただ偶然成功しただけに過ぎないが。


そしてその過程で…彼らは恐ろしい事に気付く。

それは…意外と人の心を操るのは容易いと言う事実だった。



…。


モノには影響力と言うものがある。

そして、影響力はその物自身だけが作り上げるだけでなく、周囲の評価に大きく左右される。


…誰かが小石を池に投げ捨てても、周囲は特に気にしないだろう。

だが、それが金塊だとしたらどうだろうか?


…金も小石も物体には変わりない。


だが、金は我々人間から見た勝手な評価で高価とされる。

…周囲の反応は小石の比ではないだろう。


また「誰かが池に小石を投げ捨てた」だけでは大したことは無いが、

投げ込んだ池が「寺の境内にある、鯉の泳いでいる池」だとしたら?


…やった事は変わらなくても、人の持つ価値観により意味合いが変わってくるのが人の世。

そして、その価値観は確実に人の心を縛る…。


そう、例えば大事な何か…受験や大きな取引など…の直前に突然鏡が割れたり、

靴紐が切れたりしたとき…普通の人は、それを吉兆として見る事が出来るだろうか…?


今のは例え話だが、

そういう事があった結果本来の実力を出し切ることが出来ず失敗する可能性は大いにある。

…その時、こう思うだろう。


ああ、あれはこうなる予兆だったんだな…と。



…それは体験した人の口を通して周囲に広まる。

そしてそれと偶然でも同じ状況に陥ったものがいた場合、それは同一視され更に広まっていく。


…何人もの口から聞いた言葉は、途端に信憑性を増すものだ。


そして…気付けばそれはすっかり周囲に広まり、

何時の日か『当然の事』として扱われるようになるだろう。


…先の靴紐の話だと、そうして話が広まるにつれ、

ただの物理的現象に過ぎなかった靴紐が切れると言う状況に、

「不運な事が起こる可能性がある」と言う意味合いが加わる。


それから起こる心理的影響は、その後の行動に制限をつけるだろう。


例えば、そういう事があった人間が

「危険・立ち入り禁止」という札のかかった場所に近づきたがるだろうか?

それに、どちらかと言うと安全そうな道を選ぶようになるかも知れない。


…。


そして、それを利用すれば他人を操る事が出来る。


…例えば、ある人物に来て欲しくない場所があったりする。

その場合…どうすればよいだろうか?


そう…その場合こっそりと靴紐に切れ目を入れておけばいい。

…そうすれば、歩いているうちに靴紐が切れる可能性が上がる。


後は、その来て欲しくない場所に「危険」の札でも立てるなりすれば良い。

…少なくとも、何もしないよりはその人物がそこに移動する確率を押さえる事が出来るだろう。


…そう言う風に相手の選択肢を奪っていき、自らが望む選択肢を、

向こうに「これが自分にとって一番良い」と思わせる事が出来れば、相手を操る事になる…。


…。


「それが…呪術か…?」

『…平たく言うと。…但し大和のそれは長い時間をかけ、改良を積み重ねられていますが。』


ふん…とアキトが鼻を鳴らす。


「…成る程な、強いと思い込まされてしまったから実際強いように見えた…か。」

『…それもありますが、そうでなくとも機体性能は大和が上ですし…それに。』


「それに?」

『呪術は自軍の士気を上げ、敵の士気を挫きます。』


「…馬鹿げた事を。…無人兵器がか!?」

『機械を騙すのは人を騙すのとそれほど変わりません。…むしろ簡単だと言う人もいますよ。』


…それに、オモイカネ級なら心ぐらい持っててもおかしくは無い。


『そして…大和の呪術は現実の事象に影響を与えるようなレベルにまで高められています。』

「…厄介だな。」


『ですから最初に言った方々が必要なのです。…呪力に対抗するには相応の人間が必要ですから。』

「…それは…?」


『…探し出して欲しいのは、私と対応していた巫女と…卑弥呼様…。』

「…おい、それはお前らの…。」


『我が方の卑弥呼様は…お亡くなりになられました。…クーデターを起こして。』

「…待てよ…仮にもトップが…クーデターを…起こす?」


唖然とするアキト。

…少なくとも、普通クーデターとは下にいる者がおこす事だ。


『はい。…長い繁栄が慢心を生み…大和は他の宇宙へ勢力を伸ばそうと言うところまで来ました。』

「…成る程、侵略に異を唱えたのか。」


『そう。その為に数隻の艦と共に大和を脱出されたのですが…その途中で戦死なされました。』

「それで…トップを失った連中が代わりを探している…?」


『ここも、並列時空の一つですから。…何処かに同一人物がいる可能性は高いですし。』

「…はた迷惑な話だな。」


因みに、大和の異世界移動もボソンジャンプの応用である。


…ジャンプの際、実は一度過去の遺跡に飛ばされているのはご存知だろう。

そして、大和の場合…そこから別な可能性をもつ歴史に乗って行くのだ。


…感覚的には、枝分かれした大河を遡り…別な支流に進んでいくと考えてよいだろう。



…。


『…そう言う訳でして…取りあえず巫女を探して頂きたいのです。』

「…それが…卑弥呼とかいう奴の意思だと言うのか?…故国を滅ぼしかねんぞ。」


『侵略者の汚名よりは、静かな滅びを選ぶお方でした。』

「そうか。…で、大まかな場所ぐらいはわかるのか?」


『…私の巫女は100年ほど前にここを出て行きました。…ですが、一度修理に来たみたいです。』

「…それで。」



因みに同行者には壊れたままだと説明していたりする。

…それゆえに今まで無事だったわけだろうが。


『…ハーテッド家と言うところを探し出してください。…何か知っているかも知れません。』

「…良かろう…ただし暇な時にな。…それで、もう一人は。」


…暫くコンピュータはヴンヴンと唸っていたが、突然諦めたように音を止めた。


『…それが…卑弥呼様のデータは飛んでしまっていて何も記録が見つからないんです…。』

「…それでは探せんが。」


『…では、せめてスサノオのデータを渡しておきます。』

「…スサノオ…?」


『大和の実質的な支配者です。…大和の本隊はこの時間軸に跳んだようですので今も健在のはず。』

「…主戦派のボスか。」


『はい。…須佐之男尊、本名を《天川明人》と言います。』

「…!!」


『…卑弥呼様に近づいて権力を得た男でして…危険な野心家でもあり…。』

(…そうか…そういう事か!)


…既にアキトは説明を聞いていなかった。

凄まじい勘違いをしているような気もするが、決して気にしてはいけない。(爆)


「よし分かった!…ヤツの野望は絶対に阻止してやる!」

『お願いします。…では、脱出路に明かりを灯しておきますので…。』


…それだけ言うと、コンピュータは光を失い、停止していく。


「…電源の限界が近いのか?…もしそうなら急がないと…。」


…事実、点いた電灯も電力が不安定らしく明滅している。

アキトは1も2もなく走り出すのであった…。



…。


…ボコッ!!


それから一時間…アキトはようやく地上に辿り着いた。


「ふぅ…空気が美味いな…。」


…ザクッ…。

その瞬間…アキトの脳天に何かが突き刺さる。


「あ…アキト…さん?」

『うわ…ザックリいってる…。』


「…コウ…どう言うつもりだ…。(怒)」



…。


…結局、コウ達が誤解を解くのにそれから更に30分かかった。

但し、アキトの鉄拳制裁でコウの顔はかなり腫れあがっているが。(笑)


「…酷いですね…。」

「いや、助けてくれてるとは思わなくてな。」


アハハと乾いた笑いを見せるアキト。


「そうだねー…アー君結構鬼畜さんだしねー。(棒読み)」

「…ハハ…まあ、言われてみれば…って…エ?」


…ギチギチギチギチ…

油の切れた人形の如くアキトの首が後ろを向いていく。


「…アー君の馬鹿。」

「…し、枝織ちゃん…その菜切り包丁はなんだ…?」


「アー君のお腹に刺さってるよ。」

「…いや、それは判る…。」


…事実、アキトのわき腹からは血がドッパドッパと噴出していた。(爆)

因みに、コウとオモイカネは横を向いたままアキト達のほうを見ようともしていない。


…顔に浮かぶ冷や汗が、彼らの心境を如実に現してはいるが。(汗)

そして、そんな修羅場っぽい雰囲気の中…枝織ちゃんが決定的な一言を発する!































「…アー君、お腹の赤ちゃん責任とって!」































…グアシャァッ!!

その場にいる全員が、地面にダイブをかます!!


「ちょっ!…アキトさん…身に覚えあるんですか!?」

「…。」


「なんで横向いてるんです!?」

「…。(汗)」


…ガサッ!!

コウは枝織のほうに向き直る!!


「枝織ちゃん!…本当なのかい!?」

「…え、こういえば結婚してくれるってお姉ちゃんが…。(爆)」


(…あんた等ですかーっ!!)


彼の脳裏に、

しとやかそうな女傑を絵に描いたような女性と、
人をからかうのが生きがいと言う優人部隊女司令の顔が浮かぶ。


「…なんだ…脅かさないでくれ…たちの悪い冗談は勘弁…。」

「でも、アー君が悪いんだよ!」


…プチ修羅場は続く。

何処がプチなんだと言う突っ込みすら気にせずに。(爆)


…。


だが…その瞬間…恐ろしい爆音と共に、

背後の地面が盛り上がり…飛び散った…!!



…ドォォォォオオオオオオオン!!



「…何だぁ!?」
「…きゃ!?」
「…こ、これはぁっ!」
『腕だね。…データにあるよ、これは…。』




「「「『…遮光!!』」」」



…轟音と共に現れた巨大なモノ。

それは、サツキミドリ2で襲い掛かってきた"遮光"と同じ機体であった。


「…でも、随分ボロボロだね。」

「…片目も潰れてますし…。」



それは、本来艦の防衛用の機体であった。

…だが、既に壊れかけ、配置された場所を守る基本命令を堅守するだけの存在と化していた。



そして…かつてと同じように艦に入り込んだ侵入者を排除すべく動き出したのである…。

…実に100年ぶり…そして第17話ぶりの出番ではあるが。(爆)


…。


今、世代を越えた戦いが始まろうとしていた。

それは…ナデシコの元に三羽烏が攻め寄せようとしていた正にその時の事である…。

続く


::::後書き::::

BA−2です。

…随分と前に書いた伏線をようやく使う機会が来ました。(爆)

果たして何名の方が覚えてくれていたでしょうか…?


ナデシコがピンチであった時のアキトの状態でした。

…次辺りで合流する予定です。


…では!

PS:スサノオの事を今まで間違ってスサノウとしていました。…今後はスサノオで統一します。(汗)

 

 

 

 

代理人の感想

伏線だったのかーっ!(爆笑)

 

いや〜、すっかり忘れてましたよ、はっはっはっはっは(笑)。

 

しかし、いきなり菜切り包丁ですか。

手近にカッターナイフがなかったんでしょうか(爆)。

 

>呪術

つまり、「こんな攻撃は効かない」「こんなバリアではこちらの攻撃を防げない」と思い込む事で

本当に「呪術によらない攻撃は無効」になってしまうのがこのSSでの「呪術」と言うわけですね。

しかし・・・・ふと思ったんですが、それだとこの世界の戦闘では結局

馬鹿が一番強い(例:滝沢昇)ってことになりはしませんか(爆笑)?