機動戦艦ナデシコ  アナザーストーリー


世紀を超えて

第110話 飛び火する戦火




…ここは地球連合軍西欧地区、総司令部…。


「…被害状況はどうなっておる。」


…中央に座る威厳を感じさせる老人がブリーフィングルームのマップを指差しながら部下達に問う。

だが、周囲の人間は誰しも暗い表情で俯き…何も話そうともしない。


「…そんなに酷いのか…。」

「は、はい中将…。」


…中央の老人…西欧方面軍司令グラシス中将の問いに、ようやく幕僚の一人が重い口を開いた。


「…で、肝心の被害はどうなんだね。…なに、君らの所為ではあるまい。」

「…で、では…。」


…だが、幕僚達の口から出てきた言葉は被害とかそう言うレベルでは済まされない物だった。


「…混成第2大隊全滅?…あそこは数日前に再編成したばかりだが…。」

「はい、壊滅した旧第2〜4、それと第8、第10大隊の残存戦力を統合した新編成部隊…ですが、編成間もなく訓練中に…。」


「…やれやれ…ごたごたしている内に狙い打ちかね…困った物だ…。」

「はっ…特に問題なのが、例のネルガル製戦艦です。…あれの主砲でおよそ5割が消滅しました。」


…無論、偽者だ。

だが、姿を同じように作っているだけあり…彼らはそれがナデシコ自身だと勘違いしている…。


「しかし、何故木星蜥蜴などの手先に…。」

「鹵獲されたと言うのが大まかな見方です。…寝返った可能性は排除できませんが。」


「…何か手は無いのか?」

「明日香がネルガルから接収した技術で、リアトリス級の改装を打診してきております。」


…このリアトリス級戦艦を相転移エンジンへ改装する特需により、

『史実』のネルガルは大きな利益を出している。


…此度の場合、それは皮肉にもライバルである明日香インダストリーの利益となったわけだ。


「で、それは何時頃?」

「1年はかからないかと。」


…だが、一年も待っていたら地球は焦土と化すであろう。

少なくとも、この世界の木星蜥蜴は『史実』に比べて遥かに強い…。


「…万事休す…か。」

「いえ、ですが敵を押し返している部隊もあります。…第5大隊所属オオサキ少佐の部隊で…。」


…ドン!

グラシスが突然司令室の机を叩く。


「馬鹿者!…話は聞いておる。…だが、一個中隊で全土が守れるわけではあるまい!?」

「しかし、戦意高揚にはいいかと…。」


「…その戦果の殆どは、傭兵が叩き出した物らしいぞ。…それで"軍"の士気が上がると?」

「この際仕方がありません。…それに傭兵の戦果なぞ黙って部隊のスコアに足しておけば…。」


「1年程前それをやって、壊滅した部隊があったな。(第61話)

「…あ。」


「…敵に試作武器を横流しして契約外の武器データ取りをやらせたのが直接の原因らしいが…。」

「…。」


…そして、司令部一同黙り込んでしまう。

そう、彼らに残された戦力は傭兵数名にすら劣ると言う事に他ならないのだから…。


「…ともかく、最善を尽くそう。…時が…時がたてば事態は好転するのだから…。」

「は、はい…リアトリス級の改装…急がせます。…それと、ネルガルから接収した機動兵器…。」


「…エステバリスか。」

「はい、かなりの数を確保できましたので…その、お嬢様の所属部隊に優先配備を。」


…ふと、グラシス中将の脳裏に二人の孫娘の顔が浮かんだ。

眉目秀麗を絵に描いたような自慢の孫である。


姉のサラはこの近辺の学校に通う学生であり、

妹のアリサは…軍所属のエースであった。


…だが、アリサのそれはグラシスにとって不本意な事なのかも知れない…。

…僅かな間だが、何か物思いにふけるグラシス。…そして、おもむろに口を開いた…。



「そうそう、それで思い出した。今日はサラ達が来ておる筈だったな。」

「はい、もう部屋の外で待っておいでです。…しかし、何故急に呼ばれたのです?」


「まあ良いではないか。…呼んでくれ。…時間は取らせんよ。」

「…はっ。」


…会議が暗礁に乗り上げた事もあり、幕僚達はぞろぞろと休憩に出かける。

そして…入れ替わりに3人の親子連れが入室してきた。


「お爺様、お久しぶりです。」

「…うむ、サラも元気そうで何より…。」


…そして、家族4人での会話が始まる。


…途中、サラとアリサの父親がグラシスに対し、アリサを軍から抜けさせるように迫ったり…。

と言った事はあったが、おおむね良好に話は弾む…。


(ふむ…そろそろいいか…。)


…そして、グラシスは本来の用件を切り出した。


…。


「…引っ越せ…ですか?」

「うん。…ここももうすぐ最前線となる。…既に迎えの船も用意してあるから。」


…そう言いながら、衛兵に対して案内するように命令を下す。

はっきりいって強制だ。…怨まれるのも覚悟の上…。


(だが、こうでもしなければ…。)


…そんな風に思いつつ遠くを見やるグラシス中将の目には、

木星蜥蜴の攻撃によって廃墟と化した町の様子が写りこむ…。


…。


「流石の中将も人の子ですか。」

「…当たり前だ。」


…そして、孫娘達の乗った飛び立とうとする船を見送ろうと窓辺に寄った…。

その瞬間である。

























…ゴォォオオオオオオオッ!!































「…な…。」


…グラシスは言葉を失い、立ち尽くした…。




…。




「な、何事だっ!?」

「…ぐ、グラビティブラスト?……な、ナデシコです!!」


…悲鳴交じりの通信が、現場の混乱を如実に現す…。

そして、


「ひ、被害は…!?」

「基地施設に、現在のところ被害はありません!!」


…グラシスはほっと胸をなでおろす。敵の攻撃は基地に当たらなかったのだ。

だが、何か…嫌な予感は消えない。


「…後は何か無いか?」

「あ、先ほど飛び立った輸送艦が敵主砲の直撃を受け爆散。…ですが客船です…戦力低下は無し!」


…ガクッ


グラシスはガクリと膝を付いた。

…ここ暫くの間で発進した輸送艦は一隻しかない…。


そして…その積荷は他ならぬ彼の…。



「ぐ、ぐわああああああああっ!!」


…基地内に…中将の叫びが響き渡った…。



…。



…同時刻…木連製戦艦『セキチク』ブリッジ…。


「…ふむ、取り合えず目標の艦は落としたようですね。」

「ねーねー、あの船に何があるのかな?」


厨房からかっぱらってきたツナ缶を頬張りつつ、世紀の悪戯っ子コガネちゃん(父:北辰)が言う。


「ふむ、コガネさん?…先日情報が入りましてね。」

「ほーほー。で、八雲兄…それは何?」


「…グラシス中将が秘密裏に何かを後方に輸送しろと命じたらしいんです。」

「…だから中身は?」


「結局判りませんでした。…ですが、戦局を一変させる為の兵器である可能性は高かった。」

「だから取り合えずごーとぅーへる?


「そ…そういう事です。…あの…言葉づかいは丁寧にね。」

「…うい、きりきり了解。」


…目の前のお子様の将来を不安視しつつ、八雲はふっと目の前の惨状を見る。


ボソンジャンプによる奇襲攻撃…もうこの司令部は使えないだろう…。

だが、無人兵器たちは非戦闘要員さえ無慈悲に虐殺していく。


「…これが、我々の言う『正義』の正体と言うわけですか…。」

「…兄さん?」


「舞歌。…無人兵器たちに罪は無いのですよ。…非戦闘要員に対する手加減を入力していなかった我々の罪の結果です…この地獄はね…。」

「…。」


…舞歌には、兄にかける言葉が見つからなかった。

だが、それでも何かかける言葉が無いかと思い、口を開こうとした瞬間…!


























…チュドォォォオオオン!!































…小さめのきのこ雲が上がり…基地の半分が…吹き飛んだ…。

そして飛び出してきたエステバリスからは、南雲の識別信号が発せられている…。


広がる戦火は飛び火し、悲劇と憎悪をこの星の全てにもたらそうとしている。

…憎悪の連鎖を止める者…現れる日は来るのだろうか…?


続く


::::後書き::::

BA−2です。…いきなりハードさ全開ですね。(汗)

…展開が急激なため、短いですが今回はここで切らせていただきます。


…え、サラ?(滝汗)










…ピピー…


・・・タダイマ、コノ、バンゴウハ、ツカワレテオリマセン。
・・・ゴヨウノカタハ、ピー、トイウ、ハッシンオンノアトニ、ヨウケンヲ、イレテクダサイ。



…ピ――――っ

 

 

代理人の感想

前回のカグヤに引き続き・・・ヤっちまったよこの人。

グラシスも無事とは思えないし、微妙に出番のないキャラの在庫処分?(爆死)