機動戦艦ナデシコ アナザーストーリー
世紀を超えて
第32話 断罪の拳
「…消えろ−ッ!!」
…アキトの叫びが宇宙に木霊する!
その胸中は、かつての黒い王子様時代にまで遡っている様にすら思える。
…その、怒りは今…目の前の敵…ムネタケに向けられていた…!
・・・。
「あの男…生きてたの!?」
…唖然とするキノコ。
周りにいる、軍のお偉方も心底不思議そうだ。
「中将…始末しそこなった様だね…。」
「…この責任は重いですぞ…。」
…この後に及んでも責任を擦り付け合うトップの方々。
だが、それはアキトには好都合だった…!
…。
アキトは…先ず、レールガンを手に取った!
そしてすかさず最後尾の輸送船団に向かい、数発を放つ!!
ドゴ…ン!!…ガァーーーーン
ズズー−−…ン!!
運悪く、アキトの射線上に居た数隻が、何も出来ずに爆発四散!
…驚いて残りが散開し、逃げ始めたのを確認すると今度は駆逐艦にその照準を向ける…!!
…。
「…もう、撃って来たの!?」
未だ、なんの指示も出せていないムネタケ…。
「…輸送船団が隊列を乱し、各自の判断で逃げ出していきます!!」
見かねた部下が、判断材料をくれてやる。
…このままでは、何も出来ずに沈められる事を察知したのだろう。
「…逃げた!?」
「はい…このままなら全ての船が逃げきれます!」
「…敵前逃亡は死刑よ!!」
ごてっ・・・
…キノコを除くほぼ全員がこけた…。
「…ゆ、輸送船に戦場で何しろって言うんですか!?」
…取りあえず律儀に突っ込む、部下その1。
「…んー。」
考え込むキノコ…今まで、何も考えていなかった様だ。
「…提督!」
「…そうね、盾にでもなれって言っておいて。」
「無駄です!」
「何でよ。(怒)」
「敵の弾は輸送船ぐらい突き抜け」
ドォ………ン!!
「…今の音は何よ!?」
「くっ…駆逐艦が一隻沈められました!!」
…。
「…こんな無意味な問答してる所為よ……減給よ減給!!」
「ンな事言ってる場合じゃ無いでしょうが!」
「ちょっとアンタ…上官への口の聞き方が…!!」
ボガァ−−−…・・ン!!!
グラグラとブリッジにまで振動が伝わってきた!!
「今度は何よ!?」
「…せ、戦艦フリージアが…一撃です!!」
「…馬鹿言わないでよ!…戦艦クラスが一撃!?」
「ですが!…事実です!!」
「どうにかしなさいよ…プロでしょ?…このままじゃ…私の…経歴に…傷が…!!」
(…これ以上、付く傷なんてあるのか?)
・・・。
…こんな漫才のような問答が続く間にも、アキトは攻撃を続けていた。
「…このままだと、もうじきレールガンの弾が切れる…な。」
…そんな風に言うアキトだが、既に敵の戦力は20%を切っていた。
攻撃開始から既に二十五分。
それだけ経つ間にも、キノコは第一級戦闘態勢を発令しない。
…いや、忘れているのだろう。
その為…未だ一部の艦は戦闘態勢に移行しようとしていなかった。
無論、当たり前の士官が艦長をやっているならそれぐらい当然やっている…。
…連合の腐敗と、上意下達の徹底による弊害であった。
・・・。
「…しかし…脆すぎはしないか?」
…正直な所、これがアキトの本音である。
しかし、流石のアキトも…この期に及んでまだ責任の擦り付け合いをやっているとは思うまい…。
既に、戦艦3・重巡洋艦7・軽巡洋艦8・駆逐艦20・そして輸送艦多数からなる、ムネタケ艦隊…
通称、『税金無駄遣い艦隊』は壊滅の危機にあった…。(爆)
・・・。
…更に10分が経過…。
…遂に、残るは旗艦のみとなったムネタケ艦隊。
その偉容はもう無い。
…まだブリッジで何か責任の擦り付け合いをやっているが、最早どうでも良い事。
後に歴史的惨敗として、ギネスにまで載る事となるこの…、
『月軌道上・キノコ狩り会戦』
は…早くもクライマックスを迎えようとしていた…。
…。
「…ど、どどどどどどどーするのよ!!」
「さぁ…?」
…ようやく現状に気づき、青ざめるムネタケ+諦め気味の部下たち。
「…こうなれば仕方ない!」
この現状を見かねたか…将軍達の一人がそう宣言。
早速行動に移る。
「…敵機に通信!」
「はっ!」
…部下たちはようやく安堵を浮かべる。
(ああ、助かった…。)
(これで、このまま宇宙の藻屑にならんですむな…。)
…だが…、
「…所属不明機に告ぐ!」
「悪い様にはせん…直ちに降伏せよ!!」
・・・。(滝汗)
ドッゴォーーーー…ン!!
「何だ!?」
「…敵からの攻撃です!!」
「おのれ、こっちが下手に出ればつけ上がりおって!!」
…何処が!?
…どうやらこの艦隊の上層部には、ろくな人間がいないらしい…。
・・・。
「…まったく…救いようが無い…!」
…吐き捨てるアキト…。
最早怒りを通り越し、哀れみすら感じていた…。
「…身の保身も大変だろう…!」
…弾が切れたレールガンを、両手で頭上に掲げる…!!
「このまま…!!」
エステのボディを弓なりにしならせ…
「楽にしてやるっ!!!」
ガシュ!
…アキトはレールガンを敵艦に投げつけた!
…一直線に銃身が飛んでいく!!
…。
「敵艦…聞こえるか…。」
…アキトが通信を入れる。
「…ああ、こちらは通信室だがな。」
…反応が返ってくる。
と、言う事はまだ沈んではいないと言う事だ。
「…ブリッジは潰した…降伏の意思はあるか?」
…その言葉通り、ブリッジにはレールガンが突き刺さっていた…。
風防も割れている事だし、中に居た人間は助かるまい。
…宇宙空間に浮かんだ何名かの…かつて人だったモノを見て、アキトは思う。
(こうなってしまうと、将軍も一般兵も同じだな…。)
…そう、宇宙に浮かぶ人影は戦艦のブリッジクルーだ。
遠目には、将軍も一兵卒も大して変わりなく見える。
…能力が高くて偉くなったなら解る。
父や先祖が偉かったから高い地位に付いているのも頷けない訳ではない。
…無論、それは先祖の…信頼と言う財産を食いつぶしているだけだが…。
だが、中には上位の者に取り入るだけで上まで上り詰めた者も多かったはずだ。
それは…何が偉かったのだろうか?
…こうして屍となってしまえば、他の人間と大して変わらないと言うのに…。
…。
「…頭が潰されたんだ…戦闘の継続は不可能だ。」
…アキトが物思いに耽っている間に、向こうの話し合いは付いた様だ。
ブリッジが全滅状態である以上、残っているのは下級の者ばかりだろう。
…だが、それだけに判断は正確な物が期待できた。
そして、その期待通りの判断が下されたのだった…。
…。
「ならば、武装を解除して、そこいらに浮かんでいる脱出ポッドの回収に迎え。」
「!!…良いのか?」
…アキトが返した予想外の反応に、驚く士官。
「…もう、戦いは終わりだ。」
「………。」
「…どうした?」
「…いえ……………寛大な処置に…感謝…します…。」
…その士官は…泣いていた様だ。
そして、数分後…格納庫から数機の船外作業用ポッドが出て、遭難中の味方を回収し始めた。
…だが…!
バラタタタタタタタ!!
ド…ォー−ーン!!
「何だ!?」
…突然、格納庫内からガトリングガンが乱射される!
弾け飛ぶ作業用ポッド!!
ガチャン…ガチャン…
「な〜に敵の温情に縋ってるのよ…まったく。」
む…ムネタケ!?
…しかも先行者に乗ってるし!!
「…生きていたか。」
「黒帝…アンタこそね。」
…この男、アキトがレールガンを構えた時に、ブリッジから逃げ出していたのだ!!
…無論、大勢の将官を見殺しにして…!
「しかし…それでどう戦うつもりだ?」
…アキトの声に対し、返って来たのは何か、余裕すら感じられる声だった。
「ふん…あの出来損ないの試作機と一緒にされちゃ困るわね…。」
…カチャカチャ…。
…眉を手でいじって、怒りの顔を作る先行者(汗)
そして…!!
ドゴォォォォ…ン!!
「何!」
…戦艦が…爆発した…何をしたのかすら解らない…!
「ふふ、中華ドリルよ…!」
…見ると右手がドリルと化している。
今度のは本格的な戦闘用のようだ!
「だからどうした!!」
バタタタタタタ!!
「甘いわ!!」
ガシィィン!!
「!!弾き返された…ラピッドライフルが!?」
「…ふ、あの氷の壁すら破れなかった時とは違うのよ…。」
中華チョップが唸りをあげ、ライフルの弾すら弾き返した・・・!
…これは…予想外の健闘だ!!
「ふん…アンタみたいな甘っちょろい正義に負ける訳には行かないのよ…!」
「何!?」
「…よく聞きなさい…アンタが思ってる程、人の世界は甘くないの。」
「…。」
「アンタやあのヤマダの弟とかみたいな…正義とか熱血とか本気で信じてる人種はね…、」
「…別に俺は…!」
「何時か誰かに騙されて、犬死するかモルモットが関の山よ!!」
「ぐっ!」
…痛いとこをつついて来るキノコ。
苦笑いを浮かべつつ続きを話し出す。
「…私にもね…信じてた頃があったわ。…正義とか…そういうの。」
「…お前も…なのか…?」
「でもね、そう言うのを言ってる甘い奴はズルイ奴に踏み台にされたわ、何時も…ね…。」
「…。」
「私は思ったわ…世界に騙される者と騙す者しか居ないなら…騙す方が良いって!」
「…そんな事は無い!!」
耐えられずに叫ぶアキト…。
だが、ムネタケはそれを鼻で笑う!
「それが甘いって言うのよ!」
「何がだ!!」
「幸せは、歩いてこない…でもね…不幸は向こうから出向いてくるもんなのよ!!」
「…!」
…。(汗)
「…ふふ、だから…利用できるモノは利用するし、用が無くなったら切り捨てる。」
「仲間でもか?」
「仲間…?」
「そうだ、苦楽を共にした仲間だ!」
…少しの間考え込むムネタケ・・・。
「…私には上司かライバル…そして駒しか居ないわ。」
「…駒!?」
「人の上に長く立ってるとね…下が駒に見えてくるのよ…アンタには解らないでしょうね。」
「解ってたまるか!」
…アキトの額に青筋が浮かぶ…。
かなり危ない兆候だ。
「…で、アンタの望みは何なの?」
…突然ムネタケが逆に聞き返してきた。
「…俺の…望み…?」
「そうよ。」
「…買収はされんぞ。」
「そんな事、はなから期待してないわ。」
一旦視線を逸らし、アキトは一瞬考える。
…最も…答えなど一つしか無いのだが。
「先ずは和平を…そして、皆が幸せに暮らせたら…」
「無理ね。」
あっさりと言い切られる。
「…第一、全員が幸せにってのが本来無理なのよ。」
「何故だ!!」
「人の不幸は蜜の味…って知ってる?」
「く…。」
「言い返せないかしら…ふふん、アンタもしょせんその程度なのよ…英雄さん?」
「…だが、俺は俺の生き方を変えない!!」
…そこで、突然中華キャノンがアキトを向く!
「…じゃあ、私も…私の生き方を変えないわ…!」
…ガッチャ、ガッチャ、ガッチャ、ガッチャ、
…ガッチャ、ガッチャ、ガッチャ、ガッチャ、
…ガッチャ、ガッチャ、ガッチャ、ガッチャ、
…中華キャノンに力が篭る!!(ヲイ)
…緊迫したシーンのはずだが、何か脱力してしまうのは仕方ない事かも知れない。
…。
「…アンタの『正義』で何とかできるかしら?」
…キノコ、挑発。
「俺は…別に正義なんかじゃない!!」
アキト、激昂!!
・・・。
「なら、今…アンタのやってる事は身勝手以外の何物でもないわ。」
「!!」
…照準がアキトに向けられる…!
「…私には解る…アンタも…理想に裏切られたって口でしょ?」
「何っ!」
「…信じられなくなった物に…それでもまだ縋りついている…。」
「縋りついてなんか…。」
「…じゃあ、なんで…皆が幸せ…何て言えるのよ…!」
「!?」
「それは、まだ甘い事に縋りついてる証拠よ!!」
バシュ…ン!!
中華キャノン発射!
…間一髪で避けるアキト!…しかし…敵は再度チャージを開始する…。
「…昔…まだ下士官だった頃…私にも親友と言える男が居たわ。」
「…。」
「けど…武器を横流しした他の奴を庇ったばかりに…、」
「…道連れに処刑されたか…?」
般若の如き形相でアキトを睨むムネタケ…き、キャラが違う…!
「甘いわ…全部の罪を擦り付けられたのよ!!」
「…じゃ…犯人は!?」
「真犯人発覚と言う事で…無罪放免よ。」
「…そんな…、」
「…その時の事を…『馬鹿な奴』って言い触らすアイツを見たとき…私は悟ったの。」
「…。」
「所詮、犬死にだったって…甘い事言ってたら生きて行けないって…!」
・・・。
「…正義なんて何の力も無いわ…だから、それを信じるアンタには負けられないのよ!」
…数秒間…静寂が場を支配した…。
…そして…その沈黙を破ったのは…!
「…昔…俺の親友にもそんな奴が居た…。」
…アキトがポツリポツリと呟き出す。
「熱血馬鹿で…向こう見ずで…」
ゆっくりと、ライフルが構えられる…。
「でも…真っ直ぐで好感が持てた…。」
…チラリと横目でエネルギー残量を見て…。
「…確かに無駄死だった…でも…俺があの時、戦い続けられたのは…!」
…大きく…息を吸い込み…
「…アイツの…お陰なんだ!!!」
…爆発する感情!!
爆音を轟かせ!…エステは戦場の風となった!!
…。
ドガガガガガガガガ!!
…ガトリング砲を軽くすりぬける!
そのまま…一直線に敵に向かっていく!!
バシュゥ・・・ン!!!
中華キャノンは…避けきれない!
だが、ディストーションフィールドの前に、空しく弾かれる!!
…未だ…出力が低いのだ!
ガガガガガガガッ!!
アキトのラピッドライフルは中華チョップとドリルで迎撃された!
だが!
「掛かったな!!」
…がら空きになった腕の下にもぐり込むアキト…既にムネタケの顔までよく解る距離だ!
「…正義は…無力なんかじゃない!」
ライフルを捨て、拳を構える!
「でも…もう俺は…正義なんかじゃないから…!」
…アキトの脳裏にヤマダ・ジロウ…いや、ダイゴウジ・ガイの顔が浮かぶ!!
「…お前の技を…使わせてもらう!!」
…かつての…デルフィニウム部隊との戦闘と同じように…フィールドを拳にまとい…、
「ガイ……スーパー……ナッパァ−−ーーーッ!!」
『正義の拳』…が…敵を貫いた…!!
「はぁ…はぁ…はぁ…。」
荒い息をつくアキト。
そして…後に残ったのは…静寂のみ…。
…こうして…ムネタケは逝ったのだった。
アキトの心に、例え様も無い傷を残し…。
続く
::::後書き::::
さて…第32話です。
遂にムネタケ(先祖)死亡。
…言っときますが、血筋までは滅ぼしてませんから。
あしからず。
あれには…スーパーナッパーでとどめを刺したかったんです。
…何とかなった。(笑)
……覚悟は決まった…先行者…レギュラー入り…決定!(嘘?)
少なくとも、後一回は出てきます。
…こんなのですが、応援宜しくお願いします。
では!
代理人の感想
「未熟なり、テンカワアキト。」と言う感じの話でした。
ただ、文面だけ追ってくとかなりシリアスなんですが、情景を想像してしまうと・・・・・(汗)
だああぁっ!
エステと先行者の頭の部分に
アキトとムネ茸の顔が二重写しになっている
(カットインでも可)情景しか浮かばない(爆)!
まあ、それは置いといて(汗)。
アキトも未熟は未熟なりに(自分の心にも)一応の決着を着けられたようでまずは重畳。
特に「ガイの技でとどめだ!」と言うこのシチュエーションは、私非常にお気に入りです(笑)。
しかし・・・強かったな、先行者(汗)。