機動戦艦ナデシコ アナザーストーリー
世紀を超えて
第42話 老いた女獅子
…すたっ…。
『…お帰り、アキト。』
「…ただいま、ダッシュ…アムちゃんは?」
『寝てる…って言うか気を失ったままだよ。』
「そうか…。」
…。
アキトがエステに辿りついた時、既に東天には光りがさし込み始めていた。
…長い一夜は終わったのだ…。
…いや、むしろ…悪夢と言うべきか?
「しかし…このままじゃ拙いな…。」
…アキトは、焼け爛れたアムの両手に薬をつけ、包帯を巻く。
…この傷は恐らく…一生消える事はあるまい。
だが、それよりも…アキトには、彼女の心に受けた傷の方が気がかりだった…。
…そして…もう一つ問題が…。
「…これから…どうする?」
…そう、これから如何するか…何も決めていないのだ。
大佐達の元に戻るのも一つの手ではある。
…だが、向こうに迷惑が掛かるのは間違いない。
…。
だが、状況はそんな感傷すら許したくないらしい…!
…アキトが物思いに耽った数分の間に…アキトの機体は所属不明の戦闘ヘリに囲まれて居た!!
「…そこの大型戦闘機…停止せよ。」
…戦闘機に見えるなら停止しろも何もあるまい。
止まったら落っこちるだろうが!!
それに、向こうが何者か分からない状況で止まるのは得策では無い。
「…ちっ…この際だ…落とすか!?」
…あの、血の惨劇の後の所為か…アキトは攻撃的になっていた。
そして、機銃代わりのライフルの照準を合わせようとしたその時、包帯まみれの手がアキトを留めた!
「アキトさん…駄目、アレは味方…。」
「…アムちゃん!?」
…。
…そして…1日程の時間が流れた…。
「…しかし…アムちゃんのお婆さんって何者なんだ?」
「レビアお婆様は、マーベリック社の創始者で…現在も社長を務めているんです。」
(マーベリック社?…聞き覚えの無い社名だな…でも、これだけの部隊を持っている以上…。)
…アキト達は今、アムを迎えに来た大型輸送艇の中に居た。
アムの帰還と危機を察知した、アムの…母親の実家が動いたのだ。
…アムの母親はマーベリック社と言う大企業の令嬢…それも一人娘であった。
そして…今現在、創始者である『レビア・マーベリック』の血を引く物は、アムただ一人…。
…動いて当然である。
…因みに、そんなにアムが大事なら、さっさと保護しておけ…とのご意見もあろうが、実は身柄の引渡しを
ピ‐スランド王家が拒んでいたと言う事実がある。
…財産目当てである事は疑う余地も無いが…。
…。
だが、此度…遂に暗殺未遂と言う事態に際し…遂に身柄の保護に乗り出した…と言う訳。
…。
(何にしても…これで一安心…として良いのか?)
…正直…最近の裏切りの連続によって、アキトはかなり神経過敏になって居た。
だが…またしても、アキトの物思いは中断を余儀なくされる。
「あ、アキトさん…。」
「ん、アムちゃん…どうしたんだい?」
がばっ…!
…アムは突然アキトに抱き着いてきた!!
「わわっ、ひ、人が見てるよ!?」
「怖い…。」
「…え?」
「ボク…怖いです…アキトさん…離さないで……お願い…です…!!」
…アムは…震えていた…。
小動物の様に震え、アキトにしがみ付いている…。
…それは、恋人に対する甘えではなく、保護者に対し…庇護を求めているかの様であった…。
…その所為だろうか…。
…アキトも拒絶することなく抱き上げ…アムの頭を撫でてやれた…。
「大丈夫…俺は側にいるから…君の味方だから…。」
「本当に…本当に?」
「ああ、大丈夫…。」
「側にいてください…ずっと…ずっと…!!」
「…。(そんな資格が…俺に…あるのか?)」
…そしてアキトは…輸送艇が目的地に着くまでの間…ずっと、アムの頭を撫で続けて居たのだった…。
…。
「…今暫く、ここでお待ち下さい…レビア様がおいでになります。」
…執事がアキト達を応接間に座らせた…。
「…しかし、アムちゃんのお婆さんってどんな人なんだ?」
「厳しい方…です。…そう、特に自分には。」
…シリアスな会話だが…アムはまだ、アキトにくっ付いたままだったりする。
…一応、ラピスの許可は取っているらしいが…。
…。
「…お待たせしました。」
…杖を付き、ゆっくりと奥から出てきた人影。
恐らく、かなりの高齢なのだろう…が、背筋はしっかりしている。
…大企業のトップとしての貫禄は十分であった。
「さて、アメジスト…久しぶりですね。」
「はい、お婆様もお変わりなく。」
「ところで…ふふふ、仲が良いのね?」
「…あ。(赤)」
…アキトにしがみ付いたままなのを茶化されて、真っ赤になるアム。
だが、レビア老は薄く微笑んだ後…親愛の情を込めて口を開く。
「あ…そのままでいいわ…大変だったみたいだし…。」
「は、ハイ…。」
…そして、一呼吸の後…突然口調が変わる。
「…で、アムは…これから如何するつもりなの?」
「え!?」
それは…唐突な質問。でも、大事な質問…。
…だが、それはアムやアキト自身が聞きたい程だった…。
「…もう一度聞くわね…貴方はこれから如何するつもり?」
…見ると、レビア老の発する、オーラのような物…しいて言うなら雰囲気。
それが変わっていた…。
…そう…誰であろうと威圧する…そんな雰囲気だ…。
「…わ、分かりません…全てが…余りに急で…!」
…搾り出す様に、それだけ答えるアム。
…すると、周囲の息苦しさすら感じる雰囲気が…消えた。
「分かったわ…なら、暫く考える時間をあげましょう。」
そして、レビア老はまた奥の部屋に去っていこうとする。
…が、ふと思い出した様にアキトの方を向く。
「ああ、テンカワ…さんでしたか?…お話があるので此方へ。」
「…は、はい。」
そして、アムのほうも向く。
「アム、今日はもう休みなさい。…2〜3日中には決めてもらうけど…。」
「はい。…お婆様…お休みなさいませ…。」
「はい…お休み。」
…。
そして、アキトはレビア老の部屋に招かれていた。
…そして…老人は、アキトに向かって衝撃的な第一声を発する。
「で、貴方の望みは何です?」
…アキトは一瞬、何を言われているのか分からなかった。
「言っておきますが…あの子を娶る気なら、財産の相続はさせません。」
「…!?」
「不服ですか?ならば、ここに一億あります、これを持って去りなさい!」
…どごっ!!
アキトは突き出されたスーツケースを蹴り飛ばした!!
「ふざけるな!!」
「真面目な話です。」
「…アンタも、所詮あの王妃と同レベルだ!!」
「それは心外です。」
「アムちゃんが…どれだけ苦労してるか…わからないだろう!?」
「知りたくもありません。」
喧々囂々…
…言い合いは一時間以上も続いた…。
だが、それにも終わりは来る!
「分かった…アンタもアムちゃんが邪魔だと言うなら…考えがある!」
「…どうなさるのかしら?」
「彼女は…連れていく!」
「…言っておきますが、財産は」
「そんな物…こっちからお断りだ!!」
「…私が死んだら…現在傘下の全社が独立する事になっています。」
「だったらどうした!!」
「財産は一銭も残りません。…私が死んだ後でと言うのも不可能ですよ?」
「…いい加減にしろ…アムちゃんを何だと思っている!!」
…。
ふっ…と、レビア老の表情が緩む。
「…合格…ですね。」
「なっ!?」
そして…ゴソゴソと何かを取り出した。
「白紙委任状…これこそ、我が社の主である証。」
「…。」
「後で、アムに渡してください。」
…。
「…待ってくれ…じゃあ、今までのは…。」
「お芝居です…上辺だけの男かどうか…試させて頂きました。」
「…そうだったんですか…済みません。」
…そして、暫くの間…和やかな談笑が続いた。
だが、突然レビア老は顔を引き締める。
「…さて、では明日にでも、一度ここを出た方が良いです。」
「何故?」
「…会社をあの子が継ぐ事になったのです…役員達が動き出すでしょう…。」
…どうやら、ここでも裏での暗闘があるらしい…。
「貴方が抑える事は出来ないのか?」
「…今の私は…いわば老いた女獅子…往年の力は無いですよ…。」
「…そうですか…。」
しかし…この後に及んでも…陰謀は付き物だという事なのだろうか?
…。
そして、同時刻…アムの部屋…
「ふふふ…ここだ…。」
ガチャ…
レビア老の心配は…既に現実の物となっていたのである。
眠りこけたアムに忍び寄る影の正体とは…?
…更に…。
周囲に忍び寄る、幾つもの影が…。
「…試作機を壊されたままでは、面子が立たないしね…。」
「…司令…攻撃準備が整いました。」
「うん…それに、テンカワ大佐の勢力も…削いで置かないと…。」
「はい…いつ寝首をかかれるか分かりませんですしね。」
「…そういう事だ。」
…修羅場の予感の中、既に戦場は構築されつつあった…。
アムを狙う、財産目当てらしい男。
アキトを抹殺しようと目論む、連合軍らしき軍勢・・・。
…。
…そう、まだ悪夢は終わっていなかったのだ!
続く
::::後書き::::
BA−2です。
さあ、まだ戦いは終わっていなかった!…次号をこうご期待、てな感じです。
…ま、ここは長くしませんけど。
…重要なエピソードではあるんですがね。
さて、最後に出てきた連中ですが…。
…一人は、余りに有名な「時の流れに」関係の悪役(の先祖?)です。
もう一人は…知っている人も少ないかも知れない、TVのチョイ役軍人さん。
さて、誰でしょう?
…では!
代理人の感想
余りに有名な「時の流れに」関係の悪役・・・・・?
そうか!サイトウの先祖ですねっ!
・・・・え?違うって(笑)?
ちょい役のほうは・・・・連合軍関係だとほんとうに「コレ」と言うのがいませんねぇ。
多分「え?アイツ名前あったの?」ってな人だとは思いますが(笑)。
ところで、アムのおばあちゃんって昔妖魔退治とかやってませんでした(爆)?
今でもコネクトした謎の人工衛星が軌道上にふよふよ浮いてるとか(笑)。