機動戦艦ナデシコ  アナザーストーリー


                            世紀を超えて

                        第53話 再動する『時』

 

…チュン…チュン…


アキトがこの時代にやって来てからおよそ5年…。

だが…幾ら年月が流れようとも、朝は平等にやってくる…。


「アキト…朝だよ…あれ?」


アキトの部屋に駆け込んで来たのは…ブレザーに身を包んだラピス。

…彼女も今年、遂に高校生となっていた…。


「おねーちゃん。…おとーさんは朝稽古ちゅーだよ。」


…これは、今年三歳になるアキトの息子『アキラ』君である。

…現在、お姉ちゃんとお母さんが恋しいお年頃。(笑)


「うわ。流石にアキト…早いな。」

「…ねー、遊んでー。」


スカートを引っ張るアキラ君。

…実はちょっぴり(?)シスコンである。


「…ゴメンね、学校あるから…。」

「うー。」

「ほら、そろそろ朝ご飯だよ?」


…ヒョイと『弟』を担ぐと、ラピスは朝ご飯に向かう。

…平和な…朝の、何時もの…光景であった…。

…。

そして…その頃、庭では…アキトが誰かと組手をしている。


「良し…ここまで!」

「…はい!」


…軍から遠ざかり…アキトは一軒の料理店を持つまでになっていた。
(でも、時々は駆り出される。)


「日々平穏」


…恩師の店の名を貰ったアキトの商売は…何時しか、かなりの成功をおさめるまでになっていた…。

…そして…。


「リュウ…腕を上げたな?」

「先生には全く及びませんが…。」


「料理人だったら…これで十分だよ。」


「しかし…先生は料理人なのに…何故に武術の心得が?

「…昔…軍に居たんだよ。」

「ああ、そういう事ですか。」

(…本当の事なんて…言えないよな…。)


アキトの相手をしていた少年…彼の名はリュウ

アキトの元に弟子入りした、アキトの一番弟子である。


…当初は、弟子など取る気の無かったアキトだが…、

かつての恩師の面影がだぶるこの少年を放って置くことなど出来なかった…。


ま…その為に、今では数名の弟子を取る事になってしまっているが…。(笑)



「では、皆を起こして仕込みを始めてます。」

「うん、俺は食事の後で直ぐに行くから…。」


…そして…アキトは台所に向かう…。

…。

「おはよう。」

「ああ、おはよう…。」


…何事も無い夫婦の会話。

だが、こうなるまでには沢山のエピソードがあった…。


…「私は昔の女の代わりなのか」とマスミが言ったり…、
…「やはり俺は君の側にいる事など許されない…」と、アキトが言ったり…。



…はっきり言って、修羅場は一つや二つではなかった。(汗)

だが、それを乗り越えて…ここには一つの家族があった…。


…それが、どれだけの犠牲の上に成り立っているか…アキトはまだ知らないが…。

…。

…アキトは朝食の後、新聞に目を通している。

…そこには、暫く前にアキトが関わった作戦の事が載っていた。


「…過激派に占拠された連合議会をただ一機で解放した英雄、黒き皇帝…か。」


自嘲的に笑うアキト。

それに対し、アキトの「家族」達が答える。


「アキトは偉いと思う…勲功を周囲に見せびらかしたりもしないし。」

「そうだね、マスミお姉ちゃん…アキトは凄いんだから!」

「おとーさん、スゴイ!、スゴイ!」


「…今の生活を壊されるのが怖いだけさ…。」


「相変わらず、自嘲癖が酷いんですね…。」

「違うよお姉ちゃん、自嘲じゃなくて自重なの。」


…明るく、暖かな家庭。

今まで望み続け、決してかなわなかった物…。


「…しかし…俺が「黒き皇帝」だって知ったら…ご近所はどう思うかな…?」


「…知らない人なんていないと思うけど…。」

「そうだよ!私が責任もって広めてるし!!


「ラピス!?」


「えへへ…だって…カッコイイじゃない。」

「そう…皆、貴方の事を誉めています…。」

モグモグ…おとーさんはつよいんだもんね!」


…そこで、アキトは少しばかり暗い顔をする。


「だが…月の「黒帝」でもあると知られたら…そうは行かないだろうな…。」


「まあ…確かにね。」

「大丈夫、私、それは言わないもん!」

「うー?」


…そして、アキトの周囲に全員集まってきた。

暗い雰囲気を吹き飛ばす、最終作戦をスタートさせる為に。


「なんだ?」


「アキト…暗いですよ?」
「…ここは一肌脱がしてもらうね?」
「おとーさん、かくごー!」



…こちょこちょこちょこちょ…


「わはっ…ひぃ…やめ…ははっ」


「「…アキト!…笑いなさ−い!」」
「…だぁ!」


「はははは…やめ…苦し…い!!」


…日常…そう…日常が流れていく…。

そう、それは…幸せな日々…。


…何時かはセピア色の写真となるであろう「平穏」という名の宝物…。

 

…。

 

「…先生…何か面白い事でも?(笑)」

「いや…くすぐられていただけだ…。(苦笑)」


…仕事場に来ると、弟子達の含み笑いがアキトを出迎える。

それもまた、日常である。


「リュウ…チャーハン作ってみろ!」


「はい、先生!!…あ、ラーメン追加だそうです!!」

「おお、…はは、休むヒマも無いな。」


「…その割には嬉しそうですが?」

「…色々とな…あるのさ…。」



…忙しい店主としての日々。

ホウメイ直伝の味は、この時代でも高い評価を受けて居た。


…休む間も無く注文に追われ、閉店後は明日の仕込みに精を出す…。

だが…確かにアキトは…それを楽しんで居た…。



…だが、平穏は崩れる。
…それは、ある種の…当然だったのかもしれないが…。

 

…ある日の夜の事…アキトとマスミがなにやら話していた。


「…明日は…大佐の…義兄さんの家に行ってきますね?」

「ああ、兄貴に宜しく。」


「アキラも、従兄弟に会えるって喜んでたわ。」

「…俺とラピスは…。」


「解ってます…軍から仕事の依頼が来たのね?」

「ああ…何処かの研究施設が襲われたらしい。」


「…平和には…なかなかならない…か。」

「だから…俺みたいなのも必要なんだろう?」


…平穏な時…それでも既に戦乱の気配は迫っていた…。

だが、これから起こる事に比べれば…この時の仕事は取るに足らない物でしかない。

…。

そう、その…歴史的には取るに足らない事件が…、

…今後の歴史に大きな影響を与えようとは…誰が予想できたろうか?


…そう、些細な事が大事になる事もある…。

…。

…次の日、アキトはスウェーデンにある研究施設…。

そう、アムやルリとも因縁深い、あの施設に足を踏み入れていた。


…何故、犯人がここを狙ったか…。

そして…犯人が誰なのか…まだ何も解ってはいなかったが…。


…。


「…では…質問に答えてもらおう…。」

「なんなんだ…ここには君等の欲しがりそうな物など何も無いのだよ!!」


…施設の奥、所長室と書かれた部屋の中から声がする。

そこではこの施設の所長と、犯人グループ数名が何やら押し問答をして居た。


そこに…アキトは、問答無用で押し入る!


「…そこまでにしてもらう。」


「誰だっ!!」
「…ちっ…連合軍か!?」


バラタタタタタタタ!!…カキィィン!


…アキトの放出する濃厚なフィールドの前に、マシンガンが空しく弾かれる!


「…なんなんだ…!?」

「…さあ、そこまでだ…大人しくして貰うぞ!


ドゴォ!…バギィ!


…アキトの鉄拳により、犯人グループは次々と打ち倒されていく!


…だが、敵のリーダーらしき男は諦めなどしなかった。

そして、取りあえず所長を人質に取る!!


「…この爺がどうなっても良いのか!!」

構わん。…人体実験を行う奴は嫌いだ。」


所長さん、唖然。

顎が、床まで落ちる程にガコーンと開いた。


「…待ってくれ!?…ワシを助けに来たんじゃないのかい?


「…俺の仕事は犯人の逮捕…または抹殺…それだけだ。

「なんじゃって−!(泣)」


「…な…ならこれはどうだ!!」


…全く動じないアキトに腰を抜かした犯人は、手元のモニターにある物を写す。


「これは…。」

「ふっ…この施設で実験に使われてる可哀想な連中さ。」


そこには…人としての扱いを受けていない、幾つかの人影が…。

そう…この時代…このような実験は、まだ表沙汰になっていないのだ…。


「…。」

「俺が手元の、生命維持装置のスイッチを切ると…あいつ等はどうなると思う?」


…アキトはフッと息をはく。


「ラピス!!」
「アキト…OKだよ!」


ガチャン!


…突然、画面が切り替わり…ラピスのアップが画面中に映される。

…既に施設の全システムは掌握済みだったのだ…。


「…もう、ここのシステムは私が全部支配してるよ!」

「…え、あ…あぁ…。(呆)」


「…ささ、さっさと降伏して?」


…その時…敵は唖然として呟く…。

…だが、その言葉は逆にアキト達を驚かせた。


「ラピス…ラズリ…貴方が何故ここに?」

「…え?」


「…待てよ…あ、あんた…まさか黒帝か!?


…。


「…どうやら…独立派の者らしいな…。」

「…答えてくれ…何故…まさか…裏切ったの」


バギィ!!

…アキトの鉄拳により、男は壁に叩きつけられた!!


「グワァッ…!!」

「…先に裏切ったのは…そっちだろうが!!」


…そして…。

…。

「…そんな事が…。」

「…そう言う事だ…だから俺はここにいる。」


…犯人グループは独立派の者達だった。

…そして…既にリーダー格以外の全員は、連合軍に投降している。


…一人残った彼は…納得いく答えが欲しい…と、アキトに詰めよっていたのだ…。

そして今も、施設の応接間で話は続いていた…。

…。

「…それでは…この理論は…?」
「ああ。それなら…ここをこうして…。」
「…おお!…まさに君は天才だ…。」



因みに…横では所長とラピスが科学的な雑談を続けていたりする。

かなり白熱している様だ。


だが、今の所それは関係無い。

…。

…そして…アキト達の話は中核部分に及んでいた。


「で、何でここに?」

「…うん…実は火星から、尋ね人の依頼があってな。」


「尋ね人?」

「ああ、アメジストって娘が、数年前から行方知れずだそうでな…。」


「…。」

「…で、昔いたこの施設が怪しいのでは…って事になって、我々が来たんだ。」


…因みにアムは、アキトの依頼で山崎と行動を共にしている。

それを知っているアキトとしては、どう答えようか判断に迷うところではある。


…だが、それを今話すのは…得策ではなかった…。


「そうか。…だが、アムちゃんは強い娘だ…。」

「そうか。…ま、少なくとも…作戦までは探しつづけろとの事だった。」

「…作戦?」


「ああ、始まるのさ…。」

「まさか…。」


「…地球攻撃作戦…もう発動日は近い…。」

…。

アキトは、それを大佐達に伝えるべく…足早に去っていった…。

…犯人グループ…リーダーの男は軍警察に引き渡され…所長は施設内の後片付けに追われている。


「ふう…研究員達が早く戻ってこんと…仕事にならんな。」


腰をトントン叩きながらぼやく所長さん。

…彼はチョイキャラにしては出番が多い。…文句を言ってはならんと思うが…。


「ん…これは…。」


その時…ある物をみつけた彼は、それを大事そうに懐にしまった。


(…アレだけの才能の持ち主なら…研究材料としては最適かも知れん。)


それは…薄い…桃色の輝きを放つ……ラピスの…髪の毛であった…。

…。

それは…ほんの些細な事だった。

歴史的には…事件と言うほどでもない事だった。



だが…その日…歴史は…大きく変わった。

それ以前に…既に修復不可能だったのでは?…と、聞いてはいけない。(爆)

 

…。

 

…そんな時でも…戦いの時は、刻一刻と迫りつつある。

月の軍隊は戦いの準備を終え、地球に迫りつつあったのだ…。


「黒帝の仇討ち」と言う、真相を知る者なら…鼻で笑い飛ばすような大義を引っさげて…。


…。


…そして…それは…平穏の終わりを告げる使者でもあった…。


その時…時が…再動を始める…。
…その渦の中心にいるのは…他ならぬ…アキト自身。


続く

::::後書き::::

BA−2です。
…幸せな家庭を持ったアキトを描いて見ました。

最も…崩壊の時は近いのですが。


…ラピスも良い具合に成長している様です。
少なくともナデシコよりは情操教育に良い所だったのでしょう。(笑)


さて…不穏な空気が漂い始めています。
はたして…アキトはどんな行動を取るのでしょうか?


…では!

 

 

代理人の感想

 

なんか、山のような伏線が張られてますな(笑)。

ラピスの髪を初めとしてシスコンのアキラ、大佐の息子、黒き皇帝、アムと山崎、チョイキャラの所長(笑)。

そ〜いえばヤマサキも劇場版ではチョイキャラだった割に扱いが良かったな(笑)。

 

そして個人的に興味津々なのがアキトの弟子、原始少年リュウ!

無論「あの方」のご先祖にあたる人なのでしょうが

料理だけではなく武術を習っていると言うことは・・・

 

マスターホウメイフラグ発動(超爆)?