機動戦艦ナデシコ  アナザーストーリー


                            世紀を超えて

                         第55話 「敵」の定義

 

…過去は消せない。

例え…隠す事が出来ようとも…完全に消える事など無い。


…事実は消えない。

…何処をどう繕おうが、事実は事実…。



…そう…アキトに…今までの清算の時が…やってきたのだ…。


…。


ここは、連合軍サセボ基地。


…ここには、極東方面軍の主だった顔ぶれが集まって居た。

無論、月軍の侵攻を防ぐ為の会議だ…。


…連合全軍が臨戦体制に入った時…既に敵はすぐ側までせまって居た。

正直…出来る事など、そんなに多くは無い。


…それでも、出来る事はしようと…人々は足掻き続ける。


「…とにかく、最終防衛ラインを定めねばなるまい…!」
「馬鹿な…宇宙空間から来る敵に…防衛ラインなど何の役に立つ!?」
「…各要所のみに戦力を集中させると言うのは?」
「それは拡散させるのと同じだ…何処に来るかも解らぬのに…。」


…だが…それが空回りに終わっているのは否めない。

そして…そんな議論を交わしている内に…最初の一撃が撃ち込まれた!


…。


…カッ!!
…ドッゴォォオオオオン!!


…。


…敵の第一目標は…他ならぬサセボ基地…。

そして…「黒帝」のまがい物たる「黒き皇帝」の抹殺であった…。

…。

衛星高度からのピンポイント・ミサイル攻撃…。

…その一撃は極東方面軍の主だった将軍たちを全滅させ、指揮系統を破壊…。


…そしてこの日…人類は初めての星間戦争を体験する事となる。

今までの局地的な物ではなく、大規模な決戦…。


…。


…この戦乱について…後世の歴史学者達は声を揃えて言う。
この戦いが、もし長続きしていたら…人類は滅亡して居ただろう…と。



…。


ここは、基地外周部にある兵士詰め所。


…ズゥゥゥン!!


「うわぁっ!?」
「どあっ?」
「きゃっ!」


…突如として光が周囲を包む!閃光に目を開けていられない!!

爆音が轟く…何が起こったのか見当もつかない!!

…。

「…な、何だってんだ?」

「あ…あ・あ…。」


…ようやく閃光が消え、兵士達は冷静さを取り戻した…が。


「…どうした…変な声だし…ええっ!?」

「…基地の中心部分が…消えてる…。」


…彼らの上官は…既にこの世の何処にも居なくなっていた…。


…。


「…馬鹿な…。」

「こんな辺境の基地を第一目標とは…五十六…俺を狙いやがったな?


…アキトとヤマダである。彼らもこの詰め所に居た。

と言うか、大佐と直属の部下達は…要するに非主流派なのでここに集められていた。

まあ、それが幸いした訳であるが…。


「…首脳部との連絡がつかん…本部へ問い合わせてみたが…。」

「大佐…上は何て言ってんだ?」


「…各自奮闘し、最善の結果を示せ…だそうだ…。」

「かぁーっ…最悪だぜその命令…。」


ヤマダがぼやく…責任は現場が…手柄は上が持っていくと言う典型的なパターンだったからだ。

…その時…アキトと大佐は目を合わせると…どちらとも無く苦笑いを浮かべる…。


…そして…アキトは気づかれない様にその場を抜け出した。


…正直…上が沈黙したのは有難かった。
…これなら…思い通りにやれる…。


…。


衛星軌道上…地球攻略軍旗艦・ブリッジ


「白鳥司令…サセボ基地に多大な被害を与えました…!」
「…ですが…実働部隊の一部は迎撃に動いています!」

「…では、降下部隊を投入せよ。」


「はっ、了解しました…あっ!?
「…敵機が一機…大気圏を抜け…こちらに向かっています!」


「なにっ…で、どんな奴だ!!」

「…漆黒の…大型戦闘機…!!」
「奴です…間違いない!!」



「…そうか…テンカワさん…ようやく仇が取れます!!

「黒帝の偽物め…覚悟してもらう!」
「…うう、我等の悲願が今!!」

…。

「…。(テンカワァッ…お前なぁっ…!)」


…テンション急上昇のブリッジ内部と、

それに反比例して盛り下がる月臣の表情が、実に対照的な一コマであった…。


…。


ゴォッ…
  ゴォッ…
    ゴォォッ…


アキトは、降下部隊とすれ違う…。

敵の目的は地上だと言う事もあり、こちらに対し無理に仕掛けてくる者は無い。


「…こちらが一機だと思って油断しているな…。」


…そして…アキトは一気呵成に敵を殲滅するべく…空を昇って行くのだった。

だが…敵・基幹艦隊との距離は、まだまだ遠い…。


…。


その頃…地上・サセボ基地


「…上の連中は「黒き皇帝」が片付けてくれるだろうが…此方も迎撃をせねばならない。」


…上級指揮官が全滅状態だと言う事を受け、大佐が臨時に指揮を取る事となる。


最後に残った上級士官は無能ではあったが賢明だった。(笑)

…自分ではこの難局を乗り切るのが無理だと判断し…全てを大佐に任せたのだ…。


「まさに危急存亡…地球の危機だ…だが、このリューマ…諸君達を犬死にさせはしない!!」

「…この一戦…必ず勝つ!!」


オオオォォォッ!!


残存部隊なれども士気は高い。


…勇将の元に弱卒無し

その格言を地で行くような…獅子奮迅の戦闘が…始まろうとしていた…。


…。


「くっ…このままでは…地上に着く前に半分はやられる!!」


…降下部隊の隊長は…焦っていた。敵の迎撃が激しすぎる…。

黒帝の戦いぶりを間近で見ていたこの男には…エステが破壊されるなど…到底信じられなかったのだ…。


(エステバリスは…現時点最高の兵器のはず…!!)


だが、その疑問は…下から昇ってきた敵機の姿を見た事で解決した。


「た、隊長…あ、あれはっ!?」
「う、嘘だ…なんで地球側に!!」
「あ…あ…あ…。」



(しまった…!…機密が漏れていたかっ!?)


…空戦フレームが3機…降下部隊をすり抜けて上方に位置し…ライフルで狙い撃ちにする!!


「…敵は僅か3機…撃ち落せっ!!」


…バタタタタッ…

だが…弾丸は空しく空中を舞うばかり…。


…何故か?

それは…機体特性の差にある。


月側のフレームは…陸戦をベースに汎用性を持たせた物である。

丁度…、零G戦と陸戦の中間であると考えてくれれば良い。

…更に…今回は大気圏降下用に、バリュートを着けていて、運動性能が落ちているのだ。



対して、空戦フレームはその名の通り、空中戦の為の物。…その差は歴然だ…。

…TV版、第2話のアキトを思い出せば、その差が解るかもしれない。

…。

そう言う訳で、殆ど一方的な攻撃が続く。

…だが、敵とて無能では無い!


「くっ…バリュートを捨てろ!」

「隊長…無茶です…まだ高度が高すぎで!」


「…このままだと対空砲の良い的だ…着地?…自力で降りろっ!!

「…なぁーっ!?」


…練度の低い味方に呆れ果て、隊長はバリュートから飛び降りる!

…そして…それが彼の命を救った…。


…ドォ…チュドォォン!!

爆発するバリュート!


「ナニッ!?」

「…眼下に、何かいます!!」


…ガシャァァン!!


…足のサスが少しばかり壊れたものの、無事に着地する月側の兵士達…。

…だが、そこで彼らが見た物は、全く救いのない物であった…。


「…やはり…敵にも技術が渡っていたか!!」

「ま、そう言うな…数は…すくねぇんだよ!」


…ドォォォン!!


…ヤマダは、陸戦フレームに乗り、レールガンを構えていた…。

そして…戦車に乗った部下達と共に、一斉砲撃を浴びせ掛ける!


地球側のエステは10台に満たない。

…それ以外は戦車や戦闘機などの通常兵器ばかりだ。


だが…アキトは教えていた。

…エステバリス…ディストーションフィールドには、大質量の実弾兵器が有効である事を…。


故に地球側は、火力の集中で事に当たろうとしていた。

そう…無い物ねだりだけは出来ないのだ…。


「…敵…第一陣撃破っ!」

「よし!…だが気は抜くな…第2陣に備えろっ!」


…。


地球での第一回戦が終わった時…アキトは、敵艦隊に迫っていた…。

…だが…アキトは…敵の指揮官が誰か知らない…。


…。


「…各地に散った部隊は…順調に戦果を上げています。」
「ですが…流石にサセボは守りが堅い…第一部隊が全滅状態です。」

「…先ほどから近づいて来ている敵機…射程距離に入ります!」
「全艦迎撃開始っ!…くっ…当たりません!!」


…部下達からの報告を聞きながら…白鳥はウンウンと唸っている。

なお、月臣もウンウン唸っているが、

此方は胃痛が原因。(笑)

「なあ弦悟郎?」

…ン?(名前を訂正する気力無し)」


「…テンカワさんの偽者が来た…。」

…あ、そ。(…色々と気苦労で過労気味)」


「…テンカワさんの仇は…自らの手で討ちたい。…後は頼んだぞ…。」

…ふーん…。(少し現実逃避)」


…無意識に艦長席に座る月臣。…白鳥が行ってしまった事に気づく事は無かった。

そして白鳥…月臣の異常にまったく気づいていなかった…。(爆)


…ここで気づいてれば…アキトへの責任追求も出来たはずだ、と後に彼らは語る。

無論…責任のなすり付け合いに他ならなかったが…。



…。


その時…アキトは戦闘可能距離にまで近づいていた。

だが…敵の砲撃も、その破壊力を増す!!


「…その程度で!!」


ギュォォォン!
    チュィィィィン!!



ナイトメアは、敵戦艦に肉迫すると変形!…内蔵チェーンソーで主砲を切り落とす!

そして、主砲塔内部にラピッドライフルを叩き込み、その場を離脱した!!


…チュドォォォォン…!!


爆発する戦艦…周囲の小型艦数隻が、巻き添えを食らい爆発する!!


「次っ!!」

…ドゴォォォオオン!!


…そうして…数十分の内に、敵艦の半数が星屑と消えた…。

その時、旗艦のブリッジでは…。


「…敵対する者には容赦無しか。…テンカワ、それが…お前の強さなのか?


…ぼんやりと、そんな事を言う月臣の姿があった。

…聞いていた人がいなかったのは、驚くべき幸運だったと思われる…。


…。


…そして…遂にアキトの銃口が、敵旗艦を捕らえた。

…中に月臣が乗っている事も知らずに…。


だが…その時、アキトのラピッドライフルが突然爆発する!


「…誰だ!?」

「…見つけたぞ…テンカワさんの偽物め…!!」


…リモニウム2号機…マーズガンガー3…。

ゲキガンカラーに彩られたその機体が…アキトの前に立ち塞がる!


「お、お前は!?」

「私は地球攻撃軍司令、白鳥五十六だ!」


「…!(白鳥?…何故ここに)」

「貴様にテンカワさんの名を汚させる訳には行かない…。」


「…テンカワの…名を…汚す?」

「覚悟しろ…テンカワさんの名誉の為に!!」

…。

「くくっ…はははははーっ!!」

「な、何がおかしい!?」


…アキトは可笑しかった。心底アホらしい話だと思った。

…もはや、悲劇を通り越し…喜劇でしかない…。


(…自分の名誉を傷つけるのもまた…自分だと?)


…そして…気づいてしまった。敵が何であるかに。

月と火星から来た敵…そう、それは…。


「ふ…ははははは…俺は…俺はっ…!!」

「何が可笑しい…貴様っ…テンカワさんに…黒帝にわびろ!!


…かつての…仲間達…。


「…ははは…あはははははは…。」

「…もはや許さん…死ねぇぇっ!!


…そして…戦いが始まる…。

いや…余りに一方的な…「狩り」だったのかも知れないが…。


…。


その日…基幹艦隊を失った月軍は、撤退を余儀なくされた。


降下した軍勢は後方支援を失い、各個撃破で壊滅させられ…、

…逆に連合軍の逆撃が始まろうとしている。


逃げ出した月側の軍勢は…当初の5%以下にまで戦力を落とし、

…数隻だけ残った艦で逃げ帰っていった…。


その中には…「黒き皇帝」と一騎討ちを行い…重傷を負った白鳥五十六司令の姿もある…。

…そして…悲痛な顔で地球を眺める月臣の姿も…。


彼らの表情に…今朝の覇気は無く…ただ…絶望だけに支配されていた…。



…。


その夜…アキトはラピスを呼び出した。


「…アキト…本気なの?」

「…ああ。…俺なりの…責任の取り方だ…。」


(…それって…最高に無責任だよ?)


…ラピスはそう思ったが…けして口にはしなかった。

…彼女にとって…それは、禁断の果実と言っても良いような内容だったのだ…。


「アキト…私はアキトの味方。…例え…アキトが間違っていても。

「すまない…本当に…済まない…。」


(アキト…謝るなら私じゃなく…ううん、迷っちゃ駄目!)


…アキトは一つの答えを出した。…それが正しいかどうかは別問題として…。


そして…アキトは連合軍の戦艦に乗り込む。

…取りあえずの決着を…付ける為に。


「…アキト…戻ってこない様な気がする。」

「ラピスちゃん…冗談でも不吉な事…言わないで欲しいな?」

「おねーちゃん…?」


…そして…ラピスも…動き始めた。…アキトの望みを叶えるために。

だが…例えそれが間違っていたとしても…彼女はそれを止めないだろう…。


「ねぇ…おねーちゃん?」

「ん、どうしたアキラ?」


「…なんか…おかしーよ?」

「そうかな?」


「うん…なんか…悲しそーだよ?」

「…そんな事…無いって。」


そう…アキラだけは気づいていた。
…ラピスの決意と…僅かな葛藤に。


続く

::::後書き::::

BA−2です!
第55話、≪「敵」の定義≫如何でしたか?

さあ、スパートがかかってきました!

…アキトの決意とは?

そして、それが起こす影響は!?


過去編もクライマックスが近いです!!
…お楽しみに!

では!

 

 

代理人の感想

 

笑うに笑えない話でした。

 

 

にしても・・・・アキトよ。

お前ってごく天然無責任だな。

 

あるいは鈍感を極め尽くしたと言う方が正確かもしれませんが(苦笑)

まぁ、私の想像があたっていればの話ですけどね。

 

・・・でも多分そう遠くはないと思います。

ラピスとアキトの性格を考えると・・・ね。