機動戦艦ナデシコ  アナザーストーリー


世紀を超えて

第65話 過酷なる運命





…その日…火星のとある空港は、何時もの喧騒の中にあった。


「お父様ーっ、早くーっ!」

「うんうん…ユリカ、ちょっと待ちなさい…。」



この日、地球への異動が決まった地球連合軍、ミスマル・コウイチロウ提督は、愛娘のユリカ嬢を連れて、地球への帰路に着こうとしていた…。


「…ユリカさん、一応元気でね。…最も、こちらももうじき地球に引っ越すんだけど。」

「あ、カグヤちゃん。…うん、じゃあね!


…そうして幼馴染の二人は別れた。(汗)


連合軍提督ミスマル・コウイチロウの娘、ミスマル・ユリカ。
そして…明日香インダストリー令嬢、カグヤ・オニキリマル。


…なお、二人は喧嘩友達だったりもする…。


…。


そして…飛び立つシャトルを尻目に、滂沱の涙を流す一団があった。

「おい。クリムゾンの…。」
「なんだ、ネルガルの…。」


それぞれから送り込まれてきた立場を違える者たち。…だが、事態は深刻である。

…その他、各勢力から送り込まれてきたエージェント達も…困惑していた…。

何故なら…


「「…テンカワアキトは…何処だ!?」」


そう、彼らのメインターゲットはその場に存在していなかった…。

…彼らには知る由も無い事なのだが…その時、テンカワ一家自体が歴史から姿を消していたのだ。

それも随分以前から…。


結局、この日…空港が襲われる事は無かった。

…流石に…無駄足である事は容易に想像がついたらしい…。


…。


…時は、空港での二人の会話から…更に一年ほど遡る事になる…。

その日、テンカワ一家は追っ手に追われ…山岳地帯を逃げている最中だった…。



「アキト…大丈夫か?」

「うん…ゴメンナサイ…本当の名前…喋っちゃったから…。

「気にしないで…知らずにとんでもない名前を付けた、お母さんたちが悪いんだから…。」


…。


全ての始まり…それは数年前に遡る。

…平和に暮らしていたテンカワ一家に待望の長男が生まれた。


「テンカワアキト」…そう名をつけた両親だが…何故か役場のコンピュータには「テンカワ アキ」と言う名前で登録されてしまう…。

…この間違いに気づいた両親は早速役場に訂正に向かうが…そこには…


大量の黒服(汗)


「な、なんだ…?」

「お、アンタも同業者かい?」


…黒服に話し掛けられるアキト父。(汗)アキトの父親はこの日偶然黒いスーツを着ていたのだ…。


「え?…あ、ああ…。(弱みを見せちゃ拙いだろうな)

「しかし…あの博士の所も脅かしてくれるよなぁ…。」


「あ…そ、そうだな…。(…私の事か!?)

「息子にアキなんて名前付けてよ…。…全く…黒帝かと思ったのによ…。」


…アキトの父も、流石に御伽噺の主人公ぐらいは知っていた。

そして…自分自身が歴史に関わる人物になりかけている事にも気づいたのである…。


「はは…は、まあ…違ったものはしょうがないだろう?(ここはとにかく帰ろう…)

「ああ、でもな…これで伝説に引っかかる奴が無くなっちまったぞ…。」


…そうして黒服はがっくりと肩を落として帰っていった。(笑)


…そして…家に帰ったアキトの両親は、彼を登録された『アキ』の名前で育てる事になる。

無論…表向きの話で、彼の本名が「アキト」である事に変わりは無かったのだが…。


…。


…だが…人の口は軽いものだ。


数年後、女の子みたいな名前だと言われたアキトは本名をばらしてしまう。

そして…アキトがポツリと漏らした一言は直ぐに知れ渡り…一家は追われる事になったのである。


ま…幼児に対して、秘密を守れと言うのも酷な話であったのだが…。(苦笑)

…。

…そして…一家は遂に追い詰められた。

だが、敵はプロだ。…それを考えれば健闘したと言っても良いだろう。


そして…追っ手の一人が口を開く…。


「…さて、こちらも忙しいもので…。テンカワ博士?」

「ぷ、プロスさん。…我々の事は良いが、息子だけは…どうか…。」


それを聞いた男はメガネをくいっと持ち上げた。…その奥の瞳を隠すかのように…。

そしてそれは…『それは出来ない』と言う無言のメッセージでもあった…。


「残念ですが…彼は『黒き皇帝』となり、ネルガルの為に働いて貰う事になっています。」

「…本人の意思など関係無くか…?」


「…大丈夫。予言によると…彼は元々ネルガル側のようですから。」

「…そうそう上手く行くと思えないが…。」


彼…プロスペクターとアキトの父は親友同士である。

だが、今回ばかりは双方そんな事に構ってなどいられなかった…。


…カチャ


双方が銃を構えたのはほぼ同時…だが、早撃ちでは完全にプロスのほうが有利なのは否めない。


「…テンカワさん。…大人しくして頂けませんか?」

「何を言うかと思えば。確か…予言とやらで…私達は死ぬ筈では無いのか?」


「いえいえ…協力が得られるならそれに越した事は無いですし…。」

「…馬鹿に…するなよ!!」


バァン……
…カチャン…。


「…テンカワさん。…お分かりでしょうが私には勝てませんよ?」

「う…ぐうっ…!」


…両者は同時に引き金を引いた。

だが、素人がプロに敵うはずも無く…アキトの父は銃を弾き飛ばされていた…。


「父さん!!」

「アキト…済まん…!」


「さて…こちらに来て頂きましょうか?」


ザザザッ…

ネルガルのエージェント達が周囲から飛び出してきた。…かなりの数だ。


「…プロス。…既に囲んでいたのか…?」

「はい。…もう良いでしょう?…悪いようにはしませ」


バラタタタタタタタタ


「ぐわっ!?」「きゃぁぁぁああっ!!」
「父さん!?…母さん!!?」

「な、…何をしている!?」



…それは…突然だった。

ネルガルのエージェント達の数名が、突然アキト達をマシンガンで蜂の巣にする!


両親はアキトをかばい…銃弾の雨の中に自らの身を晒して盾となり、果てた…。


「はーっはっは…これで『黒い皇帝』も終わりだ!!」


…そう、予言において『黒帝』の敵とされる勢力…。

クリムゾンの刺客が入り込んでいたのだ!!


「くっ…してやられたっ!」


「…次はプロスペクター…貴様だ!!」

「そう上手くはいきませんよ!!」


…そして…戦いが始まる…。


…。


それから30分もしただろうか?…アキトは一人、山の中を彷徨していた。

…気がついたとき…両親は既に血溜りの中で倒れ、事切れていたのだ…。


周囲には既に人気など無く、時折遥か彼方より銃撃音が響いて来るのみ…。

…そんな中、アキトの心に宿った物は…
復讐心であった。


「あんな…奴らに…捕まって…たまるか…。」


…両親を死に追いやった連中に捕まって好きにされるのは、彼には決して容認できない事であった。

それ故に…アキトは動かない体を引きずって、山の中を這い回っていたのである…。


「はぁ…はぁ…はぁ…。…ううっ…。」


だが…流石のアキトも、まだ何処にでもいる幼児でしかない。

…遂に体のほうが根を上げ…力尽き、動かなくなる…。


…そして…クリムゾンのスパイを排除したネルガルがアキトを見つけたとき…彼の体は既に…

取り返しがつかない状態に陥っていたのである…。



…。



ネルガルの研究施設…。


あれから少しの時が流れ…大きなガラスの筒の中に、年端の行かない子供が浮かんでいた。

そう。…アキトである。


…だが…その双眸は金色に染まり…全身にナノマシンの文様が浮かび上がっていた…。


「…会長…ここまでする必要があったのでしょうか?」

「プロス君。…いまさら怖気づいたのかね?」


…その日、プロスはネルガル会長(アカツキの父)の供として、この施設を訪れていた。

だが、その表情は暗い。


「いえ…生き延びさせる為に、ナノマシンを注入したのは当然だと思いますが…量が多すぎかと。」

「ふっ…遅かれ早かれこうなる運命だったのだろう?…要は使えれば良い。」


…そう、アキトの体内には信じ難いほどに大量のナノマシンが投与されていた。

事実上の生体実験…これでは山崎の所業となんら変わり無い。


…その時…薄く開かれた目がプロス達のほうを向き…睨み付けた。


(絶対に…コロシテヤル…!!)


「なあプロス君。彼…抜き身の刃のようないい目をしている。…流石は黒帝、そう思わんか?」

「はい。…背筋が凍りそうですよ…私は…。」


その時プロスは…もう彼をネルガルに引きこむ事がほぼ不可能である事を、直感で感じ取っていた。


…そして…その日の夜、アキトは何処かへと消えていた。

その日の監視カメラには不審な物など何一つ写っていなかったにも関わらず…だ。


…だが、たった一コマだけ…わざと残したと思われる画像が残っていた。


そこには…アキトを抱きかかえカメラを睨み付けた、
桃色の髪と金色の瞳を持つ女性の姿が映っていたのである…。





…。




「…それが…姉さんとの出会いだった…。」

「そうだったんですか…それで…どうなったんです?」


…アキトは身の上話をしていた。…以前の約束の通り。

ルリは横で添い寝をしてもらいながらそれを聞いている…。


「一緒に暮らす事になったんだ。…幸せだった…な。…少なくともあの時までは。」

「あの時?」


「…また今度話してやるさ。…さ、もう今日は遅い。…お休みルリ…。」

「はい…お休みなさいアキトさん。(はーと)」


(あの時…か。…そう言えばアイツが出てきたのもあの日だったな…。)


…そして、アキトもまた眠りにつく。

…そして…夢を見た。…忌まわしきあの日の事を…。

続く


::::後書き::::

BA−2です。お待たせしました!

…アキトの過去を書いた話…の一つなんですが、時系列の交錯が酷いんで…読みづらかったかも知れません。…以後気をつけますけど…。

さて…まあ酷い話ですよね…。いきなりアキト、人体実験ですよ…。
ですが、これでアキト・ラズリという人物の一端がご理解頂けたのでは無いでしょうか?

…今回は…あえてギャグを八割以上排除してみました。
さて…どんな反応が来るか心配ではありますが…。

では!

 

 

代理人の感想

『予言』って・・・どれくらい広まっているんでしょうか!?

てっきり木連限定だとばっかり思っていたのに・・・・ネルガルにまで。

 

 

 

・・・せめて軍人に殴りかかる位にしておけば新型エステバリス強奪犯で済んだのに(爆)。