機動戦艦ナデシコ  アナザーストーリー


世紀を超えて

第71話 子供たち





…先ほどの時より遡る事およそ2年…。

ここは北辰宅のある、とあるドーム型コロニーである。


…ここに、子供達のための公園があった。


とは言っても、申し訳程度の遊具が置いてあるだけでしかない。

…木星ではその性質上、生命に直接関わる事以外のインフラが遅れていたからだ。


だが…その公園には大きな砂場があった。
(裏事情:設備の維持が大して要らないので、それは大きく出来たのだと思われる。)

当然、そこには子供たちが集まる。

…だが…そこに…彼女の居場所は無かった…。


…。


「まーぜーて…。」


…彼女は長い髪とソニック人形を引きずって公園にやって来た…。

だが…その印象には、今見られるような能天気な子供のイメージは無い。


「…うわっ、北辰の家のコガネだっ!!」
「人殺しの家の子は帰れ!!」

「かえれ!」
「かえれ!!」
「かえれ!!!」


…。


「…まぜて。」


「帰れよ!…コロシヤの家の子と遊んじゃ駄目だって母ちゃんが言うんだ!!」
「そうよ!!…邪魔邪魔!」


「…。」


…そして…とぼとぼと家に帰る。…これがこの当時の彼女の現状…。


…実はその数年前、彼女の父…、即ち北辰は『草壁春樹中将暗殺事件』の犯人逮捕によって

世間に一躍名を轟かせる事となったのだが、その為に家業…裏の顔も世間に知られてしまった…。


…その為だろうか?


不運な事に彼女には、北斗に対する零夜の様な親友が遂に現れなかった。

…そして…彼女は孤独だったのだ…。


故に彼女は夜になるのを待って、一人砂場で遊んでいた。

父親がその事を咎める事が無かったのも大きな要因だったが…。

(知らなかった可能性有り)


…。

そんなある日、彼女に転機がやって来た。


…日暮れ時、誰も居なくなった公園で…彼女は見つけたのだ。

…自分を馬鹿にしない友達を…。


「…誰?」

「私は…銀(シロガネ)…。」


…その子はコガネちゃんより一回り大きい7〜8歳の女の子。…銀色の髪と金色の瞳…。

そう、地球から連れて来られたばかりの人形…MCであった…。


「…銀ちゃんは…コガネの事嫌い?」

「…判らない。」


コガネは怯えていたのかも知れない。…拒絶されるのが怖かったのだろう。

だが…銀と名乗った少女は特に動じた風も無い。


「…じゃあ…じゃあ…。」

「…何?」


「…お、お友達になってください!」
「構わないわ。」



…即答であった。(笑)

実は彼女、施設での教育の為か自らの意思が希薄なのだ…。


だが、そんな事はコガネには判らない。(だって幼児だし)

…故に、友達が出来た事を素直に喜んでいたのだ。…満面の笑顔で…。


…その日以後、その砂場では夜になると砂遊びに興じる幼女と、それに付き合う少女の姿が毎日のように目撃されるようになった…。


…。


だが、それもそれほど長い時ではなかった。

…彼女は別な施設に移される事となり、コロニーから去ってしまったのだ…。


なお、その際連絡船が謎の事故を起こし爆砕してしまっていたりするが。(ヲイ)

…。


それでも、その出会いをきっかけに彼女は変わった。

例え嫌われようが積極的に人の輪の中に入ろうと努力したのだ…。


結果…
父譲りの力で数名の死者を出してしまい、公園への出入り禁止を食らってしまったが。(爆)


彼女曰く、


「同年代の子はチョット小突いただけで死んじゃうんだもん…。」


なのだとか。…って待てぃ!!(汗)


…。

なお、コガネちゃんの家族(及び関係者)の反応はと言うと…。


「流石は我が娘、素晴らしい才能だ。…そちらを伸ばしてやった方が良かったか」


ゴスッ!!(頭蓋骨が陥没したような鈍い音)


「まあまあ…お父様、冗談は顔だけにしてくださいね。(にっこり)」

「…なあ姉貴。…親父、脈が無いぞ。(汗)」


なお、真琴さんは現在、血染めのフライパンを装備しています。


「大丈夫、お父様なら直ぐ再生するわ。…だって私達のお父様じゃない。」

「…訳が判らない事言ってるんじゃないわよ、真琴。(汗)」


「まあ、舞歌…今日は何?」

「何って…ほら、あの銀って子の事…コガネちゃんにはどう言うつもりなのかと思って。」


「言わなきゃ分からないわ。」

「…あっさり言うのね。(汗)」


…因みに北辰は、三途の川で乗船拒否を受けていたりする。(ヲイ)

…そして…屋敷の外では…。


「ほ、北斗サーん!!…ゴフウッ!!」
「し、枝織ちゃ…がはっ!!」



…爽やかな陽気の元、二人の少年が釘バット(既に血染め)で吹っ飛ばされた!
そして…家の門に陣取るヲトメが一人!!



「北ちゃんは誰にも渡さない…そう、誰にも…!!」



紫苑零夜…もう既に覚醒済みであった…!(汗)

眼にキュピーン系の光が宿っているのが何よりの証拠だ!


釘バットにまで塗って、抹殺準備は万全。

なお彼女の手によって、北斗達の安全(?)は守られていたりする…。



…。

さて、そんな風に木星が平穏な毎日を送っていた頃…地球では大きな動きが起ころうとしていた。


…ここはネルガル所属のとある研究施設。

だが、すでにその機能の殆どは侵入者の攻撃により失われていた…。


そして…赤い非常灯だけが点いた、暗い廊下を歩いていく人影がある…。

…アキトだ…!


「これで最後か…?」


…男の目の前には厳重にロックされた扉が一枚。

…既に何度もぶち破ってきた扉とは、確実に何かが違う…。


「さて、姉さんの言っていた『もう一人の私』とやらはここに居るのか…?」

『…お兄様、ここ以外に考えられない…が、正確な所です。』


「そうだったなヒスイ…MC関係の施設は所属を問わず破壊してきたからな。」

『なお、周囲に駆動音…恐らくセキュリティのガンホールか何かがあるのでしょうけど。』


「…うん。…でも通信が…乗っ取った館内放送用のスピーカーってのはなぁ…。(汗)」

『贅沢言わないで下さい。…ルリはシステムの乗っ取りで精一杯ですし…。』


「そうだったな…ん、来たか!」


ガガガガガガ・・・


床がせり上がり、中から機関砲が姿を表す…!!


「なあ、ルリにこれを止める事は…!」

「無理です、施設のシステムから独立しています。…恐らく、ハッキング対策なんでしょうが。」


「そうか…なら、この奥に何かあるのは間違い無いな!」


そして、ガンホールをアッサリとつぶし、ついでに残った弾丸を失敬したアキトが扉の前に立つ。


「さて…こじ開けられるか?」


…そのまま扉に手をかけ、力を込め


プシュ…

「うわっ…!?」

…ようとした途端に扉の方が勝手に開いた。(笑)

見ると、中に白衣姿の男の姿がある…。


「ようこそ…お探しの物はこの子ですかな?」

「…。」


…その男の指差した方をアキトが見ると、桃色の髪…ラピスが怯えたようにこちらを見ていた…。


(…これは…想像以上にそっくりだな…。)

「…間違い無かったようですな?…それは何より。」


…アキトはラピスに近づく。

…彼女は怯えていた様子だったが、アキトが軽く微笑んでやると警戒を解きアキトの腕に収まる。


そしてアキトは…白衣の男に向き直った。


「…ふと気になったのだが貴様は何者だ?…研究員が実験体を手放すとは思えん。」

「首になったのだよ…と、言う事にしておいてくれ。」


「…余計な詮索は無用、と言う訳か?」

「まあ、そうだな…所で見せたい物がある…付いて来てくれるかな?」


…暫くアキトは考え込んでいた…が、顔をあげるとこくりと頷く。


(…罠かも知れんが…行って見る価値はありそうだ…)

「そうか…隣の部屋だ。…付いて来たまえ。」


…。


そして…その指定された部屋に行ったアキトは…呆然とした。

そこには…無数の培養タンクが整然と置かれていた。…だが…。


「…見たまえ、ここに居るのは全て量産型のMCなのだよ。…最も、生き残りは一人だけだが。」

「…この、水槽の中の肉片が…全て…か?!」


「うむ…『黒帝』の伝説に踊らされた…哀れな命達だ。」

…造ったのは…貴様らだろうに。…哀れな…は、無いだろう!」


「まあそうだな。…だが、そもそも黒帝が居たからこの子達は生まれたのだよ?」

「!…俺は違う。…俺の名はアキト・ラズリだ!」


…それを聞いて、男は不敵に笑った。


「そうか…君は違うのだな?」

「…そうだ!」


「ふむ。…それだけ確かめたかったのだ。…で、こっちの子はどうする?」


…そう言うと、男は培養タンクの中から、幼女を一人取り出す。

この部屋の…最後の生き残りだ。


「ふう…アンタが世話する気は無いみたいだな…いいさ、この際一緒に俺が引き取ろう…。」

「そう言ってくれると思っていたよ。」


「ちっ…確信犯か…。」

「…ここも、機密保持の為に爆破されるだろう。…急いで逃げるべきだ…。」



…。

そして…ここは施設跡地を見渡せる丘の上、アキト達は施設脱出後ここに居た…。


「本当に、跡形も無いですね…ま、凄い爆発でしたしね。」
「…馬鹿ばっか…。」


「どこも同じさ。…臭い物には蓋、って事だよヒスイ・ルリ。」


…そして…施設の崩壊を見届けると、先程の男がその場から離れていく。


「…さて、私はここらでお別れさせて貰いますよ。」

「…そう言えば、名前も聞いてなかったな…。」


「どうしてもと言うなら…ウォルフ…と、そう呼んでいただければ結構。」

「…そうか、ウォルフさん。…じゃあな。」


「うむ…それでは。」


…そして、男は去っていった。

再登場の予感を残して。(ヲイ)


「さて、お兄様…。予想より家族が一人多くなってしまいましたね。(笑)」

「ああ。…こっちの桃色の子はラピスで決定として…こっちの青髪の子はどうしようか?」


「…取り合えず帰ってから決めませんか?」

「ふっ…それもそうか…。(赤)」


…。


結局、青い髪の子の名前は、「サファイア」で決まった。

…鮮やかな青い髪が印象的だったのがその理由である。


…実はゲキガンガーの影響を受けていると言う噂もあるが。(笑)



…。

同時刻…火星極冠、最深部。


そこに、巨大な玉座があった。…その後ろには大きなコンピュータが鎮座している。

そして…下には報告を入れているらしい女性の姿も…。


『そうか。…アキトはラピスを保護したんだね?』

「はい、なおその際…量産型も一人保護したようです。」


『ふーん。…何だか歴史が狂ってきたねぇ。…そう思わない、サレナ?』

「はいダッシュ…。既に修正は不可能です。」


今、ダッシュからサレナと呼ばれた女性…。

深いスリットの入ったロングスカートに、上はブレストアーマー。…しかも何故か大鎌を持ち、顔の上半分はヘルメットで覆われていた。…無論、全部黒である。

そして髪は長い黒髪で、その瞳も黒曜石のように黒かった…。


『ふふ…いいじゃない。…どうなるか見てみたくない?』

「いえ…私はそう思いませんが。…なお報告は以上です。」


『うん、判った。』

「では…電子神官長サレナ・ラズリ…通常任務に戻らせて頂きます。」


…そして…靴音が聞こえなくなってしばらく後、ダッシュは不意に話し始めた。


「…アキト、君の娘は中々に優秀に育ったよ。…流石にラピスの血も引いてるだけはあるね…。」

「…ああ。」


…よく見てみると、玉座に人影がある。

全身黒尽くめの男…そう、『黒帝』テンカワ・アキトその人であった…。


「まあ、イレギュラーな生まれの子だけどさ。」

「…そうだな。」


からん…。

その時、アキト…いや、黒帝の顔からバイザーが落ちた。


「あーあ、落としちゃった。…おーい、誰かアキトにバイザーかけてやってよー。

「…ああ。」


…片目を抉り抜き、隻眼となったテンカワ・アキト。

その瞳は何処を見据え、何を成そうとしているのだろうか…?

続く

::::後書き::::

BA−2です。…71話です。

…『黒帝』と化したアキト再登場です!…まあ、アキトが二人いるのって大して珍しく無いですが。


さて、今回もオリキャラがまた増えてしまった…。

とは言っても、今回の二人は予定の内だから良いかな…。

あ、銀のモデルになった二人…判ります?


さらにコガネちゃんの暗い過去のお話…だったのだが…何故最後でギャグになる!?

…どうやら完全シリアスは、BA−2には無理なのかも知れませんね…。(泣笑)


では!

 

 

代理人の感想

>「どうしてもというなら・・・ウォルフ・・・とそう呼んでいただければ結構」

 

・・・・まさか「ウォルフ」って魂の名前ですか(核爆)!?