機動戦艦ナデシコ アナザーストーリー
世紀を超えて
第81話 飛び立つに至る道
「…あれは…まさかもう撃墜された…のか?」
サセボの岬に辿り着いたアキトが見たもの…それは満身創痍のナデシコの姿であった。
だが…ナデシコが沈もうが彼には関係ない。
「ルリ…サフィー…お前達はあそこに居ると言うのか…?」
…今のアキト・ラズリにとって、関心事はそれだけ。
…元々のルリの出自を知っているアキトは…彼女があそこに居ると直感していた。
ま、確かに…さっきまでは居たんですけどね…。(汗)
…アキトは己の内より沸き立つ焦燥に煽られるまま…ナデシコに向かっていった。
もうそこに…彼の大切なものは無いと言うことすら知らずに…。
そして…彼は一つの事実に気づいていなかった。
…自らの心を焦がす焦燥が一体何を意味するのか…彼自身自覚していなかったのである…。
…。
さて…その頃のナデシコ上空。
「スミヤ…どうしても引けないというんだな…。」
「…。(まだ…来ていないんですよね…)」
ガチャ…
「なら、力づくで…行くぞ…。」
「クッ…もうこうなったら仕方ない…!!(自棄)」
…緊迫した空気がその場に流れていく。
譲れない者と譲れないモノ(居ないから)がそこにはある。(爆笑)
…故に、海面を疾走していく人影に彼らが気づく事は無かった。
探しているものは意外と近くにあったというのに…。
その刹那だ…戦場に…閃光が走ったのは…。
…。
そして…ナデシコブリッジ…。
「どうしよう…ジュン君!?」
「戻ってきたばかりで状況が分からないよ!!(泣)」
「コンピューターも壊されて、オペレーターは浚われて…もう駄目なのかなぁ…。」
「メグちゃんもそう思うの?」
「ミスター…。」
「被害額…お見舞金…ぁぁああああああぁぁっ…!!(崩壊)」
…ブリッジには混乱と絶望、諦めと暴走が広がっていた。
クルーには諦めが一番多いだろうか…?
だが…そんな時ほど小気味良いほどに騒がしい奴も居た…!!
『なぁに暗くなってんだよ!?』
「あ、ヤマダさん。…今更どうしました?」
『艦長が諦めてどうする!!…俺は行くぞ!』
「ああ、どうぞ。…でも、今更何を…?」
『このまま攻撃されたら、全員お陀仏だぞ!?…いいのか?』
「「「「「え゛…?」」」」」
…。(謎の硬直)
ぎゃーぎゃーぎゃーぎゃー…
突然騒がしくなるブリッジ。
…どうやら自分の死と言うものを良く考えていなかったらしい…。
覚悟も無いまま人集めて火星まで行かそうとしたナデシコ…。
結構いい度胸しているような気がする。(史実でも)
実際…目的地告げた時点で、降りるクルーが居てもおかしくは無かったのだから…。
尤も、行き先すら知らないで契約書にサインする方にも問題が無いとは言い切れないが。(苦笑)
…。
「ヤマダさん!!(焦)」
『出撃するぞ艦長!』
「はい、ですがナデシコが撃墜されないようにして下さい!!」
『…もう、沈んでないかよ?(汗)』
「…細かいことは良いですから。(汗)…じゃあお任せしまーす!」
『よっしゃー…任せときな!!』
…そうしてヤマダは飛び立つ。
…格納庫のハッチを破壊しつつ…。(笑)
…。
ドゥム…!!
一方その頃…ナデシコの外壁に1メートルほどの大穴があいた。
…アキトが外壁を突き破ったのだ…素手で。(ヲイ)
そして…各部屋を覗き込みつつ通路を歩き出す。
…時間はそうあるまい…と感じたアキトは片っ端から捜索していった…。
「さて…妹達は何処に…?」
「最早ここには居ない。」
突如としてかかる声。
そこには…ごつい男が居た。
「誰だっ!?」
「ネルガルシークレットサービスのゴートを知らないのか。」
「…ゴート?…ゴート・ホーリか!」
「いかにも。…純白の死神ともあろうものが、随分無用心に攻め入ってくるものだな…。」
…その場に緊迫した空気が流れる。
「…ところで…今さっき気になることを言ったな…。」
「何の話だ?」
「もう…ここには居ないとか何とか…。」
「…その通りだ。…貴様の目的はホシノ・ルリだろう?」
…ルリの名前が出たとたんに、アキトの雰囲気が変わる!
目的が知られた以上、もう移動された後である可能性は高い…と判断したのだ。
「くっ…既に移動された後だったか!」
「いや…それもまた違う。」
「では…どういう意味だ!?」
「…木星トカゲに浚われてしまってな。」
ガシィッ!!
アキトはゴートにつかみかかる。
「今…何といった!?」
「ホシノ・ルリとその妹は木星トカゲに浚われていったと…そう言ったのだ。」
「ふざけるなよ…それが何を意味しているのかわかっているのか…!?」
「…私は事実を述べたまでだ。」
ヒートアップするアキトを他所に、ゴートは何処までも冷静そのものだった。
そして…更に小ばかにするように言い放つ。
「其方で探してくれると有難いのだがな。…此方としても余裕は無い。」
「…な!…クソッ…ネルガルはルリ達を見捨てる気なのか!?」
…だだだっ
アキトは即座に走り出した。
これ以上ここに居ても得る物は無いと判断したのだろう。
そして…一人取り残されたゴートがぽつりと言った。
「…全ては神のご意志のままに。」
そして…ゴートは指で逆十字を切る。
…彼の後ろでは、壊れた監視カメラが壷の残骸と共に床に落ちていた…。
…。
…アキトは走っていた。
ただ…先ほどの穴から撤退するわけにも行かない。
…誘拐された場合、見つけ出した時間が早いほど人質の命が助かる可能性が上がる。
今回のように、身代金目的で無い場合は尚の事だ。
「…どうすればいい…どうすれば…。」
その時である。
…天啓の如くアキトの頭に閃いたものがあった。
「…格納庫…エステバリスを奪えば…!」
アキトは考えるより先に、足を動かす。
一分一秒でも惜しい。
時間が無い事は明白であった。
…窓から見える光景…。
ピンクのエステバリスが凄まじい勢いで殴り飛ばされている…。
「…あの機体…どこかで見たような…。」
…だが、そんなことを考えている場合でもない。
少なくとも、かなりの腕前を持つパイロットのようだ。
それが、殆ど抵抗らしい抵抗も出来ずに吹き飛ばされている…。
(敵はとんでもない奴だ。…少なくとも…最早この船は長くない。)
…アキトは走る。
手遅れにならないように…。
…だが…彼は疑問に思うべきであったろう…。
アキトは間違いなく格納庫に向かっていた。
…一直線に。
無論、アキト・ラズリという人物がナデシコの構造を知っている訳が無い。
…だとすると…それは…。
…。
ナデシコ格納庫前…。
アキトはここに立ち往生していた。
…無論、整備員達に見つかると拙いと言う理由もあるが…彼にとってそれは些細なことである。
それよりも問題なのは…。
「なんでオレは…エステを奪おうなんて考えたんだ…?」
そうして自らの両手を眺める。
…その手には…IFSが無い。
火星で生きていくなら必要だったはずだが…彼は幼少の頃に火星を離れている。
その為に、アキト・ラズリはIFSを持っていなかったのだ…。
そう、今までアキト・ラズリは機動兵器相手でも生身で戦っていたのだ。(爆)
「くっ…急がないとルリ達が危ない。…それにこの艦も沈んでしまう…。」
…そこまで言ってはっと気づく。
(ルリ達の事はともかく…なんで俺がこの艦の心配をしている…!?)
…訳の判らない焦燥に突き動かされそうになるのを理性で必死に抑えつつアキトは考える。
"何かに操られているような感覚"が、気に食わなかったのだろう…。
…だからだろうか?
背後から迫る人影に、話し掛けられるまで気づかなかったのは…。
「あの…。」
「な、誰だ!?」
…傭兵として戦場で生きて来たものにとって…背後を取られると言うのは"死"に等しい。
自分の迂闊さに舌打ちしながらアキトが振り返る…。
「貴様…ん?…量産型MC…か。」
「はい、ジルコニア・ラズリと申します。」
…どうやら、機関室からブリッジに戻る最中だったらしい。
彼女はアキトをじっ…と見つめる。
「な…何か用か?(汗)」
「…失礼しますが…もしや貴方はコック兼パイロットのテンカワ・アキト様では?」
「い、いや…その…。(汗)」
「違うのですか?…私のデータと身体的特徴がほぼ一致しているのですが…。」
…彼女の追及は何故か厳しい。
しかし…ネルガルは既にアキトのデータをナデシコに入れていたというのだろうか…?
…取らぬ狸の皮算用となる可能性を考慮に入れていなかったら…と思うとお粗末な限りであるが。
「…。」
「違うのですか。…では貴方は一体何者なのですか?」
…その時、瞬時にアキトは一つの答えを導き出していた。
使えるものは何でも使う…それが生き延びるための鉄則だからだ。
「ああ、確かに…確かに俺がアキトだ。」
「そうでしたか。…でしたら直ぐにでも出撃願います。」
「待ってくれ。」
「はい?」
…アキトはジルコニアを止める。
「実はな…契約を済ませたばかりでまだIFSを付けていないのだ。」
「ああ、成るほど。…では此方へ。」
…アキトは内心ほっとした。
こんな嘘、少し考えれば直ぐに見破れる類のものだ。
…第一…エステバリスを動かすのにはIFSが殆ど不可欠である。
なのに、パイロットが持っていない訳があるまい…!
…。
こつ…こつ…こつ…
「ここです。」
「…ここは?…唯の倉庫にしか見えないが…。」
アキトがジルに連れて来られた場所…。
…そこは、本当に唯の倉庫だった。
「…では、こちらに…。」
「…!」
…ジルコニアが電源の操作スイッチを弄る。
すると、突然壁が開き…奥にある隠し部屋への道が開かれたのだ。
「…驚いたな。」
「何がです…テンカワ様?」
「IFSなんか、別に社外秘でも何でも無い筈だ。…それがこんなに厳重に…。」
「…お気になされずに。…ここは設計図にも載っていない部屋ですし。」
…そして先導されるままに進んだアキトが着いた先…。
そこは小さな格納庫…と、アキトには見えた。
「…ここは…!?」
「何処でも良いでしょう?…では、IFSをお受け取りください。」
バシュ…
打ち込まれるアンプル。
そして…アキトの手には普通とは紋様の違うIFSが浮かび上がった。
「これは…?」
「普通とは違います。…これはオリジナルのブラックサレナから採られたものです。」
「…採られた?」
「はい。…さあ、準備は出来ました。…格納庫には未だ予備のフレームがあった筈です。」
…アキトは言葉に詰まる。
このまま行けば格納庫で一悶着あるのは見えているではないか…。
と言うか、ジルコニアが何だかんだでアキトの質問に全く答えていないのが気になる。(汗)
「参ったな。…格納庫に行くのは…。」
「でしたら、ここから発艦出来ます。」
そうして彼女はとことこと歩いていき、先にある"ある物"からシートを外した。
「…アサルトピットか!?」
「いえ、これは"アサルトフライヤー"。」
…よく見ると、確かに普通のアサルトピットとは違う。
「…何だそれは…?」
「飛行能力と多少の空戦能力をアサルトピットに持たせたものです。」
…見た目はアサルトピットにコウモリのような展開式の翼が付いただけにしか見えない。
「この翼はソーラーセイル兼用です。…武器はバルカン砲が2門。」
「…成るほど、バルカンはヘッドバルカンをそのまま使っているのか…。」
「はい、本来のエステにはヘッドバルカンは付いていませんが…。」
「…まあ、要するにこれで飛べるんだな?」
「はい…ですが本来は脱出装置でしかないため、性能はお世辞にも良いとはいえません。」
「成る程な…所で…。」
…ここでアキトはどうしても聞いておかねば成らなかった事を聞く事にした。
「ルリが…ホシノ・ルリが浚われたと聞いたが?」
「はいマスター。軌道上の敵艦隊旗艦に囚われたようです。」
「そうか…実はルリの…いやホシノ君の救出任務を任されているのだが…時間が無い。」
「はい。」
素晴らしい程の大嘘である。(爆)
「直ぐにでも出る。…ハッチを開いてくれ。」
「…はい。…タゲテスを宜しくお願いします。」
ぴたっ…
聞き覚えの無い単語に、思わずアキトの動きが止まる。
「…タゲテス?…これの名前か。」
「はい、正確に言うとAIの名前です。…タゲテス。…マスターに失礼が無いようにね。」
『YES』
「よし、じゃあ行く。…色々有難う。」
「いえ…妹さん達を連れ戻せると良いですね。」
「…騙すような事になって済まない…。」
そうしてアキトは飛び立っていった…。
…一人残されたジルコニアは小走りにブリッジに向かう。
「誰かを騙しているのは私も同じ事…さて…では動くとしましょうか…。」
が…部屋の出入り口付近で何か思うところがあるのか振り返る…。
そして…誰にと言うわけでもなく呟いた。
「マスター…ご無事で…。」
寂しげな台詞…。
その言葉は…一体何を意味すると言うのだろうか?
…。
…そして…
「ちょっと…訳わかんない所から訳わかんない物が飛び出していったわよ!?」
「あ、ホントだ−。」
「あれって…何?」
当然だがブリッジは更なる混乱に包まれていた。(笑)
だが、正気に戻ることに成功したユリカがそれに通信を試みる。
「メグちゃん…あれのパイロットに通信繋がる?」
「え、あ…はい。通信装置は生きてますから…。」
…ざざー…
「あ、繋がりました。」
「あのー、今戦闘中ですからそんな所に居ると危ないですよ?」
『…。』
「困りますなぁ…勝手に会社の備品を持ち出されては…って死神っ!?(汗)」
…アキトは答えない。
いや…答える訳には行かなかったのだ…。
「…一体誰?…あれ、何処かで会った様な…。」
「ユリカァっ…そんな訳無いだろう!?(滝汗)」
…ジュンよ…哀れな。(泣)
そんな時…ブリッジに入ってくる影が一つ。
…よく陸の孤島と化したこのブリッジに上がってこれたものだが…。
ジルコニア・ラズリ…アンタ一体何者だ…。(汗)
「あ、テンカワ様…無事に発進できたようですね。」
「…はい?」
「ちょっ…ジルちゃん、今何て言ったの!?」
「…ですからテンカワ様がルリさん達の救出に向かうと…。」
「て、テンカワって…あのテンカワですか!?(驚愕)」
「はい。…あ、プロスさんを介せずに契約されたんですか?」
「え…はぁ…私は何も知らされておりませんが…。(汗)」
確かに何も知る訳が無い。(爆)
第一、契約自体が嘘っぱちなのだから当然である。
「まあ、ともかく…テンカワ様にエステを打ち出して差し上げないと…。」
「あ、そうですな…しかし、何時の間に契約を…あ゛。(汗)」
…と、ここまで言って、今の自分に人事任命権が無い事を思い出してしまうプロス。(笑)
今の今まで気付かなかったのは、彼にしては間抜けだったと言わざるを得ない。
そんな訳で…プロスがそのまま石と化してしまったのも頷ける話であろう。
…ご愁傷様です。(爆)
…。
混乱はまだ続いていた。
そんな中、ユリカは脳裏によぎる何かの記憶を必死に手繰り寄せようとしていたが、
危機的な状況は、そんな暇を彼女に与えてはくれなかった。
「…テンカワ…テンカワ?」
「ユリカァっ…ともかくフレームを打ち出してあげないと!!(焦)」
「あ、そうだね。…さっすがジュン君!」
ドゥッ…
…打ち出される空戦フレーム…。
だが、アキトがそれにドッキングしたところで…エステは巨大な腕に掴まれてしまう。
…ガシィッ!!
「なぁっ!?…これは何だ!?」
『データ不明…未確認機のフォルムはブラックサレナに酷似。』
30メーター級の巨大機動兵器…玄武のコクピットでは、草壁秋人が嬉しそうに笑っていた。
それは…一族のルーツとなるものを探し出したと言うよりも、
獲物を見つけた肉食獣のそれに近かったが…。
「見つけたぞ…黒帝!!」
「…クソッ…木星の連中だな!?」
「いかにも。…雛よ。…貴様が木連の救世主となり得るかどうか…確かめさせてもらおう!」
「…何だと?」
不敵な笑みを浮かべて秋人は続ける。
「我が目に叶わぬなら…貴様など黒帝ではない。」
「…何が言いたい!!」
…ふわっ
突然玄武がエステを離した。
アキトは取り合えず距離を取り、戦闘体勢に入る…。
「見せてみろ…黒帝の力を。…木連は力を求めているのだ。」
「…いい加減にしろ。…俺は忙しい。」
「もし無力ならば伝説の皇帝など要らん。…貴様を殺し…」
「…。」
「…俺自身が伝説になる!!」
…ゴォオオオオオッ!!
玄武の目に危険な赤い光が宿り、戦いの鐘が鳴らされようとしていた。
…そして…その時既に戦闘不能となり、
時折火花を散らしながら海上に浮かぶラティフォリウムのコクピットでアオイ・スミヤは忌々しげに呟く…。
「…戦いになど…成るものか。…くっ…ここで黒帝に死なれる訳には…行かないと言うのに…!!」
風雲急を告げる運命の荒波の中、アキトに新たなる試練が降りかかる。
…果たして…アキトはルリ達を救うことが出来るのであろうか…。
続く
::::後書き::::
ようやくアキトが本格復活です。
…しかし、周囲はそれ以上に怪しい雰囲気をかもし出していたりしますが…。
なお、アサルトフライヤーの元ネタは、お察しの通りコ〇・ファイターです。(苦笑)
…こんな駄文ですが、楽しんでいただければ幸いです。
今後とも頑張りますので応援お願いします!
では!
代理人の感想
いやまぁ、ホバー○イルダーでもマッハア○ッカーでもトライ○ー75Sでもなんでもいいですが(笑)。
それよりちょっぴり気になったこと・・・・・・
ゴートさん、もしかして木連式(あるいはもっとイヤなもの(爆))を修得してたりするんでしょうか?
最初から壊れている=ホーリー様の衣鉢を継いでいる可能性が高い、なので。