機動戦艦ナデシコ アナザーストーリー
世紀を超えて
第94話 迫り来る《侵略者》
接近する巨大な影…。
それは、あたかも淵に潜む蛇のようにナデシコに迫る…。
…ギシッ
…ナデシコ、カグヤ両艦の船体が軋んだ。だが、それに気付いた物は誰も居ない…。
だが、それは確実に迫っていた危機…。
「…だーれもアタシと《青龍》に気付いてないみたいね。…そろそろ…行こうかな?」
…玄武、白虎、朱雀…。
そして、四聖獣最後の一機が遂にその姿を現そうとしていたのだ…。
…。
「…あれ…?」
「…どうかしましたか、オモイカネ?」
…ナデシコのブリッジ。
今もルリの膝の上でラーメンをすするオモイカネが、突然顔をあげてきた。
…そして、キョロキョロと周囲を見回し始める。
「…船体のダメージレベルが上昇してる…。」
「そりゃ、あれだけ損傷受けてるんですし…。」
「違う、上昇し続けてるんだ…。」
「壊れ続けてるんですか…?」
…めきっ
『そっちもですか…カグヤの船体もおかしいんですよ…。』
「…あ、ヒスイ?…そちらもですか。」
『ええ…なにか…縄のような物で縛られていると言うか…。』
「…確かに、さっきから妙な音が響いてますね…。」
…べきっ…。
「…あからさまに壁が軋んでますねぇ…。(汗)」
『家もです…しかも、周囲の空間に熱源反応が…ステルスかも。』
…バン!!
「へー、青龍のステルスシールドを察知できるんだ?…凄い凄い。」
…。
「…ど、どちら様で…?」
…突然、ブリッジ前に現れた巨大な龍の顔。
エステを丸呑みに出来るくらいもあるその大きな顔には、
コンテナ状の胴体が連ダコのように連なっている。
…どうやら、ステルスを解除したらしい…。
中国の「龍」のようなその機体は真っ青にペイントされ、
数kmもの体長を使い、ナデシコ・カグヤ両艦をぐるぐる巻きにしている…。
…因みに、全体像が判らないならVガ〇ダムのドッ〇ーラを想像して頂きたい…。
…。
…静まり返るブリッジ。
どう贔屓目に見ても、艦を丸ごと締め付けてくるような奴が味方な訳が無い。
「草壁夏樹か…何をしに来た?」
…ゆっくりとアキトが立ち上がる。
「や、元気だった?…アタシの事覚えててくれたんだ?」
「さっき…会ったばかりだろう?」
「…くすくす…そうだったね。…でさ、お願いがあるんだけど…。」
「…何だ…。」
「…アタシのアキト出してくれない?」
「…は?」
…その時…時が止まったかのような沈黙が周囲を包んだ。
「…アキトならここにいるが…?(汗)」
「判ってるわよ。…アタシが言ってるのはアタシのアキトを出してくれって事よ!」
…ますます訳がわからない。
「…いや、君のってな…違いがわからん。」
「まあ、判らないか…じゃあいいや、とりあえず鉄砲をこめかみに当てて引き金引いてくれる?」
「…死ねと言うのか?(汗)」
「嫌だなぁ…そんなこと言う訳無いって…ただ…貴方の意識が邪魔なだけよ。」
…ぬっ
突然プロスが割って入った。
「…ほぉ…彼が意識を失うと黒帝が現れるので?」
「そう言う訳ではないんだけどね…でも、危機が迫ったら流石に出てくると思ってさ…。」
「…俺自身の意思はどうなる。」
「何言ってんの…貴方なんか所詮はアキトの…黒帝の器じゃない。」
…その台詞には容赦が無い。
そして…アキトは気付いた…。
「さっさと体を譲れと言うのか…成る程な、先日からの精神混濁は奴の仕業か!」
「そ、だからさっさと消えてよ。」
…ガタム!
アキトが椅子から勢い良く立ち上がる!
…膝の上にいたルリとオモイカネが地面にダイブしたがそれは些細な事だ。(爆)
「…冗談じゃない!…俺の体は俺のものだ!!」
「…貴方のワガママで勝手な事を言わないで。…世界を救うためなのよ!」
「…何が世界だ!!…それこそ貴様のワガママだろう!?」
そこにまた、ぬっと顔を出すプロス。
「まあまあテンカワさん。…この際言う事を聞いて差し上げては如何ですかな?」
「プロスペクター…キサマァッ!!」
…企業論理ここに極まれり。
「そもそも、一つの体に二つの意識があること自体危ないの。…このままじゃ共倒れよ。」
「知った事か!!」
「…ふーん。…でも、これを見たら考えが変るかもね…。」
…ずいっ
ブリッジの前に、何かが吊り下げられる…。
「…アキトォッ!…すまねぇ、捕まっちまったー!!」
「…僕とした事が…不覚だ…。」
…それは、ワイヤーでグルグル巻きにされた盟友二人。
「ガイ!…カイト!?…貴様、人質とは…賢いな。(爆)」
「…卑怯とか…そう言う台詞は無しですか!?」
…ルリの突っ込みはアキトに届いただろうか?
だが、戦場に生きる物にとって「卑怯」とは褒め言葉に他ならないのだ…。
「さて…お友達を見捨てられる?」
「…くっ…貴様ぁ…二人を殺してみろ…絶対に許さんぞ…。」
「…許さないって…どうやって?」
「…二人とも…カタキは必ずとる!!」
…。(寒い沈黙)
「…助けてくれないのかよ!?(驚)」
「…いや、ガイ…あの人はそう言う人だよ…。(泣)」
既に死亡確定と判断されている二人。
…何気に哀愁に浸る所がいい感じだ…。
「…ふうん。…じゃあこれはどう?」
…ガバッ
青龍のコンテナ状の胴体が次々と開き、中からバッタやジョロが飛び出してきた。
「…機動兵器の母艦能力も有しているのか!?」
「…コンテナ自体は多目的サイロよ。…まあ、部品を作るための小型プラントも運んでるから、母艦と言うより前線基地的な役割も果たせるけどね。」
…そのコンテナ型胴体一つ一つがエステ一機を丸ごと運べるほどに巨大な代物だ…。
その戦闘能力は決して侮れる物ではない…。
「…さて、無人兵器諸君?…艦内を内部から破壊してあげてね。」
「…させるかっ!?」
アキトは格納庫(半壊)に向かって走り出す!
…だが、時既に遅く…一部のブロックが破壊され始める!
…投げ出されるムネタケ一行!(縛られ)
そう言えばまだ艦内にいたんだっけ…。
「…たぁーすけーてー…。」
…部下が次々と消し炭になる中、何故か自分だけ生き残るムネタケ。
何故かキノコの焦げる香ばしい匂いを振りまきつつ、彼は地球に落ちていく…。
「ふっ…ムネタケのナデシコ脱出…予定とは違うが何とかクリアですね…あっ。(汗)」
…何処かで誰かがそんな事を呟いたが、今の所それは関係無かった。
…。
…そして…アキトはサレナを駆り、宇宙空間に飛び立つ!
「凄いな…一体全長何キロメートルあるんだ…。」
「…胴体を継ぎ足せば幾らでも。…所詮コンテナを連結しただけの物だし。」
…周囲は青龍の胴体で埋め尽くされていた。
…既に足の踏み場も無い。
「…ほぉ…壊れても繋ぎ直しが利くというわけか…?」
「そうだね。」
…だが、アキトはこれまでの会話から、青龍の弱点をはじき出していた。
そして、スラスターをふかして一気にブリッジ前…龍の頭に向かう…。
「…だが…頭部だけは代えが効くまい?…いや、むしろ…。」
「ご名答。…青龍の本体はこの頭部だよ…。」
…もっとも、その頭部だけでサレナよりも二周りほども大きい。
「…消えてもらうぞ…!」
バシュバシュバシュバシュ…!!
アキトはハンドカノンをサレナに装備させ、頭部中央に向かって乱射する!!
…カキン、カキンカキン!!
「…マジか…。」
「当然でしょ?…一番重要な部分の装甲が厚いのって。」
…ガバッ
龍の口が僅かに開く。
「…じゃ、反撃ね!」
「…くっ!?」
…バシュ!!
僅かに開いた龍の口から、グラビティブラストが発射される!
威力はかなり抑え目だが…それでも脅威な事には変わりない。
「…フィールド全開っ!!」
…両腕でガードするものの、サレナのボディそのものが後ろにもっていかれる…!
だが…放射の終わったあとも、サレナはほぼそのままの姿でそこにあった…。
「…へぇ…やるね。」
「…そう簡単にくたばってたまるか!!」
「…じゃあ…これあげる。…えい、跳躍砲!」
「…え?」
…コトッ
アキトの頭の上から何かが降ってきた。
手にとるとそれは…、
「パイナップルだよ、召し上がれ。」
「…あぁ…確かに…確かにパイナップルだ…!!」
…ボムッ!!
アキトの言葉が終わるか終わらないかのタイミングで、アキトの手の物体…。
そう、パイナップル(手榴弾)が大爆発を起こした!
「…凄いでしょ?…バッタくらいなら一撃で破壊する特別製なんだ。」
…アキトは薄れ行く意識の中で…そんな言葉を最後に聞いていた…。
…。
「あ、アキトさんが…!」
「うそ…アキト…!?」
…ナデシコブリッジは騒然としていた。
いきなりサレナのコクピットが爆発したのだ…無理も無い。
「…アキトさん!…アキトさーーーん!?」
…狂乱して叫ぶルリ。
…そして…ルリの必死の願いが届いたのか…通信機から声が入ってきた。
「…ああ、大丈夫だよルリちゃん…。」
「アキトさん!…ご無事だったんですね!!」
「…アキト!?…流石は私の王子様だね!!」
「…相変わらずだな、ユリカは…。」
「アキ君?…もう、心配させないで下さい!」
「メグミちゃん?…ごめん、心配かけた…。」
…それぞれの表現で喜びをあらわす女性陣…。
だが。
「いや−、流石ですな…あれだけの爆発、よく耐えられましたね…ハイ。」
「プロスさん、俺は結構丈夫なんですよ…。」
…プロスほどになると話は違ってくる。
(…プロス「さん」?…おかしいですね…何かが違う…。)
…彼は、アキトに起きた異変を確実にキャッチしていた…。
…。
「…さて…ようやく目を覚ましてくれたみたいね?」
「…ああ、あのままでは死んでしまうからな…フィールドを肉体に張ってやった…。」
…サレナはその途端、突然外部との通信を遮断される!
無論、青龍の仕業だ。
「…これで二人きりで話せるね。」
「…通信用ワイヤーか…準備がいいことだ夏樹…いや…恐らくは…!」
…既に、アキト・ラズリの黄金の双眸は片方黒く染まっている。
…そう。今ここに居るのは「黒帝」テンカワ・アキトなのである…。
「…ご名答、アタシはナツメ。…気付いてくれたんだ、嬉しいよ…。」
「…やはりな。」
…懐かしそうに、夏樹…いやナツメは目に涙をためる…。
だが、アキトは厳しい表情を崩さなかった。
「…どうして…お前がこの時代にいる!?」
「…アタシの記憶をこの子に移植したの。…元々その為だけに作った子だしね。」
…彼女も『予言』を信じ、アキトとの再会のための準備をしていたのだろうか…?
だが、その為にした事だとしても…とても許される事ではあるまい…。
「…で…「夏樹」の記憶はどうしたんだ!?」
「…消したわ。…ううん、とりかえっこした…のほうが正確かな。」
…ぞくっ
アキトの背筋に悪寒が走る…。
「…どうやって…いや、何をだ!?」
「聞かない方がいいよ。」
…。
痛々しい沈黙…。
それが非人道的な事であろうことは想像に難くない…。
アキトにはそれ以上聞くことなど出来なかった。
何故なら、ナツメがそこまでやったのには、間違いなく自分の存在が絡んでいるのだから…。
…。
そんな沈黙を破ったのは…やはりナツメの方だった。
「…さてと、じゃあ本題に入ろうか…?」
「…本題?…悪いが今、木連に行くわけにはいかない…。」
「あはは、そんな事じゃあないよアキト。」
「…じゃあ、何だ…?」
「…その体から、『アキト・ラズリ』の人格を消して。」
…その瞬間、アキトの体が強張る。
「…そんな事は出来ない!…消えるのはむしろ俺のほうだ!!」
「…何で?」
「…俺はもう過去の人間だ。…今ここにしがみ付いているのも自分の過ちを清算する為。」
「…アタシの事は良いの?…アムちゃんは?…せっかく助けた木連…いいえ、独立派の皆は?」
「…だからと言って、ナデシコの皆も見捨てるわけには行かないんだ!」
「…じゃあ、その双方が直接戦う事になったらどうするの?」
…ナツメの質問は容赦が無い。
…そう…今現在の混迷した状況は、間違いなく彼の作り出した物なのだ…。
「…その為に、和平を行わせる…ま、何とかなるさ。…少なくとも一緒に生きていくのは可能だ。」
…かつて…「黒い王子様」だった頃の事を思い出してアキトは言う。
…少なくともあの当時、問題は山積みでも一応の秩序はあったからだ…。
だが、それでナツメが納得できるわけが無い。
「…でも、それって結局…『地球側による木星の併合』だったんじゃない?」
「…。」
「…そして…不平分子は『火星の後継者』を名乗った…んだよね、確か。」
「…くっ…。」
「…本当に対等な条件じゃないと、和平とは名ばかりの物になっちゃうよ?」
「…じゃあ、どうしろと言うんだ!?」
…感情を爆発させてアキトが言う!
かつてのトラウマを抉られて、彼も冷静ではいられなくなっていた…!
「…簡単よ、アキトが全てを支配すればいい…。」
「…な、何ッ!?」
…ナツメは微笑みと邪笑の中間のような表情でそんな事を言った…。
…。
「…おれが…全てを支配?…冗談じゃない!…俺は奴らと同じにはなりたくないんだ!!」
「…そう?…黒帝としての名声、強大な戦闘能力…それに、今の木星は私達の子孫が事実上支配してるから、簡単に従ってくれるよ?」
「…『出来る事』と『やりたい事』は違う!!」
「…そうだね、でも、『出来る事』と『やらなければならない事』も違うよね?」
「…やらなければ…ならない…?」
「そ、いまのままだと…この太陽系自体が危ないんだ…。」
「…た、太陽系自体…だと!?」
「そうだよ…アキトは知らないだろうけど…。」
そして、ナツメは静かに語りだす…。
…だがそれは、余りにも荒唐無稽な話だった。
…。
「…い、異世界からの侵略者…だって!?」
「そう、彼らは『大和』と名乗り、いきなり戦いを仕掛けてきたんだ…。」
…。
…話は現代編開始より数年前まで遡る…。
…。
そう…その日まで、木星は平和であった。
史実の事は知っていたが、木星の民の大半はそれを御伽噺としてしか見ておらず、
また、地球に戦争を仕掛けるつもりも全くなかった。
…100年前の変化により、木星には資源も人材も遥かに多く存在していた。
正直、今更地球をどうこうする必要は無かったのである…。
だが、それは唐突だった。
「私は、『大和』よりの使者、月読(ツクヨミ)。
…地球圏の民達よ、直ちにこの地球圏から去るのです。
…そうして新しい太陽を探し出せれば、生きていく事は出来ます。
ですが、もし出来ないというのであれば…滅んでもらいましょう…。」
…だれも本気にはしなかった。
だが…猶予とされた3時間を置いた後…、
…カタストロフが始まった。
…。
全ては一瞬だった。
木星中央部に何時の間にやら設置されていた一枚の巨大モノリス…。
それから湧き出すかのように無人兵器たちが飛び立つ…。
…。
一基…二基…。
木星に近いほうから順に破壊されていくコロニー…。
事態の重大性を悟った木連上層部は、遅ればせながら機動兵器を出撃させた。
…全く同じ姿のバッタやジョロ達…。
だが…彼我の機体性能は歴然としていた。
次々と落ちるのは木連側のものばかりで、大和の部隊には損害を与えられない…。
『もう、駄目なのか?』
木連の民達に諦めの表情が浮かぶのに3日間と掛からなかった。
…既に、連絡網すらずたずたにされ迎撃どころか非難すらままならない…。
だが…その時救世主が降り立つ。
黒・白・赤・青に彩られた、伝説上の獣の名を持つ4機の機動兵器…。
かつて、稀代の天才・山崎孝文が木連防衛のために作り上げた機動兵器『四聖獣』である…。
…。
…それから先の木連の反撃は凄まじかった。
玄武が最前線で全方位攻撃を繰り返す間、
白虎がその運動性を生かして無人兵器を次々と叩き落す…!
朱雀の超遠距離からの支援砲撃で相手を抑えている間に、
青龍が自らも攻撃を加えつつ自軍への補給作業を行う…!
…圧倒的な4機を中心とした木連軍は、ジワジワと敵を追い返していく。
…その味方の奮闘に応えるかのように、一般兵達も敵を落とし始めたから不思議だ。
それまでは気合負けしていたのかも知れない。…まあ、推測の域を出ない話だが…。
…。
…一枚、また一枚とモノリスを破壊していく。
破壊されたモノリスからはもう敵が出てこない事を学んだ木連の勇士達は、
最後に残った木星中央の巨大モノリスを最終目的に進撃していく…。
…だが、ここで思いもよらぬ不運に見舞われる。
…朱雀がコクピットに被弾したのだ。
それは流れ弾が運悪く当たった…それだけのことだった。
だが、当時のパイロットは運悪く死亡…朱雀の行動はAIに委ねられる事となる…。
だが、パイロットを失った朱雀はAIに刻み込まれた本能により、
敵の撃破よりも攻撃を受けているコロニーの防衛を最優先として後方に下がっていく…。
…四聖獣たちは、ハッキング対策として外部からの命令を受け付けないように出来ていた…。
故に、パイロットとして認められた者以外は彼らの行動を止める事など出来ない…。
…。
結局、後一歩というところでモノリス撃破は不調に終わった。
…一機を欠いた四聖獣達は、負けはしなかったが多くの敵を取り逃がし、
それはコロニーを破壊していく…。
…例え敵を倒しても、帰る場所を失っては意味が無い…。
彼らがそう判断したのも頷ける話だった。
…。
…そして、その後に開かれた政府からの記者会見上…事件がおきる。
「…皆、俺は『玄武』の草壁秋人だ。
…今日より木連軍総指令を勤めさせてもらう!」
…ザワザワザワ…。
周囲はざわめいた。…それは当時の権力者達からの簒奪…クーデターに他ならない。
「…俺は『黒帝』の子孫として皆に誓おう。…必ずこの場を潜り抜けると!!」
…わぁーっ
「黒帝」の名に、周囲から歓声が上がる。
…それは御伽噺の英雄の名前。
だが…伝説によると『彼』は再び現れるという…。
この日、後数年耐えれば『黒帝』が現れて助けてくれる…という希望的観測が広がった。
そして…それこそが秋人の狙い。
(人々が希望を失っては…勝てる物も勝てなくなる!)
…彼自身は伝説など信じてはいない。
だが、利用できる物は全て利用する心積もりであった。
そして、彼は地球攻撃のプランを練る。
…既に、先日よりの攻撃で木星プラントはいずれ破棄せねばならない状況に追い込まれていた。
…このまま和平…では、木星の人間は地球の奴隷とされてしまうだろう…。
「ならば…力を認めさせるのみ!…両面作戦は辛いが…やるしかない!!」
…そんな事が、西暦2190年前後に起こっていたのである…。
…そしてこれが…今回の蜥蜴戦争の真実であった…。
…。
…再び舞台は現在に戻る。
…ナデシコ・カグヤに絡みついたままの青龍、そしてそれにアキトのサレナが対峙している…。
「…そ、そんな事を俺に聞かせてどうするつもりだ!?」
「…もう、迷ってる場合じゃないの。…アタシだって、こんな事が無ければ人格移植用の体として子供を1人、文字通りに『作ろう』なんて考えないよ…。」
…どうやら、望む望まぬに関わらず、アキトは救世主に仕立て上げられてしまったらしい。
…こんな無茶な話、アキト・ラズリ自身の人格が聞いたらどう思うだろうか…?
「…待ってくれ…だが、いきなりそんなこと言われても…。」
「…そう、判った。…でもね、もう木星に継戦能力は殆ど残ってないわ。…覚えておいて。」
…何気に脅迫である。(爆)
自分の子孫が滅んでも良いのか…というのはかなり酷い話だ…。
「…それと…最後に看取らせたりしてゴメンね。」
「…は?」
…そう言うと、ナツメは倒れ…通信画面から消えた…。
そして、爆発音…。
…その後、通信画面にはノイズだけが残った…。
…。
「…おい、どういう事だナツメ!?」
『無理ですマスター…彼女の寿命はもう尽きている…。』
…音沙汰の突然無くなったナツメの代わりに、プラスが通信を入れてきた。
「…寿命って…ナツメは人格移植してるから若返ってるんじゃ…!?」
『…いいえ、彼女は人格障害を恐れ、脳移植という方法で人格を移植しています。』
…ネタとしては最低だ。(爆)
「…じゃあ、まさか…。」
『はい、マスター。…脳部分の寿命が尽きて脳死。…そして、隠していた時限爆弾で…。』
…こう言う時、AIであるプラスは容赦が無い。
アキトは正直、これ以上聞きたくなかった…。
「…自爆したのは…機密保持のためか…?」
『多分。…でも、本当は他人に体を弄られたくなかったんでしょう。…女性ですし。』
…沈黙が周囲を包む。
そして…。
…ガクッ
アキトは深く頭をたれた。
彼の意識は深層心理の奥に引っ込んでいったのだ…。
『耐えられなかったのですね。…ですがそれでは小マスターに頼っているだけでは…。』
…プラスの質問に、『黒帝』が応える事は無かった…。
…。
その頃、木連の軍病院…。
ここに1人の急患が運び込まれていた。
「…おい、美春!?…大丈夫かっ!?」
「…あ、秋人閣下?…ふふふ、朱雀は丈夫ですけど私はそうじゃなかったみたいですね…。」
…美春の腹からは、かなりの出血が見られた。
…ヤマダ達の攻撃は彼女自身にも大きなダメージを与えていたのだ…。
結論:彼女はそれほど人外ではなかった!!(ヲイ)
…。
ごほっ…ごほっ…
咳き込むたびに口から吐血する美春。
…もう、長く無い事は誰の目にも明らかだった…。
「…もういい、ご苦労だった。無理はしなくて良い…何か言い残す事は無いか、美春。」
「…そうですね、ならば一言だけ…。」
「うん…なんだ…。」
「…お先に…失礼致し…ま…す…。」
…彼女はこの期に及んでも
モクレンミブヤモドキだった。(爆)
死に台詞も真似れて満足だったのだろう…。
彼女は安らかな顔で…永久の眠りに付いた…。
…。
…その日の夜、ナデシコ…プロスの部屋。
「…という訳です、会長。」
『ふーん。じゃあ《黒帝》は彼の深層心理の奥にいるわけか。』
…プロスはアカツキに定期報告を入れている。
「はい、しかも…彼より格段に扱いやすそうな印象を受けましたね。」
『そうかい…じゃあ早く、覚醒してもらった方がよさそうだね?』
「…では?」
『…そう言う事。…方法は任せるよ。』
…ぷつん
通信が終わる。
「さて、次の目的地はサツキミドリ2ですか。…まあ、時が来るまでは静観ですな…。」
…そう言ってプロスが背伸びをしたとき…、
「…ガイいいいいいい一っ!?」
…アキトの悲鳴が響き渡った…。
もしかしたらそれは…歴史の修正力の最後の抵抗だったのかも知れない…。
続く
::::後書き::::
どうも、BA−2です。
…さて、このままでは何時までたっても終わらないので少しペースをあげる事にしました。
…次はサツキミドリ?…それとも漂流中のサフィーですか…?
未だ決めてませんけど、そろそろ話を急加速させるつもりです。(出来るのか?)
…こんな駄文ですけど、応援していただけると嬉しいです。
頑張りますんでどうか今後とも宜しくお願いします。
では!
代理人の感想
うわ〜、なんかバタバタと(汗)。
しかし、次々倒れてゆくキャラ達もさる事ながら
氷の下に消えた白虎と言い、いきなりパイロットが死んだ朱雀・青龍といい、
四聖獣てひょっとしてワンポイントリリーフ(核爆)?
ところで、生身で大気圏突入しても生きてるらしいムネタケ、ぢつは黒帝の子孫だったりして(爆)