ネルガル・ユートピアコロニー研究所 −所長室−
「いやー帰国そうそうお呼びたてして申し訳ないですね・・・・・・
まあ、無事なお着きでなによりです。」
金縁のメガネに口の上に小さくたくわえたヒゲ、クリーム色のシャツに赤いベストといった身なりの男が、机ごしに立つユリカに話し掛ける。
「私はここの所長のプロスペクターといいます。
遺跡の文字解読よろしくおねがいします。」
「こちらこそ、よろしくおねがいします。
・・・あの〜、失礼ですけど”プロスペクター”って本名ですか?」
「いやいや、ペンネームみたいなものでして。
それから私のことは『プロス』とお呼びください。」
「はあ、わかりました。・・・
ところで、頼んでおいた件なんですけど・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・ああ・・・例の・・・・・・・・
・・・・・・・・『テンカワ・アキト』さんの調査の件ですね。
・・・実は大変申し上げ難いのですが・・・・・・現在、行方不明となっておりまして・・・・・」
「・・・行方・・・不明?・・・・・」
「申し訳ありません。我々もあらゆる手をつくしたのですが、なにぶん時間がなくて調べきれませんでした。
これは今までの調査報告書です・・・・・・」
報告書に黙って目を通すユリカ・・・読み進めるにつれ落胆の色が濃くなる。
「・・・・・・そうですね。確かに・・・あまりに急でしたものね・・・・・・
いろいろ無理をいってしまってスミマセンでした。
私・・・さっそく仕事の用意をしてきます・・・・・・」
肩を落として所長室を出て行くユリカ。
プロスはそんなユリカを見送った後、視線を横にずらした。
その視線の先では、ユリカを出迎えた青年が会話の一部始終を聞いていた。
「・・・・・・・これでよろしいのですか?・・・テンカワさん・・・」
「ええ、しょうがないですよ。
もし俺が『テンカワ・アキト』だと知ったら、アイツは・・・・・
絶対、仕事をすっぽかして俺を追い掛け回すでしょうからねっ!!!」
「そ、そうですか・・・(汗)」
「ええ、それに8年前までの悪夢は二度とごめんですから!!」
「・・・わかりました、あなたがテンカワ・アキトだという事は黙っておきましょう。
ところで、以前ここの地下で発見された遺跡を覚えていますか?」
「・・・直径2m程の球体の奴ですか?
確か地球の研究所に送った筈ですが?」
「そう、それです。・・・ネルガル・インド研究所に送ったその遺跡です。
実はその遺跡が暴走して、インド研究所の職員が全滅したそうです・・・」
「全滅!?・・・いったい何があったんです?」
「なんでも、電気抵抗値の計測中に突然外殻が破れて中から・・・
ビームキャノン砲をつけた二足歩行型ロボット が出てきたそうです。」
「じゃあ、全員そのビームで・・・・・・」
「いいえ、死因は全員 窒息死 です。」
「・・・・・・・へ?」
「正確に言いますと
ビームキャノン砲を 股間 につけた二足歩行型ロボット が
ビームを打とうと エネルギーチャージ を行いましたが ビーム発射 の直前、煙を吐いて停止したそうです。
しかし運が悪い事に、 その映像が研究所内の全施設に放送されていた 為に、
全職員が、 笑い死に したそうです・・・」
「・・・あの〜、言ってる事がよくわからないんですけど・・・」
「そうでしょうね・・・私も最初はわかりませんでした。
しかし、この写真を見れば納得です!!
ちなみに、一部始終を映した映像は 二次災害 を避ける為 閲覧禁止 となりました。
また、この遺跡は200年前に某大国が製作したロボットに酷似している事から 『先行者』 と命名されました。」
「・・・・・・・!!・・・・・・・・・」
アキトはその写真を見て納得すると同時に遺跡の恐ろしさを再認識した・・・・・・
・・・・・おそるべし!! 『先行者』!!
- G u a r d i a n -
第二話「重力蛇の章 中編」
ネルガル・ユートピアコロニー研究所 −会議室−
20人程が座れるU字型のテーブルに、向かい合う様にプロスとユリカが座っている。
アキトは非常時に対応するために、席に着かずに近くの柱に寄り掛かっていた。
「さて、まずはこちらをご覧ください。」
プロスの話し始めると同時にコミュニケの画面が現れる。
そこには何か社のような形をした遺跡が映されている。
「ネルガル考古学研究所が秘密裏に発見したものです・・・
場所はユートピアコロニーの北東約200km、地下100mの地点にある大空洞の中・・・
古代火星文明の遺跡と思われます・・・・・・・・・」
「・・・古代火星文明?」
「一般には知られてはいませんが、火星には古代文明の痕跡がいくつかありまして・・・
その痕跡の一つを独自に調査した我々は、地下の大空洞内でこの遺跡を発見したのです!!」
ピッ
コミュニケの画面が遺跡を図化したものに切り替わる。
「これが遺跡を図化したものです・・・・・・・・・・
壁の表面に新種の神代文字が刻まれているのですが・・・・・・
ミスマル教授にはこれを解読していただきたいのです。」
「・・・・・・・・・・・・・わかりました。
私の持ってきた資料との共通性をみて、パターンをつかんでみます。
・・・あれ?」
何気なく視線を壁側に移すと、いつのまにかアキト(アキトだと認識はしていない)が居なくなっているのに気づく。
「どうかなさいましたか?」
「いえ、なんでもないです。(へんねえ、さっきまでいたのに・・・)
ところでプロスさん。さっそくディスクをコンピューターにかけたいのですが。」
「ああ・・・それでしたら5階の部屋をお使い下さい。」
「わかりました。それでは失礼します。」
そう言うとユリカは会議室を後にした。
ネルガル・ユートピアコロニー研究所 −エレベーター−
「それにしてもわからないな〜。
どんなにすごい代物かと思えば、私にはただの遺跡にしかみえないけど・・・
確かに火星に文明があった事には驚いたけど、なんでこんな文化遺跡をネルガルが欲しがるのかな?
でもこんな不可思議な文字は初めてみるな・・・。こんなの本当に訳せるのかな!?・・・・・」
チン!という軽やかな音が5階についた事を知らせる。
「まっ、考えててもしょーがないか。
解析パターンさえつかめれば何とかなるだろうし・・・やるだけやってみよう!!」
ユリカが顔を上げるの同時に扉が開く。
そして・・・・・・ 驚愕の声が辺りに響いた・・・・・
ネルガル・ユートピアコロニー研究所 −5階エレベーターホール−
「あ、ジュン君!!・・・・・・・・・何でこんな所にいるの?」
「何でって・・・・・僕はユリカの助手じゃないか!!
それに僕もネルガルに呼ばれていたのに・・・・・。ユリカが先に行ってしまったんじゃないか。」
「あ〜だから火星行きのチケットが二枚あったのか!!
うんっ! これで謎がようやく解けた!めでたしめでたし。ぶいっ!!」
「ぶいっ!!じゃないよ・・・・・ ユリカ〜〜〜(涙)」
この情けない男の名は『アオイ・ジュン』・・・
ユリカと同じ大学で助手をしているのだが、「目立たない」 「活躍できない」 「報われない」の三拍子揃っているのが災いして周囲からの評価はそれ程高くない。
今回もユリカと一緒に火星に招かれたのだが、招いた本人(プロスペクター)にも忘れられている不幸な男である。
「けど、ジュン君が来てくれて、とっても心強いな〜〜〜(はあと)」
「えっ!! 本当!?」
ユリカの一言に途端に笑顔になるジュン。
しかし・・・・・・・
「うんっ!やっぱりジュン君はユリカの最高のお友達だねっ(はあと)
よ〜し、解読を始めよう! ジュン君、手伝だって!!」
「ユリカ〜〜〜(涙)」
やはりジュンは不幸だった・・・・・
ネルガル・ユートピアコロニー研究所 −駐車場−
ジュンが不幸の一番星として輝いている頃・・・
アキトは招かれざる客と対峙していた。
闇の中に怪しくひかる6対12個のナイトスコープの光。
徐々にその光が近づいてくる。
そして闇の中から姿を現したのは、武骨な重装甲に身を包みサイレンサー付のサブマシンガンを持った6体の装甲歩兵だった。
「こんな大人数で御越しとは・・・・・こっちもサービスしなくちゃいけないな。
そうでしょう・・・連合軍装甲歩兵の皆さん!!」
アキトの言葉が合図になったかの様に一斉に銃を構える装甲歩兵達。
しかしアキトは怯みもせずにゆっくりと彼らに近づいて行く。
「さーて、ネルガル研究所開発部ご自慢、A・N・S(アーマード・ナノマシン・スーツ)を披露しようか。」
アキトのジャケットの中からメキメキと何かが軋む様な音がする。
「こいつは特殊合金オリハルコンとナノマシンの組み合わせでできた、最新テクノロジーの結晶・・・・・」
内部からの圧力に屈しジャケットの所々が破れ、その中に鈍いメタリックな光沢が見え隠れしている。
「あらゆる銃弾をはねかえし、普段の30倍以上の力を引き出すことが出来る史上最強の戦闘服だ。」
ジャケットが限界まで膨れ上がったその次の瞬間!!
「おまえらの服とのちがいをみせてやる!!」
アキトが叫ぶのと同時にジャケットが弾け飛ぶ!!
そして中から漆黒の戦闘服が現れた。
襲撃者たちの装甲の様な武骨さは無く、生物的な・・・言うなれば虎や豹などの野生動物の力強い美しさを持つ戦闘服。
それを纏うアキトの雰囲気との相乗効果で圧倒的な力を襲撃者に感じさせた。
アキトの放つプレッシャーに、金縛りにあったかのように兵士たちは動かなかったが、アキトが一歩踏み出すと皆一斉に銃を構え直した。
そして戦いが始まった。
両腕で頭部をガードしつつ兵士たちの中に飛び込んで行く。全身に着弾するが甲高い音と火花が生じるだけで、アキトはダメージをうけない。
一番前にいた兵士の側頭部にハイキックを叩き込む。
そのまま一瞬の停滞も無く次の兵士の懐に入り込むと鳩尾を拳で突き上げ、他の兵士がいる方に吹き飛ばす。
吹き飛ばされた兵士に意識を向けた隙をつき三人目に肘打ちを決め、そのまま後の壁際にいた四人目に向けて走り、三人目の体ごと壁に叩きつけた。
「まだやるか?」
残った二人の兵士の方に振り返りながら問い掛ける。
「この件からは手を引くか、それとも・・・・・
火星駐留軍ごとぶっとばされたいか?」
わずか十数秒で四人も倒され、すでに戦意を無くしていた二人は即座に銃を地面に投げ捨て投降した。
アキトが武装解除したのを確認する為二人に近づいた瞬間、突然突風が吹き荒れた。
いきなりの突風に眼を閉じ、そして再び眼を開いたアキトが最初に見たものは、
八つ裂きにされ全身から血を噴き出している二人の兵士と、その後で歪な笑みを浮かべる一人の男の姿だった。
「若いのになかなかの腕前だな・・・・・テンカワ・アキト。」
「ずいぶんと趣味の悪い登場の仕方だな。
宇宙港でも血なまぐさい気配を感じたが・・・・・あれもお前だな?」
「俺はクリムゾン諜報部のカタオカ・テツヤ。
そこに転がっているのは挨拶代わりだと思ってくれ。」
八つ裂きの死体を指差しながら、笑みを浮かべる。
アキトはテツヤを無言のまま睨み付ける。
「・・・・・お気に召さないようだな。
しかし、“グラビィティ・デバイス”から手を引かなければ、お前があの姿になるのだがな・・・・・。」
「グラビィティ・デバイス?」
「お前らが今調べている遺跡の事だ。」
「なぜそれを知っている!!」
「クリムゾンが調査した遺跡に重力制御に関する記述があってな・・・・・
それによると、重力を操る事により都市を宙に浮かせたり、落下してくる隕石から都市を守ったりしていたそうだ・・・・・
これを兵器に転用できれば、既存の兵器は全て無効になるはずだ。」
「・・・・・それを聞いたら益々手を引けなくなったな。」
「そうか・・・・・では自分の判断を悔やみながら・・・死ね!!」
パチン!
テツヤが指を鳴らすと、風がアキトに襲い掛かった。
両腕で頭部をガードし風の刃を防ぐ。
アキトの周囲の地面に幾筋もの傷が刻まれ、背後にあった街灯が切断される。
「かまいたちか!!」
「カタオカ家に伝わる“風獣”だ・・・・・
切れ味は・・・・・自分で確かめてくれ。」
パチン!
再び“風獣”がアキトに襲い掛かる。
アキトは精神を右の掌に集中させると“風獣”にその拳を叩きつけた。
バン!!
破裂音と共に“風獣”が弾け飛ぶ。
「なに!!」
“風獣”が破られ無防備になった所にアキトが襲い掛かる。
しかし僅かの差でトレーラーの上に飛びあがる事により攻撃を避ける。
着地の瞬間を狙いアキトが追撃を仕掛けるが、今度は建物に飛び移り避けた。
「“風獣”を破るとは・・・・・さすが“ナデシコ”。」
「“風獣”だか何だか知らないが、A・N・Sにはその類の攻撃は通用しない!!
さらに、体内にためこんだ精神波も拳から放出できる。
つまり・・・お前の手品じゃビクともしないんだよ!!」
「ははははははは!!・・・・・今回は俺の負けだな。
しかし次はそうはいかん。教授は必ず頂く・・・・・必ずな。」
ブオォォォォォン
“風獣”がトレーラー上のアキトを吹き飛ばす。
「ちっ!!」
地面に降りたアキトの視線を遮る粉塵が晴れる時には
すでにテツヤの姿は無かった・・・・・
「やれやれ、ユリカだけでも頭が痛いのに・・・・・また厄介な奴が出てきやがった。」
ため息混じりに呟きながら、アキトはその場に横たわった。
「クリムゾンは予想以上に遺跡の情報を掴んでいるようだな。ユリカを狙ってきたって事は、コントロールの仕方はまだ解かってないだろうが。
まあ、何はともあれユリカを守り通せばいいだけか。
・・・・・しかし守ったら守ったで、何かとても嫌な事がある様な気がするのは何故だろう?」
空を見上げたアキトが目にした物は
瞬き始めた星達と・・・ナノマシンによる光の河であった・・・・・
数分後、駆け付けた警備員が目にした物は
バラバラに切断された人体と・・・そこから流れた血の海であった・・・・・
(・・・・・しまった!! 2話続けて最後がバラバラ死体と血の海になっちまった!!・・・・・ま・・・いいか。(笑))
第二話 『重力蛇の章 −中編−』
−終−
あとがき 「懺悔編」
−懺悔 @−
お待たせして申し訳ありませんでした。(待ってた人いるのかな?)
ようやく再開することができました。
就職活動と卒業研究が重なった上に破壊神が御降臨されまして、シャレにもならない事態に陥っていたもので・・・
ようやく一息つけたので再開することができました。
これからも不定期な連載になると思いますが、どうかご容赦ください。
−懺悔 A−
ようやく先行者を出すことが出来ました。
あるサイトで先行者の衝撃的な映像を見てしまい、どうしても書きたくなってしまったんです。
あの印象的なフォルム、軽快な動き、そしてビーム発射・・・・・・・
全てが私のツボにはまる素晴らしい物でした。
かなり時期的に外しているとは思ったのですが、この連載を書く目的の一つがこのネタだったものですから無茶を承知で書かせて頂きました。
ひらにご容赦の程をお願い致します。
それでは『重力蛇の章 −後編−』でまたお会いできることを願って・・・・・
2001.09.17 BearDog
代理人の感想
うわあ(汗)。
Beardogさん・・・・・・・・・・・・・アンタ漢だね(爆)。
しかし、最初はかなりシリアス物だと勝手に思っていたんですが、
今回その印象が綺麗に覆されました(苦笑)。
まあ、あの教授をユリカに当てた時点でこうなる事は決定していたのかも知れませんが(爆)。