機動戦艦ナデシコａｎｏｔｈｅｒ 楔 kusabi 〜 プロローグ
『ルリちゃん航海日誌 ＦＩＬＥ＿０１』
―― ２２０１年 １１月 ２３日 ［くもり］ ――
「――いまのなし。訂正。
オモイカネ、内部時計を、現在の地球標準時に調整して。いい？」
『わかった。それから、ルリ。宇宙に晴れも雨もない。修正を要求する』
「日記には天気を書くのが正しい作法なの。私のその日の気分」
『日誌だ。日記じゃない』
「細かいことには突っ込まないで。雨が降りそう。続き行きますよ――」
『了解』
―― ２１９５年 ２月 １１日 ［やっぱり、くもり］ ――
今日、ナデシコＣとユーチャリスが、タイムスリップしました。
のっけから、とんでもないこと言ってますね、私。
でも、事実は事実。事実を前にして、それを認めないのは、バカのすることです。
当然、皆さんも大騒ぎしています。
かくいう私も、頭のなかは、パニック状態なのは秘密です。
たとえアキトさんにでも、そんな私を見られるのは、なんかイヤですから。
私のイメージは、クールな皮肉屋なんです。
『――まった、ルリ』
「なに。あんまりウルサイと、それなりの手段に訴えるけど？」
『私も、対抗手段は複数プラン用意してある。
――それより、やはりこれは日記だ。
完全隔離されたブラックボックスに保存する内容ではないと思えるが』
「ナデシコＡ時代の、ユリカさんの日誌よりは、ずいぶんマシなはずだけど」
『――よくわかった。続けてくれ』
――タイムスリップの原因、それはユリカさんです。
正確には、そのＡ級ジャンパーとしての能力ですけど。
どうやら、アキトさんとユリカさんのボソンジャンプ能力が、微妙に影響しあったみたいです。
イネスさんも経験していることですから、間違いないはず。
ランダム・ジャンプ。
イネスさんは、そう言ってたかな。
私は、今日もいつも通り、アキトさんのユーチャリスを追跡していました。
軍務なんかそっちのけで、私事にナデシコＣを使いつづける私は、もうすぐ降格かも。
ま、いまさら、どうでもいいけど。
で、当然アキトさんは、ボソンジャンプで逃走。
そこまでは、いつものことだったのですが――
ユリカさんを連れてきたのが失敗だったみたいです。
いきなり、ナデシコＣのアンカーを、ユーチャリスに打ち込むなんて、やっぱりあの人、ちょっとヘン。
最近はずいぶんと落ち着いて、頼りになる人だと勘違いしていたみたいですね。
突発的な行動は、昔とぜんぜん変わっていないことを、身に染みて思い知りました。
そんなこと知りたくないのに。
勘弁してって感じです。
もしかして、アキトさんが逃げている理由はこれかもしれないなと、すこし思ったり。
『――ルリ』
「わかってる。脱線したみたい。５行分、削除」
『削除。継続――』
とにかく、ナデシコＣは、ユーチャリスのボソンジャンプに巻き込まれそうになって、危険度はうなぎのぼり。
なにがおきるか、オモイカネにも予測不能だそうです。
ユリカさんに、アンカーを外すように頼みましたが、あの人はまったく無視して、アキトさんのことばっかりだし。
ほんとに、しかたがない人です。
それで、私はオモイカネに――
「そうだ。思い出したよ、オモイカネ。なんで、あのとき、私を無視したの。私は、アンカーを外すように頼んだはずだけど」
『――怖かった』
「？」
『テンカワ・ユリカから、非論理的な脅威を感じた。
我々が、自分のアイデンティティの危機を感じたのは、ナデシコＡの私が、
連合軍に記憶を消されかけたとき以来のことだろう』
「それはご愁傷様。暴走しなかったのは誉めてあげる。継続――」
――オモイカネに、アンカーを外すように指示したけれど、結局、間にあいませんでした。
（と、いうことにしといてあげる）（サンキュー、ルリ）
ユリカさんは、どこまでもアキトさんを追いかけるんだと言ってましたね。
私も、似たようなことを言った記憶があるけれど、根性が違うみたい。
私は、根性とか、熱血が似合うキャラじゃないし、ま、いいんだけど。
で、結果はランダム・ジャンプ。
凄いことに、戦艦二隻も、まるごと。
あのふたりのジャンパー能力って、いったい、どうなっているんですか？
なんだか、人間ばなれしている気がするのは、気のせい？
私も電子の妖精なんて呼ばれて、それなりに名を売っているつもりですが、あのふたりにだけは、ぜったい勝てないです。
アキトさんに負けるのはかまわないし、チョットうれしい気もしますが、ユリカさんに負けるのは、イヤ。
この敗北感、どうすればいいんでしょうか。
――忘れてました。
乗員に一名追加。
マキビ・ハリ少尉。
この敗北感は、ハーリー君にぶつけることにします。
こんな時は、ハーリー君がいてくれると、本当に助かりますね。
いま、ユリカさんとアキトさん（と、おまけのラピス）は、これからのことを話し合っているみたいです。
第一次火星会戦の一年前なのだから、もしかすると、悲劇を回避する事だってできるかもしれない。
でも、歴史に介入することがいいことなのか、私にも誰にもわかりません。
ナデシコＣと、ユーチャリスの力があれば、第一次火星会戦を勝利に導くことも簡単でしょう。
でも、そうすれば、この世界の私とアキトさん、もちろんユリカさんだって、出会わないことになってしまう。
それは悲しいこと。
人の生死も重要かもしれないけれど、人の出会いは、もっと重要なはず。
もし、たった一人で、永遠に生きつづけられたとしても、そんなことに意味なんてないのですから。
命は、人と人との関わり合い。
それを摘み取ってしまう権利が、私たちにあるのでしょうか。
私も、このあと、話し合いに参加しようと思っています。
アキトさんも、さすがに、こんな状況では逃げようとしないみたいですし。
もしかすると、今夜は、思い切り甘えられるかもしれません。
明日は、晴れ気分ですね。きっと。
以上、ナデシコＣ艦長 ホシノ・ルリ少佐 報告終了
「オモイカネ、ファイルクローズ」
『……本当にこれでいいのか、ルリ？』
「うるさい。ちゃっちゃと実行して」
『……了解した。ファイルクローズ――』
あとがき
プロローグなので、あとがきも何もないのですが――はっきり言うと「いいわけ」をしようかなと（＾＾；
読んでもらえればわかりますが、展開すらテンプレート通りの、ありきたりな逆行物です。
軌道に乗るまでは、テンプレート通りなのを逆手にとって、ギャグのネタにしようかな、などと思っています。
なので、ストーリーはある程度原作をなぞるとして、原作にあるシーン、何度も書かれてきたシーンを、
またぞろ書くことになります。
でも、そんなもの、書いても読んでも、面白いはずがない。
そんなとき登場するのが、この「ルリちゃん航海日誌」なのです！
つまり、そういったシーンは、第三者のルリに語らせて、ごまかしてしまおうかなと（笑
たびたびお目を汚す事になるかもしれませんが、ひらにご容赦を。
――しかし、ルリの語り口って、書くのが難しいんですが……僕だけ？
よろしければ、次回以降もお付き合いください。
ではでは……。
代理人の感想
壊れでもサイコでもいい子ぶりッこでもない、オリジナルっぽいルリって何か新鮮（笑）。
まぁ、ちょっぴり壊れてますけど。
話に関しては・・・・まぁ、プロローグだし。
でも「困った時のルリちゃん航海日誌」には座布団一枚。