『死にたくない』と、そのとき願った。
◇
――こんなところで終わるのはイヤ
――こんなところで死んでたまるか
だから必死に逃げた。
アサルトピットに搭載されている緊急用ブースターに点火し、灰色の大地を眼下に収めながら、必死で逃げ出した。
ジャイロがイカレているのだろう、視界がぐるぐると回る。
でこぼことした灰色の大地。
針のように鋭く輝く星々。
そして、水風船のように地平に浮かぶ地球。
ぐるぐると。
それらが、ぐるぐると回って。
そして、白い強烈な輝きにすべてが包み込まれた。
◇
【ルナティックドーン誌(2197年12月13日号)よりの抜粋】
11日、午後2時18分。月面ワイズマン・コロニーより、北に180キロメートルの地点で、原因不明の大規模な爆発が観測された。爆発による影響はワイズマン・コロニーでも認められ、窓ガラスが割れるなど、爆発の大きさを物語っている。
爆心地より回収された複数の金属片は、専門家の手で照合作業が行われているものの、作業は難航している模様。関係者の証言によると、金属片は木星蜥蜴の機械類にもちいられている物に非常に成分が近いということである。このことから、木星蜥蜴による新種の攻撃ではないかとの見かたもあり、月市民に動揺が広がっている。
なお、現場付近で、カプセル状の物体が発見されたとも言われているが、対策本部による正式な発表はなされていない――
Blank of 2weeks
三人目の「イツキ」
◇ 四日目
彼女の指が、這うように背を撫であげる。
ぞくりとしてしまった。
ぞくりとしてしまったその感覚が、首の後ろあたりに熱を持ったように停滞している。その初めての感覚に戸惑っていると、こんどは彼女の手が脇から抱き寄せるように滑ってきた。
「あっ……ちょっ……やめてください、シンシアさん」
「なんでだい」
彼女――シンシアさんの笑みは、すごく意地悪い。
「キミが望んだんじゃないか。わたしは手伝っているだけだからね。言ってごらん。何をやめてほしいんだい」
「それは……だって……っ……! ……そんなところ……触らないで……」
「そんなところ――って、ここのこと?」
「――っ!! 本当に……やめてください。なんでこんな……」
「わたしはカワイイものが大好きなんだ。こんなに可愛いキミがいけないんだよ。カザマ・イツキ中尉殿」
シンシアさんは顎先に手を添えると、強引に正面に向かせた。そして眼が合ったのは、姿見の中の自分。
顔だけでなく下着一枚になった全身が紅潮している。シンシアさんの手から逃れようと身悶える姿が驚くほど艶めかしくて、それが自分だと思うと、かっと頭に血が昇ってしまう。
小柄ではあるが均整の取れたスタイル。腰まで届く黒髪が蛇のように体に巻きついている。意志の強そうな黒い瞳が印象的な、美しいといっていい裸身だった。
その後ろで堕天使のような微笑を浮かべているのがシンシアさんだ。
頭ひとつ分も背が高いのだから、すっぽりと抱きかかえられるような形だった。くしゃくしゃで癖の悪い錆び色の髪を、白衣の襟首に触れるか触れないかの長さに伸ばしている。
閉じこもりがちの研究者らしい透けるような肌に、わずかにソバカスが浮いているのがコケティッシュだ。青い瞳にイタズラ好きの子供のような光をたたえる彼女は、個性的な魅力のある女性だった。
そのシンシアさんが、二人の姿を鏡の中で確認しながら、指先を下腹から上に向けて滑らせてきた。新しい感覚が、おヘソのあたりで渦巻く。
「ぁ……もうっ! いいかげんにしてください!」
流されてしまいそうなぎりぎりのところで彼女を払いのけた。吐き出す息が、まるで粘性を帯びているかのよう。
「これの着け方を教えて欲しいと頼んだだけじゃないですか。よけいなところまで触らないでください」
突き出す右手に握っているのは、複雑な形状の白い布だった。
「だから、そのブラの着け方がわからないのだろう? わたしは懇切丁寧に教えてあげているじゃないか。なにが不満なんだ、キミは」
「だから――もういいです! 自分でやるから!」
そうは言ったものの、これがなかなか難しいのだ。とにかく初めての人間にはかなりの難物。頬の熱さを感じながら、何度も失敗してついに形になったと喜んだ。
しかし。
「それではダメだ。形が崩れてしまうぞ。せっかくの綺麗なバストがもったいないじゃないか」
そう言って、シンシアさんはブラジャーのカップに手を差し込んだ。肉を集めるように――それでいて揉みしだくように動かす。
いろいろな意味で絶妙な指使いなのが恐い。
「ちょっ……! やめてって……ぁうっ!」
思わず妙な声を洩らしてしまい、恥ずかしさのあまり叫んでいた。
「――いいかげんにしろ! なんなんだ、あんたはっ!」
――ここいらではっきりさせておいたほうがいいだろうな。
オレの名はテンカワ・アキト。
れっきとした“男”だ。
◇
目覚めたのは二日前だった。
月面に打ち棄てられたアサルトピットの中でオレは発見されたらしい。
意識を失ったまま、このネルガル月面研究所の付属病院に担ぎ込まれ、二日間眠りつづけたのだ。
そして目覚めたとき――オレは女になっている自分を発見した。
DNA照会の結果わかったのは、オレは「風間 樹(かざま いつき)」という火星生まれの18歳の女性だということで、連合宇宙軍所属の中尉であり、機動兵器パイロットとして訓練を受けたエリートで、高い知性と運動能力を誇る才媛でもあり、日系の清潔な印象の美女の上スタイルも抜群で、しかももの凄くオレ好みだったりして、いくらなんでも完璧すぎだろアンタという感じだったりするわけだが、しかしそういったプロフィールのすべてが、オレ――テンカワ・アキトとはまったくの別人なのだということだった。
なんでそんなことになったのかって?
知るもんか。
最後の記憶はカワサキシティを襲った巨大ロボットと一緒にボソンジャンプしたことだ。
原因はそれかもしれない。
違うのかもしれない。
こんなこと、前例があるはずもないし、確かめようがないんだから。
ついでに言っておくと、どうやら「二週間前」の月にオレはいるらしい。
……いまさら、そんなことで驚きやしないけどな。
◇
「あぁくそっ。柔らかいのなんのって」
なんとか着替えを終えたオレは、そんなことを呟きながらシンシアさんの後ろについて歩いている。頬が熱い。たぶん、赤面しているんだろう。
「その調子だと、女の身体に触れたのは、はじめてみたいだな」
「よけいなお世話です」
からかうような口調のシンシアさんに、オレはきっぱりと言い返した……つもりだったが、どうやらふて腐れているようにしか聞こえなかったらしい。
くくっ、と笑いを洩らすシンシアさんの後ろで、オレはさらに頬を赤くしていた。
白い廊下を通り案内された部屋には、「ネルガル月面研究所付属病院 院長室」というプレートが豪奢な扉に取り付けられていた。
そこで待っていた若い院長は、クレイと名乗った。姓はシンシアさんと同じフィッツジェラルド。つまり兄弟なのだ。
「すこし困ったことになっていてね」
クレイさんは、そう切り出した。
シンシアさんによく似た、錆びたような色合いの頭髪に、澄んだ青い眼。整った顔に浮かべる深い憂いは、オレが本当の女なら胸をときめかせていたかもしれない。
「きみの身元を、地球連合軍に問い合わせてみたんだ。今朝方、ようやくその返答が戻ってきた」
オレが付属病院に担ぎ込まれてから四日経つ。ずいぶん手間取ったものだ。
「例の爆発で地球との通信状態がひどく悪くなっていてね。生き残った回線のほとんどを軍が徴収しているから、交信には時間がかかるんだ。しかし、とにかくそれだけの価値はあったよ」
クレイさんは身を乗り出すと、オレを正面から見据えた。
「きみ――カザマ・イツキ中尉は、地球のカワサキシティで、ナデシコに乗艦するために待機任務中だということが確認できた。つまり、地球にはもう一人のきみが存在しているんだ。きみがボソンジャンプとかいう能力で、過去の月に飛ばされてきたという話は、どうやら信憑性が高くなってきたらしい」
そうですか、とオレは気の無い返事をしていた。そこまではすぐに証明できるだろうと思っていたのだ。しかしオレはカザマ・イツキじゃない。テンカワ・アキトなんだ。
「実は問題というのはね、爆発の被害者らしい人物を、軍も保護していたということなんだ」
心臓が跳ね上がった。もう一人いたとすれば、それは自分――テンカワ・アキトじゃないのか?
あの時、最初に消えたのは、カザマ・イツキのエステバリスのコックピット部だった。敵巨大ロボットのボソンジャンプに巻き込まれたのだ。そして次に、オレが自爆しようとした敵ロボットを巻き込んでボソンジャンプした。
敵は無人兵器なのだから、それなら残るのはオレの肉体だけのはずだ。
しかし、その期待は大きく裏切られた。
「その人物とはね……カザマ・イツキ中尉、三人目のきみなんだ。カザマ・イツキという女性は、今現在、地球と月に合計三人存在しているらしい」
◇ 五日目
軍に提出する調書の作成に、朝からかかりきりになっている。
やっとそれが終わったと思えば、次はシンシアさんの問診の時間なのだった。
「ずいぶん落ち着いたようだね」
美麗な曲線を描く脚の主は、椅子の上でそれを組み替えると、探るようにこちらを伺った。
シンシアさんの肩書きは臨床心理士だった。精神のカウンセリングを行うことを専門とする彼女にとって、オレは格好の研究対象なのかもしれない。
「ではキミの名前をもう一度教えてもらえるかな」
「カザマ・イツキですよ。DNAバンクに問い合わせれば、そういう答えが返ってくるんでしょう?」
すこしふて腐れ気味の声だったかもしれない。
「わたしは心のほうが専門でね。身体のことは、この際どうでもよろしい。キミが自分を誰だと認識しているのか、それを教えてもらえないかな」
「……テンカワ・アキト」
「性別は男。そうだね」
すこし迷ってからうなずく。
「なるほど。こちらでもテンカワ・アキトについて調査してみたが、キミの証言との矛盾点は見つからなかった。妄想が産んだ人格とするには出来すぎているな。ところで――」
シンシアさんは、おもむろに白衣のポケットをまさぐった。
「これに見覚えは?」
その手に載るのは青い石――。
「CC! チューリップクリスタルじゃないスか!」
「やはりね。これがそうなんだ」
当たりくじを引き当てた子供のような眼だった。シンシアさんは癖の悪い髪をがしがしと指で掻きまわす。そんなラフな仕草が、奇妙にさまになる人だ。
「それ、どうやって――!」
「地下の研究室から、パクってきた」
「パク……?」
「パクった」
眼が真剣だよ、このヒト……。いや、ネルガルの研究施設だから、CCがあっても不思議は無いけどさ。
「まあ、それはどうでもよろしい」
よろしくないだろ、フツウ。
「とにかく、これをよく見てくれ」
そう言って、CCを細い指に挟む。
「何かおかしなことでも?」
「いいからもっと近づいてよく見るんだ」
言われた通りに顔を近づけて観察する。どう見てもCCだ。CC以外の何物でもないし、おかしなところもなにもない。
「これがいったい――」
目線をあげると、鼻が触れるほどの距離にシンシアさんがいた。きめの細かい肌がはっきりと目視できる。
その距離に思わずドキリとしたとき、さらに唇を突き出すようにシンシアさんが前に進んだ。
「うわわわわわっっ!!」
凄い音が響く。転んだのだ。オレが。椅子ごと。そりゃ痛いさ。
「いってえっ! なにするんスか、シンシアさん!」
シンシアさんは大口を開けて笑い転げていた。
「あははははっ! いいよ、その反応。まんま初心(うぶ)な青年って感じで。うん、いい!」
手を膝に打ち付けて、さらに笑う。
なんなんだ、このヒトは。
「ウブな男じゃなくても驚くでしょう、普通。なに考えてんだ、あんた」
「いやいや、すまん、すまん。くくくっ……。いいよ、認めてやる。キミの精神は確かに男だ。それも、ずいぶんと性経験の少なそうな、な。……やははっ! カワイイな、キミは」
目尻に涙を浮かべながら、さらにバカ笑い。せ、性経験って……あの、もしもし?
「おいおい、そんな顔をするなよ。それともサービスが足りなかったか。ん? これならどうだい」
そう言って前かがみになると、シャツの第二ボタンまでを外した。
そこに出現したモノに、思わず見入ってしまう。
白衣に隠されて今まで気づかなかったが、デカイわ、柔らかそうだわで、もう……。
「――じゃないだろ、オレっ!」
頭のてっぺんから湯気を噴きだしながら、慌てて視線を外す。
「いやはははっ! いまの顔! 美少女なんだから、そんな眼しちゃイカンだろ。あははははっ!!」
絶対に遊んでる。間違いない。セクハラ魔王だ。どうにかしてくれ、このヒト。
しばらく笑い転げて、シンシアさんはようやく息を整えた。
「……はぁ、はぁ……よしよし、だいたいわかった。キミ、わたしの家に来い。しばらく泊めてやる」
「はあっ!?」
突拍子なさすぎるぞ。
「もう身体のほうは大丈夫なのだろう? ここは病院だからな、怪我も病気もしていない人間を置いておくことは出来ない。それとも、アタマのほうがイカレてると認めるか?」
「オレは正常だ!」
「だろうな。健康的なスケベだと、わたしも認める。退院だ。しかし無罪放免とはいかない。キミはこんなものの関係者だからな」とCCを手の中で転がす。「軍の御厄介になるのがイヤなら、わたしのところに来い。わたしはキミの監察係でもある」
「でも……」
「遠慮は無用。それにわたしは兄と妹と同居している。わたしに襲われる心配はないぞ」
「普通、襲うのはオレだと思うんですけど」
「やればいい。歓迎だ。わたしは美少女も大好物だからな」
“美少女も”というあたりに寒気を覚える。ほかにどんな属性を装備しているのやら、えらく広い守備範囲であることは、間違いなさそうだった。
「とにかく、そういうことだ。……そうだ。テンカワ・アキトだと言い張るのなら、当然料理も出来るわけだな」
「ええ、まあ。オレ、料理人が本業ッス」
「よし! ますますOK。今日から来い。決定だな」
決定されてしまった。呆然としていると、どんどん手続きが進行していく。あ……ちょっと……、などとおろおろしていたら、ふいに動きが止まった。
「そうだ。……例の三人目のイツキなんだがな」
くしゃり、と癖のある髪に指を絡ませた。
「明後日の九時に、キミに軍部からの出頭命令がでている。その時に面会できるように頼んでおいたよ」
「……!」
三人目のカザマ・イツキ。
そうか。会えるのか。
両手に買い物袋。シンシアさんの手も、同じ量の荷物で埋まっている。
『今日は、キミの歓迎会だからな』
という理由で、こんな大荷物を抱えるハメになったのだった。
「ここが我が家」
月面コロニーは土地事情が厳しい。完全配当制の住居は、同じ造りのドアがずらりと並ぶ区画の一室だった。
「場所を良くおぼえて間違えないようにな。ウチは、この色が目印だから」
見ると、ドアが毒々しい蛍光ピンク一色で塗られている。
「……間違えようが無いです、これ」
どの家も、それぞれに「我が家」を演出しようとしていた。鉢植えを置くもの。手作りの人形をぶら下げるもの。やはり独自の色でドアを塗り替えているもの。
もともとはシンプルな区画だったはずなのに、いまではド派手に変化してしまっている。それは生活臭と言い換えてもいいかもしれない。
「クゥ。姉さん帰ったよ。開けとくれ」
インターフォンに、猫なで声で語りかけるシンシアさん。
カチリ、とロックの外される音に続いて、ドアが開く。
「ただいまぁ、クゥ!」
両手に荷物をぶら下げたまま、シンシアさんはドアの向こうにいた人物に抱きついた。
「痛たっ! ヤダってば、シンシア! はなれろ、このぉ!」
シンシアさんに抱きつかれて暴れているのは、十二、三歳ほどの少女だった。顔を真っ赤にして、シンシアさんを引き剥がそうと奮戦している。
カミソリのような飛びヒザ蹴りがカウンターで決まった。鋭い。たまらずシンシアさんは彼女から身を離す。
「はぁ、はぁ……あなた、誰?」
攻防を征した少女は、強気の視線でオレを睨んだ。
「あ、その、オレは――」
「カザマ・イツキ。そして、今日からわたしたちの同居人だ」
「なにそれっ!」
オレの首に腕をまわすシンシアさんにむけて、少女が食ってかかった。
「勝手に決めないで! あたしヤだからね。お姉ちゃんの変態性癖にこれ以上――はなせ、こらぁ!」
「まあ、こんなところじゃなんだし、中に入ろうじゃないか。なあ、クゥ」
両脇に少女とオレを抱え、シンシアさんはズカズカと部屋に突入していく。
「きゃっ!」「痛てぇ!」
リビングのソファーにオレと少女をポイと投げ出すと、シンシアさんは豊かな胸を反らした。
「とにかく、もう決定したんだ。イツキは今日からうちの一員。いいね、クゥ」
「いいわけない! お兄ちゃんは!? シンシアの暴走をお兄ちゃんが許すはずないもん!」
「クレイはとっくに了承している。仕事が終われば、あいつも帰ってくるだろうさ。今日は、イツキの歓迎パーティだからね」
床にぶちまけられた買い物袋の中身を拾い集め、シンシアさんはキッチンへと消えた。
「そんなぁ……」
少女はキッとオレを睨みつけた。気の強そうな女の子だ。
オレは場を取り繕うように笑顔を浮かべようとして――
「ていっ!」
いきなり放たれた閃光のような前蹴りを避けきれずに、腹を押さえて悶絶した。
少女の名はクーリアだった。
歓迎会の最中も「クゥ」と呼びながらまとわりついてくるシンシアさんを、そのつどキレの鋭い攻撃で撃退していた。
付属病院の院長である長男クレイさんは、遅れて帰宅した。そして室内の惨状を目にして絶句すると、手にしていた御土産らしき袋を取り落とした。
「なんだこれは……」
空けられた酒瓶や、出来合いのツマミがいたるところに散乱している。
白い壁を突き破って生えているのは、ビール瓶の口であろうか。
そして、半裸に剥かれて、怯えた眼で横たわるオレ。
さらには、必死に抵抗するクーリアちゃんに襲いかかろうとしているシンシアさん。
「なんだこれは……」
もう一度、そんな言葉を吐き出すクレイさんだったが、男としての大切な矜持を失ったいまのオレには、どうでもいいことだった。
◇ 六日目
洗顔を終えてキッチンに行くと、ぼそぼそという、なんとも貧相な音が響いていた。
クーリアちゃんがコーンフレークを咀嚼する音だ。
不味そうに皺を寄せながらスプーンを口に運んでいる。
「牛乳ぐらいかけたら?」
不快そうな眼でオレを睨んだ。
「ほっといて。牛乳キライ」
「朝は、いつもそれ?」
「いいでしょ、べつに。お腹に入っちゃえば、なんだって一緒――なにすんのよ!」
オレは、その無機質な朝食をクーリアちゃんから取り上げていた。
「ヨーグルトは平気?」
「なんなの。よけいなお世話。返して!」
「平気?」
「うるさいな。食べれるわよ!」
「ふぅん」
冷蔵庫からヨーグルトのパックとハチミツ、昨夜のツマミの残りのレーズンなどを取り出し、ミキサーで混ぜてからコーンフレークにかける。
「これと……」
コーンフレークの皿を返し、さらにレタス、トマト、ブロッコリーを手早く切り分けると、オリジナルの必殺ドレッシングをブレンドしてかける。これもクーリアちゃんの前のテーブルに。
「あとは……これでいいか」
ちょうどいいことにコンソメスープの缶詰を発見した。
鍋に移して暖めながら、クルトンを探すが見つからない。仕方がないので食パンをサイコロ状に刻み、レンジで硬くなるまで加熱する。
それを温まったコンソメスープに散らし、やはり昨夜の余り物だったパセリも乾燥するまでレンジにかけ、刻んでから散らす。
手抜きだが、何も無いよりはマシだろう。
「はい、どうぞ」
全工程で五分程度か。身体は自分のものではなかったが、思ったよりはスムーズに動いてくれた。
「……」
それをじっと見つめるクーリアちゃん。不信感丸出しだ。
一度オレに見ると、ゆっくりとコーンフレークを口にした。
「……不味くは……ない」
「どうも」
反抗的な態度のまま、サラダも口にする。
一口含んだところで、眼を大きく見開いた。
「っ……!」
「ダメ?」
「おい……しい」
「でしょ。自慢のオリジナルドレッシングだからね」
こういう反応が一番嬉しいのだ。ガッツポーズをしていると、クーリアちゃんの視線が、こちらに向いていることに気づいた。
眼を向けると、プイッと視線をそらす。
クーリアちゃんは誤魔化すように勢いよくコーンフレークを掻き込みながら、
「あなたさ……」
と、視線を合わせないまま質問を発した。
「お姉ちゃんの、なに?」
「え? なにって……」
「どういう関係なわけ。……あんまり言いたくないけど、あなた美人だし、小柄なのに存在感があるっていうか、芯があるっていうか、とにかく、お姉ちゃんの好みにピッタリなのよ。……もし、そういう関係なんだったら、出て行って」
たらっと冷や汗が落ちる。
「……ホンキで言ってる?」
「あたりまえでしょ!」
パンッ! と、スプーンをテーブルに叩きつけた。
「あたしはね、シンシアのそういうところが、絶対に許せないの! しかもそれをウチにまで持ち込んでくるなんて、信じられない! 絶対にあなたなんか認めないからね!」
「あの、さ……シンシアさんって、本当にそういう趣味のヒトなわけ……?」
いろいろと思い当たってしまう。冗談か、スキンシップのたぐいだと思い込もうとしていたのだが……。
「なんでもありなのよ、アイツは! あたしが毎日どんな思いをしてるか――――って、違うの?」
「違う! オレはシンシアさんの患者だよ。ワケありでしばらく御厄介になるだけ。間違ってもそんな関係じゃないから」
「ホントに?」
「ホント!!」
疑り深い視線が長い時間突き刺さる。
「……わかった。これ美味しかったから、それに免じて、しばらくは様子を見ることにする。でもね……少しでも変な態度を取ったら、速攻で追い出すからね。いい?」
「了解……っていうか、いまオレ、それどころじゃないしな」
「ふぅん。そういえば、あなたも男言葉なんだ。お姉ちゃんよりも板についてる感じ」
クーリアちゃんは腰を下ろし、朝食に戻った。少しだけ口調が軟化した……かな。
「そりゃそうだろ」
「なんで? すごく美人なんだし、似合わない気がする。もったいないよ」
「いいの。これがオレの自然体。女言葉を使うなんて、考えただけで寒気がする」
「へんなの。……そっか。だからお姉ちゃんの患者なんだ」
「言っとくけど正常だぞ、オレは。――そんな眼で見るのはよせ」
「うーーん。どうかなぁ」
じろじろと見回してから、いきなり吹きだした。かわいい笑顔だ。
打ち解けてみれば、かなり気さくなんだな、この娘は。
「……なんか、いい匂いする」
シャツに手を突っ込み、ぼりぼりと体を掻きながらシンシアさんが姿をあらわした。その後ろにはクレイさんもいる。並んで立つと、本当によく似ている兄妹だった。
「勝手にキッチン使わせてもらってます。まだ残ってるけど、いりますか」
「いいね。美味しそうだ」
「僕ももらおうかな。悪いね、イツキさん」
いえ、と返事をして、調理に取り掛かる。
オレの月での新生活は、こうしてスタートした。
◇ 七日目
翌日、オレとシンシアさんは連合宇宙軍の要請に応じ、宇宙軍月面基地へと訪れていた。
午前中は情け容赦のない尋問と身体検査に費やされる。心身ともにフラフラになったオレは、軍という場所がどんなところなのか、その片鱗を知ることになった。
そうして、やっとのことで、オレは「彼女」に面会したのだった。
シンシアさんが感心したような声を吐き出す。
「なるほど。イツキだな、これは」
清潔なベッドに、一人の女性が横たわっている。
顔の半分を包帯で巻かれていたが、しかし間違いない。それはカザマ・イツキだった。
もしやと思い、自分の身体を触ってみる。しかし手に残るのは、女性らしい柔らかい肌の感触だけ。オレがテンカワ・アキトの肉体を取り戻したわけではないのだ。
つまり、この病室には、ふたりのカザマ・イツキが存在していることになる。
「地球にも、もう一人いるわけか。それが一号なら、キミは二号。この娘が三号ってとこかね」
「勝手に番号振らないでください」
「それならクローンか。『わたしが死んでも、かわりがいるもの』って言ってごらん」
シンシアさんの能天気さにじんわりと頭痛がしてくる。
「なんすか、それは。――それより、この人どうしたんですか。目を覚まさないんですよね」
後ろに控えていた軍医に質問する。
「発見された時は減圧症で、ひどい状態だったんだ。体は順調に回復しているのだがね、意識が戻らないんだよ。どうやら真空に投げ出されたような症状だし、脳にダメージがあるのかもしれん」
オレが発見されたのは、エステバリスのアサルトピットの中だった。簡易宇宙服にもなるパイロットスーツが守ってくれたため、オレの体には打撲傷以外にこれといったダメージは見当たらなかったのだ。
しかし、このベッドの上のカザマ・イツキは違ったらしい。
真空に投げ出された?
一分程度ならば生身でも耐えることができると何かの本で読んだ記憶があったが、その代償は大きいのだろう。毛細血管が破裂して内出血した痣が、目にも痛々しい。
軍医は溜息のような声で言った。
「……しかし驚いたな。こうして目にするまでは信じられなかったが、同じ人間が二人もいるとは。いや、地球にはさらにもう一人いるのだったな。何者だね、君たちは」
「知りませんよ。オレのほうが知りたいくらいだ。なんでこんなことになったんだか……」
「これは?」
シンシアさんが、もうひとりのカザマ・イツキの首にかかっていたネックレスを手に取った。
「ああ、それかね。彼女が発見された時に身につけていたものでね。たぶん看護師の誰かがつけてやったんじゃないのかな」
「どうかしたんですか」
シンシアさんの様子が変だ。食い入るようにそのネックレスを見つめている。
「……いや、なんでもない」
かえって気になるような返事だったが、本人はそれに気づいていない様子だった。
「……で、貴様は、テンカワ・アキトだと主張するわけだな」
一昨日に半日かけて作成した調書を手に、その軍人は声を荒げた。
「自分は本当は男であり、その女の身体はニセモノであると」
「……そうです」
ぶしつけな視線がオレの身体を舐めていく。そこに含まれる好色な光に、背筋に震えが走った。
こいつ、尉官などとは名目だけで、その中身は最低のゲスだ。
「そして貴様は未来からやってきた、と」
しかたなく、コクリとうなずく。
「この調書にはこう書かれているな――その日、カワサキシティが巨大なロボットに襲われ、市街地を巻き込み自爆しようとした。そこに居合わせた貴様――テンカワ・アキトはボソンジャンプとかいう瞬間移動の超能力をもって、そのロボットごと、この月まで跳んできた。先週の爆発は、それが原因だったと。しかしジャンプの失敗で、貴様は二週間も過去に跳んでしまったばかりでなく、女になってしまった、というわけだ」
読んでいた調書を、机に投げ出した。
「――精神鑑定を受けたほうがいいな」
予想通りの反応に、オレは返事をする気力を失った。
代わりに答えてくれたのはシンシアさんだった。
「当然、鑑定済みですよ。自分が男だと主張する以外は、このカザマ・イツキはいたって正常だと保証します」
「十分異常ではないか。巨大ロボットに超能力、果てはタイムスリップだと。どこの三文SFだ。馬鹿馬鹿しくて、あくびも出んわ」
「しかし、現にカザマ・イツキは三人存在している。これはどう説明するのです」
「いっそのこと、ニンジュツで分身したとでも言われたほうが、まだ信用できるな。クノイチとか言うのだっけ、女ニンジャは」
にやりと笑い、糸を引くような視線をもう一度オレの身体に這わせてきた。殴りつけたい衝動を必死で抑えつける。
「それで、彼女の処分はどうなるのです」
「こんな頭のおかしな女は病院にでも閉じ込めておくべきだろうな。いままで通り、君のところで保護してくれればいい。行ってよし」
「鳥肌が立ちました」
と、オレ。
「女っぽい反応じゃないか。精神が身体に影響されてきたか」
「あんな眼で見られれば、誰だってそうなりますよ。くそっ。思い出しただけで身震いしてくる」
くくっ、とシンシアさんが笑いを洩らした。
「まったくカワイイな、キミは。抱きしめてやろう」
背後から抱き寄せられた。豊かな乳房の感触を背中に感じる。
「ちょ……やめてください、こんな所で!」
身を振りほどいて、血の昇った顔を隠すようにして、買い物かごに食品を投げ込んでいく。
オバサン連中の好奇の視線が、オレたち二人を追いかけていた。
今夜の食材をスーパーで調達しているのだ。三兄妹の食卓はオレが預かることになっている。プロの意地としても不味いものは食べさせられない。
「恥ずかしがることもなかろう。すくなくとも見た目は女同士なのだからな。ほれ、もっと味わえ」
ぐいぐいと胸を押し付けてくる。
「嬉しいだろ。ん?」
「変なこと訊かないでください! ……ああ、くそ。男に戻りてぇ」
しくしくと悔し涙にくれるオレを、シンシアさんが引きとめた。
真面目な表情で、オレの眼を覗き込む。
「やはり、男に戻りたいか」
「あたりまえでしょう。男なんですよ、オレは」
「方法はあると思うか」
「あるなら、とっくに試してます。CCだって反応しなかったし……」
シンシアさんが手に入れたCCを使って、オレはボソンジャンプを試していた。しかし、なんの反応も示さなかったのだ。やはりボソンジャンプの能力を持っているのはオレ――テンカワ・アキトの肉体なのだろう。
「……方法はあるかもしれない」
ぽつり、と彼女は呟いていた。
「ホントですか!?」
「おそらく、な。わたしはキミが好きだよ、イツキ=アキト。だから迷っている。その結果がアレなのだとすれば、教えるべきではないだろうとな」
「アレ?」
「もう少し時間をくれ。キミに本来の時間が追いつく前に心を決めると約束しよう。いまはこれだけを渡しておく。おそらく必要になるはずだ」
謎めいた言葉を残し、シンシアさんはオレの手に、小さな青い石を握らせた。
CC。
チューリーップクリスタルの結晶だった。
クーリアちゃんが頬をおさえて身震いしている。
「〜〜〜〜っ! 美味しい!」
「そう? よかった」
「すごいよ、これ! イツキって、ホントに料理上手なんだ。美人でスタイル良くて、そのうえ料理まで上手いなんて、完璧すぎ!」
オレは苦笑する。
その誉め言葉のうちで、本当のオレに当てはまるのは、料理の部分だけだ。これも騙しているということになるのだろうか。
オレが本当は男だということは、彼女には明かしてはいなかった。
「シンシアより、イツキにお姉ちゃんになってほしかったな」
「クゥ。姉さん、悲しいぞ……」
抱きつこうとするシンシアさんを、クーリアちゃんが迎撃する。
切り裂くような右肘。人間の肉体で最も固い部位が、シンシアさんの胸部にめりこむ。すばらしい殺傷力だった。
「触らないで」
すでに身動きもできないシンシアさんに、言い捨てる。
「でも本当に美味しいな。これはなんていう料理なんだい」
妹たちのことは真っ向から無視ですか、クレイさん。
「はあ……中華なんですけどね――」
一通り説明すると、彼は満足そうに一息ついた。リラックスしていても、どことなく引き締まった雰囲気がある。さぞかしモテるんだろうな。
オレは食後のお茶をクレイさんに差し出した。
「ああ、ありがとう」
ずっ、と一口すすり、もう一度溜息。
「――ふぅ。いいな。落ち着く。こんなにリラックスしたのは何年ぶりだろう」
しみじみと語るなよ、そんなこと。
クレイさんは、オレが思わず戸惑ってしまうような、極上の笑みを浮かべた。
「きみがうちにきてくれてよかったよ。シンシアとクゥにも見習ってほしいもんだ」
「あ、いえ……そんなことない、ですよ」
なんだか舌が上手く回らない。
「いや。きみはこいつらの料理を食べたことがないからそんなことが言えるんだ。あれは食い物じゃない。毒物だ」
はは。
やけに身につまされる話だった。
「オレのまわりにも三人ばかり、そんなのがいましたよ。あやうく死にかけましたから」
「きみもか!」
いきなり手を握り締めてきた。
一拍、心臓が跳ね上がる。
あれ? なんかヘンだ、オレ。
「おなじ苦労を味わった仲間がいるなんてなあ。きみさえよければ、ずっとここにいて欲しいよ」
「はは……」
なぜかそわそわと落ち着かないオレは、興味深そうにこちらを観察しているシンシアさんの視線に気づいた。
なるほどね、といった調子で眼を細めている。
なんだよ、いったい。
◇ 八日目
「却下」
いきなり却下されてしまった。
クーリアちゃんは、オレの手からジーンズをもぎ取ると、ポイと背後に投げ捨ててしまう。
「ちょっと。それしか着るものないんだぜ、オレ」
「ダメ。三日も四日も同じ服ばかり着つづけるなんて、お天道様が許しても、このあたしが許しません。今日はこれを着るの」
そう言って差し出してきたのはピラピラとしたミニスカートと、原色たっぷりのキャミソールだった。
「おい……」
「それにダメだよ、ブラのサイズも合ってないじゃん。ショーツだって、お姉ちゃんの借り物なんでしょう? やっぱり今日は真っ先に下着を買いに行かないとね。あとはね、イツキってかっこいい感じがするから、そういうのを何着かと、逆にカワイイ系も欲しいな。あたしに選ばせてよ。約束だからね」
喜色満面のクーリアちゃんは、すさまじいパワーで押しに押してくる。やっぱりシンシアさんの妹だよな、と変な感心をしているうちに、すでに逃げ道は失われていた。
「うん、やっぱり似合う! つくづく美人だよね、イツキって」
ハッと正気に戻ると、鏡の中のオレは、すでにミニスカートとキャミに身を包んでいた。
「うわ――」
服と化粧でここまで印象が変わるものなのだろうか。
そこには、思わず魅入られてしまいそうな完璧な美少女が存在していた。
これまではあまり意識していなかったが、手足が驚くほど細くて長い。それでいて出るべきところはしっかりとあるのだから、こういった露出度の高い服装があつらえたようにハマルのだ。
オレが男だったら――いや、男だけど――絶対に無視できない魅力を、全身から発しているようだった。
「でもこれ……いくらなんでも恥ずかしいよ」
「ダメ。却下だもん。今日はあたしに付き合ってくれるって約束だよ。イツキって嘘つき?」
「そうじゃないけど。でも、これはちょっと」
鏡の中の美少女が自分とまったく同じ動きをする。それが自分の鏡像なのだと徐々に納得していくにつれて、さらに恥ずかしさが増してきた。
「すごく似合うってば。さあ、行こう!」
「ちょっと、クーリアちゃん!」
「クゥでいいよ」
跳ねるような足取りでオレの手を引っ張るクーリア――いや、クゥはそのまま玄関へと向かった。
「大変だな、イツキ」
すれ違ったシンシアさんは、さも楽しそうに含み笑いをしていた。
助けてくれたっていいじゃないか。イジワル。
クゥはとにかくパワフルだった。
こっちはミニスカートやキャミソールの脇から下着が見えてしまうのではないかと気が気でないのに、彼女はお構いなしに引っ張りまわしてくれる。
「だから、気にしちゃだめだって。もっと背筋を伸ばして自信を持っていればいいんだよ。イツキは美人なんだから、おかしくなんかないってば」
「だってさあ……」
どうも行き交う人々の視線がこちらに向けられているような気がするのだ。ただの自意識過剰なのだろうが、どうしても気になってしまう。
「それはイツキが綺麗だからだよ。視線を受け入れて意識するようになれば、もっと綺麗になれるんだから。ホント、イツキっていままでどういう生活してたのよ。人気のない山奥にでも篭もってたの?」
実は男として生活してたりするわけだ。
「なあ、きみたち……」
居住区最大のプロムナードに差し掛かったところで声をかけられた。
三人組の軽そうな男たち。
遊び慣れていそうな雰囲気にもかかわらず、どことなく余裕がないようにも感じられた。
「いまヒマ?」
まさかナンパか、これ?
『ヒマなわけないだろ』
と断ろうとしたとき、クゥが横から割り込んできた。
「おごってくれる?」
オイ!
「あたし、シルフィーネのチーズケーキが食べたいんだけどぉ……」
などと甘えた声を出す。男たちは意気込んで身を乗り出してきた。
「お、おう! いくらでもおごっちゃうって。任せとけよ。なあ、そうだろ」
とーぜん! と調子のいい相槌が飛び出す。
「ちょっと待った、クゥ! なに言ってんだ、おまえは!」
「いいじゃん。美味しいよ、シルフィーネ」
「ダメ! 絶対ダメ! ダメったらダメ! 行くぞ! 悪いな、あんたら。また今度にしてくれ」
グズるクゥを引っ張り、その場を離れようとした。しかし男たちもしつこい。慌てたようにオレたちを追いかけると、
「そりゃないよ。そっちの娘はいいって言ってるんだから、少しくらい付き合ってくれてもいいじゃない。そうしようぜ、な? ゼッタイ退屈なんかさせないからさ。無視することないじゃんよ。なあって」
なれなれしい態度で、剥き出しの肩を掴まれた。その場所から鳥肌が立つような不快感を覚える。なぜだかわからないが、オレはたまらない怒りを感じていた。
「――触るな」
男たちが一瞬怯んだ。ざわざわと黒髪が逆立っているような気がするほどの、純度の高い怒り。
「あ、ああ。わりぃ」
肩の手を払いのけるようにして、歩み去る。その後ろから三人組の声が聞こえてきた。
「――すげえ」
「俺、にらまれてゾクッとしちまったよ、おい」
「ヘンタイだな、オマエ。とにかくありゃダメだろ。高目すぎだぜ」
……まいった。
なぜあそこまでの怒りを感じたのかもよくわからなかったが、それよりも他人から見て、やはり自分は女に見えるのだという事実。そのことに、いまさらオレは衝撃を受けていた。
「あーあ。イツキと一緒なら、沢山おごってもらえると思ってたのになあ」と残念そうにクゥ。
「……あのなあ」
おちおちショックも受けていられない。クゥのパワーが、それらの衝撃を上回っていた。
「あんなのについていったら、大変なことになるかもしれないんだぞ。わかってるのか、おまえは」
「わかってるよ。でも一度、体験してみたかったんだもん」
好奇心旺盛なのはいいが、危なっかしすぎる。
「……わかった。オレが男役をやってやるから、これからはデート、な」
ちぇー、といじけたようにつま先で地面を蹴る。
「……うん。でもまぁ、いいや」
腕に抱きついてきた。
「それじゃあ、デートにしゅっぱぁつ! 下着を買いに行くぞお!」
…………。
大声で宣言するなよ、そんなこと。
◇
ランジェリーショップで、店員さんにスリーサイズを測ってもらった。
死ぬほど恥ずかしい。
……もうやだ。
◇
「なあ。もういいだろ、これぐらいで」
うんざりだ。
女の買い物が長いってのはホントだな。言っとくが、オレはナリこそ女だが買い物は早いぞ。目当てのものに突進して、約五分もあれば買い物なんて終わる。
なのになんなんだ、今日のこれは。
「だぁめ。次はこっちの試着だよん」
花柄ワンピースという前時代的なシロモノを手に、クゥが試着室に身体を捻じ込ませてくる。
花柄だぞ?
だけど、似合っちまうんだ、これが。
このカザマ・イツキという女性の肉体は、ほとんどあらゆる服を着こなすように作られているらしい。クゥはそれが楽しくてたまらないのだろう、オレは完全に着せ替え人形と化していた。
「これもイイ! 凄いなぁ。艶のある黒髪ってなんにでも映えるんだ。ウラヤマシイ」
「クゥは伸ばさないの?」
「だって癖っ毛だもん。雨の日なんて、頭の上で髪の毛がダンス踊るよ」
腰を落としてクゥの髪に触れる。
なるほど。綿菓子のような手触りを想像していたが、意外と固めの髪質だった。これは水分を吸うとまとまりが悪そうだ。
「まあ、でも可愛いからな、クゥは」
「うん。知ってる」
あっさりと言ってのける。
「ねね、それで、こっちはどう?」
その手にはピッチリとしたデニムパンツが握られていた。
「……それで最後な」
「ダメ。まだ、向こうの通りにもいい店あるんだもん」
苦行はまだ続くようだった。
クゥの将来の夢は、ジュエリーのデザイナーなんだそうだ。
自称芸術家のアヤシイお兄さんの露天で、手作りアクセサリーのデザインについて激しい論争を戦わせているときにそれは起こった。
悲鳴のような声と喧騒。
「ドロボウ!!」
二人の男たちが邪魔な通行人を突き飛ばすようにして走ってくる。
そのむこうで、女の子が泣きそうな顔で叫んでいた。
「引ったくりです! だれか!」
身体が動いていた。
手に抱えていた荷物を、そいつらの前に投げ捨てる。突然のことに、片方の男が脚を取られた。
残った男に狙いを定めて走りよる。何も考えていないのに、一連の動きを身体が勝手にこなした。
くんっ、と右足が跳ね上がる。自分の頭のはるか上、それは180センチ近い男の側頭部に恐ろしい精度で叩き込まれた。
スパンッ! という小気味いい音が響き、男は白目を剥いて崩れ落ちた。一発で脳震盪を引き起こしたのだ。
オレは自分で驚いていた。
この身体、とんでもなく動く。常人にあんな高さのハイキックを放つことなど不可能なのだ。辛く長い訓練の上だけにそれは存在を許される。
カザマ・イツキという女性がどれだけの鍛錬を繰り返していたのかは、その動きが身体に刻み込まれていることだけでも十分に知れた。
「すげぇ……」
こんな高揚感ははじめてだった。
身体が動くということが、これほど気持ちのいいことだとは。
イメージ通りによどみなく動くこの身体は、高機動型のエステバリス0G戦フレームに似ているかもしれない。前のオレの身体は、それで言うならば砲戦フレームのように鈍重なものだった。
脳内麻薬にドロドロに犯されたオレは、残った男がゆっくりとした動作でバタフライナイフを広げるのを見ていた。
「っそが!」
身体の前に真っ直ぐにかまえて突っかかってくる。振り回さないのは、刃物の扱いに長けている証拠だった。
「ふひゅっ!」
また身体が動いていた。
鋭く吐き出した呼気と共に、右前方に身体を開いて飛び込む。
カウンター気味の掌底が男の胸に突き刺さっていた。その脚が地面から浮く。ごじゅっ、という骨の砕ける感触が、首の後ろあたりにちりちりとした不快感を残す。
――くひゃ
そんなわけのわからない音を吐き出して、男は地面に転がった。
呼吸が出来ないのだろう、もだえ苦しむその姿をオレは見下ろす。
背筋にぞくぞくとする感覚。
気持ち……いい。
「イツキ!」
クゥだった。
「パンツ! 見えてる!」
なに? と自分の身体を見下ろすと、ミニスカートが見事にまくれあがっていた。あのハイキックを繰り出した時だ。オレは慌てて裾を引っ張り、形を整えた。
あううっ。みんなこっちに注目してるよ。
あまりの恥ずかしさに、オレはクゥの背中にこそこそと隠れた。
「ありがとう!」
女の子が息を切らして走りよってくる。さっき泣きそうな顔で叫んでいた娘だ。
手に男たちから取り戻した鞄を、大事そうに抱えていた。
「ありがとうございました。これ、お店の売上金だったんです。なんてお礼を言ったらいいか……」
「いい、いい。お礼なんていいから!」
オレはクゥの手を取った。もう恥ずかしくてどうしようもない。顔が火照っているのがはっきりとわかった。
ぶちまけた買い物の品々を焦って拾い集める。野次馬の視線が腰のあたりに集まっているような気がして仕方がない。
うめき声を上げている引ったくり犯の後頭部に、怒りと羞恥心をこめた蹴りをブチ込んでやった。
「それじゃ気をつけてね。警察を呼ぶなら適当に言っといて。じゃあ!」
クゥを引っ張るようにしてその場から走り去る。
ああもう! 何人に見られちゃったんだよ、オレは!
◇ 九日目
「女の子っぽくなってきたねえ」
それがシンシアさんの第一声。
オレはキッチンで夕飯の仕度をしていた。ジーンズとラフなサマーセーター。それにフリルのついたエプロン。
エプロンはオレの趣味じゃない。こんなデザインのものしか、この家には無かったんだからしかたないじゃないか。
「なんスか、それ」
「いや、なんかこう、腰のあたりに色気というかなんと言うか……」
ペロンと撫でる。
「ひゃうっ!」
思わず声が出た。
「な、なにをするんですか、なにを!!」
「クゥから聞いたよ」
しれっとした顔で話題を変える。
「昨日、引ったくりと大立ち回りを演じたそうじゃないか」
「え……ああ、そうです。マズかったですかね」
「いや。そんなことはないがな。さらに、下着姿を衆人環視にさらしたとも聞いた」
ボッと頬に血が昇る。
「クゥのやつ。黙っててくれるって約束したのに」
「恥ずかしかったか」
「あたりまえでしょ! 知らない人が沢山いたんだから!」
「ケンカに勝った喜びより、下着を見られたほうが恥ずかしかったんだな」
「……あ」
オレは絶句した。
「精神なんてものは、結局、肉体に縛られるものなのかもな。人の心を学ぶ立場としては、複雑な気分だよ。おそらく神学者もわたしと同じことを考えるだろう。魂とはなにか……とな」
「オレは……そんな」
「なあ、イツキ」
シンシアさんはいつになく真摯な口調で言った。
「もし……もし、だぞ。おまえが男に戻れないとわかったときは、わたしたちと暮らさないか」
「そんな! 戻る方法があるかもしれないって言いましたよね、シンシアさん」
「だから、もし、だ。わたしもクゥもクレイも、キミのことを気に入っている。女として生きていくのなら、たぶんクレイがキミを受け入れてくれるだろう。男の心が棄てられないのであれば、わたしが相手をしたっていい。そうしないか、イツキ」
「なんで急にそんなことを……」
シンシアさんは、口の端に自嘲的な笑みを浮かべた。
「……焦げてるぞ」
「あぁっ!」
せっかくのエビ玉が!
「まあ、考えておいてくれ」
慌てて中華鍋を振っているオレに、シンシアさんはそう言い置いた。
ドーン、と体当たりをかますクゥ。
「お風呂一緒にはいろー!」
「ダメ」
一応オレは男なわけで、子供とはいえ、それなりに女の子らしい体つきになってきているクゥとは、裸のお付き合いはできない。
「でもはいろー!」
「ダメったらダメ」
「はいるんだぁ!」
ぐいぐいと頭からオレを押していく。
「イツキ。キミはロリコンか。ペドフェリアか」
「違うわっ!」
シンシアさんは食後の一杯を楽しみながら、焦点の定まらない眼でオレを見ている。
「なら、かまわん。女同士、親睦を深めてこい」
「かまえよ!」
「お風呂だ、お風呂ー! イツキと一緒にお風呂にはいろー! アタマ洗って、背中も洗って、イツキの身体を調べ尽くそー!」
オレ、そんなのイヤだぞ、クゥ。
イヤだって。
おい、クゥ。
クゥ!
◇
気がつくと裸に剥かれて、湯船に肩までつかっていた。
恐ろしい。
クゥという少女の存在に、オレは恐怖した。
「ホクロ、はっけーん! これで五つ目!」
好きにしてくれよ、もう。
◇
さんざん調べ尽くされて、羞恥心もどこかに吹っ飛んだところで、クゥが背中を流してくれた。
背を丸め、クゥが触れてくる感覚に耐える。長い髪をおさえる手に、不自然に力が篭もっていた。
「ごしごし」
わざわざ擬音を発するクゥは、上機嫌だ。
「ざばあっ」
とお湯をかけられる。やっと終わった。……と思ったら、まだだった。
「ハイ、次はこっち向いて」
「そ、それはいい!」
「なんで。なにテレてんのよ。――ククク。おとなしくせい、愛いやつめ」
「やめ、やめ!」
なんだかわからないうちに簡単に押し倒されてしまった。性能の高いこの身体を手玉に取るなんて、何者デスカ、クゥさん?
「おっきぃ――」
わにわにと揉まれる。ひぃ!
「やめろぉー!」
「柔らかーい!」
「よせぇー!」
「先っぽも、うりうりっと」
「あうぅー」
やめてくれぇ。
「そしてその手は最後の秘境へと……」
「それは絶対ダメ!!」
全力でクゥの手を振りほどいて逃げ出す。
「ハァ、ハァ……。おい、クゥ」
「てへ」
可愛く笑ってんじゃねぇ!
「待て、コラぁ!」
けらけらと笑いながら逃げ出したクゥを追う。
バスルームから脱衣場。そして廊下に。
「お、おい。なにやって――。っ!!」
「あ……」
身体が固まった。
相手も同様に固まっている。
クレイだ。
湯気が立ち昇りそうな勢いで、お互いに顔が赤くなっていく。
『ご、ごめん!』
とハモってから、どたばたと脱衣場に逃げ込んで、へたり込んだ。
「あぁぁ、あせった――」
なにやってんだ、オレ。
それに――なんでこんなに焦る?
◇ 十日目
ぶらぶらっと外に出る。
独りになりたかった。なんか、頭の中にいろいろなことが渦を巻いている感じ。
『女の子っぽくなってきたねえ』とか、
『下着を見られたほうが恥ずかしかったんだな』とか、
『おまえが男に戻れないとわかったときは――』とか、
『あぁぁ、あせった――』とか。
なんであのときあそこまで狼狽したのか、その意味を考えた時、グチャグチャに思考が乱れた。
――もしかして、そんなに変わってきてるのか、オレは?
自分ではよくわからない。
無意識だから、よけいにたちが悪かった。一度しっかりと自分を見つめなおさないと、そのまま見失ってしまいそうな予感。“オレ”という記憶の上に積み上げられてきたモノが、足場を失って揺らいでいる。
アブナイ――そんな焦燥感だった。
「オレは、テンカワ・アキトだ……」
確認するように呟いて、実は確認しなければいけないほど自己が揺らいでいたことに気づいてしまう。
「くそっ!」
世界から自分ひとりだけが浮かび上がっているような奇妙な感覚の中で、ふらふらと歩道を歩く。
「あの。カザマ・イツキさんですよね」
そんなオレに声をかけたのは、ショートに黒髪をまとめた、真面目そうな女の子だった。
「……?」
「あたしです。二日前に引ったくりを捕まえていただいた」
「ああ」
思い出した。あの時、泣きそうな顔をしていた女の子。
「よかった、お会いできて。もう一度お礼が言いたくて、ここで待っていたんです」
律儀そうな娘だとは思っていたけど、なにもそこまでしなくてもいいのに。
――いやまて。
「待ってた? なんでオレがここを通るってわかったんだ。それにどうしてオレの名前を?」
「教えてもらったんです。ここで待っていれば、カザマさんに会えるって」
そんなバカな。
「誰がそんなこと」
「うちの店に住み込みで働いている人なんです。テンカワ・アキトさんっていう。――お知り合いなんですよね?」
そこは、この界隈で古くから店をかまえる、老舗の大衆食堂だった。
「ただいまぁ。カザマさんつれてきたよ、父ちゃん」
客でごった返している店内に足を踏み入れると、はっきりとよく通る声で厨房の奥に呼びかけた。
おう! と威勢良く出てきたのは、前掛けを油で汚した、頑固一徹を絵に描いたような親父だった。
「そうかい、あんたがカザマさんかい。なんでもコイツが、えれぇ世話になっちまったらしいじゃねえか」
「いえ、たいした事じゃないですから」
「なあに。世話になっておいて、礼のひとつも言わねえってんじゃあ、ちゃきちゃきのルナっ子の名が泣くってもんよ。たいしたもてなしもできねえが、ゆっくりしていってくんな」
そのまま強引に店の奥に連れ込まれた。たたきを上がると、日本家屋を模した住居になっていた。
「あの、オレ、こちらにテンカワ・アキトが御厄介になっていると聞いて来たんですが」
「アキト? なんでぇ、あんたアイツの知り合いか。――ははぁん。さては、これだろ」
お約束どおり、小指を立ててみせる親父。
「あの野郎、こんな美人とうまい事やりやがって、とんでもねえ野郎だ。で、どこまでいった関係なんだ?」
「父ちゃん!」
暴走気味の親父を、娘が突っ込む。しかしそれで止まるほど、ルナっ子は甘くなかった。
「いいじゃねえか、べつに。オメエだって気になってんだろ、マチコ。ここだけの話ですがね、カザマさん。この野郎、どうやらアキトにホの字――」
「もおっ! 父ちゃんはあっち行ってて! ばかあっ!!」
真っ赤になって親父を叩く。真面目そうな女の子のこういった表情は、破壊力抜群の可愛いさだった。
「ううーー。父ちゃんのバカっ」
親父を追い出すと、彼女は目尻に涙を溜めたまま、ペコリと頭を下げた。
「ごめんなさい、変な父親で。それとあの、アキトさんのことは気にしないでください。あたしが勝手にちょっといいなとか思ってるだけで、カザマさんとの関係がどうとか、邪魔してやろうとかなんて全っ然思ってないですし、それにこんな綺麗な人が相手じゃ、あたしなんか勝負にもなんないし、それにそれに、あたしオッパイちっちゃいし、ちょっとガニマタなのは父ちゃんの遺伝で、でもでも顔は母ちゃん似で、学校では少しはカワイイって……て、なに言ってんだろアタシはっ!」
パニック状態でグルグルしている姿に、思わず吹き出してしまった。
「くく……あのね、オレとテンカワ・アキトは、そういう関係じゃないから。そうだな……肉親……みたいなものなんだ」
「そうなんですか!?」
ぱあっと日が射したように表情が明るくなる。
学校で人気があるのは本当のことだろう。この娘なら、そうなって当然だ。
「それで、しばらく連絡が取れなくなっていてね。ここにいるって聞いて、驚いたよ」
「そうなんだ。よかった……って、アキトさんには黙っててください! お願い!」
「了解、了解。で、さっそくで悪いけど、呼んできてもらえる?」
「ハイッ!」
と、目尻の涙を拭い、彼女は厨房のほうへと消えていった。
日本風の畳敷きの居間に、大きめのちゃぶ台がひとつ。カチコチという柱時計の音が奇妙に情緒深いそこは、オレの波立つ心を静める効果があるようだ。
「来たか」
背後から、声が聞こえた。
振りかえる。
そこに、見慣れていながらも、こうして第三者の目で見ることははじめての男がいた。
はねた油に汚れたTシャツとハチマキ。
ざんばらの髪は、手入れをするという発想そのものがないのだ。
中肉中背の体つきだが、重い鍋を扱うことが多かったために、意外と筋肉質であることも知っている。
テンカワ・アキト。
そこに、オレがいた。
「ゴメンな、マチコちゃん。二人だけにしてもらえないかな」
そいつ――アキトは、マチコちゃんにそう言う。
彼女は落ち着かない様子でしばらくオレたちを見比べていたが、最後に「うん……」とうなずくと、そのまま居間から出て行った。
「まあ、座れよ」
アキトはオレに座布団を渡し、自分はちゃぶ台の向こうに回って腰を落とした。
「聞きたいことがあるんだろ」
「オマエ……いったい誰だ。もしかして、中身はカザマ・イツキなのか? オレと入れ替わったのか!」
オレは立ったまま、最大の疑問をぶつけていた。
アキトは首を横に振った。
「違う。オレは、心も身体もテンカワ・アキトだよ。わかりやすく言うなら、『三人目のアキト』さ」
「三人目……?」
「三人目のカザマ・イツキは見たよな。だったら、オレたちも三人いたって、おかしくないだろ」
やけに落ち着いている三人目のアキトは、もう一度座布団を指し示した。
「とにかく座れって。長くなるからさ。お茶、淹れてくる」
立ち上がり、姿を消した。
オレは混乱していた。ここにテンカワ・アキトがいるのなら、その中身はオレと入れ替わったカザマ・イツキだろうと単純に考えていたのだ。
しかし違った。
オレはドスリと腰を落とした。大股開きになってしまっていたが、気にする余裕もない。
――それだったら、アイツはいったいなんなんだ?
「ほら」
戻ってきたアキトが、オレと自分の前に湯飲みを置く。
白い湯気を立ち昇らせるそれを手に取り、アキトはずずっと一口すすった。
「ふぅ」
「ふぅ、じゃないだろ。なごむな! とにかく、どういうことか説明しろ」
「それはいいけどな……。目のやり場に困るから、それ、どうにかしてくれ」
少し照れたような表情で、アキトはオレの下半身にチラリと視線を送る。
スカートがはだけて、下着が丸見えになってしまっていた。オレは慌てて居住まいを正すと、ちょこんと正座した。
「……見たな」
「見たよ。いまさらどうということは――いや、こうして他人になってみると、やっぱり照れるか。その身体、ホントに綺麗だな」
奇妙な返事だった。
「なんだって? 他人になった?」
アキトはジーンズのポケットを探ると、一通の封筒を取り出し、ちゃぶ台の上に投げ出した。クシャクシャになったそれの表面には「アーヴィン旅行代理店」の文字とロゴが印刷されている。
「もってけよ」
わけがわからない。手に取り中身を確かめると、チケットが一枚入っている。地球行きの定期便のチケットだった。
「オレがここで働いた金で買ったんだからな。エコノミーだけど感謝しろよ」
「なんだよ、これ」
「明後日の地球行きの便だよ。カワサキシティまでの連絡艇も一緒に予約してあるから」
「だから、それがなんなんだって訊いてるんだ!」
たまらずちゃぶ台に拳を叩きつけた。
「元の身体に戻りたいんだろ? それには、もう一度ボソンジャンプするしかない。それしかないんだ」
「とっくに試したさ。でも、この身体じゃ出来なかった。どうしろってんだ!」
「だから地球に行くんだよ。オレたちは、どこでボソンジャンプが起きるか知ってるはずだ。それに巻き込まれてしまえばいい」
「!」
そうか!
その一言で、すべての点が、一気に線で結ばれていった。
「四日後のカワサキシティ! オレが……一人目のオレが、そこでボソンジャンプをする!」
「そうだ。それに巻き込まれて、もう一度、二週間前の月に跳べ。それしかおまえが元の身体に戻る方法は無い」
「じゃあ、おまえは……!」
やつは……アキトのやつは、イタズラに成功した子供のように笑いやがった。
「言ったろ。三人目のアキト、さ」
◇ 十一日目
薄暗いリビングで、オレは闇を見つめていた。
ソファに身を投げ出して、天井を見上げる。
身体の中から何かが抜け出してしまったような虚脱感があった。
コンコン――
という音。
見ると、大きめのTシャツを寝巻きがわりにしたシンシアさんが、壁に背をついてこちらを見下ろしていた。
コンコン――
もう一度壁を叩く。ノックの代わりなのだろう。シンシアさんらしくない気配りだ。
「いいかい?」
「ええ」
足音も立てずに、シンシアさんは空気のように近づいてくる。そしてオレが横になっているソファに腰をおろした。
「どうしても行くのか」
「……はい」
「そうか」
一時間ほど前、床に就こうという寸前になって、オレはみんなにすべてを話した。
明日、この家から出て行くこと。
地球に渡り、カワサキシティに行くこと。
そして、もう戻ってはこないこと。
その直後から、オレは奇妙な虚脱感に捕らわれていた。
「シンシアさん、この方法しかないって、とっくに知ってたんですね」
「まあ、な。三人目のイツキを見たときに気づいたよ。……ああ、こういうことかってね」
「実はまだよくわからないんです。結局、彼女は誰なんです? 身体じゃなくて、その中身は」
「さっき、クゥからなにか渡されていたよな。見せてごらん」
ポケットからそれを取り出す。ネックレスだった。シンプルだけど、曲線の中に優しさが感じられるシルバーのアクセサリー。
……そういえば、泣いていたな。クゥ。
「それを見て、思い出さないか」
「なにをです?」
「それは三人目のイツキが身に着けていたものと、同じデザインのはずだ」
オレは身を起こした。手のネックレスを頼りない灯りの下で食い入るように見つめる。
記憶の中のそれと……同じだ。
「わたしたちの母親は、ジュエリーのデザイナーでね。わたしたち一人一人に、それを遺して逝った。それはクゥが自分で作ったレプリカだろうな。あの子は母親の仕事を継ぐのが夢らしいから」
「まさか……」
「そのデザインは、世界に三つ……いや、それを含めれば四つしかない。わたしたち家族だけが持っているものだ。クゥは、本当にキミに家族になってもらいたかったんだな」
オレは言葉もなかった。
「それを見て、すべて悟ったんだ。あのイツキが、未来のキミだってね。――それでも行くのか、キミは」
しかしオレは、別の可能性も知っていた。
三人目のアキト。
どちらがオレの未来なのか、それはわからない。それはこれから決まることなのだろうという、漠とした理解があった。
「……行きます。いまのオレは本当のオレじゃないと思うから。自分が変わっていくのを知るのは恐いんですよ。情けないですかね、オレ」
「いや、そうでもないさ。自分が別のものに変わっていくのを知るのは、死んでいく自分を見るのと同じ恐怖だろう。元に戻れるのなら、それが一番いい。だから――」
彼女は何の前触れもなく、自然にオレと唇を合わせた。
深い、深いキス。
「――負けるな。アキト」
驚きに見開かれていたオレの目尻から、ふいに何か熱いものが零れ落ちた。
「あ、れ……?」
それは何度も、尽きることなく零れ落ちていく。
「あれ……おかしいな。なんで……」
女の身体になったから、涙腺がゆるくなったのかもしれない。きっとそうだ。
「なんで、こんなに、悲しいんだ……。く……うぐっ……」
「泣いてやれ。それは、キミの中に生まれようとしていた、もう一人の自分への別れの涙だよ。キミはこれから“彼女”を殺す。だから、せめて涙ぐらい流してやれ」
「ふ……ぐっ……うぅ……」
そうか。と思う。さっきまでの虚脱感も、この悲しさもそのせいなのか、と。
込み上げてくる熱いものに負け、オレはシンシアさんに縋り付くようにして泣いた。
「負けるな、アキト」
運命に。未来に。自分に。
その言葉を胸に染み込ませ、ただ泣いた。
◇ 十二日目
0821LT。
その日最初のシャトル便に乗り、オレは地球へと向かった。
月を振り返りはしない。
必ず、もう一度帰るのだから。
◇ 十三日目
地球が見える。
青い、星。
◇ 十四日目
街はクリスマスイブの高揚感に包まれていた。
定番のクリスマスソング。伝染性のある親密感が、知人・他人の区別なく街行く人々を包み込んでいる。
楽しいはずのその場所が、突然の轟音と共に震えた。
遠く近く聞こえる悲鳴に気づき、オレは身を潜めていた場所から飛び出した。
はめ殺しの窓枠に取り付き、外の様子を探る。
いた。
二機の巨大ロボットが、カワサキシティを蹂躙している。
そこにエステバリス隊が応戦に駆けつけた。一機だけ飛びぬけた戦い振り。カザマ・イツキだ。
記憶の中にあるものと、まったく同じ光景が、もう一度そこで繰り広げられていた。
ボソンジャンプを繰り返す敵機の片方に、カザマ機が取り付く。そのままカノン砲をゼロ距離射撃。
「バカ! 無茶だ!」
オレは思わず、そう叫んでいた。その一方で、この身体の本当の持ち主らしいとも感じる。
その勇猛さに、知らずに血が騒いでいた。
「もう少しだ! いけ!」
本当にもう一撃、というところで、その巨大ロボットはカザマ機を取り付かせたままボソンジャンプで消えた。そして、数十メートルはなれたビルの壁面に衝突して、もう一度出現する。
取り付いていたエステバリスが、グラリと傾いて、そのまま落下した。コックピット部がごっそりと抉り取られている。
一人目のカザマ・イツキが、こうして消えた。
「くそっ!」
ガラスを拳で叩きつけ、オレはその部屋から走り出た。
走りながら、腰と両肩にパイロットスーツのコアユニットを取り付ける。左肩の起動ボタンを押すと、ナノスキンのコーティングが全身に広がっていった。ヘルメットに頭を突っ込み、耳の下にあるボタンを押すと首まわりもナノスキンでコーティングされ、パイロットスーツは完全に密封される。
空気の噴出音と共に、鼓膜が一瞬圧迫されたが、それもすぐに収まった。
こんな薄い材質で真空での一気圧を保てるのが不思議なほどだが、いまはそれに命を預けるしかない。
オレはビルの廊下を走り抜け、階段を駆け上る。屋上への一本道。
息切れることを知らない肉体を駆り、オレはビルの屋上に飛び出した。
蒼い光。なにもかもが、それに染められている。
その中心にオレがいた。
テンカワ・アキト。一人目のオレ。
全身に幾何学模様の光の筋を浮かび上がらせ、目の前の巨大ロボットに挑むように仁王立っていた。
オレは――
その光の中へと、飛び込んでいく――
◇ 零日目
『死にたくない』という願いが聞こえた。
◇
――こんなところで終わるのはイヤ
――こんなところで死んでたまるか
それは、一人目のイツキと、一人目のアキトの願いだった。
月が近づいてくる。
そこは死の世界だった。
『死んでたまるか!』
一人目のアキトは、生き残るための方法を、本能的に悟っていた。
生身の自分。
そして、ここにはもう一人、エステバリスのアサルトピットとパイロットスーツに守られた女が、道を失って彷徨っている。
『死んでたまるか!』
一人目のアキトは、その唯一の命綱に、強烈な生存本能をぶつけた。
◇
パシンッ! という、何かがはじけるような鋭い音に続いて、すべての音が消え去った。
黒い世界。
そこは月面だった。
ボソンジャンプに巻き込まれた空気の弾け飛ぶ音を最後に、オレの身体は真空に支配された。
自分の身体をまさぐる。パイロットスーツの下に、確かな胸の重みを感じる。オレはまだ、カザマ・イツキの身体に縛り付けられたままだ。
閃光と共に、アサルトピットが飛び上がっていった。あれは、過去のオレだ。カザマ・イツキの肉体と、生き残るためのすべてのものを奪い去った“オレ”が乗っているのだ。
続いて、月面に横臥していた巨大ロボットの頭部が、いきなり火炎を吐き出したと思うと、同様に飛び上がっていった。
まるで脱出艇のようだった。まさか誰かが乗っていたのかという、ありえない疑問が胸に浮かぶ。
しかし、それも巨大ロボットの傍でもだえ苦しむ、テンカワ・アキトの姿を見つけるまでのことだった。
走りより、抱き上げる。急激な減圧に顔が膨れ上がり、目玉が零れ落ちそうになっていた。
もう、数秒の余裕も無いかもしれない。
オレは、そのアキトの手に、シンシアさんから受け取ったCCを握らせ、ヘルメットのバイザーを耳の傍の骨に押し付ける。ゴリゴリと異音がするほど押し付けながら、精一杯に叫んだ。
「跳べ! イツキ!」
聴こえてくれと、必死で願う。真空でも骨伝導で鼓膜が震えるのかさえわからない。すでに鼓膜は破れているのかもしれない。それでも叫ぶしかなかった。
「死にたくなければ跳べ! オレの身体を奪え! おまえが生き残るために、オレを守っているすべてのモノを奪い取れ! 生き残れ、イツキ! 負けるな!」
CCを挟んだ手を、精一杯の強さで握る。
「跳べ!!」
手の中で、CCが溶けるように消えた。蒼い光の粒子が広がり、オレたちを包み込む。
アキト=イツキのどす黒く変色した顔に、幾何学模様の光のすじが、次々に伸びていった。
「跳べ! イツキ!!」
◇ 一日目
オレは、生きていた。
ここは月の居住区だろうか。空気も光も、生きるためのなにもかもがそこにあった。
腕の中にはカザマ・イツキがいる。ヘルメットを脱がせると、その下は目を覆いたくなるほどの酷い痣に覆われていた。そしてテンカワ・アキトとなったオレには、なぜか傷一つ無かった。
――彼女がすべての傷を受け止めたのだ。
それがカザマ・イツキという女性の強さなのかもしれない。オレにはそうとしか思えなかった。
そっと彼女の身体を地面に横たえたとき、オレは自分のポケットに異物の感触を覚えていた。
取り出してみると、それはクゥのネックレスだった。カザマ・イツキの肉体だったとき、首にかけておいたのに。なぜ、それがここにある?
そして、答えはやはりひとつしかないのだった。
「まったく……。オレから全部奪えって言ったろ。これが必要なのはあんたなのにさ」
オレはそれをイツキへと受け渡した。胸の上のネックレスは、彼女を守るように誇らしげに光り輝いている。
「イツキを助けてやってくれよな、みんな」
オレは最後の挨拶を済ませた。自分の身代わりになったも同然の彼女を、こんなところに置き去りにするのはひどく心苦しい行為だ。しかし、そうすることが正解であることは知っているし、もう自分にできることもない。
オレはその場から歩み去った。
かなり離れたところで、背後がにわかに騒がしくなる。イツキが発見されたのだろう。
一度だけ振り返り――
そしてオレは、三人目のアキトとしての新しい二週間に向けて、歩みだした。
◇ そしていつかの日
わたしは、生きていた。
色彩を失った病室のような場所で目覚めたわたしは、何年も眠りつづけていたかのような、衰えきった手足に驚きを隠しきれずにいる。
満足に立つことも出来ない身体は、自分のものではないかのようだった。
「いったい、どうして……」
苦労して半身をベッドの上に起こすと、胸の上で何かがチャリンと鳴った。
それは可愛らしい銀のネックレス。
「これは……」
見たこともないはずだ。
それなのに、なぜか大事なものだという気がする。
油の切れたような腕を必死に動かして、それを手に取る。
そして、裏に刻まれた文字を発見した。
『 for my sister i.k 』
なぜだろう。
泣きたくなるぐらいに嬉しい。
あとがき
むぅ。
TS(性転換)ものをやりたかっただけなのに、TV版に繋げるために余計な行数を取られてしまった。
TSの表面を舐めただけじゃ、この萌え残った情熱は消えやしませんて、ホント。
このジャンルに初挑戦だったんですが、とにかく難しいです。というか、イツキ=アキトがぜんぜん萌えない。
もっとメンタル面で女性化させるべきだったのか、優柔不断なところに萌えを見出すべきだったのか、戸惑いをあっさりカットしたのが間違いだったのか、せめてユリカが出せれば定番幼なじみネタがやれたのに〜とか、いやユリカが相手じゃ、どう転んでも定番の展開にはならんなとか、ナデシコメンバーを出せれば、ネタなんざいくらでも転がってるのに。とか。
とにかく、いまいち萌えきれてないです。
TSものは、別に書くかな……。
で、最後に。
1000万ヒットおめでとうございます。
なんかモノスゴイ数字なんですが。一千万。いっせんまん。十個溜めたら、一億。うーん。
ではでは〜。
管理人の感想
ぼろぼろさんからの投稿です。
あの提示した条件から、まさかイツキを使ったTS物が送られてくるとは思いませんでしたよ。
ラストまで綺麗にまとまっていて、実に読み応えのある作品だったと思います。
意識を取り戻した3人目のイツキが、この後どんな人生を歩んだのか、かなり興味深いです(笑)
代理人の感想
未来を選択することは、有り得た可能性を消滅させることに他ならない・・・・とか言ってみたりして。
この時消滅させたのは「イツキとして生きていく未来」だったわけですが、
たとえ選択の余地がなくても、何かを失うと言うのは悲しいことです。
ですが言い換えれば何かを得ようと選択をするたびに我々は何かを失っているわけで。
これも業という奴なのかもしれません。
ちなみに、時間軸がよく判らない人もいたかと思いますので一応整理してみましょう。
零日目
未来から一人目のイツキ(以下イツキ1。逆行したものは「’」をつける)がアサルトピットと共に、
一人目のアキト(以下アキト1’)は生身でそれぞれ月面に出現。
アキト1’とイツキ1’、精神を交換する。
ここで二人目のイツキ(中身アキト。以下イツキ2)と
二人目のアキト(中身イツキ。以下アキト2)が誕生。
結果、アキト1’とイツキ1’は消滅。(ただし、逆行前のアキト1とイツキ1はまだ地球に存在)
イツキ2はアサルトピットで脱出、アキト2は置き去りにされる。
同時に月面に飛んでいた未来のイツキ2(イツキ2’)、アキト2にCCを握らせ再度ジャンプさせる。
一日目
月面都市にイツキ2’及びアキト2がジャンプアウト。
この時再び精神が交換される。
三人目のアキト(TV版どおり食堂でアルバイトしてたアキト。以下アキト3)と
三人目のイツキ(病院で意識不明になっていたイツキ。以下イツキ3)が誕生。
結果、アキト2とイツキ2’消滅。(誕生したばかりのイツキ2はこの時点で入院中)
※イツキの意識をもったアキト2は彼女の主観で数秒〜十数秒間しか存在していない。
イツキ2はアサルトピットから救助され入院。イツキ3は軍に保護されアキト3は食堂でアルバイトを始める。
この時点で
地球のイツキ1(まだナデシコに乗り込む前)と
病院のイツキ2(中身はアキト)、
軍に保護されたイツキ3(意識不明)の三人のイツキが存在する。
二日目
イツキ2、覚醒。
五日目
イツキ2、フィッツジェラルド家に移動。
七日目
イツキ2、軍に保護されたイツキ3(意識がない)と対面。
八日目
イツキ2、久美と対面。
十日目
イツキ2、食堂に。アキト3より事情を聞きシャトルのチケットを受け取る。
十二日目
イツキ2、シャトルに乗る。
十三日目
イツキ2、地球に到着。
十四日目=十三話時点
イツキ1、テツジンのジャンプに巻き込まれる。
アキト1はマジンと共にジャンプ。(この時、イツキ2が故意に巻き込まれてジャンプ)
3人とも二週間前の月へジャンプする。
いつか
イツキ3、覚醒。
重要なのはアキトの意識が2回時を遡っていると言うことですね。
カワサキシティからアキト1の体でジャンプしたときと、イツキ2の体でジャンプしたとき。
共にジャンプ直後にイツキと精神を交換しています。
つまり、TV版で描かれた「重複する二週間」の間に、
更に「イツキ2としての重複する二週間」があると考えればわかりやすいでしょうか。
一方イツキの場合はイツキ1→アキト2、アキト2→イツキ3への意識の移動が
ほぼ同時、同じ場所で行われたために重複は二週間だけです。
もちろん2度目のジャンプ以降は意識不明なんですが。
書いてて自分でも訳がわからなくなりましたが、おわかりいただけたでしょうか?
別人28号さんの感想
最初の一手からインパクト大ですね
そのままコメディ方面に向かうかと思えば、ストーリーは意外とシリアスに
どうやら萌え方面を目指していたそうですが、これはこれでいいと思います
登場人物のほとんどがオリキャラですが、これもなかなか
あえて言うなら唯一の異姓であるクレイがもう少し絡んで欲しかったかな?
それはそれで別方向に進んでいきそうですが
あと、クーリアですが
このコ やっぱりシンシア女史の妹だと思います
将来が色んな意味で楽しみだったり不安だったり(笑
ゴールドアームさんの感想
なんというか、B2Wのテーマ、越えちゃってますね(笑)
タイムパラドックス、TS、いろいろお約束てんこ盛りで。
でも、むっちゃ面白かったです。
これからもどんどん頑張って執筆してください。
PS
TSもの、是非是非書いてくださいな。
そのときはどうか、感想指名は私に(爆)。
当方、筋金入りの(インターネット初投稿は、黎明期の少年少女文庫です)TSオタですから。
TS萌えに関してなら、いくらでも議論できます。
龍志さんの感想
TSはいいですねぇ(笑)と水野さんの真似をしたところで感想行きます。
イツキがどうなったのか。そして3人目のアキト。
面白かったです。こーゆー考え方もありだなぁと驚かせていただきましたよ。
ただ、1つだけ文句を言うならば少しながすぎかなと(苦笑)
もう少しきるべき所は切っても良かったのでは無いかと思いました。
まぁ…この冗長さがまたいい味を出しているというのも否定できないんですがね(笑)
しかしまぁ、全体的にはお見事。最初の場面から釘付けでしたよ(笑)
プロフェッサー圧縮inカーネギー・ホール(嘘)の日曜SS解説・特別版
はいどーも、プロフェッサー圧縮でございます(・・)
今回はAction1000万ヒット記念企画と言うことで、解説役にゲストをお招きしておりマス。
圧縮教授「二人目の儂じゃ。多分な」
ハイ、では作品の方を見てみましょう( ・・)/
「ふむふむ。こう真っ向から同一人物が何人も存在するのも珍しいのう」
そうですねえ。昔から『ドッペルゲンガーは見たら死ぬ』と言います。
「それはまた違う話じゃろ」
気にしたらいけません(・・)
「・・・まあええ。しかし、更に性転換ものか。大盛りでご馳走さまじゃな」
これも愛、でしょうか(゜゜)
「それも違うぞ、多分」
細かい事は気にしてはいけません(・・)
「・・・まあ、ええ。しかし、何かどうもイツキアキトを見ていると、PCゲームで・・・」
はいはいはい、イロイロとアレがナニなんでそこまでー。
はい、では次の方どうぞー( ・・)/
日和見さんの感想
やばいやばすぎます超やばいです。日和見的ツボにブルズアイです(除レ○シーン。それはゴールドアーム氏@少年少女文庫の専門分野です)。TS化とそれに伴う精神の変容に怯えるアキトの描写程度は、本企画の趣旨の範囲内で考えると十分だと思います。
他の感想代理人と本作品について雑談をした際に、「複雑で一読しただけではわかりにくい」という意見が多々出ましたが
そーゆーのが大好きなんです。
とんでもない状況とそれを反則すれすれの力技で理論付けする。設定マニアの本懐です。
久しぶりに2回、3回と読み直して楽しませていただきました。
もし、本作品を読んで「よくわかんないや」と思った読者の方は、何度か読み返すことをお勧めします。状況が頭の中で整理されれば、面白さがぐっと増すと思います。
尚、萌え残ったTS物への情熱は是非とも文章化してゴールドアーム氏へ叩きつけてください。
氏は本作についても「情熱の篭った感想を書く」と気合が入っていたので、恐らく萌え残りを非常に残念に思っているはずです。
皐月さんの感想
TS物だったら101の中の人に訊けばよろしいかと
――でなくって。
萌えない理由は多分アレです――トイレでどきどき、お風呂でどきどき、女体の神秘でどきどきが無いからかと。
特に最後のは重要です。鏡に映った自分(だが異性で別人)の姿にどきどきしつつ、その細い指が下にむk(回線が切断されました)