機動戦艦ナデシコ
虚空の城
〜 Dead person’s requiem 〜
第一話 火星へ
「また火星?」
「はい。ミナトさん」
「火星とは縁が絶えないねー」
「まったくです」
ナデシコ出発の日、ナデシコCのブリッジで、ルリとハルカ・ミナトが会話していた。
≪火星にまた何かしに行くのルリ?≫
「そうですよオモイカネ」
ルリの目の前に現れた文字のみウィンドウに、ルリは答えた。
ナデシコのAIスーパーコンピューター・オモイカネ。ルリとのコンビでならどんなデータも掌握できる。実際いつもネルガルのあの神経質にたくさんあるトラップも難なく突破してハッキングしているので、ものすごい能力だ。
「でもさ、今度来るパイロットの子ってどんな子かな?かわいい子かな〜」
「ミナトさんからすれば皆かわいいんじゃないですか?」
≪そうそう≫
あのごついゴート・ホーリーさえもかわいいと言ってのける謎(?)の美女ハルカ・ミナト。ルリの尊敬する人である。……いろいろな面で。
「そういえば皆何処に行ったの?もうすぐ出発だからブリッジに来ててもいい時間なのに」
「食堂じゃないですか?久しぶりにホウメイさんの料理が食べられるってうれしそうでしたよ」
「あー、私も食べたい……」
「だめです。もうすぐ皆がきますから、ミナトさんと入れ違いになってしまいます。終わってからにしてください」
「えー」
十七歳のルリに叱られてへこむハルカ・ミナトであった。
「オモイカネ、そろそろ集合をかけてください」
≪はーい≫
ルリの指示でブリッジ以外の場所に集合をかけるオモイカネ。
しばらくしてから全員のナデシコクルーがやってきた。本来ならば全員は来なくていいのだが、今回は新クルーが来るので特別である。
≪ルリ、来たよ≫
「わかりました」
席からたってルリは一同の前に立つ。するとプシュッと音がしてサラリーマン風の男が入ってきた。
「おや〜、皆さんおそろいで」
「ええ。まあ」
プロスペクターは笑いながら入ってきて、後ろについてきた人物を紹介した。
「ネルガルからの推薦とご本人の意思で、エステバリスのパイロットとして来ていただきました。クリフさんです」
「よろしくお願いします」
ぺこりとお辞儀をするその少年を見て、皆息を飲む。
鮮やか銀色の髪、それと対になる金色の目。
「ルリルリ……あの子……」
「ええ。私と同じマシンチャイルド……」
アキトのそばに居たラピス・ラズリと同じ。
「そうなんですよ。ですがクリフさんはちょっと特殊でして、ルリさんのようなオペレーターの能力はからっきし無いんですよ。ですがエステバリスのパイロットとしては一流ですので、ご心配なさらずに」
「ようするに失敗作です」
「ク、クリフさん」
ずばっと言ってのけるクリフに慌てるプロスペクター。
「部屋は何処です?」
「え?ああはい。こちらですよ」
促されてプロスペクターはクリフをつれてブリッジから出て行った。
「何だアイツー。無愛想だな」
エステバリス隊の隊長のスバル・リョーコが頭の後ろに腕を組みながら言う。
たしかにクリフはにこりともしなかった。
「なんか最初のルリルリ思い出すね」
アマノ・ヒカルがしみじみと言う。
その隙に整備班やらは皆持ち場に戻っていく。
「無愛想……急ぎの用があるのにバラエティー番組を見て、「ぶっ、あ、急ごう」。……うーん」
ギャグは言ったはいいがいまいちだったらしく、マキ・イズミは首をひねる。
「イズミー、それ今までで一番意味わかんね―よ」
「うん。わかんない」
「うー……」
エステバリス三人娘はそう言いながら退場する。
「ルリルリ、大丈夫?」
「え?」
「だって顔色悪いもん」
ミナトに言われて、少し目を伏せるルリ。
マシンチャイルド。ラピス・ラズリ。
今アキトのそばにいる少女。
五感を失った彼を支えている、マシンチャイルド。
同じ、金色の瞳。
その後、とりあえず地球をでたナデシコC。一路火星へ向けて旅立った。
「アキト」
桃色の髪の少女が、黒い機体に向かって声をかけた。本当はその機体の中にいる人物に向かってだが。
形からするにエステバリスであろうが、大きさは普通のエステバリスの二倍はある。
それが、機動兵器ブラックサレナ。
開発された当時は、性能は良いがパイロットに掛かる負担が凄すぎて誰も扱えなかったが、自在に使いこなせれば最強の力を手に入れられる…などとフレーズがついたことのあるブツだ。
今はあの重犯罪人テンカワ・アキトの所有物だ。また、ブラックサレナに搭載されているAIは、ナデシコのオモイカネと同じか、それ以上の機能を持つ。そして、自我があり、自らアキトを主と決めている。
ブラックサレナのコクピットが開き、黒いマントに黒いスーツに身を包んだ、黒いバイザーをつけた、それこそ上から下まで真っ黒な男が降りてきた。
「アキト」
少女はその男に近寄り、抱きついた。
さっきまで纏わり付けていた、男の近寄りがたい殺気があっといまに取り去られ、少女を肩に乗せる。
「どうしたラピス」
バイザーを付けていなければ、その瞳が優しく笑んでいただろうに、それを見ることは出来ない。
このバイザーも、体を包む黒い衣服も、彼の失われた五感を補う物だからだ。いくらラピスとリンクしているからといって完璧には治らない。そのため、更に器具を取り付け、完璧に等しいくらい五感を蘇らせた。しかしそれもラピスとのリンクと同じ、一時的なものでしかない。
「アキト、どこにもいかない?」
「行かないよ」
「ほんとうに?」
「ああ」
その問いは一年前から続いている。
ユリカを救い出してから、ラピスは何度もアキトに問うようになった。アキトの目的は後にも先にもユリカを救い出すことだ。そのユリカを救ってしまった今、ラピスは用済み。だから捨てられる。そう、ラピスは思っているのだ。
いくら黒い王子様になってしまっても、アキトはアキトだった。自分の復讐に巻き込んでしまった少女をそのまま放り投げることは出来ない。かといってこのままもいけない…。堂堂巡りの悩みだ。それこそ、アキトが未だに優しい心を忘れていない証拠。
「さ、今日はイネスさんの所にいったらもう寝よう」
「うん」
尚もギュッとしがみついてくるラピスを連れてその場を離れようとした時、アキトは一瞬にしてその気配を感じ取り銃を取り出した。
「誰だ」
ダークトーン。黒の王子モード。
向こうの箱が詰まれた影から、一人の人間が歩み出た。
「――!お前は!」
「再び会えたな復讐人――テンカワ・アキトよ」
「北辰!!!」
一年前と変わらぬ北辰の姿を見たアキトは全身から殺気を出す。
ラピスはおびえた表情でアキトの首に抱きつく。
「くくく…。我が死んだと安心していたようだな?……だから未熟者なのだ」
「貴様っ!!!―――!?」
「ほう。気づいたか。あれから一年が経ち、貴様の五感も更に失われ、いくらラピスとリンクしていてももう物もかすれてしか見えぬはず……やはり未熟者であっても貴様の価値はそれなりにあるか……」
上空を見上げたアキトに、あざ笑うような北辰の声が届く。
それに殺意を覚える前にアキトは驚愕で動けなかった。
「我らと共に来てもらおう。テンカワ・アキト。汝の利用価値は、死体となってもあるのだ」
上空に空間を割ったように在る、どす黒い居空間。
その向こうに城が見えた気がしたが……。
それを最後にアキトの意識は途絶え、そして北辰共々三人は姿を消した。
ちょっとした補足?
皆さんこんにちは。連合宇宙軍少佐ホシノ・ルリです。今回作者の代わりにちょっとした補足をやることになりました。まずは作者からの伝言で、「末永くよろしく」だそうです。まあこんな奴ほうっておいて補足に入ります。
おそらく皆さん、一年もあれば私ならもっと上に行けたんじゃないかと思っているでしょうが、あんまり偉くなると面倒なことが増えるので少佐に留まっています。それに、ネルガルからのバックアップもあるので、やりたいことは結構自由に出来てます。あとはアキトさんを迎えにいくだけです!
ハーリー君とサブロウタさんもわざわざ私に合わせて少尉と大尉のままです。べつにいいんですが。いざとなれば私だけでもナデシコは動きますし。でもアキトさんを迎えに行くとなればユリカさんもついて来てしまうんでしょうね……。できれば私一人で行きたいんですが。
もう一つ補足です。
火星に行くならボソンジャンプすれば良いじゃないかと思っている方。それはまあそうなんですが、実は今ボソンジャンプが使用不可能となっています。皆さんチューリップを覚えていますか?あれが原因不明の事故で故障してしまったんです。危うく一隻の戦艦がチューリップの中に閉じ込められそうになったそうです。つまり、チューリップの花びらが閉じてしまっているわけです。
そのため、イネスさんが借り出されています(昨日までは居たんですが)。唯一自由の利くA級ジャンパーが居ないため、火星に一気に跳ぶことは出来ないんです。ユリカさんは未だに入院中ですし、アキトさんは居ませんし。
他のジャンパーの方では火星までの距離を跳ぶことは難しいです。だから、ちょっとした旅行もかねて直接向かうことになったわけです。
お分かりになりましたか?
どことなく手抜きな感じですが気にしないでください。
それより、アキトさん大丈夫なんでしょうね…(怒)
代理人の感想その他
う〜む、このままだとアキトがお姫様役になってしまいそうな予感。
・・・・・・いまいち救出意欲がわかないな(爆)。
でも前回言ってたのはオリキャラのことだったんですね〜。
じゃあ、あの会話もオリキャラなのかな?
ところで前回の後書きで出てきた「投稿108星」、わからない人もいるかもしれませんので・・・・・・・・
説明しましょうっ!
「水滸伝」という中国の古典があります。
時は宋代、一見太平の世の中のその実、役人は腐敗し治安は悪化し、
綱紀粛正 政治倫理の確立 少年法の改正などが叫ばれるようになった頃(笑)、
天昂地刹の百八星を宿した英雄豪傑が乱れた世の中を縦横無尽に暴れまわり
山東は水の滸(ほとり)、梁山泊に集うまでの物語。
「南総里見八犬伝」とか「天保水滸伝」、最近だと「幻想水滸伝」などが
これのアイデアを拝借して作られた作品ですね。
で、「投稿108星」とはActionの投稿作家をこの108星に当てはめてしまおうと言う、
まあ冗談のような企画です。
SSの感想を書く「感想掲示板」の方で
「丁度108番目(実際は109番目でしたが)に投稿した人は
『玉麒麟 盧俊義(No.2)』の地位を上げます」
と宣言してたんですが、それをご存じなかったらしい新井千鳥さんがころっ、と109番目に当選なさったと(笑)。
おわかりいただけましたでしょうか?