少女の胸倉を掴みそのまま宙吊りにする。
「・・・ア・キ・・・ト・・・・・」
必死でアキトの手を解こうとするが、少女の力では不可能だった。
アキトがそのまま投げ飛ばそうとした瞬間、不意に電流を受けたような衝撃が全身を走る。
はじけるような感覚とともに、少女の中から何かが流れ込んでくる。
(私はアキトの目、アキトの耳、アキトの手、アキトの・・・)
(怖かろう・・・悔しかろう・・・・)
(ラピス・・・今度の戦いが終わったらオレとのリンクは切るんだ)
(ユリカァ――――!!)
(例え鎧を纏おうとも、心の弱さは・・・・)
(いいの?あの人たちのところに戻らなくても・・・・)
(あの人は・・・大切な人だから・・・・・・)
それは、ある世界で繰り広げられた1つの悲しい物語・・・・・・少女の記憶とも呼ぶものだった。
果て無き闇の果てに・・・
第三話 『時・世界、そして人』
少女はまたも見知らぬ部屋で目覚めた。
その部屋には最低限必要な者しか置かれていなかった。
少女はその殺風景な部屋の隅に置かれた飾り気のない大きなベットに寝かされていた。
そばに置かれた時計を見ると、夜中の2時半を少し回った所だった。
「・・・食べろ」
目覚めたばかりでボーっとしていると、アキトがいつのまにかベットの横に立っていた。
アキトの手には簡単な食事の盛られたトレイがあった。
それをベットの上に乗せる。
「どうした、早く食べろ・・・
活動に支障が出るようでは役に立たん」
「・・・これ・・・・アキトが作ったの?」
少女は驚いていた。
少女の知っているアキトは決して料理をしようとはしなかったからである。
もちろん昔は料理人を目指していた事は知っている。
それが最も残酷な形で不可能になった事も・・・
しかし、今目の前にある食事はどう見てもレトルトではなかった。
それほど凝った物ではない・・・・が、それでも暖かそうな湯気がたっていた。
「自分で作るのが一番安全だからな・・・・
それよりも早く食べろと言っているんだ、”ラピス”」
「・・・・・・・・・・・」
またもや”ラピス”という部分に敏感に反応する。
やがてゆっくりと食事に手をつけ始める。
出された料理は、少女の事を考えたのか、それとも単に簡単だったのか、どれも軽い消化の良さそうな物ばかりだった。
量もあまり多くはなかったが、少女はゆっくりとそれを食べた。
食べ終わると恐る恐るずっと考えていた疑問を口にする。
「あなたは・・・誰?」
「・・・・テンカワ・アキト・・・年齢は・・難しい所だが、戸籍上は18才程度だろう・・・・」
「18・・・才・・・・?」
「見えないか?」
コクコク
少女は小さく縦に首を振る。
「ま、そうだろうな・・・実際この体は15才程度だからな」
確かに姿だけ見れば、まだまだ幼さを脱しきれていない少年そのものである。
しかしその雰囲気は、18才どころか30・40代でもめったに見られないほど落ち着いている。
それもただ落ち着いているだけではなく、静かな中にもナイフを突きつけられているような冷たさを感じる。
「・・・・・・・・・・・・」
「今度はオレが質問する番だ
お前”達”の他にこの世界に紛れ込んだ奴はいるか?」
「紛れ・・・込む・・・・?」
「何だ?過去に来たとでも思っていたのか?
あいにくこの世界はお前達の世界とは違う・・・
わかりやすく言えばパラレルワールドのようなものだろう
その証拠にそっちの世界では火星にチューリップが落ちたのは2195年になっているが、こちらでは2193年に起こっている・・・
ま、今のところ大きな違いはその程度だが・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・言え、お前”達”の他にいるのか?」
「・・・・私の他には・・・多分ルリと・・・・」
「そうじゃない・・・」
その解答が気に入らなかったのか、少女の言葉を遮る。
「お前”達”の他にと言った筈だ・・・
あの事故でお前達5人が跳んだことはわかっている
その他の可能性について聞いているんだ」
「・・・・誰なの・・・・いったいあなたは誰なの?」
少女はだいぶ混乱しているようだった。
自分の目の前にいる男が何なのか・・・
ひどく懐かしいようで・・・それでいて、まったく知らない人のように感じる。
「質問に答えれば教えてやる・・・」
「・・・・・・・わからない・・・
遺跡は厳重に管理されてたし・・・
ジャンパーの行動もかなり制限されてたから・・・・
それにこの世界が過去でないとしたら・・・ルリ達だってここに来てるかどうか・・・・・」
「ふむ、お前達以外の”異邦人”が存在する可能性はきわめて低いと言う事か・・・」
「教えて・・・あなたは誰?」
「言った筈だ、オレの名はテンカワ・アキトだと・・・」
「そうじゃない、そうじゃないの・・・・」
「・・・過去・現在を通してオレ以外のテンカワ・アキトは存在しない・・・・」
最も最悪な答えだった。
その言葉を聞いた瞬間、一気に血の気が引いた。
少女にとってあの人がいない世界などまったく意味をなさない。
「・・・・そ、そん・・な・・・・・」
「ただし、オレがお前の言う”アキト”であるとも言える・・・」
それは今の少女にとっては救いとも言える言葉だった。
「それって・・どういう・・・・」
「質問タイムは終わりだ
今日からお前にはオレのために働いてもらうぞ・・・
まずはお前に見せたい物がある・・・ついて来い」
少女にはアキトについていくしか他に道はなかった。
彼からわずかに感じられる懐かしさだけが少女を襲う絶望から守ってくれるのだから。
【あとがき】
ども、Chobiです。
ちょっと前回はラピスが可哀想だったので今回は少し(ホントに少しだけ)ほのぼのとしてみました。
これで精神力ちょっと回復デス。
それにしても話が進みませんね(汗)
もう3話だというのにナデシコメンバーがほとんど出てきてません。
次の次くらいにはナデシコに乗りたいなぁ・・・・
次回はアキトの下僕1号さんが登場です。
クリムゾンでアキトにこき使われてる人って言ったら・・・・
それでは、感想・アドバイス・etc・・・お願いしま〜す♪
ではでは。
代理人の感想
・・・・・・本気で救いがありませんね(汗)。
まさしくタイトル通りの「果て無き闇」という感じです。
もっとも、Chobiさんは最初から「ダークを書く」と宣言して書いてらっしゃるんですから当然ですが。
ただ、これまではダークではあってもさほど痛くはないのである意味安心して読めましたが・・・
さてこれからは?