つやの無い黒に染まった異形の機動兵器は、主を待ち力なく頭をたれていた。










黒い影がたっていた。

影は黒い外套を纏った長身の男だった。深淵を思わせる美しい黒の長髪、雪原のように白い肌。鋭角的な美貌。
だが、眼は黒いバイザーに隠され見ることはできない。そして、その男は私を見て完璧な造形の唇に禍々しく冷たい笑みを浮かべる。


その男がこちらに向かってくる。男はもう完全に我の間合いに入っていた。この距離で我は獲物を狩り損ねたことは無い。


「馬鹿が」


瞬間、我はその男に発砲した。早うち。我は『外れるわけが無い』そう思っていた。


ありえないことが起こった。男はやすやすと銃弾を回避したのだ。驚く我を嗤いながら、余裕の表情で、


なんと・・・、我はそうかすれた声で呟いた瞬間、目の前に男がいた。


「なっ!?」


――――速い!!何も握られていなかったはずの男の手には忽然とナイフが―――刃がアンバランスなほど長い黒塗りのナイフが握られていた。

咄嗟に錫杖でナイフを受ける。手ごたえがまるで無い。凄まじい悪寒に襲われ反射的に我はわずかに身体を捻った。それが良かった。

奴は、まるでバターでも切るかのようにナイフでやすやすと錫杖を切り分けおった。

冗談もほどほどにしろ!?そう思いながらも身体はナイフを左目の犠牲で避ける事ができた。命よりは安いものだ。

我は無神論者だがこのときばかりは信じてもいない神に感謝した。

が、我はそれを避けたことと引き換えに体勢が崩れた。―――危機!!!

奴は流れるような動きで蹴りを、凄まじく鋭い蹴りを二発放ってきた。無防備な腹にそれをもろに受ける。受身すらとれない。

我は床に叩きつけられた。そのまま身体が跳ねた。十数メートルほど転がり、壁にそのままの勢いで身体ごとぶち当たる。

衝撃に息が詰まる。背骨が軋んだ。あばらも、多分ほとんどいかれてる。痛みで気絶すらできない。脚も折れていた。

そして我は壁に激突してやっと止まった。なんて――――出鱈目な。


「ウッ・・・ゴホッ・・・ケホ・・・。」


我は口を押さえながら床を転がり、机の影に文字通り転がり込む。痛みは無視する。

口を押さえた手に生暖かいもので濡れる。吐血していた。驚くほど大量の血が吐き出され、我の白い外套を汚していく。

それでも咳が止まらない。赤紅赤赤アカ赤――――私は死ぬのだろうか。死し死SI氏獅子しし視し―――――――死ぬ?

死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ


しぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬ


しぬしぬしぬし死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬシヌシヌシヌシヌシヌシヌシヌシヌシヌシヌシヌシヌシヌシヌシヌシヌシ


ヌ死



我が・・・こんな所で・・・・・・・・






冗談じゃない



我はまだ死んでいない。




死んでたまるか。養女をらぴすを助けるまで死ぬことはできん。




コツコツと、靴音がする。視界の端に靴が見えた。カチカチカチカチカチカチカチ。五月蝿い。耳障りだ。その音はどんどん大きくなる。





その音が自分の口から出ていることを知るのには、少々時間がかからなかった。


我が、この我が震えている。この我が恐れている。


身体が恐怖ですくむ。目線をちらりと上げる、バイザー越しに男と眼が合った。男の瞳は嗤っていた。我を嘲笑っていた。


なにかが我を突き動かした。それは『クリムゾン』のSS最強であるプライドだったのかもしれない。


らぴすへの誓いだったのかもしれない。


我は、銃を懐から抜き出し狙いもつけず連射した。この距離ではどうやっても外れるわけが無い。


殺った。そう思った。我は会心の笑みを浮かべた。






































時間が失速する。いや私が加速している。私の聴覚は七回の銃声を捕らえ、私の視覚は七発の弾丸全てを捕らえた。


男は禍々しい凶気を纏い、その瞳は闘える喜びに陶酔し、血を渇望し、その美貌に獣のような獰猛な笑みを貼り付けて嗤う。


その姿はまさしく『兇戦士』


女との距離はおよそ8メートル。私を殺せたと思っても無理は無い。


あの女にとって8メートルの距離など、零距離とたいして変わらないのだろう。


視界が淡い赤に染まり、弾が失速しているように見える。体を捻る。弾丸が私の顔、数ミリ横を通過していく。


男は身体の筋肉をたわめ、跳躍する。天井が迫る。男は重心を移動することで、体勢を変える。下を弾丸が通過していった。


男は天井を蹴りつけ、女に向かってさらに加速する。私は笑みを浮かべていた。


「るルゥあアァアァぁああぁァアァぁあああオォオオォオオオ!!!!!!!!」


根源的な恐怖を思い出させる凄まじい雄叫びを上げて、凶戦士は疾駆する。







































我はここで死ぬ。目の前の男は躊躇わず、いや嬉々として我を殺すだろう。我を嗤いながら。


あがいても無駄。死神の鎌から逃れることなど人ではできない。私はここで死ぬ。らぴす・・・すまぬ。約束を守ることができぬ。


「嗚呼・・・・・・・・・・」


目の前に迫る死神は美しかった。死を与える神、この男になら殺されてもいいと思った。


だが、命を刈り取る鎌は振り下ろされなかった。


「命拾いしたな。女。」


美声が耳朶を打った。目前に迫った刃は特殊合金の壁に突き刺さっていた。我はそのくらいではもう驚かない。世界で二番目に硬い特殊合金だがそういうこともある。と思う。多分。もっ問題ない。それ以上に疑問に思ったことがあった。


「なんで―――――――」


殺さなかったのだ?


その男は、さっきの凶気に満ちた顔からは想像もできない―――そう、いたずらを思いついた子供のような笑顔を浮かべて耳元に―――そうとても艶やかな声で―――ささやいた。


「美人を殺すのはもったいないだろう?」


私は恥ずかしいことにその一言で腰が砕けてしまった。

「な・・・・なな・・・・・何を言っておる。」


驚くほど、頭に血が上っていた。その女の頬は紅くそまり、瞳は潤んでいた。


男はクスリと笑った。綺麗な笑みだった。思わず我が見とれてしまうほどの。


「私の名前はアキト、テンカワ アキト。さあ、弓枝,お姫様がお待ちだ。」


男――アキトは言った。

なぜ、この男は我の名前を知っているのだ?

それに、姫とは・・・・・・・どちらにせよ、我にはついていくしか道が残されておらぬ。







おっおい!アキト貴様何をしておる!?やっやめよ!たったのむそれだけは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はっはずかしい。

い痛っ、アキト・・・もっもう少し優しく・・・・・・・・・・・人がきたら我はどうすればいいのだ?うぅ恥辱にまみれて死にそう。


































らぴす―我はアキトに汚されてしまった。もう、我はお嫁にいけない。



『真相は闇の中』









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Q.アキトー貴様弓枝に何をしたー!!!!!!!!


A.お姫様抱っこ(笑)


ちゃお(挨拶)、また投稿してみました
黒いーの続きです。まだ続きます。ナデシコ出発までこのお話です。
多分次で(弓枝とアキトとらぴらぴの馴れ初めが)終わります。では気張っていきます。

 

 

 

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