恋する乙女ほど怖いものは無い

        ――――「ある戦神の手記」より




「真相は闇の中」



淡い桜色の髪をした少女はディスプレイの前で可憐に笑い、それを『実行』した。

















黒い男と赤眼の女  第一話‐C
















「あれからもう、三年か。」

「何を藪からぼうに・・・」

「私達とお前が出会ってからもう三年も経つのだな。」


神妙な顔をして祈るような表情を作る男――アキト・テンカワを眺め弓枝はあることを思い出した。


「あ」

「どうした?」

「あのときの怨みを晴らしていなかったな。」

「な・・!?」


あからさまに『しまった!?』という顔をしてアキトは呻いた。


「貴様の打ち込んだ奇妙な薬のせいでこんな身体になったのだ・・・・・この怨みどうしてくれよう・・・・・・・・?」


貌は実に楽しそうに嗤っていた。勿論爬虫類のような表情で、アキトはあせる。どうやってこの場をしのごうかと必死に頭を回転させる。

弓枝は背中に蒼い焔を背負っていた。比喩ではない現実のことである。頭には悪魔のような角が、ちなみにそれはアキトの弓枝への恐怖が
見せた幻覚である。それらを見てアキトの頬につめたい汗が、つうっと流れ床に落ちた。

弓枝が一歩前に出る。熱に炙られアキトはだらだらと汗を流し後ずさる、怜悧な美貌が泣きそうに歪んでいた。

いつもは見れないその表情に弓枝の瞳が危険な色に染まる。

―――その表情は後に発足される『某同盟』が『お仕置き』の際に見せる表情とよく似ていた。

ちなみに、床に落ちた汗は弓枝が一歩前に出た瞬間、じゅっと音をたてて蒸発した。とんでもない熱量を弓枝が纏っているのである。

それを見てアキトは悲壮な覚悟を胸に舌戦を開始する。


「も、もうお前は私をしこたまなぐったではないか?それでこの件は無かったことに――――――――。」

「あれは私の左目の礼だ。この件とはまるで関係が無い。」

「れ、レメディウスのお墨つきだった。安全性は保障されていたっ!」

「私の身体を傷物にしたことに代わりは無い」


そっけない拒絶に、アキトの心は絶望に包まれる。

その表情はさらに弓枝を危険なものにする。心なしか息も荒く、眼も血走ってきた。


「弓枝、後生だ。慈悲を―――――――」


いつもなら決して言わない――本人曰く『恥辱にまぎれて死ぬ』言葉を言ったのにも気づかずアキトは必死に慈悲をせがむ。


「滅」


『神は死んだ』その言葉がアキトの頭をリフレインしていた。










「弓枝、楽しそう。」


うらやましそうな表情を浮かべて少女R.Rはその狂宴を傍観していた。

アキトの最後の望み―――ラピスが止めてくれるはず――は叶うことなく霧散した。

アキトは一週間ほど世の不条理に枕を濡らした。







狂宴は明け方まで続き、次の日そのせいで寝不足な弓枝の八つ当たりが全部アキトに行われたのもそれに拍車を掛けた。























「こちら『トニー』制圧完了。手ごたえが無くてつまんねえ」

「こちら『九頭竜』仕事は終えたぜ。撤収準備だ。」

「『A.T』だ。『贈り物』ができた。『姫』に『送る』。」

「了解。『処理』の後に、撤収を開始する。ぬかるなよお前ら。」



「ブツンッ」


















さて、はじめようか。


















虚ろな瞳で虚空を見据えながら、指向性の集音マイクでも拾えないような小さな声でぶつぶつと何かを呟いている。それもエンドレスで。

今『アキト』の腕に抱かれた弓枝はそんな状態だった。つまり廃人一歩手前にみえる、といえば解りやすいのだろうか。

五分ほど前に突然、「プツン」と何か大事なものが切れたような音がした後、じたばたと暴れるのを突然やめこうなってしまった。

なにがいけなかったのだろうか。


私に悪いことはない。


ということは、あれだ『軍』とか、『クリムゾン』とか、『ネルガル』や『明日香』のどれかの陰謀ということにしておこう。

企業の陰謀、というやつだ―――と思う。多分。




まあ、することになんら変わりはない。

手刀を首の辺り――人体の急所の一つで力加減を間違えるとぽっくり逝ってしまうところ――に打ち込み、無理やり黙ら――いや、静かに

なってもらい『あるもの』を持たせる。そして懐から取り出した注射器―中にやばそうな液体が入っている―をプスっと弓枝につきさした


数十分後、空間にある力場が形成される。弓枝は―――見なかった事にした。

この時のことが三年後にあんなことをもたらすとは神ではない彼に予測することはできなかった。


「あ・・・あでゅー。」


『アキト』は引きつった笑顔を浮かべてハンカチをパタパタと振る。

『ある力場』に身体の半分ぐらいのまれている弓枝に向かって―――――――――――アキトの頬に冷や汗が浮かんでるのはご愛嬌だ。

一瞬で跳躍するかとおもっていたら、ずぶずぶと底なし沼に沈むように飲まれていくのだから当然かもしれない。

まったく感じたことのない罪悪感すら感じている。


「ちょ、まて!なにして――――――――・・・・・・」


なぜか、意識の戻った弓枝はなぜか自分の周りに形成された空間歪曲場に気づき慌てる。

アキトは弓枝の子犬のような視線(アキト主観)を受けて、音速で顔を背ける。本格的に罪悪感を感じ始めていた。

そんなことは知らず、弓枝は目の前に跳躍門が形成されてることを知りもっと慌てる。

なぜならば、彼女は空間跳躍に耐えられない。ジャンパー処理を受けていないのだ。

しかし、彼女の都合なんて関係なしに無慈悲に事態は進行していく。




蒼い光が奔った。



そして、蒼い光が消えるとそこに弓枝は存在しなかった。



「フッ」



『アキト』は爬虫類の貌で笑った。好戦的というよりどこか現実逃避気味な笑顔である。

そして、アキトは歩き出した。罪悪感はまだ残っていた。







銃声。








紅い外套を纏った影が疾駆する。

握られるは漆黒の輝きを放つ二丁拳銃。

流麗に赤い影が舞う。



紅い瞳が笑う。実に楽しそうだ。



装飾の無い無機質な大剣が閃く。


赤い影が軽やかなダンスを踊る。


どさり


と、音をたてて赤い影以外の影が崩れ落ちた。






「相変わらずだな、あんたは。」

「なんだ相棒。こっちはもう終わったぜ?」

「いや、そうでもない。」


色のくすんだ外套に肌を隠すように全身に包帯をまとい、サングラスを掛けた男――九頭 文治が気配を殺して立っていた。

怪訝な顔をする赤い外套にジャラジャラと銀のアクセサリーを付けた銀髪の男―トニー・レッドグレイヴは文治の視線をたどりふりかえる





「さっきのは前菜・・・・・・ってことか?」


「だろうな。」



文治の視線の先では、湯気を纏った肉塊を踏みつけ黒いボディスーツの上にさらに軽装甲服を付けた黒い影が四。

重装甲服を付けた影が一。




そいつ等は何もいわずに獲物を構える。恐ろしいほど統制され、洗練された動作。




「ふつう、たった二人にあんな凶器使わんだろう」



「同感だ。」



トニーは大剣を、文治はその手に二丁の拳銃を握り短いやり取りを交わす。


「殺るか」


「おう」


二つの影は同時に地を蹴り、散開する。

五つの影のうち、二つの影が即座に反応し、抜刀。重装甲兵の持つ重機関砲が俺に狙いを定める。


「甘いぜ」


文治の進路を邪魔するように動いたその影に文治から放たれた蒼い燐光が無数の狼の形を採り喰らいつく。そいつの動きが若干鈍る。

文治はそいつの突きをこまのような動きで避け、その影の突き出された腕をつかみ腹に蹴りをいれ、

反動で後ろに下がったそれの腕を引き戻し、そのまま流れるように捻りあげ

他の影の放った銃弾の盾にする。その影はもがくが一度間接をきめられたらすぐに外すことはできない。

まるで遠慮の無い仲間の放った重機関砲で、穴だらけになったぼろ雑巾、


もとい文字通り蜂の巣のようになった『それ』の頭部プロテクトの隙間に銃弾を数発叩き込み、駆けだす。

赤い流れがそれの隙間から生まれていた。

銃をマシンガンのように乱射し、重装甲のやつの注意を引き付ける。

いくらなんでもこいつの重機関砲はくらいたくないので、死角に回り込む。

相手は回り込ませまいと巧みな体捌きと、ブースターでその死角を補っている。そして強化筋肉は重装甲歩兵に人間を超えた膂力を与える

その恩恵を思う存分に生かしこいつは重機関砲を拳銃のように巧みに操る。

他のやつ等も一流だがこいつは別格だ。


間違いなく、強い。


瞬間、閃光が奔り、轟音が響いた。

撃たれたのかと思ったが痛みは無い。


「ジャックポットッ!」


そして、トニーのご機嫌な叫びが聞こえた。









肉薄し、大剣をそのまま軽装甲に突き立てた。

垂直に突き立てられた大剣の刃は、いともたやすく装甲服の腹部を突き破りそのまま壁に縫いとめる楔となった。

頭部プロテクトと胸部プロテクトの隙間に銃を捻じ込み、そのまま連射する。

装甲服から刃を抜き取り、そのまま抜き取る動きから流れるように投擲の体勢に入る。銃弾が頬に傷を付けたが無視する。

外しては意味が無い。

きりきりと弓を引き絞るように身体を捻り、後ろから俺を狙っていた軽装甲兵に向かって投擲。

そいつの頭に突き刺さる大剣。そいつは糸の切れた繰り人形のように倒れる。これで二体

文治が一体潰したから計三体で残り、二体。



重装甲のやつは文治が引き受けている。



体勢を獣のように低くし、銃弾を避ける。そのまま運動エネルギーを殺さず、駆けながら腕を伸ばし大剣を掴み取り、

机の影に駆け込んだ。射線に入るのは不味い。あたっても死にはしないが痛いものはいたい。

できれば、当たりたくない。


ある物を反対方向に投げる。俺の腕には相棒『エボニー&アイボリー』が握られている。


俺はサングラスを掛けた。







閃光







この暗い部屋でやつ等は暗視ゴーグルを起動していたはずだ。

これで、奴等の視界は潰れた。奴は視界を確保するために、頭部ゴーグルをあけた。



狙い通りだ。




「ジャックポットッ!」



『エボニー&アイボリー』から銃弾が放たれ―――






軽装甲兵の頭が西瓜のようにかち割られた。


そして―――――





【分が悪いな】







冷たい無機質な合成音が俺の耳朶を打った。





【引かせてもらう】


「逃がすかよ・・・・・っ!」


そうはさせまいと、文治が蒼い冷気を纏い、猛然と肉薄する。

そい>つのブースターが圧搾空気を吐き出し結果、凄まじい速度で巨体が疾駆する。

文治が重装甲兵に迫る。




瞬間、文治は弾き飛ばされた。



単純に奴のほうが重かったのだ。何百キロとある特殊合金製の重装甲服に勝るほうがおかしいだろう。





【ふふっ、また戦場で会うのを楽しみにしている】





「ックソが!」




合成音でも解る嗤いに文治は毒づいた。










「・・・・・・・・ら・ぴ・・・・・す・・・・・?」










――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

今日和クックロビンです。

第一話も多分次で終わりです。いや、しかし今回はながい・・・。

次は、普通の長さになる予定。しかし、投稿できてよかった。ふう。

ナデシコ出向はまだだいぶ先になりそうです。

 

 

 

代理人の感想

・・・・はい?

怜悧? 美貌? アキトの顔が?

まぁ、二次創作では主人公がよく女顔の美形に変身したりしますからそれはおいといて。

 

それ以上に訳がわからないのが展開。

これはひとつに表現のまずさ、今ひとつに認識(読者と作者の)のすり合わせの不足から来るものかと。

例えば

>弓枝は背中に蒼い焔を背負っていた。比喩ではない現実のことである。頭には悪魔のような角が、ちなみにそれはアキトの弓枝への恐怖が見せた幻覚である。

何が起こってるかは理解できますし、笑いを取りたいのも同じく理解できますが、ぶっちゃけ何も伝わってきません。

正確に言えば行間から伝わってくるものが何も無い、具体的に言えば背中に炎が燃えている=怒っているというイメージが

この文からは伝わってこないわけです。前後からは判りますけどね。

私なら

「弓枝の背中に蒼い焔が燃え盛り、頭に生えた悪魔の角と微笑む口元から除く鋭い牙、さらにその隙間からのぞく舌がチロチロとアキトを威嚇している。比喩ではない。実際に蒼い焔がその背に燃えている。もっとも角やら牙やらはアキトが恐怖の余り生み出した幻覚であったが。」

と言った所でしょうか?

少なくとも弓枝が怒っているというイメージは伝わってくるかと思います。

矛盾してるようですが文章というのは、不要な文を書かずにどれだけ書けるか(=ニュアンスを伝えられるか)が肝です。

端的なのは俳句ですね。

たった十七文字で十分な描写ができるわけは無いのに豊かな情景を伝えることができるのは、

鍵となる単語やその組合せ等を用いてそれを見る人のイメージを想起させるからです。

繰り返しになりますが、文章ってのはそれができてナンボです。

事実を記すだけの文ならまだしも、仮にも小説を書いてるのにそれが出来ないってのはあまりに寂しいじゃないですか?