はじめに
はじめまして。無色と申します。
この話には少し残酷な表現があります。直接的な表現は少ないですが、嫌いな方は注意してください。(ヤマサキが悲惨な目にあってます。)
それが許容できる方はぜひとも読んでみてください。
このSSの中では視点が何回か切り替わります。
誰の視点であるかは [ユリカ] のように [] で括って示してあります。
また今回は出てきませんが、三人称の視点のときは [****] で表しています。
もう一度。あの日々を
プロローグ
[ユリカ]
『アキトは私の王子様』
そう言って、私はいつもアキトを追いかけていた。
『アキトは私が好き』
私はそれを疑いもしなかった。アキトの気持ちを考えずに、追いかけ続けた私。
私はアキトを見ていなかったのだろう。私が見ていたのは王子様。私が勝手に押し付けた幻影。
『ミスマル・コウイチロウ』の娘ではなく、『ミスマル・ユリカ』として見てくれたアキト。
『ミスマル家の娘』という名の牢獄に『囚われたお姫様』を助けてくれた『王子様』。
身勝手な私。愛されることを知って、愛することを知らなかった私。
それでもアキトは私を愛してくれた。そう、アキトは王子様でいつづけてくれた。
とてもやさしくて、そのやさしさで自分を傷つけてしまう人
ルリちゃんは、私の妹。私はそう思っていた。
はじめて会ったときは、まるで人形のようだった。感情を表さない無機質な姿。瑠璃色の髪と金色の瞳をした美しい人形。
それがルリちゃんの第一印象だった。
そんな様子は、だんだんと変わっていった。しだいに感情を表すようになったルリちゃんはすごく可愛らしかった。
ナデシコの空気が、何よりアキトがルリちゃんを変えていったのだろう。
アキトはいつもルリちゃんを気にかけていた。優しく見守るように・・・・・・。
ルリちゃんはそんなアキトに惹かれていった。・・・・・私は気付きもしなかったけど。
思い返してみれば、私とアキトの結婚が決まったとき、ルリちゃんの様子が少しおかしかった。
当然だろう。自分の好きな人が他の女と結婚するのだから。
でも、ルリちゃんは、『お幸せに』といって微笑んでいた。『大切な人が幸せならば』そう思っていたのだろう。
私はルリちゃんの気持ちも知らずにはしゃいでいた。ルリちゃんを傷つけているとも知らずに。
でも、そんな私を『大切な人』だと言ってくれた。
ルリちゃんもアキトと同じ。自分のことより相手のことを想ってしまう人。
二人とも私を助けるために戦ってくれた。想像を絶するような努力をして。心に傷を負いながら。
話を聞いて私はショックを受けた。二人がしてきたことにではなく、自分の不甲斐なさに。
二人に比べて私はどうだろう。相手に愛することを要求するだけで、相手の重荷になるだけで。
愛されることを当然と想っていた私。それに対して、見返りなど求めず相手を愛する二人。
これでは、私は二人の重荷にしかならない。
だから、私は変わらなくてはならない。
私があの二人にしてあげられることなんてほとんどない。
私にできることは、今の二人をそのまま受け入れて、抱きしめること・・・・・・。
二人の痛みがやわらぐことを願って。二人に刻まれた痕が癒されることを祈って。
それは簡単なことではない。でも私はあきらめない。
三人で生活していた頃。生活は楽でなかったけど、みんな笑いに満ちていたとき。三人のもっとも幸せだったときの記憶。
失われてしまった楽園。あの頃に戻ることはできないだろう。アキトもルリちゃんも、そして私も変わってしまったから。
でも、失われたものは戻らなくとも、新しく創り上げることはできる。
だから私はあの日々を取り戻す。新しい形で幸せを築いてみせる。どんな方法を使っても・・・・・・。
私のこの想いも身勝手なものだろう。お父様や仲間たちに迷惑をかけるだろう。悲しませることになるかもしれない。
それでも私は三人でいることを選ぶ。だから・・・・・・・・・・・。
「私がナデシコC艦長、ミスマル・ユリカです。ぶいっ!!」
[ルリ]
私は実験体として生を受けました。
端末として生み出された私は、コンピューターを扱うことだけを教えられました。
楽しみを知らず。悲しみを知らず。ただ冷めた目で皆を見ていた私。
そんな私を変えてくれたのはアキトさんでした。アキトさんのおかげで、私は人形から人間になることができました。
ナデシコを降りてから、アキトさんとユリカさんと三人で暮らしていた頃。それは私のもっとも幸せな日々でした。
楽しそうに屋台を出していたアキトさん。はしゃいでいたユリカさん。そして手伝っていた私。笑いあっていたあの頃。
この幸せがいつまでも続くと思っていました。
けれどもその幸せは突然終わりを告げました。
アキトさんとユリカさんが新婚旅行に出発する日。
少し複雑なものを抱えたまま二人を見送っていた私の目の前でシャトルが爆発したのです。
周りで騒ぎが起こる中、私は何も考えられず、ただ立ち尽くしていました。
私は泣きませんでした。涙を流すことすらなく、感情を凍りつかせていました。
二人の葬式が終わり、私はミナトさんの家に引き取られることになりました。
ミナトさんたちはいろいろと気遣ってくれましたが、私は人形のようにそこに存在していただけでした。
二ヵ月後、宇宙軍から勧誘をうけました。新造のナデシコBの艦長を勤めて欲しいとのことでした。
ミナトさんたちは反対しましたが、私は受けることにしました。
私は死にたかったのかもしれません。
軍にいれば死ねるかもしれないと・…。二人のもとへ逝けるかもしれないと・・・・・・・。
ナデシコBの人たちは皆軍人でしたが、いい人ばかりでした。私と同じIFS強化体質の子や元木連優人部隊の人は私をいろいろと気遣ってくれました。
でも、私の心は溶けることなく、ただ仕事をこなしていくだけでした。
宇宙軍での生活も長くは続きませんでした。
さらに、二ヶ月くらいたった頃、一人で出歩いていた私は、編み笠をかぶった人間に取り囲まれ、気絶させられました。
最後に目に映ったのは爬虫類のような目でした。
目を覚ましたとき、ぼやけた無彩色の世界が広がっていました。
状況を把握できずにいた私に話し掛けてきたのは、実験中の事故で死んだとされていたイネスさんでした。
私は火星の後継者という名の組織に誘拐され実験体にされていた所をネルガルシークレットサービスに救出されたと教えてくれました。
私が誘拐されてから一ヶ月たっているとも。私はずっと眠らされていたようです。
実験のため、私の視覚に障害が出ていました。色覚を完全に失い視力そのものも衰えていました。
私は自分の身体についての説明を聞き流していました。自分の身体についてまるっきり無関心でした。世界そのものが無意味でした。
次の一言を聞くまでは・・・・・・・。
「アキト君は生きている」
アキトさんも私と一緒に救出されたそうです。ただアキトさんの身体はひどいものでした。
五感のほとんどを失っており、何も感じ取ることができません。このままでは精神が持たないので薬で眠らされていました。
アキトさんを助ける方法。それは誰かがリンクして感覚を補助すること。
「ただこれは実験段階のものよ。それにリンクによって相手の感情や記憶が流れ込んでくる。あなたの精神が耐えられるかどうかわからないわ」
そんなことはどうでもよかった。アキトさんを助けられるなら。
リンク処理を受けた瞬間、膨大な情報が流れ込んできた。アキトさんの生まれてからのすべての情報が。
アキトさんの受けた苦痛を私の五感で感じ取り、そしてアキトさんの感情を私の心で感じ取る。
押し寄せてきた情報に私は押しつぶされそうになった。
特にアキトさんに行われた実験を体験したとき、そのすさまじい苦痛と感情に発狂してしまいそうだった。
私が発狂せずにすんだのはアキトさんのことを考えていたから。
心が壊れてしまいそうになったときに、思いついたこと。
『私が発狂してしまったらアキトさんはどう思うだろう。
自分のために私を犠牲にしたと自分を責めるだろう。あの人は自分よりも相手を思いやってしまう人だから。
ただでさえ絶望しているアキトさん。今私が犠牲になれば完全に自分を壊してしまうだろう。だから私は耐えなければならない。
そしてアキトさんを護らなくてはならない。アキトさんの心の鎧となって。』
リンクシステムが異常を起こし、計算外に深くなりすぎたらしい。そのため、記憶や感情が伝わるという程度ではなく、相手の体験を自分の身体で追体験する形になったらしい。目覚めたとき、イネスさんが説明してくれた。
研究施設で見つかった実験の概略によれば、私に加えられた実験は人為的にA級ジャンパーを作り出すためのものらしい。
普通の人間は実験に耐えられなかったため、IFS強化体質である私を実験対象にしたらしい。
実験内容は、
私は死ななかったものの、この時点ではA級ジャンパーとはならず、実験は失敗だった。
リンクが深くなりすぎたのは、これらのナノマシンの影響ではないかとイネスさんは言っていた。
はじめの頃、アキトさんはよく荒れていた。絶望に震え、暴れだすこともあった。
そんな折、私はアキトさんに抱かれました。それはロマンスとは程遠いものでした。でも私はそれでもよかった。アキトさんが少しでも楽になるのであれば。
私を抱いているときアキトさんはずっと自分を責めていた。自分のせいだと。こんな自分など無くなってしまえと・・・・・・。初めての痛みの中で、私はアキトさんの心の声を聞いていた。
「アキト君は自分を壊そうとしたのよ。ルリちゃんに憎まれればもう何も残らないから」
イネスさんがエリナさんにそう言っているのを聞いたことがある。私には自明のことだったが。
強すぎるリンクのため私たちは隠し事ができない。アキトさんの心は手に取るようにわかる。私がアキトさんを嫌いになることは無い。
アキトさんに抱かれた後、私の心を知ってアキトさんは安堵とも失望とも付かないような複雑な感情をしていた。
その後もアキトさんは荒れることがあった。そのたびにアキトさんは私を抱いた。行為が終わった後、いつも申し訳無さそうな顔をして、わずかに昔と同じ瞳をした。そんなアキトさんを見るのが好きだった。
次第にアキトさんは落ち着いてきた。私のおかげだと言ってくれた。・・・・・・嬉しかった。
それからも私たちは抱き合った。お互いのぬくもりを求めて。心を抱きしめあうために。
何があっても私はアキトさんと共に歩む。それは私の誓い。
私はアキトの目。
アキトの耳。
アキトの手。
アキトの足。
アキトと私は一つ。
アキトは私のすべて。
私はアキトを守る心の鎧。
私たちは戦うことを決意した。ユリカさんを救い出すために。そして復讐のために。
ネルガルの協力を取りつけがむしゃらな特訓をした。諜報技術、エステバリスの操縦、そして白兵戦技術。
アキトさんは元優人部隊の月臣さんのもと、木連流抜刀術や木連流柔を学んだ。
そして私は、『鋼』と呼ばれる人物の生徒となった。『鋼』・・・最強と呼ばれる暗殺者。
彼のもとで、さまざまな武器の扱い方、そして殺しの術を学んだ。
二人とも素質があったらしく、めきめきと腕を上げていった。皮肉なものだ。こんな事件がなければけして目覚めない才能であったろう。
一年間でアキトさんは、皆伝を受け取り、私は先生に『後継』と言わしめるまでになった。
『素質』と『執念』。私たちを称した先生の言葉だった。
私たちはどれだけの命を奪っただろう。
ネルガルで極秘開発された追加装甲ブラックサレナ。私たちのために作られた武器。
二機の機動兵器によるコロニーの襲撃。
コロニーの守備隊は容赦なく打ち倒した。そしてそのたびに、証拠隠滅のためにコロニーは爆発された。
それでも私たちは襲撃を止めなかった。
私もアキトさんも身体が以前より強靭になっていた。投与された遺跡のナノマシンが影響しているらしい。これと身体を鍛えたことにより、サレナを最大加速で動かしてもGに耐えられた。
さらに、私は単独ボソンジャンプが可能となっていた。アキトさんの生体ナノマシン、遺跡のナノマシン、そしてアキトさんとのリンク。これらが複合して影響を与えていると推測していた。
もっとも、二人の身体の変化については、リンクシステムの異常も含めて、原因はわかっておらず、推測の域を出ないけど・・・。
何度も火星の後継者の研究所を襲撃した。ユリカさんの手がかりを求めで。そして計画の妨害のために。
警備兵を殺すとき、私は殺気すら見せない。私にとってそれはただの作業だった。
私が殺気を見せるのは研究者を殺すとき。そのときだけ感情を制御しきれなかった。
研究者はすべて殺した。命乞いをしようとも無視した。アキトさんをあんな目に遭わせたものを許しておくつもりはなかった。
ジャンパー実験の指揮をとっていたヤマサキ・ヨシオを見つけたとき、私の心は憎悪に染まった。
生まれて初めて憎悪という感情に満ちた。
アキトさんの五感を奪い、ユリカさんを遺跡に融合させた男・・・・。
憎かった。
私はその男を切り刻んだ。目をえぐり、耳を切り落とし、鼻を削ぎ落とした。指を関節ごとに切断した。
気づいたとき、目の前にあったのは、かつて人間だったもの。細切れにされた無数の肉片。
もう戻れない。そのとき私はそう確信した。昔の私はもう死んでしまった。
私はどうすれば人を殺せるかを熟知している。ゆえに、死なないように苦しめる術も熟知している。
その技術を使い、最後の最後まで苦痛を与えつづけた。
泣き喚き命乞いする様を嘲笑っていた自分。激痛に苦悶する様を愉悦を浮かべていた見ていた自分。
・・・・・昔の私を知っている人は、私がこんなことをするとは想像すらできないだろう。
でも、怖かったのは自分が変わってしまったことではなく、こんな自分を知られてアキトさんに嫌われること。
リンクのため考えたことはすべて伝わる。血に狂っていた自分がどう思われるかが不安だった。
だけど、アキトさんは私を抱きしめてくれた。けして嫌いになったりしないと。
ナデシコCによる電子制圧により、火星の後継者の蜂起は失敗した。そしてそのとき、アキトさんは自らの手で北辰を殺した。
ユリカさんが救出されるのを見届けた後で火星を去った。
その後、私たちは火星の後継者の残党狩りを続けた。
クリムゾングループの機密情報を暴き、つながっていた政治家たちを失脚させた。
クリムゾングループはネルガルをはじめとする企業群に食われ消滅した。
総帥であるロバートクリムゾンは、火星の後継者の共犯として逮捕された。力を失ったとたんに周囲から見放されたらしい。
火星の後継者とその協力者はすべて破滅し、私たちの復讐は終わった。
しかし、私たちは戻らなかった。
私たちが変わってしまったことが原因の一つ。
血に汚れた自分たちは皆のそばにいない方がいい。皆は受け入れてくれるだろう・・・・。でも私たちを恨むものは多い。私たちが戻れば皆に被害が及ぶ。
私たちがコロニー襲撃犯として指名手配されていることも原因の一つ。
コロニー・アマテラスの襲撃と火星での戦闘で、私たちの名と姿が表に出た。
大量殺戮者、死神、黒い悪魔、電子の魔女、血塗られた妖精。・・・・・・様々な表現で報道されている。
かつて、『史上最年少の美少女艦長』などと呼ばれ、注目されていたことも影響しているのだろう。
<行方不明になっていた『電子の妖精』が、テロリストとなって現れた。>
この話題がメディアを席巻していた。
全ての情報が公開されているため一方的に悪く言われているわけではないけど・・・・・。
むしろ悲劇のヒロイン扱いされている報道もよく見かける。まあ、私は他人にどう思われようと興味はない。
捕まれば、よくて死刑。悪くすれば、表向きは処刑したことにして実験体にされる。
私たちが戻れば皆は匿おうとするだろう。それが発覚すれば当然処罰される。そんなことをさせるわけにはいかない。
そしてもう一つ。これは私個人のこと。それは・・・・・・・・。
とにかく、ユリカさんと会うことはできないだろう。三人で暮らしたあの幸せは決して戻らない。
[アキト]
子供の頃は楽しかった。やさしい両親がいた。そして少しわがままなユリカがいた。
けれども、すぐに幸せは失われる。
八歳のときに両親を失った。企業の利権を護るために暗殺されたのだ。・・・・俺は一人になった。
その後、苦労しながらもコックを目指した。コックになる夢を追い、それなりに充実していた。
しかし戦争が始まり、火星が襲撃され、故郷を失った。
地球に渡った俺は偶然ユリカと出会った。ユリカを追っていくと成り行きでナデシコに乗ることになった。
ユリカは全然変わってなかった。昔と同じように『アキトは私の王子様』と呼んで追っかけてきた。
少し煩わしかったが、それでも嬉しかった。まだ家族がそろっていた頃の、幸せな記憶を共有する女性。
ナデシコに乗ってルリに出会った。彼女も孤独な子だった。・・・孤独というものを知らないほどに。
なんとなく気にかかって、声をかけるようになった。次第に見せるようになった表情が可愛かった。
ナデシコ退艦後、ユリカがルリと一緒にアパートに転がり込んできた。
三人で一緒に過ごした時間。新しく手に入れた家族。もっとも幸せな時代。
そしてユリカと結婚することになった。
ルリは祝福してくれた。少し様子がおかしかったけど。・・・このとき俺はルリの気持ちに気付かなかった。
幸福の絶頂にいた。この幸せがいつまでも続くと思っていた。
幸せはあっさり壊されてしまった。正義を名乗る狂信者どもに。
俺はユリカを守れなかった。
ユリカは遺跡と融合させられた。
俺は人体実験によって五感をほとんど失った。味覚は消失しコックとなる夢を絶たれた。
俺は死を待つばかりとなっていた。何も見えず何も聞こえない闇の中で・・・・。
聴覚を失ったはずの俺に声が聞こえた。よく知っている人の声。聞こえるはずの無い声。
そしてなぜか自分の中に彼女の存在を感じた。
目を覚ましたとき、少しだけ感覚が戻っていた。
しかし、その理由を聞いたとき、俺は激昂した。なぜルリを巻き込んだと。
そして、ルリの事を聞いたとき俺は絶望した。ルリも奴等に実験体にされていたのだ。
俺の五感を奪ったものと同じナノマシンによって、色覚を失い視力も衰えてしまったと言っていた。
俺はルリも守れなかったのだ。
いつも、いつも、幸せに手が届きそうになると奪われる。誰も守れない。俺のそばにいる人は皆、不幸に見舞われる
俺は自棄になり相当に荒れた。そしてその矛先はルリに向いた。
ある日俺はルリの部屋に押し入り、陵辱した。
まだ幼いその身体を好き勝手に蹂躙した。
初めての身体を乱暴に開かれて相当な苦痛を味わったはずだ。
それでも決して俺を責めなかった。俺を憎まなかった。
それどころか、そっと抱きしめてくれた。
俺が楽になるならそれでいいと・・・・。ルリの心はそう言っていた。
それから何度もルリを犯した。相手のことを考えず一方的に。
それでもルリは俺を好きだといってくれた。俺の心を護ろうとしてくれた。
自分は何をやっているのだろう。ルリを守ると言っておきながら傷つけてばかりいる。
三人で暮らしていた頃、ルリの気持ちに気付きもしなかった。そのことでルリを傷つけていた。
そう、俺はリンクすることによってようやくルリの気持ちに気付いたのだ。
今、ルリは、心と身体のすべてで俺を支えようとしている。護られているのは俺の方。
俺は次第に落ち着いていった。
ルリのおかげだと言ったら嬉しそうにしていた。あれだけの仕打ちをしたというのに・・・・。
俺たちから全てを奪っていった火星の後継者をそのままにしておくつもりは無かった。
俺とルリは復讐を誓った。
寝食を惜しんで特訓を重ね、急速に技能を伸ばした。
皮肉なことに、火星の後継者の実験は俺たちの戦闘能力を最大限まで引き出した。・・・・本来なら欲しくも無い能力であったが。
研究施設を襲い、コロニーを襲った。
血の雨を降らせ、血を浴び、手を血に染めた。
俺は憎悪にまみれ人を殺していった。俺からユリカを奪ったこと。俺の五感を奪ったこと。ルリを実験体にしたこと。
絶対やつ等に後悔させてやると。やつらの計画を打ち砕いてやると。踏み躙られたものの怒りを思い知らせてやると。
ルリは少し違った。兵士相手のときは全く感情を見せない。障害物を排除しているだけだった。
ルリの感情が動くのは研究者を相手にしたとき。このときだけは憎しみを感じていた。
ルリは研究者を恨んでいた。自分のことではなく、俺とユリカのことで恨んでいた。・・・ルリはいつも俺達のことばかり考えている。
その日、ルリから強烈な憎悪が発せられた。ルリの前にいたのは、ユリカを遺跡に融合させ、俺の五感を奪ったヤマサキ・ヨシオだった。
ルリはヤマサキを切り刻み、なぶり殺しにした。それほどルリの憎しみは大きかった。
そしてその後ルリは恐怖していた。殺戮を行ったことではなく、そのことで俺に嫌われるのではないかと。
俺はそんなルリを抱きしめた。ルリを嫌いになったりしないと。
そのとき俺は自分を憎んだ。ルリをこんな血まみれの道に引き込んでしまった自分の不甲斐なさを・・・・。
でも、そう考えたとき、ルリが抱きついてきた。リンクが心を伝えてくる・・・・・・・・・。
それからも多くの血を流し、ようやく復讐は終わった。・・・・・・・そして何も残らなかった。
ユリカのもとに帰るつもりはなかった。
血まみれの手でユリカを抱けるはずもない。
それに俺はユリカを裏切った。娘であるはずのルリを抱いた。もはやルリを娘として見ることはできない。
確かに、今でも俺はユリカを愛している。しかし戻れるはずがない。
俺は、自分の逃げ道として娘を抱き、そして復讐の道具とした。
こんな俺にユリカを幸せにできるはずがない。
三人で暮らした幸せな夢は終わった。
失われた夢は決して戻らない。
後書き
こんにちは。これはナデシコSSのプロローグです。
SSは素人(これが二つ目)で、文章力、表現力、発想力等、不足している物が多く、稚拙な文章となっています。
連載物。・・・・大丈夫なんだろうか・・・・。
まあ、とにかく、これは物語のプロローグで、劇場版の話です。ルリの設定が大きく変わっていますが、他はほとんど同じです。
ちなみに、ルリパートが長いのは、ルリの設定が変わっているのと、ルリがお気に入りキャラだからです。
それにしても、勢いで書いてしまったけど、
ユリカはいいとして、アキトは暴走してるし、ルリにいたっては大暴走(汗)・・・・・・・。
キャラが違うとか、こんなことさせるなとか、ご不興をもつ方がいらっしゃるとは思いますが、なにとぞ広い心で見てください。
プロローグは、こんなにシリアスで少し残虐が入っていますが、本編はもっと軽くなる予定です。
ところで、誰か感想ください。突っ込みでもいいですから。
よろしくお願いします。
代理人の感想
・・・・・・・・・ここからどう軽くなるのかちょっと想像できなかったり(爆)。
泥沼の三角関係か追いかけっこか・・・・
は、まさか壊れルリ日記(核爆)!?