もう一度。あの日々を。
第一話
[****]
「アキト、ルリちゃん、戻ってきて!!また一緒に暮らそうよ」
通信がつながるとユリカはそう叫んだ。・・・・・あまりの大声にナデシコCのクルーは耳を押さえている。
センサーに光跡が観測され、ナデシコCはその場に駆けつけた。
そこではユーチャリスと火星の後継者の残党との戦闘が行われていた。
おそらくこれが最後の残存戦力だろう。火星で拿捕されなかった艦艇の残りと一致する。補給を絶たれているので戦力の増強は不可能だ。
数では火星の後継者が勝っているが、搭乗者の能力と船の性能はユーチャリスの方が上だ。
しだいに、ユーチャリスが押し始め、火星の後継者を撃破していった。
ナデシコCが到着したのは、戦闘が終わった後だった。
久しぶりに見た二人の姿。昔とは違うその姿。
黒い戦闘服。・・・・・小型ディストーションフィールド発生装置とジャンプフィールド発生装置が組み込まれたもの。
黒いバイザー・・・・・衰えてしまった視覚を補正するためのもの
昔の二人はまず身に付けなかった黒ずくめの服装。
何より違うのは身にまとった雰囲気。
落ち着いた、どこか冷たく感じる空気。バイザーの効果もあって全く感情を表していない。
「俺たちは戻るわけにはいかない。」
ダークトーンの声。それは拒絶の意を示す。
「なんで。私たちは家族なんだよ。一緒に暮らすのはあたりまえでしょ!?」
「おまえの知っているテンカワ・アキトは死んだ」
「そんなことない。アキトは生きてるじゃない。私の目の前で。ルリちゃんだって!」
「いいえ。もう昔のホシノ・ルリはいません。私は変わってしまいました・・・・・」
「そんなことない。アキトはアキトだよ!ルリちゃんはルリちゃんだもん!」
叫ぶユリカ。今の二人をありのままに受けとめるという意思を込めて。
変わり果てた自分たちを家族として認めてくれる。二人はそんなユリカの心が嬉しかった。だが、それでも・・・・・。
「戻るつもりはない」
「なんで。指名手配されてるから?それなら大丈夫だよ。コロニー爆破の罪は消えたから」
そう、コロニーを爆破したのは火星の後継者と判明した。ゆえに二人の罪は当初に比べてかなり減じた。
「だが、俺たちが血塗られていることには変わりない」
「そんなの気にしないよ」
「私たちを恨んでいる人はたくさんいます。戻れば迷惑がかかります。それに・・・・・。」
「もういいだろう。いこう」
アキトが話し打ち切る。このまま去るつもりだ。しかし・・・・。
「サブロウタさん、後のことお願いします。・・・・・みんなごめんね」
「え、艦長?」
ユリカの言動に驚いたクルーがユリカを見る。その手握られていたのは・・・・・・CC。
虹色の光に包まれるユリカ。
そう、ユリカはA級ジャンパーだ。CCがあればジャンプできる。そして、さっきの通信をもとにイメージを・・・・・。
ナデシコCのブリッジからユリカの姿が消えた。
「アキト、ルリちゃん、やっと会えた」
「「ユリカ(さん)!!!」」
アキトとルリは驚いた。ボソンジャンプで来るとは思わなかった。
「なんて危険な真似を!!」
通信回線が開いていたのはほんのわずかの間。しかも二人の影に隠れてブリッジはよく見えなかったはずだ。イメージングは困難だ。
「そうですよ。失敗したらどうするんですか!!」
「だって、こうでもしなきゃ会えないもの。私には二人が必要なの。だからまた一緒に暮らそうよ。
二人が戻れないんだったら、私がついていく」
これほどまでに自分たちを必要としてくれる。それが嬉しくないはずがない。しかし・・・・・・・。
全てを話そう。二人はそう思った。・・・・・自分たちの裏切りを知れば、ついてくるなどと言わないだろうと。
「俺はおまえに愛される資格などない」
そして、話した。自分がルリにしたことを。ルリを陵辱したことを。ルリを逃げ道にしたことを。自分がルリにさせたことを。
そして、いつしかルリのことも愛するようになったことを。
「ユリカさん。私が戦った理由には、ユリカさんの救出と復讐もありました。
でも最大の理由は、アキトさんのそばにいたかったからです。
私は嬉しかったんです。一緒に戦えることが。アキトさんに抱かれることが。
そして、この事件を心のどこかで喜んでいたんです。
アキトさんは五感を失ったというのに!ユリカさんは遺跡と融合されたというのに!」
ルリは自分を責めていた。自分は身勝手だと。ユリカを裏切った。ユリカのいない間にアキトを盗ろうとしたと。
アキトとルリがユリカに会わなかったのは、本当はユリカに拒絶されるのが怖かったから。
ユリカは二人の大切な人だから。彼女に嫌われるのが怖かった。
でもユリカを不幸にするするわけにはいかない。それくらいなら、嫌われて罵られたほうがいい。アキトとルリはそう考えていた。
「やさしいね。二人とも。全然変わってないよ。自分を傷つけてまで私を護ろうとして・・・」
ユリカの声は静かで、そしてやさしかった。
「二人は私を不幸にしたくない。そう思ってるんでしょ。でも間違ってる。私が不幸かどうかを決めるのは私。
私はアキトとルリちゃんと三人で暮らしたい。それが私の幸せだよ」
心に染みとおるようなユリカの声。
「だが今言ったことはうそじゃない。俺はユリカを裏切った。これは事実だ」
ルリをもう娘とは見れない。そして、アキトはユリカとルリのどちらかひとりを選べない。もう昔の関係には戻れない。
「ねえ、アキト。アキトはユリカが好きよね」
明るい声でユリカが言った。昔ユリカがよく言った台詞。
「ああ、だが・・・・・・・」
急に調子を変えたユリカに戸惑うアキト。思わず素直に返事をしてしまう。
「うん。アキトはルリちゃんも好きなんだよね。で、ルリちゃん」
「え?」
「ルリちゃんはユリカのこと好き?」
「ええ、好きです」
ルリもユリカのペースにはまっていた。
「ルリちゃんはもちろんアキトのことが好きでしょ。じゃあ、何も問題ないじゃない!」
「「へ!?」」
いったいユリカは何を言い出すのだろう。アキトとルリにはさっぱりわからなかった。
「アキトは、ルリちゃんとユリカと両方とも好き。
ルリちゃんは、アキトとユリカと両方とも好き。
そんでもって、ユリカは、アキトとルリちゃんと両方とも好き。
ほら三人ともみんな愛し合ってる。だから、三人で一緒になればいい」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」
あまりに意表をついたユリカの言葉にアキトもルリも固まってしまう。
「万事解決。めでたし、めでたし」
「・・・・て、おい!それでいいのか」
『ユリカがこんなことを言い出すとは思わなかった。ユリカも変わったってことか・・・・。
でもなんか妙な方向に変わってないか(汗)。・・・・確かに昔からヘンなやつだったが・・・・・。』
事実とはいえ結構失礼なことを考えているアキトである。
アキトがヘンに思うのも無理がないかもしれない。ユリカはアキトに二股をかけろと言っているのだから。
「え、なんで?何か問題ある?
アキトの恋人は、ユリカとルリちゃん。
ルリちゃんの恋人は、アキトとユリカ。
ユリカの恋人は、アキトとルリちゃん。
三人がそれぞれ二人の恋人を持つわけだし、公平でしょ?」
何か違う気もするが何もいえないアキト。
ルリとユリカが恋人同士になると聞いて、ヘンな映像が浮かんだのは、アキトだけの秘密だ(笑)。・・・・・ルリには筒抜けだけど。
「ねえ、ルリちゃんもこれでいいよね」
「・・・・・・・・はい・・・・・・・・。でも、ユリカさんはそれでいいんですか?」
ナデシコA時代、メグミ達にやきもちを焼いていたユリカからは考えられない言葉だった。
あの頃はアキトを独占しようとしていたのに・・・・・・・。
それはかなうはずがないと思っていたルリの望みそのもの。
ルリはアキトのそばにいたいと思っていた。・・・・・・でもユリカへの罪悪感が消せなかった。
そして、ユリカとも一緒にいたいと思っていた。
アキトを好きなままユリカと一緒に暮らしたいと思っていた。でもこれは自分のわがまま・・・・。かなうはずのない望み。
だけど、それがかなう。一緒にいられる。
嬉しくないはずがない。
「うん、もちろん。あ、でもアキト。ルリちゃん以外はだめだからね。浮気は許さないよ」
「するかっ!!」
ユリカに影響されて、昔のアキトが顔を見せていた。・・・・・ルリはクスリと笑った。
「でも、いいのか。俺たちと一緒にいるってことは、今までの全てを捨てることになる」
「いいの。全てを捨てたって。アキトとルリちゃんと一緒にいられるなら」
「恨まれることになりますよ。私たちの、テロリストの仲間として・・・・・。私たちはそれだけたくさんの人を殺してるんです」
「どんなに恨まれたって構わない。何があってもそばにいるよ。殺された人たちよりも、私には二人の方が大切だから。」
「「ユリカ(さん)・・・・・・」」
ルリもアキトも本当はユリカと一緒にいたかった。
でもユリカを裏切ったという罪悪感があった。
変わってしまった姿を見られたくないという恐怖があった。
ユリカに害が及ぶ危険があった。
だから一緒にいられないと思ってた。
でもユリカは二人の全てを受けとめると言ってくれた。
この甘美な誘惑には抗いがたかった。
「三人で幸せになろうよ。新しく幸せを作ろうよ。
こんな関係は普通じゃないかもしれない。でも、いいじゃない。私たちが幸せなら」
朗らかな声で。ナデシコ時代にクルーに演説したときのような輝き満ちた姿で。
「常識なんかに囚われずに、私たちの幸せを築く。これが私の『私らしく』だよ」
ユリカはアキトとルリの手を取った。
「これからはずっと一緒だよ」
「わかった。一緒にいよう、ユリカ」
「ありがとうございます。ユリカさん」
失ったはずの幸せをもう一度手に入れられる。三人はそんな希望を感じていた。
【緊急警報】
突然の警報。少し気の緩んでいた三人が一気に緊張する。記された内容は最悪だった。
【ジャンプシステム暴走。ジャンプフィールド展開中。ジャンプ先指定なし。ジャンプ先は不明】
それは先ほどの戦闘が原因。被弾により制御システム障害が発生した。
このままではランダムジャンプになってしまう。・・・どこに飛ぶかわからない、無事である確率はほとんどない。
「なっ!キャンセルだ!システム緊急停止!!」
【停止指示受け付けません。ジャンプ開始まであと・・・・・】
「まただ!また俺は守れないのか!?また不幸にしてしまうのか!?」
アキトは叫ぶ。やはり自分は疫病神なのかと。
「アキトさん。私は一緒にいられればいいんです。私は幸せですよ」
「そうだよ。私は後悔してないよ。大丈夫、助からないって決まったわけじゃないよ」
自分を責めるアキトに、二人は告げる。どこへ行ったとしても三人ならいいと。
たとえここで死んだとしても後悔しない。
二人にとって、アキトがいない百年よりも、アキトと一緒の一分の方が価値がある。
『『もう絶対に離れない』』
虹色の光と共にユーチャリスは消え去った。
ナデシコCの報告書にはこう記載された。
ミスマル・ユリカは、交渉のため敵艦に乗り込んだ際、敵艦にジャンプ事故が発生。
テンカワ・アキト、ホシノ・ルリと共に行方不明。
[アキト]
俺は目を覚ましたとき、状況を把握できなかった。
俺は・・・・・・、
そうだ、今日は、木星蜥蜴の襲撃のせいで客がこなくて、サイゾウさんが店を早くしめて・・・・・・・。
いや違う、俺はユーチャリスに乗っていて・・・・・・。
何だ、記憶が混乱している。
ここはどこだ?。
・・・・記憶が浮かび上がってくる。ここは俺の部屋だ。
何でこんなとこにいる。たしか、ジャンプシステムが異常を起こして。
バイザーなしで、なぜ目が見える。・・・・・いや、今まで見えてたから不思議はない。
今日の味付けはなかなかうまくいった。・・・・・ばかな。味覚は失ったはずだ。
これは、身体が戻っている。・・・・・そんなことはない。前と変わっていない。
・
・
・
しばらくして落ち着いてきた。
今はナデシコ出港の3ヶ月前。
ランダムジャンプによって、俺の記憶が『過去の俺』に宿ったらしい。
記憶が宿った直後は混乱したが、今は自分を把握できる。
『過去の俺』が直前までしていたことの記憶もちゃんとある。そして、ジャンプの直前までの記憶もある。
18歳の俺が6年分の記憶を体験して、24歳の俺になったというところか・・・・・精神は。
だが、ルリとのリンクが感じ取れる。18歳の身体なら存在しないはずだが・・・・。
<アキトさん>
気絶していたルリが目覚めたようだ。リンクを使って話しかけてくる。
「どうやらランダムジャンプのせいで過去に戻ったらしい。精神だけのジャンプのようだが、少し違うような気もする」
<そうですね。精神だけなら、リンクが通じるはずがないですし。つまりナノマシンはまだ存在しているという事です。でも、なぜ感覚が戻ってるのでしょうか?>
「わからない。一度よく調べた方がいいとは思うが・・・・。問題はどこでするかだ。うかつなとこではできないし」
<他人に知られるわけにもいけませんしね>
「ユリカも戻っているだろうから、ユリカも交えて話そう」
ユリカの意見も聞こう。俺たち三人のことだから。
さて、どうやって連絡をとるかな。
これからのことをリンクで話していたルリと俺に、それは突然聞こえてきた。
<アキト、ルリちゃん。これってどうなってるのかな?>
<「えっ!ユリカ(さん)!!!」>
あとがき
こんにちは、無色です。
第一話をお届けします。どうか、読んでみてください。
逆行しました。・・・ありがちですけね。
ヒロインはルリとユリカ。二人ともアキトの恋人です。アキト君、二股(笑)。
代理人さんは、ここからどうやって軽くなるのか、と言われましたが、
このように、成長した(ヘンになった?)ユリカに精神汚染(笑)されて軽くなります。
こういう設定はあまり見かけないので、それじゃあ自分でとか思ったのですが、文章力が追いつかない(泣)。
TV版のユリカは好きなキャラではないのですが、
ユリカが虐げられているSSが多い。
アキト、ルリ、ユリカにとって、三人で生活していた頃がもっとも幸せだったと思う。
という二つの理由で書きました。
アキトは二人を同じくらい愛していて、三人で家族となります。
この関係は、某ギャグキャラ体質な食欲魔人の高校生の小説の影響を受けています。
ああいう風にうまく書ければいいなと思っています。
それではまた。
ちょっと補足----プロローグにでてきた『鋼』について
『鋼』は最強の存在です。様々な戦闘技術とか気功術にたけています。
ルリは彼から全ての戦闘技術を学んでいて、『鋼の後継』と呼ばれます。これで元ネタが、ばればれですね。
『鋼』についてはほとんど元ネタズバリです。・・・・音声魔術は使いませんが。
そんなわけで、戦闘技術はアキトのほうがルリより優れていますが、『殺すこと』に関してはルリのほうが上です。
つまり、訓練ではアキトが勝ちますが、命のやり取りであればルリが勝ちます。
逆行した世界には『鋼』はいないという設定なので、ルリが『最強の暗殺者』です。
こんな設定にした理由は、作者がルリルリ最強主義だからです。
代理人の感想
ははぁ、つまりアキトがア○リーでルリがキリ○ンシェロ、で、ユリカが絶叫魔女と。
おお、ぴったし(爆笑)。
で、数年位したらアキトが行方不明になったためにグレたルリが
落ちる所まで落ちた因業金貸し妖精になって
生きる為にバーゲンで桃缶を漁ったり、
炸裂式逆噴射無能警官にまとわりつかれたり、
ハーリーダッシュをかます地人を吹き飛ばしてつかの間の充足を得たり、
逆にその地人と切っても切れない腐れ縁ができてしまった事を嘆いたり。
するわけですね(核爆)!?
・・・・・誰か書いてくれないかな、「魔術師フェアリーはぐれ旅・無謀編」(笑)。