もう一度、あの日々を。

 

第六話


[ルリ]

 

 

「明けましておめでとうございまーす」

 

ユリカさんの一言に、連合軍の高官たちは唖然としています。

まあ気持ちはわかりますが。

連合軍の会議室に通信をつなげて、こんな台詞をのたまうのはユリカさんくらいでしょう。

 

ちなみに、ブリッジの女性陣は全員振袖です・・・・・私も含めて。

ユリカさんいわく。

『どうせ、軍の面目とかで通してくれないんだから、それだったら楽しく行きましょう』

だそうです。

通信せずに防衛ラインを突破しようとしても、捕捉されてしまいますから、かまいませんけど。

でも、振袖があるだけでも不思議なのに、よく皆に合うサイズがあったものです。

普通は軍艦にはありません・・・・・・・・・・さすがはナデシコです。

 

《いったい何の真似だ!?》

「えっと、ナデシコは火星に行きたいので防衛ラインを解いていただきたいんです」

《ビックバリアを解けだと!?寝言は寝てから言え!!》

《君はまず礼儀から学ぶべきだ》

高官たちは相当にカリカリしています。思いっきり神経を逆なでしていますから。

『昔』はこの台詞を真面目に言っていましたが、『今』は半分わざとやっています。

 

《軍の威信にかけて通すわけにはいかん!!》

「・・・・・わかりました。ナデシコは実力をもって大気圏突破を図ります。お手柔らかに願います」

そういうとユリカさんは通信を切ってしまいました。

結局、単に振袖が着たかっただけなのでは・・・・・・・・・・・。

それに付き合わされた連合軍に同情します。

 

「艦長、もう少し交渉の仕方というものが・・・・・・・・・・・」

プロスさんが艦長に苦言を言ってますが、無駄です・・・・・・ユリカさん、今回は確信犯ですから。

「あれじゃあ、どんな交渉をしても無駄だったと思うけどな。あんな頭の固そうな連中、こっちに理があったところで聞きゃしないわよ」

なんか言葉にとげがあるんですけど。ミナトさん、過去に何かあったんですか?

「そうです。今の連合軍の総長は、特に面子とかにこだわる人ですから」

「じゃあ、この格好ってどういう意味があったんです?」

「まあ、いいじゃない。お正月なんだし。メグちゃんだって着たくないわけじゃないでしょ?」

「ええ、着たくないといったらうそになるけど」

「ならいいじゃない。ルリルリの可愛い姿も見れたし」

戦争中のはずなのにナデシコは平和です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、いつまでも遊んでいるわけにはいけません。

ユリカさんの指揮のもとナデシコは上昇を開始しました。

第五防衛ラインまでは、活性化したチューリップに対処しており、ナデシコを追うことができません。

現在、第四次防衛ラインの対空ミサイルの攻撃を受けています。

とはいっても、対空ミサイル程度ではディストーションフィールドを破ることはできず、艦がゆれる程度の影響しかありません・・・・・もったいないから止めればいいのに。

まもなく到達する、第三防衛ラインではデルフィニウムによる迎撃があります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユリカ!今ならまだ間に合う。ナデシコを戻すんだ!!」

アオイさんが叫んでいます。

「ダメなの、ジュン君。私がお父様の娘でなく、ミスマル・ユリカとしていられるのはここだけなの」

それにしても二回目にも忘れられるアオイさんって・・・・・・・・。

 

《ブリッジ!あの馬鹿、何も持たずに出やがった!!》

ウリバタケさんから通信が入ります。

こんなことをする人は一人しかいません。・・・・・・・・何故、これほど問題のある人ばかりなのでしょうか。

 

『性格に問題があっても、一流の腕を持った人材』

これが、ナデシコクルーのスカウトの方針だそうですが、

『一流の腕を持った、性格に問題のある人材』

ばかり集めてる気がするのですが。

 

「ヤマダさん、応答して下さい」

「俺の名は、ダイゴウジ・ガイだ!!」

メグミさんの呼びかけに、ヤマダさんは名前の訂正を要求しています。

「心配無用!

敵はこっちが武器を持っていないと思って油断する。

ところが俺様は、空中でスペースガンガー重武装タイプと合体する。

これぞ名付けて、ガンガークロスオペレーションだ」

「ナデシコには、ガンガーなんて置いてねえよ」

ウリバタケさんの突込みにも耳を貸そうとしません。・・・・この人も、人の話を聞かない人ですから。

 

「さあ、重武装タイプを射出してくれ!!」

「却下です」

ユリカさん、即座に拒否しました。

「何故だー!ナナコさん!!!!」

「射出しても撃ち落されるだけです。そんな無駄な消耗は、艦長として許可できません」

無人兵器相手ならうまくいく可能性もありますが。ただ飛んでいるだけのフレームより、行動を取っている機体を狙ってきますから。

「そうですな。予算にも限りがありますから、余計な出費は慎んでいただかないと」

「大丈夫だ!俺ならできる。だから頼む、ナナコさん!!!」

「ダメです」

「そんなー!!!!」

 

敵を前にして、何をしてるんでしょう、私たち。

せっかくIFSまで付けて飛び出してきたアオイさん、目の前で繰り広げられる漫才に唖然としています。

「ユリカ、どうあっても艦を戻すことはできないと言うのか!?」

「絶対ダメです!・・・・・・・・・・・・・あれ!?ジュン君今何か言った?」

「ユリカー(泣)」

アオイさん、また話を聞いてもらえずに、いじけちゃいました。

なにか、わざとやってるのかと思ってしまいますね、こんなに続くと。

でも、アオイさんに関しては、真面目にやってこれです・・・・・この方がもっと酷いですね。

 

「ううう・・・・・・・・・・(泣)。だから、艦を戻すことはできないのかって・・・・・・」

「私たち以外に、火星の人たちを助けられる艦はいないと思うから」

「わかった、では、まず「ナナコさん!!!!」

台詞をさえぎられてしまいました。すごく『濃い』ヤマダさんの前では、『薄い』アオイさんは霞んでしまいます。

「あー、もう!!ヤマダ「ダイゴウジ・ガイ!!」じゃあ、ダイゴウジさん」

「おう!」

「あなたは、ゲキガンガーになりたいと思っていますよね!?」

「そうだ、俺は正義の味方だ!!」

 

 

 

『正義』ですか・・・・。

『正義』には多様な形があるとわかっているのでしょうか・・・・・・この世に絶対の正義などありません。

盲目的な正義を絶対として他人に押し付けることの危険さをわかっているのでしょうか。

正義を掲げるものたちほど残虐になれるものはありません。

どんなことをしても『正義のため』と納得してしまい、罪悪感を感じることはないのですから。

自分のため残虐行為をなすことには耐えられなくても、『正義』という大義名分があればできてしまう。

そう、あの火星の後継者のように。

 

私たちは、自分たちのためにたくさんの人を犠牲にしました。そして、今もなお、人の命を奪い、他人に干渉しています。

でも、私たちは、絶対に忘れません・・・・・私たちの望みのために行動していることを。

『正義』という名の『盲信』に陥ってしまわないように。

自分の罪を忘れないように・・・・・忘れなければいいというわけではありませんが。

 

 

私が考え事をしている間にも会話は続いています。

考え事をしているといっても、私は意識をシェアリングしているので、ナデシコの管制も、ユリカさんたちの会話を聞くことも同時にこなしていましたけど。

「じゃあ、聞きますけど。あなたのゲキガンガーは研究所の指示に従わないんですか?」

「うっ!」

「そうじゃありませんよね。ちゃんと指示には従ってますよね」

「そ、そうだ!すまねぇ、ナナコさん。俺は大事なことを忘れていたみたいだぜ!!」

「わかればいいんです。それでは、ダイゴウジさん、あなたは武器を持っていませんし、相手の数が多いので、周りをよく見て決して囲まれないよう一撃離脱で戦ってください」

「わかったぜ!!よし、俺の腕前を見せてやる!!」

ユリカさん、うまくヤマダさんを説得しました。・・・・・いえ、操作したと言ったほうがいいですね。

「艦長、ナイス!」

ミナトさんが、ユリカさんの操作手腕を見て笑っています。

 

 

 

 

 

 

ヤマダさんの動きが見違えるようによくなりました。

接近して収束したディストーションフィールドによる攻撃を行っています。

さらに、相手の動きを読んで敵に取り囲ませません。

「ヤマダさんて、あんなに上手だったんですね」

メグミさんが感心しています。

プロスさんがスカウトしたのですから腕はいいはずなんです。ただその性格が、腕前を無意味なものにしていたんです。

それにしても、周りをよく見るように指示すると、それができてしまうというのは・・・・・・単純だからでしょうか。

「いやあ、艦長。毎度、助かりますよ。本当にお値打ちですな」

プロスさん、それって誉めてるんですか。普通、人を誉めるのに『お値打ち』なんて使わないと思うのですが。

 

 

 

さて。

戦闘は完全にこちらが優勢です。

まあ、アキトさん一人でも勝てる相手ですし、それに加えてヤマダさんがその腕を発揮するようになりましたから当然ですね。

次々に損害を受けて撤退していきます。後、残っているのはアオイさんの機体だけです。

 

「ユリカ、そんなに、こいつがいいのか」

愚問ですね。ユリカさんにとって恋愛対象になる男性はアキトさんだけです。

「うん♪私はアキトが大好き

ストレートに返しますね。アオイさん泣いてますよ。

 

「くっ!テンカワ・アキト、僕と勝負しろ」

「俺たちは仲間だったろうが!!なぜ戦わなきゃなんねぇんだ!!!」

これはヤマダさんです。ホントに暑い人です。

「正義のためだ!僕はユリカを守りたいんだ!」

「今のお前にできるのか。『守る』ことが。他人の作った正義に拠りかかってるお前に!守るというのは簡単なことじゃない!!」

「「アキト(さん)」」

 

アキトさんが闇を垣間見せます。

アキトさんの心にあるのは罪悪感。

ユリカさんを、そして私を守れなかったことへの。

それは、アキトさんの心から決して消えず、アキトさんを苦しめる。・・・・・あれはアキトさんのせいではないというのに。

だから私たちは、アキトさんの名を呼ぶ。私たちの想いをこめて。

 

 

 

 

 

「ジュン、お前は何のためにナデシコに乗ったんだ」

よかった。平静を取り戻したようです。

「僕はユリカのために・・・・・・・・・」

「だったら何で、てめぇは好きな女の敵になろうなんてするんだよ!!」

ヤマダさん、煩いです。大声で割り込まないで下さい。

「ここを通せば彼女は反逆者となってしまう。そんなの僕には耐えられない」

「その辺はネルガルの計算のうちだ。うまくやってくれるさ。それより、戻ってきたらどうだ。ナデシコの副長として」

「僕にユリカの補佐をしろと言うのか!?僕にできるのか?ユリカに勝てることなんてないのに」

成績ではずっと頭を押さえられていたんですよね。コンプレックスに近いものがあるようです。

「確かに、ユリカは戦略・戦術の才能がある。天才といっていい。この面では及ばないだろう。

だが、人の間を調整し、組織を運営する能力ならお前の方が上だ。

派手さはないが重要なことだ。

これがなくてはユリカの才能も生かせないのだから」

アオイさんがスカウトされたのもこの組織運営力を見込まれてのことです・・・・自分では気付いてないみたいですけど。

ユリカさんみたいに何でも簡単にこなす人のそばにいては、自分を低く見てしまうのは仕方ないかもしれません。

 

「本当にそう思うのか!?」

「ああ、クルー達の間を取り持てるのはお前しかいない」

「私も戻ってくれた方が嬉しいな」

「ユリカ・・・・・・」

ユリカさんの言葉に、アオイさん嬉しそうです。

でもあんまり期待すると、叩き落されますよ。

「だって、ジュン君は大切なお友達だもの♪」

ほら・・・・・・・・・・。

アオイさんは茫然としています。

「あ、あの、艦長、通信聞いてなかったんですか?」

メグミさんが、恐る恐るといった感じで聞いてきます。

「ほぇ!?もちろん聞いてたよ」

「え!?だ、だったら・・・・・・。ヤマダ《ダイゴウジ・ガイだ》さん言ってましたよね、『好きな女』って」

信じられないといった感じのメグミさん。ちなみにコミュニケで割り込んできたのは・・・・・言うまでもありませんね。

「あ、そっか!ごめんねジュン君。私、気付かなくて」

「ユリカ(喜)!!」

私はもう何も言いません・・・・・・・・・・・アオイさん懲りてませんね。

「ジュン君、ナデシコに好きな人がいたんだ。私、全然知らなかった。で、誰なの?」

「「「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」」」」

 

二度目なのに気付いてもらえないアオイさん・・・・・・・・・・・何か、哀れに思えてきました。

ユリカさん、何でこんなに、アオイさんに対してだけは鈍いのでしょう・・・・・・・・・男として認識してないのでしょうか。

それとも、自分に向けられる恋愛感情だけには鈍感なのでしょうか・・・・・・アキトさんみたいに。

他のことにはかなり鋭くなっているのですが。

 

「大変ねえ、あなたも」

「がんばって下さい、応援してますから」

「まあ、気を落とさずに」

皆さんから慰めの言葉をかけられています。あまりに可哀想ですから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まもなく、第二防衛ラインの攻撃範囲に入ります」

いつまでも、お喋りをしているわけには行きません。まもなく、ミサイルが来ます。

「エステバリス隊を収容。その後、ディストーションフィールド、現状での最大出力に。各員衝撃に備えてください」

ユリカさんが、きびきびと指示を出します・・・・・・この変わり身の速さはたいしたものです。

ディストーションフィールドを強化し、ミサイルに備えます。

ナデシコを攻撃可能な位置にある衛星からのミサイルだけなら十分に耐えられます。

 

 

 

 

 

 

「衛星より、ミサイル発射を確認。・・・これは!?」

「どうしたのルリちゃん」

「ミサイル総数、約1500基。ほとんどが大型の弾道ミサイルです。他の空域の攻撃衛星が移動してきています。ミサイル着弾まで約7分」

他の防衛線を弱体化させてまでナデシコを落とそうと言うのでしょうか。

正気ではありません。この攻撃で、大型ミサイルの大半を消費しようというのですから。

第二防衛ラインはこれでほとんどの戦力を失ってしまいます。

 

「これって!?連合軍の無線を傍受。第二防衛ラインの攻撃衛星が木星蜥蜴にのっとられたようです!!」

メグミさんが叫ぶように報告をします。

防衛ラインを弱体化させ、さらにナデシコを落とす。効率のいい戦術です。

「ど、どうするんですか!?艦長!!」

メグミさんの声は悲鳴に近いです。・・・・・・無理もありませんが。

宇宙空間ならともかく、かなり薄くなったといえ大気圏内では、ディストーションフィールドが持ちません。

このままでは確実にナデシコは落ちます。

それにしても『昔』はこんなことはありませんでした。

やはり、大まかな歴史の流れはともかく、細かい部分では容易に変わってしまうようです。

 

 

「・・・・・・・・・・メグちゃん。アキトにつないで」

「は、はい」

ウインドウにアキトさんが映ります。

説明されるまでもなく、アキトさんと私にはリンクを通してユリカさんの考えが伝わってきました。

よくこんな作戦を考えつきますね。これなら何とかなるかもしれません。

 

「アキト、0G戦フレームで出撃してミサイルを迎撃して欲しいの」

「な!?」

「艦長!!」

フクベ提督とゴートさんが驚きの声をあげます。

軍人だったお二人は、これがどれだけ無茶な命令かわかっています。

飛来するミサイルを撃ち落すことがどれほど困難かを。

 

「艦長!アキトさんを殺すつもりですか!?」

メグミさんはユリカさんを睨みつけています。

「今は、他に手段はありません」

でも、ユリカさんは動じません。静かに指示を出し続けます。

普段は喧しいくらいのユリカさんですが、こんな非常時には静かです。

その冷静さは、クルーを落ち着かせます。

 

「わかった。すぐに出撃する」

《艦長、0G戦フレームはあと2分ででられる》

「かー、いいねぇ。研究所を守るため、命がけで出撃する。よし、俺も出るぞ」

「ダメです」

「なんでだ!?」

「0G戦フレームは一機しかありません。空戦フレームは、まもなく限界高度に達します」

一機だけとはいえ、積んでもらって正解でした。・・・・・・・・・・・かなり無理を言って頼んだのですが。

「今から作戦を説明します」

ヤマダさんが騒いでいますが、ユリカさんは構わずに話を続けます。

 

「ルリちゃん、ナデシコのディストーションフィールドを制御して、半球状に収束させて。

それから、全ミサイルの情報を解析。その上で、もっともフィールドの負担が少なくなるように、

ミサイルの迎撃を指示し、ナデシコの進路を計算。

ミナトさんは、それに基づいてナデシコを操舵してください。

アキトはルリちゃんに指示されたミサイルを迎撃して」

 

ディストーションフィールドを収束させればその分強度は上がります。

エステバリスが収束フィールドで攻撃するのと理屈は同じです。

 

「だが、それではホシノ・ルリの負担が大きくなりすぎないか!?」

 

「それはこれから説明します。

まず、必要以外のナデシコの機能を停止させます。

ジュン君はサブオペレーターシートで必要最低限の艦内管制を担当してください。

そして、私がルリちゃんの作業を手伝います」

 

そう言って、ユリカさんはIFSの紋章を見せます。

「ユリカ、いつの間にIFSなんて付けたの!?」

アオイさんはすごく驚いています。地球でのIFSに対する偏見を考えれば無理もないですが。

「話は後で。皆さんすぐに取り掛かってください」

 

 

 

ユリカさんが作戦を述べているうちに、情報の解析を済ましておきました。

「ミナトさん、進路出します。アキトさん、ミサイルの迎撃指示送ります」

「「了解」」

さあ、これからが本番です。

ユリカさんの助けがあるとはいえ、私の扱う情報はかなりの量になります。

昔、ナデシコAに乗っていた時の私では不可能だったでしょう。

それ以前に昔のナデシコAでは、ディストーションフィールドの操作そのものが無理でしたけど。

 

今の私なら、このくらいは平気です。というより、ユーチャリスでなら一人でこなせます。

ユリカさんに手伝ってもらう必要があるのは、ナデシコのシステムの限界のためです。

 

「オモイカネ、IFSフィードバックレベル20」

フィードバックレベルを上げることによって、私の身体がナノマシンの光に包まれます。

瞳、髪、手、顔など身体全体がきらめきます。

「ルリルリ、きれい・・・・・・・妖精みたい」

ミナトさんが言うように、宇宙軍にいるときには、電子の妖精と呼ばれた姿です。

 

ユリカさんも、瞳と髪かきらめいています。

アオイさんなどは驚いているようです。

パイロットのIFSくらいのナノマシンの量では、瞳はともかく髪がきらめくことはありません。

IFS強化体質者を除けば、髪がきらめくほどのナノマシンを持っているものは、一部のオペレーターだけです。

それほどのナノマシン耐性を持つ人は少ないですから。

 

 

 

 

 

アキトさんは、指示どおりミサイルを撃ち落していきます。

その射撃は正確で、一つも撃ち洩らしがありません。

「すごい・・・・・・」

「信じられん腕前だ」

「これほどのものとは思いませんでした」

「軍にもこれほどのパイロットはおらんだろう」

ブリッジクルーのうち現在仕事がない人が、アキトさんの腕を見ておどろいています。

 

アキトさんが数を減らしてくれるおかげで、収束されて強度の上がったディストーションフィールドはミサイルの攻撃を持ちこたえています。

ナデシコの後方はフィールドがないので命中すれば終わりですが、相対速度が大きすぎるので一度回避したミサイルがナデシコに追いつくことはなく、そのまま落ちていきます。

今のコースなら海上に落ちるので、被害は小さくて済みそうです。

 

「後3分で第二防衛ラインを抜けます」

「突破後、アキト機を収容、ディストーションフィールド出力を最低まで落とします。ビックバリア到達直前にディストーションフィールド最大出力」

 

「第二防衛ライン突破。ディストーションフィールド負荷は問題なし」

「ウリバタケさん、ビックバリアまでに、一応フィールドジェネレーターをチェックして置いてください。

《おう、任せとけ!》

「アキト、ご苦労さま」

「お疲れ様、アキトさん」

「ああ。ありがとう」

 

何とか危機を脱しました。でも、今回は予想外のことが多すぎました。

ナデシコの制御プログラムの改良と0G戦フレームがなければ危ない所でした。

備えあれば憂いなしですね。

 

「アキトさんてすごいんですね」

「そうね、カッコよかったわ」

メグミさん、ますますアキトさんに興味を持ったようです・・・・・はぁ。

 

「でも艦長の作戦もすごかったわよ」

「ええ、確かに、私なんかもうだめかと思いましたよ」

「本当に逸材ですな」

これで、ユリカさんの指揮能力を疑われることはないでしょう。

 

「ルリちゃんも艦長もすごく冷静でしたよね。私なんか怖くてしょうがなかったのに。そういえば、ミナトさんも落ち着いてましたね」

「まあ、艦の操舵に集中してたしね。ほかのことは考えてなかったわ」

「こういうときこそ、冷静でいなきゃいけないのは、頭ではわかってるんですけど・・・・・・」

 

「ユリカ、なんでIFS付けたの!?まさか、ネルガルに強制されたとか!?」

「アオイさん。ネルガルはそのようなことはいたしません。

まあ、私も艦長がIFSを付けていたのを知ったときには驚きましたけど。

なんでも、IFSがある方が艦の運営には便利だと申されまして。いや、ご立派な心がけです」

「そうなの?」

「まあ、そんなとこかな。こんなこともあろうかと、ね」

《こんなこともあろうかと。うんうん、やっぱり、こうでないとな!!》

ウリバタケさんがコミュニケで割り込んできました。・・・・いつから聞いてたんでしょう?

 

 

というようにたわいのないおしゃべりが続いています。

戦闘が終わるといつもこうですね。

 

 

 

 

 

この後は、ビックバリアを強行突破。

限界出力以上でバリアを発生しつづけた衛星は爆発。

地上には核融合炉の爆発による大規模なブラックアウト現象が発生しました。

 

とにかくナデシコは宇宙に出て、コロニーサツキミドリを目指して航行中です。


あとがき

 

こんにちは、無色です。

第六話をお届けします。

 

今回のユリカは、計算ずくと天然とが混ざってます。

まあ、被害を受ける方にとっては変わらないかもしれませんけど。

被害者には同情します(笑)。

 

それでは、失礼します。

 

 

ちょっと捕捉

 

この世界のIFSについての設定

 

パイロット用のIFSとオペレーター用のIFSの違いは扱える情報量と伝達速度です。

パイロット用のIFSは、簡易型で情報量、速度と共にオペレーター用のIFSに劣ります。

なぜ、みんながオペレーター用のIFSを付けないかといえば、オペレーター用のIFSはナノマシンの量が多いからです。

基本的に、性能の高いIFSほどナノマシンの量が増えます。

どれだけの量のナノマシンに耐えられるかは個人差があり、オペレーター用のIFSを付けられる人はあまり多くありません。

 

IFSを使った時に発光が見られますが、これは体内のナノマシンの量によって発光する場所が変わります。

普通は眼の奥がきらめくくらいですが、一定以上に多くなると髪がきらめくようになり、さらには全身がきらめきます。

髪がきらめくほどの量のナノマシンを受け入れられる人はあまり多くなく、そういった人はオペレーターとして重宝されます。

全身がきらめくほどのIFSを受け入れられるのはIFS強化体質者だけです。

許容量以上のナノマシンを投与されると障害が起こり、酷い場合は死亡します。

遺跡の影響を受けている火星の住人は、総じてナノマシン耐性が高く、特にA級ジャンパーは、全員が髪がきらめくほどのナノマシンに耐えられます。

 

この世界のIFSは遺跡の伝達システムから得られた技術により作らています。

IFSは本来遺跡へのアクセスを目的として開発され、IFS強化体質者は、より高度なIFSを用いて遺跡とアクセスするために研究されました。

しかし、IFSによる遺跡へのアクセスの研究は、ほとんど実りませんでした。そのため、IFS強化体質者はコンピューターのオペレーターとして採用されることになりました。

IFS強化体質者の研究も遺跡のデーターが使われており、そのためIFS強化体質者は必ずB級ジャンパーです(もちろん火星で生まれればA級ジャンパーになります)。

 

 

 

代理人の感想

ユリカナイス(笑)。

振袖は女性クルー全員で着るし、ジュンは気持ちよくいぢめるし(爆)。

特に「貴方のゲキガンガーは〜」のくだりには思わず膝を打ってしまいました。

 

 

 

それにしても・・・・・・嗚呼それにしても哀しきは男の純情。

いつかハーリーくんとのダブルダッシュを期待していいんでしょうか(核爆)?