もう一度、あの日々を。

 

第七話


[****]

 

「ナデシコが大気圏を突破したわ」

ネルガルの会長室で、お茶をしながらアカツキは報告を聞いていた。

「連合軍と一悶着あったが、予定どうりだね。・・・・・・・・それにしても、すごいね、これは」

ナデシコの大気圏突破の際の映像、そこには1500発の大型弾道ミサイル弾幕を突破するナデシコが写っていた。

「弾道ミサイルをライフルで撃墜するテンカワ君も非常識だけど・・・・・。こんな作戦を立てるユリカ君もなぁ・・・・。

つまり、ユリカ君はテンカワ君の腕をよく知っていたわけだ。ますます、不思議だよね」

「ここまで来るとあきれるしかないわ。進んだ技術。情報収集能力。そして、この戦闘能力。

経歴からはみれば、ありえないわ、こんなの。あの三人の関係もよくわからないし」

エリナは疲れたような声を出した。驚きを通り越してあきれ果てていた。

「うちとしては助かったんだけどね。あれだけのミサイルが降ってくるのは計算外だったし。

ディストーションフィールド制御系の改良、0G戦フレームの積み込み。この辺りが一つでもかけていたらナデシコは沈んでいた」

「そうね。0G戦フレームには苦労したけど、それが報われたわね」

エリナとしては苦笑するほかない。ユリカにOG戦フレームを積むように要請されて、駆けずり回るはめになったのだ。

そのときは色々と文句をこぼしてたが、その努力が役に立ったわけだ。

まあ、宇宙へ行くのに0G戦フレームがないというのも問題あるのだが。

 

「テンカワ君といえば、パイロットの腕だけじゃなく、破壊工作に関しても超一流なんだよね。

テンカワ君に破壊されて、クリムゾンの非合法な研究は壊滅状態だろ。

施設はともかく、人員は簡単には補充できないし。これじゃあ、新製品の開発にも影響が出るだろう。

うちとしては、喜ばしいけどね」

「ネルガルの敵にならなくてほっとするわ。彼に襲撃されることを想像するとぞっとするわ。敵に対しては容赦ないし」

エリナはそれを想像するだけで怖くなる。

襲われた研究員達は一人とて生き残っていない。すべて殺された。

「普段とのギャップがすごいよね。うちの社員に接する時なんかは普通の人なんだけどね。

戦闘のとき、特に人体実験がからむと、まるっきり人が変わる。

うちで言うとプロスペクター君に近いかな。あの変わり方は」

表の顔はいつも笑みを浮かべたネルガルのスカウト。だが裏の顔はネルガル最強のエージェント、プロスペクター。

確かにアキトとよく似てる。アキトは、普段は人好きのする笑みを浮かべることが多いが、敵に対してはどこまでも冷酷になれるのだから。

「人体実験か。うちが襲われてもおかしくなかったのよね。ボソンジャンプ実験で何人も死なせてるし」

「たしかにね。ただ、うちは強制したことはないよ。少なくとも僕が会長になってからわね。まあ、だからといって許されるってわけではないけど」

アカツキは、人体実験については批判的・・・というより嫌っている。

前から、IFS強化体質者の研究には監視の目をかけて、その内容を見張っていた。・・・・・このことを知るものはほとんどいないが。

 

アカツキという人間は、正義の味方に憧れた自分と、企業の会長としての自分に折り合いをつけて生きている。

ネルガルの会長としては許容することでも、アカツキ個人にとっては嫌いなことも多い。

だからこそ、会長として実験を許容しても、アカツキ個人としては行き過ぎないようにしようとする。

その妥協点が、ジャンプ実験を強制しないことであり、IFS強化体質者の実験の監視である。

 

実際の所、アキトとの取引は、ネルガル会長としては利益がえられ、アカツキ個人としては、実験の中止を指示することができるという、どちらのアカツキも満足できるものでった。

 

「でもね、実験の指揮をとっていたのは私よ。私は実験される側のことなど考えようともしなかった。アキトくんが嫌ってる科学者と同じよ」

「エリナ君、君は襲われるのが不安なのかな?それとも・・・・・・・・・・」

アカツキは、にやりと笑いながらエリナを見る。エリナはその笑みに本能的な警戒心が高まる。

「それとも、襲われることを期待してたりして。なんたって『アキトくん』だもんね」

エリナは一瞬きょとんとしていたが、意味を理解すると真っ赤になって怒鳴りつけた。

「な!な!何を言い出すのよ!!あんたは!!そ、そんなわけないでしょ!!」

「でもね、君が名前で呼ぶなんて珍しいし、それに、そんなに動揺してちゃ説得力ないよ」

「そうじゃないわよ!違うわ!」

エリナは耳まで真っ赤に染めていた。上を目指して、ずっと仕事ばかりしていたエリナはこういうことに免疫がなかった。

「あ、でも、ユリカ君は強敵だと思うよ。やはりここは、既成事実を・・・・」

「人の話をきけーー!!!」

エリナの絶叫が会長室に木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ところ変わって、ここはナデシコ。

 

ルリ、アキト、ユリカはサツキミドリについて話し合っていた。

 

「サツキミドリの人たちを救うにはどうしたらいいと思う?

ナデシコの速度を上げて到着を早めるか?

それとも、警報を鳴らして脱出させるか?これはルリちゃんならできるだろ」

「速度を速めるのは無理なの。大気圏突破時の無理がたたって相転移エンジンの調子がおかしいから。

ウリバタケさんたちが急いで修理しているけど、サツキミドリにつくのは明日の昼。前回よりも遅くなるわ」

「なら避難させるしかないか。ルリちゃん、どれくらいになればできる?」

「ウイルスを送りつけるだけですから、三時間後には可能です。問題は作動させるタイミングです。

襲撃パターンを見抜く必要がありますね。敵がサツキミドリを攻撃した目的は何かです」

 

ルリの言うように、相手の目的を見抜けば行動パターンの予測がつく。無人兵器はプログラムされた通りにしか動かないのだから。

「うーん、目的として考えられるのは、

  1. サツキミドリそのもの
  2. サツキミドリにある0G戦フレーム
  3. パイロット

くらいよね、このうちサツキミドリそのものってのはないと思うけど、戦略的に意味ないし」

「私はパイロットじゃないかと思います。0G戦フレームは作り直せますけど、パイロットはそうもいきませんから。

ナデシコの襲撃も出港する直前でした。おそらくこれもクルーが目的だったと思います。

出港直前なら、ドック内にいるから破壊しやすいし、クルー全員が乗り込んでいるので、全滅させられます」

「敵の行動パターンとしては二つだな。

  1. 襲撃時間が決まっているか
  2. ナデシコの接近が引き金となるか

だが、チューリップは前からあったはずだ。そうすると、1.はなさそうだな」

 

「ナデシコが近づいた時なら、確実にパイロットはサツキミドリにいる。

そして、タイミング次第では、爆発の破片でナデシコにダメージを与えられる。

襲撃のタイミングは、ナデシコ入港の直前だと思います」

「なら、その前に避難させてしまえばいいか」

「アキト、一つ忘れてる。サツキミドリからの脱出に対して無人兵器がどう反応するかを」

戦略シュミレーション無敗というのは伊達ではない。ユリカはこの方面は非常にするどい。

「無視するって可能性もないわけでないけど、たぶん追撃してくると思う。そうすれば、目的の片方だけでも達せられるから。

だから、ナデシコ到着の少し前に脱出させるべきよ。すぐに援護に出られるように。・・・たぶん犠牲はでてしまうけど」

「それしかないか」

「そうですね」

アキトもルリもユリカの能力を信用している。ここはユリカの作戦にしたがうことにする。

「それじゃあ、昼食にしましょう。明日の昼までに英気を養っておかなくっちゃ」

そう言って。ユリカは食堂へと歩き出す。

ルリとアキトは顔を見合わせて、そしてユリカに続いて歩き出した。

 

今のユリカの明るさには影がある。

知っているのに、サツキミドリで犠牲者が出るのを止められない。

全ての人を助けることはできない・・・・理屈ではわかっている。でも感情は別だ。

そんなやりきれなさを抱えながらも、ユリカは笑っている。

悔やんでも何もならないと知っているから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アキト、はい。アーンして」

「ばか!できるか!!」

「えー、何で?いいじゃない、それくらい。ねえ、ルリちゃんもそう思うよね!?」

「え!でも、みんな見てますし・・・・・」

「いいじゃない、見られたって。・・・あ、でも二人きりならしたいんだ?」

「そ、そんな、私・・・・・(///)」

「ルリちゃん、可愛い!」

「ユ、ユリカさん。抱きつかないで下さい」

 

 

 

三人の食事の様子を、ホウメイガールズたちが眺めていた。

「テンカワさんって艦長とできてるのかな?」

「あの雰囲気だとそう思えるけど」

「でも、それだったら、女の子と来るかな?」

「そういえば、いつも三人でいるよね」

「ひょっとして、二股?」

「えー、アキトさんてロリコンなの?」

「でも、艦長は年上のはずよ」

「ストライクゾーンが広いとか」

「でも、艦長とルリちゃんって争っている感じじゃないよね」

「艦長とルリちゃんも仲いいし」

「ほんとよね、抱きついてるし。あ、今度は、頬擦りしてる」

「なんか、妙に仲良くない(汗)?」

「実は、艦長が二股とか(汗)」

「艦長とルリちゃんって同室だよね」

「ちょっと、何想像してるのよ(汗)」

「可愛い子にスキンシップしたがる女性て、いるじゃない。艦長もそうじゃないの?」

「姉妹みたいなものかな」

「二人きりの時は、お姉様って呼んでるとか」

「あんたは、そこから離れなさい!」

「あ、あの二人が姉妹で、二人ともテンカワさんと仲がいい・・・・・ひょっとして姉妹丼!?」

「「「「「なに考えてるのよ!!あんたは(滝汗)」」」」

「こらこら、いつまでくっちゃべってるんだい。いい加減仕事に戻りなよ」

「「「「「はーい」」」」」

 

 

と、このように、食事の時間は楽しくすぎていきました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナデシコがサツキミドリに近づくと、サツキミドリからたくさんの船が脱出していた。

「前方の船団、応答願います」

「いやー、可愛い声だね。今度デートしよう」

メグミの問いかけに軽い声が返ってっくる。

「それはまたの機会に。それより、どうされたんですか」

「それは残念。・・・・いや、サツキミドリ全体に警報が鳴ってね、木星蜥蜴が・・・・ガガッ」

耳障りな雑音を残して、そこで通信は途絶えた。そして、前方に光が発生した。

「ミナトさん、ナデシコ全速で船団の前に出てください。アキト、エステバリス発進して。

メグちゃん、合流予定のパイロットに連絡を」

「つい・・・さっきまで・・・話していたのに・・・・」

メグミは茫然としていた。話をしていた相手が目の前で死んだのだ。人の死に接したことのないメグミにとっては辛すぎた。

「メグちゃん!パイロットに連絡を!」

「は、はい!」

「ナデシコは、パイロットと合流後、無人兵器を殲滅します」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「初めましてーっ!新人パイロットのアマノ・ヒカルでーす」

眼鏡の女性が挨拶をすると、男性陣・・・特にメカニック・・・から異様なほど大きな声があがった。

続いて、スバル・リョーコの挨拶でも盛り上がっていた。

しかし、最後に、マキ・イズミの挨拶では、最初は歓声があがっていたが、急にシンとして凍り付いてしまった。

 

サツキミドリで、ナデシコは三人のパイロットと合流後、無人兵器を掃討した。・・・脱出した船の何隻かは沈み、乗員に犠牲が出てしまったが。

戦闘後、パイロットはナデシコに乗り、脱出した船は月へと向かった。

パイロットの自己紹介のとき、かのように男性陣が騒ぎ出したというわけだ。

 

 

「ようこそ、ナデシコへ」

「誰だ?おまえ」

リョーコは、場違いなほど明るい・・・軍艦としてはであって、ナデシコでは珍しくないが・・・・声で、話し掛けてきた女性に尋ねる。

「私は、艦長のミスマル・ユリカでーす♪ブイッ!!」

「へっ!?」

リョーコは唖然としてしまった。こんなのが艦長で大丈夫なのかと。

普通なら、リョウコの思いは当然のものだろう。なんといっても、自分の命を預ける艦長がこんなのでは・・・・・・・。

だが・・・。

「あ、よろしくお願いしまーす」

同じくらい明るい声で挨拶を返したのはヒカル。

「よろしく。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

平然と挨拶を返したあと、場を真っ白にする台詞を続けたイズミ。

二人ともまるで動じてなかった。・・・・・さすがにナデシコのクルーに選ばれるだけのことはある(笑)。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・まあいいや。艦長、よろしくたのむわ」

なんとか気を取り直してリョーコは続けた。

「ところで、エステバリスのパイロットはどこだ?」

「えっと、ナデシコにはパイロットは二人います。一人はあそこにいる暑苦しそうな人で、ヤマダ・ジロウさん」

どうでもいいが結構酷いことを言ってるユリカである。

「違う!俺の名前はダイゴウジ・ガイだ!」

「なるほど、暑苦しそうだ。でも、こいつはヤマダじゃないのか?」

「違ーう!!ヤマダ・ジロウは仮の名だ!!俺の真の名はダイゴウジ・ガイ。俺の魂の名だ!!!」

「なにそれ?」

ヒカルはきょとんとしている。

「それはおいといて、もう一人が・・・・・・・・アキトー、ちょっとこっち来て」

ヤマダが騒いでいるが気にせずに、ユリカはルリと話していたアキトを呼ぶ。

アキトはルリと一緒にこちらへやって来た。

「こちらがナデシコの誇る、とっても強ーいパイロットのテンカワ・アキトです♪」

リョーコは、ユリカの態度は気にしない事にしたようだ。・・・・・・これくらいの柔軟性がないとナデシコではやっていけない。

そのまま、アキトに自己紹介をする。

「お前がテンカワ・アキトか。スバル・リョーコだ。凄いなお前って。大気圏脱出時の映像見せてもらったぜ」

リョウコの目に浮かぶのは憧憬・・・自分より腕のいいパイロットに対する。

「よろしく、スバルさん」

「リョーコでいい」

「わかったリョーコちゃん」

「リョーコちゃん!?・・・・・・・・ま、まあいいや」

「私もヒカルでいいよ。それにしても、リョーコがちゃん付けでよばせるなんてねー。ふーん」

ヒカルは意味ありげにリョーコを見つめる。

「な、何だよ!」

「別にー」

リョーコの頬は少し赤くなっていた。・・・・・・・・ユりカとルリは、それを不機嫌そうに見ている。

 

「それから、こっちはオペレーターのホシノ・ルリちゃん。愛称はルリルリです」

「始めまして。ホシノ・ルリです」

「へー、可愛いー。よろしく、ルリルリ」

ヒカルは順応が早い。初対面からルリルリと呼ぶことにしたようだ。

「ま、よろしくな」

「・・・・よろしく・・・」

「ところでさ、艦長とアキトくんって仲いいの?気になるなー。ね、リョーコ」

「な、何で俺に聞くんだよ!?」

「えー、気になるでしょー?」

「別に!」

リョーコはそっぽを向いた・・・・この態度では肯定してるみたいなものだけど。

 

「アキトと私?もちろん仲いいよ。あのね・・・・」

ユリカはチラリとアキトを見る。・・・・アキトの背中に悪寒が走った。

「アキトは、ルリちゃんとユリカの王子様でーす

「「王子様ー!?」」

リョーコとヒカルは驚いて三人を見る。

「うん、そう♪」

ユリカは屈託なく答えていた。

アキトは先の展開を予測して頭を抱えてた。

「それって、つまり、アキトくん二股?」

「うん♪そうとも言うかな」

ユリカは無邪気に微笑んでいる・・・・表面上は。

「なにー!テンカワ!おまえ、こんな子供に手を出してるのか!?」

リョーコがアキトに詰め寄る。

「ユ、ユリカ!お前何言って!?」

ユリカはアキトを見て微笑んでいた・・・・・・邪悪な笑みで。

「ロリに、お姉さんキャラか。今度このネタで行こうかな・・・姉妹物ってのもいいよね」

ヒカルは次の本のネタに使おうと考えていた。・・・・・この後、本当にこれで本を出し、結構、評判がよかったというのは別の話。

 

「それにしてもアキトくん、趣味広いね。艦長とルリルリって性格から体形まで全然違うのに」

「だ、だから・・・・ルリちゃん、何とか言ってくれ」

うまい言い訳が思いつかず・・・・何しろ二人に手を出したのは事実なので・・・アキトはルリに助けを求める。

「私、少女ですから」

「わけわかんないよ」

「おい、はっきり言え!ホントかどうか」

リョーコは切れかけていた。アキトのはっきりしない態度に。

「そ、そんなはずないって。ルリちゃん、まだ子供だし」

「そんなこと言う人嫌いです。私、少女です」

キャラが違うと突っ込みたくなる台詞を言うルリ。アキトに向けた視線はちょっと冷たくなっている。

「ねえ、ホントのところ、どうなの?」

アキトはルリにすがるような視線を向けている。

ルリはため息をついて話し出した。

「アキトさんが二股をかけているというのは・・・・・・・本当です」

助け舟を出されるどころか、トドメを刺されてしまい、アキトはガックリと座り込んだ。

「な!な!な!テンカワ、こんな子供に」

リョーコは怒り心頭にきていた。

憧れさえ抱いていたパイロット。それがこんな女癖の悪い、節操なしだったとは・・・・。

その様子を、ユリカは、それはもう楽しそうに笑って見ていた。

ルリもにっこりと微笑んでいた。

たっぷりと含んだ所のある・・・・・・・・・・・悪魔の微笑だった。

 

「アキトくんがこんな人だったなんてね。びっくりね」

ヒカルは状況を楽しんでいる。ヒカルはユリカとルリがわざと言っていることに気が付いていたし。

どちらかというと、状況を混乱させようとしていた。

「リョーコさん、アキトさんは、ユリカさんと私を同じに扱ってくれる。それだけです。

それから、子供って言わないで下さい。私、もう『子供』じゃありません」

ルリの言葉はフォローになっていない。

聞き方によっては、すごく危険な台詞だ・・・・ルリは、それを意図してやってる。それに、『子供』じゃないのは事実だったりするけど。

「ふーん。そうなんだー」

「おい、テンカワ!!」

 

「そう♪ヤマダさんの台詞を借りるなら、ミスマル・ユリカ、ホシノ・ルリというのは仮の名で・・・・・」

さらに追い込むべく、ユリカは続ける。

「私の魂の名は・・・・・テンカワ・ユリカでーす

「同じく、テンカワ・ルリです」

「へー、二人と結婚してるんだ。アキトくん、やるー」

「テ、ン、カ、ワーーー!!」

 

 

その後も騒ぎは続き、納得してもらうまで、アキトは散々苦労することになる。

それでも一応引き下がったものの、リョーコのアキトに対する不信は拭い切れなかった。

その様子を見て、ユリカとルリは『ニヤリ』としか形容できない笑みを浮かべていた。

どうやら、ライバルの追い落とし作戦の一環だったらしい。

ホント、二人とも性格が悪くなったものだ・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[ルリ]

 

今日の勤務が終わり、私は部屋に向かっています。ユリカさんも一緒です。

アキトさんは、今日は夜勤なので、ブリッジにいます。

今夜はアキトさんと一緒ではありません・・・・残念です。

 

 

 

 

歩いている途中でメグミさんを見つけました・・・・ひざを抱えてうつむいています。

初めて死というものを実感したメグミさん。それも、会話をしている相手が死ぬ所を目の当たりにしてしまいましたから、辛いのでしょうね。

「メグちゃん、どうしたの?」

「何で・・・平気なんです!?・・・人か死んだんですよ・・・・なのにみんな平然として・・・・」

私はこの質問には答えられません。自分の望みのために、躊躇いもなく人を殺した私には・・・・。

「自分のすべきことはしたからかな」

「それって自己満足じゃないんですか!?」

メグミさんが叫ぶように言います。かなり感情が高ぶっているようです。

「そうかもしれない。でも、自分のできることはすべてしたから。できなかったことを悔やんでいても意味はないから。

もちろん忘れてはいけないけど、それを後悔するより、先に進むことを考えなければならないの。

過去のことは、未来のための糧としなければならない」

染みとおるような静かな声でユリカさんは言います。

これは、メグミさんだけでなく、アキトさんと私、そしてユリカさん自身にも向けた言葉でしょう。

 

「それに私たちは万能じゃない。できることには限りがあるの。だから選択しなければならない時がある。

私は艦長だから、艦を守るために敵を殺せと命令しなければならない。そして艦を守るために味方に死ねと命令しなければならない。

だから私は冷静でいなければならないの。最善の選択ができるように・・・・・・・・・・。」

メグミさんは息を呑みました。ユリカさんの言葉の意味を理解したのでしょう。命令一つで、人を死に追いやる立場というものを。

「ねえ、メグちゃん、この艦は戦艦で、今は戦争中なの。

だから、人の死に接する時が来る。そして、その死に対してクルー全員が責任をもつことになる。

つまり、戦艦のクルーは必ずその手を血で染めることになる。・・・敵の血か、味方の血か、あるいはその両方で。

戦艦に乗るってことは、殺される覚悟だけでなく、殺す覚悟が必要になるわ。

厳しいとは思うけど、戦艦に乗るって言うのは、そういうことなの」

メグミさんの顔色は真っ青です。人を殺すなんてことは考えたこともなかったでしょうから。

でもこれは自覚しておかなければいけないことです。自分が何をしているかということは。

 

「メグちゃん、なぜナデシコに乗ったか考えたことある?・・・・・・・・・・自分がナデシコにいる意味を。

自分の目的を見つけた方がいいわ。

そうでないと押しつぶされちゃう。それだけ重いことだから・・・戦艦に乗るってことは。

後は、ある程度割り切って考えること。悔いの無いよう最善を尽くしてね」

「艦長は、なぜナデシコに乗ったんです?」

「私が『私らしく』あるため。

私は幸せになりたいと思うし、大切な人にも幸せになって欲しい。

私はそのためにはどんなことでもするつもり・・・・法も、常識も、倫理も関係なく。

それが、私の『私らしく』。

・・・・・・・・・・・利己的で傲慢な考えだけどわかってるけど・・・・」

「・・・・・・・・・・・正直言って、自分が艦長の言葉を受け止められるか、わかりません。でも、私も見つけてみようと思います。私の『私らしく』を。

でも、艦長ってすごいですね。そこまでしっかりと考えてるなんて」

メグミさんはかすかに笑みを浮かべました。ユリカさんに敬意を持ったようです。

「ううん、私は教えてもらっただけ。

昔の私は、利己的で傲慢で、そしてそれに気付きもしなかった。その頃の私は自分の行動の意味など考えてなかった。

自分の気持ちを押し付けるだけで、人の気持ちを考えてなかったりね・・・・・。

でも、行動で教えてくれた人たちがいたわ。

その人たちは自分が傷つくのも構わずに私を助けてくれた・・・自分の心を切り刻みながら助けてくれた。

私はその人たちを支えられるようになりたい。そう思ってるの」

ユリカさん、あなたは私たちを十分に支えてくれています。闇に沈み込んでしまいそうになる私たちを押し上げてくれます。

私たちは三人で支えあっています。

伝わる心・・・・私たちは補完しあって生きているのですから。

 

「艦長、話を聞いてもらって少し楽になりました。ありがとうございます」

「ううん、話を聞くくらいならいつでもいいよ・・・・たいしたことはできないけど」

「そんなことありません。聞いてもらえるだけでもいいんです・・・こんな話、誰にもできないかと思ってましたから。いつかお礼しますね」

「だったらメグちゃん。私のことは、艦長じゃなくてユリカって呼んで」

「はい、ユリカさん」

二人とも仲がいいですね。昔とは大違いです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メグミさんと別れたあと、食堂で食事をして部屋に戻りました。

普段なら夕食はアキトさんが作ってくれるのですが、今日は夜勤だから仕方ありませんね。

 

「なにかさびしいね、アキトがいないと」

「そうですね、いつも一緒だから余計にそう感じます」

「やっぱりアキトがいないとね。・・・・でも、アキトと二人だけってのもさびしく感じるの。ルリちゃんは?」

「アキトさんと二人の時ですか・・・・・・・・・・・何か欠けている感じがします」

「うん、三人が一番いいね。すごく安眠できるし」

「私たちは三人で、欠けたところを補い合っていますから」

「だから一人欠けるとさびしいのよね。・・・・・・今日はルリちゃんと二人きり」

そこまで言うと、ユリカさんは私を抱きしめてきました。

「ルリちゃんて、いい匂いするね」

「シャンプーだと思いますよ」

「ううん、それもあるけど、でもこれはルリちゃん自身の匂いだよ。すごくいい匂い」

頬が熱くなるのを感じます。私の顔は赤くなっているでしょう。

「ユリカさんもいい匂いですよ」

「ありがと。・・・なんかずっとこうしていたいな。ルリちゃんって、温かくて、柔らかくて、気持ちがいいんだもん」

私も気持ちいいです。こうして抱きしめられているのが。

ぬくもりに包まれてとても安心できます・・・・・・・・・・・・・・・って、ユリカさん!?

「ど、どこ触ってるんですか!?」

私の背中に回っていた手が下のほうへ下がってきました。そして、さわさわと動いています。

「だって、とってもいい感じなんだもん。ここの感触もいいわ、ぷにぷにしてて」

「あ、ちょっと揉まないでください」

「やだ、もっと触りたい」

「ん、あ、ちょっとユリカさん」

だんだんとユリカさんの動きがエスカレートしてきました。

私が身体を捩るとますます楽しそうな顔をして、私を触ります。

ついには下着の中にまで手が伸びてきました。

「あ、ふっ、ユリカさん、いったい何を・・・・・」

「いや?ルリちゃん」

「嫌ではないですけど・・・・・んっ」

それ以上話せませんでした、ユリカさんに口を塞がれて・・・・・・・・・ユリカさんの口で。

「んん・・・」

ユリカさんの舌で口の中を弄られて、私はぼおっとしてしまいました。

「嫌じゃなきゃいいよね」

コク。

私はぼおっとしたまま頷いてしまいました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、私は疲労困憊でした。

ユリカさん、激しすぎます。

気絶するまですることないじゃないですか・・・・・・・・・それも何度も何度も。

いったい何回気絶したんでしょうか。

私が、やめてと哀願しても、それを楽しそうに見てるだけ。いえ、ますますエスカレートして、意地悪く私を責める。

気絶しても許してくれず、目を覚まさせてさらに続ける。

全身を余すことなく弄りまわす。言葉で責める。

ユリカさんの気が済むまで辱められてしまいました。

これじゃ、壊れちゃいます。

 

『何か恨みでもあるんですか』と聞いたら、

『ルリちゃん可愛いから、なんかイジメたくなるの』

って言ってました。

ユリカさんって、サドだったんですか?

 

『泣いてる顔がすごく可愛いわ

なんて言ってましたから、またされちゃうんでしょうか。

 

はあ・・・・・・・ホント、もう・・・・・・・・。

 

 

 

 

勘弁して(泣)


あとがき

 

こんにちは無色です。

第七話をお届けします。

 

それにしてもこのSSって・・・・

『人類の敵です(By 栞)』

ならぬ

『モラルの敵です』

ね。

しかし、このような不道徳なところはまだまだでてくる予定です。・・・そのうち、PTAから苦情がきたりして(笑)。

 

ユリカの性格の悪さ、どんどん進行しています。今回ルリをイジメまくってます。

あの『素直(すぎる)TV版のユリカ』はどこへいったんでしょうか。

 

割烹着の悪魔のようなキャラが好きな作者の責任でしょうか、やっぱり。

某サイトに投稿したSSでも、ミナトの性格が悪くて、ルリが(この話とは別の意味で)イジメられちゃってますし。

 

それと、途中で『補完』というのがでて来たのは、最近エヴァSSを読みあさってたからです。

こんなふうに欠けたものを補い合うのが、正しい『人類補完計画』ではないかと(笑)。

ところで、どなたか面白いLAS小説を知っていたら教えてください。特にアスカが逆行する話があったら。

この書き方からわかると思いますが、私はLAS信者です。大体これしか読みません。

ナデシコではルリXアキト信者ですけど。

 

それでは失礼します。

 

 

代理人の感想

「ねえ、このSSってなんなのかな?」

「何よ、こんな時に」

「『もう一度あの時を』・・・・・無色さんの手になるモラルの敵。なんで書くんだろう」

「あんたバカァ!? 訳のわからない衝動が湧いて来るのよ?」

 湧き起こる妄想はネタにするのが、あったりまえじゃない」

 

 

・・・こんな感じでしょうか(核爆)。