宇宙。
 どこまでも続く空。深く広い薄闇の世界。
 銀河。
 名もない恒星、星雲達。星の海。星の川。
 太陽系。
 発光する恒星を中心に、円周を描く九つの惑星で形成される銀河の一形態。
 地球。
 太陽系三番目の惑星。深遠な青い海と、雄大で恵み豊かな陸地に覆われた星。
 日本。
 大別して六つある陸地の中で、最も巨大なユーラシア大陸の傍。細長で幾つかの島々で形成される列島。春夏秋冬、四季の巡る風土。
 東京。
 日本と呼ばれる国の首都。様々な人種、様々な建物、様々な思想の都市。
 日々平穏。
 大衆食堂。店主オリジナルメニューである火星丼はタコさんウインナ―が印象的。
 ホシノ・ルリ。
 少女。遺伝子技術によって生み出されたマシンチャイルド。電子の妖精。日々平穏の居候。担当は経理、帳簿の管理。
「ホウメイさん」
 少女は経理ソフトの打ち出した数字を見て居候している店の主に言った。
「今月、赤字です」
















Fantasia 第一話 ホシノ・ルリ、マキビ・ハリ















 ポイント61.257.26。
 その深い宇宙の海の中、白と青のコントラストが印象的な船が浮かんでいる。円錐状の柔らかなフォルムの各所から定期的に小さな電気の灯火が放たれ、ゆっくりと宇宙を浮遊している。
 その船を中心に多数の人型兵器が展開し、各所各所で何かの作業を行っていた。宇宙に浮かぶ機材の欠片をアームで掴んでは慣性任せに放り投げ、その先に伸びる光誘導レーンへ流れて行く。
『おい、ハーリー、こっちの作業終わったぞー』
 その数多い部隊の一つを構成するライオンズシックル隊の隊長であるスバル・リョーコは宇宙に咲く花、ことナデシコBを任されている少年に通信を送った。
「あ、はい。じゃあ次はポイント61.268.58に移動してそこの仕分け作業を手伝ってください」
 ナデシコBの艦長席に座る少年が早口に答えた。
『あー?またかよー。なー、ハーリー。今日はここまでにしようぜー。退屈でたまんねーよー』
 コミュニケと呼ばれる通信機器の開いたウィンドウに映るリョーコが不満げに唇を尖らせた。
「ダ、ダメですよリョーコさん。仮にも隊長なんですからそんなこと大っぴらに言っちゃ」
 ハーリーが困ったように答える。そうこうしている間にも彼の周りに新しいウィンドウが開き、各隊の隊長達が指示を仰いでいる。
『そんなこと言ったってよー。こう毎日毎日地味な作業ばっかじゃ腕が鈍っちまうよー』
「今日の作業終了時間までもうちょっとですから・・・」
『大体よー、』
 リョーコはそこで言葉を切って自身のコックピットに映す宇宙へ視線を向けた。
 そこは以前タカマゴ、と呼ばれたコロニーが存在していたポイントで、今は大量の鋼材の残骸やかつて人型であったであろう機体の欠片が浮かんでいる。
 タカマゴコロニーは前クーデターの際、その余波をくらって破壊されたコロニーの一つである。
 そして今は統合宇宙軍がその処理作業をしている真っ最中なのだ。
『何で宇宙軍の俺達がこんなゴミ掃除みたいなことをやんなくちゃいけねーんだよ?こんなのクリムゾン・グループの残党にでもやらせりゃいいじゃねーかー』
 そう言うリョーコはいかにも不満げに『サーベルが泣いてるぜー』とか呟き、ぶんぶんそれを振り回す。
「そ、それはそうなんですけど戦後処理も軍の仕事ですし、それに・・・」
 そこまで言ってハーリーは言いにくそうにもごもごと口篭もった。
『それにー?』
「暴れたのは向こうだけど、それを壊しちゃったのは僕等ですから・・・」
『うっ・・・』
 それを言われるとリョーコは返す舌がない。特に彼女は壊した人達筆頭で、クーデター時は統合宇宙軍にネルガルにと立場をフラフラし、戦後処理のどさくさに紛れて再び軍に戻った身なのだから。
『へーへー。分かりましたよ。やりますよ、っと』
 リョーコは言いながら傍にあった機材を掴み、機体を大きく振りかぶらせる。
 そして、
『おりゃあ!!』
と叫んでオーバースイングで放り投げた。その機材は大きな弧を描いて流れ、光誘導レーンに見事収まる。
『うおっし!!』
 手を打ってガッツポーズを取る。
 その機材はやがてゴミ収集艦を通して燃えるゴミ、燃えないゴミ、資源ゴミなどに自動で区別されていく仕組みになっている。
「あ、リョーコさんリョーコさん。爆破任務がありますよ。大きすぎて艦に入らないからやっちゃってくださいだそうです」
『お、マジか?やるやる。どこだ?』
 一転して喜々とした表情を浮かべるリョーコ。爆破任務とは聞いた名のごとく、でかいブツに爆弾を取り付けて爆破解体するという単純明快、かつ爽快なもので兵士達に大変人気がある。
 それはなぜかと聞かれたら、元々兵士になろうという人間は何かを守るよりも壊す方がよっぽど性に合っている人達だからだろう。
 スバル・リョーコに関して語ると彼女はまさにその特攻隊長と言って差し支えない。
「座標、送信します」
『おー、来た来た。よっしゃ。おし、いくぞてめーら!!』
『『『ウィーッス』』』
 リョーコの声にライオンズシックル隊の隊員達が答え、バーニアの青白い推進炎が宇宙に幾筋かの稜線を描いていく。
 ハーリーはその様子を見届け、コミュニケの通信を閉じて大きく背伸びした。身体中の骨がぽきぽきと鳴る。
 さあ、これで今日の仕事もお終いだ。
 最大望遠で映されたナデシコBのブリッジに帰還してくるたくさんの部隊が見える。
「お疲れさまー、ハーリー君」
「お疲れ」
 オペレーター、操舵手達がハーリーに労いの声を掛ける。
「お疲れさまでーす。先上がりまーす」
 ハーリーはそれに答え、ブリッジを後にする。通路を歩いて自室へと向かうと自動スライド式のドアに何か紙切れのようなものが挟んであった。
「手紙・・・?あ、艦長からだ」
 差出人名を見たハーリーの顔が綻ぶ。
 そして何気なく手紙の消印を見た彼は何かに気付いたように少し遠い目をして、
「そっか・・・。もう一年なんだ・・・」
 ぽつりと小さく呟いた。
 火星の後継者、こと草壁春樹が起こしたクーデターから実に一年の月日が流れようとしていた。










あとがき


 はじめましてCROWです。
 ここまで読んでくださってありがとうございます。
 さて、いきなりですがこの「Fantasia」はもう最後まで書き終わっています。(^^;
 飽きっぽい性格なので「最後まで書き終わるまでアップするのはやめておこう」と決めて書きました。・・・まー、要するに連載にするとダラダラになっちゃうってことなんですけどね。
 ん〜む・・・。( ̄〜 ̄)
 まあ、それはさておき、そういうわけで全8話を一週間定期で更新していけると思います。
 では、しばらくですがお付き合いよろしくお願いします。



 

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ゴールドアームの感想

 ゴールドアームです。
 新しい物語の始まり、という感じですが、まだ文の量が少ないようなので、内容に関する感想は保留させていただきます。
 かといってこれで終わりでは寂しいので、文章について少し。
 きちんと日本語になっており、すっと読めましたが、語句の言い回しや句読点の打ち方に、まだ練るだけの余地があると感じました。
 個人的な感性の領域レベルの問題ですので、具体例は挙げませんが、曖昧な表現や、語句の重複、場面転換時などに気を遣うとより読みやすく、判りやすい文章になると思います。すでに一通り書き上がっているとのことなので、頭を空っぽにして読み直したり、気になる部分を音読をしてみたりして、ブラッシュアップに努めてください。
 では、続き、楽しみにお待ちしています。
 ゴールドアームでした。