プロローグ



和風の家。その玄関口で三人の女性が話をしていた。


「もう遅いし、気をつけてねルリルリ」

訪れていた客に別れの挨拶を告げるのは、この家の主である。ハルカ・ミナト。この三人の内では最年長であり、その美貌と豊満な肉体により発せられる色気、それでいて古風な倫理観を持つ女性である。

「ルリまたねー!」

こちらは、シラトリ・ユキナ。ミナトの義理の、しかし深い絆で結ばれた妹であり、肌は日に焼け活発な生気に満ちた美少女だ。

「はい、失礼します」

そしてルリと呼ばれた少女。この家を訪れていた客であり、彼女たちの大切な友人だった。



ホシノ・ルリ。

ツインテールに纏められた腰まで届く蒼銀の髪に、黄金の瞳。完璧とさえいえるほどに整った顔。華奢な身体。その肌は抜ける様に白い。

およそ自然に生まれるとは思えないその容姿。事実、少女は自然に生まれた存在ではなかった。

マシンチャイルド。人工的に遺伝子を操作し、常人を遥かに上回る能力を得ることを目的として研究により生まれた存在であった。その研究の成果はルリに天才的な頭脳と、高いナノマシンへの適正を与えた。

極めて高い能力、その超絶の容姿。それゆえに彼女は【電子の妖精】とも呼ばれ、その名は一般の社会にも広く知れ渡っていた。

そして、数ヶ月前の【火星の後継者の反乱】を彼女が艦長を務めるナデシコCにより鎮圧した功績がさらなる名声を彼女に与えた。

例えそれを本人が望まなかったとしても。そしてそれが、彼女に恨みを持つ者達にとって耐え難いことであったとしても。










ミナトの家からの帰り、ふとルリは大きな自然公園によった。

深夜の公園内には他に人は居らず静寂に満ちている。遊歩道の傍らには木々が立ち並びその内部は闇に覆われ見通すことはできない。公園中ごろは開けており、芝生が生え茂る。

ルリはそこにあるベンチに腰かけ、その手の小さな紙を眺めていた。





「預かっただけですよ」





見上げる夜空には満天の星々。そこより流れる星光をルリの蒼銀の髪が反射し、まるで自ら光り輝いているかのようであった。

ルリは想う。かつての自分に温もりを、そして人を愛することを教えてくれた人。この星の海のどこかにいるかも知れないかけがえのない人のことを。





「アキトさん」






星空に意識を飛ばしていたルリは気づかなかったが、いつの間にかすぐ傍に男が現れていた。


「ホシノ・ルリさん」




















宇宙に浮かぶ白亜の戦艦。名をユーチャリス。

ナデシコCの先行実験艦であり、極めて少人数での運用を目的に設計されているため、現在この艦の乗員はたった二人。現状の艦船の中でも最高の性能を誇る一隻である。だがその性能を世間に認められることはなく、人々の憎悪の対象であった。




二人の乗員の一人、艦長兼パイロット

テンカワ・アキト。

おさまりの悪い黒髪に黒い瞳。美形とまでいかないが整った顔。身長は平均程度だが、鍛えぬかれた肉体に黒衣を纏う。そして顔の半分を覆う黒いバイザー。このため彼の口元程度しか見て取れないため、他人がその表情を窺うのは難しい。

A級指名手配犯。数ヶ月前の火星の後継者の反乱においていくつものコロニーを落とした大罪人である。

そして彼はもう一つ特別な肩書きを持っていた。


A級ジャンパー。

ボソンジャンプといわれる空間跳躍。だがこれには制限があり、通常のジャンパーとよばれる者たちはただそれに耐えられる、または特殊なチューリップという大掛かりな装置間のみ行き先を決められる程度である。ジャンパーでない者はそもそも耐えられず、誤ってジャンプを行えば死に至る。

だがA級ジャンパーは違う。自らのイメージした場所のどこにでも転移することができた。ただそのためにはCC、チューリップクリスタルとよばれる媒体が必要であったが。



「アキト、エリナから通信」


そう、幼い少女が報告してきた。もう一人の乗員であり、この艦の制御を一身に引き受けるオペレータ。


ラピス・ラズリ。

桃銀の髪、前髪を左右に分け、後髪は腰まで届く。瞳は黄金。完璧といえるほどに整った顔。その容姿はホシノ・ルリに酷似している。彼女もまた遺伝子操作により生まれたマシンチャイルドだった。


アキトとラピスはリンクとよばれる技術により繋がりをもっている。

これは遺跡のナノマシンによる精神的な繋がりであり、五感を失ったアキトはラピスによるサポートで僅かながらとはいえ五感を取り戻していた。



ラピスによりブリッジの中空にモニタが表示される。そこには先ほどエリナと呼ばれた女性の姿が映し出されていた。


エリナ・キンジョウ・ウォン。

地球最大規模の企業の一つであるネルガル重工。若くしてその会長秘書を務める美しき才媛である。エリナはこのユーチャリスのサポート役でもあった。


「なにがあったエリナ?」

尋ねるアキト、エリナの表情からも好くない事態が予測される。

「時間がないから良く聞いて。先ほどルリちゃんを護衛していたSSから襲撃されているとの救援要請がきたわ。相手は恐らく火星の後継者の残党。場所はミナトさんの家の近くの自然公園。あなたも以前の護衛任務で知っているでしょ。今すぐに向かって!」

その話の内容に、アキトにも焦りが浮かぶ。

「くっ――ラピス、ユーチャリスを頼む!」

そう言うや否やすぐさまジャンプに入る。


「……アキト」

残されたラピスは、その微かに揺れる瞳でアキトのいた場所を見詰めていた。それがどんな感情によるものかも分からす。



焦っていた為にアキトはユーチャリスに危険が及ぶ可能性まで気をまわす余裕がなかった。

その事がこの後の彼らの運命を決めたのかもしれない。




















ルリは先ほどの男に連れられ公園内を走っていた。

歩道を外れ木々を遮蔽物にし、聞こえる銃声から逃れるように走る。

息は切れ汗が流れる、だが命を狙われる恐怖からか流れる汗は冷たい。

不意に男が立ち止まりルリを木の陰に引き込む、そして前方の木のあたりに銃を発砲、遅れてそちらから悲鳴が聞こえた。

「さあ行きますよ」


そう言って護衛の男はルリに振り向いた。それに頷こうとして、ルリの顔に驚きが浮かぶ。

いつ現れたのか護衛の男の後方10メートルほどの所に一人の男が立っていた。

護衛の男もルリの表情からすぐさま振り返った、瞬間、銃声が響き渡る。ルリの眼前で護衛の男は額を打ち抜かれ崩れ落ちた。






男は痩身で頬はこけ生気に欠しい。だがその中で瞳にだけは黒い情念が浮かんでいる。

「魔女よ……その命貰い受ける」


向けられる銃口。憎しみに染まった眼光。ただ自分のみに向けられる殺気。

鼓動は早鐘のように打ち、男に聞こえるのではないかと不安になるほど鳴り響く。思わず足が震えそうになるのを必死に堪える。


落ち着きなさい。パニックになっても何にもならない。今は少しでも時間を稼がないと。


混乱しそうになる自身に言い聞かせ、少しでも生きる努力をしようと口を開く。


「火星の後継者ですか?」

口も喉もカラカラで、声が震えなかったのは奇跡のように思えた。


「そうだ魔女、我らが怨敵よ」


「何故こんなことを」

分かりきったことを尋ねる。


「知れたことよ」

一歩一歩踏みしめるように近づいてくる。


「草壁はもういないのですよ」


「そう草壁閣下は亡くなられ、同胞達もその多くが獄中へ」

向けられる銃口の闇が心に悲鳴を上げさせる。


「せめて……せめて貴様の首を取ることが英霊達の慰めになろう」

目の前に銃口を突き出される。体は重く鉛のよう。



「安心しろ、復讐人も後ほど送ってやる。せいぜいあの世で仲良くするんだな」















「……アキトさん」















「はっははははははは! 死ねい!」






























「残念だが死ぬのはオマエだ」


ドン!










血飛沫が舞いルリの蒼銀髪と白い肌を赤く染める。だがルリはそんなことはどうでもよかった。

目の前に求めていた人がいる。木々より漏れる光が闇そのものを纏ったかのようなその姿を浮かび上がらせている。

そこに在りながら、だがまるで存在していないかのようにルリには思えた。

それを否定し、確かめるかのようにそっと傍によりその胸に頭を預ける。アキトもまたその華奢な身体を受け止める。

ほんの一瞬、まるで時が止まったかのように喧騒も遠く静寂が場を支配した。







「……アキトさん」

「もう大丈夫だ」




















ラピスはアキトのことを、そして彼が助けに向かったルリのことを考えていた。

「ダッシュ、アキトは私よりルリの方が大切?」

ラピスが他に誰もいないのに、まるで誰かに尋ねるように言葉を発する。

するとそれに応えるかのように、先ほどエリナが映し出されたようなモニタが中空にいくつも現れた。ただ今度は映像ではなく文字が表示されている。

『違うと思う』『アキトはラピスもルリも同じくらい大切』『大丈夫』




ダッシュ。正式名称はオモイカネ・ダッシュ。

かつて初代ナデシコに搭載され、ナデシコが当時最強の艦であった要因のひとつであった超AI【オモイカネ】のコピーである。

オモイカネは火星の遺跡、ボソンジャンプの制御を行っているともいわれる超古代文明の遺産に残されたデータを元に幾つかの機能を抽出し作成された。それによりオモイカネ以前のAIの常識を覆すほどの性能を発揮し、人格とよべるものさえ形成されていった。



「でも私よりルリの方が力が強い。ルリが要ればアキトは私をもう要らないのかもしれない」

確かにラピスよりルリの方が能力は高い。だがそれは本当に僅かな差でしかなく、状況しだいでいくらでも変わる程度、ラピスはルリに匹敵する極めて高い能力を有している。

『そんなこと関係ない』『もしルリがいてもアキトがラピ――』

突如モニタが消失し、艦内に警報が流れる。そして再びモニタが表示される。

『敵接近中』『迎撃用意』『アキトに知らせて』


ラピスはダッシュのいうようにリンクを通じアキトに呼びかけようとする。だが、結局はアキトに知らせることを止めてしまった。



『ラピス?』『どうしたの?』『Why?』

「あれくらい私とダッシュだけで十分。アキトに知らせなくても良い」



現れた敵艦は三隻。



もしかしたら自分は捨てられるかもしれない。

でもアキトに頼らずにこいつらを倒せれば、きっとアキトは必要としてくれる。


まったくの間違い。だがラピスにとってアキトは全てであった。その彼に捨てられるかもしれない、その恐怖が冷静な思考を奪ってしまっていた。















アキトとルリ。二人の再会の静寂は新たな襲撃者により打ち破られた。


アキトはルリを抱きかかえ瞬時にその場から飛び退く。僅かに遅れ、先ほどまで二人がいた地点に銃撃が撃ち込まれる。

新たな襲撃者は三人。かなりの人員が投入されているのだろう、ネルガルのSSも対処しきれないようだ。

ルリをひとまず木陰に隠しアキトは敵と相対する。



邪魔にならないよう身を隠しつつも、襲撃者と戦いに赴くアキトをルリは不安で揺れる瞳で見送った。




















漆黒の宇宙に優美な外観をもつ白亜の戦艦が駆ける。

三隻の敵艦は正面に二隻、残りの一隻は北天に分かれてユーチャリスに迫ってきた。


ラピスは、まず分かれた北天の艦を落とそうとそちらに艦を向けた。ダッシュの演算により敵艦のグラビティ・ブラストの射撃地点を予測、ユーチャリスの高い機動性により回避する。

敵艦からは機動兵器も出撃しようとしているが、敵艦が次のグラビティ・ブラストをチャージしている間を突き、グラビティ・ブラストを一斉射。最初の数発はディストーション・フィールドに阻まれるが、それにより減衰したフィールドは続く砲撃を防げず貫通し、出撃しようとしていた敵機動兵器ごと敵艦は爆砕、暗黒の宇宙に鮮烈な光を生む。



「次」

敵艦を落としたラピスは爆発を上げ沈む艦に目もくれず次なる目標を探し始める。その身体はナノマシンの活性化により淡い燐光を放ち輝いていた。

『正面から二隻』『機動兵器も出てる』『どうする?』

「フィールドのエネルギーの一部もグラビティ・ブラストにまわして。一気に仕留める」

『危険』『フィールドが弱まる』


「大丈夫、お願い」

その声はラピスには珍しく感情が篭った響きだった。



『……』『了解』

敵機動兵器にはバッタとよばれる無人機を放出。ラピスがその制御を行うことにより有人機相手でも十分に渡り合うことができた。

弱まったとはいえ最新鋭艦であるユーチャリスのフィールドは敵艦の砲撃を防ぎきる。そしてフィールドを弱めてまで求めたそのグラビティ・ブラストの出力は、正面の二隻のフィールドを切り裂き船体を完全に撃ちぬいた。




「やった」

二隻の艦が爆砕し宙域を白い輝きで染める。それを見詰めるラピスの瞳は微かな興奮により熱をもっているように見えた。

ラピスはアキトの席に視線を移す。


「大丈夫。私はアキトの役に立てる」


ほんの微かラピス本人にも分からないほどだが笑みがこぼれた。目を閉じるラピスの脳裏にアキトの姿が浮かぶ。







――突然の警報。

『ラピス!』


ダッシュの呼びかけに再びメインスクリーンに視線を戻す。


そこには先ほど撃沈した二隻の爆発を貫いて迫る黒い閃光が映しだされていた。




















響き渡る銃声に混じりうめき声が上がる。血を流し倒れる男の背後の闇よりアキトが姿を現した。

「次は――あちらか」

新たなる襲撃者の存在を察知し走り出す。

先ほどの三人を撃退したがまだ敵は多数いるようである。そこでアキトはルリが隠れている場所を中心に、近づく気配を感知しざま奇襲により仕留めてきた。





木々に遮蔽され、深い闇のため視界は悪い。だがアキトは地面や周囲の気配を読むことで、まるで平野をゆくかのように駆ける。

先ほどから感知している相手まであと少し――いきなりアキトは力強く地面を蹴りつけ右に跳び、その場の木に身を隠した。

銃弾が撃ち込まれ木片が舞う。その向こうには痩せた男。ルリと再会したとき殺した相手に良く似ていた。

「――中々の腕だ」

自らに気配を察知させずにここまで接近した男の実力をアキトはそう評価した。



先ほどまでの相手のように簡単にはいかないと、意識を集中しようとしたときラピスからの思念が飛来した。















星空はなおも頭上にあり、光を地に届けている。

アキトに言われた場所に身を隠しているルリは夜空を見上げていた。

未だ遠くから響く銃声が聞こえるが、ルリの隠れている周囲は静まり返っている。アキトが完全に敵を防いでいるのだろう。

ルリの脳裏に浮かぶのは先ほど銃を向けられた恐怖。いま自分のために戦ってくれているのアキトこと。


「何もできないんですね」















放たれる銃弾を避け応射、外れる。常人から離れた速度で男が迫る。


突如ラピス届いたラピスの思念。だが伝えられた状況は最悪の一歩手前、今すぐにでも戻らなければその一歩も進んでしまうだろう。

《あと少しだけ堪えてくれ、すぐに戻る!》

アキトはルリを助けに来たが、彼女らの元に戻るつもりはなかった。後継者たちを撃退した後、ルリをネルガルに任すつもりだった。だが状況がそれを許さないようだ。

しかしルリの元にジャンプをしようにも、眼前の男が邪魔でイメージのために集中する間がない。


内心の焦りを押し殺し、アキトは男に意識を集中した。




















先ほどのグラビティ・ブラストは、後方より現れた新たな艦隊からのものだった。

艦の数は四隻、だがその内の一隻が違った。他の艦を二周りは上回る巨大な戦艦。動きは鈍重だが代わりに、その主砲であるグラビティ・ブラストの威力が違った。

弱まったユーチャリスのディストーション・フィールドを貫き、船体に直撃した敵の砲撃。それにより一門を残しグラビティ・ブラストは損壊、動力部にも影響が及び要の一つである機動力も失った。


ラピスは自身の判断ミスを知り、遅まきながらアキトに助けを求める。だがアキトはすぐには来られないとラピスにとって絶望的な状況であった。










もはやフィールドがもたなくなってきている。ラピスはユーチャリスに取り付こうとする敵機動兵器をバッタを駆使し何とか抑えながらも、打開策を探した。

攻撃手段はグラビティ・ブラストが一門のみ。今フィールドを少しでも弱めるのは論外。だがこのまま耐えていてもじきに限界が来る。いやすでに限界なのかもしれない。



「……アキト助けて」


思わず声にでる。だがアキトはルリの元にいてここにはいない。





「ルリ……そうルリ!」

ラピスには珍しく声を張り上げダッシュに指示を出す。


「ダッシュ、敵艦を掌握する!」

僅かに遅れモニタが出現。

ダッシュもフィールドや動力部の制御、少しでも敵の砲撃によるフィールドの負荷を減らすための艦の機動のサポートさえも行っており、モニタを表示している余裕すらなかった。

『無理』『ラピスのサポートできる余裕がない』『この艦はナデシコCじゃない』


ナデシコCの先行艦であるユーチャリスにもハッキング能力はあった。だがそれもナデシコCと比べると数段落ちる。そのためよりオペレータへの負担が大きくなる。

さらにラピスは艦の機動制御を行い、バッタにより敵機動兵器を抑えていた。もしバッタの制御を止めたら敵機動兵器により艦が落とされるだろう。だからラピスはバッタの制御をしたうえで、敵艦のシステム掌握を行うつもりだった。

だがそれはいくら高い能力を持つラピスとしても限界を超えた行為であった。


「それでもやる。もうフィールドがもたない」


そこに再び特殊艦からの砲撃。フィールドにさらなる負荷がかかる。





ラピスの全身をナノマシンの燐光が覆う。





「システム掌握、開始」




















何もない空間から突如アキトがルリの前に現れる。


「アキトさん!」

ジャンプによって戻ってきたアキト、その左腕からは血を流している。それにルリは驚き駆け寄るがアキトには時間がなかった。

「ルリちゃん、すまないが俺とユーチャリスに来てくれ。ラピスたちが危険だ」

「え?」

突然のことに戸惑うルリ、だがアキトの声には焦りが滲みでており切迫した事態なのだろうと理解した。

「わかりました」

そしてアキトと共にジャンプをするため身体を寄せる、するといきなりアキトが体勢を崩しルリに寄りかかってきた。


「――アキトさん!?」


「なっ!? 右足が……」

「アキトさんどうしたんですか?」

「――まさかラピスに何かあったのか?」

「……ラピス」

今のアキトと共にいる少女の名がルリに複雑な想いを抱かせる。アキトはリンクによってラピスに呼びかけるがまともな返事は返ってこない。


「くそ! ルリちゃん行くぞ」

アキトとルリの姿は光に包まれその場から消えた。




















強烈な爆発が宇宙に眩い閃光を広げる。


ラピスにシステムを掌握され動力部を暴走させた艦による自爆である。敵艦を掌握してもコントロールする余裕などなく、システム停止状態に陥らせるのも限界があったため動力部の暴走による自爆という方法をとったのである。

また敵艦のシステム掌握の際にその艦に所属する機動兵器にウイルスを流し機能不全に持ち込んだ。敵機動兵器が残り僅かなためすでにバッタの制御は行ってない。

今までに同じやり方で三隻、これで特殊艦を除く全ての艦を自爆させたラピスだがもはや限界を超えていた。

ユーチャリスをもって、なおかつ他の処理もこなしながらの敵艦の掌握は彼女のナノマシンを酷使し、その身体にも重大なダメージを与えていた。



「はあはあはあ……」


荒く息を吐きながらも最後の一隻にシステム掌握を行う。完全には掌握できないがそれでも砲撃を妨害することはできていた。

この艦は他の三隻よりシステムが強固であったが、ラピスは他の艦を掌握するときもこの艦に牽制的なハッキングを行っていた。他の艦はともかくこの艦の砲撃を受けてはフィールドがもたなかったためである。

もしこの場に第三者がいれば、二つの艦は砲撃もせずバッタと機動兵器のみが戦闘を行っているように思えただろう。だが目に見えない電子の世界において互いの生存をかけた苛烈な争いが行われていた。


だがそれもついに終わりを迎える。



「くぅ!」

限界を超えたナノマシンの酷使、それが与える肉体へのダメージがついにラピスの意識を奪う。そのとき霞んだ意識に待ちわびていた人の姿が浮かんだように思えた。










「ラピス!」


ルリと共にユーチャリスのブリッジにジャンプしてきたアキトは倒れるラピスに声を張り上げ、右足の感覚がないことも忘れ駆け寄ろうとするが再び体勢を崩す。

崩れ落ちるアキトを慌ててルリが支える。ルリもいきなり倒れたラピスに驚いたが、アキトが体重を預けているため満足に動けない。だが二人は状況を把握するだけの時間を与えられなかった。

『アキト!』『ラピスが』『敵艦から砲撃がくる』『すぐ逃げて』

見るとラピスが倒れたことにより奪われていたシステムを回復しつつある敵艦が砲撃を開始するところだった。





「ダッシュ、ジャンプする!」

命令によりすぐさまユーチャリスに積まれているCCによるジャンプフィールドが形成され、ジャンプシークエンスに入る。アキトはジャンプするべき場所をイメージしようとするが、瞬間、敵砲撃が直撃、激震が奔る。



「くっ!」

「きゃあ!」



警報が鳴り響き、ダッシュからの警告が表示される。


『ジャンプ機関に異常』『ジャンプ開始』『ランダムジャンプになる』



「な……に」

「そん……な」



ランダムジャンプ。転移先を設定せずに行うボソンジャンプ。どこにでるとも知れず、そのまま消滅する可能性もあった。

そのことを認識しアキトとルリは驚愕するが最早ジャンプは止められない。










光が彼らの意識を白く染めていく。










漆黒の宇宙に浮かぶ白亜の戦艦ユーチャリスは、眩い輝きと共にその姿を消した。




















火星。そこにある遺跡がまるで祝福するかのように、逆に呪うかのように微かに瞬いた。




プロローグ完



あとがき

初投稿です。というか小説書くのも初めてなんですよね。

TV版とか見ずにナデシコの二次創作を読んでたんですが、機会があり、TV版と劇場版を見てより好きになったので書いてみました。

書いてみて初めて分かったんですが、細かいとこ直すと全体のバランスが崩れるということが起こり、書けば予定してないことが出てきたりと滅茶苦茶になりますね。いやはや小説書くのは難しいと実感しました。

初作で長編を書こうとするのも無謀かも知れませんが、何とか書いてみたいんでよろしくお願いします。

 

 

 

 

 

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代理人の感想

ふむ、無謀な挑戦者がまた一人。(爆)

どうしても長編を書きたいなら、とりあえず必要なものは二つ!

 

明確に想定されたエンディング!

読者の反応が全然なくても、なんとしてでも完結させるという覚悟!

話が詰まったら過去の設定を無視してでも書きつづける度胸!

 

・・・・あ、三つか。

それはともかく、この位無茶をしなければ長編完結なんてとてもとても。

エンディングというのはゴールであり、ゴールがキッチリ定まってないとそこまでのレールを敷くことはできません。

長丁場の文章を書くならモチベーションの維持は必須ですが、初心者では中々反応を期待することは出来ません。

よって、「何が何でも」という覚悟と根性が必須になります。

更に、長く書いていると色々な設定や過去の展開などに引っ張られて話が動かないこともよくあります。

そんなときはとりあえず過去のことを綺麗に忘れて、書いた後で辻褄合わせをしましょう(爆)。

勿論最初からキッチリできればそれに越したことはないんですけどね(苦笑)。

 

そして本編の評価ですが、「ルリを助けに行ってる間にユーチャリスが襲撃されて・・・」と、

あまり見ないパターンで攻めてきたところがまず得点1。

後はエンディングと、そこまでをどう見せてくれるかですね。

 

文章の方ですが「てにをは」の抜けが多かった(4箇所発見)ので気をつけてください。

後「ルリと再会したとき殺した相手に良く似ていた。」という一文ですが、

これがこの作中でルリの前に現れた時の事を指すならちょっと違和感が。

たった今のことなのに、そうしたことを思わせる表現がないので「ひょっとしたら映画の墓地での事かな?」と一瞬考えてしまいました。

なので、「たった今」とか「先ほど」と入れたほうが分かりやすいかもしれません。

これに限らず、少し違和感のある表現がいくつかあったので、読み直しをもう少し密にしてみることをお勧めします。

ではまた。