ナデシコ外伝 第9話

〜騒がしい日 後編〜

 

 

暗い闇の中を歩く。

迷い

恐れ

 

人は、闇の中で死を見つめ、

人は、空の星に未来の夢を見る。

 

畏れる事は無い。

迷う事は無い。

 

今は、ただ目の前にある道を走るのみ!

 

 

 

−バビロンプロジェクト地下連絡通路−

 

やあ!

僕はナカムラ・テルアキ、ネルガルのテストパイロットをしているんだ。

今日は、アマツシマ研究所に突如(人災)開いた穴の中を本社のパイロット、アカツキ・ナガレと調査中さ!

そして・・・今、とってもピンチなのさ!

 

現実逃避したいくらい・・・・。

 

錆びた鉄の擦れ合う嫌な音がトンネル内に反響する。

ギギギと鉄のこすれる音がする。

ガシャン、ガシャンと鉄のぶつかる音がする。

キィィィと寒気の走る鉄が削れる音がする。

「走れ〜〜〜〜〜〜ぇぇぇぇ!」

後ろから、ジョロやバッタの張り付いた人型作業機械が追いかけて来る。

二百年近く放棄されていた物なだけに、まともに動く物は少ない。

だが、ある物は片足を引きずりながら、また、ある物は這いずり、油の切れた関節を軋ませながら進んで来る。

「ゾンビっぽくてすごく怖いぃぃぃぃ。」

元気だね、まったく。

叫びながら走って、よく息が切れないもんだ。

それにしても、まいったね〜。

過ぎた好奇心は身を滅ぼす、とは良く言ったものだね ほんと。

おっと、僕の名前はアカツキ・ナガレ、一流パイロットにしてネルガルの会長。

愛を求めて流離う狩人さ。

おっと今は逃げるのが先決か!!

 

−アキツシマ研究所−

 

『危険、危険、危険』

『注意、注意、注意』

索敵をしていたヒトコトヌシが警告文の書かれたモニターを発します。

私は敵の映し出された別のモニターに目を向けます。

ヤマダさんの開けた穴に設置したセンサーが敵の接近を知らせています。

敵はジャンクモンスター(がらくたの怪物)と名付けられました。

闇の中から這い出てくる様子は、ホラー映画みたいです。

『第19センサーに反応“ジャンクモンスター”4体。』

パールさんは、喋れないのでスピーカーを使って皆に伝えています。

パールさんの喋れない原因については、ナノマシーンで作られた補助脳の圧迫のせいだそうです。

 

「了解!迎撃します。」

シズカさんの乗る空戦フレームが上空からラピットライフルで地上に開いた穴を射撃!

爆竹が連続で鳴るような乾いた音が響きます。

ラピットライフルの弾が雨のように降りそそがれ、ジャンクモンスターは穴の端に掛けた手を撃ち抜かれて、穴の底に落ちていきます。

「入れ物をいくら潰しても体を操っているダンゴムシを叩かないと埒があきませんね。」

シズカさんが、少し疲れた声で呟いています。

ダンゴムシというのは、作業機械に張り付いて操っている木星トカゲのこと、簡易生産型のバッタみたいです。

ディストーション・フィールドはないし、目立った武装はないけどスタンガンのような物を装備していて不用意に近づいた整備員が保健室行き、ご愁傷様って感じ。

命名の理由は似ているから、大人って・・・けっこういいかげんよね。

 

―アキツシマ研究所  突入穴前〜地下道―

 

突入穴の前には通信強化型の指揮車、搭乗者はキタガワさん、ミヤビさん、ウリバタケさん。

エステバリス一号機はカタオカさん、二号機がヤマダさん。

みんな一列に並んで、アイドリンク状態で発進を待っています。

パールさんがカウントダウンを始めます。

『突入5秒前、4,3,2,1』

「よ〜い どん!」

床とキャタビラが擦れる音と指揮車のエンジン音が響きます。

私の掛け声と共にエステバリスと指揮車は突入していきました。

「生きてろよ、アカツキ、ナカムラ!」

「くうう、悪の秘密基地への突入!  燃える展開だ!」

外部マイクをマックスにしてヤマダさんが喋っているので、うるさい。

そんなヤマダさんを指揮車からキタガワさんが、注意しています。

「ヤマダ! 救出が最優先、戦闘は最小限!

忘れんな!」

「博士! 俺の名前は、ダイコウジ・ガイ!

正義を愛し、夢を守るヒーローさ! 心配は無用だ!」

無駄だったみたいです。

ご愁傷様。

指揮車とエステバリスは、暗い通路を進んでいきます。

「当時、中央制御していた区間をめざす!

 そこなら館内放送アンテナを使って、アカツキたちと通信することが可能になる。 整備班の尊い犠牲と捕獲した敵残骸の解析からダンゴムシのAIは中央コントロールによるリアルタイム遠隔操作型と判明した。

よって、敵の中央コントロール装置に自爆ウイルスを流し込めば連鎖的に奴らは全滅する。」

「ここの中央制御室は、生きてるのか?」

「ふっふっふ、こ〜んなこともあろうかと、

当時のケーブルや波長の変換機を用意しておいた、指揮車のシステムを繋げれば起動が可能になるのだ!

か〜〜っ! 違法改造屋の血が騒ぐぜ!」

ウリバタケさんが怪しげな装置を取り出しながら言います。

とても、嬉しそうです。

『指揮車レーダーに敵影感知、数は46“ダンゴムシ・タイプ”』

パールさんの声が指揮車を通して、あたりに響きます。

「よう〜し腕がなるぜ!」

「来たな! キョアック星人、このダイコウジ・ガイがいる限り緑の地球は好きにさせない。」

ヤマダさんの二号機がコンクリートガンと接着銃を腰だめに構えて連射し、キタガワさんも指揮車から乗り出してリボルバーっていうんでしょうか?

張り付いてきたダンゴムシを撃ち落としています。

指揮車に張り付いたダンゴムシは、ほとんどゼロ距離からの射撃に火花を散らし、エステバリスの砲撃は、ベチャ、ベチャとダンゴムシが床や壁に張り付けます。

貼り付けられたダンゴムシ達を避けるために指揮車は激しく蛇行しキタガワさんが落ちかけます。

「ミヤビ、危ない!もう少し安全運転できないのか?」

「運転手は、運転がお仕事! コースを作るのはそっちでしょ、文句言うなら走りやすい道、作って・よ・ね!」

掛け声と共に指揮車を壁に擦り付けてダンゴムシを振り落とします。

ダンゴムシが壁とサンドイッチされて火花が散り鉄の焼ける匂いがたちこめる。

火花が当たってキタガワさんが痛がっていたのは、ご愛嬌。

『前、500メートル先にエレベーター』

パールさんが、エレベータまでの最短ルートを指揮車に転送します。

「一号機、先行する!」

カタオカさんのエステバリスがスライディングでダンゴムシを蹴散らしエレベーター前に陣取り電子戦用の通信アンカーを打ち込みます。

『ハッキング開始 制圧まで、あと二十秒』

このエレベーターの制御プログラムから、非常時用のバッテリーを作動させ、エレベーターを強制作動させます。私たちにしてみると旧式のプログラムは扱いづらいですが、問題はありません。

「カタオカ!さすがだな、俺も負けてはいないぞ!」

ヤマダさんは、ブースタージャンプで機体を天井に擦らせながらエレベーターまで一気に距離をつめます。

あ!ウリバタケさんの悲鳴がきこえる。

 

指揮車は、ドリフトをしながらエレベーターに突入します。

「エレベーターの始動まで、後10秒!!絶対防衛だ!!」

キタガワの言葉にヤマダとカタオカが答える。

「了解!!」

「任せとけハカセ、ゲキガンガーは無敵だぜ!!」

ダンゴムシ達が入ってこないようヤマダさんとカタオカさんが牽制し激しい戦闘音が聞こえてきます。

ガガガガと錆付いたエレベーターが唸り始め、ウィィィーンとモーター音が響きます。

「OKだ!!下がれ」

キタガワの指示に素早く二機のエステは反応し後ろに下がります。

二機は銃を連射しながらエレベーターに入り込もうとするジャンクモンスターをなぎ払います。

シャッターが閉まりエレベーターが動き始めました。

シャッターに銃跡が、ついているのが戦闘の激しさを語ります。

「戦闘は控えろ、弾は無限じゃないんだ。」

キタガワさんが、ぼやく様に言います。

「避けたさ、最小限にね。」

それに言葉を返したのはカタオカさん、環境システムを使い機体のチェックをしています。

「正義を行うのに躊躇いは無用!」

ヤマダさん、何気なく危険思想ですよ・・・・それは。

「ああ〜、俺のエステちゃんが〜〜。」

天井に擦りつけられて傷だらけになっているヤマダさんの二号機をみて嘆くウリバタケさん。

そんな4人を乗せてエレベーターは地下に降りていきます。

 

カシュウゥゥゥとモーターの駆動する音が止まり、エレベーターが階に固定されます。

薄暗いアサルトピットの中、カタオカさんは真剣な目で周囲の状況を写しだしたウインドウを睨んでいます。

「50,51,52,53・・・・。」

レーダーに映しだされる光点は、少しずつ増えていきます。

ゆっくりと開かれるシャッターの向こうに大量のジャンク・モンスターが現れます。

「なめるな! エステバリスは兵器!!

そのエステバリスを作業機械ごときで止められるものか!!!」

一号機がディストーションフィールドを纏い大量のジャンク・モンスターに突撃していきます。

「そのとうり!!!

俺たちの熱い魂とゲキガンガーがキョアック星人に止められるものか!」

 

ヤマダさんの二号機がその後に続き指揮車も後を追います。

 

―連合宇宙軍 ヨコスカ基地―

 

「出撃準備?」

突然の命令に私は戸惑います。 木星トカゲの動きが感知されない段階で動くのは、これが初めてだからです。

「そうだ、イツキ・カザマ少尉、バビロン・プロジェクト跡にて異常ありとの報告が現地諜報員より知らされた。 連合軍本部は、これに対して一部隊の投入を決定し、トカゲどもと唯一互角に戦える我が部隊に出撃命令が下された。」

「了解しました。極東エステバリス部隊は、これより戦闘待機に入ります。」

私は、上官に敬礼をして命令を拝命しました。

でも、お役所仕事な連合軍本部にしては動きが早すぎる。

どこか別の命令系統が絡んでいるのかしら?

「指揮官は、誰でしょうか?」

「ムネタケ・サダアキ大佐だ」

ムネタケ・サダアキ?

悪い噂しか聞きませんよ?

ネルガルから納品されたばかりの空戦フレームを見上げながら、そんな事を考えていました。

 

―アマツシマ研究所 仮設司令室―

 

突入穴前には、シズカさんの空戦エステバリス改が陣取り、その周を円状にイミディエットブレード、スピア、ラピットライフルなどが配置されています。

空戦フレーム改は、両肩にミサイルコンテナと稼動ブースターを装備、腰にはバッテリーパック装備型のレールガンが備えつけられた、じゃじゃ馬です。

乗ったパイロットの三人中、二人はムチウチになったって言ういわく付きの追加装備“リーフ”です。

「第7センサーにジャンクモンスター12体感知、数は増えていってます。」

私の報告を受けてエリナさんが指示を出します。

「エステバリスを前面に出して、保安部は個人用対トカゲ装備でダンゴムシを迎撃しなさい。 突破を許したら減給ものよ。」

ウインドウに這い出てくるジャンクモンスターが映し出されます。

「ホウジョウ・シズカ、参ります。」

地面に刺さったイミディエットソードを引き抜きながらブースターを点火した空戦エステが飛び出していきます。

白煙を引きながら短距離ミサイルが打ち出されていき、イミディエットソードがジャンクモンスターの足を切り裂きます。

エステは足止めに徹して、とどめは保安員のパンツァーファウストや対戦車ライフルで刺す。

これを基本戦術にダンゴムシ達の中央コントロールを停止させるまで粘る作戦です。

空戦フレーム改が、腰のレールガンを使い凄い勢いでダンゴムシを薙ぎ払っていきます。

 

「やれやれ、私の仕事は経理なんですけどね〜。」

そう言いつつプロスさんは対戦車ライフルでジャンクモンスターに張り付いているダンゴムシをピンポイントで狙撃しています。

いい腕です、只者ではありませんね。

保安員が、即席の塹壕からシズカさんのエステを支援しています。

「うわぁぁぁぁぁ!!!」

東側の塹壕で悲鳴が上がります。

「ダンゴムシ2体、東の第一塹壕に接敵! 白兵戦に入ります。」

モニターには、幅25センチ、長さ1メートルの個人用イミディエットブレードに武器を持ち替えた保安員が戦闘を開始しています。

「敵、ジャンクモンスターの数は、増大中・・・シミュレーションでは、敵がこちらまで突破してくるまでの時間は、約四時間です。」

「今が深夜の二時、日の出が六時だから夜明けまでが勝負ね。」

エリナさんは爪を噛みながらそう言っていますが、労働基準法を覚えているんでしょうか?

 

私、少女ですよ。

 

わたしは、ハンドガンでダンゴムシを牽制しながら個人用イミディエットブレードの箱型バッテリーを排出して新しいバッテリーを装填します。

「威力は、十分なのですけど重さと稼働時間の短さがネックですな、これは」

稼働時間1分、重さ5キロの剣を担いで近づくダンゴムシを切り裂きます。

『 第一塹壕の保安員は、コード06を実行の後、速やかに退避してください。』

コミュニケが次の指示を伝えてきます。

「さて、次の塹壕まで撤退しますか・・・・・ポチッとな」

赤いベストの中から取り出したスイッチを押すと第一塹壕に仕掛けられていた爆薬が一斉に爆発し火炎の川が生まれる。

「急いでください。  そうは持ちませんよ。」

誰に言うともなく、そう呟くとプロスペクターは次の塹壕へ向けて走り始めた。

 

―バビロン・プロジェクト 第23電力供給区画―

 

「バッタどもが、どこかへ移動している。」

排気ダクトの中から見張りのように立っていたバッタが移動するのを見て呟く。

今、アカツキと排気ダクトの中を這いずり回りながら爆薬を仕掛けている。

旨くいけば爆薬で部屋全体が崩落するはずだ。

「それは、いいんだけど狭いねここは」

「しかたないだろ他に隠れるところ無いんだから。」

ブルブルブルとポケットの中に振動を感じる。

振動モードにしておいたコミュニケが着信を知らせます。

「おっと、通信だ。  はい、こちら愛の伝道師アカツキ」

コミュニケが開き、キタガワの顔が映し出されます。

『こんな時までふざけないでください。こちらは、いま中央管制室を制圧した所です。 そちらは無事ですか?』

アカツキは、何食わぬ顔で通信に答える。 結構いい根性してます。

「ああ、こちらは無事さ。いま、奴等の生産プラントを動かしている発電機を攻略中なんだ、こっちにいくらか戦力をまわせるかい?」

『わかりました。 エステバリスを一機そちらに向かわせます。

ポイントの指示をお願いします。』

「ポイントは23N−48だ。何分で来れる?」

『妨害なしで20分といった所かな?』

「OK! 聞いたかいナカムラ君。奴等の目が中央管制室に向いている内に僕らの目的を果たそうじゃないか。」

ロッカーから出てアカツキが、そう宣言する。

「そうだな、迎えが来る前に奴等に一泡吹かせておくのは悪くない。」

ナカムラが、ニヤリと笑う。

「潜入、爆破、脱出といえばスパイものの定番だねぇ。」

「じゃ、派手に爆破しますか!」

爆薬を仕掛け終わったナカムラさん、扱いは軍にいたときにならったと言っていました。

ナカムラさんはイミディエット・ブレードを起動して排気ダクトの壁を切り裂き真下にいるバッタに奇襲をかけます。

 

「てりゃぁぁぁぁぁ!」

 

イミディエット・ブレードは、バッタを貫き遅れて落ちてきた瓦礫が派手に土煙を上げます。

「派手だね〜。」

アカツキは何食わぬ顔で降りてきます。

「いやいや、これから起こることに比べれば地味、地味さ。」

後ろの方で連鎖的な爆発が始まります。

「走っしれ〜〜〜〜〜。」

「今回は、こればかりだね僕たち。」

二人は合流地点目指して走りだしました。

 

―アキツシマ研究所 最前線―

 

『ザンネン 弾切れ!』

警告ウインドウに丸文字で機体状況が表示される。

空戦エステ改がレールガンを切り離す。

「緊張感の無い警告ですね、全く!」

『緊張してばかりじゃ、疲れるでしょ。』能天気にのたまうキタガワ博士の顔が脳裏に浮かぶ。

「緊張は必要でしょう。・・・こういう時は!」

ダンゴムシが張り付いてきた腕を地面に叩きつけて振り払う。

「こう張り付かれては!」

『左腕蓄積損傷度25パーセント』

『後方28度ジャンク・モンスター、前方18度バッタ感知!』

警告ウインドウが敵機の接近を知らせる。

「挟み撃ち!」

空戦エステはバーニアを全開にして正面のバッタをイミディエットナイフで切り払う。

バーニアがジャンク・モンスターを焼きバッタはイミディエットナイフで一突きにされ『空戦エステバリス改の動きが止まる』・・・・。

 

ボコ!っと間抜けた音がして黄色い敵機が顔を覗かせます。

 

「奇襲・・・・・!」

地面から現れたドリル装備のバッタが空戦エステの左足を貫く。

周りのバッタたちが一斉にミサイルを発射する。

「くっ・・・・・。」

バーニアを噴かして、その場を離脱しようとするが、周りのジャンク・モンスターがエステにしがみ付いてくる。

「味方ごと私を始末するつもりですか?」

エステを襲う十数発のミサイルをラピットライフルと残ったミサイル全てを使って迎撃します。

「なめんじゃないわよ!!」

打ち落としきれなかったミサイルがエステに命中し爆風が機体を独楽のように吹き飛ばします。

研究ハンガーの前には力尽き、片手と片足を失った空戦エステバリスが横たわる。

油圧と圧縮空気の力で装甲を施されたコクピットハッチが跳ね上がり、しぼんだエアバックと共にシズカが転がり落ちてくる。

「待ってくださいシズカさん!」

整備員が焦った声でシズカさんを止めようとしています。

「武器があり、敵が目の前に迫って来ています。 この状況で何を躊躇うというのです?」

シズカは、肩を押さえながら白と黒で塗装され、戦闘用の爪がついた盾を装備した試作0G戦フレームに乗り込みます。

「まて!それは・・まだ、完璧じゃない!」

そんな悲鳴に近い整備班の声を無視して試作0G戦フレームは、動き出します。

「ホウジョウ・シズカ、参ります。」

宇宙用ですが、この機体のスラスターは空戦のものと比較しても決して劣ってはいません。

「いける。」

わたしは、バーニアを全開にしてトカゲの群れに向かい飛び立っていきます。

 

『シズカさんが調整中の試作0G戦フレームを持ち出して、戦線に復帰しました。』

パールさんが、現在の状況を報告します。 私は、その情報を元に戦況をシミュレートを続けます。

「戦力比をプラス20パーセント上昇、これでもトカゲの大軍を追い払える可能性は、48パーセントです。」

「さっきの32パーセントよりましよ。」

エリナさんは、そう言って強気に笑います。 弱気になっているよりは、良いと思いました。

そのとき制圧した中央制御室のほうで変化が起きます。

「後方のダンゴムシが撤退していきます。 そのかわり中央制御室のほうへ戦力が回っているようです。 凄い数です・・・百・・いや二百はいます。 今、ヤマダさんが突撃していきました。」

「それじゃあ今こちらを攻めているのは、正面の奴等だけなのね。」

エリナさんが何か考えながら尋ねてきます。

「はい、今正面にいるバッタ15、ダンゴムシ38、ジャンク・モンスター32があちらの戦力になります。」

「基地の防衛システムと保安員だけで支えきれるかしら?」

「基地のディストーションフィールドまで後退すれば可能ですが、建造中の施設を見捨てることになります。」

少し悔しそうな顔をしてエリナさんが決断します。

「試作0G戦フレームを中央制御室突入班の援護に向かわせなさい。あっちの作戦が成功しないとお話にならないわ。」

さて、仮設司令室を引き払わないと。

 

―バビロン・プロジェクト中央制御室―

 

「ウリバタケさん、よく二百年前の規格の品物を持ってましたね。」

「おう!貴重なコレクションの1つさ!」

ウリバタケさんとキタガワさんが楽しげに作業している。

当時はIFSなんてなかったから、キーボードを使いウリバタケさんが凄まじい速さでデーターを打ち込んでいる。

キタガワさんは、そのデーターを指揮車にリンクさせ最適化している。

「キタガワ〜〜  橋が落ちるよ! このままだと。」

橋の外周部にジャンク・モンスターやダンゴムシが大挙して押し寄せている。

指揮車の台座に20mmガトリングガンが頼りなく見える。

今のところ、盛大に弾をばら撒くことで退けてきたが、よく持っている方だろう。

「ヤ〜マダくん 元気かな〜?」

つい先ほど突入していったヤマダくん・・・生キテッカナ(虚ろ)?

 

『ダイ23クカク イジョウ ハッセイ パージ マデ アト40ビョウ クカク デ サギョウ チュウ ノ ショイン ハ タダチニ タイヒ シテ クダサイ。」

館内放送が、この区画の異常を伝えている。

「いや〜まいったね! 浸水しちゃうとは僕も思わなかったよ。」

「壊したのはアクアリアクター、浸水するのは当然か・・・・・。」

2人で走りながら後悔しています。 今回こればっか・・・・・もうやだ。

目の前に集結しつつあるダンゴムシが電撃を放つ!

「人の知恵をなめるな〜〜〜〜!」

ゴム長靴+ゴムカッパで電撃をかわし蹴り飛ばす。

サンキュー  ゴム長靴を忘れた作業員さん(ロッカーあさってアイテム得るのは基本 何の?!)

『アカツキさ〜ん、ナカムラ〜、どこだ〜〜〜。』

カタオカの声が反響して聞こえてくる。

「お〜おい ここだ!」

「ようやく お迎えかい?」

エステがダンゴムシを蹴散らしながらこちらに向かってくる。

「予備シートを付けておいたから、そっちに乗ってくれ。」

そう言って開かれたアサルトピットは実験用の広いタイプで観測機を載せているスペースを外し座席が増設されている。

「でも、狭いねここは・・・。」

「しかたないでしょう。 もともと1人乗りなんですから。」

センサーを拡大して辺りを探査する。

「敵が集まり始めている。急がないと・・・。」

 

ヤマダさんのニ号機の肩に付いている赤外線灯がジャンク・モンスターのパンチで削りとられる。

『左肩損傷! ディストーション・フィールド出力減少、バッテリー残量3546秒』

「くっ・・・ゲキガンドリル!

ミサイルウエポンラックからドリルが取り出され右手を天に突き上げるようにして装着する。

ドリルワイヤーナッコゥゥゥウ

ドリル付きのワイヤードフィストがジャンク・モンスターを打ち砕く。

「見たか! 正義の力を!」

 

攻勢の弱まった敵の様子を観察すると何かを待っているような感じがする。

センサーの感度を上げると後の方から金属を打ち砕く音がする。

「なんだ? 増援か?」

ニ号機のセンサーを後方にむける。

白と黒のカラーリングに体の半分をカバーできる盾そのシルエットは・・・・。

「エステバリス!」

そのエステバリスの目が赤く光る。

その首筋にはバッタが張り付いていた。

「にげろ ヤマダ!  ・・・・不覚を取った。」

ブースターで距離を詰めニ号機エステバリスにアイアンクローをきめる。

「なっ! くそぉぉぉぉぉおお」

モニター一面にエステバリスの手が広がり、そこに試験的に装備されたパイルバンカーがヤマダのニ号機の頭を打ち砕く。

「ヤマダ突破されたよ!」

指揮車からミヤビの報告が届く。

「まて!  もう少しなんだ。 もう少しで奴等を一網打尽にできる毒が完成する。」

金属同士の激突音!!

ガシャァァァン!!と派手にガラスが割れる。

頭を潰されたヤマダのエステが中央制御室に投げ込まれる。

その隙間から見えた機体は・・・・。

「0G戦フレーム!」

その姿を見てキタガワさんが忌々しげな声をあげます。

「しか〜し、遅かったな!」

ウリバタケさんがプログラム実行のリターンキイを押したのは正にその時でした。

ボンと音がしてエンジンを暴走させたダンゴムシが黒い煙を上げながら燃え上がります。

「始まった。 連鎖自壊だ!」

キタガワ博士の歓喜の声に疲れたような声でミヤビが応じます。

「・・・・自滅の因子か・・・。」

放射状に広がる爆発はダンゴムシが取り付いた機体を巻き込みながら燃え上がります。

油圧に使っているオイルに火がつき火達磨になっていく作業機械達、辺り一面は火の海で地獄、そんな言葉すら浮かびます。

周りで自壊を始めるダンゴムシたちは、どこか滑稽で、哀れでした。

エステバリスの近くに大きな鉄筋が落ちてきます。

「崩壊するぞ!」

「これだけの数の機械が自爆すれば、ただではすまないか・・・・。」

なす術も無く僕らは崩壊に巻き込まれていった。

 

目覚ましのような電子音で目が覚める。

カタオカは渋る目をこすりながら前を見る。

『バッテリー残量657秒 いそいでもどれ〜』

バッテリーの警告音で目がさめると緊張感のないモニターが目に入った。

「合い変わらず、センスの無いメッセージだ。」

機体の状況と周りの状況、最後に後の2人の状態をチェックする。

機体は? 大丈夫、右手は使える ・ ・ ・ 左は駄目か・・・足は大丈夫。オプションは、全て廃棄と。

周りは? 浸水してはいる、天井が低くなっているが動けないほど狭くはない。意外と地上に近いようだ。

後の2人は、気絶・・・か。

取り敢えず地上に向けて動くか・・・・。

 

「バビロン堤防・・・」

バビロン・プロジェクトで東京湾を囲むように造られた堤防、その登頂部・・・・先ほどの戦闘により1キロメートルほど陥没している。

「キタガワ〜、ヤ〜マ〜ダ〜、ウリバタケさ〜〜ん、ミヤビ〜、どこだ〜」

 

ガラ・・・と音がしてコンクリートと鉄骨の動く音がする。

 

「ヤマダ?」

しかし、瓦礫を押しのけて現れた巨人は予想とは違うものだった。

「エステ!」

『ガ―――! そのエステは乗っ取られている。そして、シズカさんが乗っている! 助け出せ!』

キタガワの無線通信が聞こえてくる。よかった無事だったんだ。

「おい!こっちはあと4分も動けないんだぞ!」

『知恵と勇気だ!』

どこから出た、そのセリフ!

「そもそもなんで奴は動いているんだ?」

『自己保存! エステのメモリーの中に奴のコピーデーターが紛れ込んだ。』

「自爆プログラムは!」

『俺たちは試作機全てに自爆装置をつけている訳ではない』

「つけてるヤツもあるのか!!」

そんな事、言ってる間に0G戦フレームに接近される。

「くそ!」

0G戦フレームから繰り出される攻撃を転がって避ける。

「いた〜〜!」

あっ!  そういやナカムラ達を乗せたままだった。

「なんなんだ?」

「起きたかナカムラ! 目の前の暴走エステにシズカさんが取り込まれているらしい手伝え!」

よし!これで勝機は我にありだ。

 

ゆっくりと朝日が昇る。

世界が金色に染められていく赤の混じった血塗れの金に・・・

有視界以外のセンサー、モニターを切りバッテリーを節約する。 バッテリーの問題から次が、最後の一撃になる。

 

エステのテンションが下がる。

『エンプティー 残念!』

0G戦フレームがスラスターを使って飛び出してくる。

ちぃぃぃぃ くらえ! ワイヤードフィスト!

ワイヤードフィストは、急制動をかけた0G戦フレームに難なく避けられる。

「それも計算のうち〜ぃ!」

カタオカの一号機は、0G戦フレームの一撃を頭を犠牲にして受け、体当たりをする。

「ワイヤードフィストには、こういう使い方もある!」

ワイヤードフィストのスラスターを操作して密着したビルドフレーム一号機と0G戦フレームを縛り付ける。

「アサルトピット、開放!」

カタオカが一号機の脱出用レバーを引きアサルトピットを開ける。

衝撃と共に飛び出した空の座席が0G戦フレームに直撃し二機はもつれるように体勢を崩す。

「0G戦フレーム アサルトピット手動強制廃棄っと」

まず、アカツキが飛び出し整備用の開放レバーを引き、シズカさんのアサルトピットを強制廃棄する。

「とどめだ!」

そして、イミディエット・ブレードを振りかざしたナカムラが飛び出してくる。

『急所は腰、第2補助コンピューターがある。』

「りょ〜かい!」

唸るイミディエット・ブレードがエステの華奢な腰を貫く。

0G戦フレームは光る目を点滅させながら痙攣するように震えた後。

ガシュウウウゥゥゥゥと各所から煙をあげながら停止する。

 

 

「おわったね〜〜〜〜〜」

ミヤビが瓦礫の中から出てきて背伸びする。

「ミヤビ今までどこにいた?」

瓦礫の中から這い出してきたキタガワが聞いてくる。

「ん? 運転手は運転が、お仕事だから」

ニッコリと笑うミヤビに怒鳴る気力も無い。

「そうか・・・・」

「大丈夫? シズカちゃん」

アサルトピットを開いてシズカちゃんを助け出す。

「すみません、ご迷惑をおかけしました。」

「なになに、奴らのプログラムを手に入れられただけで収穫さ!」

キタガワがアサルトピットの外郭を叩く。

『そこまでよ ほっほっほっほ』

「あのキノコここまで来て!」

ナカムラくん顔が怖いよ。 いやな思い出があるみたいだ。

「なんだ?」

「おやおや、見てみなよ。連合軍のお出ましだ!」

アカツキさんが、やれやれといった感じで言います。

連合軍所属 駆逐艦パンジーから陸戦エステバリス(連合軍カラー)が降下してくる。

『連合軍ヨコスカ基地 エステバリス部隊 イツキ・カザマです。ここは、危険地域に指定されました。連合軍が保護します。指示に従い避難してください。』

やれやれ、仕方が無い。

 

―後日談 アマツシマ研究所―

 

「骨おり損のくたびれ儲けだね」

アカツキが、やれやれといった感じで言う。

「0G戦フレームも持って行かれたから開発が遅れます。出航までに間に合いそうにないですね。」

キタガワは残念そうに呟く。

「まあ、無重力用のフレームを地上で作る事そのものに無理があったからサツキミドリの方に委託するしかないか・・・。」

オサフネ開発部長が寂しそうに言う。

「全部僕らの所で作りたかったな」

「しかし、タイミング良過ぎないか? あの登場は?」

「まっ、終わった事をどう言ってもしかたない。建設的な話をしようじゃないか。」

アカツキが暗くなりかけた話題を変える。

「そういえば、来月はナデシコの調整と武装の装着がありますね。」

「ルリちゃんも本格的にオモイカネの調整に移るからサセボに行っちゃうしね。」

「ウリバタケ班長たちもだよ。」

キタガワが、その場をしめるように明るい声で言う。

「さ! これで一段落つく全ては、それからだ。

がんばっていこう!!」

 

 

 

予告

ナデシコ外伝 第10話

〜夢の日〜

 

いろいろな夢があります。

今見る夢と昔の夢

『人に恐れられるのではなく、おだやかな笑みで迎えられる者が、科学を手にした者のしあわせなんだよ。』

懐かしい夢を見る。

変わらぬ夢

変わる夢

多くの人が時代という名の夢をみる。