〜 2199年 3月22日 午後6時 〜
うん? もうこんな時間か。
早い………いや、何故か体感的には何ヶ月も経ってる様な気がするから、えらく遅いと言うべきなのかな?
まっ、如何でもいいか、そんな事。
大きく一つ伸びをした後、俺は日記帳を畳み帰り支度を始めた。
今日も奇跡的に倒壊を免れている我が家へと帰ると、卓袱台の上に見覚えの無い小包が置いてあった。
如何やら紫苑君が代わりに受け取っておいてくれた物らしく、受け取った時間と配達員の名を記したメモが添えられている。
夜の御仕事(?)に出かけたであろう彼女に感謝しつつ、俺は早速その小包の物色を始めた。
えっと、中身は………液体、それも1リットル位あるな。差出人は………書いて無い?
まっ、良いか。レイナ君のチェックを潜ってきた以上、危険は無いだろう。どれどれ、
カサッ、カサッ…
こ、これは! 銘酒美少年の鮮烈さと40年物の泡盛の重厚さを合わせ持つと言われる幻の酒、美中年!!
………
……
…
はっ、アーク!
アイヨ
カグヤ=オニキリマルの近況を出せ。大至急だ!
アイヨ、………、………、………
畜生! やっぱりそうだったか。
此処暫く大人しいと思っていたら、コッチの気の緩む瞬間を狙ってやがったな、あの女!
いや、ウダウダ嘆いている場合じゃない!
アーク、カヲリ君に緊急出動要請を。それと、今出てきた人間の現在位置を割出せ。
アイヨ、………、………
ふぅ。後はカヲリ君待ち………いや、大事な事を忘れていたな。
俺は取り急ぎPCを立ち上げ、精一杯の誠意を込めたメールを作成した。
『人間関係に疲れました。しばらく旅に出ますが探さないで下さい。
優しい心を取り戻したら帰ってきます。貴官が心から敬愛する上司より』
送信タイマーは2時間後と。これで出港準備の方は、ナカザトが何とかするだろう。
シュッ
「ごきげんよう提督。少し御待たせしちゃったかしら?」
俺がPCの電源を切るのを待っていたかの様なタイミングで、カヲリ君が現れた。
つばひろの帽子に茶色の外套か。一分の隙も無い『遠出をなさる御嬢様』ルックだな。
御丁寧に、如何にも『着替えが入ってます』といった感じのスーツケースまで持参しているし。
この時間、たしか西欧州は真夜中の筈………いや、今はそんな瑣末な事を気にしている場合じゃない。
「グットタイミングだ、カヲリ君。それじゃあ、早速御願いする」
〜 某県の某所 瓜畑秘密研究所地球本部 〜
「こんにちはオリエさん、お久しぶりです。
偶の帰省中の家族団欒の所を失礼。唐突ですが、御主人に話があって来ました。通して頂きます」
「え…えっと、提督?」
いきなりの来訪と切り口上にオリエさんが呆然としているが、敢えて黙殺させてもらい先を急ぐ。
自分でも失礼な真似をしているとは思うが、一刻を争う事態ゆえ仕方が無い。
カヲリ君が上手くフォローしてくれる事を期待しつつ、俺は地下の研究所(?)へと突き進んだ。
「ふっ、ふっ、ふっ。
すげえ、すげえぞ。コイツさえあれば、このデッキは無敵だぜ」
ちぃ。もう開封した後だったか。
バタン
「班長!」
「シュ、シュンさん? どうして此処へ………って、いやスマン。中身はもう飲んじまって、その〜〜〜」
突然の来訪に驚きつつも、その目的を察し、素早くカードを隠して惚けるウリバタケ班長。
咄嗟にしては中々上手い言い訳だが、既に小包の中身を確認済みの俺には通じない。
「何、構わんよ。何を飲んだのかは知らんが、俺が欲しいのは、班長が後ろ手に持っている三枚のカードの方だからな」
「ちぃ!」
見抜かれた事を知ると同時に、班長は脱兎の如く逃げ出した。
だが、それを黙って見送るほど、俺は甘くは無い。
跳箱の要領で作業台を飛び越え、背後からドアノブを掴んだ右手を捻り上げて拘束する。
ふっ、こちとら現役の軍人だぞ。一応な。
「頼む、見逃してくれ。このカードがあれば、海○顔負けのパワーデッキが完成するんだ」
「それが如何した。カグヤ君からのアプローチの危険性については説明しただろ。
ついでに言わせて貰えば、別にアンタ一人が辛い訳じゃない。俺だって、美中年を諦めるのは断腸の思いだったんだぞ!」
往生際悪くジタバタと動かす左手を捌きつつ、ポケットを弄りカードを取り上げる。
事が事だけに、血を吐く様なセリフの応酬に成っているのは言うまでも無い。
「判った。俺も男だ、ブ○ード○ゴンは諦める。
だから、せめてブラッ○マジ○ャン○ールだけは置いていってくれ! あのカードは、男のロマンそのものなんだ!」
取り上げられてなお諦められないらしく、班長が未練たらしく俺のコートの裾を引っぱるが、此方としても引くわけにはいかない。
「え〜い、知った事か!
まだ100件以上も回らなきゃならないんだ。余計な手間掛けさせるんじゃない」
その手を強引に振り払い、尚も追い縋って来る足元に、止めとばかりにパチンコ玉を進呈する。
狙い通りバランスを崩し、池田屋風に階段落ちしていく班長。
それを一瞥した後、俺は玄関先まで一気に駆け上がり、オリエさんと談笑していたカヲリ君を促した。
「カヲリ君。次行くぞ、次」
「あらあら、もう出立ですの提督。慌しいってことね。それではオリエさん、ごきげんよう」
優雅に別れの挨拶をする彼女を手を引っ張り、路地裏へと向う。
誰かに見られたら誤解を受けそうな気もするが、今は一刻を争う状況だ。
人の噂も75日。ジャンプの秘密が洩れるよりはマシと割り切るしかない。
次は帰省中のマキ君か。出来れば穏便にカタを付けたいものだ。
「………………ジャンプ」
シュッ
〜 3月27日 火星駐屯地 〜
丸五日に渡る攻防の末、全117件中115件の回収に成功。
差し詰め俺は、悪い子からプレゼントを強奪して回る逆サンタクロースと言ったところか。
件の品々をカグヤ君の枕下へと置き、『豆腐と酒に旅をさせる馬鹿はいない』と書いたメッセージを添えて任務完了である。
ふっ。これで彼女も、自分だけが安全地帯に居るとは思えなくなる筈………って、いかんな。これじゃまるっきりテロリストの発想だ。
頭を振って危険な思想を払いのけると、俺は懐かしの駐屯地の方へと目を向けた。
其処には、新造戦艦(名称未定)の真っ赤な船体が、ジャンプ用のチューリップの前に設置されている。
如何やら、此方の方も何とかなったらしい。
「ふう、如何にか間に合ったか」
「間に合っていません!」
万感の思いを込めた俺の呟きに茶々を入れる聞きなれた間抜け声。
ちっ、折角見直してやっていたのに。
「如何したんだナカザト、こんな早朝に制服姿で。ひょっとして夜勤明けか?」
「五日も行方を晦ました挙句、出航日当日に朝帰りしていながら、言う事はそれだけなんですか提督?
ああもう、貴方が不在だった御蔭で、出航準備を整えるのがどれ程困難だったか。
正直な話、マキビ准尉が居なかったら、絶対間に合わなかった所だったんですよ!」
だろうな。
だが、俺とて伊達に此処の司令官はやっていない。当然、その辺りの事も折込済みさ。
「まあ、良いじゃないか。こうして艦・人員共に余裕を持って間に合ったんだから。
まあなんだ、よくやったなナカザト。」
計算通りに事が運んだことに気を良くし、ナカザトの奮闘を労う俺。
だが、此処で予期せぬカウンターパンチを食らう事になった。
「余裕なんて欠片も在りません。サッサと礼服に着替えて下さい」
「おいおい、たしか出航式は二時のからの筈だぞ。幾らなんでも、一寸早すぎないか?」
「お忘れですか? 今回の出航式に参加して下さる方々の御出迎えの件を」
あっ! いけね、素で忘れてた。
「ほら、もう第二陣の方々の御到着予定時刻まで一時間を切っているんですよ。早く身支度を整えて下さい。
それと、昼食会が始まる迄に、昨晩御到着された、第一陣の方々への謝罪も済ませて下さいね」
かくて、アキト奪還計画を開始する運命の日は、その出鼻を挫かれる形で始まった。
〜 16:00 出港式式典会場 〜
「という訳で、本艦はナデシコAを上回る性能を、かの船の40%以下の建造費で製作するという奇跡の様な費用効果を誇っており、
これぞまさに先の大戦中に我が社が築き上た技術力の集大成とも言うべき………」
久しぶりの御偉方への御機嫌伺いも如何にかボロを出さずに済み、式典は予定通りに開会された。
現在壇上では、ネルガルの某重役殿が、セールストーク混じりのスピーチを行っている。
なんでもこれは、半ば分裂状態にある専務派の有力者を取り込む為の人事らしい。
御機嫌取りに付き合わされるコッチとしては傍迷惑としか言いようが無いが、あのアカツキも一応会長らしい事もやってるんだなあと思うと、
一寸感慨深いものがある。
「それでは発表いたします! 新造戦艦の名前はこれです!」
漸く前口上を終え、某重役が手元のスイッチを押すと、天井のクス球が割れ、派手な紙ふぶきと共に『ロサ・キネンシス』と書かれた垂幕が下りてきた。
ほう。偶然にしては、
「新造戦艦の名はムサ………って、なんじゃこりゃあ〜〜〜っ!」
垂幕を指差しつつ、高らかに戦艦名を告げようとして驚愕する某重役。
そうだよな。偶然で、こんな名前に成る筈無いよな、やっぱり。
やれやれ、やってくれたなラピスちゃん。
「以上で命名式を終了。引き続き、ロサ・キネンシスの出航式を行います」
取り急ぎ壇上に上がり、俺は強引に式を進行を進めた。
と同時に、某重役の背後に回り、フレンドリーに肩など組むフリをしながら、彼の口を塞ぎつつ幕下へと引き摺っていく。
まったく。後でラピスちゃんには、厳重に注意しておかねば。
「ム〜ッ! ム〜! ムムム〜ム〜〜〜ッ!!(嫌だ〜っ! 今度こそ! 今度こそ、戦艦名はムサシにするんだ〜〜〜っ!!)」
ああもう。折角口を塞いでるってのに、ダイレクトに内容が伝わってきやがる。
にしても、そんな下らない事に、ゴート顔負けな思念波を放つほど執着するとは。
流石はアカツキのライバルだ。
〜 一時間後 ロサ・キネンシス艦内 〜
各種セレモニーと共に、乗組員の搭乗も終了。後は出航を待つばかりである。
そして、一応最高責任者&副官なので、俺とナカザトは、最後にロサキネンシスに乗り込む。
実は、これが今回のトリックの種なのだ。
「あっ。ナカザトさん、おでこの所に何か付いていますわよ」
何人かの軍の御偉方と共に、客人として乗り込んでいたカヲリ君が、『計画通り』ナカザトを呼び止めた。
「えっ、ど…何処でありますか?」
慌ててナカザトは額を擦ったが、最初から付いていない物が取れる筈も無い。
「ほら、御顔を此方に。目も、一寸閉じて下さる?」
そう言って、カヲリ君がハンカチを手に微笑む。
その笑顔に騙され、赤面した顔を差し出すナカザト。
ふっ、チョロいもんだぜ。
「(ゴシゴシ)………ジャンプ」
シュッ
「はい。これで良いですわ」
「ど…どうも。御手数をおかけして」
「それでは、私は客室の方へ戻りますね。ごきげんよう、御二方」
カヲリ君と別れた後、『ロサ・カニーナ』の提督室へ向う。
スペック以外はまったくの同型艦。しかも、相手はナカザトだ。此処でバレる可能性は皆無と言えよう。
なにせコイツときたら、この艦の提督室とブリッジが別に成っているのを、
『提督は艦隊全体を把握しなければならないので、ブリッジの喧騒とは切り離すべきだ』
なんて無理のある説明で納得するような男なのだ。
ホント、誰がコイツをスパイに選んだんだろう?
シュイン
『(ピコン)ようこそロサ・キネンシスへ』
提督室に入ると同時にコミニュケが繋がり、ハーリー君が出迎えてくれた。
「準備の方は如何なってる?」
『御二方の到着により、全搭乗員の配置が完了いたしました』
「そうか。じゃ、艦橋の様子を映してくれ」
「了解」
ピッ
俺の命令を受け、ハーリー君がスクリーンのカメラワークを変更。
其処には、テキパキと発進準備の指示を出すジュンが映し出された。
劇場版にキャラデザインを変更………
じゃなくて、三年後を先取りしたその容姿は、まだ僅かに残っているブラックジュンの雰囲気と相俟って、中々の貫禄を醸しだしている。
「提督。機動戦艦ロサキネンシス、発進準備整いました」
その姿を頼もしく見つめているうちに最終チェックが終ったらしく、ジュンが発進許可を求めてきた。
「うむ。では、出航させろ」
精一杯の威厳を込め、それに答える俺。
「了解。ロサ・キネンシス発進!」
かくて、ジュンの発した号令と共に、ロサ・キネンシスは木連宙域に向け出航した。
「どどどど…如何するんです提督! 発進しませんよ! 如何したんですか!
嗚呼! 折角来て頂いた方々に、なんと言って御詫びすれば………」
「ああもう。少しは落ち着け、鬱陶しい」
ロサ・キネンシスに遅れること18分34秒。(ナカザト調べ)
約束の地へ向け、ロサ・カニーナも発進した。
『次回予告』
暦2199年、乙女の明日を守る為。
機動戦艦ロサ・カニーナが、今、出航する。
新番組、新世紀エヴァンゲリオンRV。
「北斗、襲来」
次回もシュン提督と地獄へ付き合って貰おう。
〜 オンエア終了 〜
『本当にこれで良いのかね、オオサキ殿』
おお、バッチリだったぜアークの上役。
『これは本来、葛城ミサト女史の役所の筈なんだが』
おいおい、冗談はナシにしてくれよ。
次回予告なんて次の視聴率にダイレクトに影響の出る重要な役所を、あんなビヤ樽女に任せて於けるわけ無いだろう。
『………判った』
おう。それじゃ、次回も宜しくな!
あとがき
はじめまして、でぶりんといいます。
拙い、しかも雑然極まりない本作品を御読み頂き有難う御座います。
足掛け1年以上も掛かってしまった本作品も、貴方に御読み頂いた事により、漸く天寿を全うする事が出来ました。心より感謝致します。
PS:真に勝手ではありますが、アークの上役の声は、銀河万丈氏の声を当てて読んで下さい。
代理人の感想
一年以上ですか・・・いや、確かにそれだけの出来ではあります。
プロットはちゃんと練ってあるし、小ネタもばっちり。
文章や台詞回しなどで荒削りなところが多い物の、十分以上に面白いです。
ただ山のような誤字脱字だけは頂けませんが(爆)。
それでは続きを楽しみにしつつ。