ん? この波動は………そうか、オオサキ殿はやってくれたか。
転生の方も上手く行った様だし、先ずは上々の滑り出しだな。
おっと、すまない。自己紹介が遅れたようだね。
初めまして………いや、御久しぶりと言うべきだろうか?
既に御気付きの事だろうが、私はこの多次元宇宙の管理の一部を委託されている者。
立場上、地球人と直接の交流を持つ事は出来ない故、本名の提示を伏せさせて頂いているアリシア人で、
オオサキ殿の言う所のアークの上役だ。
いや、久しく顔を見せずにいて申し訳ない。
だが、これも仕方のない事。
私は私で、今回の企てを第7次元レベルに於いてフォローするべく東西奔走。
オオサキ殿に優るとも劣らない激務をこなしていたのだよ。
その成果の一つが、今回の企画。
嘗て無い斬新な方式にて実行される、次元補正プログラムだ。
以前にも御話したと思うが、我々アリシア人は肉体を持たない種族。
それ故、実際の次元修復には、現地にて協力者を募るのが一般的な方法となる。
だが、今回の企ては、最大後13回もの修復作業を必要とする上に、そのサイクルは、極めて短かいものとなってしまう。
これでは、必要とされる能力を持った協力者を見つけるのは不可能に近い。
そこで、第三階梯の存在としては群を抜く実力の持ち主たるテンカワ氏本人に直接現地に赴き、次元の修復を行って貰うという寸法なのだ。
賢明なる読者諸氏に於いては、敢えて口にするまでも無い事とは思うが、これはオオサキ殿には内緒のオペレーション。
どうか彼には内密に願いたい。
ん? 今、『テンカワ氏を困らせる為に、ワザとそうしたんじゃないか?』と疑われた方が居たようだな。
だが、それは邪推と言うものだよ。
確かに、苦しい台所事情から生まれた苦肉の策なのは認めるが、私利私欲でもなければ個人的感情に依るでもない。
今の内に彼の時空凍結を解除しておけば、オオサキ殿達との間の時差は約1年程で済むし、
見知らぬ世界を旅する事は、些か内罰的過ぎるテンカワ氏の精神的成長を促してくれる事だろう。
そう、これは純粋な善意からの行動。その辺りの事を、どうか信じて欲しい。
互いに足りないものを補い合い助けあう。それが、人生をより良く生きる為のコツというものなのだよ。
………さて。消極的なものを含めれば、大多数の読者諸氏に納得して貰えた様だね。
では、読者諸氏の社会的基盤たる民主主義の精神に基づき、多数決による賛同を得られたものとして話を進めさせて頂こう。
【アキトの平行世界漫遊記@】
それは何時か見た遠い夢。
懐かしき遥かな記憶。
誰もが憧れる、神秘と混沌の世界、エルハザート。
永遠の故郷。果てしなき冒険の大地よ。
夢幻へと羽撃く心ある限り、千億を夜を越え、エルハザートの門は開かれる。
「ふははははっ。もはや退路は無いぞ、ルーン・ヴエーナス。
貴様の妹も、既に我が手に落ちている。観念するのだな」
「なんですって、ファトラが!?」
「此処で貴様を始末すれば、ロシュタリアの政権は崩壊。
ひいては同盟も、その盟主を失い烏合の衆と化す。
さすれば、それを蹴散らすなど、造作も無い事。
このエルハザートは私、陣内克彦の物となるだ! 」
ほう、第一回目の修復先は此処か。
それにしても、この王女の誘拐ネタって、いったい何回目なんだろう?
毎回、大した警護もつけずに出歩くなど。
危機感というものが無いのだろうか、この王女姉妹には?
まあ良い。テンカワ氏を登場させる為の舞台を作って貰ったと思えば、寧ろ有難い事だ。
さてと。ブローディアは、世界への影響が大きくなりすぎるので封印。
その分、携帯用DFSの充電は可能にしておいてと。
ディアちゃんとブロス君は………やはり封印するしかないだろうな。
下手に異世界の情報に触れさせて、その進化に拍車が掛かったりしたら目も当てられん。
何せ、現時点でさえ、二人は半ば精霊化しているのだ。
そして、もしもそれが完全なものとなったりしたら、その後の彼等の未来は、『此方側の住人となる』もしくは『消滅して貰う』の二択となってしまう。
非情な様だが、未だ進化の黎明期にある太陽系に、第五階梯の存在が役職も持たずに常駐する事は、決して認められない。
これは絶対のルールであり、宇宙の秩序を保つためには仕方のない事なのだよ。
「水原誠一派と大神官共は、この日の為に厳しい訓練を積ませた、カツオを指揮官とする我が親衛隊が足止めをしている。
もはや、貴様を守るものは何も無い。
王女らしく、潔い最後を迎えるが良い。ひゃ〜っはっはっは」
おっと、此処で彼女に死なれては、この世界のロゴスが崩壊してしまう。
早速、テンカワ氏を、あの場に送り出すとしよう。
彼との接触は極力避けたい故、前後の説明は一切行っていないが、きっと上手くやってくれるだろう。
何しろこれは、私以外の者が管理する平行世界において、多大なる実績のある事だからね。
それでは、グッドラック。