【アキトの平行世界漫遊記A】




「ふははははっ。
 水原誠! 欠陥兵器の神の目で何をする気だったかは知らんが、その姦計も此処までだ。我が奇襲部隊の前に………」

「いきなり飛竜翼斬!」

   チュド〜ン

かくて、得意の口上を言い終える間も無く、克彦君の率いるバグロム奇襲部隊は、テンカワ氏の必殺技によって壊滅した。
う〜ん、予想以上の破壊力だな。ひょっとすると、携帯用DFSも抜きで良かったかもしれん。

「い…今のはチョッと酷いんやないですか? アキトさん」

額に汗しつつも、おっとり刀でテンカワ氏を窘める誠君。
これまでに、何度となく命を狙われているにも関わらず、この気の良い少年は、克彦君との友誼を捨てきれずにいる様だ。

「酷くない! こんな時にやってくるあの馬鹿が悪い!」

さて。暫くこの地から離れていた読者諸君の為に、ここまでの経緯を掻い摘んで説明させて頂こう。
あの後、テンカワ氏の活躍によって、ルーン王女は窮地を救われ、テンプレートな展開をへて、彼はロシュタリアの客人となった。
誠君とは、その時の紹介で知り会ったのだが、

未知の超兵器『神の目』によって、引き裂かれた若き恋人達。
そして、一万年後の世界に飛ばされたイフリータ嬢と再び巡り会う為に、
絶望的だと言われながらも、神の目の制御法を探しつづけている誠君。

こんな話を聞かされたテンカワ氏が感情移入しない筈もなく、今現在、こうしてやや過剰なまでに、彼に肩入れしているという訳なのである。

無論、協力しているのは、武力に関する事だけではない。
私の狙い通り、プリンス・オブ・ダークネス時代にイネス女史から受けた、遺跡に書かれた古代文字に関する講義の内容を、
テンカワ氏は正確に記憶していた。
とまあ、こう言えば、賢明な読者諸氏なら、もうお判りであろう。
そう。現在、彼らが調査している『先エルハザート文明』と呼ばれる遺跡の数々は、火星や木星にある物と同じく、バレンシア人の残した物なのだ。
そして、テンカワ氏から得られた情報によって明らかになった単語を繋ぎ合わせ、
誠君は、踊る人形の暗号を読み解いたシャーロック=ホームズ氏顔負けの推理力で、制御室に残された碑文の解析に成功。
神の目の時空制御プログラムにアクセス出来るのは、S級職員のみである事を突き止めたものの、異能力だけではセキュリティを崩せない。
手詰まりになった所で、テンカワ氏が、門前の小僧のなんとやらで神の目のハッキングに成功。

このような、ちょっと出来すぎなくらい順調な経緯をへて、
『本来ならありえない筈だった、1万年後の地球への転移成功』という、今回の修正は成功した。

また、神の目の起動方法を探る過程において、

現在の地球は、形状こそ惑星であるが、その実態はコロニーに近い物である事。
同一の大陸内でありながら、常春のロシュタリア、熱帯雨林のバクロム領、万年雪を頂くマルドゥーン山と、自然環境が多彩なのは、
後2000年程で燃料切れをおこす予定の、管理センターによる気候制御の賜物である事。
マルドゥーンの神官の証であるアンプは、IFSに近い物であり、
それによって術者周辺の気候条件を操り、法術と呼ばれる現象を引き起こしている事。

といった、先史文明の機密事項の一部までもが誠君に知られてしまったが、彼がこれらの情報を悪用するとは思えぬ故、特に問題はないだろう。
オオサキ殿の言葉を借りるなら、これは『愛嬌』というものである。




「お〜い、誠ちゃん」

数時間後。
何時も通り、藤沢氏を伴って菜々美嬢が陣中見舞いに。それとほぼ同時に、

   ヒュイン

「まったく。毎日、毎日、よう飽きんと。ウチかて暇やないんどすえ」

「まあイイじゃねえか。美味い夕食をゴチになりに来てると思えばよ〜」

「確かに。アキトはんの料理が絶品なんは認めましょ。
 けんど、こう度々では気後れしてしまいます。
 アンタと違うて、ウチには良識がありますさかい」

これまた何時も通り、風の神殿の長たるアフラ大神官と、その背に掴まったシェーラ大神官が、空から舞い降りてきた。

「ちょっとシェーラ! 
 貴女、仮にも炎の大神官でしょ。こうポンポン俗世に下りてきて良いと思ってるの!」

「てめえこそ、本業の方はどうした。
 年中無休が、『ななみ☆ファクトリー』とやらのウリじゃなかったのかよ!」

そして始まる二人の鞘当。
かたや、激務の合間を縫って。かたや、遠く離れたマルドゥーン山よりの来訪。
まこと、恋する娘とは偉大である。

   パチ、パチ、パチ………

かくて、焚き火の炎が踊る中、この二十日間の定例行事となった宴会に突入。

「ひゅ〜、これこれ。この焼飯ってやつ。
 酒の肴にはなんねえけど、幾らでも食えんだよな」

「って、少しは遠慮しなはれ。それは6人分様に盛られたもんどすえ」

やや度を越し気味の健啖を見せるシェーラ大神官を窘めるアフラ大神官。
だが、そう言う彼女も、上品な薄味に仕上げられた山菜の煮物に目を細めている。
どちらも、現状では此処でしか食べられない料理だ。

そう。驚いた事にテンカワ氏は、エルハザード既存の調味料を掛け合わせる事で、ほぼ醤油と言って良い味のものを作り出したのである。
これはもう、才能と言うよりも、料理人の執念とでも言うべき技だろう。

「それで誠。調子はどうなんだ?」

「はい。もうあと一歩。明日には試運転が出来そうなんです」

藤沢氏の問いに、嬉しそうに答える誠君。
克彦君の襲撃さえなければ、今日の午後には完成していた事など忘れたかの様な喜び様である。
こうした、おおらかなポジティブシンキングこそが、彼の最大の長所であり、
また、テンカワ氏にもっとも足りないものだろう。

「これもアキトさんが碑文の翻訳に協力した御陰です。
 ほんま、幾ら感謝してもしきれません」

「いや、100%君の努力の賜物だよ。
 俺は一寸だけ、それを手助けしただけさ」

一頻り功を譲りあった後、笑顔で見詰め合う二人。
と同時に、テンカワ氏に敵意の視線が突き刺さる。

おっと、これは私の表現ミスなどではない。
確かに、美女と美少女と言えば、テンカワ氏の独壇場。
読者諸氏が、不審を覚えるのも無理ない事だろう。
だが、物事には例外というものが存在する。

そう。アマノ嬢やカザマ嬢に代表される様に、意中の相手がいる女性。
無意識のテンプーションとも言うべきテンカワ氏の魅力も、このタイプには効果が薄いのだよ。
そして、誠君は現在、神の目の視察という名目で、ファトラ王女として此処に居る為、女装したまま、テンカワ氏と行動を共にしているのだ。

つまり、先程のそれは、外見的には、微笑み会う美男美女。
なまじ画になる構図なだけに、彼女達の心情はいかばかりか。
あまり考えたくないものがある。

ん? この波動は………そうか! オオサキ殿はやってくれたか!
いや有難い。そろそろ限界だと思っていた所だ。
初期の目的は果たして貰ってある事だし、それじゃ早速、テンカワ氏を転移させるとしよう。

「ア…アキトさん。なんや、身体が光ってるんですけど」

「ああ。また、遺跡に何処かへ飛ばされるみたいだな」

「そんな! どうにかならへんのですか。
 今、アキトさんが居なくなったりしたら………」

「大丈夫だ! 君なら必ずやり遂げられるさ。
 それじゃ、イフリータちゃんに宜しく………」

   シュッ

かくて、一見、別れを惜しむ男女の濡れ場を演じた後、テンカワ氏は再び時空を転移した。
この後、誠君がどうなったかは私は知らない。
オオサキ殿の言葉を借りるのならば、『知りたくもない』と言った所か。
さて、次の修復先は……………此処か!
丁度良い、このまま送り出すとしよう。




   シュッ

「きゃ〜〜〜っ、地球人よ!!」

「えっ? あ…あの、いきなりお邪魔したことは謝ります。実は俺……」

   ジリリリリ………

「五月蝿い、地球人めが!
 今、警備の者の呼んだ。どうやって聖地シルバーミレニアムに忍び込んだかは知らんが、大人しく縛に付くが良い」

   ドドドドドドッ

「うわ〜〜〜っ!」

うんうん。やはりテンカワ氏は、女性に追いかけられている姿が良く似合うな。
それでは、グッドラック。