>SYSOP
～ ９月３日。ネルフ本部、第一管制室 ～
済崩しにミサトの昇進祝いが行われる事が決定した、その日の午後５時。
シンジが帰国してからは初となるハーモニクステストが行なわれてた。
管制室正面のガラスの向こうには大きな水溶液のプールがあり、そこに半分沈む形で三本のテストプラグが設置されており、
天井からぶら下がる３台のモニターには、３人のチルドレン（？）達の姿が映し出されている。
モニターの中の三人は、皆、一様に目を瞑っている。
一見、神経を集中している表情の様にも見えるが実際には違う。
そう。ハーモニクステストとは、普段行われるシンクロテストとは似て非なるものなのだ。
シンクロテストとは、パイロットの意志をどれだけエヴァの動きに反映させる事が出来るかを示すシンクロ値を調べる為のもの。
シンクロ率が１００％に近付けば、それだけ意思伝達はスムーズになり、機体をあたかも自分の身体の如く動かせる様になる。
だが、それはあくまで、エヴァの運動能力が向上するだけの事。
普通の人間に例えるならば、脳からの電気信号の伝達効率が上がって反射神経が向上するだけなのである。
これに対し、ハーモニクステストとは、もっと深層的かつ根元的なエヴァとの親和性を調べる為のもの。
そして、それを現すハーモニクス値が高ければ、各種神経感覚が向上。
シンクロ時に己の物として感じている、エヴァの視覚や聴覚といった五感がシャープになるという訳である。
もっとも、だからと言って、数値が高ければ高いほど良いという訳ではない。
高いハーモニクス値は、状況によってはパイロットへの危険度を爆発的に跳ね上げる事になる諸刃の剣だったりする。
何故なら、痛覚を始めとする苦痛もまたダイレクトに反映される様になるからだ。
そして、それ以上に危険なのが、エヴァとの同一化が進む事である。
ハーモニクス値の向上によって親和性が高まり過ぎれば、やがてはパイロットの身体を構成する細胞の一つ一つがエヴァと同一化していく。
それに伴い、シンクロ率も爆発的に上がり、１００%を越えて、２００％、３００％と何所までも上がってゆく。
そして、４００％を越えた時、完全にエヴァと一体化して取り込まれてしまうと言う訳である。
閑話休題。要するにハーモニクステストとは、現時点でチルドレンがどこまでエヴァと同化出来るかを調べる為のもの。
つまり、意図的に精神汚染状態寸前の所まで追い込む、我慢大会の様な実験なのだ。
「１番、汚染区域に隣接」
各種シンクロデータの管理をしていたマヤが、モニターと計器を交互に見詰めながら報告を。
と同時に、端から気分が悪そうだったミサトの顔が露骨なまでに苦痛に歪む。
「１番解除。後は続けて」
リツコからの指示が飛ぶ。
それを受け、テストを終了した【０１】のテストプラグは引き上げられる。
そして、【００】、【０５】と書かれたニ機は、更にＬＣＬに沈んでゆく。
「０番も汚染区域に隣接」
「０番解除。５番はまだ余裕があるわね。プラス深度をあと０．３下げてみて」
リツコの指示に、マヤが頷いてキーボードを叩く。
【００】のテストプラグは引き上げられ、【０５】だけが更に少しだけ下がる。
「プラス深度を０．２下げて」
脳波や心拍数等のバイタルチェックから、シンジにはまだ余裕がある事を確認した後、リツコが再度指示を。
「ですが先輩、シンちゃんは………」
珍しく、リツコに口答えをするマヤ。
だが、そんな彼女の諫言を黙殺し、
「良いから。深度をあと０．２下げて」
と、再度指示を。
それを受け、マヤが不安そうに深度の操作を行ない、【０５】のテストプラグが更に沈んでゆく。
それと同時に、シンジの表情が少しだけ曇る。
「もう少し、いけそうね。プラス深度を０．１下げて」
興味津々といった顔で、リツコは更なる負荷を命じた。
だが、此処でシンジよりも先にマヤの方が限界に達し、
「先輩、もうとっくに汚染区域を越えています！ これ以上は絶対無理です！」
「えっ！？ そうなの？」
マヤの絶叫に、リツコはその背中越しにモニターを覗き込む。
彼女の言う通り、シンジのハーモニクス値の上昇はとっくに止まっており、そのまま深度が０．９下がっていた。あきらかに汚染領域である。
「それでこの数値なの。大したものだわ」
自分の想像を越えるデータに感嘆の声を漏らす、リツコ。
何しろ、シンジの置かれた状況は、ミサトやレイにとっては致命的な。
最悪、精神崩壊を起こす可能性すらある領域なのだ。
にも関わらず、彼（？）の身体データは、いまだ耐えられない苦痛ではない事を示している。
この鋼の様な耐久性が如何にして育まれたのか？
これはもう、言わぬが華であろう。
ともあれ、アキト奪還計画は順調に進んでいる様である。
「これを才能と言うのかしら？」
「まさにエヴァに乗る為に生まれてきた様な子ですね」
実験が終了した事で安堵したマヤが、リツコの感銘に同調する。
無論、シンジの苦痛に対する異常なまでの耐性は、北斗の課す厳しい訓練の賜物なのは判っているのだが、これは努力だけで如何こう出来るものではない。
それが、この師弟の見解だった。
「ンな訳ないでしょ」
壁にもたれ腕組みをしながら一部始終を眺めていたアスカが、小声でボソッと呟く。
そう。諸般の事情から、わりと毎日、彼女は影護派一門の修練を見ている。
そして、自分自身にも武の心得があるので理解出来てしまうのだ。
アレは筆舌に尽くし難い。人間の限界を、あきらかに越えたものだと。
「嗚呼、どうにかして彼女を、正式に此方に引き込めないものかしら？」
「そんなの無理に決まってるでしょ」
リツコの身勝手なセリフに呆れつつ、今度はハッキリとした声音で、アスカはその甘い考えを否定した。
「あら、何故かしら？ 確かに、第一印象は最悪だったかもしれないけど、最近では結構友好的な………」
生まれたばかりの望みを言下に否定され、ややムスっとした声音で反論するリツコ。
だが、アスカは皆まで言わせずに、
「友好的かどうかなんて関係ないわ。
とゆ～か、こうして定期検診に協力してくれている事だけでも御の字でしょうが。
何せ、シンジにとってエヴァは、人生最大の汚点に直結しているんだから」
「えっ？ どうして、そんな事になるの？」
「『どうして』って………そんなの、今のシンジの格好を見れば一目瞭然でしょ」
意外な問い返しに一瞬絶句した後、アスカは『何を今更』と言わんばかりな口調でそう指摘した。
それを受け、リツコ達は、モニターに映るシンジの姿を繁々と眺めてみる。
何時もと同じ、プラグスーツ姿。
何時もと同じ、ヘッドセットを付けた短目のボブカット。
何時もと同じ、細身でありながら丸みを帯びた。少女期特有の柔らかさを感じさせる小柄な身体。
「どこもおかしな所は無いじゃない」
「はい。何時も通りのシンちゃんですよね、先輩」
何の躊躇いも無く真顔でそう宣う、リツコとマヤ。
どうやら、このコンビの中では、とっくにシンジは女の子以外の何者でもないと認識されているらしい。
「……………順応性高すぎよ、アンタ等」
諦観と共にそう呟く。
此処まで来ると、流石にシンジが気の毒になってきたアスカだった。
～ ９月４日。マーベリック社の社員食堂 ～
その日、ささやかではあるがミサトの三佐昇進祝いが開かれていた。
発案者はケンスケ。会場は、コネを利用してマーベリック社の一室。
ぶっちゃけて言えば、彼は企画を立てただけで、後はカヲリに丸投げした訳である。
とは言え、一応、善意でやっている分だけ、どこかの老人よりは罪の無い行動だろう。
「それでは皆様、葛城ミサト三佐の御昇進と更なる躍進を願いまして、乾杯！」
「「「乾杯！」」」
カヲリが乾杯の音頭を取り、会場が喧騒に包まれだす。
そして、今度は個別に、『葛城ミサト三佐 御昇進祝賀パーティー』と書かれた布の垂れ下がった上座に座るミサトに、次々に祝辞を述べる参加者達。
そして、そんな御約束のオープニングセレモニーが一段落した後、
「く～～っ！ コレよコレ、この感じが欲しかったのよ！」
マーベリック社が誇る戦う料理人、ポール＝サメジマの作るパーティ料理に。
若鶏の唐揚・コロッケ・ヒレカツ・ローストビーフ・ソーセージといった影護家では食べられない類の料理を前に、浮かれ捲くるミサト。
ぶっちゃけて言えば、これこそが彼女本来のメニュー。
嘗てコンビニから買ってきていた晩酌の友である。
それが、比較にならないくらい上質な形で目の前に置かれているのだ。
これで彼女が喜ばない筈が無い。
「つ～ワケで、カスミちゃん。もうジャンジャン持って来て♪」
このチャンスを全力で堪能すべく、縦巻ロールな髪型のウエィトレスに。
宗像カスミに上機嫌で追加注文を。
「は～い。（うわ～、目茶苦茶なメニュー指定です。きっと高血圧か糖尿病で早死にしますね、この人）」
「（ハッハッハッ）冗談はよし子さん。成人病が怖くてエビちゅが飲めますかっての」
既に出来上がっているらしく、カスミのナチュラル毒舌も気にしていないと言うか、微妙に会話が噛合っていない。
そんな宴の主役の痴態を眺めつつ、
「（ハア～）にしても、よくもまあ昇進なんて出来たもんね」
と、小声で呟くアスカ。
その言葉には刺や苛立ちは含まれていない。若干の呆れを含んだだけの只の事実の指摘だった。
確かに、開幕当初のボロ負け続きな状態に比べれば。
自分が加入して以後の戦績は、５戦中３勝２敗（内一敗は不戦負）と、ソコソコ評価出来るものかもしれない。
だがそれとて、これまでダークネスが上げた実績に比べれば微々たる戦功である。
実際、ネルフが上げた勝ち星の内２勝は、彼等のアシスト無くしては成立しないもの。
純粋な勝利と呼べそうなのは、精々、前回の伍号機による中国戦だけ。
はっきり言って、今もって戦況は御世辞にも芳しいものではないのだ。
だと言うのにナゼ昇進？
アスカには、それが不思議でならなかった。
もっとも、これは些か認識不足。大学卒と言っても、完全に理系人間な彼女の限界とも言えよう。
戦争の歴史を紐解けば、得てして軍人は、敗戦の時こそトントン拍子に出世するもの。
そう。悲惨な現実を誤魔化すべく、英雄がデッチ上げられるものなのだ。
そして、そのまま死んだ英雄となるか、生きて本物となるかによって、後世の歴史家達の評価が１８０°変わるという訳である。
「もう、加持さん遅いわねぇ」
正直、いまだ勢いを落とす事無くハイペースで飲み食いしている主賓の痴態を眺めるのも、もう飽きた。
とゆ～か、アスカ的には、ミサトの事よりコッチが本命である。
そう。夏休みに入るとほぼ同時に長期出張に出かけたまま、もう１ヶ月以上も顔を見せていない加持が此処に来る事になっているのだ。
このチャンスに、何としても、その真意の一端だけでも聞き出さなくてはならない。
ついでに、嫌だけど、凄く嫌だけど、義理の姉の尻を叩いて二人の仲を取り持たなくてはならない。この辺、辛い所である。
苛立ちと共に時刻を確認すると、パーティ開始から既に一時間が過ぎていた。
元々、やや時間にルーズな所がある人だったが、それでも些か遅過ぎる。何かあったのだろうか？
と、アスカがその身を案じていた時、噂の男はと言えば、
「え～と。ベレッタが１丁。デリンジャーが１丁。小型のスローイング・ナイフが７本。
盗聴器１５個。盗撮用の擬装カメラが３個。ボイスレコーダーが１個……………ああもう、面倒臭え」
「（ハハッ）いや、困ったお客様ですなあ、本当に」
玄関口にて、ホールドアップ。
ひょんな事から、これまで難航不落を誇っていたマーベリック社へ大手を振って潜入出来るチャンスを前に些か気負い過ぎたらしく、
パーティ会場への入場前のボディチェックにおもいっきり引っ掛り、本日は警備員な鷲爪マサキと豹堂営業部長を呆れさせていた。
おまけに、なまじ鷲爪とは波長が合ったもんだから、
「は～い。お口を大きく開けて、ア～～～ン…………って、奥歯は自前。自決用の毒薬の類は無しかよ。つまんね～な」
「（チッチッチッ）そんな無粋な事をやる様な二流所と一緒にして貰っちゃあ困るな」
「ほう。そのココロは？」
「ズバリ。一流のエージェントは歯が命なのさ」
といった感じで、加持へのボディチェックは伸びに伸びた。
そんなこんなで、その十数分後、
「あら、リョウちゃん。こんな所で何をしているの？
てっきり、私達が最後だと思っていたのに」
丁度、漸くフロントに預けておかねばならない私物のチェックが終った時、仕事の関係から遅めの到着となったリツコが、マヤを伴ってやってきた。
ちなみに、彼女達の方は、予め仕事の関係から遅刻する旨を伝えているし、当然、おかしなオモチャの類は持ってきていない。
北斗とその関係者達を相手にする時は、こういった礼節を守るのが最上の策である事を良く知っているのだ。
ある意味この辺が、常に最前線で戦ってきた者と、遠くからコソコソと探っていた者との差と言えよう。
ともあれ、機せずマーベリック社の玄関口にて合流した三人は、何気に原作の倍以上の参加人数となったが故に変更を余儀なくされたパーティ会場へと連れ立って足を踏み入れた。
「これはまた、随分と盛り上がってるみたいだな」
目の前の光景に、何時もの韜晦っぽい口調では無く、素で感歎の声を上げる加持。
それもその筈、上座ではあまりにもハメを外し過ぎたミサトが、
「そんなに油分過多な品ばかり食べていては身体を壊しますよ。少しはお野菜も食べないと。
あっ。せめて、その付け合せのパセリだけでも食べて下さい。毒消しの効果がありますので」
と、零夜からドクターストップならぬ教育的指導を受けていたり、
その彼女から死角となる位置に身を隠したジャージ姿の少年が、ミサトと似た様なメニューの乗った皿をコソコソと、かつ物凄い勢いで食べ捲くっていたり、
それを、『やれやれ。仕方のないヤツだ』と言わんばかりな表情の北斗が呆れ顔で見守っていたり、
「驚いた。ウミ、アンタまだ生きてたのね」
「あたり前でしょ。母なる海がある限り、私は不死身よ。
もっとも、次のレポートの締切りが間に合わなかったりしたら、空条博士に撲殺されそうだけど」
「なら、こんな所で油売ってんじゃないわよ」
「（フッ）判ってないわね。ソレはソレ、コレはコレよ」
と、アスカと御団子頭の少女が、掛け合い漫才をしていたり、
気が付けば、自分の足下で、三つ編みの女の子がスヤスヤと寝息を立てていたりするのだ。
さり気無く常識が崩壊気味な、チョッとしたワンダーランドと言った所だろうか。
そんな呆気に取られていた加持達を尻目に、
「さて。宴もたけなわ。また、先程、最後のお客様も到着されましたので、これよりささやかなアトラクションを開催したいと思います。
（おもいっきり年寄りの冷や水です。首尾良く笑いが取れれば御慰みですね）」
派手な改造メイド服という事もあって、ミスキャストとまでは言わないまでもチョッと微妙な。
セリフ回しと相俟って、独特な雰囲気を纏ったカスミの司会によって舞台が進行。
会場の照明が暗くなり、垂幕で覆われた仮設の壇上にスポットライトが。
そして、バックコーラスを伴ったアップテンポのＢＧＭと共に、
「愛と正義の美少女戦士セー○ー○ーン！ 月に変わっておしおきよ！」
取り払われた垂幕の中から、かつて一世を風靡した水兵ルックの美少女（？）戦士達が、得意のキメポーズを。
だが、リーダーであるなんちゃって美少女以外は、練習不足と言うか羞恥心が残っていたらしく、
「お…同じくセー○ーマー○。火星に変わって……折檻です。（///）」（盛大に赤面する長い黒髪の美女）
「同じく、セー○ーマー○ュリー。水でも被って反省しなさい。って、寧ろ俺の方が被りてえや（泣）」（思わず小声で愚痴の入るショートカットの美女（？））
「同じく、セー○ージュ○ター。先輩を止められなかった事を、痺れるくらいに後悔しています」（セリフを一部改竄するウエーブの掛かった黒髪をポニーテールに纏めた美女）
「同じく、セーラービーナス。愛の天罰、おとさせて頂きます（顔に縦線が入った、棒読み口調の怜悧な顔付きの美女）
と、グダグダに。
しかも、マー○ュリー以外は成熟した大人の女性故、体形的にどうしても違和感が出てしまっている。
そして、彼女達に続いての外宇宙美少女戦士達はと言えば、
「新たな時代に誘われて、セーラーウ○ヌス、華麗に活躍」
「新たな時代に誘われて、セー○ーネ○チューン、優雅に活躍」
先発の二人組は、リーダー顔負けに。
否、年齢からくる容姿も考慮すれば彼女以上にハマっていたのだが、それを打ち壊しにする形で、
「嫌だ～！ もう御家に帰る～（泣）」
「泣かないでハーリー君。私も泣きたくなっちゃうから」
「そう。泣いたって事態は何も好転しないの。負けちゃ駄目なのよ」
『オトコナラ、ツヨクイキロ』
「って、男なら。こんな格好をしなくて済むよ、普通は！」
見習いの美少女戦士と土星＆冥王星の美少女戦士に至っては、もう演技自体が成立していない始末。
結果、会場の空気はドン引きだった。
そして、止めとばかりに、ギターの勇壮なＢＧＭと共に、どこからともなく投げ付けられた一輪の薔薇の花が壇上に突き刺さり、
「ハッハハハハハッ。今日の主役は君だ、セー○ーマー○」
そんな御約束の口上と共に、目元をマスクで隠したタキシード姿のロンゲの男が壇上に出現。
名乗り上げと共にキラリと歯を光らせた後、哄笑を上げつつ、意中の相手をお姫様だっこでお持ち帰りに。
唐突かつ予想外な展開に呆気にとられ、為すがままとなっているセー○ーマー○。
その後ろから、わしゃわしゃとバラの花びらを撒き散らす、黒子の格好をした小柄なポニーの少女。
そんな彼等が走り去った後、静寂が。
とっても痛い空気が流れ出し、暫しの間、パシャパシャとケンスケがデジカメのシャッターを押す駆動音だけが木霊する。
「って、チョッと待て。姉さんを返せよ、ドロボー！」
その数瞬後、我に帰った各務千里がセー○ーマー○ュリーのコスチュームのまま走り出す。
一拍遅れて、『助太刀します』とか何とかもっともらしい理由を宣いながらセーラー服を脱ぎ捨て、下に着込んでいた何時もの略式の軍服姿になった春待三尉と、
それを模倣したミルク＆ハーリー君が、その後を追ってゆく。
と、この辺で、呆然としていた他の者達も我に帰ってゆき
「く～っ。折角の豪華ゲストを迎えてのオールキャストだったのに。
矢張り、昨日の今日では無理が。練習不足は隠せなかったか～！」
「うんうん。特に、最後のアドリブが痛かったよね、色んな意味で」
得意のオーバーアクションで大いに嘆く、セー○ー○ーン役のエクセル＝小林を、ラピスが親身になって慰める。
ちなみに、彼女は今回のキャスティングも手掛けた舞台監督であり、
『ちび○ーンなんて、ラピスが自分でやればイイじゃないか。折角、ちっちゃくてピンク色の髪なんだから』というレッドゾーンギリギリなハーリー君の突っ込みを、
『嫌よ。女優になんてなったら、ス○ロボで携帯機にしか出演できなくなるじゃない』という、更に突っ込み所満載な返答で黙らした、
過日、正式就任が決定したばかりの素敵に無敵な専務様である。
「（フルフル）だから止めましょうって言ったじゃないですか～」
そんな二人に向かって、ポニーを解いて小型のブラシで髪を梳きながら、綾杉チハヤが苦言を。
その横で、ブロンドのロングヘアのウイッグを外して同じく髪を整えながら、
「ハヤト。ママ、頑張ってるからね」
と、虚ろな目をしたライザが、ブツブツと何事か呟いている。
親子二人、天にも地にも居場所の無くなった２１９９年からコッチに亡命して来て早２ヶ月。
適当に切られていた散切り頭も、漸くショートカットに整えられる位に伸び、それに比例する様に、此方での生活に慣れてきたが、
その反面、社会生活を送る上で培われた常識の所為で、偶に発生するこうした各種イベントには、ど～しても慣れない。
エージェント時代に培った精神力をもってしても、つい挫けそうな彼女だった。
だが、そんな彼女の立場も、まだマシな方でだろう。
それ故に苦しんでいるとは言え、辛うじて良識を失っていないのだから。
「お疲れ様です、お姉……じゃなくてカヲリさん」
「（モグモグ）シンジもお疲れはん。にしても（モグモグ）よ～やれるのう、ソレ。（モグモグ）ほとんど、ぶっつけ本番やったのに」
「（フッ）こんなの慣れだよ、慣れ。この格好は中国に居た時に経験済みだしね。」
「（フッ）ええ。ほんの一時、羞恥心という名の心の小箱に鍵を掛けているだけですわ」
友人達の賞賛に、諦観の笑みを浮かべるウ○ヌスなシンジとネ○チューンなカヲリ。
そう。あくまで『偶に』でしかないライザに比べ、こうしたイベントフラグが引っ切り無しな所為で、人として大切なものが擦り切れる寸前な二人。
此処最近、『同病相憐れむ』と言った感じで、何気に意中との相手のとの距離が縮まっていたりするのが、嬉しくもあり悲しくもあるカヲリと、
此処最近、『同性故の気安さ』と言った感じで、何気に（当初は一方的に敵視を受けていた）レイやマユミとの距離が縮まっていたりするのが、嬉しくもあり悲しくもあるシンジだった。
「（フッ）良い画が撮れたぜ」
「ええ。問題ないわ」
利害の一致から、一時的に手を組んだケンスケとレイ。
彼等はもう、ふっきれ過ぎだろう。
そして、このパーティの主役はと言えば、
「う～ん」
「どうしたのミサト？ 歪みきった顔を更に歪ませて」
「って、どういう意味よ、ソレ！」
「言葉通り………じゃなくて、言葉のアヤよ。それより、何を悩んでるの？」
と、何時も通りの掛け合いから、ミサトの意図を聞き出しかかるリツコ。
だが、これは何時もの惰性による問いでは無い。
俗に『馬鹿の考え休むに似たり』と言うが、この格言は些か過小評価が過ぎると彼女は思っている。
何しろ、その○○な親友の突発的なアイディアの御蔭で酷い目にあった経験が腐る程あるが故に。
ぶっちゃけ、用心するに如くはないと言う訳である。
「いやその、悩んでるなんて大層なモンじゃなくて。
さっき出て行った肉マン入りのパットでもしてそうな娘と、おかしな髪型のウィッグを付けてた少女………じゃなくて、多分、男の子。
どっかで見た様な気がするんだけど、一体誰だったのか思い出せなくてさ～」
グビッとエビちゅを傾けながら、小骨が喉に刺さっているかの様な声音でそう宣う、ミサト。
「ああ。それでしたら………」
「（ポン）た…多分、どこかの役者さんでしょ。それに、思い出せないって事は大した問題じゃないってことよ」
それを受け、何の気無しに答えを言おうとしたマヤの思慮に欠けた発言をポンと肩を叩いて制すと、リツコは場を誤魔化しに掛った。
そう。初勝利を切っ掛けに大分緩和されて来たとは言え、ミサトのアンチダークネス感情は、いまだ根深いものがある。
おまけに、折角の祝いの席。当人が気付いていないのに、わざわざ地雷を踏みに行くなんて愚の骨頂だろう。
「貴女は酔っているのよ、きっと。そろそろ杯を置く………のは無理としても、せめてペースを落としたら、いい加減」
「ご冗談を。酒は美味いし、ネーチャンは綺麗。此処でガンガン行かなくて、ど～するってのよ」
「（ハア～）どこの酔っ払いオヤジよ、貴女は」
どうやら、危険を避けようとして別のスイッチを押してしまったらしい。
嘆息と共に、そう観念するリツコ。
そんな彼女を尻目に、胸中の疑問の棚上げに成功したミサトは、
「うお～い。エクセルってば、姿見せないと思ったらナニ素敵企画を。
ってゆ～か、何で私を誘わなかったのよ、水臭いじゃない」
と、何時ぞやの温泉宿で。
何かと気があって友誼を結び、あれ以来、折に触れ酒の席を共にしている飲み友達に、酔っ払い特有の胴間声にて声を掛けた。
「ハッハッハッ。そりゃ無理だってば、今日の主役は貴女なんよ」
「かあ～～～っ。判ってないわね、客の望む事をやるのが、もてなしのココロってモンでしょうに。
まあイイわ。コッチに来なさい。此処で会ったが百年目、この間の赤提灯での借りを今返すわよ」
「（ハッ）既にしこたま飲んだ状態でナニ言ってんだか。結果の判りきった勝負なんて興醒めってモンよ。
それとも、昇進祝いに託けて勝ちを譲って欲しいのかな～、ミサトちんは。
判る判る、ココんトコ負けが込ん出るもんね～」
ミサトの挑戦に、アメリカ人っぽいオーバアクションで肩をすくませつつ鼻で笑うエクセル。
その挑発にシッカリ乗っかり、
「ふん。マグレでチョっち勝ち越してるからってイイ気にならないでよね。
この程度は只のハンデよハンデ。良いから杯を取りなさい、誰に喧嘩を売ったのか教えてあげるわ」
と、激昂しつつも、ミサトは自分の物よりも大きなコップを差し出した。
いかにも『ハンデ付けてあげる』という口調で、実際には、さり気無くハンデを要求する辺り実に狡猾である。
既に酔っているのに抜け目が無いと言うか、矢張り、彼女は適度に酔っている状態の方が頭が回る様だ。
「そこまで言うなら是非も無い。良いでしょう、受けて立つわ」
ミサトの提示した暗黙のルールを二つ返事で承諾するエクセル。
そして、ソレはソレとばかりに、この酒宴に華を添えるべく、
「「つ～ワケで、お酌してね♥」」
と、二人同時に、シンジとカヲリの手を。
まるで入念な打ち合わせがしてあったかの様な阿吽の呼吸で、それぞれの獲物の手を掴んだ。
「良いのかしら、アレ？」
上座にて展開される、何やら制服着用がウリの如何わしい店の様な。
否、現役女子中学生な美少女達を侍らせての酒宴という、その手の趣味人にとっては一財産積んででも代わって欲しい様なそれを前に、
リツコは一応は現役の教師に小声でそう尋ねた。
だが、返ってきた答はにべも無く、
「別に構わんだろ。確かに性質の悪い酔っ払い共に引っ掛った様だが、絡まれてるだけで酒を飲まされる訳じゃない様だし」
と、どうでも良さそうに宣う北斗。
良識派な筈の零夜もまた同意見。度を越さない限りは良い経験だと思っている様だ。
前者は兎も角、後者には期待しただけに、チョッピリ凹むリツコ。
ちなみに、生来の可愛い物好き故に、チョッピリミサト達を羨ましく思っているのは彼女だけの秘密だ。
特に、赤面しつつ『ふ…不潔』とか呟いている、あの格好をさせても違和感の無さそうな童顔の部下には絶対に。
何となく、猛烈に地雷っぽい気がするし。
「（ハア～）祈りを捧げる神様が居ないってのは不便ね。特に、こういう時は」
立場上、自分が十字を切っても逆効果っぽい故、シンジ達の冥福を祈る事無く嘆息するのみで済ますリツコだった。
そんな喜劇の裏側で、
「ねえねえ、加持さん。アレってどう思う？ 相手が子供でも面白いもんなのかしら？」
「う～ん、難しい質問だな。何せ、男には作れないものだからな、ああいう雰囲気は」
「じゃ、男としては羨ましい？」
「まあね。だが、同時に願い下げとも言えるな。
何せ、どちらも美少女だけに、ああやって微笑ましく愛でる分には最高だと思うが、俺がアレをやったら最後、あらぬ疑いを掛けられそうだ」
と言った調子で、肝心のミサトがあの有様なだけに、加持に彼女の下に行く様に促す訳にも行かず、
また、例の件を上手く聞き出すタイミングも得られず、悪戦苦闘しているアスカと、
彼女に終始貼り付かれているが故に、折角のチャンスにも関わらず効果的に動けない加持。
そんな二人の間で、水面下での激しい心理戦が展開中。
また、会場から２㎞程離れた人通りの無いとある場所では、
「バルデッシュ、アサルトモード」
『yes sir』
ラピスの肝煎りで今回は公務扱い故、起動中の魔法杖（？）から。
オモイカネが制御するソレから、出力を絞ったＤＦＳの弾丸が雨霰とばかりに発射される。
だが、敵も然る者、
「何のです。ＡＴ………じゃなくて、レッド・フォース・バリア～です！」
と、ラシィが叫ぶと同時に、下手な銃弾より遥に高威力のそれを物ともせず弾き返す、紅い不可侵の盾。
ちなみに件の技名は、対外的なＴＰＯを考慮して、彼女が苦心の末に考え出した物だ。
無論、『それなら叫ばなければ良いじゃん』等という無粋な突っ込みは不可である。
「って、もっと出力上げろよ！」
「駄目です、これ以上は回りに被害が出ちゃう」
千里の言に、この技のオリジナルである少女よりは高いっぽいモラルを伺わせる。わりと常識的な反論をするミルク。
「my master」
そんな彼女の心情を慮って、オモイカネが打開策を提示。
それを受け、ミルクは隣を走っていたハーリー君の襟首を引っ掴み、
「必殺、ハーリーミサイル！」
彼が居なければ成立しない、突発的な超必殺技を。
一筋の流星と化したハーリー君が、ＡＴフィールドを突破しラシィを撃沈。
そして、返す刀で精一杯手加減して投げた石礫が後頭部にヒットしアカツキも撃沈。
かくて、とある路地裏で起こった夜半の捕り物は無事終了した。
「ちっとも無事じゃないわよ！ 何て事をするのよ、貴女は！」
「まったくだ。姉さんに当たったらどうするつもりだったんだよ、お前は！」
「って、少しはハーリー君の心配もしてよ、千里君！」
直接的な加害者であるミルクと些かピントのズレた心配をしている（ユキミ的視点）千里に猛然と抗議する春待三尉。
だが、二人はやや面食らった顔で、
「えっ？ アイツって、体内のナノマシンを一点に集中させて特攻形態とかが取れるヤツじゃなかったんですか？」
「私も、『絶対に大丈夫。この程度じゃ掠り傷一つ負いっこない』ってバルディッシュから聞いたんですけど、違ったんですか？」
「そんな訳ないでしょ！ どこかの零式鉄球保持者と一緒にしないで！」
なおもガミガミとどやし付ける春待三尉。
「あの～」
「ナニ？ 今忙しいんだけど」
「いえ、何でもありません」
それを止めようとするも彼女の剣幕に押されスゴスゴと引き下がる、千沙。
普段なら考えられない事だが、色々あった所為で気弱になっている様だ。
自分と同じく、らしくない態度をとっている。
普段、この手の事で心配をして貰える機会が無かった為、どういうリアクションを取ったら良いのか判らず、
結果、オロオロと気弱げに春待三尉による千里達へのお説教の様子を伺っているハーリー君（タンコブ付き）に、何となくシンパシーを憶える彼女だった。
と言った具合に、男女五人のラブコメっぽい展開を期待して打った東中将の布石は、功を焦った一人の男の勇み足によって水泡に帰していたりしていた。
そんなこんなで、外野にて起こった喜劇は其々終幕へ。
メインである宴席も、この数時間後には御開きに。
そして、『決着がまだ付いていないから』と、会場はそのままに二次会へ。
残り物の酒と肴を残らず消費する覚悟で後半戦に突入したミサトとエクセルの飲み比べは、
グラシス会長からの緊急の呼び出しをネタにカヲリが逃亡した事でストッパー役が居なくなった所為か、
「いや～、シンちゃんてば本当に可愛くなっちゃって。もう、お姉さん食べちゃいたいくらい」
「って、止めて下さい。とゆ～か、どこを触ってるんですか。終いには怒りますよ」
「ヒューヒュー、見せ付けてくれるわね、お二人さん。
なんだったらソッチの仮眠室で。４５分くらい勝負を中断してあげてもイイわよ、ミサトちん」
「や～ね、エクセルってば。それは後のお・た・の・し・みよ♥」
酔った勢いで度を越したセクハラを始めたミサトと、それを囃し立てるエクセル。
そんな感じで、マナーが急速に悪化。その結果、
「いい加減にしなさい！（ドス×２）」
と、二人にの間に割って入ると同時に繰り出された零夜の天罰。
彼女の放った双撞掌（両足を踏締めながら両手を勢い良く広げる、本来は片方の手の反作用をもう片方の掌底に伝えて打撃力を上げる技）によって、
酔っぱらい達は全く同時にダブルＫＯに。
かくて、二人の対決は半強制的にドローとなる形で幕を閉じた。
～ 翌日。午前４時 ～
ビーコン！ ビーコン！
『非常事態発生！ 総員防御服着用。全作業員は、至急地上部へ避難しろ！』
あっ、コレって。やれやれ、随分と久しぶりね。
『装置を緊急停止させろ！ 予定限界値は、とっくに超えている。このままじゃ、どうなるか判らんぞ！』
『もうやっている！ だが、槍の効力が落ちて。いや、被験者との接触によってアダムが活性化して………』
『駄目だ。もう融合は避けられない。こうなったらせめて………をして………だけでも』
『畜生、だから俺は嫌だったんだ。十四の餓鬼に下駄を預ける様な真似をするから、こんな事に………』
なんか知らないけど、今回のはヤケに前置きが長いって言うか、セリフ描写が多いわね。
何時もは、もっとビジュアル的って言うか、
『ＡＴフィールド、全て開放されていきます！』
『そんな！ アレは光の翼？ 巨人？』
そう。たいてい、こんな風に使徒が出てくる所から始まって、すぐに父さんが………
『フォオオオオオオッ！！』
って、なんで使徒の顔が北斗君なのよ！？
ガバッ
「（ハアハアハア～ハ～ア）」
弾かれた様に飛び起き、一頻り荒い息を吐く。
今も、背中に嫌な汗が伝っている。
全くもって最低な悪夢。しかも、何気に明晰夢ときては正に最悪だ。
「まいったなあ。私ってば、もうスッカリ、理不尽なモン＝北斗君って刷り込みが完了してるみたいね」
現実世界に復帰した事に安堵しつつも、自嘲気味にそう語散るミサト。
もっとも、本当の悪夢は、まだ始まったばかりだったのだが。
ムニュ
何気なく隣にやった右手が、ナニやら弾む感触のものを。
さっきとは別の意味で嫌な汗が流れ出す。
とは言え、何時までもこうしている訳にもいかない。
意を決し、右隣に目をやる。
すると、そこには同じ毛布に包まったシンジの姿が。
「あっ。おはようございます、ミサトさん」
ゆっくりと身を起こすと、彼女（？）は朝の挨拶を。
だが、ミサト的にはそれ所ではなかった。
その暢気な仕種とは裏腹に、この体勢はヤバイ。
互いの吐息が顔に掛りそうなくらい寄り添った。
ぶっちゃけ、イタした後の恋人の距離だ。
「ど、どったのシンちゃんたら。女性の私室に入ったりして？
ひょっとして夜這い？ いやその、気持は嬉しいんだけど、私ってばソッチの趣味は無いっていうか。
お姉さんとしては、出来れば男の子だった時にして欲しかったんだけど………」
二日酔いでガンガンする頭を必死に宥めながら。
どうにか微笑らしきものを浮かべつつ、ミサトは冗談めかして捲し立てる。
そう、自分には何の憶えも無い。従って、絶対に未遂だ。そうに決まっている。
自分でも、言ってて説得力が無いのは判っているが………って、ヤバイ。マジで頭が回らない。
「どちらかと言えば、手を出されたのは僕の方ですけどね。しかも、現在進行形で」
チョンチョンと右手を指差しつつ、のほほんとした口調で、そんな追討ちっぽい事を宣うシンジ。
「いやその。確かにシンちゃんの胸を掴んだままなんだけど、お姉さんとしては『もうチョッち別の言い方をしてくれると嬉しいな～』なんて思うんだけど………」
と、色々な要因が重なり混乱しきった頭で、どうにか言い訳っぽいセリフを紡ぎ出す。
その裏で、胸中にて打開策をグルグルと考えていると、
「あの。ミサトさん、顔が真っ青になってますよ。
やっぱり、昨日は飲みすぎだったんじゃないんですか？」
此方の顔色を伺いつつ、シンジがそんな事を。
そして、『あっ。今、お水持ってきますね』と言いつつ部屋を後にした。
「（ハア～）ヤバかった～」
去ってゆくその後ろ姿を見送りながら、安堵の溜息を漏らすミサト。
彼女（？）の普段と変わらぬ態度からして（何せ腹芸なんて出来る子じゃないし）、どうやら未遂で済んでいたらしい。
それに、こうして冷静になってみれば、自分の格好は、ほぼ昨日のまま。
アンダーシャツにズボンを履いたままと、そういう事があった後とは思えないもの。
つまり、セーフだと思って間違い無い様だ。
とは言え、このまま『ああ良かった』で終わりという訳にはいかない。
さっきまでの。一歩間違えば、『責任とって下さいね』とか言われかねない状況は流石にマズイ。
それこそ、シンジがその気だったらグウの音も出なくなっていた所だ。
何としても、そこに至った経緯と原因とを探り、再発を防止しなくてはならない。
改めて沈思黙考。痛む頭で、どうにか前後の事情を思い出そうと試みる。
え～と。確か昇進祝いで、エクセルとシコタマ飲んで……………
何か知んないけど、えらくシンちゃんに絡んだ様な憶えがある様な無い様な。嗚呼、頭が痛い。
そんな思考が混濁し始めた所で、お盆に水差しと水の汲まれたコップを乗せたシンジが戻ってきた。
ありがたく、手渡されたそれを一気に煽る。美味い、もう一杯。
と、此処で。シンジの水差しからコップに水を注ぐ仕種を切欠に一部始終を思い出す。
目の前に、普段とは真逆に扇情的な。その手の趣味のヤツなら一発で墜ちそうな格好のシンちゃん＆カヲリちゃんが居たもんだから、つい調子に乗ってお酌して貰って………
記憶が戻ってくると共に、サーと血の気が引いてゆく。
殿酔した所為か断片的な記憶しか残っていないが、酔った勢いで散々からかい倒した挙句、最後の方は青少年保護条令に抵触しそうな。
自分はショタだと。いや、この場合は、リツコの同類だと思われても文句が言えない事までやっていた気がする。
正直、アレは別の意味でシャレになっていない。
ましてや、その手の倫理観に五月蝿い零夜の前とあっては尚更だ。
「あの～、シンちゃん。あの後、どうなったのかしら？」
彼女（？）の顔色を窺いつつ恐る恐る尋ねる。
大体予測はついているが、これは聞いておかない訳にはいかない。
「えっと。チョッとその………エクセルさん共々アレだったもので（///）
注意しても止めようとしなかったんで、零夜さん、怒っちゃって………」
赤面しつつも、ポツリポツリと前後の事情を語るシンジ。
だが、ミサトはと言えば、碌にその説明を聞いていなかった。
その内容が概ね予想通りだった事もあるが、彼女（？）の話には別の意味でインパクトが所為である。
ぶっちゃけて言えば、恥じらいながら語るその姿は、そんな趣味など無い筈の自分でさえイケナイ気分にさせるに充分なものだったのだ。
多分…否、間違いなく無意識にやっているんだろうが、それだけに性質が悪い。
これがTS物の定石。相反するアニマが如何とかで生まれた魅力いうヤツだろうか？
「（コホン）そんな事より、何でシンちゃんが此処に居るの？」
咳払いなどして動揺を押さえつつ、ミサトはシンジの説明を遮り事の核心を訪ねた。
「ミサトさんが放してくれなかったからですよ」
返って来た答えは、そんな彼女の虚勢を圧し折るのに充分なものだった。
「放してって………どうして！？」
「そんなの僕の方が聞きたいですよ。
北斗さんなら、相手の意識が無くても強制的に手を放させるツボとか知ってる筈なのに、
『やれやれ。コレは仕方ないな』とか言って人の悪い笑みを浮かべるだけで助けてくれなかったですし、
頼みの綱の零夜さんも、暫しミサトさんの顔を覗き込んだ後、『その様ね。シンジ、このまま添い寝してあげなさい』なんて事を言い出す始末で。
いえ、勿論断ろうとしたんですけど、ミサトさんの寝姿って、何かに必死に耐えている様な感じがして。
それを見ていたら、僕自身、どうにも放って置けない気がして………
いえ、勿論、他意なんてありません。疚しい事なんて何もしていませんよ、神様に誓って！」
此方の剣幕に押されたらしく、ややシドロモドロに抗弁するシンジ。
その様子からして、本当に純粋な好意だったらしい。
それだけに、かなり凹む。なんかもう、コレまでの人生、根こそぎ否定された気分だ。
「それで、私を此処に運んだのは？」
「僕です」
「私のジャケットを脱がしてズボンのベルトを緩めたのは？」
「それも僕です」
「……………シンちゃんのエッチ♥」
「って、何ですソレ！ そんなの不可抗力って言うか仕方ない事じゃないですか。他にどうしろって言うんです」
「はいはい。大丈夫、そういう事にしといてあげるわよ。
私としても、シンちゃんを性犯罪者にはしたくないしね～」
「ミサトさ～ん（泣）」
取り敢えず、事の元凶をからかってみたら、それなりに気が晴れた。
復讐完了と言ったところだろうか？
「（フッ）復讐かあ」
自嘲の笑みと共に、後悔の念が浮かんでくる。
そう。シンジは自分を心配して側に居てくれたというのに、何とも恩知らずな話だ。
いや、翻って思い返せば、彼女（？）がまだ男の子だった頃から、自分は恩を仇で返すばかりだった様な気がする。
初対面からして、もう最悪な出会い方だった。
今思えば噴飯物な事ばかり。あの時は、自分が正しいと心底信じていたが、それだけに救いが無い。
互いの面子を掛けて決闘した事さえある。
それも、切欠はと言えば………嗚呼、穴があったら入りたい。
正直、シンジが自分に好意を抱く要素なんて、まるで思い付かない。
だと言うのに、今、自分達は、こうして曲りなりにも笑いあっている。
本当に、不思議な。そして、有難い縁だと思う。
まあ、彼女（？）にしてみれば迷惑な話なのだろうが…………
って、ヤバイ。私、今、かなり弱気になってる。
らしくない。自分はもっと我侭で、シンちゃんを振り回す役の筈なのに。
「ねえシンちゃん、私の昔話を聞いて貰えるかしら？」
内心で自分に気合を入れ直した後、ミサトは唐突に話を切り出し、
「はい？ えっと。それは構わないんですけど………僕は兎も角、ミサトさんはもう一度寝直した方が良いんじゃないですか？ まだ４時１５分ですし」
「良いから、良いから。チョっち早く起き過ぎたみたいだし、朝錬に出掛けるまでの暇潰しだと思ってさ。お願い」
「はあ」
この際だから迷惑ついでに。
ぶっちゃけて言えばそんなノリで、困惑するシンジを尻目に、ミサトは自分の身の上話を。
ある意味、そんな懺悔とも取れる事を語りだした。
「私の父はね。自分の研究だけが大事な、夢の中に生きる人だったわ。
家族の事なんて、まるで構ってくれなかった。
周りの人は、繊細な人だと言ってた。
でも、ホントは心の弱い。現実から。私達家族から逃げてばかりいた人だったのよ。
私は、そんな父を許せなかった。いっそ、憎んでさえいたわ」
幾分トーンの落ちた。淡々としていながら、後悔と自嘲とを感じさせる口調で切々と語るミサト。
俯いた。その常に無い雰囲気に戸惑いながらも、シンジは神妙な顔でそれを聞き入っている。
「母が父と別れると言った時、すぐに賛成したわ。だって、母は何時も泣いてたもの。
父はショックだったみたいだけど、その時は自業自得だと笑ったわ。
けど、最後は私の身代わりになって死んだの。セカンドインパクトの時にね。
その時から、私には判らなくなったわ。父が好きだったのか、それとも憎んでいたのかさえも」
「それって、羨ましいですね」
途中、シンジはポツリとそう呟いた。
ハッと顔を上げ、胸倉を掴んでその顔を睨み付けるミサト。
「…………あっ。ゴメン」
一瞬、カッとなったものの、すぐに自分を取り戻し、手を放して謝罪する。
自分から『暇潰し』とか言っておいて、求めるものとは別のリアクションが返って来たとたんコレだ。
多少はマシになったつもりでいたが、どうも自分は、出会ったばかりの頃と比べても大して変わっていないらしい。
だが、そんな自嘲の念を抱くミサトに向かって、
「いえ。僕の方こそ、話の腰を折ってしまって。
ただ、ミサトさんは、本当にお父さんが好きだったんだなって思ったら、つい。本当に済みません」
シンジもまた、己の非を謝罪した。
そう。先程のソレは、ミサトの感情を論ってのものではない。
彼女（？）的には、思わず出てしまった言葉であり、掛値無しの本音だった。
「父を好き？ 私が？」
予想外な言葉に面食らいつつ、そう聞き返すミサト。
その問いに対して、シンジは憧憬の篭った声音で、
「勿論です。だってミサトさんは、お父さんの仇を討つ為に１５年も頑張ってきたんでしょう？」
「残念だけど、貴女が思っているの様な美談じゃないわ。
確かに私は、父の復讐を熱望しているし、その為に努力してきたつもり。
でも、それは父の呪縛から逃れる為の逃避行動みたいなもの。過大評価しすぎよ」
「そうですか。では、確かに美談ではないのかも知れません。
でも、愛であれ憎しみであれ、一人の人の事を１５年も一途に思えるのって本当に凄い事だと思います。
だからこそ、僕はミサトさんが羨ましいんです。
僕は、父さんの事を何も知らないから。愛憎のどちらも碌に抱けないから」
そう言って、自嘲の笑みを浮かべるシンジに、ミサトは返す言葉を失う。
そう。言われてみれば、１０年前。当時４歳の男の子だった彼女は、とある教諭に預けられたきり、碌に父である碇司令と会っていない。
親子の対面は年に一度。それも三年前から断絶状態となり、使徒戦の折に漸く出会ったと思ったら、そのまま父親は失踪する事に。
これでは、下手をすれば顔も良く思い出せないという可能性すらある。
愛の裏返しは憎しみではなく無関心と言うが、ある意味コレは、その典型的なケースとも言えるだろう。
碇指令の方は自業自得としか言いようが無いが、シンジにしてみれば不憫な話だ。
それと無く母親についても聞いてみたら、此方は本当に顔も知らないとの事。
『写真は？』と聞いたら、これがおもいっきり地雷。
何でも、碇司令が総ての遺品を処分したとかで、写真一枚残っていないんだとか。
『すべては心の中にある。今は、それで良い』と言うのが、その暴挙の理由らしいが、子供にしてみれば堪ったもんじゃないだろう。
正直、慰めの言葉が見付からない。
此処まで来ると、愛憎云々を論じるより先に、只々呆れるしかないエピソードである。
「あ…あの～、シンちゃん。私、思うんだけど………」
それでも、何とかをフォローのセリフを捻り出そうとするミサト。
だが、その時、ドアを蹴破らんばかりの勢いで、
「（バタン）ごきげんよう、葛城さん、シンジ君」
零れんばかりの微笑みを浮かべつつ、マーベリック社の女性用制服を着込んだカヲリが来訪。
そして彼女は、普段の優雅な仕種とは似て非なる。穏やかでありながら有無を言わせぬ迫力を感じさせる声音で、
「さあシンジ君、朝錬の時間ですわよ。
本日は、此処マーベリック社より現地への集合。早めにお出かけになった方が良いってことね」
「あっ。そうか」
そんな常ならぬ空気を纏ったカヲリの態度に戸惑う事無く、いかにもイージミスをしたかの様な感じでそう呟いた後、シンジはモーニンングコールの礼を。
そして、二人に別れの挨拶を言って出て行った。
だが、残されたミサトにしてみれば、事態は彼女の認識の様に生温いものでは無かった。
「少々宜しいでしょうか、葛城さん？」
と、ドアの方を向いたまま。
シンジの足音が遠ざかるのを確認した後、徐に話しを切りだし、
「私、貴女を信じても構わないのですわよね？」
振り返ると同時に、満面の微笑を浮かべつつ、カヲリはそんな事を問うてきた。
「も…勿論です」
『何を？』等と問い返す事無く、ミサトはガクガクと頷いた。
そう。カヲリの話は、その内容こそ質問だったが、実際は只の確認だった。
もしも否定なんてしたら最後……………嗚呼、考えたくも無い！
「有難う御座います」
そう言って優雅に会釈するカヲリ。
だが、それが返って恐怖を助長させてくれる。
正直、お礼を言われている気なんてまるでしない。
これならまだ、『約束ですわよ。破棄なさったら、どうなるかは判ってますわよね？』といった風に直接脅された方がナンボかマシだろう。
いままで薄々察してはいたが、事此処に至って確信する。
この娘は見た目通りの人間じゃない。ある種の化け物だと。
ぶっちゃけ、ミサトはカヲリの笑顔に完全にビビっていた。
「（フ～）やれやれ、酷い目にあったわね」
更に二～三言、遠回しに釘を刺して。
数分後、漸く出て行ってくれたカヲリの後ろ姿を見送りながら、盛大に溜息を吐く。
改めて回りを見回せば、パッと見は似ているが何時もと違う部屋（流石に影護家の客間に私物を揃える度胸は無いのでレイアウトが似ていると区別がつけ難い）だった。
此処は多分、仮眠室か何かなのだろう。
つまり、昨日からずっと、マーベリック社にお泊りしていた訳である。
「まあ、シンちゃんが私を担いで家まで帰れる訳無いか。何せ、今じゃ女の子だし」
ベットのすぐ傍の衣紋掛けに掛っていた、いつもの紅いジャケット。
そのポケットに入っていたロザリオを玩びながらそう語散るミサト。
手の中のそれは、少しだけ軽くなった気がした。
「このカリは、何としても返さなきゃね～」
と、語調こそ普段と変わらぬ軽いものだったが、その言葉には確かな決意が篭められていた。
そう。傍から見ればどれほどチャランポランに見えても、事が自分のアイデンティに関わる時は、何があろうと梃子でも動かない。それが葛城ミサトという人間なのだ。
「さ～て。一丁、寝直しますか」
らしくない事をした照れ隠しからか、誰も居ないのにそんな事を宣まいながら、彼女は再び床に就いた。
「（スゥ、スゥ）」
その後、何故か自分が第一中学校で教師をしている夢を見た。
しかも、教え子のシンジが恋人という、展開こそベタだが、ある意味ニューウェーブな内容だった。
再び目覚めた後、身に付けたロザリオが別の意味で少しだけ重くなった様な気がしたが、それはミサトだけの秘密である。
～ ５時間後。ネルフ発令所 ～
中央の大型モニターに映る光景を前に、その場に居合わせた者達の上を重苦しい沈黙が包んでいる。
それは、衛生軌道上を撮影したもの。
背景は一面漆黒の闇。画面端の下の方には青と白のアーチ。
そして メインの被写体として、画面の中央にオレンジ色の物体が。
歪なタペストリーに見えなくも無い薄っぺらなものが映っていた。
だがそれは、あくまでロングで見た場合。
アップで見たそれは、グロテスクともユーモラスともとれる、兎に角、異様な外観のもの。
中央にある円形部から、左右に長い腕の様なものを伸ばした格好で、その両腕の先は三本の指に別れている。
そして、中央の円形部にも、宗教画を思わせるシンボリックな目の模様が。
何と言うか、本物と違って模倣した物が特定し難い、ナスカの地上絵の抽象画版といった感じのものだった。
「５分前に、突然、インド洋上空の衛星軌道上に出現しました」
オペレーター席の青葉シゲルが、厳しい表情で報告する。
観測所から遠すぎる為パターン認識はいまだ確認されていないが、おそらくは第１０使徒だろう。
と言うか、それ以外の物だなんて色んな意味で認めたく無い。
「あちゃ～、なんちゅうセンス。常識を疑うわね～」
「ええ。夢に見そうね」
眉を顰めつつ呆れるミサトに、リツコが同意する。
と、その時、目標が赤く光ったと同時に、唐突に映像が途切れた。
「今の、ＡＴフィールド！？」
一瞬だけ見えた紅い光りから使徒の攻撃を推察。
と同時に、戦慄と共に激しい憤りを感じるミサト。
何しろアレは、アスカと組んで以来の自分の必殺技の亜流。
ホーミング・ショット（例のソニック・グレイブの投擲技）がＡＴＣ（ＡＴフィールド・コーテイング）で得物を強化して投擲する技なのに対し、
此方は、ＡＴフィールドそのものを武器として打ち出しているの技（？）と思われるもの。
正直、先を越された事が。より正確には、日の目を見る事無くボツになった新必殺技を敵に実現された事が悔しくて仕方が無い。
そう。実を言うと、ミサトは以前、シミュレーションでの訓練中に似た様な事を。
某霊界探偵が活躍する漫画からヒントを得て、指鉄砲のポーズからＡＴフィールドを打ち出そうとしたのだが、そこまで一点集中出来ず、途中で制御をミスって暴走させた事が。
それでも『あんたバカァ！ 唐突にナニやってんのよ』とブーたれるアスカを宥め賺して再チャレンジ。
彼女の制御で、初号機の右手の中に相対的には野球ボール位の大きさのＡＴＣのボールを作って『ジャン○ン・パー！』とばかりに打ち出してみた事があったりする。
だが、依り代無しにＡＴＣの一点集中を行なう事と、それを高速で飛ばす事に制御力の大半を継ぎ込んでいる所為か、その威力は至ってショボイものだったのだ。
「再観測に入ります。別衛星よりデータ電送開始」
そんなシゲルの報告に思考の海から呼び戻されると、目の前のモニターには、先程の衛星が押し潰される様に圧壊していく姿が。
そして、そのままＡＴＣのオーラ弾（？）は、成層圏を突き破って地表へと落下してゆく。
これで疑惑は確信に代わった。アレは、自分が作ろうとした新必殺技の完成形に近いものだと。
『しゃらくさい』と口の中だけで呟き、改めて画面に注目する。
そう。今はまだ情報収集の段階。クールに徹しなくてはならない。
作戦部長の顔をしつつ、そう己に言い聞かせるミサトだった。
「使徒から打ち出されたＡＴフィールドは大気圏を通過して一弾目はこの地点。次に放たれた二弾目は、この地点に着弾しています」
世界図の縮尺を適切なものに変えながら、マヤが画面上の着弾位置にマーキングを入れながら説明を。
確認すると、幸いな事に２発とも太平洋上だった。
「しかし、よく燃え尽きないものね」
「当然でしょ。アレはＡＴフィールドなのよ」
画面上の。太平洋上の波紋マークを見詰めながらリツコが呟いた感歎にミサトが応える。
「なるほど。ＡＴＣが空気摩擦を防ぐのと同様に、アレは大気圏突入時の衝撃とその摩擦熱をも防いでいる訳ね」
親友の端的な説明に補足を入れつつ納得するリツコ。
と、その時、三弾目が発射され伊豆半島沖に着弾。
その後、第１０使徒、はゆっくりと衛星軌道上を移動し始めた。
「どうやら使徒は、落下物がどこに落ちるかのデータを分析していた様ね」
「つまり、次は本命が来るってことね」
リツコの分析に、ミサトの頭に最悪のシナリオが描かれる。
敵の狙いはＮＥＲＶ本部への絨毯爆撃。
それも、第三新東京市ごと全てを破壊する有無を言わさぬ圧倒的なものとなるだろう。
おまけに、相手は遠いお空の彼方。
気分はもう、竹ヤリでＢ２９と戦う旧日本兵と言った所か。
「こりゃあ、第四芦ノ湖が誕生しそうね」
珍しく、悲観的とも取れる戦況予測をしつつ、自嘲の笑みと共にそんな軽口を。
だが、それさえも『まだまだ甘っちょろい』と言わんばかりに、更なる兇報が。
「って、なんじゃそりゃあ！！」
最後に画面に出てきたレポート風に纏められた使徒の諸元データを前に、思わずそう絶叫するミサトだった。