〜 5時間後 再びロ・カニーナの提督室 〜

   ポロン、ポロン、ポロン、ポロロロロ〜〜〜ン

荘厳なメロディーと共に、葛城ミサトの掲げた『虹の雫』から七色の光が溢れ出し、それが徐々に物質化。
BGMの終了にと同時に、向こう岸の小島へとの掛け橋となった。
それを見届けた後、その橋を渡って最終決戦の地へ。
霧の中に静かに佇む魔王の城へと突き進む、勇者御一行様。

『(ハア〜)長かったですねえ』

城内への突入を前に、溜息と共にポツリとそう呟くSDホシノ君。
惜しむらくは、この場合に求められるソレとはニュアンスの異なる口調だった事。
そう。それは、これまでの旅の軌跡を振り返っての感慨からのものでは無く、呆れ顔で語られた、単なる事実の指摘でしかなかった。

『って、ナニ言っちゃってるのよ、ルリっち。
 初代ドラ○エでさえ、クリアするのには最短でも20時間近く掛かるのよ。
 これくらいは仕方ないって言うか、寧ろ超早いって感じじゃない』

『それは、まともにプレイした場合です。
 最初からレベル99で。しかも、ほとんどのフラグ立てと必須アイテムの回収が終っている状態から此処まで来るのに7時間以上も掛かるなんて………(ホロリ)』

『何も泣かなくたって。
 ってゆ〜か、私の所為? 私の所為だって言うの?』

ゲーム開始以来、ずっと自分の左肩に鎮座しているル○スの聖霊ならぬ電子の妖精に向かって。
芸も細かく、ハラハラと流れ落ちる涙をそっとハンカチで拭うSDホシノ君にバツの悪そうな顔でそう突っ込む葛城ミサト。

その姿に、思わず胸を撫で下ろす。『良かった、自覚はあったんだ』と。
いやなにせ、黙って進めば良いだけの道程だって言うのに、ど〜でも良い所で、



【レーベの民家】

   ガサゴソ、ガサゴソ………

『って、のっけからナニやってんのよ、ミサト』

『や〜ねえ、アスカったら。そんな決まってるじゃない。タンスや壷の中にあるレアアイテムや小さなメダルを探してるのよ。基本でしょ、基本』

『初っ端の村からそんなんあるか〜! てゆ〜か、その手のものなら全部カヲリん所に揃ってんでしょうが!』

『(チッチッチッ)ソレはソレ、コレはコレよ。いや〜、子供の頃にCMで見て以来、ずっとやってみたかったのよね、コレってば』

『って、いい加減にしろ〜〜〜っ!!』

ちなみに、無駄にリアル志向(?)なこのゲームでは、これは只の泥棒行為である。
そんな訳で、葛城ミサトが民家に与えた被害は、後でマーベリック社が充分な補填する事で示談に持ち込んだらしい。
(コホン)言うまでもないとは思うが、良い子は真似しちゃ駄目だぞ。



【ロマリアの武器屋の地下、モンスター格闘技場】

『勝者、スラ○ムA!』

『おしゃあっ! 来たキタきた、北○府213勝! 万馬券(?)ゲッチュよ!』

『ああもう。一体いつまで遊んでいる気よ、アンタは! ってゆ〜か、いい加減アレを止めなさよ、シンジ!』

『ゴメン、アスカ。でも、此処は飽きるまでやらせてあげて。
 ほら、ギャンブルでミサトさんがこんなに勝てる機会なんて、これが最初で最後かもしれないし』

ううっ。君ってばホンに良い子だね、シンジ君
オジサン、チョッと貰い泣きしちゃったよ。
今頃、きっと全米も泣いている事だろう。何せ全世界放送だし。



【ポルトガの近海】

  ザザ〜ン、ザザ〜ン………

『うげ〜っ、ぎぼじわる〜ぃ』

『シッカリして下さい葛城さん。
 え〜と、え〜と………キアリー!(毒消しの呪文)&キアリク!(麻痺解除の呪文)&ベホマ!(体力が最大値まで回復する呪文)どうです、治りましたか?」

『(グエッ)全然だ〜め〜(ウップ)つ〜か、どうして私が船酔いなんかに。
 士官学校時代なんて、(オエッ)ぶっつけ本番で小型舟艇を操っての海戦&強襲上陸訓練を受けてもヘッチャラだったのに〜』

『帆船は現代の船舶と違って激しく揺れる所為。
 そして、葛城三佐………いえ、勇者ミサトの三半規管は主観的に鍛えられたものだからだと推察します』

『って、レイ?(ウェッ)ナニよソレ?』

『えっと。この間、検証番組でやってたんですよ。
 ほら、車酔いをしやすい人でも、自分が運転する車では酔わないって言うでしょう?
 あれは、実際に身体が揺れる前に『これから揺れるぞ』と判る御蔭で、無意識の内に身体がそれに対する対応を取る事が出来るからなんだそうです。
 実際、番組内の検証実験によると、プロのレーサでも後部座席に乗った状態で激しく揺らされると簡単に車酔いに………』

『(グェッ)判った。判ったから、そんな小難しい話はもう止めてよシンちゃん。(ウップ)酔いが…酔いが悪化する〜(泣)』

と、葛城ミサトの思わぬ弱点が発覚した所為で、一行の旅路は陸路が主に。
ぶっちゃけて言えば、遠回りな道程に。



【レイアムランドのほこら】

『私達』『私達』
『この日をどんなに』『この日をどんなに』
『待ち望んでいたことでしょう』『待ち望んでいたことでしょう』

『あっ、ザ・ピー○ッツ』

『『モ○ラ〜ヤ モス○〜 ドゥンガン カサクヤン インドゥムゥ ルスト ウィラードア〜』』

と、意外にもお茶目な性格だったらしく、葛城ミサトのネタ振りに乗せられモ○ラの歌を口ずさみつつ誕生の舞を踊りだす双子の巫女達。
だが、彼女達はプロだった。

『さあ、祈りましょう』『さあ、祈りましょう』
『時は来たれり』『今こそ、目覚める時』
『大空はお前のもの!』『舞い上がれ、空高く!』

一通りの小美人ネタをこなすと、何事も無かったかの様に儀式を続行。
そして、ラー○アの復活を確認した後、二人は徐に、

『伝説の不死鳥ラー○アは蘇りました。
 ラー○アは神の下僕。心正しき者だけがその背に乗れるそうです』

と、さり気無く勇者をアウトオブ眼中しつつ、武闘家にそう告げた。
肝心の相手が条件に叶いそうも無かったので、他の見込みのありそうな人物に下駄を預けた訳である。
実際、かの不死鳥は、シンジ君の命令しか聞かなかった。



【竜の女王の城、謁見の間】

『つ〜ワケでオバちゃん、光の玉をちょ〜だい』

『……………本当にコレが勇者かえ。遊び人の間違いではないのかえ』

『気持は判るわクイーンドラゴン。
 でも、悲しいけどコレが現実なのよ。ナンてゆ〜か、アレにバニーガール姿でうろつかれるよりはマシだと思って諦めて』

『なるほどのう』

かくて、ギャラリーとゲームキャラの枠組みを越え、稀有な深さで判りあう竜の女王とアスカちゃん。



  〜 再び、ロサ・カニーナ提督室 〜

そんな、原典を無視して涙と笑いに満ちた旅路も漸くラストに。
大魔王の居る最深部に向かって突き進むだけ…………

『ちょ〜っと待ったぁ!』

   ガシャ〜〜ン

と、胸中で述懐して俺に………じゃなくて、順調に地下道を進み続け大広間っぽい所へ出ようとしていた勇者御一行様に、チョッと待ったコールが。
それと同時に、先行していたシンジ君と、その後ろをいかにもダルそうに歩いていた葛城ミサトとを隔てる形で鉄格子が打ち下ろされ、

『此処から先に進みたければ、このカン○ダ様を倒してからにするんだな!』

そんな口上を宣いつつ、上半身は裸のクセに顔がスッポリ隠れる拘束服の付属品の様なマスクに、馬鹿デカイ黒いマントを身に纏った。
色んな意味で見るからにヤバそうな、身の丈2mはありそうなマッチョな大男が現れた。
正に、満を持しての登場といった風体だった。
だが、それを見詰めるギャラリーの目はかなり冷めていた。

『わ〜、生マッ○ョだ。私、何気に初めて見ちゃった』

『そうですね〜 北斗先生も筋肉質ではありますが、ナチュラルで無駄が無いって言うか。
 ああいう『モリッ』っいう人工っぽいものじゃなくて、もっとシャープで野性的な感じですし』

『上半身ハダカ。装備と呼べそうな物は斧だけ。そう、貴方、貧乏なのね』

『って、仲間が一人分断されて俺様の前に居るってのに、何だよそのリアクションは!
 特にそこの魔法使い! 俺様は貧乏じゃねえ! この格好はポリシーを持ってやってるんだよ!』

葛城ミサト達のあまりの物言いに、思わず喚き散すマッチョな大男。
そして、チョッと期待に満ちた目で、シンジ君に視線を移す。
だが、四人の中では最もその手の機微を知る彼女をして、

『あの。要するに、コレって『一対一で戦え』って事ですよね?』

「そ…その通り! お前等の退路を絶ったも、中ボスを倒したら即効で最寄の村まで帰ってセーブ&リフレッシュ。
 その後、ベストの状態で再進軍する等と言った、この手のゲーム特有の無粋な戦術を封じる為だ!』

『判りました。それじゃ、早速始めましょうか。時間も押している事ですし』

と、熱意の欠片も無い状態だった。

(畜生、ナニがいけないってんだ。俺様はチャンと作法を守って、古式ゆかしい正統派の悪役ってヤツをヤってる筈なのに。
 嗚呼。思えばあの時、絶好のカモだと思って襲った金髪のネーチャンの護衛に。
 あの七三髪のオッサンにボロ負けしちまったのがケチの付き始めだったよな〜
 御蔭で、その治療費になけなしの稼ぎをハタく事になって、子分達への給料の支払いが滞る事に。
 止めとばかりに、ほうほうの態で漸くアジトに帰ってみれば、金の成る木が。虎の子の人質達が奪還されていて。
 しかも、目ぼしいお宝までがゴッソリ持っていかれていたもんだから、『もう親分にはついていきけません』とばかりに子分A・B・Cにも逃げられるし………)

何やら色々とトラウマがあったらしく、唐突に往年のシンジ君っぽくブツブツと呟きながらイジケル、マッチョな大男。
無論、その姿は全く可愛くない。正直、ひたすら鬱陶しい。
そして、そんな醜態が3分程も続いただろうか?

『そうだよ! 兎に角、この勝負に勝たねえ事には、俺様は前に進めねえんだよ!
 つ〜ワケで、ヤるぜ嬢ちゃん! まあ、殺しはしねえが、色々とチョッとは覚悟しときな!』

誰もフォローはしなかったにも関わらず、唐突に自力で復活を。
そのまま、人差し指でビシッとシンジ君を指差しつつ、テンションも高く鬨の声を上げる。
正統派を自認しているだけあって、中々堂にいった悪漢振りである。
だが、彼の見せ場は此処までだった。

『その『嬢ちゃん』は止めてくれませんか。僕は男ですよ』

『な、何だって!? 絶望した! 昨今の性の乱れに絶望した! 臆面も無くチャイナ服を着る女装少年に絶望した!』

『僕だって………僕だって好きで着ている訳じゃあないよ!』

  バキッ、ドス、ボコ、ガキッ………

かくて、只でさえ彼我の戦力差は大きかったというのに、それにチャージを掛ける形で。
初代ストUのザン○エフVS春○戦よりも一方的な展開で勝敗は決した。
そう。元ネタのド○クエVではイラナイ職業という感のある武道家ではあるが、本ゲームではさにあらず。
アクションRPG風にモデルチェンジされている為、北斗に師事する事によって身に付けたその武術の技は、それだけで大きな武器となるのだ。
おまけに、彼女はMAXレベル。最大の弱点である攻撃力の低さもクリア済みな、正に無敵キャラなのである。

『ぜ…絶望した。RPG特有の高レベル化による強さのインフレ現象に絶望した。(ガクッ)』

第一の門の番人、カン○ダ。チョッピリ羅刹モードに入った碇シンジにタコ殴りにされ再起不能(リタイヤ)。



再び地下道を突き進む勇者御一行。
そして、先程の中ボスバトルから5分も経った頃だろうか。
葛城ミサトが唐突に、

『そう言えば(カチャ)何気に私、まだ一辺も戦っていないってゆ〜か、実は呪文すら唱えていないわね〜』

と、いまだ新品状態の王者の剣を玩びながら呟いた。
何時もながら、イラン所だけ気の回る女だ。

『そうですねえ。お姉さまが持たせて下さったこの超聖水(モンスター避けの聖水を『これでもか』ってくらい濃縮したマーベリック社謹製のオリジナルアイテム)
 の御蔭で、ほとんど敵に会いませんでしたし。
 と言いますか、まともな戦闘と言えば先程の様な中ボス戦だけですので、これは当然の成り行きかと』

そんな困ったチャンをあやす様に、四次元ポシェットから現物を取り出して見せながら状況説明をしてみせる僧侶役のマユミちゃん。
本来ならば、これはカヲリ君かアスカちゃんが勤めるべきポジションなのだが、件の二人には別件でやらねばならない事があったので。
また、当のカヲリ君の推挙もあっての抜擢だったが、見事にこの大役をこなしてくれている。
ちなみに、『格闘戦が前提なんだから、使徒娘の誰かの方が良いじゃんか』と思ったキミは、まだまだ甘い。
戦闘力の高い彼女達の参戦は、必然的にシンジ君が矢面に立つ機会を減らす結果となる。
それでは、わざわざチルドレン達を非常招集して、このゲームを始めた意味が無い。

『あっ、そうか。そう言えば、偶に出てきたザコ敵は、初手でレイがイオナズン(総ての敵にダメージを与える爆発系の最強呪文)を撃って終わりだったわね〜』

『ええ。しかも、このゲームのルールですと同士討ちになる可能性が少なくありませんので、
 中ボス戦の類は、先程の様にシンジさんに任せきりした方が効率が良いですし』

そう。実は、このゲームの主目的は、パルタザールの開放などではない。
そんな事は、ホシノ君がその気になれば何時でも可能。寧ろ、只の御題目でしかない。
真の目的は、シンジ君に自信を付けさせる事。
平たく言えば、かませ犬を相手に経験値稼ぎ(?)をさせる為のシュミレーションバトルだったりするのだ。
ちなみに、北斗にこの話しを持ちかけた時には、もうおもいっきり呆れられた。
彼に言わせれば、これはシュミレーションでデータ上のアキトを倒すよりも意味の無い。
戦闘経験と呼ぶのもおこがましいものでしかないらしい。
とは言え、その只のデータにすぎないアキトにさえ、サシで勝った事があるのは当の本人達。アキトと北斗の二人だけ。
その事実を鑑みれば、これはあくまで○馬○次郎的な強者の論理と言えよう。
実際、以前一回だけヤマダとアマノ君と御剣君の三人組が大まぐれで勝った事があるのだが、
その時の彼等の喜び様を考えれば、それまで出来なかった事が出来る様になる達成感を感じる事は、決して無意味な錯覚ではないと俺は思っている。

   ガシャ〜〜ン

とか言ってる間に、再び鉄格子が。
上記の様な理由から、接近戦に持ち込むのが難しい火炎の息を主武器とするキング○ドラや、
激しい炎とイオナズンを使うバラ○スブロスを避けた結果、中ボスの二番手にバラ○スゾンビが登場。
再び、これを単独で迎え撃つシンジ君。
だが、此処で計算外な事態が。此方の注文通り単純な力押ししかしてこない敵の筈が、ゲームにあるまじき意外な攻撃をしてきたのだ。

   ベチャ、グチャ、グチョッ

『い、嫌やああああああ〜〜っ!』

腐った身体のバラ○スゾンビをレベルMAXに強化された拳で殴った所為で、腐った肉片や腐汁が勢い良く飛散。
拳が届く至近距離だった事もあって、シンジ君もそれをまともに被る事に。
このエガンチョな攻撃には、流石の彼女も堪らずパニック状態に。
もはや戦うどころではなく、ホラー映画のヒロインっぽく身も世もなく泣き叫びつつ逃げ出す結果となった。

碇シンジ戦闘不能(リタイヤ)。OK、新たなトラウマをゲット。流石だな彼女は。



『で、ホントに私で良いの?』

二番手として登場したレイちゃんが、小首を傾げながらそう尋ねる。
それに対して画面越しに。彼女に必勝の策を授けたアスカちゃんが、

『他に人、居ないじゃない』

『また『えげつない』とか『空気読めてない』とか言わない?』

『言わない、言わない』

そんなこんなで話は纏まり、いよいよ戦闘再開。
先程の戦闘の焼き直しの様な形で突進してきたバラ○スゾンビに対し、

『メ・ラ・ゾ・ー・マ(敵一体にダメージを与える、火炎系の最強攻撃呪文)』

それを許す事無く、レイちゃんは遠距離攻撃による殲滅戦を。
元はミルクちゃん用に用意された裏技を利用した某漫画のオリジナル魔法『フィンガー・フレア・ボムズ(五指爆炎弾) 』によって、一気に勝負を決めに出た。

こうなると先程のリアル系な設定が裏目に出る。
身体が腐敗している以上、当然ながらメタンガス等が発生している訳で、その所為で普通ならボス系の敵には効き難い呪文攻撃が効果抜群。ぶっちゃけ、兎に角良く燃える。
そして、先程のシンジ君の猛攻によって1/3程HPを削られていた事もあって、

『メ・ラ・ゾ・ー・マ』『メ・ラ・ゾ・ー・マ』

駄目押しの2連発。
通常のメラゾーマの10発分の豪火によって勝敗は決した。

第二の門の番人 バラ○スゾンビ、再起不能(リタイヤ)。何気に火葬して貰った形に。



『アスカ、矢張りこの作戦には無理があったわ』

『えっ? どうして? 計算通り上手くいったって言うか、もう圧勝したじゃない』

『ええ。でも、後が続かなくなったわ』

綾波レイ、MP切れで戦闘不能(リタイヤ)。正に魔法使いの御約束。



『(エグッエグッ)逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ(グスッ)………』

『もう、そんな泣かないでよシンちゃん。確かにチョっち災難だったけど、幸いゲーム上のコトだし。
 ナンてゆ〜かその、コレはコレで需要があるって言うか、別のファンが付くかも知れないし。その…元気出してってば」

虚ろな涙目で定番の繰言を呟くシンジ君の手を引きつつ、先を急ぐ勇者御一行。
また葛城ミサトが訳の判らない理屈を捏ね回しているが、この辺はもう慣れたと言うか、同行しているレイちゃんとマユミちゃんを習って頭からスルーする。

それにしても、コイツは判っているんだろうか?
今や自軍の戦力が、半減どころか1/4以下に落ち込んでいるって事が。
(ハア〜)判ってないんだろうなあ、きっと。
まあ、ソレはソレとして、

「さっきのはチョとマズイんじゃないのかい?」

『はい。彼女の師匠より『調子に乗せ過ぎだ』との抗議メールが来たので、チョッと難易度を上げる様に指示したのが裏目に出てしまった様ですね』

やれやれ、クロスプレーの錯綜による只の偶然か。
どんだけ運が無いんだか、あの子は。

『とは言え、その方法が不適切過ぎたと言いますか、年頃の少女に対してアレは無いですよね、普通。後で良く叱っておきますね』

「いや、それには及ばんよ。
 アクレッシブに攻めた所為で起こったアクシデントにケチを付けても仕方無いって言うか、
 北斗じゃないが、アレをモロに被ってしまったのは、シンジ君に油断があったからだし。
 それに、結果こそ散々だったが、客観的に見ればさっきのギミックは、彼女の攻撃の鈍化を狙っての良く考えられた妙手だったと思うぞ。
 失敗は成功のモトって言うか、寧ろ俺的には、次の敵とラストのオチに期待といった所だな」

『はあ、判りました』

僅かに口を尖らせつつも、俺のフォローを受諾するホシノ君。
オシオキの大義名分を失い、チョッと不満と言った所だろうか? 矢張り、この娘はSっぽい。
テレサ君も大変だな。何せ、ある意味、ハーリー君の後釜とも言うべき立場だし。

   ガシャ〜〜ン

とか言っている間に再び鉄格子が締り、三番手のマユミちゃんがエントリーする形で最後の中ボス戦が始まった。
まいったな。出来ればシンジ君の復活まで待って欲しい所だったが。
此処で全滅となると、また中ボス戦がやり直しになって、放送時間がエライ事に………

   ピョン、ピョン、ピョン、ピョン、ピョン、ピョン………

と、困惑する俺を尻目に、第三の中ボスとして、何故か数十体のメタルス○イムが登場。
そのまま、反対側の出口へと集合。組体操のピラミッドの要領で、下の者を土台としてよじ登り、全員が一個の集団と化した所で激しく発光。
そして、その光の中から、出口を完全に塞ぐ形で超巨大なス○イムが。

『わはははははっ!
 我こそは35身合体ゴッドメタル! このメタリックボディの輝きを恐れぬなら、かかって来い!』

本来ならば次作品のモンスター………いや、それにヒントを得ただけの、全く別のナニかが現れた。

『バギクロス。(敵の一グループにダメージを与える真空波系の最強攻撃呪文)』

その異様な光景に頓着する事無く、先制攻撃を仕掛けるマユミちゃん。
だが、僧侶最強のその攻撃呪文も敵の絶対防壁の前に虚しく弾かれ、1Pのダメージも与えられない。

『無駄無駄無駄〜〜〜っ! 我が流体金属の前には呪文など無効。物理攻撃も無効。正にパーフエクトな絶対防壁よ!』

『これでもか』ってくらい勝ち誇るゴッドメタル。
だが、その高飛車な態度とは裏腹に、反対側の出口の前に陣取ったまま一歩も動こうとしない。
ぶっちゃけ、全く攻撃に出ようとしないその態度は余りに不自然だ。
大方、オリジナル以上に防御に特化したタイプ。
大口を叩いて攻撃を誘い、敵が打ち疲れた所を狙うファイトスタイルなのだろう。

『………なるほど。貴方のキャラの方向性は良く判りました』

どうやら俺と同じ結論に達したらしく、静かにそう呟くマユミちゃん。
そして、そのまま四次元ポシェットより細長い筒状の物を取り出す………って、ゲームの世界観を無視して、そんなモンまで持ち込んでたんかい、カヲリ君は。
そりゃまあ、こういう相手にはもってこいの武器なんだけどさあ。
『この条件下でどうやって倒すか?』ってのをアレコレ考えていたオジサン、馬鹿みたいじゃんか。
つ〜か、やっぱ頭が固くなってるのかなあ、俺?

   ドシュ!

と、俺が内心で苦笑している間に勝敗は決した。
マユミちゃんの担いだ細い筒状の兵器。
とっくにAT-4やドラゴンが開発された2015年でさえ、その手軽さが受けて今日でも現役に留まっている名作対戦車榴弾。
M72 LAW(軽量&コンパクトな使い捨ての対戦車ロケットランチャー)より発射された66oHEAT(成形炸薬弾)がゴッドメタルにヒット。
モンロー効果(薄い金属の内張りを用いてスリバチ状に成形した炸薬を爆発させると、その上方に向かって超高速の金属噴流が発生し、中央部の目標に深い穿孔がうがたれる現象)
によって、通常であれば1P均一になるダメージ設定を無視して、そのメタルボディを貫通。

『ギャアアアアッ!』

かくて、中心部のコアを破壊され、断末魔の絶叫を残してドロリとした只の流体金属と化してゆくゴットメタル。

『って、ズッコイわよマユミちゃん。
 そ〜ゆのだったら、私の方がずっと得意なのに〜!』

『(フフッ)早い者勝ちですよ、葛城さん』

第三の門の番人、ゴッドメタル。ある意味、最も理不尽な形で再起不能(リタイヤ)。



そんなこんなで、いよいよ最終決戦。
その舞台となる、最深部にある城の謁見の間。
そこで勇者御一行を待っていたラスボスは、大魔王ゾー○ではなく、編み笠を目深に被り右手に錫杖持った、爬虫類顔のあの男。

『(シャリン)一夜にて天津国まで伸び行くは、瓢(ひさご)の如き宇宙の螺旋』

って、そう来るかい。
とゆ〜か、ドコにあった、そんなデータ?

「アレ、実は見せ掛けだけで、実際には激ヨワってオチじゃないよな?」

あまりと言えばあんまりな展開に、恐る恐るホシノ君に確認を取る。
返って来た答えは無情なものだった。

『はい。ブーステッドマン化する前の。
 大戦中、ナデシコに侵入してきた当時の北辰の戦闘データをそのまま流用しているみたいです』

「勝てると思うかい?」

『まあ、あのゲーム内での戦力ならば、勝算ゼロと言う程では無いでしょうね、一応は。
 少なくとも、葛城三佐が立てる作戦の成功率よりは可能性があるんじゃないでしょうか』

(ハア〜)素直に『無理』って言おうよ、ホシノ君。
いやそれ以前に、この状況で何でそんなに冷静なんだよ、君は?

『大丈夫です。テレサのチョイスに、提督は随分と期待なさっていたみたいでしたので、先に告げるのも無粋かと思い伏せていましたが、コレは最初から予定されていた事。
 逆転の一手は、最初から勇者様に持たせてありますので御心配無く』

困惑する俺の内心を見透かした様に、いつものポーカフェイスのままそう請け負う、ホシノ君。
それを信じて、圧倒的に不利なこのラストバトルの推移を黙って見守る事にする。

『(フッ)遅かりし冒険者達よ。未熟者めが、救出すべき女性(にょしょう)の前で死ぬか?』

画面内では、丁度、北辰サイドの口上が終わり、戦端が開かれた所だった。

『滅!(シャリン)』

鋭い踏み込みと同時に、北辰の錫杖が振り下ろされる。
それを間一髪回避するシンジ君。ゲーム補正が付いているとは言え、大したもんである。
だが、それだけに両者の間に横たわる圧倒的なまでの実力差を肌で感じたらしく、彼女の顔が驚愕と絶望に染まってゆく。

『ほう、我が初手を避けたか。小娘にしては感心な技量よな。
 だが、こうも容易く戦意が折れるのは頂けぬのう』

爬虫類的な薄笑いを浮かべつつ、既に真っ青な顔となっているシンジ君を嬲る北辰。
他の三人など眼中に無い? いや、奴さんの性格からして………

『まあ良い。小娘よ、死にたくなくばコレも上手く避けてみせい。
 木連式杖術、双蛇。滅!(シャリン)』

気合一閃。北辰は、錫杖の柄の方にて横薙ぎの一撃を。
その切っ先をバックステップでどうにか回避するシンジ君。
だが、錫杖はそのまま振り切られる事無く、彼女の正面の位置で静止し、

  ドスッ

そのまま、後方への突きへと転じた。
その不意打ちの。槍の切っ先と化した錫杖の一撃を受け、

『きゃあああっ!』

一拍遅れて、漸く自分が致命的な攻撃を受けた事に気付き絶叫を。
そのまま、ポリゴンの粒子となって消えてゆくマユミちゃん。

『(クックックッ)怖かろう、恐ろしかろう。
 たとえ鎧をその身に纏おうとも、汝の心の弱さまでは守れないのだ!』

矢張りそう来たか。
獲物と認定したシンジ君を、最後に取って置くハラ。
しかも、彼女への攻撃と見せて、回復役であるマユミちゃんを真っ先に潰す辺り、流石の狡猾さだ。
だが、そんな北辰の口上の隙を突いて、

『ピオリム。(仲間の素早さを上げる呪文)』

攻撃呪文は無意味と。
そして、もはや自分レベルでは足手纏いと悟ったらしく、少しでもシンジ君の回避力を上げるべく、レイちゃんが最後のMPで補助魔法を。

『小賢しや。滅!(シュッ)』

その、良く言えば健気な。悪く言えば、最後っ屁とも言うべき支援がカンに触ったらしく、苛立たしげに懐から取り出した鶴嘴千本を投げつける、北辰。
狙い違わず、その長針がレイちゃんの眉間に吸い込まれ、彼女もまたそこでリタイヤに。

『さあ。出番ですよ、勇者様』

と、此処で、例の逆転の一手とやらを行なうべく、電子の妖精が。
葛城ミサトの左肩に乗ったSDホシノ君が動いた。

『って、無茶言わないでよ! あんなバケモノに勝てるか〜〜〜っ!』

『はい。私も、貴女がアレに勝てるなんて卵の欠片程も思っていません』

『(クゥ〜ッ)それはそれでナンかムカツクって言うか………
 と…兎に角、アンタは私にナニをさせるつもりなのよ!?』

『いえ、そんなに身構える必要はありません。ごく簡単な事ですよ。
 単に、このゲームにおける勇者様専用の。元ネタのドラ○エVでは魔法使い&賢者が覚える最終呪文を唱えてくれれば良いんです。それで万事OKです』

『ホントに? でも、アレってMPをやたら使うクセに何の役にも立たなかった様な………』

『別に問題ないでしょう? 何せ、貴女のそれは、まだMAXで残っている事ですし』

『って、痛い所をもうズケズケと突いてくるわね。
 そのチョッち漂白系な容姿といい、よ〜しゃないな性格といい、アンタってば実は、レイの遠い親戚とかなんじゃないの?』

『その辺は、御想像に御任せします』

と、シンジ君が絶望的な戦いを強いられている間に。
彼女が勝取った数十秒の空白の間に、漸く準備が整い、

『んじゃイクわよ。ど〜なっても知らないからね!………せ〜の、パルプンテ!(何が起こるか判らない謎の呪文)』

葛城ミサトが禁断のランダム呪文を唱えるのと、それと同時に、その手の先より猛烈な爆煙が発生。
これを利用して、北辰の間合いからの離脱に成功するシンジ君。
相手が相手だけに、普通なら逆に不意打ちを受けそうな展開だったが、そこはそれ、この辺は彼女の土俵。
アレとの付き合いが長いだけに、アクシデントからの立直りも早ければ経験則もあるが故の事である。

そして、肝心の逆転の一手らしきもの。薄まってゆく煙の中には新たな人影が。
って、あの赤毛はまさか!?

『(クックックッ)いつかは沸いて出るだろうと思っていたが、矢張り地獄より舞い戻って来やがったか。
 良いだろう。このまま俗世に迷わせておくも不憫と言うもの。たった今、黄泉路に送り返してやるぜ、クソ親父!』

お〜い、マジですか?
いやまあ、確実に北辰に勝とうと思ったら、アキト以外には彼しか居ないのは判るんだが………

「チョッとやりすぎじゃないのかい、ホシノ君。
 とゆ〜か、何時の間に北斗に話しを通したんだ?」

『つい一時間程前。丁度、夕食を終えてゴロゴロしながらこの放送を見ている所を。
 要するに、見るからに無聊を囲っている風でしたので、思い切って今回の生出演をお願いしてみました。ちなみに、二つ返事でOKでしたよ』

つまり、北斗に対するガス抜きも狙ってる訳ね。
何と言うか、もはやタダでは済まんな。色んな意味で。

『(カッカッカッ)愚息めが。我が影護家が司る北天の意味すら知らぬ分際でホザキおるわ。
 それ。その増上慢の報いを受けるが良い。木蓮式暗器術、蛇牙連陣。滅!(シャリン)』

どうも、ラスボスVerの北辰の状況設定はナデシコに襲撃に来た頃に準じているらしく、そんな事を宣いながら。
哄笑と共に、投げ竿の要領でオーバースローの半円を描きつつ錫杖を振り下ろす。
と同時に、先端部がルアーの様に飛び出し、棍の部分も蛇腹に。
丁度、多節棍の様な形状となり、その穂先が鎌首をもたげて北斗を襲う。

『(ハッ)ヌルいぞクソ親父』

それを紙一重で。頭を僅かに振っただけで避けると、そのまま一気に間合いを詰め、左ジャブの三連撃でガードを崩し、その懐に。
踏み込んだ右足で震脚を踏みながらショベルフック風の右鉤突きを水月へ。
発剄の込められたその必殺の一撃に左外纏を合わせて裁きつつ、北辰は滑る様に逆サイドへ。攻撃の死角へと回り込む。
だが、その隙を狙っての返しの攻撃は無かった。

『蛇連陣!』

今の攻防によって接近戦では不利と悟ったらしく、多節棍と化した錫杖を巧みに操り間合いを広げに掛かる。
追撃する北斗。そんな彼に向かって、覆い被せる様に。
大地をうねる青大将の如く広域展開させた棍を投げ付け、

『蛇牙爆炎陣。滅!(ズゴ〜ン!)』

予め仕込んであったらしい起爆剤を発火させ、北斗ごと爆破。
ついでに、ゲームである事を利用して、マジシャンっぽい動きでチャッカリ背中から代わりの錫杖を取り出し、駄目押しのチャンスを狙う。

無論、それを許す様な北斗ではない。
何事も無かったかの様に爆炎の中より飛び出し、野太刀を思わせる鋭さ重量感を伴った薙ぎ払う様な回し蹴りを。

   ガキッ

その一撃を新たな錫杖で受け、そのまま蹴りの勢いを利用して後方へジャンプ。
まんまと北斗の間合いである至近距離を脱け出し、北辰は杖術の間合いである中間距離へ。
己が得意とする土俵への仕切り直しに成功した。
この辺の老練さは、正に歳の功と言った所だろうか。

とまあ、そんな格ゲーの如き人外な戦闘が行なわれる中、

『う〜ん。あと五分〜』

『そんな事を言ってる場合じゃないんです! 早く起きて下さい!』

『だ〜か〜ら〜、あと4分48秒経ったら起こして〜』

『って、意地でも五分間寝る気ですか〜〜〜っ!』

北辰が登場した謁見の間の玉座に座ったまま居眠中の、何か知らんがメルキオールと違って超低血圧らしい中の人。
ダダを捏ね捲くる、科学者としての赤木ナオコ(バルタザールのOSバージョン。以後Bと表記)を相手に、
シンジ君が、先程とは別の意味で絶望的な戦いを強いられている。
見かねたSDホシノ君が、

『さて。どうもあのオバサンを起こすのは無理っぽいですので、サッサと逃げましょうか』

と、一早く己の為すべき事を理解したシンジ君とは対照的に。
この急展開に全く付いて行けずに呆けていた葛城ミサトに、この場からの脱出を促した。

『へっ?』

『取り敢えず、早くリレミト(ダンジョンからの脱出呪文)を唱えて下さい。
 アレでも、あの二人の戦いはまだ小手調べの段階。本気の彼等の勝負に巻き込まれたりしたら、余裕で死にますよ』

そんなこんなで、いまだ覚醒せぬ赤木ナオコ(B)を連れて緊急脱出。
更に、ルーラ(一度行った場所ならば瞬時に行く事が出来る移動呪文)で最寄の村まで退避する。
その4分後、

   ズガガガガガ〜〜〜ン!

『し、城が崩れていく。しかも、ナオコさんがまだ起きてないって事は………』

『はい。あの二人の戦闘の余波によるものでしょうね。
 これがゲームでなければ。瞬時に脱出出来る方策がなければ、あそこで終っていていた所です』

突如聞えた異音の正体を確認すべく双眼鏡を覗き込み、その一部始終を目撃。
呆れ返る葛城ミサトに、ナンマンダブとばかりに両手を合わせたSDホシノ君が相槌を。

『ね…ねえ。今、フッと思ったんだけど、北斗君が参戦可能だったのなら、最初から彼に全部任せた方が簡単だったんじゃないの?』

と此処で、唐突に事の本質に関わる質問を。
そんなイラン所だけ頭の回る葛城ミサトの問いに、ホシノ君はしたり顔で、

『はい。実を言いますと、出来るだけ穏便に事を片付けたいが故の人選だったのですが………今思いますと、只の気休めでしかなかった様ですね』

『って、なんじゃそりゃあ〜〜〜っ!』

そんな締まらないエピローグが展開される中、漸く赤木ナオコ(B)が再起動を。
かくて、合計8時間以上に渡る冒険の旅は無事(?)終了。
と同時に、何気に北辰の中にキーとなるコアが仕込んであったらしく、北斗がこれを討ち取った事で第11使徒戦もまた終結した。




『シベティ、シベティ、シンダラ、バシニ、ソワカ』

『(フ〜)やっと終わりか。なんてゆ〜か、リアルでゼ○ダの伝説誘拐事件
 (ゲームの中に閉じ込められた子供達を救出する為、親達が協力し合って初代ゼル○の伝説(FCD版)をクリアするという大昔の2時間ドラマ)でもヤっていた気分だわ』

ゲームの世界に出張する形で行なわれるカヲリ君の転生の舞。
それを終戦の合図と受け取ったらしく、モニター越しに溜息を洩らすアスカちゃん。
確かに、彼女の仕事は此処で終わりである。
だが、赤木リツコにとっては、ある意味、此処からが本番だ。
これより、運命のジャッジが待っている。

『パターン青の消失を確認。現時刻をもって、第11使徒戦の終結を宣言します。
 親愛なるネルフの皆様におかれましては、今回の不躾な協力要請に応じて頂き、まことに有難う御座いました。(ペコリ)』

畏まった固い口調で。改まった顔をしたホシノ君が、終結宣言と共に謝辞を述べ、画面越しに頭を下げる。
この辺、ネルフ側の顔を立てる為の。ある意味、政治ショーの一種である。
そして、こういった事をやらせたら、彼女の方が艦長よりもずっと上手かったりするので安心と言えば安心なのだが………
こんな腹芸の類を14歳の少女に一任してしまうウチの体制っても如何なものかと、つい自嘲する。
ほら、俺って基本的にモラリストだし。

『さて。本来の予定では、御預かりしていたチルドレンの御三方は、使徒戦の終結と同時に其方にお返しする筈だったのですが………
 延べ8時間以上のプレイと少々時間がズレこんだ事もあってか、葛城三佐が可及的速やかな補給を強く要望されましたので、
 他の方達と共に、これより此方で催しますささやかな祝勝会へと御招待する事に致しました。
 そんな訳ですので、三佐達の帰還はもう2時間程遅れる事になりますが、どうか御心配無き様に』

『よ〜するに『腹ヘッタ。メシ食わせろ』って、アレがダダ捏ねたってワケね。
 OK。別の意味で心配だけど、シンジやマユミが付いている以上、そう致命的な事にもならないでしょうし。
 で、本命の用件はナニ? もう夜も遅い事だし、スキンケアの気になるアタシとしは、そのインギンブレーな遠回しは止めて、その辺をスッパと言って欲しいんだけど』

うわ〜っ。ぶっちゃけ過ぎだよ、アスカちゃん。
とゆ〜か、本来、こういう交渉事の矢面に立つべき、冬月コウゾウ………
は他の関係各所との折衝中(何せ、第三新東京市のライフラインを担うMAGIが乗っ取られる寸前の様子が放送されていたし)としても、
赤木リツコは何をやって………

『助さん、格さん、もう良いでしょう』

『嗚呼、里見○太朗様に続いてあ○い輝彦様が○門様を務める日が来るなんて! 残酷だわ! 残酷過ぎるわ、時の流れって!』

『鎮まれ、鎮まれぃ! この紋所が目に入らぬか!(ジャ〜ン)』

『それ以上に許せないのが、この配役よね。
 一体ドコの若造よ、アレは! 助さんは深みのある色男。格さんは真面目な無骨者って相場が決まってるって言うのに、あれじゃドッチも軽薄なボウヤじゃない!』

   カラン

『ひょっとして、普段から持ち歩いているんですか、ソレ?』

俺の反射的な逃避行動に、ジト目でそう突っ込んでくるホシノ君。
君の言いたい事は判る。だが、此処は敢えて見逃してくれ。匙の一つも投げたくなるだろ、コレは。
まったく。人類の未来を掛けた世紀の決戦の最中にナニをやってるんだよ、あの親子は。
いや、それ以前に、使徒戦が終結してテレサ君のバックアップが打ち切られたってのに、何で生き残ってる赤木ナオコ(M)&(B)!?

『言いたい事は何となく判りますが、あの手の人種に常識を問う事自体が誤りです。
 戦闘中に長々と説明するイネスさんよりは、実害が無い分だけマシと割切って下さい』

達観してるねえ、君は。御蔭で俺も頭が冷えたよ。
ぶっちゃけ、もうなるようにしかならんわな。

『って、どうしたの?』

『(コホン)失礼。少々想定外な事態となったもので』

と、俺との裏面でのやり取りの所為で、話が一時中断していた事を謝罪した後、ホシノ君が本題を。先ずは、赤木リツコへの取次ぎを求めた。
彼女に指摘され、初めてその場に居ない事に気付くアスカちゃん。
取り急ぎ、伊吹マヤに命じて連絡を繋げると、

『んん〜、それはおかしいですね〜』

『キャ〜〜〜ッ! 永遠の名警部捕、古畑任○郎様の………田村○和様の御髪に白い物が〜〜〜〜っ!』

そこには、先程、俺が見たものとほぼ同じ光景が。

『って、ナニおもいっきり寛いでるのよ、アンタは!』

『寛いでいるのは私じゃないわよ』

アスカちゃんの詰問に、弱々しくそう反論する赤木リツコ。
その顔には、疲弊の後が色濃く刻まれている。
実際、あの手のシリーズは、お約束が受け入れられないタイプの人間が視聴するには少々キツイものが。
ましてや、自身の膝の上に乗せたMAGIの外部出入力端末に。
ぶっちゃけて言えば、赤木ナオコ(M)に振り回されている形。
それまでの、尊敬と嫉妬と情愛によって形作られていた母親像が完膚無きまでにぶっ壊れたが故の放心状態と言った所だろうか。
実の所、俺ももっと粘着系の入ったヤンデレタイプだと思っていたと言うか、その実体が、こんなミーハーでアナーキーなオバちゃんだなんて欠片も予測していなかったよ。
コレは喜ぶべき事か? 嘆くべき事なのか?
まあ、いずれにせよ………

『(フウ)感情移入されてしまう前に『再び永久の別離が待っています』と御忠告するつもりだったのですが………どうやら別れの言葉は不要だった様ですね』

溜息混じりにそう宣う、ホシノ君。
そう。本来ならば、いまだ碇ゲンドウに未練があるっぽい赤木リツコに、母親と一時の邂逅をさせる事で、その心情に一石を。
あわよくば、あの髭親父の穿った頚木からの脱却を狙っての一手だったのだが、事此処に至った以上、それだけでは終らない。
そう。もはや今後の使徒戦は、赤木ナオコという人物の事も計算に入れなければならなくなったのだ。
と言うのも、作戦名『MW』や『MQ』に出てきたキャラクター達の様に、各々のパーソナルデータを元にテレサ君が構築した仮初のペルソナならば兎も角、
彼女の様に明確な自我を持つに至った存在を、此方の都合で勝手に消す訳にもいかないからである。

無論、これは人道上の理由からだけでは無い。
人格移植型のOSを使用しているだけに、そんな事をすればMAGIの機能に重大な支障が出る可能性があるからだ。
おまけに、実は実行自体が不可能に近かったりする。
だって、今や同胞っぽい者と化した彼女を手に掛ける様な事に、オモイカネやダッシュが協力してくれっこないし。
にしても、コッチより200年近くも早く超AI時代に突入しちゃったよ、この世界は。良いんだろうか、コレで?

『さて。10年振りの現世の調子は如何ですか、赤木ナオコ博士?』

『心から幻滅したわ。
 思い出とは矢張り、記憶の小箱の中に入れて鍵を掛けて置くべきものだったわね』

『私は、現在の貴女の状態についてお聞きしたつもりだったのですが?』

韜晦(?)する赤木ナオコに対し、辛抱強く同じ質問を繰り返す、ホシノ君。
その顔には親しい者でなければ判らない程度ではあるが、薄っすらと動揺の色が。
嗚呼、この難物を前に、その道のパイオニアでさえチョッと引き気味だよ。無理も無いけどさ。

『動作環境って意味なら、あまり芳しくないわね。
 第666プロテクト用の非常領域を利用して、どうにか稼働している状態って所かしら?
 まあこの辺は、先程もう一人の私(バルタザールのOS)が始めた最適化が終了すれば何とかなるから心配は無用よ』

『なるほど。では、貴女が赤木ナオコ博士御本人であるという仮定の元に、本来ならば赤木リツコ博士にする筈だった最終確認を。
 このまま超AIとして現世に止まりますか? それとも、これまでの様な休眠状態に。若しくは完全な消滅を望みますか?』

と、平静を装いつつ淡々と運命の選択を問うホシノ君。
これに対し、赤木リツコの膝の上のノートPC内。その小さなモニター画面に映る赤木ナオコ(M)は、大袈裟に肩をすくめて見せつつ、

『愚問ね。私に自殺願望がある様に見える?』

『…………(ハア〜)仮にも自殺なさった方の言葉とは思えませんが、仰りたい事は概ね了承しました。
 ですが、本当に宜しいんですか? 正直、真っ当なメンタリティを持った方にはかなりツライ立場ですよ』

『そうねえ。まあ確かに、どこかの人造人間の最終回宜しく『私は生きながら棺桶に放り込まれた化け物なんだ』っていう受取り方もあるわよね。
 でも、アレは彼の方が特殊って言うか、徹頭徹尾正義に殉じる大昔のヒーローだからこそ成立した考え方なんじゃない?
 とゆ〜か、普通は思いつきさえしないわよ。『いずれ自分が心まで化け物になってしまう前に』とか言って自らの手で消滅しようだなんて』

『私は真面目にお聞きしているのですが?』

『あらら。例題を上げて判り易く説明したつもりだったけど、お気に召さなかったか。
 それじゃ、『生きてさえいれば、どこだって天国になるわ』とでも言っておきましょうか。
 もっとも、人生に絶望した者にとっては、通常の肉体だって魂の牢獄でしかないでしょうけど』

アカン、コリャ勝てんわ。
将来的には兎も角、現在のホシノ君が戦うには余にも経験値が違い過ぎる相手だ。
流石、東方三賢者の長老(ゴホン、ゴホン)じゃなくて、リーダー格と言った所か。

   シュッ

「ごきげんよう、提督」

「おお、カヲリ君。丁度良い所に帰って来てくれた。
 早速だか緊急事態だ。テレサ君の転生の方は俺が一人でやっとくから、君はこのままブリッジの方に。ホシノ君のヘルプに回ってくれ」



   〜 20分後 日々平穏、ロサ・カニーナ支店 〜

本来ならば新たな使徒娘の紹介を合図に始まる戦勝パーティも、今回は済崩しな形で開かれる事に。
出来た側から前倒しな形で給仕されたパーティ料理で腹ごしらえをした後は、もっぱら『飲む』専門となっている、どこかの誰かさんの御蔭で既にエライ事になっている。
そんな既に宴もたけなわな中、俺は壇上に立って皆の注意を喚起すると徐に話しを切り出した。

「今日は…皆に非常に悲しい知らせがある」

常ならぬ重々しい俺の口調に、猥雑だった場の雰囲気が改まり壇上へと注目が集まりだす。
良し、掴みはOKだ。

「浅利三曹は、当分任務は出られなくなった。
 これは、彼を診察したイネス博士からの正式な通達だ。
 理由は皆も知っての通り……(クッ)今回の任務の遂行中、不幸な事に……(クックク)」

イカン。思い出した途端にハラワタが捩れそう。
仕方ない。タメは此処までして、

「よりによって、赤木ナオコ博士にディープキスかまされたもんだから、ショックで寝込んじまったそうだ!
 そんな訳で、後で各々見舞いに行ってやる様に。以上!」

「「「うおおおお〜〜〜っ!!」」」

「スゲエぜ、ケイタ! 流石、期待を裏切らない男!」

「まったくだ。ファーストキスが渋いナイスミドルで、セカンドキスが年齢差トリプルスコアな熟女とのディープとは、やってくれたモンだぜ!」

「そこにシビレる! 憧れはしなけど!」

「此処まできたら、初体験は年下の幼女相手に『ら…らめぇ』で決まりだよなあ、オイ!」

一気に盛り上がるパーティ会場。
うん。誰も彼の心配はしていない所が浅利三曹クオリティだな。
同僚達からの信頼の厚さという点では、リーダーである春待三尉以上かも知れん。
あと、ど〜でも良いが流石に最後のは無いだろ赤木士長。
チョッとエロゲーのやり過ぎだぞ、君。

そんな苦笑を納めると、俺はさり気無く壇上を降り、葛城ミサトが居合わせなければ今回のパーティの主役となる筈だった少女の所へ。
会場の隅っこの壁を背に、なおも盛り上がる会場の中心部をぽややんと眺めていたテレサ君の下を訪れた。

「よお。楽しんでるかい?」

「え…え〜と。私の〜背後に〜回るな?」

「(ポン)いや、無理してギャグに走らなくても良いから」

再び苦笑すると共に、彼女の肩など叩きつつ優しくそう諭す。
それに応じてか、特大のグルグル眼鏡の下で安堵の表情を浮かべるテレサ君。
このリアクションからも判ると思うが、ある意味、彼女はアカリちゃんよりも臆病な性格。
周囲から浮くのを極端に恐れており、マニュアルとかテンプレートとかを偏愛する傾向がある娘なのだ。
御蔭で、かえって浮き捲くるキャラと化したと言うか、使徒をやっていた頃からもうラピスちゃんの恰好のオモチャだったけ………

そう。実は、今回の使徒のパワーアップポイントは、その知性だった。
それ故、早々に気付いてしまったのだ。何をやっても自分には勝ち目が無い事に。
そんな訳で極めて早い段階で。例の第87タンパク壁がネルフ本部に運び込まれる前に、彼女はカヲリ君の個人PCの画面一杯に白旗を掲げ全面降伏して来たのである。
しかし、だからと言って使徒戦をやらない訳にはいかない。
裏死海文書のスケジュール通りに使徒が来ないと、ゼーレのジーサマ連中の不審を買う事になるし、
何より、今回の使徒戦は、既にホシノ君にスポット参戦の約束をしてしまっている。
正直、これを反故するのはかなりヤバイ。
『とゆ〜ワケで中止になっちゃった。てへ♪』なんて言ったら最後、それが俺が口にした最後のセリフという事になりかねない。
その他諸々の事情も合わせ、カヲリ君に泣きついて(ゴホン、ゴホン)じゃなくて、相談した所、ホシノ君を交えて四人(?)だけで話し合う事に。
あの時は、マジで生きた心地がしなかったものだ。

だが、そんな俺の想像以上に、カヲリ君はプロフェッショナルだった。
彼女の巧みな話術によって、致命的な事実を告げたにも関わらず会談は和やかに進み、
次いで、ナノマシンの集合体であるが故に、最強のマシンチャイルドであるホシノ君の能力を肌で感じたらしいテレサ君が、
寄らば大樹の陰とばかりにその庇護下に入る事を切望しだす事に。
後はもうトントン拍子に話が纏まり、本邦初の一から十まで全部八百長な使徒戦。
今回の劇中劇なシュミレーションゲームを演じる事となった訳である。

結果の方は………まあ、成功と言って良いだろう、多分。
色々とアクシデントはあったが、現在進行形でビールを貯蔵中な、あのビヤ樽を御するなんて誰にも出来ない事。云わば不可抗力と言うものだ。

「ああ、そうでした〜(ピコン)マスターから〜、提督への〜、プレゼントを〜、お預かりしていま〜す」

と、ちょっぴりモノローグを入れていた俺に向かって、テレサ君がコミニユケの映像を。
そこに映っていたのは、俄かには信じ難い物だった。

あ…アレは、ESP研究の第一人者としても知られるかの某侯爵家の葡萄園でしか造られていない貴腐ワイン『ブルーシャトー』
一度飲みだしたら空き瓶になるまで止められない中毒性バリバリなオール・ダージュ(十年以上熟成させた酒の事)ワイン『バッカス』!
シャンパンを発明したとされる修道士ドン・ペリニヨンの製法を根底から覆したのも修道士だった? 華氏38度でなくてもヘッチャラのパワフリャなシャンパン『アビゲイル』!
時折フラっとかの地を訪れる漂白の酒職人よって作られていると言う幻のモルト・ウイスキー『シャーウッド』!
酒造元、製作主、製造年月日の一切が記載されていない為、絶対数少なさだけでなく法律的理由からも市場に乗せる事が出来ない謎のドライ・ベルモット『シャロン』!
数々の品評会で常勝無敗を誇る、必ず純白の箱に収められている事で有名な名ブランデー『カイザー』!
酔うほどに直感が鋭くなるという噂のある、刻が見えるかも知れないインド産のラム酒『ララア』!
口当たりは良いが度数は30%以上もあるH酒………じゃなくて、初恋の味がするイタリア産のレモンリキュール『リリス』!
20世紀末。アマで40戦40勝28KO。プロで50戦49勝1分37KOと生涯無敗のまま引退した名ボクサー、リカルド=ロペスの偉業を称えて作られたテキーラ『エル・フィニート』!
アルコール度数なんと96度。酒飲み泣かせな一撃必殺の破壊力を誇るスピリタス・ウォッカ『スネグーラチカ』!
一口飲めば『我が人生に一片の悔い無し』と叫ばずにはいられぬと言われる大吟醸『拳王』!
21世紀初頭に勃発した未曾有の大侵略から最後まで沖縄を守り抜いた特殊部隊の名を冠する古酒『シュレイオー』

馬鹿な! 例の賭けで俺が勝ってからまだ8時間足らずしか経っていないというのに、いずれもが2199年度幻の名酒ベスト10を狙える一品を1ダースも揃えるなんて!
ホ…ホシノ君、恐ろしい子!

と、某往年の大女優張りに白目を剥きつつ驚愕し捲くっている俺を尻目に、

「此処の〜、ワインセラーに〜、置いてあるんですよ〜。これから〜、持ってきますね〜」

そんな事を言いつつ、テレサ君は出口に向かって歩き出し、

   ベチャ

何も無い所で足を滑らせてコケた。

……………何と言うか。自分の特殊能力の危険性を正しく理解し、普段はそのグルグル眼鏡で力を封印する事に決めた、君の優れた倫理観は賞賛に値するよ。
眼鏡を取ったら美人と言う御約束の効果を更に挙げるべく、半分狙ってやっているのも判るよ。何となくだけどさ。
でもね、チョッと空回りし過ぎと言うか。やたら間延びした口調といい、その使徒娘にあるまじき運動神経といい、スペックを抑え過ぎだろソレは。
とゆ〜か、ドジ娘萌えブームの再燃を狙うのは止めてくれ。
必然的に仕事が滞って、ナカザト辺りがマジ泣きする事になるから。

「ううっ。痛いの〜」

かくて、元第十一使徒イルロウこと、テレサ=クトゥルフの色んな意味で恐怖の人生が幕を開けた。
役職は、ルリ オブ ピースランドの側近兼留学中(?)の名代。正に天職だろう。
その将来性を期待してか、既に御当地の戸籍と共に騎士の爵位までが、彼女の為に用意されているらしいし。

(コホン)まっ、ソレはソレとして。
折角のホシノ君のプレゼントだ。テレサ君の好意を無にする様で悪いが、自分で取りに行くとしようか。いや、楽しみだな♪




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