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〜 翌日。元弐号機コアの安置室 〜
紅い空。紅い海。紅い大地。
何もかもが紅く染まった、荒涼とした紅い世界。
だが、その中心にあるシックな外観の小さなログハウス。
オティンバーフレーム様式(金釘を使わず、ほぞ組と栓だけで組上げるの建築方法)にて建てられたその室内の奥にある地下室では、
そうした寂寥感を吹き飛ばすかの様に、二人の妙齢の美女達によって激しい議論が戦わされていた。
「さて。それじゃ、もう一度最初から検証しましょうか」
赤みが掛かった金髪の女性。惣流=キョウコ=ツエッペリン博士が、対面に座る友人にそう促す。
彼女こそは、この閉じられた終焉の世界の主であり、そのイマジネーションによって総てが可能な絶対者。
従って、わざわざ映写機を操作する必要もなければ、此処には存在しない筈の太陽光を利用したシステムによって温水パネルヒーターで全部屋の暖房を賄う事も。
更には、別の世界から来訪する客人の為に、部屋の真ん中に掘り炬燵を増設する事さえ造作も無い。
そう。極論するならば、実は現在のキョウコの境遇こそが、碇ユイが提唱した。そして、ゼーレの面々の内、比較的俗物な連中が求める現人神の姿そのものだったりするのだ。
仮初の永遠など全く求めていなかった彼女が、最初に覚醒した人造の女神であり、
また、その万能の能力を、こうしたど〜でも良い事に浪費しているという事実は、正に歴史の皮肉と言えよう。
もっとも、そうした人物だからこそアークの上役もその処分を保留とし、来るべき約束の日まで、この様なのほほん亜神ライフを黙認して貰えたという見方も成立するのだが。
ともあれ、そんなキョウコの意思に従い、それまで何も無かった前方の壁面にスライド写真が映し出される。
ポートレート |
|||
氏 名 |
年 齢 |
性 別 |
保護者OR後見人 |
嵐山アニタ |
20歳 |
女 |
マキ イズミ |
前 世 名 |
身長 |
体重 |
スリーサイズ |
第三使徒サキエル |
179cm |
66kg |
96/68/94 |
職 業 |
血液型 |
生年月日 |
戦闘スタイル |
BAR花目子のバーテン見習い |
AB型 |
3月29日 |
強化系万能型 |
特殊能力 |
威力評価 |
最大射程 |
備 考 |
第三階梯の生命体(身体強化・ATフィールド展開能力他) | A |
B |
ATC得意/ATF広域展開可能 |
アサルト・グレイブ(右手から生み出す伸縮自在の光の槍) | A |
C |
格闘技能修得(我流棍術) |
ダブル・デリンジャー(左右の人差し指からの熱線砲) | B |
B |
射撃技能修得(但し自前の能力のみ。通常の銃火器の知識はゼロ) |
「まずはアニタちゃん。
記念すべき転生組の使徒娘第一号で、登録年齢も最年長。
身長とスリーサイズだけじゃなくて、その身体能力もまた使徒娘中でダントツの一位である事に加えて、
職業柄、対人関係上のトラブル処理にも慣れている、温和で面倒見の良い性格という事もあって、
カヲリちゃんとはまた別の形で彼女達の精神的支柱を勤めている、いわゆる使徒娘の頼れる長女とも言うべきの娘ね」
スライドに映っている簡単なプロフィールを眺めながら、キョウコが補足説明を。
更に、それに被せる形で、
「う〜ん。確かに、この娘の持つ人脈は正に『買い』よね。
使徒娘特有の特殊能力も実戦向きな使い勝手の良いものだし、体力関係の全ての能力値が他の娘達より群を抜いて高い点もイイ感じだわ。
ネックは、性格的に戦いに向いていなんで、せっかくのその高い戦闘能力を生かしきれない事と、木連ではあまり需要の無いそのキャラクターかしら?
何しろ、彼女の様な見るからにコーカソイド系って感じの容姿の娘は、木連では映像記録上でしか見れない存在。
例の独特の喋り方も相俟って、結婚相手となると二の足を踏む人が多いでしょうね」
舞歌が、そんなぶっちゃけた人物評価を。
その歯に衣着せぬ物言いに苦笑しつつも、
「彼女に関しては、特に婚姻に拘る必要は無いんじゃないかしら。
ほら。BAR花目子も、最近は木連人のお客も付き始めた事だし、このまま此方での生活が安定すれば………」
「あっ、それ多分無理。
あのお店ってば、基本的に採算度外視だから幾ら繁盛しても儲からないもの。
おまけに、マキ中尉には地球に両親が居るみたいだからコッチへの残留は見込み薄だし。
実際、彼女が地球に帰ると言い出せば、あの娘もそのまま付いて行く可能性が大よ」
視点の変更を示唆するキョウコの話を皆まで聞かず、その問題点を指摘する。
この辺の予習はバッチリ。
そう。どんなにおちゃらけている様に見えても、舞歌は幾つもの縁談を(半強制的に)纏めてきたその道のプロ。
そんな彼女にしてみれば、意中のターゲットとその周辺の人物の個人情報の収集など、正に基礎中の基礎でしかないのだ。
「う〜ん。それじゃ、彼女に関しては保留。
今後、木連の異文化交流が進んでから再検討という事にして………」
と言いつつ、キョウコは次の映像データを。
ポートレート |
|||
氏 名 |
年 齢 |
性 別 |
保護者OR後見人 |
日暮ラナ |
14歳 |
女 |
影護 北斗 |
前 世 名 |
身長 |
体重 |
スリーサイズ |
第四使徒シャムシエル |
163cm |
50kg |
88/60/88 |
職 業 |
血液型 |
生年月日 |
戦闘スタイル |
第一中学校の二年生 |
O型 |
4月20日 |
操作系特化型 |
特殊能力 |
威力評価 |
最大射程 |
備 考 |
第三階梯の生命体(身体強化・ATフィールド展開能力他) | D |
C |
ATC苦手/ATF広域展開苦手 |
プロべーション・ウィップ(意のままに動く伸縮自在の髪の毛) | E〜B |
C |
戦闘力全開の殲滅戦は勿論、索敵や捕獲も可能な多弁鞭 |
「次はラナちゃんね。
現役の中学生で、アスカちゃんやシンジ君のクラスメイト。
その最大の特徴は、とにかく良く眠る事。
実際、一日の大半を居眠りして過ごすナマケモノ娘として、ご近所でも有名だそうよ。
でも、それはあくまで表向きの姿。
どうも彼女、先天的に破壊衝動っぽいものを持っているみたいね。
本人もそれを自覚しているものだから、ああいった逃避行動に出る事で、そんな自分を誤魔化しているんでしょうけど………」
と、此処で言葉を切ると、キョウコは噛んで含める様な調子で、
「やっぱり、彼女をターゲットに加えるのは賛成出来ないわね。
最近、ようやくあの娘にも心を許せる相手が現れて『これから』という時に、遠回しにとはいえ見合い話を持っていくなんて、正直、如何かと思うわよ」
「そうかしら? どちらかと言うと、私には『はみ出し者の不良娘が、偶々チョッと優しくされたんで舞い上がってる』っていう、
二昔前の学園物で良くある筋書きに陥っているだけの様に見えるんだけど」
「そういった要素もある事は否定しないわ。
でも、切欠がどうあれ、最終的にハッピーエンドなら問題ないでしょう?
そもそも、どうして木連士官とのお見合いに拘るの? 貴女にしてみれば、彼女のお相手がケンスケ君でも同じ事でしょうに」
「だって〜、例の悪癖のインパクトが強すぎてあんまり認知されていないけど〜、ラナちゃんてば何気にスタイル抜群なんだも〜ん。
チャンと着飾れば、もう引く手数多。若い子達の発奮材料に持って来いな人材なのに〜」
「可愛い子ぶって誤魔化そうとしても駄目よ。此処は当事者達の気持ちを尊重すべきでしょ」
「ふみゅ〜」
そのまま、既にルーチンワークと化したやりとりを経た後、これまた保留という形でケリを付け次の娘の検討に。
ポートレート |
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氏 名 |
年 齢 |
性 別 |
保護者OR後見人 |
雷鳴ラシィ |
17歳 |
女 |
アカツキ ナガレ |
前 世 名 |
身長 |
体重 |
スリーサイズ |
第五使徒ラミエル |
143cm |
36kg |
65/49/66 |
職 業 |
血液型 |
生年月日 |
戦闘スタイル |
ネルガル会長専属のメイド |
B型 |
5月21日 |
放出系特化型 |
特殊能力 |
威力評価 |
最大射程 |
備 考 |
第三階梯の生命体(身体強化・ATフィールド展開能力他) | A |
A |
ATC得意/ATF広域展開得意 |
メイド・スラッシュ(ATCで強化したメイド七つ道具による攻撃) | E〜B |
E〜B |
武具技能修得(但し素人よりはマシレベル) |
メイド・ショット(人差し指からのレーザー砲) | B |
A |
射撃能修得(但し素人よりはマシレベル) |
爆熱メイド・フィンガー(ATCを纏ってのパンチ) | A |
E |
格闘技能修得(但し素人よりはマシレベル) |
爆熱メイド・フィンガー・ソード(半物質化した光の剣) | A |
D |
剣技能修得(但し素人よりはマシレベル) |
必殺シャイニング・メイド・フィンガー(最大出力の加粒子砲) | S |
A |
数秒間のタメが必須な超必殺技。 |
「次はラシィちゃんだけど、この娘に関しては、もう念を押すまでも無いわよね」
スライドに映るデータに一通り目を通した後、キッパリとそう言い切る、キョウコ。
対面の舞歌もまた、それに頷きつつ、
「ええ。何しろ、強○人間に施される刷り込みもかくやってくらい完璧な、御主人様LOVE娘だもの。
おまけに、四六時中アカツキ君に付ききりなもんだから、何の自覚が無いままにネルガルの深い部分にも関わっているみたいだし、
使い所さえ間違わなければれば忠義に厚い有能な人材ときては、あのエリナちゃんが彼女を手放す筈が無いわ。
正直に言えば、『惜しいな〜』とは思うけどチョッとムリ目よね」
「はい、ご名答。それじゃ、次の娘だけど………」
ポートレート |
|||
氏 名 |
年 齢 |
性 別 |
保護者OR後見人 |
海住ウミ |
14歳 |
女 |
影護 北斗 |
前 世 名 |
身長 |
体重 |
スリーサイズ |
第六使徒ガキエル |
154p |
48s |
79/56/77 |
職 業 |
血液型 |
生年月日 |
戦闘スタイル |
第一中学校の二年生 |
O型 |
6月14日 |
操作系特化型 |
特殊能力 |
威力評価 |
最大射程 |
備 考 |
第三階梯の生命体(身体強化・ATフィールド展開能力他) | D |
D |
ATC苦手/ATF広域展開苦手 |
水鏡掌(掌に作り出した特殊な水鏡に光を乱反射させて撹乱する技) | ― |
E |
光の増幅を前提としている為、ある程度明るい所でないと使えない。 |
霧露迷彩(深い霧を作り出して身を隠す技) | ― |
D〜B |
大量の水がある場所でしか使えない技。 |
混天綾(水中に走らせた振動波をソナーとして周囲の状況を察知する技) | ― |
S |
水中でないと使えない技。 |
混元潮流(自分の周りの水の流れを意のままに操る技) | ― |
E |
水中でないと使えない技。 |
水走鞭(意のままに弾道を操れる水鉄砲。水流の鞭としても使用可能) | C |
C |
ペットボトルのジュースでも数発分なら補充出来る。 |
水流破(両手で圧縮した水を一気にぶつけるジェット水流) | C〜A |
D |
圧縮した水量によって威力が変化する、大量の水が無いと使えない技。 |
「次はウミちゃん。
趣味と実益を兼ねて海洋学者を目指している娘で、まだ中学生の身でありながら、既に鯨の生態に関する研究論文を発表するなど、
既にそれなりの評価を得ている、将来有望な海洋学者の卵さんね。
その性格は、兎に角ポジティブの一語に尽きるもの。
チョッと自己中心的というか、本業である学業の方がほったらかしだったり、
研究費捻出の為に浜茶屋を開く際、コックの修行中の妹(?)を無理矢理引っ張ってきたりと、
時に行き過ぎる事もあるけど、この辺はもう、いわゆる若さゆえの過ち。
今後、より良い人生経験を積んでいけば、カヲリちゃんとはまた違うタイプのオニピオンリーダーになれる可能性を秘めていると思うわ」
そんな概ね好意的な評価を下す、キョウコ。
事実、幾つかの実績に裏付けられたウミのセールスポイントは、それなりに良いものが揃っている。
だが、これに対する舞歌の決定はと言えば、
「う〜ん。たしかに、少々の事ではへこたれない気概と目標に向かう際のあの行動力はイイんだけど………その価値観がね〜
実際、ウチ向きの資質の人材なだけにホント惜しいわ」
と、ウミの獲得を見送る方針。
それもその筈、
「やっぱり駄目だったの?」
「ええ。何せ『海が好き〜』な娘ですものね〜
この前、チョッとコナかけてみたんだけど、もうけんもほろろ。何があってもコッチに来る気は無いと思って間違いないわ」
此処で一息、その苦い経験を飲み干す様に茶を啜る舞歌。
実の所、敢えてキョウコに伝える気は無いが、この話にはまだ続きがあった。
渋るウミを上手く言い包めて、故郷の人工海のある地へ。
木連には天然の海が無い事を逆手にとって『この地の発展の為に力を貸して欲しいの』という路線で、その心をグラつかせる成功したまでは良かったのだが、
彼女のが(自業自得とはいえ)苦学生という事もあって、それに迎合して、何の気なしに入った大衆食堂にて出された木連では定番のとある丼物の具が拙かった。
その豊富な備蓄を背景に、供給が断たれてから100年以上経った今なお安価で手に入る謎の獣肉。
20世紀末から21世紀初頭の大弾圧によって調理の場を奪われ廃れてしまった所為で、
サイゾウさんはもとよりホウメイさんですら知らなかったその食材の正体は、なんとシ○ナガス○ジラだったのである。
今思えば、思い当たる節が無くもない。
某国による調査捕○の名目での行なった乱獲の隠蔽。
絶滅危惧種のままである方が都合の良いと判断した某団体による頭数操作の結果。
かつて、それを主食としていた某民族へと横流しする為の闇ルートの貯蔵品。
等々、理由としては様々なものが推測されるが、兎に角、その巨体ゆえに処分に困っていたどこかの団体が、例の革命の折に『これ幸い』と一緒に捨てた物だったのだろう。
その結果、それが黎明期の木連を支えた貴重な蛋白源となったのだから中々皮肉な話である。
もっとも、そんな歴史的背景など知る芳も無いウミの、もう怒ったの怒らないの。
カヲリの口ぞえが無かったら、そのまま敵対行動を起していたかも知れない凄まじい剣幕だった。
彼女にはもう何を言ってもまともに通じまい。
それこそ、どこかのオールバックなグウタラ新聞記者の手でも借りない限り不可能だろう。
「(ポリポリ)それじゃ、次に行ってみましょうか」
お茶請けの花林糖を齧り激論に疲れた脳に糖分を補給した後、舞歌は先を促した。