>OOSAKI

   〜 数時間後、土星付近を航行中のロサキネンシス内、提督室。 〜

漆黒の宇宙を埋め尽くさんばかりに群れを成す、何千何万もの異形の生物達。
それら率いて、一際異彩を放つ統率者が。
あたかも、己が勇将である事を誇示するかの様に、真っ赤な鎧で身を固めた体長12m程の人型生物が、悠然と此方に向かって来ている。
その傍らには、これまた武装した。白い鎧を纏った副将格と思しき存在が。

そう。彼等は外宇宙からやってきた侵略者。
しかも、ついにその進攻に本腰を入れたらしく、あの赤いヤツと白いヤツが。
それまでの生物丸出しだった身体に鎧を纏った、将軍クラスのクリーチャー達が登場。
散発的だった敵の攻撃が、統一された戦理に適ったものに。
その勢いに押され、俺達は苦戦を強いられ、今やこの土星付近の宙域にまで、その進軍を許してしまう事となった。

だが、人類には最後の希望があった。
前大戦を終結へと導いた二人の英雄が。そして、そんな彼等が、己の右腕よりも信頼する掛け替えのない仲間達が。
地球と木連の枠組みを越えた太陽系最強の特選部隊が、今、此処に結成されのだ。

ジャッジが、マルスが、ルナが、ガンガーが、白百合が、煌が、鯖が、宇宙を駆ける。
雷神皇が、風神皇が、竜神皇が、炎神皇が、闇神皇が、光神皇が、銀河に舞う。
そして、彼等が命懸けで作り出した只一本の道。数多の雑兵達の血によって舗装された値千金の花道を、アキトと北斗が。
黒と紅の流星が、赤と白の将軍の首級を上げるべく突貫する。

そう。俺達の戦いはこれからだ!!

………
……




「う〜ん。此処は矢張り、定番通りに。ウ○トラ○ンっぽくワンダバのコーラスで攻めるべきか?」

「提督」

「今少し荘厳なイメージで。銀○英○伝説のOPぽく、女性歌手によるオペラ調というのも捨て難い気が」

「提督!」

「問題は、どこかの電波ゆんゆん少女の二番煎じとのイメージになりかねない危険性を孕んで………」

「それ以前に、政府筋に提出する予定の資料映像にBGMなんて必要ないでしょう」

   シ〜〜〜ン

嗚呼、偶に捻ったかと思えばコレかよ。
どこまでシャレが通じないんだか、この男は。

「良し判った。お前、小粋なジョークは諦めろ」

ポンと肩を叩きつつ、そんな非常な宣告を。
心が痛むが、今、この場で告げなくてはならない。
アポロンの許しを得る事無く太陽へと駆け上った者は、翼を焼かれて墜ちるが定め。
手遅れになってからでは遅いのだ。

「別に構いませんが」

ダメだ。コイツは何も判っちゃいない。
仕方なく、更に傷を抉るのを承知で、懇切丁寧にレクチャーしてやる。

「いや、構うだろ? たとえばだ、何かの間違いでモモセ君をデートに誘う事に成功したとしよう。
 その際、ナニを喋るんだ? 会話におけるジャブとも言うべきスキルを持たずに、どうやって女性を口説く気だ、お前は。ん?」

「……………(ハッ)ど…如何しましょう提督! 自分は…自分は如何したら良いんですか!?」

そんなん知らんがな。
そう言ってやりたいのをグッとこらえつつ、再度ポンと肩を叩きつつ、なるべく誠意の篭った態度で、

「そんなに取り乱すなよ。
 大丈夫だ。単にジョークのセンスが皆無なだけで、総合的に見れば、お前だってそう捨てたモンじゃないから。人間としても男としてもな。
 断言しても良い。そんなお前の良さを判ってくれるイイ人が、その内きっと現れるさ、うん」

「ほ…本当でありますか?」

「勿論だとも。もっとも、そのイイ人がモモセ君となる保障はドコにも無いがな」

「うがあああっ!!」

やれやれ、相変わらず打たれ弱いヤツだ。

と、そんなコマッタちゃんが落ち着つくのを待ちながら、ダメ出しを食らった我が作品の欠点について熟考する。
実はコレ、地球政府から提出を求められた交戦記録。
外宇宙からの侵略者との戦闘の経過とその様子を収めたドキュメンタリー映像の叩き台なのだ。

逆説的に言えば、こういう物を求められるというのは、例のハッタリがまだバレていない証左であり、
事なかれ主義の地球政府も、コレを対岸の火事と。
あわよくば木連と相打ちにになってくれれば丸儲けなんて悪辣な事を考えている訳でない事を示すものなのだが………
その結果、『真紅の羅刹は何をやっているんだ!』という非難の声が上がったのは頂けない。

いや、なまじアキトの活躍を………ダーク・ガンガーと使徒との交戦記録を流した所為か、ダリアのそれが無かったのがお気に召さない。
『裏で何か企んでいるのでは?』という、己を基準とした疑心暗鬼に駆られている輩が居るらしい。
実に困ったモンだ。

とまあ、そんな訳で、こうしてその疑念を晴らすべく鋭意努力を。
流石に本物の使徒を用意出来なかったので、ナオがコツコツ壊滅させたゼーレの秘密基地からチョロまかしたエヴァの素体を流用して、班長達に使徒っぽいモノを。
より正確には、弐号機をモチーフとした生物っぽいフォルムのエヴァを作成して貰い、
それとダリアとを戦わせ『真紅の羅刹もアキトに負けず劣らず活躍していますよ』という所を捉えた迫力ある映像をデッチ上げるという企画を立てたという訳である。

難を言えば、肝心の対戦相手が入れ込み過ぎと言うか。
八百長に応じてくれなかったのが些か気になる所だが、まあモノは考え様だ。
嘘臭くないリアルな戦闘シーンを撮り易くなったと思えば、寧ろ好都合だろう。

「(ゼエゼエ)と…兎に角、過度の演出は不要です。
 事実の捏造は最小限にして下さい。只でさえ余りにも嘘臭い話なんですから。
 と言いますか、いまだ参戦許可の降りていない機体まで出している時点で完璧にアウトです」

とか何とか胸中で色々考えている間に、漸く立ち直ったナカザトがそんな苦言を。
どうも、本気で俺は馬鹿だと思われているっぽい。トンでもナイロンタワシ。
これはこれで意味があるのだ。

「大丈夫、コッチは木連向けのイメージ映像だから。
 つ〜か、そんなに心配だったら、お前が作ったら如何だ? 政府向けのヤツは」

「判りました。僭越ではありますが、自分が担当させて頂きます。
 と言いましても、自分はその手の事は良く判りませんので、最終確認のみを行う事に。
 今回の模擬戦の撮影及び編集に関しては、春待三尉に依頼しておきます」

って、事実上の丸投げかよ。
ま…まあ良いか。そういう事ならハズレは無いだろうし。

「(コホン)それじゃ、そういう事で。そろそろ本命の話に移ろうか」

「はい。つい先程、シンジ君が此方に到着しました。現在、アスカさんが参戦の説得を行っております」

「ほ〜う。どれどれ(ピッ)」

ナカザトの言を受け、コミニュケを操作し、その様子を覗いてみる。
すると、のっけからテンパった。TVの前で引き攣った笑みを浮べているシンジ君の姿が。

『知らないお天気お姉さんだ』

彼女が見詰める画面の先には、あまりアテになりそうもない。
実は予報士の資格を持っていないんじゃないかと勘繰りたくなる様な。
アナウンサーというよりアイドルといったカンジの年恰好の少女が、お決まりの専門用語を舌っ足らずな口調で囀っているのだ。
23世紀の今日ではさして珍しくも無い配役なのだが、21世紀の。森○さんの天気予報に慣れた彼女には軽いカルチャーショックだろう。

『って、聞いてンのシンジ!』

『うん、聞いてはいるよ。ただ、全然理解出来ないだけで』

いまだ頭がハングアップしているらしく、フラットな口調でそんな覚束ない返答を口にするシンジ君。
そんな現実逃避気味の彼女に渇を入れるべく、アスカちゃんは激しい語調で、

『ああもう、仕方ないわね。
 そんなアンタでも判る様に、判り易く噛み砕きつつ順序立てて話してやるわ。精々感謝なさい。
 イイ事。現在、アタシ達はダークネス首領の依頼を受けて、模擬戦をヤルために此処に来ているの。
 そんでもって、対戦相手は、アタシが北斗先生の乗る機体。アンタが、例のダーク・ガンガーとかいう機動兵器。
 メリットは、報酬として『予算が無い』とかヌカしてリツコが開発をシブってるママが残してくれたエヴァ専用兵器一式の贈与。
 デメリットは特に無し。精々、負けたら死ぬほどイタイ事くらいよ。それくらい何時ものコトだから構わないでしょ。
 つ〜ワケで判った? 勿論、OKよね。とゆ〜か、黙ってYesかハイと言え!』

『黙ってたら答えられんがな』と、胸中で突っ込んでおく。
とゆ〜か、あのシンジ君の狼狽ぶりからして、ひょっとして事前に説明されていなかったの?
たしか、北斗の方にも連絡を入れておいた筈なんだが………

『アンタの言いたい事は判ってる。
 確かに、個人レベルの戦闘力に関しちゃ明らかに向こうが上よ。悔しいけどね。
 取り分け、格闘戦の技量に至っては比べるのバカらしいくらい桁違い。
 ハッキリ言って、まともにヤったら万に一つも勝ち目が無いわ』

『そ…それが判っているなら如何して?』

『大丈夫、チャンとそれを引っくり返せるだけの秘策を用意したから』

と言いつつ、アスカちゃんはパチンと指を鳴らす。
その合図に合わせて、隣室から何人もの美女&美少女が。
カヲリ君を初めとするクラスメイト組と、既に定職(?)に就いている社会人組。
何故か此処暫く音信不通状態なアカリちゃんを除く、転生済みの全使徒娘が勢揃いした。

『サブパイロットとして彼女達にも協力して貰うわ。
 これで勝つる。三人寄れば百万パワーってヤツよ』

『いや、違うからソレ。色々誤謬があるから。
 とゆ〜か、その理屈が一端だけでも通じるのは、パイロットの頭数だけATフィールドの制御能力が加算されるエヴァだけだし』

『問題ないわ。チャンとエヴァに準じる機体を用意して貰ってあるから』

『なら尚更だよ。忘れたの? 良くも悪くも、エヴァはチルドレンの専用機なんだよ。
 こんな事は言いたくないけど、カヲリさん達が乗ってもシンクロの邪魔にしかならないでしょ?』

『それも大丈夫ですわ。私達は元使徒ですから』

西の空に、明けの明星が輝く頃、一つの光が飛んでいく。それが僕だ………
じゃなくて、言っちまいやがった! 連載もまだ中盤だっていうのに、最終回用のセリフを言っちまいやがった! どうするんだよ、オイ!
とゆ〜か、ナニを考えてるんだよ、カヲリ君!?

『ATフィールドの操作に関してはお手のものってことね』

そう言いつつ、実際にATフィールドを張って見せるカヲリ君。

『う…ウソだ、そんなの』

真っ青な顔になり、よろめく様に。イヤイヤをする幼子の様に身を竦ませる。
そんな、驚愕の事実に翻弄されているシンジ君に畳み掛ける様に、

『ヒドイ。嗚呼、アタシは悲しいわよ。
 見損なったわ。まさかアンタが、そんな前世紀の遺物とも言うべき偏見の持ち主だったなんて』

いや、アスカちゃん。これはもう人種差別とか何とかというレベルじゃないでしょ、幾ら何でも。
実際、こういう場合『そんな事は如何でも良い。俺達は仲間じゃないか』といった具合に。
衝撃の秘密を打ち明ける事で、より結束を強くするのがお約束だけど、そういうのはキチンと前フリが。
劇中でも“もしかしたら”といった風にそれを匂わせる描写が。事前にある程度は覚悟が出来てるモンだし。

とゆ〜かナニ? 君のその棒読み口調は?
なまじ『信じていた相手に拒絶され悲しんでいる』というカヲリ君の演技が完璧なもんだから、浮きまくってるよソレ。

『ごめんなさい。無理なお願いをしてしまったようですわね。
 そうですわよね。所詮、私達は化け物。貴女とは相容れない存在ですわよね……………さよなら!』

え〜と、これはアレなの?
唐突に自分の正体を告げた挙句、混乱している相手に『拒絶された』とか勝手に思い込んで敵に回るというパターンなの?
でもって、『あの時、自分が○○ちゃんの事を理解してあげていれば』とかトラウマを残して、主人公に戦う事を強制するフラグなの?

とゆ〜か、ナンでそんなにモタモタして。
矢鱈ゆっくり歩いた挙句、更には出入り口付近でチラチラと振り返ったりしているの?
此処は走り去るのが。君の場合はボソンジャンプで消えるのがセオリーでしょ………って、まさか!?

『(パシッ)待って!』

と、そんなカヲリ君の手を掴んで引き止め、

『ゴメン。いきなりだったから………えっと。カヲリさん達が元使徒でも関係ないって言うか。僕だって今じゃこんな身体だし………
 も…勿論、それを卑下してるんじゃなくて………ゴメン。上手く言えなくて。
 でも、これでお別れなんてイヤだよ。カヲリさんに………皆に居なくなって欲しくないよ』

たどたどしい口調ながらも、必死に謝罪し翻意を促すシンジ君。
言葉になら声で。そんな彼女を抱きしめる事でそれに応えるカヲリ君。
それを拍手をもって賞賛する、アスカちゃんと(爆睡中のラナちゃんを除く)使徒娘達。
丁度、TVの最終回の如くオメデトウな展開に。

本来ならすれ違う筈だった運命を、ギリギリの所で引き戻す事が出来た。
と、シンジ君の主観ではそう見えるのだろう。
実際、彼女からはヒロイン的なオーラが。その瞳から零れる涙は眩しいまでに輝いていた。

その死角となる位置に立つアスカちゃんの。
目薬をポッケに納めつつ、如何にも『(フッ)チョロイわね』と言わんばかりな暗笑を浮べている彼女のそれとは、似ても似つかないものだった。
カヲリ君に至っては、自在に涙を流すくらい造作も無い事。
実際、此方もまた、抱き合っているが故に顔が見えないのを良い事に、アスカちゃんと同種の微笑みを浮べている始末。

こ…コイツはクセーッ! 新興宗教の教祖よりもヤバイ臭いがプンプンしやがるぜーッ!
元使徒だから? 違うね、コイツ等は生まれついての悪女だッ!
逃げて! シンジ君、逃げて〜! って、絶対無理だろうけど。

ま…まあ良い。些か力技が過ぎる気もするが、これで最終決戦前にこなさなくてはならない関門の一つが減ったし、何より、シンジ君を此方に引き込み易くなった。
結果から見れば、充分黒字だろう。
彼女の未来に関しては。アレについて“見なかった事にすれば”問題なしだ。

無理矢理自分にそう言い聞かせておく。
ある意味思考停止だが、仕方が無い。俺には他にもやらなくてはならない事が沢山あるのだ。

「(コホン)まあ、この件はこのままアスカちゃんに任せるとして………」

と、咳払いを一つ入れつつ、次の案件に移る。

「AWA(使徒戦をライブで観賞する会)の連中の様子は如何だ?」

「今の所、問題ありません。一時間程前に到着。展望室での天体観賞を終え、今は第3会議室にて無重力空間を体感中であります」

そう。実はギャラリー役として、あの腐った連中(第9話及び外伝参照)を連れて来ていたりするだ。
思わず『他に選べなかったのかよ?』という突っ込みを入れたくなる人選だが、実はコレがそう捨てたモノでは無かったりする。
何と言うか、アンダーなサイトでは連中のリークするレア情報や考察とかが、ワリと高い評価を得て。
非公式ながらも、対使徒戦の評論家団体としてそれなりに名が通っていたりするので、視聴者代表としても左程波風が立たないし。
何より、イザという時、コイツ等なら見捨ててもチッとも心が痛まないし。

ついでに言えば、『ど〜せ相手は金持ちだ』と思って、参加費として一人頭一千万円ずつ徴収したのだが………
よ〜く考えてみると、実は破格の安値じゃね? この時代の宇宙旅行としては。
小市民的な金銭感覚な俺的には何となく気が引けたんで、宇宙空間ならではの目玉企画を色々と。
此処に来る前にも月面都市での観光とかも入れといたんだが、チョッとサービスし過ぎだったかも知れん。

「連中と行動を共にしている鈴音ちゃんは大丈夫か?」

「正直申し上げて、あまり喜ばしい状況ではありません。概ね好意的に受け入れられてはいるのですが………」

と言いつつ、ナカザトがコミニュケを操作し向こうのライブ映像を。

『キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!』『宇宙空間に、俺、参上!』

『(゚∀゚)=3ムハーッ!』『熱くなれよ、もっと熱くなれよ』

『しかも、ガイドはあのユキミタンだ〜〜っ!』『さっき、カットインさながらな乳揺れを生で目撃した俺は勝ち組』『うん、アレはイイモノだ』

『でも、シンジキュンがおんにゃの子なまま。ウウッ、俺のシンジキュンが(泣)』『悔しいのう…悔しいのう』

『モチツケ、オマエラ』『新キャラでも見てナゴめ』

『(;´Д`)ハァハァ』『(;´Д`)ハァハァ』

『誰がヨクジョウしろと言った!』『自重しる!』『助けて下さい、助けて下さい』

『キヤーーッ!(トン、トン、バキッ!)』

『あ…アレはイ○ズマ反転キック。まさか、あの様な幼子がその使い手だったとは』『知っているのか雷○!』

『うむ。周囲の壁を足場として飛び回りつつその反動を利用して蹴り付けるという、無重力空間だからこそ成立する大技だ』『うわっ、ようじょテラツヨス』

な…なんだかなあ。確かに人気者っぽいが、情操教育上問題じゃね? アレって。
何でも、少しでも多くの戦闘シーンを見せておきたいとかで連れて来たんだが………
『あまり甘やかすな』と北斗は言っていたが、矢張り、あの子は別枠にしておくべきだったのかも知れん。

「で、奥義習得イベントとかで秘密特訓帰りのヤマダの調整がてらに組んだアレは如何なっている?」

とは言え、やってしまったモンはもう仕方ない。
そう割り切りつつ、俺は次の案件を促す。

「はい。先程、全回線の接続を確認。
 地球の各地に散っているパイロット達のエントリーも終了しました。
 予定通り、17:00よりシミュレーションルームにて模擬戦が………」

「ノンノン。『エステバリスのエースは誰だ? 輝け! 第四回ナデシコ杯争奪バトルロイヤル』だ」

「(コホン)確かに、優れた技量を持ったパイロット達の勝負だとは思いますが、少々大げさと言いますか。
 ワザワザそんな大仰な形容詞を付ける必要も無いでは?」

「トンでも無い。毎回、優勝者には豪華商品を出しているし、トトカルチョだって盛大に行われているんだぞ」

ちなみに、第一回の優勝はアリサ君で第2回がスバル君。 
第三回が、そんな二人の潰し合いの末に漁夫の利を得たアカツキだったりする。

「…………了解しました。兎に角、既に準備は整っております」

「OK、それじゃ行こうか。時間も押して居る事だし」

と言いつつ、俺は徐に席を立った。

ちなみに、この戦いはAWAの連中と鈴音ちゃんには見せられない。
だって、コレを見せちゃったらヤマダの正体が。
より正確には、ダーク・ガンガーが実は大した事のない。微妙な性能の機体だって事がバレちゃうもん。




   〜 30分後、シミュレーションルーム。 〜

今回は調整の意味合いが強かったので、不公平を承知で戦闘フィールドを火星の大地に。
障害物の無い開けた場所に設定した事もあって、予定通り短期決戦となった。

アマノイワト先生ことアマノ君は、修羅場につき今回は不参加。
状況設定が災いして距離を空けられず、マキ君とカザマ君と言った長距離砲タイプが真っ先に潰されリタイヤ。
ランダム設定の出現場所で、運悪くアリサ君とスバル君がすぐ近くに出た為、今回も潰しあいになり、相打ちの末、両者リタイヤ。
そんなこんなで、戦いは終盤戦に。ヤマダとアカツキの一騎打ちとなった。

   バララララッ………

接近戦は不利とみて、カスタムタイプのラビットライフルで弾幕をバラ撒きつつ距離を取ろうとするジャッジ。
だが、前回大会では有効だったその戦術が今回は通じない。
荒御霊と静御霊が生み出す鉄壁の防御陣に加えて、直線的な動きだけならジャッジのそれを上回る機動力で一気に追い縋る。
そう。御剣の助言に従い、今回のヤマダはダーク・ガンガーではなくガンガーを選択。
オプションパーツとして、何時もの小太刀型DFSの装備を使用しているのである。

だが、これを卑怯と誹るのは些か筋違いと言えよう。
だって、ダーク・ガンガーってば、フルバースト機能を組み込まれていだけで、中身は量産型エステバリスに毛の生えた程度のスペックしか無いんだもん。
卑怯なのは寧ろ、臆面も無く量産型ガイアを装着しているアカツキの方だろう。

「(フッ)引っ掛かったね、ヤマダ君。貰ったよ、飛竜翼斬!」

と、言ってる側から、中間距離まで間合いが詰まり『今だ!』とばかりに、ヤマダが嵩に掛って加速した所を狙って、絶え間ない弾幕によってコントロールした。
正確に距離を測ったベストポジションから、借り物の必殺技を繰り出すアカツキ。
有効な戦術なのは認めるが、反則スレスレと言うか、実に大人気ないコンボだ、

しかし、結果から言えばコレは失策だった。
そう。剣士としての勝負に関して言えば、正規の小太刀術(?)を納めたヤマダに一日の長があった。

『鷹嘴螺旋撃!』

迫り来る何物をも切り裂く赤い衝撃を前に怯む事無く、ヤマダは更に急加速。
そんな超スピードから震脚っぽい動きでドスンと鋭く踏み切り、前方に大きくジャンプ。
そのまま両手の小太刀を突き出しながら鋭く錐揉回転。
まるで超○磁スピンの如き、決死のドリルアタックを敢行。

多分、それでもなお、総合的な破壊力という点では偽・飛竜翼斬の方が上だっただろう。
しかし、己の技への信頼度及び完成度においては、自力で習得したヤマダと借り物の技に過ぎないアカツキのそれとでは天と地の差が。
そして、切り裂く線の攻撃に対する一点集中の穿つ攻撃と、技の相性という面でも恵まれ、

   パリン!

赤い閃光の中央部を打ち抜き、ガンガーがその勇姿を。

『う…嘘〜〜っ!』

流石に無傷とはいかず、ほとんどの装甲が傷だらけなボロボロの状態ながらも五体満足(?)な。
戦闘稼動に支障の無い状態で見事生還。
間合いも既に近距離まで接近している。既にヤマダの射程距離だ。

こうなるとアカツキが一気に不利に。否、パニクっているあの有様では既に勝負アリだろう。
その辺をアレも感じ取ったらしく、最早、飛び込んで切るだけで済む所をその追い足を止め、

『真刀荒鷹流最終奥義! 金鷹飛翔!』

大きく大地を踏み締めた不動の構えから、両手を素早く腰溜めに。
丁度、ア○マル浜○のハッ○ルハッ○ルの様なポーズを。

『あれ〜〜〜っ?』

如何いう訳か、その動きに合わせて、まるで招き猫に操られるが如く、全速で後退していた筈のジャッジがスーと引き寄せられて行き、

『壱の型、水月!』

  ドゴ〜〜〜ン!

『待ってましたと』ばかりに小太刀で切り付けられ、何故か真っ二つではなく木っ端微塵に。
そのまま、古き良き時代のロボットアニメの如く派手に爆発した。

………ナニあれ?
理不尽過ぎるだろ幾ら何でも。
信じらんね〜、アキトや北斗でさえソコまではやらないってゆ〜か、
とうとうパーペキに人間ヤメやがったな、あのヤロウ。




   〜 10分後、ブリーフィングルーム。 〜

「いや〜参った。強くなったよ、ヤマダ君は。
 特に、あのガードの固さは脅威だね。アレは、ありし日の。丁度、北斗君と出会ったばかりの頃のテンカワ君にも匹敵するよ」

戦闘終了後、サバサバとした口調でそう語るアカツキ。
いや、潔いのは結構だが、問題なのはソコじゃないだろ。
とゆ〜か、ナンで此処に居るんだよオマエ。曲りなりにも会長で多忙な筈なのに。

「それにしても、まさかクロスレンジでの攻防力に、こうまで差が付くとはね。此処は一つ、僕も剣術を習ってみようかな?」

そんな俺の困惑を一顧だにせず、アカツキは隣の席の。
今回の目玉である『北斗VSアスカちゃん』を観戦すべくやってきた東提督の御付である各務君の方をチラチラと伺いつつ、

「とゆ〜わけで、是非ともマンツーマンの指導を受けたいんだけど、生憎、其方の方面には明るくなくてねえ。
 そんな訳で、是非とも君にお願いできないかな、千沙君?」

なるほど、そ〜ゆオチかよ。
でも、無理がアリ過ぎだろソレは。

「残念ですが、ご期待には添えませんね。
 私、銃の方が専門で。剣術の方は全く心得がないもので」

「(ハッハッハッ)だと思った。  やっぱり、戦場でモノを言うのは射撃力。『銃は剣よりも強し』だよね」

と、笑顔もそのままに、チッとも残念そうじゃない顔で社交辞令を述べる各務君を前に、それまでの主張をクルっと翻すアカツキ。
ホンにメゲないと言うか、節操の無さも此処まで来ると一つの技だよな、うん。

いや、この際、コイツの事はドウでも良い。今、問題なのは………

「やったな、ガイ」

「ああ。ようやく80%ってトコだ。後は、このまま技の精度を上げて行けば………」

とか、あんな理不尽攻撃を“技”とか言っちゃってる連中の事だ。
アレは絶対オカシイだろ? 幾ら恋は盲目だからって、それ位は気付こうよ、御剣君。

「(コホン)あ〜、その事なんだが………」

そんな訳で、俺がおっとり刀でその辺を諭そうとした時、

「すまん、提督。ソレは師である俺に言わせてくれ」

と、北斗が俺の言を遮ると、

「貴様、今、八分の出来とかヌかしたな? バカも休み休み言え。アレではまだ30点もやれんぞ」

コッチの気も知らんと、そんな止めの一撃をかましてくれた。

「って、何でだよ! そりゃ〜、アン時は別に奥義を出す必要なんてなかったってゆ〜か、
 寧ろ、ああやって出来過ぎなくらい整った状況だから使えたってカンジだけど、そこまでヒドクはない筈だぜ!」

「そうですよ、北斗様。確かに、いまだ『技』と呼ぶには粗いと言いますか、
 貴方の目からみれば隙だらけなのかも知れませんが、このまま精度を上げていけば、いずれは………」

「いや、幾ら煮詰めても解決はせんよ。寧ろ、かえって悪くなりかねん」

口々に反論するヤマダと御剣君。
北斗は、なおも淡々とダメ出しを。
そして、『この場でチョッとやってみろ』と指示。
それに従い、ヤマダは懐からゴム風船を取り出し、ソレを一杯まで膨らますとポンと宙に。

「真刀荒鷹流最終奥義! 金鷹飛翔!」

そして、掛け声も勇ましく、両手を素早く腰溜めに。
その動きに合わせて、なんと部屋の空気に動きが。
ヤマダの正面に向かって流れる一陣の風が吹き出し、
その流れに乗って、まるで掃除機に吸い寄せられる如く、風船はスーと一気に引き寄せられて行き、

「壱の型、水月!(パン!)」

と、無手の攻撃ながらも先程のジャッジと同じ運命に。
右フックの一閃によって、木っ端微塵に弾け飛んだ。

な…なるほど、アレはそういう技だったのかよ。なんて理不尽な。
とゆ〜か、どうやって吹かせてるんだよ、その風は!
…………いや、よそう。ナンかコワイ答えが返ってきそうだし。

「矢張りな。思った通り、それでは不完全だ」

しかし、それでもなお北斗はダメ出しを。
そして、もう一つゴム風船を用意させた後、『これがお手本だ』とばかりに。
特に気合を入れるでもなく、両手を無造作に腰溜めに。
その動きに合わせ再び一陣の風が吹き、ゴム風船が北斗に向かって吸い寄せられ、

   パン!

それに合わせて、右ストレート一閃。
先程よりも高音域の破裂音を残して、奇麗サッパリ消え失せた。

いや、良く見れば小さな破片が沢山転がっているぽいのだが、大きさが普通のホコリゴミのレベル。
ヤマダのそれと違って、ゴム風船の残骸だと特定するのが難しい程の細かさなのだ。

「今のが本来の水月らしいぞ」

「ら…らしいって?」

自分のそれとは明らかに異質なそれに戸惑いつつ、ヤマダが問い返す。

「いや、北天本家(ウチ)にあった古い映像記録。
 真刀荒鷹流の五代くらい前の当主で……たしか御剣博光とかいうヤツが使っていたのを見て覚えただけなんでな。流石に断言はできん」

「な…なんてこった。代々口伝されていた奥義は、その意味が半分しか伝わっていなかったのかよ。
 (フッ)畜生、どうりで館長が習得出来なかったワケだぜ』

何の気無しに返された衝撃(?)の事実に『ガ〜ン』と自分で効果音を入れつつ、劇画調に驚愕する。
そんな、自分だけの世界に浸り切っているヤマダに代わって御剣君が、

「あの、北斗様。ひょとして、弐の型『紅蓮』や参の型『神鳴』の記録もあったりするのでしょうか?」

「うむ。流石に、終の型『崩無嵐皇』までは無いがな。
 何せ、それを会得した者は、いまだ流派の開祖である御剣貞治だけらしいし」

って、あんなのがまだ幾つもあるんかい!
どんだけトンデモ武道なんだよ、真刀荒鷹流って?
ま…まあ良いか。今更、ヤマダがドコへ逝こうと俺の知った事じゃないしな。

「さ〜て、シンジ君の様子はど〜かなあ?」

と、この異常な流れを断ち切るべく、ややワザとらしくそんな事を宣いつつ、俺は映像を現場に繋いだ。
すると、三日前のそれと同じ要領で、白いカラーリングのエヴァっぽい機体が、宇宙空間で準備運動を。
次いで、軽くパンチやキックの調子を試した後、シャドウボクシングを。
何かと戦っているっぽい動きを繰り返しつつ、自身の動きを確認している。

うんうん。やっぱ、最低でもコレくらいの準備はするべきと言うか『いきなり敵の前に放り出す』ってのは論外だよな。
もっとも、彼女の場合、あまり万全の準備をさせるのもマズイと言うか、
下手に考える時間を与えると、マイナス要素にばかりに目が行ってネガティブ思考全開になりかねないので、これもまた不許可なんだけど。

『調子はドウ?』

『うん。零号機や伍号機より関節部が柔らかくて、かなり動き易いよ。
 でも、その分、防御が犠牲になっているって言うか。装甲がペラペラなのがチョッと怖いんだけど………』

アスカちゃんの問いに、チョッと不安顔でそう返すシンジ君。
ちなみに、此方で用意した機体は、伍号機よりも更に生物的な。要所要所に装甲を貼り付けた、ウナゲリオンっぽいもの。
超高速での近接戦闘を前提に、ダリアよりも一回り大きい位のコンパクトボディに従来の1.7倍のパワーゲージを実現。
おまけに、シンクロ率も99%に設定してあったりする。

『安心しなさい。装甲なんてタダの飾り、当たらなければドウという事はないわ。
 そう。ぶっちゃけ、これからヤるのは“そういう”戦いよ』

『その言葉のドコを安心しろっていうのさ!
 大体無茶だよ。いきなり宇宙で、それも初めて乗る機体で戦えだなんて。
 アスカみたいな天才と一緒にしないでよ。そんなの出来る訳ないじゃないか』

『ナニよソレ! イヤミも大概にしなさいよ!
 このアタシでさえ習得に半日近くも掛った宇宙空間での機動に、開始30分足らずで適応したクセに!
 ってゆ〜か、イイ加減自覚しなさい。半年以上も北斗先生と一つ屋根の下で生き抜いてきた時点で、アンタはもう立派に異常者なの。
 とっくの昔に、アッチ寄りの人間なのよ。
 断言するわ。ナンだったら、このママの形見(仮)のペンダントを賭けてもイイわよ」

嗚呼、もうチョッとオブラートに包むと言うか。何もそこまでハッキリ言い切らなくてもイイだろうに。
とゆ〜か、ママの形見(仮)ってドウいう意味? まさか、まだ諦めてなかったりするの?
だ…駄目だぞ、俺。一時の感情に流されるな。それだけは…何としても、それだけは阻止しなくては。

『兎に角、グダグダ言っているヒマがあったらコンディション調整に専念する。開始まで、もう一時間を切ってるんだから』

『あっ。それなんだけど、コレって電源はドウなってるの?
 補給とかしなくても良いの? なんか、ケーブルも外部電源も無いみたいなんだけど』

『それなら重力波アンテナによる………(コホン)と…兎に角、毎ターン必ず満タンになるから気にしなくて良いわ』

『はい?』

『ようは企業秘密ってヤツよ。ダークネス脅威のメカニズムとでも思って納得しなさい。
 あと、それに頼って『逃げ回る』ってのはナシだからね。正面からのガチンコ勝負オンリーよ、OK?』

『て…敵の焦りと精神的疲弊を狙って、持久戦に持ち込むのも駄目?』

『ダメに決まってンでしょ!
 これは全世界で放送される世紀の一戦なのよ。アンタもプロなら、チャンと自分の仕事をしなさい!』

『…………』

此処で、ついにシンジ君沈黙。
『僕はそんなモノになった覚えはナイよ』と言いたそうではあるが、敢えて口にはしない。
ようやく、もはやナニを言ってもムダだと悟ったらしい。いや善哉善哉。

   ピピッ、ピピッ

かくて、叱咤激励を繰り返し、漸くシンジ君を完全に諦め………じゃなくて、その気にさせる事に成功。
『やれやれ』とばかりに一息吐くと、アスカちゃんは此方に通信を。
当然ながら、一部始終を覗いていた事などおくびにも出す事無く、

「おや。如何したのかね、アスカちゃん? 何かトラブルでも起こったのかい?」

と、さも今気付いた風を装いつつ受け答えを。

『此方は極めて順調よ。これから、アタシもウォームアップに入るトコ。
 ンでもって、その前にど〜しても言っておきたいコトがあるんだけど、そこに北斗先生は居る?』

彼女の御指名に応じて、北斗にその旨を伝える。

「で、何の用だ」

コミニュケの割り込み画面に北斗登場。かったるそうにそう尋ねる。
そんな彼の態度に頓着する事無く、

『ん〜〜、『用』っていうより念の為の確認かな。
 これからアンタと戦うワケなんだけど、その前に一つだけ聞いておこうと思って』

「何をだ?」

『コレって勝敗はドッチに転んでも。別に、アンタを倒してしまっても構わないのよね?』

何時もの勝気な態度のまま、そんな事を宣まってくれやがりました。
ううっ、正気かこの子は。北斗を相手に挑発なんて、スバル君達でさえアキト絡みの時にしかやらない危険度SSSの暴挙なのに。

「そうか。まあガンバレや」

って、北斗も北斗で、そのリアクションはナイだろ。
ほら、アスカちゃんの頬がヒクヒクしているっていうか、MK5(死語)だし。
もうチョッと言い方ってモンがあるだろ? 仮にも自分の生徒なんだから。

『(コホン)ま…まあイイわ。兎に角、このアタシが戦う以上、必ず勝たせて貰うわよ』

最後にそう言い残して、アスカちゃんからの通信は切れた。

「うんうん。強くなったわね、彼女。
 飯を喰らい、気を喰らい、喜びを喰らい、哀しみを喰らい、愛を喰らい、嘲りを喰らい、
 繰り返すうちに、取るに足らない筈だった脆弱なる小猫は何時しか、真紅の羅刹の視線をもマトモに受け止める獅子へと進化を遂げ、
 更なる変貌を諦めず、更なる熟成を諦めず、やがてその餌として完成を見るってトコかしら」

いや、なんでそんなに嬉しそうなのさ、ラピスちゃん。
とゆ〜か、そこまで持ち上げといて『餌』は無いだろ、普通。しかも、まったくシャレになってないし。

「正直、あまり食べたくないな。おかしなクセが強そうだ」

って、北斗も素で受けないで。
そこはスルーして。んでもって、チャンと手加減してあげて。お願いだから。




   〜 一時間後、再びブリーフィングルーム。 〜

『さあ! やってまいりました世紀の瞬間!
 これより、真紅の羅刹&大豪寺ガイVSエヴァチームによる一戦を開始いたします!』

昨今の木連におけるイベント物のお約束。
マリアちゃんによるオープニングセレモニー。今回はナナコさんのコスプレによる『勝利のVだゲキガンガーV』が熱唱され、次いで、彼女の口から模擬戦の。
外宇宙からの侵略者との戦闘の元ネタとなる戦いの開始が宣言される。

それを受け、母艦であるロサ・キネンシスより、北斗の駆るダリアと大豪寺(一応、撮影中なので芸名を使用)が駆るダークガンガーが発進し、

   バン!バン!バン!
        バシュ! バシュ! バシュ!
            キュイ〜〜〜ン! キュイ〜〜〜ン!

それとほぼ同時のタイミングにて、シンジ君達が待機中の宙域から、サキエルの熱線砲、ロケットランチャー、ラミエルの荷粒子砲が。
北斗達に向かって、出会い頭に最大火力による狙撃の連打が浴びせられた。

『良いのかなあ』

全弾撃ち尽くしたロケットランチャーを投げ捨てながら、シンジ君がポツリと呟く。
その弱気を叱咤する様に、

『イイに決まってるでしょ。戦いの開始はとっくに宣言されていたのよ』

『でもさ、アスカ。多分、効いていないっていうか。
 コレって、単に北斗さん達を怒らせるだけなんじゃないかと思うんだけど』

『ん〜〜、そうでもナイわよ。本命は兎も角、そのオマケはチャンと釣れたみたいだから』

『えっ?』

『つ〜ワケで逝って来い!(ドカッ!)』

と言いつつ、シンジ君の乗る白いエヴァを蹴り出すアスカちゃん。
そして、無重力故に一直線に飛んで行くその先には、

『やりやがった、この野郎!』

先程の出会い頭の攻撃。彼女の挑発にシッカリ乗っかり、鼻息も荒くヤル気満々な大豪寺が。
そのまま、済崩しに一対一の近接戦闘に突入した。

『よし、計算通り!』

ひ…ヒドイ。いや、それ以上に、これは明らかに愚策だ。
これでは、アスカちゃんは単独で北斗と戦わなくてはならない事に………

『イイのか。折角、修練抜きでも呼吸を合わせてくれる相棒が居るのに、それを有効活用しなくて?』

北斗もまた同じ疑問を持ったらしく、コミュニケを通じてそんな問いを。

『勿論。だって、こうすればアンタはアタシの提案に乗ってくる筈だもの』

『提案?』

『そう。『アタシとアンタの勝負は、コレが終ってからにしましょう』って話よ。
 だって、アンタも気になるでしょう、シンジとアレの戦闘の行方が?』

『そんな必要があるとは思えんな。
 別に気になどなっていないし、仮にそうだとしても、サッサとお前を片付ければ済む話だ』

『あら、イイの。そんなショーマンシップに欠ける事をヤっちゃっても。
 どこかの提督様の機嫌を損ねるんじゃなくて?』

『……………(フン)イイだろう。あまり簡単に終らせてもナンだしな』

凄え! あの北斗を丸め込んじまった。
しかも、戦略的に有利な条件を引き出す形で。

そう。良く考えてみれば、彼我の戦力差は、チョっとコンビプレイが上手くいった位で覆される程度のモノではない。
当然ながら、シ○メトリカルドッキングや大警○合体が出来る訳でもない。
つまり、局地戦の方が。北斗&大豪寺とダブルスで戦うよりも、大豪寺VSシンジ君の方がまだ勝算を見込めるのだ。
そして、上手くシンジ君が勝てば、北斗と2対1で戦える。
負けたとしても、2対2が1対1になるだけで特にデメリットは。勝算が限りなくゼロに近い事に代わりはない。

とは言え、正味の話、シンジ君は多分勝てない。
俺の目から見た限りでは、主人公補正だけで覆せる程、大豪寺との実力差は小さくない。
従って、最初から彼女を捨て駒にしたとしても、

『うわ〜〜っ! 如何したの!? ATフィールド薄過ぎだよ、魚住さん!』

『仕方ないじゃない。宇宙の海は私の肌に合わないんだから』

ATフィールドの多重展開におてい、その担当者ごとに強度がバラバラだったり、

『(クッ)兎に角、一旦距離を取らないと……』

『任せて、霧露迷彩!………って、ゴメン。周囲に水分が無いんで霧が作れないみたい』

『しからば私が! 火遁の術!………ば、馬鹿な! 何故に炎が出ない!?』

『だから、そういう自然現象を利用した系統の技は、宇宙では使えないんだってば!』

コアに宿る事でエヴァと100%同化していても、肝心の特殊能力が使い物にならなかったり、

『(グ〜グ〜)』

『嗚呼、ついにシンジ君と一つになる日が 感無量ってことね』

『って、こんな時くらい協力してよ、日暮さん。カヲリさんも、イイ加減、正気に戻ってよ!』

と、この様に、同乗する使徒娘の人事を自分の都合の良い形にしても。
宇宙戦には不向きな方の娘達を押し付けても全く構わないのである。

蛇足だが、カヲリ君がコワレテいるのは、半ば俺の指示によるものだったりする。
だってほら、彼女の能力は公にする訳にいかないし。
そんな訳で、適当な理由を付けて誤魔化してくれる様に言っておいたんだが………
演技だよね。演技なんだよね。実は素でやっているなんて言わないのよね、カヲリ君。

『おりゃ! おりゃ! おりゃあ!』

ともあれ、それでも敵は待ってはくれない。
それどころか、嵩にかかって攻め立ててくる。
その猛攻を必死に回避し続け、

『鷹嘴刺突撃!』

   ガキッ!

ついには躱しきれず、止めの一撃を貰って………
否、ダーク・ガンガーが打ち出した矢の様な突きを、ワザと貰う形で。
右掌部分にのみ集中させて強度を上げたATフィールドにてその必殺の一撃を受け止め、その反動で。
変則の浮身にて距離を取り、どうにか仕切り直しに。

『(ハアハア)雨宮さん、瞬動の術は使える?』

紙一重の攻防。しかも、ATFの一点集中という高難度の技の使用と、
二重の形で精神力をゴッソリ削られ、荒い息を吐きつつ、シンジ君がそう尋ねる。

『すまんが無理だ。肝心の足場が無いし、虚空瞬動はまだ私の手に余る』

『それじゃ、光遁の術。なるべく大きな雲を出して』

『いや、それならば出来なくはないが。それを行うと、私には攻撃手段が無くなってしまう………』

『それで良いから。寧ろ、雲の制御に全力集中。そのまま全速力で真後ろに飛んで!』

かくて、前方を向いたまま後方へ。
まるでビデオの逆再生の様な動きで、全力全開で敵前逃亡を始めるシンジ君IN白いエヴァ。

『逃がすかよ!』

無論、黙ってそれを許す様な大豪寺ではない。
ダーク・ガンガーをフルバーストに。猛然と追い縋り、一気に勝負を決めに行く。

その超加速によって、ドンドン距離が詰まって行く。
だが、シンジ君の方も闇雲に逃げているワケでは。
さり気なく、プロレグシッブナイフを後ろ手に隠しているあたり、ナニかを狙っているっぽい。
もしも、頭に血が上って視野狭窄に陥っている大豪寺が、それに気付いていないとしたら………

『貰った〜〜〜っ!』

そして、そんな俺の懸念を肯定するかの様に、何の捻りも無く。
猪の如く一直線に突貫するダーク・ガンガー。
だが、いよいよ近接戦闘に。小太刀の間合いに入ろうとした時、

  ガクン

そのまま、光遁の術の雲が顕在している圏内に入った瞬間、僅かだがダーク・ガンガーの挙動が乱れた。
その一瞬の隙を狙って、シンジ君のエヴァが突進。ATフィールドを纏わせ左手に持ったプロレグシッブナイフにて飛び込み突きを。

『(クッ)鷹爪薙旋撃!』

僅かに体勢を崩しつつも、強引に必殺技にて迎え撃つダーク・ガンガー。
突き出されたプロレグシッブナイフを右の静御霊にて払いつつ、そのまま横薙ぎの三連打を叩き込む。
だが、不完全な形で発動したそれは相手を仕留めるには至らなかった。

   ガキッ

左手を膾切りにされながらも、シンジ君のエヴァは、その衝撃を下方に受け流しつつ大きくジャンプ。
そのままクルリと前方回転しつつ、浴びせ蹴りと胴回し蹴りの中間の様な軌道の。

   ガキッ

左斜め上からの蹴りを叩き込むと共に、ダーク・ガンガーの右手を掴みに。
そのまま体重を預けて引き倒す、飛び付き式腕ひしぎ十字固の体勢に。

な…なるほど。あの雲は、逃亡手段であると同時にトラップだったのかよ。
だからこそ、なるべく大きな雲が必要で。
んでもって、その圏内に入ると同時に重力が発生するんで、相手は体勢を崩すからその隙を狙って。
それでもなおクロスレンジの勝負では勝てそうもないんで、最初から左手は犠牲にするつもりで。
実際、盾として使い潰して無理矢理組打ちに。グランド勝負に持ち込んだワケか。
正に肉を切らせて骨を絶つだな。

うん、大したモンだ。
これが生身での攻防だったら(その場合、流石に此処まで思い切った手を使えたか如何かは別として)、これでシンジ君の逆転勝ちだったろう。
しかし、所詮これは“IF”の話でしかない。

『右腕パージ!』

ああ。やっぱり、そうなるか。 悲しいけど、これはエヴァとエステバリスの戦いなのよね。

かくて、シンジ君の奮闘は此処で終了。
そこから先はもう、一方的なフルボッコ状態。
そんな、些か尻切れ蜻蛉というか、拍子抜けな結末となったものの、セミ・ファイナルは無事終了した。

『まっ、妥当な結果か』

『ええ。あれでも良くやった方でしょうね』

引き摺られてゆく、イイ感じにズタボロな白いエヴァを生暖かい目で見送った後、
どちらからともなく一定の距離を開け、互いに頷きあうダリアと赤いエヴァ。
かくて、本日のメイン・イベント。北斗VSアスカちゃん戦の幕が開いた。

『いっけええ〜〜っ!』

   バン!バン!バン!

口火を切ったのはアスカちゃん。
どこかの赤い悪魔の如く、ダブル・デリンジャー(左右の人差し指からの熱線砲)を連打する。
これを紙一重で躱して。時にDFSにて弾きつつ、ダリアがゆっくりと近付いて行く。

先程のそれとは打って変わった、激しい銃撃戦。
惜しむらくは、全力攻撃中のエヴァと違って、ダリアの動きには緊迫感が感じられない事か。
だがまあ、いきなり抜き打ちでバッサリとかやらんだけ、まだマシな方。
うん。北斗にしては充分大サービスだよな。

『ほら、これから袈裟懸けに切り付けるぞ。チャンと避けろよ』

と、如何にも面倒臭そうに攻撃を宣言する北斗。
前言撤回。サービスとかじゃなくて、単にヤル気が無いんでやんの。

『あっそう』

と、此方もまた気の無い返事を返すアスカちゃん。
それにカチンときたのか。あるいは、手加減の基準が俺とは全く違うのか、

   ブン

コマ落ちしたかの様なあり得ないスピードで振り下ろされるDFS。
その赤い軌跡が、アスカちゃんの乗るエヴァの肩口から胴体部を斜めに切り裂く。

しかし、それは彼女が残した残像だった。

『ほう』

チョと感心した顔になる北斗。
そんな彼の遥か後方の宙域に、さも自慢げに胸を張る赤いエヴァの姿が。

『今のは初回サービスよ。次は擦れ違い様にグサッっていくから覚悟なさい』

そう言いつつ、右手からアサルト・グレイブ(伸縮自在な光の槍)を出し入れして見せる、アスカちゃん。
その挑発に呼応する様に、

『そうか。では、こういうのは如何だ?』

ダリア独特の鋭い加速から、先程と同じモーションの一撃を。
それを回避。再び、残像を残して消え去る赤いエヴァ。

   バキッ!

だが、今度はそれだけでは終らなかった。
斬撃音ではなく打撃音が響き渡り、

『中々イイ反応だ。どうらや、機体に乗せられているだけのヘボではなさそうだな』

今度は右斜め前の位置にて全力ガードの態勢のエヴァを、そう賞賛する北斗。
彼的には、ほぼ最大級と言って良い好評価だ。
もっとも、アスカちゃんにしてみれば、それどころではない。先程とは打って変わって顔を顰めつつ、

『あ…当たり前でしょ!
 そんな事より、いったいドウいうペテンを使ったのよ!? アレは、流石のアンタでも視認出来るスピードじゃ無い筈なのに!』

『やれやれ、俺も舐められたものだな。
 まあ確かに、少々速かった事は認めるが………まさか、ソレだけで勝てると思っていたのか?』

と、二人が語りに入っている間に、ハーリー君に命じて先程の攻防をスロー再生させる。
画面右下のサブ画面に、DFSを切り付けるダリアの姿が。
それに呼応して、推進装置の類を使った様子が全く無いのにエヴァが右方向に。
まるで高速スライダーの様に、振り下ろされる赤い軌跡よりも更に速い超スピードで真横に移動して行く。

次の瞬間、例の打撃音の正体が判明。
まるでそれを待っていたかの様なタイミングで、ダリアが右のハイキックを。

超高速移動中の鼻先へカウンターとなる一撃。
これは『決まった』かと思ったが、まだ先があった。
北斗の剣筋さえハッキリ見える超スロー再生の状態でなおブレる程の超スピードでエヴァがガードを。
ATフィールドも併用する事で如何にかその攻撃を受け止めるも、そのまま吹き飛ばされる事に。

『重力波を感知。どうも、移動方向に10G程度の重力を掛け、同方向に落下する事で加速しているみたいです』

と、ハーリー君から解説が。
なるほど。局地的な重力カタパルト。それが、あの残像拳モドキの正体か。
ん? スピードはそれでイイとしても、そうなると、さっきのガードはドウやって?

と、思った瞬間、エヴァの管制制御を担当している春待三尉から、

『大変です、提督! 先程、コアの方からシンクロ関係のプログラムにジャックが。
 一瞬だけですが、此方の制御を跳ね除けてシンクロ率が315%に達しました!」

な、なんだって!
………って、そうか。それが、あの超反応の正体かよ。やってくれたな、惣流=キョウコ=ツエッペリン!

『で、ドウする? まだヤるか?』

『あったりまえじゃない! 言ったでしょ『このアタシが戦う以上、必ず勝たせて貰うわよ』って。
 まして、今夜はアタシ一人じゃじゃない。ママとアタシでダブル惣流なのよ。敗北なんて200%ありえないわ!』

そう。シンジ君や葛城ミサトと違って汎用コアじゃシンクロ出来ないんだよね、アスカちゃんの場合。
そんな訳で、アレは弐号機のコアを流用したもの。中の人は惣流博士だったりするのだ。

………って、今のセリフはマズイな。ネルフの連中が聞いたらツマラン疑念を抱きかねない。
映像編集担当のハーリー君がチャンとカットしていてくれれば良いんだが。

『こんのお〜〜っ!』

   バン!バン!バン!

と、俺がアレコレ懸念を抱いている隙に、戦いは新たな局面に。
シンクロ率をドーピングしてもなお近接戦闘では手も足も出ないと悟ったらしく、アスカちゃんは、戦術を中〜遠距離戦に変更。
例の重力カタパルトを駆使して、兎に角、出来るだけ距離を取りつつ、ダブル・デリンジャーを連打。

『どうした? グサッっていくんじゃなかったのか?』

『うっさい! 戦局ってのは刻々変化してんの。アタシは、それに対応しているだけよ!』

『そうか。では、此方がこうしたらドウする?』

それに対し、北斗もまた遠距離攻撃を披露。
重力カタパルトによる高速移動の構造的欠陥。一方向にしか進めないという弱点を突き、到達地点を逆算してDFSの刃を発射する。
本来の威力とは比べるべくも無い。ATフィールドで容易く弾ける程度のものとは言え、実に大人気ない攻撃だ。
此処は、敢えて近接戦闘に拘るとか。兎に角、もうチョッと優しい戦い方をしてもイイだろうに。

そんなこんなで、その後も、あり得ない高機動と超反応によって。
スピードという唯一のアドバンテージを十全に駆使して、如何にか五分の勝負を演じるアスカちゃん。
しかし、この均衡も長くは持たないだろう。
既に、彼女の顔には疲弊の跡がありありと浮かんでいる。
無理もない。瞬間的とは言え、通常の三倍以上の能力を引き出している以上、その反動もまたハンパではない筈。
このままでは間違いなくジリ貧だ。
あと一枚、この状況を引っくり返す為のカードが足りない。
それもジョーカーが。サツキミドリを撃破した在りし日のアキトの様な超絶必殺技でも繰り出さない限り、勝機は無い。

『うわぁぁ〜〜〜〜〜っ!!』

アスカちゃんもまた同じ結論に達したらしく、声を限りに吼えた。
まるで猛獣の断末魔の様な咆哮だった。
そのまま、連続で重力カタパルトを。何度も何度も後方へダイブ。
兎に角、ダリアから僅かでも距離を取ろうと………否、無意識の内に逃亡を図っている様子。もはや限界だ。

『やれやれ』

そんな彼女を前に、如何にも『興醒めした』といった感じの態度で、ゆっくりと距離を詰めてゆく、ダリアIN北斗。
最後なので、それなりに見栄えのする技で止めを刺す気か?
それとも、このまま能力をムダ使いさせて自滅させる気か?

いずれにせよ、『勝負アリ』だ………と、俺は思った。
その態度から見て、北斗もまたそうだったのだろう。
それ故に気付かなかった。エヴァとダリアの距離が、これまでで最大距離にまで離れた事に。
そして、アスカちゃんからの攻撃が止んでから既に30秒以上の時間が経過していた、その意味に。

『今よ! 総員、主砲全弾発射! ファイエル!!』

   キュイ〜〜ン

それは光の奔流だった。
突如、エヴァの前にATCで作り出された五個の赤い光球が現れ、そこから五本の加粒子砲が。
機動兵器から放たれたものとは思えない、超広範囲にして高威力の攻撃。
最後にアスカちゃんの切った勝負手は、そんなプチ・カオス・スマッシャーとでも呼ぶべき戦略兵器だった。
ヤ…ヤバイ。いくらダリアでも、あんなものを貰ったら………

『(パチパチパチ)』

(ハア〜)そんなワケ無いか。
それにしても、ついに『羅刹招来』ですか、北斗さん。それはチョッとヤリ過ぎだと愚行するのですが。
ああもう。あまりの事に、思わず敬語になっちまったよ。

『大したモンだ、まんまと騙されたぞ。役者になっても食っていけるな、お前』

『そんな事で拍手喝采されても嬉しかないわよ』

憮然としてそう応える、アスカちゃん。
そんな彼女に、北斗は益々上機嫌に、

『まあそう言うな。これでも、戦闘者としてのお前は、それ以上に評価しているつもりだぞ。
 実際、今宵、まさかコレを使わされる事になるとは思っていなかった』

そう言いつつ、2対の真紅の光翼を誇示して見せた後、

『さて。これで終わりにしても良いんだが………お前の事だ、素直に負けを認めやしまい?
 とゆ〜わけで30秒やる。俺は此処から動かんから、サッサと準備をしな』

『えっ?』

『惚けるなよ。あるんだろ? もう一枚切り札が。
 次は避けない。お前のその無駄に高い矜持ごと真正面から粉砕してやるから、かかって来な。
 んじゃ、行くぞ。それ、ひと〜つ、ふた〜つ………」

と、構えを解き、徐にカウントを始める北斗。

『や…やってやろうじゃない!』

一瞬だけ逡巡したものの、それに呼応して。
先程とは違い隠す事無く。これ見よがしにATCによる赤い光玉を作り出すと、

『総員、所定の位置に!』

それ等をダリアを取り囲む形で。
加粒子砲の命中率を高める為、なるべく近くに。かつ、DFSによって一網打尽にされない様になるべく遠くに。
そんな、相反する二つの条件を満たす微妙な中間距離に配置。
残り時間を照準に。そして、己の荒い息を強引に整えに掛るアスカちゃん。
無理もない。あきらかに限界を越えた未完の技っぽい。
だが、それでもこの子はヤルだろう。

『に〜じゅぅい〜ち〜、に〜じゅうに〜〜………』

それが判っているからこそ、北斗もまた、さりげなくカウントを微妙に遅らせているし。

ともあれ、運命の時のは刻一刻と迫って行く。
そして、それがゼロとなる直前に。発射のタイミングを悟られぬ様、『に〜じゅぅな〜な〜』と告げられた瞬間に、

『ファイエル!』

   キュイ〜〜ン×5

三次元的に包囲した五つの赤い光球より、必殺の意を込めた加粒子砲の多重攻撃が。
だが、そんな絶体絶命っぽい状況にも関わらず、北斗はチョッと嬉しそうな。さも『上手くいった』と言わんばかりな顔付きに。
そして、迫り来る五本の光の奔流とは似ても似つかぬゆったりとした動きで。
まるで、某催眠剣の如くDFSを円月の形に振るった。

その動きに追従して、赤い刀身の残像が幾つも現れ………
否、それぞれが、まるで花弁の様に固定される事で一輪の花の形となり、

『舞え、九天元女』

ボソリと紡がれた北斗の言葉に呼応して、パッと散り去り、
散ったその八枚の花弁は、春風に舞い踊る桜の花びらの如く、緩やかな動きでダリアの周りを包み込み、

  バシュ、バシュ、バシュ、バシュ、バシュ

まるで陽光でも弾くかの様に、五発の加粒子砲を容易く跳ね返し、
跳ね返されたそれによる圧倒的な閃光によって、完全にホワイトアウト。

その数瞬後。
光が弱まり、再び映し出された画面に目を凝らすと、そこには、先程までと全く変らぬ姿勢で佇むダリアの雄姿が。
そして、アスカちゃんの乗るエヴァはと言えば、既に戦闘不能な状態に。
右腕から下半身に掛けてが残らず吹っ飛ばされ、某キンキラMSの末路の如く宇宙空間を力無く漂っていた。

って、なんでやねん?
そんな疑問に答える様に、タイムリーなタイミングでスロー再生が。
『ハーリー君、グッドジョブ』と内心で賞賛しつつ、その映像を凝視する。

ダリアを包む八枚の花弁によって五発の加粒子砲が弾き返される瞬間が、拡大映像にてゆっくりと流れる。
目も眩む様な光量もまた、見易い様にフィルターが掛けられる。
すると、チカチカ青白く光る加粒子に混じって赤い光が。
最初はDFSの花弁かと思ったが違った。
一直線にエヴァへと伸びて行く赤い軌跡。それは、禍々しくも鎌首をもたげた『蛇王牙斬』だった。

な…なるほど。辺りが光に包まれた瞬間にヤられたのか………って、マズイぜコイツは!

そう。ああいう大技というヤツは、如何してもモーションが大くなる。
それ故、どうやってソコへ繋げるかの連携こそが勝敗を分ける鍵となるのだが………まあ、その辺の詳しい講釈は割愛する。

問題なのは、アレが絶対防御からのカウンターである事。
それも、敵の攻撃が派手であればあるほど、それが目晦ましに。
技の発生を見切るのが極めて困難になるという点だ。
まして、全力攻撃の直後ともなれば尚更である。
もしもあの花弁が、アキト最強の必殺技『劫竜八襲牙陣』を一瞬でも止められたとしたら………
いや。どう見ても“それ”を前提にしている技だよな。

差し詰め、今のは実戦テスト。 敢えて、アキトに先んじて俺達に見せた辺りは、あの技への自信の表れ。
この場には居ないアイツへの『あの時とは違うぞ』という無言の挑戦状っぽい。ホンに困ったモンだ。
だがまあ、良く考えてみれば、この手の事に関して、俺に出来る事なんてあって無きが如しだし。
精々、北斗のソレに負けない位に、アキトもまた異次元(むこう)で成長していてくれるのを期待するとしよう。




   〜 翌日。ネルフ本部、第13倉庫 〜

「それで、いきなり行方を晦ませて保安部を右往左往させた挙句、
 非常勤とはいえチルドレンのシンジ君を拉致して、勝手に戦闘行為を。
 あんなふざけた戦いに参加してまで得た報酬がコレなワケね」

痛む頭を宥めつつそう確認する、リツコ。
だが、そんな彼女の苦悩をそ知らぬ風で。言葉の端々に零れ落ちるトゲさえもガン無視して、
アスカは堂々と、

「まっ、そんなトコよ。予算が無いなら、有る所から持ってくる。基本でしょ?」

「そんな訳ないでしょ!…………いえ、この際、その辺の見解の相違は如何でも良いわ。
 そんな事より、本当に大丈夫なのコレ? いきなり爆発とかしないでしょうね?」

「さあ? 一応、ママの図面通りに作ったって言ってたけど、あんま信用出来そうな連中じゃなかったわね〜アレは。
 つ〜ワケで、その辺の点検は入念にヤッて頂戴」

って、私に丸投げなの? タダでさえ忙しいっていうのに!
思わずそう言いそうになるがグッと堪える。
多忙に感けて、その要求をのらりくらりと躱してきた負い目もあるが、それ以上に。
越権行為とはいえ、アスカは破格と言って良い結果を出してる。
そう。彼女は、身体の半分をフッ飛ばされる激痛にさらされながらも。
文字通り身体を張って、それを勝ち取って来たのだ。
今後、アレを運用するつもりならば、此処で揉めるのは避けたい所である。

「判ったわ」

そんな打算の下、如何にか平静を保ちつつ、リツコはその要求を受け入れた。
そんな彼女の苦悩を知ってか知らずか、

『にていも、こうしてワンセット全部揃った所を見ると圧倒されると言うか、壮観よねコレは。
 流石、キョウコ。こういうハード面の技術力に関しては、この私でさえ脱帽モノだわ。
 誰もが一度は考えるけど途中で馬鹿馬鹿しくなって諦める類のコトを、力技で強引に実現させるあの天分の才は、死してなお健在の様ね』

ナオコMが、そんな褒めているのか貶しているのか良く判らない感嘆を。
ミサトに至っては、もはや心此処にあらずと言わんばかり目の前のそれに夢中だった。
あたかも、トランペットを欲しがる某少年の様に、ショーウインドならぬ強化ガラスにへばり付きつつ、

「スゴイ…スゴイわよ、コレは!
 あああもう。昨日、いきなりあの特番を見た時は吹いたって言うか。
 『ナンで私を呼ばなかったのよ』って一言文句言わずにはいられないとか思ってたけど、もうそんなのドウでもイイってカンジ。
 ううん。メッチャ感謝よ、アスカ。もう、貴女が望むなら寝てもイイくらいに!」

「絶対イヤよ!」

そんなこんなで、ネルフは新戦力を。使いどころが難しいが強力なエヴァ専用の装備をゲット。
既に折り返し地点を越えた使徒戦もまた、新たな局面を迎えようとしていた。




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