>OOSAKI
〜 翌日、ダークネス秘密基地の大首領室 〜
残る使徒は、あと7体。数字的には、使徒戦もいよいよ後半戦に突入。
しかも、次の使徒である第10使徒サハクィエル発見されるのは、再来月の9月4日。
例の一万分の一作戦が行なわれたネルフ本部直上への来襲は9月6日の予定と、丸々一ヶ月以上の間隔が空く。
このモラトリアム期間に合わせ、数々の激戦を潜り抜けてきた我がダークネスもまた、主人公たるシンジ君の通う第一中学校のそれに習って、夏休みを取る事にした。
なんだかんだで、年中無休で頑張ってくれてきた我が組織の構成員達。
取り分け、トライデント中隊の子達は、既に1年以上に渡って、外界と隔絶された禁欲生活(極一部の子達を筆頭に、そう言うにはチト無理がある様な気もするが)
を余儀なくされてきた事だし、この辺でガス抜きが必要だと判断しての決定である。
とは言え、彼等の自己管理能力は、良い意味でも悪い意味でも生粋のプロであるナデシコクルーのそれに比べれば、まだまだ甘いと言わざるを得ない。
リフレッシュさせるつもりが、単に中弛みを招くだけとなる事さえ充分あり得るだろう。
そこで今回、書類仕事をナカザトに押し付け(ゴホンゴホン)じゃなくて、激務の合い間を縫って、
現在の隊員達の心理状態を探るべく、こうして個人面談を行なう事にした。
ちなみに、表向きの理由は、後半戦に向けての意見具申を求めるというものであり、休暇の事は、まだ彼等には告げていない。
その期間やバカンス地と言った方向性は、コレの結果を見てからという寸法である。
さて、どうなります事やら。
期待と不安とを綯交ぜにしつつ、俺は一人目の隊員に入室を命じた。
一人目。特車小隊所属、霧島マナ三曹の場合。
「マナです。鋼鉄のガールフレンドじゃメインヒロインなのに、この作品では全然出番がありません」
「マナです。他の人達があまりにも濃すぎて、実力勝負が苦手なチャッカリ系の私のキャラ設定では付け入るスキが無かとです」
「マナです。ハッキリ言って、ケイタに出番を喰われてます。でも、彼の様にはなりたくありません。ええ、人として」
「マナです。最近思うのですが、まったく生かされませんよね、私がプチ改造人間だという設定」
「マナです。やっぱり、時田博士とタンデムの機体に乗っているのが、目立てない最大の原因なんでしょうね。
使徒戦中、あの人の説明を背中越しに聞いていると、偶に『いっそ、このまま殉職しようかな?』という危険な誘惑にかられるとです。
冷静に考えると、客観的には無理心中と思われかねないので実行には移しませんけど」
「マナです。人生、人気が総てではないでしょうが、これまで頂いたファンメールの総数が中隊内でもダントツのドベ。
ぶっちゃけて言えば、全くのゼロという現状だけは何とかしたいと切実に願っているとです」
「マナです。マナです。マナです……………」
「…………それで、結局のところ何が言いたいのかね?」
入室と同時に、唐突に始まったヒロ○ネタに面くらいつつも、どうにか体勢を立て直しそう尋ねる。
そんな俺に向かって、彼女は上目使いに両手を合わせた祈りの乙女のポーズで、
「お願いです、もうチョッと出番を下さい。枕営業はまだ出来ないけど、きっと憶えますから」
「憶えんでいい! いや、それ以前に、某名作の名ゼリフを人聞きの悪いモンに改変するのは止めてくれ。シャレにならん!」
色んな意味で拙すぎる彼女の問題発言に、思わずそう叫ぶ俺だった。
二人目。特車小隊所属、ムサシ=リー=ストラスバーグ三曹の場合。
尚も食い下がってきた霧島三曹を、どうにか宥めすかして後、徐に二人目の子を招き入れる。
すると、入ってきた先程の彼女の相方とも言うべき隊員。
ストラスバーグ三曹は、開口一番にこう宣まった。
「俺の機体にも、ケイタのΓみたいな新武装を付けて下さい」
「ふむ。まあ、その気持は判らなくもないな。
だが、あの機体のコンセプトは知っているだろう。それは無い物ねだりだとは思わないかね?」
ストレートで判り易い要望だったが、そんな理由から“やんわり”と却下する。
何せ、トライデントシリーズは『いかに一つの分野に特化させるか?』を突詰めた機体。
それだけに、既に完全に名目だけなΓと違って、純正機たるαとβは後付な武装を乗せられる様な余裕のある設計じゃないんだよね。
実際、トライデントΓ改EXとの合体だって、単にケーブルで繋いだだけだし。(笑)
「それなら、戦車小隊に転属させて下さい」
「おいおい。たしかβのパイロット就任は、君自身が志願しての事だろう。今更ソレは無いんじゃないかい?」
ちなみに、霧島三曹がαのパイロットに内定した直後の事だった。実に判り易い子である。
いや、若いってのは良いねえ。
「それに、半年ばかり前にやった耐G訓練での結果を踏まえての人事でもある。
知っての通り、アレの操縦はクセが強いし、それ以上に、三半規管とガタイがタフでないと勤まらない機体だ。コンバートなんて、おいそれと出来るもんじゃない」
と、胸中で当時の経緯などを反芻しつつも、選抜の裏事情などを明かして駄目押しを。
それを受け、意気消沈するストラスバーグ三曹。
だが、それでも諦めきれないらしく、暫し口をモゴモゴさせた後、
「でも………でも、マナってば、全然ピンチに陥らないし。
おまけに、αで慣れがあるとはいえ、βの予備機をぶっつけ本番でアッサリ乗りこなすし。
なんかもう、俺ってばイラナイ子と化してるんじゃないでしょうか?」
意を決し、そんな事を口にした。
「…………ヤダナア。ソンナノ、キノセイダヨ」
「って、何故いきなりカタコトに? しかも、露骨に目を逸らすんですか、提督!?」
そんなこんなで、彼の説得は難航を極めたが、小一時間後、取り敢えず『ライバル(シンジ君)とは縁が無いんだから、気長に行こうよ』という線でカタが付いた。
所謂、問題の先送りと言うヤツである。
だが、俺的にはあまり心配はしていない。何しろ、彼はまだ14歳。未来ある若人なのだから。
何時かきっと、笑って話せる青春の一頁になるさ。若いんだし。
遠い目をしつつ、胸中でそう述懐する俺だった。
三人目。特車小隊所属、浅利ケイタ三曹の場合。
「特にありません」
意見具申を求めた俺に、浅利三曹は静かにそう応えた。
だが、これでは御話にならない。そんな訳で、彼が話し易い様にフランクな雰囲気を振り撒きつつ再チャレンジを。
「おいおい。それじゃ、この個人面談をやってる意味が無いだろう。
せっかくの一対一で話せる機会なんだ。此処は腹を割って、現場の本音ってヤツを聞かせてくれないか」
敢えて『言いたい事が無い筈がないだろう。特に君の場合は』とは言わない。
この辺はもう、上官として当然の配慮である。
そんな俺の誠意が通じたのか、暫しの逡巡の後、浅利三曹は意を決した様な顔となり、
「では、お言葉に甘えて。平穏な人生を下さい」
静かでありながら怨嗟すら篭っているかの様な暗い声音で、そんな無理難題を宣まった。
いや、いくら忌憚の無い要望を述べてくれと言ったって、そんな『個人の資質』の改善を求められても。
オジサン、チョッと困っちゃうよ。
「いや、それは少々無理があるんじゃないかね? 君の職業は、牙無き人の明日を守る軍人だろう?」
取り敢えず、そんな返答を。
だが、口火を切った事でタガが外れたらしく、浅利三曹は勢い込んで、
「僕が求めているのは、決して身の安全という訳じゃありません。
例えばそう、最近、直で指導する後輩が出来た事で、なんか人当たりが良くなってきたジルみたいな感じの。
チョッと張りのあるというか、己の幸福が実感出来る生活です」
嗚呼、なんて高望みをする子なんだろう。
まあ、まだ若い………とゆ〜か、幼いとさえ言える歳だから仕方ないんだろうけど。
そんな事を考えつつも、それが顔に出ない様に気を付けながら、
「君の言いたい事も良く判る。実際、最近のワークマン士長の目は輝いているからな。
だが、それは胸に理想を掲げた者にのみ許されるもの。
具体的に言えば、彼女の場合は『愛君を一人前に鍛え上げてる』という目標に向かう気概がそうさせているんだ」
と、チョッと良い話などを述べた後、
「翻って尋ねるが、君には彼女の様に、一つに打ち込めるものがあるかね?」
酸いも甘いも噛分けた人生の先達の顔をしつつ、彼の甘い考えを諭しに掛る。
もっとも、これは詭弁に過ぎないのだが。(笑)
いや、一般的には今のは正論で通るのだろうが、俺はその例外を。
これ以上無いくらい一途な生き様ながらも、何気にそれが仇になっている薔薇色の不幸を背負ったアキトという実例を知っているし。
おまけに、浅利三曹ってば、アキトとは別系統な。ス○ーク君やア○ディ=ク○ツ系の不幸補正が掛ってる気がするし。
「それは………」
俺の誠意溢れる説得に口篭る浅利三曹。
と、此処で終れば、チョッと良い話で終ったのだが、
「判っています。僕も軍人はしくれ、御役目に就いている間は不平を鳴らす気はありません。
でも、出来れば退役後は、何の気兼ねも無く昼寝が出来る様な生活をゲットしたいんです。
そう。理想は、日暮ラナさんの様な素敵に怠惰な(ゴホン、ゴホン)じゃなくて、平和の象徴の様な生活です」
失言なんて気にするまでもなく本音が透けて見えてるぞ、浅利三曹。
とゆ〜か、そんな後ろ向きな事を、瞳を輝かして熱く語らんでくれ。
畜生、途中までは結構シリアスな話だっただけに、何か裏切られた気分だ。
これが世代の差が生み出す価値観の相違というヤツなんだろうか?
「(コホン)そのなんだ。つまり終戦までは、これまで通りの働きを期待して構わないんだな?」
そんな事を考えつつも、取り敢えずその辺は棚上げし、俺は御茶を濁しに掛った。
正直、もう少しマシな人生設計をして欲しいものだが、それは今後の課題と言った所か。
とは言え、ホント強くなったよねこの子は。その方向性に目を瞑ればだけど。
うん。色々と目を掛けてきてやった甲斐があったと言うものだ。
四人目。第一戦車小隊所属、中原マサト三曹の場合。
「う〜ん………強いてあげれば、ネットの年齢制限コードの解除かなあ。でも、無理なんですよね?」
「まあな」
苦笑しつつ、彼の言を肯定する。
何せ十代半ば。今が一番その手のリピドーが激しい年頃だけに、俺的には別にそれくらい構わないと思うのだが、
ウチにはその辺の事に五月蝿い女傑が沢山居るのでそうもいかない。
まあ、規則の厳しい全寮制の学校にでも入っているとでも思って、来年の三月を。
卒業予定日となる使徒戦終結日を、気長に待って貰うしかないのが現状。
そういう意味では、今回の夏休みは、彼にはさぞ貴重な物となる事だろう。
精々、羽根を伸ばさせて………いや、これはチト拙いか。
う〜ん。休み中、彼等の口座には使用制限を掛けておいた方が良さそうだな。
自立心を養う意味でも、出来れば余り口煩い管理はしたくなかったんだが、パッと咲いてパッと消え去る打ち上げ花火の如き派手な散財をしそうな子が、彼以外にも何人か居るし。
そんな事を胸中で考えつつも、表面上はフレンドリーな感じで、
「だが、他の事ならば多少は融通が効くぞ。
たとえば通販関係とか。たしか部隊内では、君が最大の御得意様だったよね」
と、更に探りを入れてゆく。
何せ、彼は前科持ち。先の『ハーリー君拉致立て篭もり事件(第7話参照)』には関与しなかったものの、もう一つの事件。
日頃からコツコツ撮り溜めた春待三尉との痴態(と言っても、彼の年齢もあって、客観的には微笑ましいとしか見れないレベル)をネタに、
それをホシノ君にチクると脅して年齢制限コードを外さんとした『ハーリー君恐喝事件』を起したセクハラトリオの一人なのだ。
おまけに、そんな彼等の中でも、つい最近、心の支え(?)を失ったばかりで一番危険っぽいし。
「いえ。俺はもう、その手の物はスッパリと縁を切りました」
「えっ?」
「今度の事で痛感しました。所詮、彼女はアイドル。ブラウン管の中だけの偶像なんだって」
意外な返答に面食らった俺を尻目に、滔々と自説を熱く語りだす中原三曹。
その内容を要約すると、『相手の事を思いやれない一方通行な愛は良くない』という、この年頃の少年が語るにしては中々立派な。
どこかの女傑達にも聞かせてやりたい様な、人生の機微を捉えた青少年の主張だった。
いや。昔から、子供の頃はやんちゃだった人間程、成長すると思慮深くて慎重な性格になるというが、
見事なまでに某組織に溶け込んでいた、つい先日までの姿が嘘の様な解脱っぷりである。
もっとも、こういった悟り方は、その当時に被害を被った人達からすれば堪ったもんじゃないんだろうけど。
しかも、世の偉人達とか言われる人間ほど、その功績に反比例するが如く、幼少時に行なった悪戯の数々はシャレにならないものが多いし。
特に宗教関係の教祖。ジー○スとかブッ○とか三○法師とか。
ちなみに、かの法師の悪行の数々は、夏目○子さんとは全くの無関係なので、ググって調べた人は、そこん所は誤解の無い様に。
「兎に角、勝負は十年後。今後は、将来に向けて貯金だってしちゃいます」
と、胸中でメタな述懐している間も彼の主張は続く。
にしても、いきなり十年後とはね。たしかに結婚を考える年齢としては妥当な様な気もするが、堅実な将来設計とやらも、そこまで行くと只の妄想だぞ。
と言っても、その歳で現実的に。ホシノ君みたく狡猾かつ周到に結婚計画を練られても、それはそれで問題なんだけど。(苦笑)
「実際、よ〜く考えてみれば、理想の女性が都合良く目の前に現れるなんて、まずありえない事でしょう?」
「まあ、そうだろうな」
「正直、悩みました。一時は絶望し、二次元の世界へ。アニメに転んで『Lちゃん萌え〜』とか言っていた時期さえありました。
ええ、やっぱり清純派ヒロインは、あの頃がピークですよね。
それ以後はもう、主人公の相棒役としては兎も角、こう『守ってあげたくなる』感じの娘が居なくって………
(ゴホン)と…兎に角、そんな現実に背を向けて腐っていた頃。
丁度、桃色髪のスポンサー様と一緒に、名作劇場『私の足長おじさん』を見ていた時、こう胸にビビッと来るものが。
そして、悟ったんです。理想の美女が居ないのであれば、自分で育てれば良いんだと」
前言撤回。彼は別方面でデンジャラスな。
齢14歳にして、某組織の者すら通わぬ修羅道へと逝ってしまっているらしい。
「そう。総てはダイヤの原石を見付けてから! 俺はやりますよ!」
取り敢えず、彼は留守番組にしよう。
現代風にアレンジした光源氏計画を臆面も無く熱く語っている中原三曹の言を聞き流しながら、そう決定する俺だった。
四人目。第一戦車小隊所属、山本サラ三曹の場合。
思わぬ精神的ダメージを負いつつも、怯む事無く次の子の入室を促す。
そう。これくらいで怖気づく様では、提督家業など勤まらないのだ。
だが、やってきた山本三曹が、開口一番に語った話の内容は、先の中原三曹とは別の意味で困ったものだった。
なんと、彼女の目指す進路は2015年世界での軍人であり、その前準備として、使徒戦終結後には士官学校に入りたいと言うのだ。
正直、無理難題も良い所である。
たしかに、この計画を発動する前に、再就職先への全面的なバックアップを約束した。
だが、ものには限度と言うものがある。
親方日の丸な、身元の確かさが必須となる職業への転職は難しいのだ。
取り分け、現在の商売敵とも言うべき軍隊ともなれば、戸籍の偽造くらいでは誤魔化されてはくれないだろう。
「2199年では拙いのかね?」
「未来はチョッと勘弁してほしいね……じゃなくて、です。
どうしても拙いんなら……じゃなくて、でしたら、2015年より更に過去でも……………」
「ああ、無理して敬語を使わなくても良いから。
取り敢えず、正確な意思伝達に集中してくれ」
苦笑しつつも、山本三曹にそう言ってやる。
実の所、これはウチが抱えてるささやかな問題点とも言える。
そう、彼女はまだマシな方。実は我がトライデント中隊の子達は、鷹村二曹を筆頭に、上官に対するまともな言葉使いが出来ない者が少なく無いのだ。
この辺、大佐の様な実力最優先な教官に学んだ為。
そして、周りに居るのが、表面的な儀礼に全く拘らないナデシコクルーだった所為だろう。
その方針が間違っているとは思わないが………
う〜ん。退役前までには一度、その辺の教習も行なうべきなのかも知れないな。
そういう堅苦しいのは好きじゃないんだが、矢張り最低限のオフシャルな言葉使いくらいは身に付けさせるのが、未来ある彼等を預かっている俺の義務だろう。
何せ、あのヤマダでさえ、公式の場ではそれっぽい言葉使いをしてるんだし。
そんな打算を行ないながら、あたふたしている山本三曹の姿を微笑ましく眺めつつ、彼女の言に耳を傾ける。
だが、完全に口調が素に戻った後。その意図が伝わり出した辺りから、俺の笑みは凍り付いた。
どうも彼女、ラピスちゃんに見せられた某戦記物の影響から、現在は青年将校というヤツに憧れているらしい。
これは良い。概ね何時も通りの展開。彼女特有の病でしかない。
問題なのは、今回はわりと現実的に計画を練ってくれた事である。
具体的に言えば、士官学校に入学した後、有望そうな先輩にツバを付けようという『ブルータス、お前もか』<な事が、その狙いらしい。
そして、未来がペケなのにも明確な理由があった。
そう。彼女視点からみれば、ジュンやナカザトが2199年での青年将校のスタンダード。
その要求を満たすにはガキ臭いらしい。
正直、偏見も良い所と思う。
ああ見えても、二人共おもいっきり苦労人。同世代の連中に比べれば、中身はかなり磨かれている方だ。
例題として挙げられた某青年将校と比べても、決して見劣りはしないものがあるだろう。
だが、その外見的には。士官学校出たての二十歳前後な年齢設定のクセに、どう見ても30過ぎのオッサンにしか見えないアレと比べれば、
苦労知らずのボンボンに見えるのもまた事実。
この辺、平均寿命が長くなった事に比例して、精神と外見も若々しい期間が長くなっているという美点が、彼女的にはマイナスに働いているという訳である。
「そんなワケでさ、出来ればあの人の生きた明治維新直後頃が良いだけど、上手いこと何とかならないかい?」
なりません。とゆ〜か、無理難題が過ぎるだろ、コラ。
胸中でそう愚痴りつつも、なんとかこの場を誤魔化す算段をする俺だった。
六人目。第二戦車小隊所属、阿間田シロウ三曹の場合。
「提督、是非ともお願いしたい事があります!」
入室と同時に、阿間田三曹は勢い込んで。
ヤマダ張りに無駄に熱い気迫を込めて、滔々と自説を語り始めた。
その内容はと言えば、方向性としてはストラスバーグ三曹の意見具申の焼き直し。
だが、彼のそれとは違い、素人考えとはいえ具体的なカスタム化案。
それも、ウリバタケ班長のイマジネーションをくすぐりかねない危険な物だった。
具体的に言えば、まずはウィンスカーE型にDFを組み込み防御力を大幅UP。
更には、郷谷三曹の機体は機動性。特に旋回能力と走破性を。
ヴィヴィ三曹の機体は、トライデントβのSSTDを小型化して前面部に貼り付け、更なる防御力を。
そして、自分の機体はと言えば、初代トライデントΓの750oレールキャノンを乗せ、完全な砲撃機として欲しいらしい。
普通なら完全に机上の空論。設計思想とか機体の互換性とかを頭から無視した素人考えである。
こんな話を開発者に語れば、良くて一笑に伏され、悪ければ『ふざけるな!』と激怒されるのがオチだろう。
だが、拙い事にウチは、肝心のその相手が普通じゃない。
リアル系なエステバリスを改造してGガ○ダム張りなスーパー系のスペックを持った各カスタム機を製作した事もある、あの班長なのだ。
はっきり言って、こんな話は怖くてとても聞かせられない。
彼の提示した程度の改造案など、ブローディアを作る事を考えれば、通常整備も同然のライトな物。
調子に乗って、どんなヘビーな。趣味に走り捲くった改造を施すか………嗚呼、色んな意味で考えたくも無い!
「予算的にも、それほど負担にはなりません。
実は、もう2台も。前回の戦いでダメージが酷くて破棄されたダーク・ガンガーの物と、何時ぞやの砲戦フレームから回収した、中古のDF発生装置を確保して貰ってあるんです!」
砲戦フレーム? ああ、第三使徒戦でヤマダが故意にぶっ壊したアレか。
う〜ん。確かに、幾ら高価とは言え、DF発生装置はエステの生命線とも言うべき機関。
それだけに、大破した物から回収した信頼性の薄いジャンクパーツを正規の機体に流用する訳にもいかんからなあ。
そういう意味じゃ、有効活用と言えない事も………って、ナニ説得されかかってるんだよ、俺!
「判った。次の全体会議にかけてみよう。それまでは保留って事で、この話は君の胸の中に仕舞っておいてくれ。
何せ『高度な技術』を要求される改造案だ。言っちまってから『駄目でした』なんて風に、他の隊員達にぬか喜びをさせたくない」
取り敢えずは時間稼ぎを。そんな風に、この場を誤魔化しておく。
しかし何だな。棒立ち癖という自身の弱点のカバーに、その克服ではなくてこんな方策を練ってくるなんて。
無茶苦茶な策でありながら、その無茶を現実に迎合させる方策を摸索し得る。
戦略面にて発揮された、彼の意外な才覚に舌を巻く俺だった。
嗚呼、才能の無駄使い。とってもナデシコっぽい所が泣けてくるぜ。
七人目。第二戦車小隊所属、郷谷キリコ三曹の場合。
「要求なら、既に提示された筈だ」
………相変わらず、取り付く島も無い話し方をする子だなあ。
にしても、阿間田三曹の改造案には、彼も一枚噛んでいていたんか。
チョッと意外というか。案外、仲は悪くなかったんだね。あんなにバラバラなのに。
「良いのかい? あのカスタム案だと、阿間田三曹にオイシイ所を持っていかれる事になるぜ」
「構わん。俺は俺の仕事をするだけだ。
それに、どうせ当たっても決め手にはならん」
いや、達観してるねえ。まあ、その通りなんだけど。(苦笑)
うんうん。そういう意味じゃ、そのキャラ立ては間違ってないよ。
撹乱要員としては、間違いなく君がエースさ。
その関係で、画面に映っている時間も結構長くて目立つもんだから、何気にファンメールの数も結構多いしね。
ただ『周りとの連携が全く取れない』っていう設定はなんとかして。本編では描写し難いから。
まあ、どこかの実験施設を強襲して、某PSのプロト○ンを奪取してこない限り無理だろうけど。(泣)
嗚呼、赫奕たる異端の悲劇。
八人目。第二戦車小隊所属、ヴィラント=ヴェラント三曹の場合。
「失礼します」
そう言って入室した後、ヴィヴィ三曹は戦略自衛隊式の敬礼を。
ウチでは圧倒的に少数派な、キチンとした挨拶をしてきた。
これがまた、ナカザトのそれと違って慇懃無礼なものでない所が泣かせてくれる。
実際、彼はアクの強いウチの部隊にあってなお周りの悪習に染まらない、まるで奇跡の様な少年である。
その反面、肝心の守護天使の方はへっぽこらしくて、よく同僚達が巻き起こす厄介事に巻き込まれたりする、何気に不幸属性な体質だったりもする。
実に素晴らしい。正に、ウチに来るべくして来た子と言えよう。
「あの。今回の召集は一体どういった意図のものなのでしょうか?」
俺に促されソファーに着席すると同時に、小動物の様な仕種で恐る恐る尋ねて来るヴィヴィ三曹。
そう。彼は自分の置かれた立場というものを自覚しているのだ。
この辺、同じ最年少キャラでも、ハーリー君とは一線を画す点である。
まあ、その肉体強度が天と地ほど違う以上、危機管理能力に明確な差が出るのは当然の結果かも知れないけど。(笑)
「うむ。実は来月の頭から………」
ビクビク怯えながらも、せめて気持だけでも負けまいと気丈に此方を真っ直ぐと見る瞳にほだされ、俺は“つい”裏の事情を語ってしまった。
この辺、判官贔屓というヤツであり、また、彼ならば口止めが可能という打算もあっての事である
いや、別に他の子達が口が軽いという訳じゃ無い。
これは純粋に資質の問題。彼等の多くは、これ幸いと個人的打算に走る可能性が高い為だ。
ちなみに、これが紫堂一曹とかだと、逆の意味で信用出来なかったかりする。
彼の場合、俺の意図を超えて。たとえ殺されても口を割りそうも無いんで、怖くて下手な命令が出せないんだよね。
「あの。凄く無理なお願いなんですけど。二〜三日……いえ半日で良いですからイギリスのコーンウォールに行きたいのですが………」
暫しの逡巡の後、彼の出した答えがこれだった。
理由を尋ねると、アーサー王の伝説で有名な彼の地に在るとある墓地に、セカンドインパクトのドサクサに起こった戦争の所為で亡くなった彼の両親が眠っているからとの事。
その墓参りに。そして、自分を連れて日本に疎開しその3年後に無くなった祖母の形見を、そこに持っていってやりたいらしいのだ。
なんとも泣かせる話である。
当然ながら、二つ返事で了承した。
「あ…有難う御座います!」
嬉しそうな笑顔を浮かべながら、ペコペコと何度も頭を下げるヴィヴィ三曹の大袈裟な態度に苦笑する。
だが、悪い気はしない。チョッとばかり段取りを無視して、いまだ真っ白だった部隊の休暇予定表に、真っ先に彼の渡英期間を書き込んだ甲斐があったというものである。
いや、久しぶりに感動させて貰ったな。やっぱり、偶にはこういうチョッと良い話も無いとね。
九人目&十人目。戦闘機小隊所属、鷹村シノブ二曹&指揮小隊所属、赤木ダイ士長の場合。
「うん? 個人面談だと言ってあった筈だが?」
怪訝に思いながらも、肩など組みつつ入って来た、やたらと暑苦しい結束感を漂わせている二人組にそう尋ねる。
すると、どうも連名にて意見具申したい事があるらしい。
些か本面談の主旨とは外れるが、両名共にメンタルケアなど不要な手合い。
苦笑しつつも先を促す。
「コレって、平たく言えば『お願い聞いて』なイベントなんだろ?
なら、同じ意見を持った同志を募って、統合された嘆願にした方が効果的だと思ってよ〜」
「おうよ。俺達の心は一つだぜ、首領さんよう!」
相変わらず無駄に熱いね、君達って。
いっそ、ヤマダと一緒に木連に移住(予定)してみるかい?
得意分野に限定するならば、いまや向こうの士官学校生にも負けない技量を持ってる事だし。
と、胸中で突発的に生まれた将来設計の検討などしつつ、俺は肝心の要望内容を尋ねた。
すると、一瞬アイコンタクトを交わして呼吸を合わすと、彼等は声を揃えて、
「「童○を卒業したい!」」
「フッ(カチッ)」
返答代わりに、徐に手元のスイッチを押す。
「「ギャ〜〜〜ッ」」
「そういう下品なジョークを口にする者は、我が軍には不要なのだよ」
奈落へと落ちてく二人を見送りながら、某ガ○ラス軍総司令官のごとく嘯ぶいてみる。
正直に言えば、俺も一度は通った道だから、彼等の気持も判らなくはない。
だが、ウチは女系社会なもんだからセクハラ発言は問題なんだよね。
取り分け、青少年保護条令に触れそうなものは、時々検閲に来る風紀委員長の。
否、我が軍の影のドンと言うべきハルカ君の勘気に触れるし。
まあ、頑張れ青少年。何時か、今日の出来事を笑って話せる日が来るさ。
しかしなんだな。再び使う日が来るとは思っていなかったな、この仕掛け。
こんな事もあろうかと、以前ケンスケ君が落ちた時のままの状態(下階には防災マット&催眠スプレー)にしてあったのも、我ながらファインプレーって感じ?
十一人目、戦闘機小隊所属、朝月キョウシロウ二曹の場合。
内線で愚か者達の回収を命じた後、気を取り直して次の子を招き入れた。
入ってきたのは朝月二曹。歳に似合わぬ客観的視点と冷静沈着な判断力を合わせ持つ、いわゆる参謀タイプな子である。
そんな彼の資質に合わせて、ヴィヴィ三曹の様にダイレクトではないが、それとなく休暇の事をほのめかしてみた。
すると、彼は暫しの逡巡の後、
「故人曰く、十里の道は九里をもって半分とせよ」
と、唐突に得意の格言を口にした。
いや、此方の意図が伝わっているのは判るんだが…………
もうチョッと他に言う事があるだろ? ほら、休暇の過ごし方とかさあ。
「故人曰く、小人閑居して不善を為す」
その場の空気から俺の困惑を察したらしく、補足説明代わりに更なる格言を口にする朝月二曹。
だが、その内容は、なまじ的確な返答なだけに痛恨の一撃だった。
「故人曰く、後悔先に立たず」「故人曰く、勝って兜の緒を締めよ」「故人曰く…………
更に駄目押しとばかりに『油断するな』という意味を含んだ格言を連発。
よ〜するに、君は休暇に反対な訳ね。
う〜ん。ストイックな気質だとは思っていたが…………
いや、同僚達のモラルを。特に極一部の隊員のそれを信じていないだけか、この場合。まあ、無理もないけど。
「故人曰く、夏は魔物。妖艶なる毒婦なり」
嗚呼、もう判ったってば。
十二人目。戦闘機小隊輸送班所属、鈴置シンゴ二曹の場合。
朝月二曹の格言攻撃をどうにか乗り切った後、暫し休憩を入れる。
何せ、次は鈴置二曹。『今日も今日とて輸送船稼業〜』と、日々愚痴を零している子との面談なのだ。
疲れた心身を休めると共に、事前に対策を検討しておくに若くはないだろう。
インスタントコーヒーを啜りながら、問題点について考えを巡らせる。
思えば彼は、熱血系かクール系の両極端に別れがちな同僚達の中にあって、いたって普通な気質。
飄々とした。どこか人を食った様な雰囲気を纏ってはいるが、好んで乱を起す様なタイプとは思えない。
実際、日々巻き起こる部隊内での雑多な揉め事でも、いまだその首謀者となった事は無く、
それ所か、この件以外のケースでは、寧ろ物分りの良い大人な態度を取っている程である。
しかも、ロサ・フェティダがTVに初登場から既に二ヶ月以上も経過しているのだ。
そろそろ諦めが付くと共に、専門職に就いている事にプライドが生まれても良い頃だろうに。
………つまり、そこまで嫌って事か。難儀な話だのう。
機せず、『求める道程と才能とは必ずしも一致しない』という我が故郷のことわざを思い出す。
とは言え、彼のコンバートは、おいそれと認められない。
序盤の頃なら兎も角、現在の使徒戦は結構シビアになってきているからだ。
怨むなら回を重ねる事に厄介なパワーアップをしてくる使徒達を怨むという事にして、この辺りでスッパリと諦めて欲しい所である。
そんな結論に至ると共に、どうやって精神的なケアをするかを摸索。
幾つかのネタを紡ぎ出した後、意を決して鈴置二曹を招き入れた。
すると、俺の予測とは異なり、開口一番『俺を戦闘機小隊に戻して下さい』と言い出すどころか、らしくもなく妙にオドオドとした態度を取っている。
不審に思いつつ、その理由を問い質す。
すると、彼は暫しの逡巡の後、
「まさかとは思いますが、今回のお呼び出しはコンバートのお誘い。
IFSってヤツを付けて、エステなんとか言うロボットに乗れなんて言い出しませんよね?」
恐る恐る、そんな事を尋ねてきた。
「……………なるほど、その手があったか」
「提督〜!」
かくて、俺はキャンキャンと吼える鈴置二曹を適当にいなしつつ、この新たなシフトについての摸索を始めた。
悪くない。あくまで参考程度の。実行するか否かは微妙な線だが、カザマ君の存在同様、ヤマダに降板をほのめかすネタとして色々と使えそうなシチュエーションだ。
うん。矢張り部下の意見には耳を傾けるものだな。
十三人目。『元』戦闘機小隊所属、リブロック=ハーレイ三尉(故人)の場合。
「おっと。君には発言権が無いからパスね」
「って、そりゃ無いでしょ、提督〜!」
「いやだって。君ってばウチの隊員じゃなくて、一般人なリチャード=ハーレイ君だし」
本当は『聞くだけ時間の無駄』だからなんだけどね。(苦笑)
だが彼は、そんな言外の意味を汲んではくれなかったらしく『横暴だ! 善意の協力者にだって発言権を!』とか騒いで、全く引く気は無いっぽい。
仕方なく、彼の意見具申とやらを聞いてみる事に。
「コレを見てくれ! これぞ俺の理想の集大成とも言うべき………」
「はい、却下」
机の前に広げられた、不自然なまでにコンパクトで流線的なフォルムした真っ赤な戦闘機の絵図面を前に、即座に駄目出しを。
嗚呼、やっぱり時間の無駄だったか。(泣)
「何故だよ提督! コイツは何度も書き直した果ての傑作。
ウリバタケ班長や時田博士からも花丸を貰った会心の出来だってのに!」
あっ、ホントだ。良く見ると、左隅の部分に花丸が二つ付いてやがる。(泣笑)
ああもう。妄想を抱いて溺死しやがれ、この馬鹿ったれ共が!
「却下と言ったら却下! とゆ〜か、こんな吹けば飛ぶようなチッコイ機体を戦場に出してどうするって言うんだ!?」
「決まってるでしょう! カッコ良く空を飛ぶんですよ!」
この時点で、俺が彼の説得を諦めたとして一体誰に責められよう。
(フッ)ポチっとな。
「畜生! 俺は絶対、トレーシーちゃんで空を飛ぶんだ〜!」
そんな戯言を叫びつつ、奈落へと落ちて行くリック君。
その姿を見送った後、徐にコミニュケにてウリバタケ班長と時田博士へ連絡を入れ釘を刺す。
ついでに、ハーリー君に頼んで、此処最近の資金の流れを洗う様に依頼しておく。
そう。組織が腐敗しない様、この様に折に触れ襟を正す事こそ、提督たる俺の最も重要な仕事なのだ。
十四人目。指揮小隊所属、ジリオラ=ワークマン士長の場合。
再び内線で愚か者の回収を命じた後、根性を入れ直して次の子を招き入れる。
入ってきたのは、ジル士長。
部隊随一の長身と、惚れ惚れする様な肉体美を兼ね備える白兵戦のエキスパート。
そして、何気に準隊員の白鳥沢君の教官役を務めている娘だ。
ちなにに、この辺の経緯は、まったくの成り行きだったらしい。
女性ながらも猛禽を思わせる精悍な顔立ちで、しかもキツメな口調の毒舌家。
そんな客観的にはコミュニケーション能力にやや難のある感じなのだが、案外母性本能とかが発達しているのかもしれない。
ラピスちゃんの最もお気に入りな隊員である事も、それを証明していると言えよう。
そんな彼女が、開口一番に語った事はと言えば、自分の教え子を気遣っての。
そして、俺の意表を突く一言だった。
「いい加減、愛を一般社会に帰す算段をして欲しいのだが」
ゴメン。素で忘れてたよ、彼が某事件に巻き込まれただけの一般人だったって事。(汗)
「おやおや。てっきり俺は、このまま補充隊員が勤まるレベルになるまで、君が面倒をみるものだと思っていたのだが?」
胸中の動揺が面に出ない様に留意しつつ、おどけた調子で宥めに掛る。
だが、彼女の追及の矛先は、そんな薄っぺらな巧言で誤魔化されてくれるほど鈍い物ではなかった。
「ジョークは止めてくれ、アドミラル。
愛には、帰るべきホームと待っているファミリーが居る。
天涯孤独な。しかも、後腐れの無い様に死人となる予定な私達とは立場がまるで違う」
………なるほど。ダークネスと内通しているという、良くない噂が立つ前に帰してやりたい訳ね。
最近では、ヒョロヒョロだった身体にも薄っすらとだが筋肉が付き、それに伴い格闘能力の方も向上。
精神的にも自信の様なものが生まれつつある事だし、この辺が潮時だという君の判断は決して間違ってはいないだろう。
けどね、その懸念は的外れなものなんだ。
何せ、白鳥沢君のお母さんに『………という訳で、息子さんを御預かりしています』と、彼の近況報告と部隊へのスカウトの件を俺自ら告げに行ったのが、もう一ヶ月も前の話。
ぶっちゃけ、とっくに手遅れだったりするんだよね、困った事に。(笑)
「彼宛のメールを読ませて貰った限りでは、ファミリーとの連絡は密に行なわれており、その内容も肯定的な物。
何故か左程心配している様子が見られない点がやや不自然な気がするが、彼の受け入れ態勢はいまだ失われていないと判断する。ノー・プロブレム」
だろうね。何せ、俺の無理のある説明に対する第一声が『あらあら。それじゃ、愛の休学届を出しておかないといけないわね』と宣まった様な御夫人。
なんと言うか、漫画に出てくる『暢気な母さん』を地で行く様な人だったからなあ。
まあ、一応は口止めっぽい事も言ってあるから、流石に『実は今度、ウチの愛が………』とか、ご近所に吹聴して回ったりはしていないだろうけど。
さて、困ったな。俺的には終戦まで付き合って貰うつもりだったし、彼のお母さんにも、そういう風に伝えてしまってある。
それに、良く考えてみたら、実は途中で帰す事の方が危険なんだよね。
ケンスケ君をスカウトした時に懸念された様に、ネルフに人質に取られる可能性があるから。
その辺の諸事情を、この頑固者な娘にどう納得させたものか………
「残念だが、終戦まで彼を帰す訳にはいかない」
「つまり、私達同様、死人にするつもりだと?」
「最悪の場合には、それもありえるだろう。
だが、その可能性はほとんど無いぞ。知っての通り、終戦後にはダークネスは悪の秘密結社の金看板を外す事になっているからな。
直接的に関わった君達なら兎も角、単なる食客に過ぎない彼に累が及ぶ様な事にはならない筈だ」
取り敢えず、そんな路線で暫し押し問答を。
ジル士長の挙げた懸念材料を、一つ一つ丹念に解消してゆく。
そんな誠意溢れる俺の対応が功を沿うしたらしく、硬化していたその態度も和らいでいった。
だが、漸く説得出来そうな兆しが見え始めた矢先、彼女の口からクリティカルな一言が飛び出した。
「それでは『愛を戦場に出す気は無い』と、受け取っても良いと?」
シ〜〜〜ン
「って、何故そこで押し黙るのか、アドミラル!」
ゴメン。それはチョッと約束出来そうに無い。
胸中でそう謝罪しつつ、この絶望的な状況を切り抜ける算段をする俺だった。
十五人目。トライデント中隊隊長、春待ユキミ三尉の場合。
そんなこんなで、ジル士長に小一時間に渡ってジト目で睨まれたものの、どうにか説得完了。
暫しの休憩の後、問題の焦点とも言うべき次の子を招き入れる。
だが、俺の予測に反し、入ってきたのはグルグル眼鏡の少年ではなく、部隊の隊長。
顔と身長は子供でも、頭脳とスタイルは大人。その名はトライデント中隊隊長、春待ユキミ三尉だった。
「あれ? 次は白鳥沢君だったと思ったが?」
「彼ならば、ヒカル達と一緒に……失礼しました。
本日05:00時をもちまして、紫堂一曹、薬師一曹と共に、アマノ中尉の指揮下に出向中であります」
俺の問いに対し、格式ばった口調に言い直しつつ。
それでいて、やや恨みがましそうな感情を含んだ声音にて、そう答える春待三尉。
はて? 出向中って………まさか!
「詳しい事は自分も聞かされてはいませんが、前回彼等が参加したものよりも更に極秘性が高く、かつ重要なミッションとの事。
原隊への復帰は、8月4日13:00時の予定であります。
なお、これは私見ですが、前回のそれと照らし合わせますに、これは何日か伸びる可能性が高いかと思われます」
嗚呼、やっぱりそうだった! コスミケだな! コスミケの修羅場に入ったんだな!
しかも、彼女の『何故そんな命令を出したんですか!』と言わんばかりの顔付きからして、俺が認めた事だと誤解されている〜(泣)
畜生! やってくれたなアマノ君。
ピコン
『大変だ、提督!』
と、俺が予想外の奇襲に浮き足立っていたところへ、更に思わぬ駄目押しが。
前置き無しに、いつもの無駄な大声と共に、ヤマダの暑苦しい顔が、すぐ鼻先へと大写しとなった。
『提督! 何とか言ってくれよ、提督!』
「ええぃ落ち着け! 一体どうしたって言うんだ?」
『良くぞ聞いてくれたぜ、提督! とにかく大変なんだ!』
「だから、何が大変なんだ?」
鼓膜と視神経に負った致命的なダメージに閉口しながらも、興奮状態にあるヤマダを根気良く宥めつつ、要領を得ないその言から何があったかを推察する。
導き出されたその内容は驚くべきものだった。
8時間ほど前の早朝………否、2199年の世界ではお昼時に、例の三人を従えたアマノ君が来訪。
そのまま昼食を御相伴した後、『チョッと手伝って欲しい事があるの〜』とかテンパった顔付きで言いながら、半ば拉致同然に御剣君を連れ出し、
そのまま深夜になっても帰ってこないらしいのだ。
「って、何時の間に同棲なんてしてたんだよ、お前!」
『ナニ訳の判らない事を言ってるんだよ、提督!
この間っから、万葉の叔父さんの道場に厄介になってるって言っただろう』
嗚呼、このバカ素で言ってやがる。そこは赤面しながらどもるのが御約束ってもんだろうに。
まあ、お前にそんなストロベリーな作法を期待する方が間違ってるんだろうけど。
『ンな事より、何とかしてくれよ、提督!
ヒカルんトコには連絡がつかなくて、直接行ってみても何故か留守だったし。万葉のダチ達の所も残らず当たってみたけど居なっくて、もう他にアテが無えんだよ!』
「ええい。兎に角、落ち着け! そんなに慌てる程の事でもないだろう。連れ出した相手はアマノ君なんだし」
『ナニ言ってんだよ、提督!
コトは一刻を争うんだ! ウチの門下生達だって、みんな心配してるんだよ!
さっきだって、万葉が帰ってこね〜もんだから夕メシが食えなくて、車座になって泣きながらカップ麺啜ってたんだぜ!』
うわっ。本気でもう駄目だ、コイツ。ほとんど女房に逃げられた駄目オヤジと化してやがる。
つ〜か、件の門下生達は映さんでくれよ、頼むから。
あの、お前の遠い親戚みたいな暑苦しい連中に、声を揃えて『母ちゃん、帰ってきて』とか言われた日には本気でショック死しかねん。
『兎に角、頼んだぜ提督!』
と、俺が最悪な未来予想図に悶絶している間に言いたい事を言い終えたらしく、最後にそう念を押してからヤマダは通信を切った。
騒がし過ぎる闖入者が去り、静寂が室内を支配する。
「そ…それで、今回の面談は、どういった意図によるものなのでしょうか」
その数分後、春待三尉が恐る恐るそう尋ねてきた。
それを受け、漸くそれまでやっていた事を思い出す。
「それなんだが、実は再来月の………」
と、当初の予定通り、部隊の長である彼女には裏事情を話し、各隊員達の夏休みについて現場サイドからのアドバイスを聞き出そうとする。
だが、此処で俺はハタと気付いた。これがチャンスである事に。
あの馬鹿の乱入によって、それなりに前フリは出来ている。
よし。虎穴に入らずんば虎子を得ずだ。
「(コホン)まあ、夏休みに関しては、発表後、君に各隊員達の希望を纏めて貰うとして。
チョッと下世話な質問で申し訳ないんだが、君、愛って何だと思う?」
「……………躊躇わない事でしょうか?」
俺の唐突な質問に面食らいつつも、春待三尉は恐ず恐ずとそう切り替えしてきた。
素晴らしい。一年前の彼女からは、考えられない様な成長振りだ。
だが、今回ばかりはNGな返答と言わざるを得ない。
そう。これはそういう冗談で片付けて良い問題では無いのだ。
「残念だが、俺が聞きたいのはそういう宇宙刑事理論じゃなくて、わりと真面目な話だ。
この際だからぶっちやけて聞くが、君はハーリー君との将来とかって考えてたりするのかい?」
と、今度はド真中の豪速球を。
「そ、それは………」
そんな俺の言に、口篭る春待三尉。
無理もない。彼女にして見れば、単に可愛い弟分を可愛がってきたつもりの筈。
だが、こうして改まった形で問われれば、話は全く変わってくる。
なまじ聡明な娘だけに、自分とハーリー君の特殊な立場が。その危険性が自覚出来てしまうのだ。
嗚呼、こういう時、腹芸の出来ない不器用な自分がつくづく恨めしい。
せめて、もうチョッとオブラートに包んだ………
「矢張り、ホシノ少佐が連合軍に入隊する直前までに、いかに実績を挙げるかが勝負の要かと」
「はい?」
「そ…そんな顔をなさらないで下さい。
判っています。電子の妖精とまで称される大戦の英雄と張り合おうだなんて、思い上がりも良いところ。現時点では夢物語でしかないでしょう。
ですが、統合軍に入ってからの武勲によっては。たとえば、私がユーチャリスの艦長に選ばれれば、ハーリー君を引き抜く事も可能だと………」
「チョ…チョッとタンマ!」
あまりに予想外な返答に、思わずタイムを。
戸惑い顔の彼女へのフォローもそこそこに、今のセンセーショナルな未来予想図を推考する。
………なるほど。確かに、ナデシコBの艦長はホシノ君。この人事は既に鉄板だ。
従って、このままいけば、再びハーリー君がそのオペレーターという事になる。
だが、ユーチャリスは。ナデシコCを建造する上で重要な意味を持つ、もう一つの実験艦の艦長は、必ずしもアキトである必要は無い。
それ所か、各陣営のパワーバランスを考えれば、極めて有害な。いっそ『絶対に無い』と断言し得る人事だ。
従って、ナデシコBだけではデータが足りず、かの艦が再誕する事となった場合、
ラピスちゃん辺りは心底嫌がるだろうが、統合軍所属ユーチャリスって線も決してありえない話では無い。
とゆ〜か、Prince of Darkneesが居ない以上、連合に配属されるナデシコBとの兼合いから、そうなる可能性が結構高いとさえ思われる。
そうなった時、春待三尉の意図通り彼女が艦長に選ばれれば?
そして、既に実戦経験を積み、軍人としての実績もそれなりにある『マキビ少尉』ならば、敢えてホシノ君の下に就けねばならない必然性も薄い。
マシンチャイルドの有効活用の面から考えても、彼がユーチャリスのオペレーターに配属される可能性はは充分にあるだろう。
つまり、もう一つの歴史でのホシノ君の役所をソックリ頂く形になるという寸法。しかも、立場が全くの逆なのだ。
その気になれば攻め手は幾らでもある………って、コイツはスゴイぜ!
「いやはや、随分と惚れ込んだものだね。一体、彼のドコがそんなに気に入ったんだい?」
2199年の社会情勢と己の立場を吟味し、本来ならばマイナスな筈の要素を総てプラスに替え得る奇策を編み出した彼女の知略に。
特に、その戦略家としての才能の総てを、躊躇いも無く己の恋路に注ぎ込む艦長顔負けなその性格に戦慄を覚えつつも、一応そんな事を聞いてみる。
事此処に至った以上、とっくに手遅れなのだろうが、これは二人の保護者である俺の最後の責務である。
とは言え、おもいっきり気が進まない。とゆ〜か、出来れば聞きたくない。
(ハア〜)どうせ、良くて『ハーリー君は私の王子様』。悪けりゃ『ちっちゃい男の子とか好きだから』と某あず○んが大王な教師の亜流な理由なんだろうなあ〜
溜息と共に、そんな諦観が胸中を支配してゆく。
だが、そんな俺の低俗な予測を嘲笑うかの様に、返って来た応えはシリアスかつディープなものだった。
「先日、提督が破棄なさっていた私宛のメール。越権行為かとも思いましたが、気になったので勝手に修復させて頂きました」
えっ? ………って、しまった! 今の彼女は、そういう事が出来る技能の持ち主だった。(汗)
だが何故だ? ヤツからメールが来た事がどうしてバレたんだ!?
名前を確認した時点で、開ける事無く処分した筈なのに。
「利用出来るものは何でも利用しようとする人でしたから、遅かれ早かれ来るだろうと思ってましたが………
笑っちゃいますよね、あの内容。『いい加減、意地を張ってないでヨリを戻そうぜ』ですよ。
いったい何時、私はあの人の恋人だったんでしょうか? 私にはトンと憶えが無いんですけど」
そう言って、コロコロと笑う春待三尉。
悪意など欠片も感じられない綺麗な笑顔だ。
だが、それだけに俺の困惑は深まってゆく。
いったい何故、彼女はこんなに平然としていられるのだろう?
相手は、自分の女性としての尊厳を奪った男だというのに。
「その時、修復方法を教えて貰っていた関係で、ハーリー君に私の過去がバレちゃったんですけど………彼、何事も無かったか様に装いつつ、食事に誘ってくれたんですよ。
勿論、動揺し捲くってるのはバレバレでしたね。
多分、本人はタカスギ大尉辺りのそれを真似したつもりだと思うんですけど、もう目茶苦茶。
『実は馴染みに店に予約を入れてあるんです』とか言いながら、タクシーを呼ぼうとして電話を掛けてから、電波の届かない秘密基地だった事に憤ったり、
諦めて日々平穏に入った後も、私の為に椅子を動かそうとしてくれたらしく、固定されているカウンター席を掴んだままウンウン唸ったり、
料理が運ばれて来てからも全然落ち着かなくて、テーブルマナーの薀蓄を語りながら、目の前のハンバーグを徹底的に切り刻んでミートソースにしっちゃったり」
うわちゃあ。気持は判る。判るんだが、幾ら何でもそれは無いだろ、ハーリー君。
そりゃあ、下手な同情をするよりはマシなんだろうけど、もうチョッとどうにか………
「でも、冷静になってみると、滑稽だったのは私の方。
実は、九歳の男の子に気を使わせていたんですよね。それも、おもいっきり。
あの時はもう笑うしかなかったんですよ。たとえ、どれほど不様な造り笑いでもね。
私には、それしか彼の心使いに応える術がなかったから。
敢えていうなら、それからですね。ハーリー君が可愛い男の子から、側にいて欲しい人になったのは」
前言撤回。良くやったぞ、ハーリー君。
思えば、打算の無い心からの行動だったからこそ、春待三尉の胸を打ったのだろう。
正に体当たり故の勝利。俺ではこう上手くはいかなかった筈………
「って、チョッと待った! 何でハーリー君に例の件がバレたんだ!?
知っているのは、トライデント部隊を乗っ取る際に各種資料を洗った、俺とカヲリ君だけの筈だぞ。
誓って言うが、俺は誰にも他言していない。直接の上官である大佐にさえ、敢えてその辺りの事情は伏せて………」
「それでしたら、御丁寧にも一番最初に証拠写真が添付されていたので」
「………………」
予想外な、そのあまりの下種っぷりに言葉を失う。
と同時に、心から安堵する。春待三尉にっとって、ヤツが復讐する値打ちすら無い。取るに足らない存在となっていた事に。
そう。此処だけの話なのだが、実は彼女、三年前にレイプされている。
しかも、犠牲者は彼女一人だけでは無い。
犯人は、当時のトライデント部隊候補生達の新任教官。
何でも、本来の仕事はそっちのけで、女性隊員達を物色。一定以上のスタイルになってきた娘には、片っ端から手を出してしたらしいのだ。
なんとも胸糞の悪い話である。
しかも、俺達が介入を始める1年前に、その悪事の数々が露見して懲戒免職になっていたもんだから、直接制裁を加えられなかったし。
「って、再び待った! あの時は、『もう、思い出したくない』とか『そっとして置いて欲しい』っていう、
犠牲となった娘達(春待三尉以外は、今ではもう20歳前後。嗚呼、14歳にしてDカップ故の悲劇)の意志を尊重して、
敢えて犯人探しはしなかったが、コレはもうマズイだろ。直ちに写真とそのデータを回収しないと!」
「えっ?……………ああ、そうですね。私は兎も角、他のお姉さん達のそれは処分しておかないと」
一瞬、キョトンとした顔をした後、まるで他人事の様にそう宣う春待三尉。
その態度は平静そのもの。まるで『自分だけなら誰に見られても構わない』と言わんばかりな物言いだ。
………否、実際に構わないんだろうな。何せ、本気で2015年世界に残る気は無いっぽいし。
彼女の性格からして、その辺はもう『旅の恥は掻き捨て』ぐらいの感覚なのかもしれない。
「えっと、(ピコン)今の住所は此処ですね。早速、人数を集めて強襲を………」
「いや、それは駄目だ。この件はナオに回す」
何気なく、件のメールのアドレスから逆探知というホシノ君を彷彿させる荒業を披露。
着実にオペレーティング能力が向上している所を見せ付けてくれた春待三尉の勇み足を制す。
そう。ハーリー君にさえ一目でソレと判る様なドギツイ写真を、
当時は年少組だった事もあって、幸いにもその辺の事情を知らない他のトライデント中隊の子達に見せる訳にはいかない。
「ああ、なるほど。たしかに、その方が良いかもしれませんね。
なんだかんだ言っても、あの子達は女性に幻想を持ってる所がありますし」
俺の意図を察したらしく、納得顔でそんな事を宣う春待三尉。
嗚呼、そこで『でも、チョッと過保護すぎかも』とか小声で呟かんでくれ。
とゆ〜か、少しは恥らってくれよ、頼むから!
〜 20分後 再び大首領室 〜
そんなこんなで、個人面談も漸く終了。
ある意味、某同盟の娘達以上に危険な娘に見初められたハーリー君の冥福を祈った後、手元の手帳に書き込んだメモを頼りに、各隊員達の夏休みについて摸索する。
取り敢えず、某セクハラトリオは留守番組に。
下手すると無言の帰宅をする事になりかねない、アマノ君とこに出向中の3人の休暇は後半メイン。
春待三尉は、2199年の関係各所への挨拶回り。
この辺は、もう決定で良いだろう。
さて。後はどうするか?
ナンジノ、ナシタイヨウニ、ナスガヨイ
……………幻聴か。やっぱ疲れてるんだな。
この機に俺も、一丁、長期休暇と洒落込むとするか。
ヤッホ〜、ヒサシブリ
レジャーの定番と言えば、矢張り海かな?
何の因果か、主人公補正で攻略キャラの一翼を担っている事だし、
今年は一つ、水着を新調するべきないのかも………
ソーダネ。イッソ、ビキニパンツトカ、イイカモネ。 マア、ソノハナシハオイトイテ、チョット、タノミガ、アンダケド。
嗚呼、聞えない! 聞えないったらもう、絶対に聞えない!