ナノマシンの紋様
第0話 「火星落ちる」
ドドンパQ
火星の空は紅く輝いていた、そして雲に映えるナノマシンの紋様。閃光。また、閃光。また、消える。次の瞬間、空は光のみが存在した。
そこから何かが落ちて来た。
町に向かって。
黒く黒く、そして大きい楕円体が。
地表に突き刺さる。
光が空間を支配する。
町は消えた。
火星 ユートピアコロニ−跡 フクベ提督が火星撤退宣言をだしてから5時間後
衝撃。
「ちっ」
アキトの小さな呟きがコックピット内で木霊した。
左腕部が吹き飛んだようだ。と、いってもエステバリスのものだが。
フクベ提督が火星撤退宣言をだして5時間が経った。3時間前からは早くも敵の本格的進行が始まり、地表は激戦の最中だった。
アキトの後ろにあるシェルターには民間人が数多く残っていて地上軍がこの警護にあたっていた。
そして今、アキトの目の前には敵の無人兵器が一機残っていた。
せまりくる無人兵器、それに右腕を繰り出す。
金属音、そしてその物体は地面に落ちて四散した。
素早くエラーメッセージの多数でている脇のレーダーを見やった、反応なし。
「ふー。」
アキトはため息をついた、さすがに3時間に及ぶ戦闘には疲れたようだ。そして胸の青いペンダントをなでる、それは彼の両親の形見で撫でることは癖になっていた。
「大丈夫?」
コミュニケを通して声が聞こえる、相手はイツキ=カザマ、アキトの親友であり、大切な仲間であった。
「あらかた片づいた様だ、それにもうこのエステでは戦えない」
アキトはそう言って計器類を見る、いたるところにエラーメッセージ、そして残りのバッテリーも少ない。
その時、レーダーに機影が映った、連合宇宙軍所属の戦艦ベニテングダケである。ベニテングダケとは深山の林の中に多いきのこである。毒を持っているため、食用のタマゴダケと間違えないよう注意が必要である。
「助かるかもしれないな」
「そうね」
アキトはエステバリスからベニテングダケへ通信を送った。
コミュニケにわずかではあるがベニテングダケのブリッジの様子が見える。
「こちら地上軍の者だが、こちらには民間人が多数いる保護を求めたい」
アキトは簡潔に言った。
「なに、いってんのよ、こっちだって逃げるの精一杯なんだから、死んじゃうでしょ」
艦長であるキノコ、もといムネタケが叫ぶ。
「なんだと!キノコ」
「うっさいわね、あんたもとっとと逃げなさい、まっ、生きてたらの話だけどね」
通信は切れた。
「くそ!!」
アキトはコントローラーを叩いた、だがどうしようもない。
アキトはコックピットを開いた。目の前に広がるのは傷ついたビルばかり、だがもうすぐこれらは消えてしまうだろう。
「どうする?」
イツキが通信をしてきた。
「エステバリスもどうにもならん、対物自爆プログラムを実行して、シェルターに向かおう」
通信をきった。アキトはプログラムの設定をすると、相棒を少しなでた。
「ありがとう」
深く、暖かく言った。
アキトとイツキは地面に降り立った、といっても近くに木星蜥蜴の機影は見られなかったのでゆっくり歩いていた。
「どうなるのかなぁ、私達」
イツキが不安そうな面持ちで言った。だが、アキトは黙ったままだった。
「おっ」
アキトが口を開けた、だがそれはイツキへの返答のためではなく、何かを発見したからだ。
アキトは自分の発見したバギーに向かった。持ち主は逃げ出してしまったのだろう。
「ミカンもあるぞ」
そう言って、ミカンのたくさん入ったダンボール箱を示した。
二人を乗せたバギーはシェルターに向かって走り出した。
「ありがとう」
そう目の前の少女は言った。
「すみません」
少女の母親も感謝の声を発した。
「いえ、かっぱらってきたものですから」
アキトはそう答えた。
アキトとイツキはあの後シェルター内でミカンを配っていた。
「お兄ちゃん、私アイっていうの。今度デートしよう」
「へっ」
アキトは子供の冗談として受け取ったが、そうも取らぬ女がいた。
「だめよアイちゃん、お兄ちゃんには先客がいるんだから」
イツキが会話に入ってきた。その口調は少し強かった。
「じゃあ、お姉ちゃんライバルだね」
「ぷっ」
アキトとアイの母親は吹き出した。それはあまりにもこっけいな話だったから。
「ようし、アイちゃん。このお姉ちゃんがおばちゃんになったらデートしよう」
アキトはアイの頭をなでながら言った。
「ちょっと、それどういう意味よ、アキト!」
イツキはアキトにヘッドロックをくらわせながら言い放った。
「冗談冗談、勘弁してくれ」
「よろしい」
イツキは手を離した。だが、面白くない女がいた。
「お兄ちゃんデートしてくれないの」
一同は笑った、アイは最初意味がわからなかったが、同調して笑った。だが、
「静かに!」
アキトが急に怒鳴った。アキトには聞こえたのだ。
「どうしたの?」
「エステが自爆した、もうすぐ来るぞ!」
アキトは気付いた。目の前の壁の隙間から、赤い光が漏れていることを。
「あぶない!」
アキトは三人を抱えて飛んだ。その瞬間、壁が吹き飛んだ。
「きゃあ」
黄色い物体、バッタが目の前に現れた。
「市民を守れ」
シェルター内にいた地上軍がライフルの雨を降らせる。だが、相手はそれに全くこたえていない。
「イツキ、二人を安全なところへ」
「ちょっと、どうするのアキト」
アキトは先ほどのバギーに乗りこんだ。
「たのむぞ」
アキトのバギーはスピード出して走り出した。
「どけー!」
アキトは地上軍の人間たちに向かって言った。そしてさらにスピードを加え、目標の黄色い物体に突っ込んで行った。
「うおー!」
アキトのバギーはバッタに突っ込んだ。そして一気に後ろに押しやった。スピードをさらに加えた。
「おおー」
群衆は歓声をあげた。
バッタは唯一動かせる手で暴れ出した。
アキトはガンポケットからハンドガンを抜くとバッタのパーツとパーツのつなぎ目にさして、全弾撃ち尽くした。
バッタの動きが止まった。
「ふー」
アキトはため息をつき、ペンダントをなでた。今度は歓声は上がらなかった、なぜなら群集はシェルターの出口の方に注目していたためだ。もうこんなところにはいられない。集団心理の典型的であった。
アキトは自問した。なぜこのバッタはエステが自爆した時、もうここにいたんだ。それになぜたった一匹で来る、自分が今まで戦った限りではバッタは集団戦法を使う。いや、発想を変えよう。自分ならどうやってここを攻める。まさか!
「待て、扉を開けるな!これは陽動作戦だ」
アキトは走り出した。だが、もう遅かった、扉は開きかけていた。
「アキト!」
爆発。
アキトはその衝撃を声の主によってたおされ、守られた。
「イツキ」
そう彼を守ったのはイツキだった。そして、さっきまで自分の向かっていた出口を見た。案の定そこにはバッタが数体いた。
「イツキ、アイちゃん達は?」
アキトはイツキに覆い被さりながら問うた。
「非常階段で逃げたわ、私もあなたと同じことを思ったの」
「そうか」
バッタ達が近づいてくる。
イツキはアキトの体を強く抱きしめた。
「死にたくないよう、アキトぉ」
イツキは泣いた。
「その通り、俺もまだ死ぬわけにはいかない」
イツキは顔を上げた。そこにはナノマシンの紋様がはしるアキトの顔があった。
アキトは立ちあがった、顔にナノマシンの紋様をうかべながら。イツキは涙目にそれを見ていた。
一匹のバッタが突っ込んでくる。だが、アキトはカウンターで頭部に一撃加えるとその物体は飛んでいった。
「えっ」
イツキは目の前で起きていることが理解できなかった。ただ言えたことは今のアキトは最強だった。
あっという間にアキトは全てのバッタを倒した。
「あきと…」
「言ったろ、まだ俺は死ぬわけにはいかない」
彼の顔の文様は消えた。だが、それについで彼の胸のペンダントが輝き始めた。
「ナニッ」
「アキトッ」
イツキはアキトの手を握った。
そして次の瞬間そこには誰もいなくなった。
筆者の戯言
初めまして、ドドンパQでっす。
この話はタイトル通りナノマシンの紋様を中心に書きます。できれば劇場版までもっていきたいです。
私がナデシコを見出したのは四,五年前、つまり初回のやつです。アレはおもしろかったですねー。でも、話が長くなるのでここで終わりにします。
がんばるよ!
代理人の感想
ドドンパQさん初投稿でした。
がんばってください! 応援しています!
・・・・しかし、連合軍の艦船って花の名前がついている物だとばっかり思ってましたが・・・・
キノコですか(爆笑)。
ムネタケもどうやら先祖代々の軍人のようですし、ムネタケ一族の乗艦は「ヒトヨタケ」「ウラベニホテイシメジ」
「ニセクロハツ」「ワライタケ」なんて名前(無論、全部毒キノコ)をつけるのが伝統なのかも(笑)。
もちろんムネタケ父のようなまともな人だったら「ナメコ」、「マッシュルーム」、「マイタケ」、「サルノコシカケ」
みたいな名前になるんでしょう(爆)。
・・・・・・金輪際強くなさそうな名前だな(^^;
アキト君の謎のハイパーモードに関してはまた次回の講釈にて(笑)。