ナノマシンの紋様
第1話 「機動戦艦ナデシコ」
ドドンパQ
「へい、らっしゃい」
威勢の良い男の声が食堂の中を響く。
「ラーメン」
客が言う。
「ハイ、分かりました」
少女が可憐な声でそれに答える。
少女の持ってきた注文によって、厨房の男二人は調理にかかり始めた。
そう、テンカワアキト、イツキ・カザマの両名は地球でささやかな暮らしをしていた。
「フー」
店ののれんを下ろしながらイツキはため息をついた。
「どうした疲れたか」
店の店主、サイゾウが声をかける。男には厳しいがこの店主は女性には優しかった。
そして今、厳しく修行をさせられた男は厨房で明日の仕込をしていた。
それが修行の結果でもある。
「いやあ、もう1年経つんだなあと思って、地球に来てから」
イツキは懐かしい顔をしながら、店主の問いに答えた。
あの悪夢のような火星大戦のさなか、彼らが気がついた場所はなぜか地球だった、それも日本。その後彼らは軍を除隊した。それには火星でのベニテングダケの艦長のキノコに対する不信がそのまま軍につながっただけであったが。その後二人は同居しつつ、この食堂で働いていた。
「運が良かったよなあ、おまえ達は。火星が落ちる前に逃げてこられたんだからなあ」
店主が言う。
もちろん二人は火星での出来事に関しては黙っていた、特にアキトは忘れてくれと言うばかりであの話はタブーとなっている。
「ええ、二人で月に旅行に行こうとしていたらアレですからね」
その後サイゾウとイツキは雑談を交わしていたが、男によってそれは遮られた。
「あの−、すいません、まだやっていらっしゃいますか」
食堂に現れた二人の男、ひげに赤いチョッキといういでたちでいかにも腰の低そうなサラリーマンと背が高くてごつい男という正反対の組み合わせだった。
イツキは断わろうしたが、店主はそういうわけにもいかない。
「もうのれんをおろしちまったからな、まあ、チャーハンぐらいならできるぜ」
「あっ、それでお願いします」
「アキト−、チャーハン大至急だ」
「了解っす」
アキトは威勢の言い声で答えた。
数分がたち、アキトのつくったチャーハンがイツキの手によって二人のもとに運ばれる。
サイゾウはもう疲れたといって奥に下がって行った、それだけアキトたちが一人前になったという証拠だ。
「いやあ、おいしかったですねえ、ゴート君」
「…………」
ゴートと呼ばれるごつい男はなにも答えない。
イツキは皿を運び、中華なべを洗っているアキトの元へ持って行く。
「良い仕事してますねえ、テンカワアキトさん」
アキトの手が止まる、イツキは皿を落としそうになった。
「いやいや、そんなお化けでも見るような目で見ないで下さいよ、イツキ・カザマさん」
「誰だ?貴様たちは?」
アキトは鋭い目つきで彼らを見つめた。
「まあまあ、こちらに来てください。私たちの自己紹介もまだですから」
アキトとイツキは男達の向かいに座った、あまり気乗りしなかったが、こうしなければ何も始まらない。
「私はこう言うものです」
男は二人に名刺を渡した。
「プロスペクタ−?」
イツキが問う。
「まあペンネームのようなものです」
イツキは名前に気がいったが、アキトは彼の役職に注目していた。
「ネルガル」
「そうです、私たちはあなたたちをスカウトしに来ました」
少し空気が止まった、それは彼らの平穏な日々が終わろうとしていた瞬間であった。
「テンカワさんにカザマさん、あなた方軍に在籍していた時ネルガルにテストパイロットとして出向していましたね」
「ああ」
アキトが少し不機嫌そうに答える。
「そして第一次火星大戦ではエステバリスのプロトタイプで地上の戦線を務めた」
「いや、それは違うな。俺たちはその時月行きのシャトルの中だった」
「はて、本当ですか?記録が残ってないんですよ」
「離陸寸前に出たキャンセルで乗ったのさ」
アキトは軽く答える。
「分かりました、それで良いでしょう。私たちもそんなことのために来たのではありませんから」
そしてプロスペクタ−は本題に入った。
「実は二人には我々の造った戦艦にパイロットとして乗ってほしいのです」
「民間が戦艦を運行するんですか?」
イツキが問う。
「ええ、そしてテンカワさん」
プロスペクタ−はアキトの方に向いた。
「あなたは火星で新型のエステバリスの作製にかかわっていましたね」
「ああ、あの欠陥品か」
「ええ、その通りアレは欠陥でした、あれがもし正常な状態で稼動したら犠牲者の数も少なくなったかもしれませんね」
「エステバリス新型強化パーツサレナ、小型相転移エンジンを搭載、だがそのエンジンの性質のため大気圏内での使用はできなかった」
アキトが言う。
「その通りです、我々はそれを地球で造りなおしたのですが…。誰も扱えないのですよ。サレナパーツ自体出力を出せないのですよ。原因を探ったのですが、どうやら相転移エンジンの出力が強すぎるためと開発者がテンカワさんに機体を合わせすぎたようなんですよ」
「なるほどそれで俺か」
アキトは開発者の顔を思い出しながら少し笑った。
「引き受けてもらえますか?」
「とりあえず考えておこう」
「良い返事期待していますよ」
そう言うとプリスペクターはゴート共に去って行った。しかしあのごつい男は何のために来たのだろうか。
「あっ、勘定もらうの忘れた」
「あっ」
「どうするのアキト?」
イツキが問う。もちろん食い逃げされた件のことではない。
「どうすべきかは分からない、でもここでずっと止まっているわけには行かない、わかるだろう?火星では俺のミスで何人も死んだんだ」
「違うよアレはアキトのせいじゃない」
「違ったとしても俺たちは地球で幸せに暮らしている、いつまでもこうしているわけにはいかないんだ」
アキトは強く言った。
「わかった、アキトがそう言うならあたしはアキトに着いて行く」
「イツキ」
アキトはイツキを抱きしめた、だがそれは物陰ですすり泣く声によって遮られた。
「げっ、サイゾウさん」
泣いていた主はサイゾウであった。
「良い話じゃねえか、泣かせるぜぇ」
店主は涙もろかった。
「よし、話は聞いた。後のことは俺に任せろ、立派に御勤めはたして来い」
そして数日後の朝。
「がんばってこいよ、アキトにイツキちゃん」
サイゾウが言った。
「本当にお世話になりました」
アキトが言う。イツキは泣いていた。
「おまえたちは平和に暮らしたかったかもしれねぇが、人の役に立つ以上がんばってこい、死なない程度にな」
一人と二人はお互いに握手を交わし、タクシーに乗って去って行った。
「生きて帰ってこいよ」
サイゾウは呟いた。
「やあやあ、アキトさんにイツキさん、来ていただきましたか」
そう言ってプロスペクターは二人をドック内に案内した。
彼らは広い空間に出た、そこに鎮座するのは巨大な戦艦。
「これが我々の切り札・…、機動戦艦ナデシコです」
プロスペクターは胸を張ってそう言った。
「装備は?」
アキトがたずねる。
「相転移エンジン、ディストーションフィールド、そしてグラフティーブラスト」
「つまり木星蜥蜴のパクリですか?」
イツキが尋ねる。
「いえいえ、これは明らかに木星の技術をはるかにしのいでいます、切り札なのですから」
プロスペクターはここで間を置き、
「さて次にエステバリスを見に行きますか」
そしてたどり着いた格納庫は耳障りなほど騒がしかった。
「ゲキガンガー!!!」
響くのは暑苦しい男の声。しかも彼の乗っているピンク色のエステバリスは暴れていた。
「はて、パイロットの乗艦は2日後のはずなのに」
プロスペクターが呟く。
「ゲキガンガーじゃねえ。そいつはエステバリスだ」
つなぎを着て眼鏡をかけた整備班の男が拡声器で叫ぶ。
「君たちだけに見せよう、このガイ様の超スーパーウルトラグレート必殺技
ガーイスーパーナッッッッッッパ〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!」
そして彼のエステバリスは壮絶にこけた。
整備班の何人かがそれによる。
「ぎゃはははは、すげーな」
パイロットの男は大笑いした。
「俺の名前はダイゴウジガイ!まあガイって呼んでくんな」
男は自分の名前を名乗った。
「あれっ、山田次郎ってなってるけど」
彼の魂の名前は数秒でその存在を失った。
「それは世をしのぶ仮の名」
山田次郎ダイゴウジガイは立ちあがり、
「木星人め、来るなら来い!」
と、かっこいいせりふをはいたが左足が彼を支えてくれなかった。
「あっお宅折れてるよこれ」
「ナニ〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
そしてガイは整備班の担架に乗せられ退場して行った。熱血しながら。
そして
「何だったんですか、アレ?」
アキトとイツキは問うた。
「さあ?」
プロスペクターはそう答えるしかなかった。
「さて、気を取りなおして本題に戻りましょう」
彼らは格納庫の奥に進んだ。
そこに一体の黒く多少デザインの違うエステバリスが置いてあった。アキトとイツキはもちろんその機体に見覚えがあった。
「これが我が社の新型エステバリス、サレナ・・…の中身だけ」
プロスペクターが説明をする。
「サレナパーツは?」
「いやあ、それが昨日ある馬鹿が無理して出力出そうとして地面に激突、サレナパーツは壊れてしまいて」
と、プロスペクターは怒りと微笑みの両方を顔に浮かべた。
「へっくし」
その頃、ネルガルの会長室にいる馬鹿は壮絶にくしゃみをしていた。
「風邪なんかひいてる暇なんかないわよ!」
「いやあ、エリナくん今日は一段と厳しいなあ」
「あんたが昨日馬鹿やったおかげで仕事が押してるのよ、今夜は徹夜で仕事してよね。逃亡防止のため入り口にシークレットサービスをつけるわ!!」
「げっ!」
彼は今日ほど風邪をひきたい日はなかった。
「いや心配要りません、別な場所でスペアが開発してありますので、後でナデシコで取りに行きます」
プロスペクターは説明をした。
「大気圏内の相転移エンジンは?」
「大丈夫です、ナデシコのテクノロジーを応用してありますから。でもサレナパーツ着けていない場合はたとえ宇宙でも使用はできないので気をつけてください」
「私のは?」
イツキが尋ねる。
「イツキさんのでしたらまだリボンを解いていないエステが一体残っていますのでそれを。ご希望の色とかありますか?」
「じゃあ、白で」
と、イツキが答えた瞬間、振動をナデシコが襲った。そして耳につくのはスクランブル音。
『本艦の上空に木星蜥蜴発生総員は戦闘配置につけ!繰り返す…』
「いやあ、もう初陣ですか、私はブリッジに向かいますので、テンカワさんたちは待機してしていて下さい」
そう言ってプロスペクターは去って行った。
「どうするアキト?」
「こいつで出よう、試し乗りも必要だしな。おそらくこのままではナデシコは落ちる、エレベーターその他もろもろの準備を頼む」
アキトの決断にイツキはうなずいた。アキトはサングラスをかけ、1年ぶりの戦闘に興奮し始めた。
(ふー、どうやらテンカワさんとイツキさんはアツアツのようですな。契約書はしっかり見てもらわないといけませんな)
と、プロスペクターは考えながらブリッジに向けて走って行った。
ブリッチの中は一種の戦場だった。
キノコが叫ぶ、提督がそれを鍋にして食う、艦長が冷静な判断を下すが、暑苦しい熱血が叫び、突っ込まれる。
かろうじて生きていたキノコが叫んでいるがそれをみんな無視していた。
「艦長、その作戦良いんですが、おとりになるパイロットがいません」
オペレーターのホシノルリが冷静な突込みをいれる、それに反応にしてゆいいつのパイロットの山…いや、ダイゴウジガイに視線が集まる。
「フッ、熱いぜ」
全員がそれを無視した。
「ルリちゃん、海上に出て作戦を遂行するのには何分かかる?」
艦長のミスマルユリカが尋ねる。
「どんなに急いでも7分、地上軍の壊滅状況を見る限りそれまでにナデシコは落ちます、おとりは絶対に必要です」
ジリ貧だ。もうどうするわけにもいかない、ユリカは退艦命令を出そうとした。だがその時、
「大丈夫ですよ艦長、もうエステが一機エレベーターに乗っていると思います」
プロスペクターがブリッジに入ってきながら言った。
「本当だ、スクリーン出します」
ルリが言った。
そこに出てきたのはサングラスをかけた男。
「君、所属と名前を言いたまえ」
フクベ提督が言った。
「テンカワアキト、パイロット。話は聞いた、エステの操縦は1年ぶりだが善戦はする、万一のことも考えておけ」
そう言ってアキトは通信を切った。
(いやあ、テンカワさんの雰囲気変わってしまいましたねえ、まあ、あれが本当の彼なのかもしれませんね)
プロスはそう思った。彼がテンカワアキトに対する印象は「涼しい男だが優しさも持ち合わせている」だったが今のアキトの印象は「冷たい」そのものであった。
(これがあなたたちの望んだことなのですか?天河さん)
「アキト、アキト、テンカワアキト。うー―ん」
艦長のミスマルユリカは悩んでいた。自分の記憶を結び解いて違和感を無くそうとしていた。
「あ――――、思い出した―――――――」
ブリッチ内がざわついた。
「ルリちゃんさっきのパイロットに繋いで」
「了解」
スクリーンにアキトがまた映った。
「なんだ?」
少し不機嫌そうに言った。
「アキト、アキトなんでしょう、私ミスマルユリカよ。火星でお隣だった」
彼女は楽しそうに言った。
「ミスマルユリカ?おう久しぶりだな」
アキトは思い出した。
「ちょっとアキト、誰よその女!」
イツキがコミュニケで横から入ってきた。
「いや、あのな…」
「アキト、誰なのその女の人、私という者がありながら」
ユリカがまた入って来た。
「アキト!」
「アキト!」
「アキト!」
「アキト!」
「アキト!」
「アキト!」
「うるせーーーーーーーー!!」
テンカワアキト、彼がここまでハードボイルドにきめてきた意味はもはやなかった。
プロスはアキトのことがよくわからなくなってきた。
「エレベーター、地上に出ます」
一人だけ仕事をしていた、ルリが言った。
「フッ、1年ぶりか」
エレベーターで地上に出た時、周りは準備万端の木星蜥蜴のジョロに囲まれていた。
だが、イツキの意地悪によってエレベーターはエステを乗せてまた地下に戻って行った。
ジョロたちはちょうど攻撃をしようとしていたために同士討ちをした。
「ちくしょう」
かっこいいところを奪われたアキトのエステはエレベーター射出溝から飛び出した。
エステは後ろ向きに進みながら敵をおびよせていた、そしてある程度敵が集まると両腕についたカノン砲でピンポイントに当てていく。
地上の木星を全て倒すと今度は空中で戦っていたバッタが攻めてきた。だが、彼に慌てる必要はなかった、1年前と違い砲には弾がいっっぱいあり機動性も良かった。
ミサイルは放たれた直後に狙撃した、それによって敵は爆発する。
アキトは冷静だった、そして徐々に1年前の感覚になっていった。
「敵、五割がた消滅」
ブリッジ内にルリの声が響いた、その後には感嘆の声。
「さすがアキトは私王子様」
「見たことがあるぞこのシーン確かゲキガンガー第…・うごっ」
あまりの暑苦しさに耐えられなくなったウリバタケがガイの折れた足に蹴りをいれた。
「ミスター、なかなかやりますね、あのテンカワという男」
ゴートがプロスに言った。
「ええ、あのサレナを唯一扱える人ですからね」
「サレナって、あの馬鹿が昨日壊した」
「へくしょん」
馬鹿はまたくしゃみをした。
「エリナ君、どうやら僕風邪みたいだ」
「だめよ、ナデシコがいま攻撃を受けているわ、仕事増えるわよ」
「ぬー」
彼は昨日けがをすれば良かったと思った。
「注水8割がた終了、ゲート開く」
「エンジン良いわよ」
「機動戦艦ナデシコ発進!」
「発進」
アキトはあの頃に戻っていた、死と隣り合わせの極限状態。
「テンカワさん海に向かって飛んでください」
木星蜥蜴たちはアキトを追って集結してきていた。アキトのエステは海に飛び、浮上してきたナデシコのブリッジの上に立った。
「敵ほとんど射程内に入ってる」
「目標、敵まとめてぜ―んぶ、てえ」
そしてナデシコから放たれたグラフティブラストが無人兵器全てを飲み込む。
「1年前この艦があったらな」
アキトは呟いた。そして胸のペンダントを撫でようとしたがそこには何もなかった、地球に来たときに消えていた。煙草に火をつけ吸う。
「これからか」
呟く、自分がどうなるかはわからない。
「アキト!」
コミュニケを通してイツキの顔が見える。
「なんだ」
「どういうことか説明してもらいましょうか」
アキトは忘れていた、その場から逃げ出したかったがディスト―ションフィールドを張ったナデシコから逃げることは無理であった。
筆者の戯言
ガイって良いね。
(^^)/~~~。
代理人な感想
そう、ガイっていいですよね〜。
それはさておき(笑)。
あまりユリカに拒否反応が有りませんね、アキト?
てっきり妄想モードユリカとハイパーモードイツキ(爆)に挟まれて四苦八苦するかと思ってたんですが(笑)。
つくづくクールなアキトってアキトらしくないのかしらん(^^;