復讐の彼方へ
CHAPTER 2
「男」
ドドンパQ
サセボドック、ナデシコの中、出航三日前。
アキトは特殊な装置をカードキーに入れる、そして内蔵のコンピューターがロックのかかっているドアを開けた。
気配を消しながら歩く、獲物を狙う狼のように。
そして男のいるであろう部屋に入って行った。
だが相手はわかっていた、侵入者の存在を。
男はデスクに向かったまま後ろ向きにアキトの頭を狙っていた、そう彼は気配でわかるのだ、こうなるとアキトはどうしようもない。
「俺だよ」
「なんだおまえか」
そう言うと男は銃を下ろした。
「久しぶりだな」
アキトは自室で事務をおこなっていたプロスペクターに声をかけた。
「ああ、だがなぜナデシコに乗る?本社でも私がいるのを知っていて、避けてただろ?」
プロスはこちらを見ずに言った。
「関係無いさ、今回の件はいつも通り個人的なものさ」
「そうか…。で、何の用だ」
プロスはいすを回転させながらこっちを向いた。
「挨拶、よろしく頼むよ。保安、パイロット、コック、三職やる」
「相変わらず金か?」
「ふっ、その通り」
「格納庫へ行け、もうすぐエステバリスが搬入される」
「わかったよ」
アキトは相変わらずの職業的な相手にため息をついた。
「変わったな…」
プロスはアキトの目を凝視しながら言った。
「変わるさ、昔は昔、今は今さ」
アキトが目の前の男が昔言った言葉を復唱した。
「その通りだ」
二人は軽く笑った。それが終わるとアキトは部屋から出て行った。
アキトはナデシコ内を半ば探検しつつ、格納庫へ向かっていた。
そして彼は目の前から歩いてくる巨体な男に気付いた。
「ゴート!」
アキトはそこに同じシークレットサービスのゴートを見た。
「テンカワか」
ゴートは目を落としていた書類から顔を上げこちらを見た。
「おまえもこの艦に乗るのか?」
「ああ、わたしはプロジェクトの初期から入っているからな。だがなぜおまえがここにいる?」
背の高さゆえ、ゴートはアキトを見下しながら言った。
「アカツキに頼まれたのさ、一人占めにしたいらしい」
「おまえはネルガルだけ欲しいものだ」
プロのゴートがアキトのことを評価している、これほど信用できる言葉は無かった。
「そう言うおまえは女が多いから乗っているんじゃないのか?」
アキトの言葉に顔を赤くするゴート。
「バッ、バカ言うんじゃない」
はっきり言って弁解にはなっていなかった。
「まあ、とりあえずがんばれよ」
アキトは少し背伸びしてゴートの肩を叩いた。
「何をだ!!」
その台詞を聞かず、アキトはその場から去って行った。
格納庫。
アキトはつなぎを着た男に近づいて行った。
「ウリバタケさんですか?」
ウリバタケと呼ばれた男は今までいじって機械から顔をあげるとアキトを見た。
「誰だおまえは!」
それはまさに正義の味方が言うようなせりふだった。アキトは気迫に押されて少し後ずさりした。
「いっいや、テンカワアキト、パイロットです」
アキトは何とか自己紹介をした。
「そうかパイロットか、おれはウリバタケセイヤ、整備班長。よろしくな」
二人は握手を交わした。
「パイロットは3日後乗艦じゃなかったのか?」
ウリバタケはナデシコに関する書類を見ながら言った。
「いや、ちょっと挨拶しておきたい人がいましてね」
挨拶したい人、それはもちろんプロスペクターを指している。アキトと彼がなぜ関わるか、それはまた後の話である。
その時、暑苦しい声が格納庫に響いた。
「レッツゴー、ゲキガンガー!」
アキトとウリバタケは声のする方を見た。そこにはピンクのエステバリスが様々なポーズをとっていた。
「なんだなんだなんだ〜?」
ウリバタケが拡声器を持ちながら近づいていく。アキトもそれに続いた。
「パイロットは3日後乗艦のはずだぞ!」
ウリバタケが拡声器で声を何倍にもして叫ぶ。隣にいたアキトは耳をふさいだ。
「いやー、ロボットに乗れるって聞いたもんで、早く来ちゃいました〜」
そう言いながらエステバリスは奇妙な動きをし始める。
「なんだなんだなんなんだ〜?」
意味の無い、大きな声にアキトは少し倒れそうになった。
「ふっ、君たちにだけお見せしよう、このガイ様の超スーパーウルトラグレート必殺技、ガ〜イスーパーナッパ〜」
その技は見事に決まった、だが…
「あっ」
格納庫にいた全員がこの言葉を発した。
エステバリスは見事にこけたのだ。
格納庫内に走る衝撃。
「馬鹿野郎が!」
ウリバタケはやらなくてもいいのに拡声器で叫んだ。横にいたアキトは本当に倒れそうになったが片足ついて何とか持ちこたえた。
アキトは少し遠くなった意識の中でエステバリスを見ていたが、なぜかパイロットの男が担架で運ばれて行った。
「お〜い、そこの少年」
自分のことを指しているのであろう、アキトはその方向を向いた。
「あのロボットの中に俺の宝物が入っている、頼む、取ってきてくれ」
パイロットが手を合わせながら言っている。
「ああ」
アキトはそう答えるしかなかった。
そして男を乗せた担架と彼を運ぶために数人の整備班が消えて行った。
「なんなんだ」
アキトはこの艦に疑問を持ち始めた。
アキトはコックピットに向かっていった。
「ゲキガンガーか」
座席に置かれていたのはゲキガンガーの超合金。
アキトは座席に腰を下ろし、呟いた。
「俺たちはさしずめキョアック星人と言ったところか」
アキトは笑った。
「正義か…」
自分にそれをかたる資格はない、そうそれは否定できない事実。アキトが思考を深めようとしていたその時…、
衝撃。
それはエステバリスが倒れた時とは比べ物にはならなかった。
「来たか…」
目をつぶり、気分を静める。あの時のことは思い出すな、と自分に言い聞かせる。吐き気はしない。アキトは目を開けた。
「行こう」
エステバリスを再起動させ、その間にアキトはバイザーをかけた。エステバリスと同じようにバイザーも機動を始める、これは距離測定、暗視、ズームなどができるハイテク装置だ、彼がこれを使う理由もまた後の話である。
「ウリバタケさん!」
コミュニケで格納庫にいる彼に声をかけた。
「なんだテンカワ」
「俺が行きます、武器は?」
「リボンを解いたライフルが数丁ある、弾丸は豊富だ」
アキトはその言葉に安堵感を覚えた、いくら自分でも武器が無くては困りものだ。
エステバリスの再起動を確認するとアキトはそれを動かし、ウリバタケの指示する武器を拾うと地上へと繋がるエレベーターに向かっていった。
アキトは煙草に火をつけ吸った。コックピットという密閉された空間で紫煙を吐くというのには抵抗があるが、気分を落ち着けるにはそれしかなかった。
手に汗が出てきている、鼓動も感じる。明らかに彼は興奮していた。
だが、やるしかない。
アキトはコミュニケで通信を行った。
「ゴート」
アキトはブリッジで戦闘配置についているゴートに話しかけた。
「テンカワか?」
「ああ、今エステで地上に向かっている。状況説明と指示を頼む」
それを聞くとゴートはブリッジの誰かに話しかけていた、しばらくして歓声が上がる。
「テンカワ、現在ドック周辺を無人兵器200機ほどに囲まれている、地上軍はほぼ全滅。よってお前はナデシコ発進までおとりとして戦え、作戦時間は十分だ、詳しいデータも今送った」
ゴートの言葉が終わると共にエステバリスのスクリーンにデータが送られてきた。
「さっきの歓声は何だったんだ?」
「パイロットがいなければ、この作戦は不可能だからな。お前は救世主だよ」
「歓声にはこたえてやるよ」
アキトはそう言うと通信を切った、無機質な機械音だけが流れる。
やるしかない。
それは過去との決別。
先手を打つ、それが戦術の基本。
だからアキトはエレベーターの射出溝が開いたのと同時にブースターを全開にして飛んだ。そして地上に出ると片方だけのブースターを稼動させてエステバリス自体を回転させた。その動きと共にライフルで無人兵器を狙撃する。無人兵器たちは回転というエステバリスの動きに反応しきれていなかったのだ。
アキトの心は思っていたほど落ち着いていた、やはり自分には戦闘が似合うのだ、緊張、興奮などは関係ないのだ。
無人兵器たちは新造戦艦破壊と言う目的よりもエステバリスを倒すということに興味を持ったらしく、アキトを追ってきていた。エステバリスは道路を後ろ向きに走りつづけた、下手に倒すよりおとりに徹した方が良いからだ。射程内に入った、敵から倒していく、下手に突っ込んで行くよりは明かに楽だ。たまに後ろから攻撃を試みようとするものもいるが、レーダー完備の機体には関係ないのだ。
アキトにとって問題なのは戦闘の緊張よりも残りの弾丸の数であった。先ほどからマガジンを代えつつ戦っているが明らかにこちらが不利になってくる。
弾切れ。アキトはライフルを捨てると逃げながら左手でコンピューターを操作し、残りの武器を探った。
「ロケットパンチ?」
躊躇している暇はない、今は迫り来る敵に対して行動あるのみだ。
エステバリスの腕が飛んだ、それが無人兵器に見事に直撃し、ワイヤーによってまた戻ってくる。
「いけるか」
アキトにとって、いや全ての兵士にとってもそうだが、腕が飛ぶという戦闘は戸惑いがあったが、今は慣れない戦闘に耐えるしかなかった。
武器がないと知った敵が一斉に襲い掛かって来る。ミサイルが一斉に飛んで来る、タイミングを図りつつ、ブースターで飛んだ。ミサイル放出直後の敵にはもちろん隙があった、戦闘のプロであるアキトがそれを見逃すはずはなかった、ロケットパンチでそれらを破壊する。
気付けば作戦時間の十分に達していた、その時コミュニケで「退避!!」というメッセージが表示された。アキトはブースターを切り、自由落下をさせた、それは地上直前になると安全装置でブースターが自動に動ききれいに着地する。
真上をグラヴィティーブラストが通過し、木星蜥蜴をなぎ払う、敵はもう残っていなかった。
アキトは煙草を吸った、今度は気を静めるのではなく、祝福のために。そして煙草を口に含みながら右手を見つめる。
「もう大丈夫か…」
筆者の言葉
私はここであえてActhon投稿作家たちに挑戦したい、それは…
ムネタケを良いやつとして書くこと。
代理人の感想
う〜む、せめて一月前(某氏(笑)が投稿する前)なら敢然たる挑戦と受け取れたんですが(苦笑)。
今現在においてはActionの投稿作家に対する挑戦というより
むしろ某氏(バレバレやて)に対する挑戦とも受け取れますな(笑)。
まあ、むろん方向性次第ではありますが。
と言うより、ダークを書く筈なのに何ゆえムネタケがいい奴?
ひょっとしてTV版以上に無惨に死ぬんでしょうか(苦笑)?