復讐の彼方へ
CHAPTER 3
「死んだ」
ドドンパQ
冷たいシャワーが髪を重くし、顔をつたう。ただ、それだけだ。だが、テンカワアキトにとってこの行為は意味があった。
汚れ、彼にとってそれは過去の仕事、そして今の仕事。
(血の香りは消えないな……)
両親が死に、消えた夢、過酷な訓練、復讐の弾丸、そして自分の技能を生かした闇の仕事。血は流れ、自分は死なず、見知らぬ人間たちに向かい銃の引き金を引き、首を折り、ナイフで切り裂く。
それだけ…、彼の人生はそれだけだ。自分の欲求を満たすために無い味覚で料理を作り、それを人に食わす。血塗られた手で作られたとは知らずに味を楽しむ人々。時には女を抱き、永遠に満たされぬものを満たそうと努力し、ただ足掻く。
ただ今を生きればいい、それだけだ。
アキトはシャワーを止めた。汚れはいつとれるのであろうか?
今日から彼のコックという仕事が始まる、血塗られた料理、それを食わす仕事。
(アカツキも味な男だな)
アカツキは以前彼が作った料理をうまいと言った、アキトはそれから彼を信用するようになったのだ。
シャツを着てから体の各部に武器を装着していく、これはもう彼にとって習慣であった、体重がこの行為によって1.2倍になるが彼はあまり気にしていなかった。だが今日はエプロンを着るためにシャツの表に出るものは装着しない、いざという場合に備えて食堂のロッカーに武器装備をしたスーツを入れておけばよい。
「いくか」
進まなければいけないもう戻れないのだから。
アキトはドアを開けて外に出ようとした、だが、その行為は目の前に一人の女性が立っていたためにかなわなかった。
「あの、あなたアキトだよね、テンカワアキト」
アキトは自分のことを知っている人物に一瞬身構えたが相手がこの船の艦長と認識をした。
「なにか…御用ですか?」
「アキト、覚えてないの?ユリカだよ、ミスマルユリカ。火星でお隣さんだった」
アキトは自分の頭の中を検索した。ユリカ、火星、空港、爆発、二つの死。口を押さえる、あの時のことを思い出した、それと同時にこの女性のことも思い出した。
「大丈夫?顔色悪いよ」
「少し、歩きながら話をしよう」
アキトはそう言うと食堂に向かって歩き出した。
二人は食堂の前まで来た。
歩きながら話そうといったアキトであったがここまで何も話せずにいた。
アキトはガラス越しに模型の火星丼を見ていた。火星丼、簡単に言えばタコさんウィンナーが入ったハヤシライスである。
「座ろう」
アキトはそう言うとユリカに席を即した。
「いいか?」
アキトは煙草の箱を懐から出しながら言った。ユリカが頷く、それを見たアキトは灰皿を近くに寄せた。
紫煙が上る、アキトは心を落ち着けた。
静寂が流れた。
「あの、アキト生きてたの?私、お父様からテンカワの家族はみんな死んだって聞いてたから」
ユリカの話をアキトはただ聞いていた。
「死んだよ。テンカワ一家はあの日、空港で」
アキトは灰皿に煙草を押し付けると立ちあがった。
「アキト、どういうことなの?」
ユリカの目に涙が浮かぶ、だがアキトはそれを見ていなかった。
「君の知っているテンカワアキトは死んだ」
アキトは厨房へ向かって歩いて行った。
彼は人に頼るのを拒否した、全ての闇に対して。孤独を好むのだ。
「死んだってどういうことよ、アキト……」
タバコの香りが余韻を残していた。
筆者の言葉
最近諸事情で小説が書けませんでした、でも復活したからにはがんばるよ。
代理人の感想
10kgを超える武装を常に身につけているとは・・・・ヤバイ奴(笑)。
某陣代高校の戦争馬鹿並(以上か)ですな。
思うのですが武装を手放せない人間と言うのはプロ意識以上に
武器に対する依存心があるのではないでしょうか?
用心のためというのもあるのでしょうが、それだけではないような気がしまして。