復讐の彼方へ
CHAPTER 4
「プロの皮肉」
ドドンパQ
銃に絶対の信頼をおく者にとってそれが作動しないということは絶対の恐怖である。だが銃には作動しないというリスクはあるが破壊力というリターンがある。リスクを最小限にするためにプロはナイフなどの武器を持ち、銃の整備を怠らない。
だからアキトは今武器の整備をしていた。彼はパイロット、保安部そして趣味に近いコックという三職をやっている、それらのローテーションは各六時間、つまり睡眠や個人の時間は六時間しかない。だが、パイロット、保安部というのはほとんどが待機である、その時間は整備班の連中やゴートなどを相手にチェスなどの遊びをやり、時にはヤマダジロウとゲキガンガーの話をする、それでも仕事時間に睡眠や武器の整備はできない、職業をやるものの基本である。だから彼は貴重な睡眠時間を削り、武器の整備をする。プロがプロである理由のために。
そのころブリッジではスキャパレリプロジェクトの概容、この船の目的が発表されていた、アキトは発表内容を知っているからそれに参加する必要は無い、それに彼は非番だ。
スキャパレリプロジェクト、軍をけん制するために建前上は火星の生き残りの救出、だが、中身は火星に残されたネルガルの研究データのピックアップ。その成功率を上げるためにアキトがいてゴートがいてプロスがいるのである。
アキトは艦内に走る振動を感じた
(なんだ?エンジンが止まったのか)
その時部屋にドアをノックする音が響いた、アキトすぐさま武器の整備を止めると部屋の電気を消し、バイザーをかけると暗視機能にし、愛用のリボルバーを握った。そしてドアの近くの浴室に隠れた。
「どうぞ」
アキトの声と共に相手がドアを開けた。
「隠れていないで出てきなさい、テンカワアキト」
アキトはその声に聞き覚えがあった。そして浴室から出ると廊下の明かりに浮かぶ一人の男を見た。
「ムネタケ…サダアキ」
彼らが知り合った理由は後の話である。
「お久しぶりね、テンカワアキト。時間が無いのよ、付いて来てくれない?」
ムネタケは銃を構えながら言った。
「おまえが副提督だということは名簿を見て知っている、だがこれはどういうことだ」
「この艦は私たちが占拠したわ」
「私たちか…、フクベ提督も関係しているのか?」
「ちがうわ、あの人は退役軍人。この件は私と部下の仕業よ。軍はこの船が欲しいのよ」
「部下を俺によこさないのか?」
「あの子達ではあんたの相手は無理、不安要素は自分で解決した方が良いわ」
「なるほど、だが俺がここで銃を抜きあんたを撃ったらどうなる?」
「これを見なさい」
そう言うとムネタケはコミュニケで一つのウィンドウを開いた。そこには食堂に閉じ込められたクルーの姿が映っていた。
「卑劣だな」
「戦略的には優秀よ」
アキトはそれを聞くと両手を上げ部屋を出た。
「それでいいのよ」
アキトは廊下を歩きながら後ろで銃を構えている男の経歴を思い出していた。
ムネタケサダアキ、連合宇宙軍の英雄ムネタケヨシサダの息子。最もこの項目は彼にとって必要の無いものであろう。父親にあこがれ連合宇宙軍に入隊、軍学校を卒業後父親は彼を参謀本部に入れようとしたがそれを拒否、特殊部隊に入隊する。将校時代は白兵戦のプロとして軍内でも恐れられていた。少佐に就任後戦略シミュレーション室入りし、特殊部隊時代の勘を用いた戦略が評価される。その後火星駐留軍に所属する。そして第一次火星大戦では旗艦の艦長を務め負け戦する。地球帰還後フクベ大将と共に退役しようとしたが父の意向もあり彼は慰留した。現在ネルガルの民間戦艦ナデシコに搭乗副提督として軍のオブザーバーをする、まあこれは体のいい左遷である。
(最強、そして今はただの軍の使い走りか)
アキトは少し後ろの男に同情した。
「つくづくいやな職業ね軍人って」
ムネタケは呟いた。
「今更なに言ってやがる、憧れていたんじゃないのか?親父さんに」
アキトは前を向きながら言った。
「子供の頃はね、でもあの人はデスクワークの出世人、私は生き地獄を見た身だわ」
「それには同情するよ」
「それにしても皮肉よね、火星を見捨てた私が火星に向かおうとしているこの艦を奪う」
「それが命令でそれに従うのが軍人だ」
アキトはそれが痛いほどわかっている。
「だからいやな職業なのよ」
静寂が流れた。
食堂についた。
「大人しくしていなさいよ」
そう言うとムネタケは食堂前で歩哨をしていた軍人にアキトを預けると去って行った。
筆者の言葉
ムネタケはアキトには及ばないがゴート並に強いです。
悪役はかっこよく、「復讐の彼方に」はそんなテーマでやってきます。実はアキト自身も悪なのです。
代理人の感想
ほぉ。
これはまた新しいアプローチですね。
「有能にして悪役たるムネタケ」!
しかも性格もダメじゃない!
どうせならブライキングボスとかズール皇帝のような超弩級悪役になってほしい物です!
まあ、立場からするとオロシャのイワン(彼も結構好き)あたりが限界かもしれませんが、
美学とか信念(プロとしてのプライドなども含む)とかを持っていると
やはり悪役もグッとキャラクターが引き締まってきますからね。
健闘を祈りたい所です。
ちなみに私はTV版のムネタケは悪役だとは思っていません。
広い意味ではそうかも知れませんが、彼は「悪」ではなくあくまで「憎まれ役」だったと思います。
ある意味で彼は(スタッフにとっての)スケープゴートだったんでしょうね。