『初めて御意を得ます。吾が名は烈辰。六人衆筆頭にして北辰様の右目なり、
この夜天光を駆り、あなたを殺します。』
そう言い放つと烈辰は、夜天光の腰に差している刀を抜き放った。
機動戦艦ナデシコ
〜夜叉と戦神〜
第一話
灰色の夜天光は、黒い巨人を駆る黒い王子テンカワ・アキトに斬りつけた。
アキトは夜天光の動きに一瞬反応が遅れた為かわせなかった。だが、夜天光の刀はアキトの機体の
フィールドに阻まれた。その瞬間激しく、刀とフィールドの間に火花が散った。
バチバチバチバチ!!
コイツ、北辰並に強い!
アキトは、ブラックサレナのフィールドが弾ける瞬間、夜天光に向って至近距離でハンドカノンを
撃ち込んだ。
ドン!ドン!ドン!
夜天光はバー二ァを最大まで吹かしてその攻撃を避けた。
しかし、ブラックサレナのこの攻撃はただのオトリだった。ブラックサレナはこれによって生まれた空間に
素早くテールバインダーを夜天光に突きつけた。
避けきれない!・・・やりますね、流石に北辰様が認めるだけの事はありますよ。
しかし!!
テールバインダーの突き上げは夜天光のフィールドによって弾かれた。一瞬の攻防の後、
どちらともなく夜天光、ブラックサレナの両機は互いに一撃必殺の間合いから離れた。
『やりますね、テンカワ・アキト。これ程の技量とは思いませんでしたよ。』
烈辰はそう言って、夜天光に腰に差してある鞘に刀を納めさせた。そしてスラスターで夜天光の姿勢を制御して抜刀の
構えに移った。
「・・・・・・・・・」
アキトは、烈辰の言葉に何も返事を返さなかった。が夜天光の動作を見て次に来るであろう
一撃を予測しコネクタを強く握り締める。そしてアキトは思考の海に沈んだ。
木連式抜刀術か、フィールドの弱まっているコイツに防ぎきれるか・・・・
いや、まだだ!まだやられるわけにはいかない!
「では、これならどうです!!」
烈辰はそう叫ぶとスラスターを最大にして、ブラックサレナに向っていった。
「木連式抜刀術 明牙!!」
夜天光は、鞘から一瞬にして刀を抜き放ち、鞘走りによって神速となった刀
から連続して衝撃波を起こしていく。
一撃、
二撃、
三撃、
ブラックサレナは、夜天光の繰り出す衝撃波をスラスターを最大にして避けていく。
くっ!、速い!・・・・だが!
連続して繰り出される衝撃波をかわしきった瞬間、夜天光の真上に向かってブラックサレナは
一気に間合いを詰めた。そして零距離からハンドカノンを夜天光に撃ち込んだ。
明牙を避けるとは、ん!?、何処だ・・・・上か!
ちっ、コックピットを狙ってるのか!、ならば!
夜天光は自身の右腕をハンドカノンに向けて差し出した。
ドオオオン
夜天光の右腕は跡形もなく吹き飛んだ。その爆発で、一瞬視界が塞がれたブラックサレナのフィールドに侵入してくるものがあった。
それは夜天光の左腕だった。夜天光の左腕はフィールドを突き破って、ブラックサレナの左腕のハンドカノンを
握り潰した。
グシャ!
ブラックサレナは左腕のハンドカノンを握り潰された瞬間、すぐさま破棄して夜天光と距離を取った。
『ふふふふふ、やはり貴方は素晴らしい。ここまで追い詰められるとは思いませんでしたよ。』
「・・・・・・・・・」
烈辰がアキトに話しかけている時、夜天光、ブラックサレナ両機のセンサーには地球連合宇宙軍の戦艦の反応が示されていた。
『おっと、どうやら今回はここまでのようです。
ではテンカワ・アキト、またお会いしましょう・・・・・・』
そう言って夜天光はボソンの光に包まれた。
・・・・・・・行ったか・・・・ラピス、ジャンプの用意を・・・・
(ウン、ワカッタ。アキトダイジョウブ?)
・・・・ああ、心配しなくても大丈夫だ。
(ヨカッタ。アキト、ジャンプの用意デキタヨ)
分かった・・・イメージ、ネルガル月ドック・・・・・ジャンプ!
ブラックサレナはボソンの光に包まれた。コックピットの中でアキトはウィンドウに映る戦艦に目をやった。
・・・・・ふっ・・・ジュンか・・・相変わらずのようだな・・・・
地球連合宇宙軍第三艦隊所属戦艦『アマリリス』
戦艦アマリリスの通信士がシラヒメに向って必死に呼びかけていた。
「応答して下さい!シラヒメ!シラヒメ!」
通信士の応答はノイズだけが空しく流れていた。
「くっ!負傷者の救助が最優先、フィールドを展開しつつ接近!」
通信士の絶望的な声に顔を歪ませつつ、艦長アオイ・ジュンは命令を発した。
その時、オペレーターの一人がボソン反応を感知した。
「ボース粒子増大!」
「なにっ!」
「スクリーンに出します!」
画面にはボソンジャンプする瞬間の物体が映し出されていた。
「なっ、なんだ。なんだいったい、あれは何なんだ。」
ジュンは驚愕に目を見開いていた。何故ならボソンジャンプ可能な8mクラスの機動兵器など
存在しないはずだったからだ。
一体、今、この宇宙で何が起こっているというんだ・・・・・
・・・でも・・・・僕はとてつもなく大きな力が働きはじめてるのを感じる・・・・
ジュンは、目を瞑り椅子に深くもたれかかった。何か直感めいたものを感じながら・・・・・
・・・・・今は自分に出来る事をやろう・・・・
ジュンは、目を開けると何か決意した口振りでクルーに檄を飛ばした。
「今は負傷者の救助が最優先だ!、全員、手が動いてないぞ、何やってんの!!」
ジュンの檄にスクリーンに映し出された映像に見入っていたクルーは、慌てて自分の仕事に集中した。
木星付近隠しドック
格納庫には、北辰が駆る鮮血のように紅い夜天光と烈辰以外の六連が駆る機体六連が、
佇んでいた。格納庫の中には複数の整備員がそれらの機体の整備をしていた。
その時、ブザーがけたたましく鳴り響いた。
ビィー、ビィー、ビィー
「無事に帰ってきたみたいね。マコト!」
紅い夜天光の整備をしていた整備班長が額の汗をぬぐって、ボソンの粒子が集まっている格納庫の一角に目をやり呟いた
格納庫の一角には、ボソンの粒子が集まり灰色の傷ついた夜天光が現れた。
整備員は急いでショートしている右腕に急いで冷却剤を散布した。夜天光のショートが収まるとコックピットから
烈辰が音も無く飛び降りた。
「ふう、何とか無事に帰ってこれましたね。」
烈辰は軽く溜め息をつくと、傷ついた灰色の夜天光を見上げながら小さく呟いた。
「な〜にしけた面してんの、マコト!」
烈辰がその声に振り向くと、腰まである長い栗色の髪を後ろで無造作に縛って頭にはバンダナを巻いて、
整備員と同じ作業着を着てるが、どこか大人の雰囲気をかもしだしている綺麗な女の子が立っていた。
「アキラですか・・・すいません、貴女の夜天光を傷つけてしまいましたね。」
「そんな事はいいの!、それよりマコトの傷の方は大丈夫なの?」
アキラは烈辰の目の前に来ると心配そうに見上げて傷の具合を訊いた
「ええ、先程の戦闘で傷が少し開いてしまいましたが、このくらいなら問題はありませんよ。
それよりアキラ、今の私の名は烈辰ですよ、間違えないでください。」
烈辰は苦笑しながら、アキラの言葉に訂正した。
「そんな事、気にしないの!それよりヤマザキ博士が戻ってきたらラボに来てくれだって。」
「ヤマザキ博士が・・・・分かりました。ありがとう、アキラ。」
そう言って烈辰は儚げな微笑をアキラに向けた。
予想どうりアキラは顔を真っ赤にして潤んだ瞳を烈辰に向けた。
「もう!、マコトはイイ男なんだから他の娘にそんな事しちゃ駄目だよ。
ただでさえ人気があるんだから!!」
アキラは烈辰の胸をトンと叩いた。
その時、烈辰の背中が凍る程の気配を感じた
なっ、何でしょう・・・この異様な気配は・・・・
烈辰はその異様な気配のする方向へ顔を向けるとそこには、整備士連中が整備の手を止め、
恐ろしいまでの瞳で二人を見つめていた。
木連暗部でも指折りの実力者烈辰でも嫉妬に駆られる整備士の目には、
何か命の危険を感じていた。
やはり、何処の整備士も同じ人種なのだろうか・・・・・・
「でっ、ではアキラ、私はそろそろ行きますので。」
「そう?、じゃあ用事が終わったら、夜天光の修理と整備手伝ってよ!」
「分かりました。後で付き合いますよ。」
そう言って烈辰は、格納庫から出て行った。
しばらく歩いていて烈辰はヤマザキのラボに入った。
「ヤマザキ博士、なにかお呼びとの事ですが。」
「やあ、烈辰クンご苦労様。早速だけどキミの中にある、遺跡から採取された新種のナノマシンの検査を今からするからね。
激しい戦闘後のナノマシン活動のデータが、ど〜しても欲しくてね。あっ、ついでに傷の治療もするから、
あっちにある部屋の寝台に寝ていてね。」
「わかりました。ヤマザキ博士。」
そう言って烈辰は、寝台のある部屋に向っていった。
部屋に向って行く烈辰を見ていたヤマザキに、一人の研究員が烈辰の事を訊ねた。
「ヤマザキ博士、随分親しそうですが、彼は何者ですか?それに木連暗部の人間がなぜIFSを?」
「ん?、烈辰クンの事かい?彼はね、元は火星の人間なんだよ。何でも親を殺された時に、北辰さんが
気紛れで助けたみたいで、それから北辰さんが育てたみたいだよ。似合わないよね〜あの顔で!」
ヤマザキは楽しげに説明していた。
「はあ・・・・・」
「ああ、話が逸れたね。それでね、火星出身で彼は元々IFSを持っていたんだよ。
数年前、彼が暗部に入る時マインドコントロールをするように、草壁閣下から命令を受けたんだ。
その時、閣下に内緒にちょっとした暗示をかけたんだよ。
彼は研究材料として非常に面白い事は知っていたからね。北辰さんの部下だから体に支障をきたす事は、出来ないけど。」
「どうして知っていたんです?それに、なぜ閣下は彼にマインドコントロールなどをしたんです?」
「怖かったのだと思うよ。木連の人間がこの世で最も優良な人種だと思っている閣下には木連の中に違う血が存在する事に、
だから、手っ取り早く洗脳という行為に及んだのさ。おっと、少しお喋りが過ぎたみたいだね。じゃあ、彼の所へ行くとするかな
助手Aクン」
ヤマザキは、助手の最初の質問には笑うだけで答えようとはしなかった。
答えたのは、後の質問だけだった。
二人は、研究室を出て烈辰がいる部屋へ向って行った。
その少し前、烈辰が寝台のある部屋に向って廊下を歩いていると、廊下に烈辰と同じ格好をした
編み笠の男が一人立っていた。
「烈風殿・・・・どうなさいました?」
烈辰は編み笠の男烈風に気づいて声をかけた。その声に気づいた烈風は烈辰の元に
歩み寄ってきた。
「おおっ!烈辰殿、ご無事でしたか、それは重畳。それはそうと隊長からの伝言です。
我等はこれより次の作戦に移る。烈辰殿は傷の完治後、六連数名を引き連れて地球に降りろとの事です。」
「地球ですか・・・、了解しました。北辰様に宜しくお伝えください」
「了解しました。烈辰殿、詳細は地球に降りれば分かるそうですので、ではこれで失礼します。」
烈風は、烈辰に伝言を伝え終わると何処とも無く姿を消した。
烈辰はそれを見送ると寝台のある部屋に向った。
部屋に着くと烈辰は着ている物を脱いで上半身、裸になり寝台に横たわった。
・・・・・・テンカワ・アキト、彼は強い・・・・・
彼は修羅・・・・
北辰様を・・・いや、我々全てを滅ぼすまでその手を止めないだろう。
ならば、私がテンカワ・アキトを滅ぼすまで・・・・・
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夜叉は眠りにつく
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懐かしい夢を見ながら
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ネルガル・月隠しドック
ドックには、一人の女性が立っていた。この空間には彼女以外の人間は誰もいなく、
ただ静寂に包まれていた。この静寂だけが支配する空間に光の粒子が集まりだした。
その光景を見ていた彼女が呟いた。
「ボソンジャンプ・・・・・帰ってきたみたいね。」
光の粒子が自らその存在を消滅させると、そこには純白の戦艦が現れた。
純白の戦艦は着艦が完了すると、戦艦の入り口が音も無く開いた。
そこには、黒き衣を纏ったテンカワ・アキトと幼き妖精ラピス・ラズリの二人が立っていた。
「お疲れ様・・・・・・」
「エリナか・・・・・」
アキトに声をかけた女性、白いスーツを着て長い艶やかな黒髪を腰の辺りで結んだ美しいキャリアウーマン、
エリナ・キンジョウ・ウォンが、二人を見つめていた。
「エリナ、アカツキに連絡を取ってくれ話したい事がある。」
「何か遭ったの?」
「いや・・・訊ねたい事がある・・・」
そう言って黙りこんだアキトに、エリナは何も言わずアカツキに連絡を取った。
しばらくするとアキトの目の前にコミュニケの画面が現れた。そこには、黒い長髪の軽薄そうな、
雰囲気をかもし出しているがその目は、力強い輝きを放つ男が映っていた。
『いや〜テンカワクン、どうしたんだい?僕もネルガル会長として何かと忙しいんだよ。』
「アカツキ・・・烈辰という男は知っているか?」
今まで軽薄な雰囲気を纏っていたネルガル会長アカツキはその名を聞いたとたん、
一転して引き締まった表情に変わった。
『烈辰・・・・彼が現れたのか・・・・・』
「知っているのか、アカツキ。」
『ああ、でもこの事は僕より彼に訊いた方がいいな。ちょっと待って今呼ぶから』
アカツキの画面が消えるとそこには、一人の眼光鋭い長髪の男が映っていた。
後書き
どうも皆さん、道雪です。なんとか夜叉と戦神の第一話をだせました・・・・
今回は烈辰とアキトの戦闘シーンがありましたが・・・・・・ここまで戦闘シーンが難しいとは・・・・
まだまだ勉強不足という事が露呈しました。精進ですね〜、まずは新聞読みから始めよう・・・・・
次はやはり彼、北辰が中心になっていくと思います。それでは最後に、renathさん感想嬉しかったです。
それでは皆さん次回もヨロシクお願いしますでは・・・・・
代理人の感想
ん〜、内容云々より前に文章で気になる所がいくつか。
まず冒頭、
「夜天光に装備している腰に差している刀を抜き放った」
という部分ですが「夜天光に装備している」と「腰に差している」が被ります。
特に強調の意図がない限り、こういった「繰り返し」は読みにくくなるだけですので気をつけましょう。
「夜天光の装備した刀を抜きはなった」で十分でしょう。
あるいは「腰に」という部分を表現したいなら「夜天光の腰に差した刀を」とでもするのがいいかと思われます。
次にその少し下、
「アキトは夜天光の動きに一瞬反応が遅れた為かわせず、夜天光の刀はアキトの機体のフィールドに阻まれた」
この部分ですが、「かわせず」と来たなら攻撃が有効打にならないと流れとしておかしいんです。
「かわせなかったが阻まれた」という流れなら二つの文の間に挟まるのは
「だが」「しかし」「けれども」と言った逆接続でないと文章が混乱してしまうわけです。
「光の粒子の輝きが失われると、そこには純白の戦艦が現れた」
この表現だと「粒子は輝かなくなったけどまだそこをふわふわしている」という表現になります。
粒子が消えてしまったなら「輝く粒子が消えうせると」とでもしたほうがよろしいかと。
後、単純な間違い二つ。
ひとつ。
北辰の部下連は「六人衆」であって「六連」ではありません。
六連はロボットの名前なんですね〜(笑)。
ふたつ。
単体でボソンジャンプする機動兵器は既にジンタイプが存在します。
この場合驚くポイントは「エステサイズでボソンジャンプを行なう機動兵器」
と言う所なんですね〜。
道雪さんに限らず、案外勘違いしてる人が多そうなのであえて指摘させていただきました。悪しからず。