『烈辰・・・・彼が現れたのか・・・・・』


「知っているのか、アカツキ。」


『まあね、でもこの事は僕より彼に訊いた方がいいな。ちょっと待って今呼ぶから。』


アカツキの画面が消えると、そこには一人の眼光鋭い長髪の男が映っていた。










機動戦艦ナデシコ

〜夜叉と戦神〜







第二話前編












『久しいな、テンカワ。』


「月臣!・・・・・なぜ、お前が・・・・・」


ウィンドウの画面に映る眼光鋭い長髪の男、月臣の挨拶に少し驚いたテンカワ・アキトだったが、
すぐさまいつもの低い声のトーンに戻った。



『烈辰について訊きたいのだろう?』


「ああ、奴は何者なんだ?、北辰と同等の存在など聞いたことがないぞ。」


『奴は幼い頃から、北辰に己の片腕として育てられた暗殺者だ。

性格は沈着冷静、目的の為なら仲間でも躊躇無く犠牲にするが、

常に計算ずくの行動の為、己の任務は完璧にこなす男だ。お前が知らないのは、

奴が北辰とは行動を共にしていない為だ。今まで奴は部下数名と地球で独自に動いていたからな。

うちの地球の施設も、数箇所やられている。』


『そう、うちも何ヶ所か彼にやられてるんだよねぇ』


月臣の画面とアキトの間にアカツキは苦笑いしながら割り込んできた。



「アカツキ・・・ネルガルもやられたのか・・・」


『月臣君がいなかったら、もっと被害が酷かったろうね。あぁ、話がそれちゃったね続けてい〜よ。

それじゃ、僕は忙しいから、じゃねぇ。』


アカツキは月臣に向って続きを促してから、ウィンドウを閉じた。



『テンカワ、今まで別行動していた烈辰が、北辰と合流したのは厄介だぞ。

奴の技量は凄まじい、俺がこのザマだからな。』


月臣は着ている木連の白い制服の上着のボタンを外すと、体には包帯が幾重にも、
巻かれていた。



「月臣・・・・その傷は・・・」


アキトは衝撃を受けた、木連式柔の有段者にして自分の師でもある月臣にここまでの傷を、
負わせる烈辰の技量に。



『奴がネルガルの施設を襲撃してきた時、一対一の闘いになってな。

奴にもかなりの傷を負わせたが、取り逃がしてしまった。』


『そうなんだよ。惜しかったよねぇ〜。でも気にする事ないよ月臣君、その時は被害を

最小限に抑えられたんだから。』


先程、通信を切った筈のアカツキが、また月臣とアキトの間に割り込んできた。



「アカツキ・・・・・切ったんじゃ無かったのか・・・・」


『つれないなぁ〜、テンカワ君。僕とキミの仲じゃないか〜』


「・・・アカツキ・・・・・・」

アキトの殺気をマトモに受けたアカツキは蛇に睨まれたカエルよろしくで冷や汗を大量にたらした。



『じょ、冗談だよ、テンカワ君。それと月臣君もそろそろ次に移ってね。じゃあ今度こそほんとにじゃねぇ〜』


アカツキは手を振りながらウィンドウを閉じた。



『と言う訳だ。テンカワ、烈辰には気をつけろ。奴の技量は、ぶつかったお前が

よく分かっているだろう。ではそろそろ失礼する。』


「ああ・・・・」


月臣もアカツキに続いてウィンドウを閉じた。
二人の映像が消えるとそこはまた静寂に包まれた。



その静寂を打ち破るようにアキトの隣りにいたエリナは口を開いた。



「アキトクン、次の目標は決ったの?」


「次は『アマテラス』だ。今まで落とした四つのコロニーでは奴等の動きはほとんど無かった。

だが、ここを狙えば必ず奴等は動く!!」


「そうね、あそこはヒサゴプランの中枢。でも厳しいわね、アマテラスの防衛ラインは

今までと桁違いだから。」


「それでも行くしかない。奴等をあぶりだし皆殺しにするにはな・・・・・・・」


アキトの放つ憎悪に彩られた言葉に、エリナの瞳は悲しみに彩られ、肩も心なしか震えていた。



「でも今はサレナの修理やユーチャリスの補給に数日かかるわよ。

だから貴方の今の仕事は少しでも休むことよ」


エリナの言葉には不器用な優しさが滲み出ていた。



「ああ・・・・すまない、エリナ・・・・・」


アキトは、エリナに感謝の言葉を送るとラピスを連れて格納庫から出て行った。



「気にしないで・・・・・」


エリナの言葉が響き終わると、格納庫は再び静寂が支配する空間に戻っていった。











現在、地球連合は、今まで起こった四つのネットワークコロニー襲撃事件にたいして、
白熱した議論が展開されていた。その中には連合宇宙軍、アオイ・ジュン少佐も事件について
証言する為、地球連合の総会に出席させられていた。
だが、彼の証言には、総会に出席した上層部は否定的だった。
やはり、8mクラスのボソンジャンプ可能な機動兵器は地球、木連双方いまだ技術的に不可能だと。



「クソッ!」


アオイ・ジュンは報告を終え、控えの部屋に戻ると、その抑えようの無い怒りを
壁を殴ることで発散した。上層部の否定的な言葉に憤りを感じていたからだ。



「こらこら、いかんよ」


声の主ムネタケ・ヨシサダは、ジュンの行動をたしなめると、新聞に再び目を移した。



「あいつ等、はなからやる気が無いんだ。なにが事故調査委員会だ!」


「かくして連合宇宙軍は蚊帳の外。事件は調査委員会と統合軍との合同捜査と相成るか。」


ムネタケはジュンの言葉に彼の若さを感じて苦笑していた。
だが、この場所での今のジュンの言葉が統合軍の人間に聞かれでもしたら、彼の立場が危うくなり、
唯でさえ、宇宙軍と統合軍の最悪に悪かった関係をこれ以上こじれさせない為、
ムネタケは彼の怒りを自分に向けるよう、あえて他人事の様に呟いた。



「参謀!」


ジュンはムネタケの予想どうりに声を荒げた。
ジュンの怒りの矛先はムネタケに向った。



「まっ、確かに黙って見てる手は無いからね。だから早速行ってもらったよ。ナデシコにね。」


「ナデシコ・・・・」


ジュンはムネタケの予想外の言葉に呆然とした。










電子の妖精と仇名される初代ナデシコオペレーターにして、現ナデシコB艦長ホシノ・ルリは、
ヒサゴプランの中枢『アマテラス』の臨検に訪れていた。
アズマ准将(タコヒゲ入道)は宇宙軍の臨検に激しく怒りながらも、開発公団の許可が得ていると
言われ、苦々しく思いながらも同意せざるを得なかった。
そこでアズマ准将(タコヒゲ入道)は、ホシノ・ルリを臨検とは名ばかりのヒサゴプラン見学コースに追いやった。
完璧に統合軍(アズマ准将)の嫌がらせである。嫌がらせに満足したタコヒゲの高笑いは、
彼が現れるまでアマテラス中に響き渡っていたそうだ。




ナデシコBのオペレーターマキビ・ハリは、艦長のホシノ・ルリが見学コースを回っている頃
アマテラスのメインコンピュータにハッキングを仕掛けていた。



「あ〜、やっぱり、公式の設計図にはないブロックがありますね。」


「襲われるなりの理由って奴か、さっ、続けていってみよう。」


ナデシコBの副艦長高杉三郎太は、マキビ・ハリの頭を軽く叩くと
続きをうながした。



「ボソンジャンプの人体実験!?、・・・これ全部非公式ですよ!!」


「おいおい、マジかよ。コイツは・・・・」


その時、オモイカネから『注意!!』の警告が発せられた。



「あっ!!」


「ばれたか!!」


「モード解除。オモイカネ、データブロック!侵入プログラムバイパスへ」


「なに・・・・これはいったい・・・」


オモイカネの警告に、マキビ・ハリが対処するのと同時に全ての画面には、
『OTIKA』の文字に埋め尽くされた。
それは、愛しい人の名を呼ぶように・・・・







「ハーリークン、ドジった?」


ホシノ・ルリは、コミニュケに向って話しかけた。



『僕じゃないですよ!、なんて言ったらいいか・・・・

そうです!、アマテラスのコンピューター同士のケンカです!』


「ケンカ?」


「そうです。そうなんですよ!」


マキビ・ハリの弁解に全く耳を傾けず、ホシノ・ルリは『OTIKA』の文字に見入った。



『アマテラスには非公式なシステムが存在します。

今の騒ぎはまるでそいつが自分の存在を皆に教えているというか

単にケラケラ笑ってると言うか・・・・・』


マキビ・ハリの弁解は、またもや聞いてもらえなかった。


ホシノ・ルリは『OTIKA』の文字に、何故か自分の心がざわつくのを感じた。
そのざわついた心の中に一瞬映ったのは、あの人の優しい笑顔だった。
何時の間にか、脳裏の『OTIKA』の文字は『AKITO』に変わっていた。
その瞬間、ホシノ・ルリは駆け出していた。



『艦長、待ってください。何処に行くんですか!?』


駆け出したホシノルリに、慌ててウィンドウのハーリは追いかけた。



「ナデシコに戻ります。敵が来ますよ!」


『ええ!?』







「ボース粒子の増大反応!!」


アマテラスのオペレーターの叫びと共にウィンドウにはジャンプアウトしてくる存在が、
映し出された。



「全長約10m、幅約15m」


「識別不能、相手からの応答ありません!」


アマテラスのオペレーター達が次々と報告する中、発令所にいたシンジョウ・アリトモ中佐は、警備部隊に命令を下した。



「第一種戦闘配備!」


漆黒の空間にボソンの粒子が輝きだした。
粒子が消えるとその中には、宇宙の闇さえも飲み込むほどの漆黒に染めたブラックサレナが現れた。
しかし、その姿は巨人から怪鳥に変っており、ブラックサレナはその翼を羽ばたたかせた。
コックピットの中では、黒い王子テンカワ・アキトが暗く冷たい笑みを浮かべた。













後書き


どうも、道雪です。第二話前編をお送りしました。前回の第一話で代理人さんのご指摘に、

顔から火がでるという経験をしました。お恥ずかしいかぎりです。

でも、いい経験だったと思っています。

今回から、アマテラスのお話です。前編は内容的にほとんど場面をもじった物です。

第二話は書いてると量が結構あり、前編と後編に分けました。

後半は早めにお届けできると思います。

次回こそ、北辰さんとアキトのご活躍をご期待ください。

それでは皆さんまた・・・・・・・



 

代理人の感想

む〜、「全長10mの全幅15m」?

なにか潰れ肉マンアッザムなものを想像してしまうんですが(爆)。

それともオペレーターが慌てていて変な報告をしてしまったんでしょうか(笑)。

 

お話については「アマテラス編前夜」と言う感じでしょうか。

鳴り物入りで紹介してもらった烈辰くんですが、

あとがきで「北辰とアキトの活躍」と限定しているからには後半では活躍させてもらえないんでしょうか(笑)。

 

 

それはそれとしてちょっと気になった点。

 

>月臣

彼の一人称は基本的に「俺」です。

アカツキやエリナなら一応上司ですから「私」と言うかもしれませんけど

アキト相手だとちょっと違和感がありますね。

 

>電子の妖精と噂される初代ナデシコオペレーターにして

「噂される」のは「名前」でなくて「事象」でなくてはいけませんから

ここは「電子の妖精と仇名される」あたりがよろしいかと。

 

>宇宙と同じくらいの漆黒の巨人

微妙なんですが「宇宙と同じ位の」が「漆黒」にかかるのか「巨人」にかかるのか

いささか分かりづらい(勿論類推はできますが)ので、

「宇宙の闇と同じ位の漆黒にその身を染めた巨人」くらいがよろしいかと。

ポイントは「宇宙の『闇』」と宇宙の「どの性質がサレナと同じ」なのか限定したことですね。

これによって読者の理解を更に助けることができるわけです。

後、高機動ユニットを装着していたなら当然ながら人型ではないわけですから、

「巨人」という表現にも問題がありますね。

もちろん、劇場版とちがって高機動ユニットを装着しない状態でボソンアウトしたなら話は別ですが。