その男は夢を見ていた
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それは、その男が渇望し、やっと手に入れた慎ましくも幸せだった生活
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幸せ
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暗転
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その男は全てを奪われた
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普通の人間には持ち得なかったある特殊な力の為に
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五感
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己の夢
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妻となるべき愛する女性
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絶望
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その男は己の不甲斐なさを憎み、神を憎み、全てを憎んだ
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そして
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男の求めた物は力だった。全てを覆す絶対な力
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男は漆黒の衣を纏い、漆黒の鎧を手に入れた
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その男の目的は?
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それは復讐
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機動戦艦ナデシコ
〜夜叉と戦神〜
第三話
『幾人もの血を浴びた主が、まだ人でいるつもりか?
人を捨て修羅にならねば、この首は取れぬぞ。
では、我は楽しみにしているぞ遅かりし復讐人、いや、テンカワ・アキトよ。』
「北辰!」
テンカワ・アキトは勢いよく飛び起きた。目覚めたテンカワ・アキトのそのぼやけた視界には、
一人の白衣を着た金髪の女性が、バイザーを持って立っているのが見えた。
「ハァ、ハァ、ハァ、・・・・・ここは?」
「目が覚めたようね、アキト君。ここは月ドックの医務室よ。」
「イネスか・・・・・・」
「大丈夫?、だいぶ魘されていたようだけど?」
「ああ・・・・・。イネス、バイザーをくれ。」
「はい、これ。」
イネス・フレサンジュは手に持っていたバイザーを手渡した。
「すまない、俺はどれくらい気を失っていた?」
テンカワ・アキトはバイザーを着けると、そのはっきりとした視界でイネス・フレサンジュの顔を見つめた
「丸一日ってとこね。あなたはジャンプでユーチャリスに戻った途端に気を失ったのよ。
ラピスが慌てて大変だったのだから。」
「ラピスはどうしている?」
「一晩中、貴方の傍にいたのだけど、エリナが心配して、少し前に
別室に連れて行ったわ。多分今頃は、夢の中ね。」
「ラピスには、随分心配をかけたようだな。」
「あら、私もとっても心配したのよ。」
「すまん・・・・それはそうとイネス。」
「なにかしら?」
「何も・・・・訊かないのか?」
テンカワ・アキトの声には、暗い感情が篭っていた。
「何も訊かないわ・・・・・、私は貴方を支えるだけ。今はゆっくり休みなさい。
ねっ、お兄ちゃん。」
イネス・フレサンジュは部屋から出て行くとき、振り返って片目を可愛らしく閉じた。
「すまない・・・・・」
テンカワ・アキトの声は、一人になった部屋に静かに響いた。
火星極冠遺跡には、反乱軍火星の後継者のリーダー草壁春樹の檄に
賛同した統合軍艦隊の約半数が少しずつ集結し始めていた。
ダン!
火星の後継者リーダー、草壁春樹は激しい苛立ちと共に艦長室の机を強く叩いた。
「まさか、『アマテラス』が堕ちるとは!、何故、北辰は止めを
刺さなかったのだ、あの黒い兵器のせいでどれ程、計画に支障をきたしている
と思っているのだ。」
その時、火星の後継者旗艦『ユメミヅキ』の通信士が艦長室にいる草壁春樹に通信が入っているのを伝えた。
『閣下、南雲中佐から通信が入っております。』
「そうか、繋いでくれ。」
草壁春樹は、先程の苛立ちを微塵も見せずに普段どうりの対応をした。
『ハッ!』
通信士のウィンドウが消えると同時に新たに南雲義政のウィンドウが映し出された。
南雲義政───元木連中佐にして草壁春樹直属の部下、四方天の『南』として蜥蜴戦争当時から
常に最前線で闘い続けた武人であり、特に戦線の守にその力を発揮し『盾の南雲』
の異名を取り、現在火星の後継者のbRとして極冠遺跡、火星周辺の守備隊の
全権を任されている。
『閣下、遺跡周辺及び火星宙域の守備隊の配置、展開を完了致しました。』
ウインドウの南雲義政は、一つの見本の様な見事な敬礼をして自分の任務が完了した事を告げた。
「ご苦労だった、南雲中佐。どうだ疲れただろう?だが、君の任務は極めて重大だ。
我らが理想の為、更に頑張って欲しい。」
『ハッ!、有難う御座います!閣下のご期待に添うよう更に防衛網を密に致します。』
草壁春樹の労いの言葉に、忠誠を誓っている南雲義政の感激はひとしおだった。
「頼む」
『ハッ!、では失礼します』
南雲義政のウィンドウが消えると、『ユメミヅキ』の艦長室には、独り手を組み口元を覆って
草壁春樹が一人、思案している姿があった。
「烈辰・・・・・・・」
草壁春樹は、静寂を破る様に、重々しく口を開きその名を呟いた。
「御呼びでしょうか?」
烈辰は音も無く草壁春樹の後ろの暗闇の部分から現れた。
「烈辰、お前に命令を与える。」
草壁春樹の眼光が一段と鋭くなった。
「御意・・・・」
「北辰を殺し、お前が暗部を率いろ。」
「!!」
草壁春樹の命令を聞いた烈辰は、衝撃を受け黙り込んだ。
「「・・・・・・・・・」」
艦長室を沈黙が支配した。
「返事はどうした?」
「本気で言ってらっしゃるのですか?、確かに最近の、いえ、このクーデターの準備段階から
閣下は、北辰様に信を置かれなくなった様にお見受けしますが。」
烈辰の言葉には困惑の色が滲み出ていた。
「当然だ。最早、北辰は私の理想にとって害にしかならん。」
「何故です?何故、閣下は北辰様への信を失ってしまったのです?」
「それを知る必要は無い。貴様は私の命令を聞いていれば良いのだ。
『唯一絶対正義』の為に」
草壁春樹は烈辰の方を振り返り、その瞳を凝視した。草壁春樹の視線と言葉を受けた烈辰は
竦みあがり、体中を冷や汗が包んだ。
くっ!、またこの痛みだ!
何故、草壁の命令に逆らおうと思うと胸の奥が激しく痛み出すのだ?
そして、烈辰は激しい痛みに耐えながら否定の言葉を吐いた。
「・・・・北辰様は、暗部には必要不可欠であります。
そして、私にとって、育ての親にも等しきお方。
たとえ、閣下のご命令でも・・・・・・・」
「承服しかねると言うのか?」
草壁春樹の眼光が一段と鋭くなり、烈辰の感じる痛みは更に激しくなった。
だが、烈辰はその痛みに耐えつつ、草壁春樹をしっかりと見つめ返し返事をした。
「・・・・・・はい。」
「烈辰、貴様本気で言っ『閣下。』
草壁春樹の言葉を遮ったのは、火星の後継者の狂科学者ヤマサキ・ヨシオだった。
「ヤマザキ博士、今頃一体なんだ?」
草壁春樹はヤマザキのウィンドウに向き直り、不機嫌な顔つきでヤマザキを睨んだ。
『いえ・・・・・』
ヤマザキは草壁春樹の視線は気にも止めなかったが、チラっと烈辰の方を見て言葉を濁した。
それに気付いた草壁春樹は烈辰に顔を向けた。
「貴様は下がれ。」
「御意・・・・」
一礼すると、出現と同じように音も無く烈辰は、元の暗闇の部分に下がって行った
烈辰が消えるのを確認すると草壁春樹はヤマザキに向き直った。
「ヤマザキ、烈辰のマインドコントロールは正常に作動しているのか?」
『ん〜、烈辰くんの事かい?。彼に埋め込んだ装置は正常に作動しているはずだよ。』
「奴を御する為の言葉を発した私の命令を、何故、拒否した?」
ウィンドウのヤマザキは、あごに手を乗せて考えながら喋りだした。
『う〜ん、多分、埋め込んでから、かなり年月が経ってるし
もしかしたら成長によって効果が薄れているのかな〜。』
「ふん!、怠慢な事だ。私は烈辰の制御は完璧におこなえと言っておいたのに
それも満足にこなせないとはな、ヤマザキ博士。」
草壁春樹は、侮蔑の目でヤマザキを見つめた。
何故か烈辰が消えると、草壁春樹とヤマザキ双方の口調はガラリと変わっていた。
『おや?、草壁くん、君はもしかして、僕に反抗するつもりなのかい?』
ヤマザキはさも驚いた様子で首を竦めた。だが、草壁を見つめるその瞳は
何処までも冷たく、見下していた。
「貴様ぁ!」
草壁春樹は、ウィンドウのヤマザキの目を見て激昂し睨みつけた。
『おお、恐いねぇ〜。いいかい草壁くん、君にとって、
この世でたった一つしかない物に対する生殺与奪権は僕にある事を忘れないで欲しいなぁ』
「くっ!、ヤマザキィ!・・・・・・・・・・・・・・・・・・すまなかった。」
『あはははは、いやぁ〜、君がちゃんと理解してくれて良かったよ。
じゃあ、今行われている第十三番ターミナルコロニー『サクヤ』の占領戦で、
イメージ伝達率の実験を行うから『岩戸』に来てね。じゃあ、よろしくね〜。』
ヤマザキは、ウィンドウを閉じた。それを見つめながら草壁春樹は、一人呟いた。
「・・・・ヤマザキ、私がこの戦争に勝利を得、覇権を握った暁には、貴様を必ず処分してやる。
その時はもうすぐなのだ・・・・・・もうすぐ・・・・・・」
ウィンドウを閉じたヤマザキの後ろには、助手Aの姿があった。
「ヤマザキ博士、通信はもう宜しいのですか?」
「んっ!?、何だ、A君かぁ。ビックリするじゃないか。何か用?」
ヤマザキ、彼は驚かされチョッピリ怒っていた、彼の目には『君は改造されたいのかなぁ〜』と
いうメッセージをしっかりと助手Aに送信していた。
「うっ!?、すみません、ヤマザキ博士。でも、お時間も迫っていますし、そろそろ遺跡の間に行きませんか?」
そのヤマザキのメッセージをしっかりと受信した助手Aは慌てて目的を告げた。
マズイ!、非常にマズイ!。博士がチョッピリ怒ってる・・・・・
まだ、僕は改造人間にはなりたくない!、バッタ人間やら赤い大男やらにはなりたくないんだあ〜!
・・・・あっ!、でも赤い大男は改造人間じゃなかったけ?
助手Aはヤマザキの反応が気になり彼の脳はパニックによるオーバーヒート寸前だった。
「・・・・・・・・・・・・」
助手Aにはヤマザキのこの間が永遠にも思われ、彼の頭の中ではバッタ人間と赤い大男が
手招きして呼んでいた。
ああ・・・・、お父さん、お母さん。僕は今日旅立ちます。
人を超える旅に・・・・・
それじゃあ、お父さん、お母さん、逝って来ます・・・・・
助手Aは、悟りを開いた修験者の様な表情に成りかける。
最早、諦めたのか彼の目には滝の涙が流れていた。
「アレ?おかしいな?涙が止まらない・・って、ヤマザキ博士?」
涙で視界がぼやけていた為、ヤマザキが歩き出していた事を気付かなかった
助手Aが、声をかけるとこちらの方へ振り向いたヤマザキは呟いた。
助手Aとヤマザキの距離、約50メートルほど離れていた。
「・・・・・・・やっぱり改造かな」
助手Aは、ヤマザキの唇の動きで、呟きの内容を把握し青くなった助手Aは、慌ててヤマザキの元まで走り出した。
「ハア、ハア、ハア、さあヤマザキ博士行きましょう。今すぐに!」
「はっ、早かったねぇ(汗)」
助手Aは、物凄いスピードでヤマザキの元へたどり着いた。この時、助手Aは5秒フラットと高記録を出し、
『火星の後継者科学班体力測定』の最高記録11秒の記録を大幅に塗り替えたという。
地球ネルガル本社ビルでは、会長のアカツキ・ナガレがセッセと書類に判子を押していた。
ポン
シャ
ポン
シャ
「来る日も来る日も、判子押し・・・・、会長の仕事も辛いよねぇ〜。そうは思わない?
って誰もいないから独り言だけどねぇ・・・・・。」
アカツキは広い会長室で、独り言を言って一人でいる寂しさを紛らわしていた。
ポン
シャ
ポン
その時、会長室に七色の光が現れ始めた。
「んっ!?、ボソン粒子?、彼が来たのかな?」
ボソン粒子が消えると、そこに現れたのは桃色の髪の少女と黒い衣に身を包んだ男の二人だった。
「やぁ、テンカワ君、にラピス君も二人一緒にどうしたの?」
「・・・・・・・アカツキ、頼みがある。」
「なんだい?、もしかして、デートのお誘いかい?、僕は男性のお誘いは受けない主義なんだよねぇ〜。
やっぱり、ラピス君とデー「イヤ」、・・・・・・・ハァ、嫌われちゃったねぇ〜」
テンカワ・アキトは、アカツキの冗談を流して話を続けた。
「・・・・・奴等を追い込む。ネルガルのSSを貸せ。」
「SSをかい?、貸してもいいけど奴等がそう簡単に動くとは思えないよ?」
「・・・・餌は俺だ。イネスの三回忌の時に俺が墓に現れるという情報を流す。
奴等が知っているこちら側にいるA級ジャンパーは俺だけ。
遺跡独占の為、今奴等はA級ジャンパーの数を減らしたい所だろう。
やってみる価値はある筈だ。」
アカツキは一息吐くとテンカワ・アキトの顔をみて話し出した。
「甘いよ、テンカワ君。確かに君の案は良いと思うけど。『アマテラス』での敗北で、
奴等にとって君を脅威と見なしてはいないと思うんだ。ついでに君は単独行動だしね。
あの北辰が、君を殺さなかったのにも何か余裕が感じられるしねぇ。」
「・・・・・ならばどうする、餌を増やすか?」
「まぁ、それがベターだね。」
アカツキは首を竦めて頷いた。
「だが、他に誰がいる?」
「一人いるじゃないか。君も解っているだろう?」
アカツキはテンカワ・アキトの目を見て答えを促した。
「・・・・・ルリちゃんか・・・・・」
「そう彼女の能力もかなり危険だからね。テンカワ君とルリ君、
この二人が揃ったなら十分追い込める算段がたつと思うよ。」
「・・・・そうか、ならその方法でいくぞ。」
「おや?、君の事だから反対すると思ったんだけど。」
「巻き込む気は無かったが、彼女を『アマテラス』で巻き込んでしまった。ならば利用するだけだ。後は頼む・・・・」
そう言うと、テンカワ・アキトはラピスを連れて会長室から出て行った。
「まったく、テンカワ君は面倒な事を押し付けて・・・・・、
まぁ、僕は今の君の方が好きだけどね。」
アカツキは、テンカワ・アキトの背を見送りながら呟き、
そして、呼び出しのウィンドウを開いた。
「あっ、僕だけど。月臣クンを呼んでくれない?」
『かしこまりました。すぐお繋ぎします。』
受付が返事をするとすぐさま月臣に繋いだ。
「はい、私です。」
「あっ、月臣くん。ちょっと頼みたい事あるから、こっちに来てくれない。
うん、そう、罠を張るからさ。」
現在、遺跡内部では、灰色の夜天光によるボソンジャンプが開始されようとした。
周りの作業員は、その準備に追われていた。
その中、夜天光のコックピットでは一人烈辰が自問自答を繰り返した。
「・・・・・・・閣下は北辰様を切り捨てるのか?」
烈辰は先程の草壁とのやり取りを思い出していた。
──────ヤマザキによるボソンジャンプのイメージ伝達率向上の実験が、第十三番ターミナルコロニー『サクヤ』の
攻防戦で行われた。その結果は、積尸気の奇襲ジャンプによる戦況の逆転と素晴らしい成功を収めた。
その結果に満足した草壁の元に、黒の王子テンカワ・アキトと宇宙連合軍少佐ホシノ・ルリが
日本で極秘で会うという情報が入った。
「烈辰、今まであの忌わしい男の情報が全く入らなかったが、
つい先程その情報が入った。お前には、日本へ六人衆を率いあの男を消せ。」
「閣下、おかしくはありませんか?。今まで全く手に入らなかったあの男の情報が、
ココにきて急に手に入るなど出来すぎです。罠としか思えませんが?」
「ふん!、私の理想に賛同してくれた同胞がもたらした情報だ。罠の筈が無かろう。
前も言った筈だ。貴様は私の命令を聞いていればいいのだ。」
「申し訳ありません・・・・・・」
「ならば、行け!」
「閣下、一つ、お尋ねしても宜しいでしょうか?」
「何だ!」
「何故、北辰様に命ぜないのですか?、事は重要と思いますが。」
「烈辰、飼い主に噛み付く飼い犬など最早必要ないのだ。分かったのならば行け。」
「御意・・・・・・」─────────
烈辰は自分の問いに、一人苦笑いをした。
「ふっ・・・愚問か・・・・・・・・閣下は己の正義に相反する者は容赦無く切り捨ててきた。
あの白鳥九十九がいい例か・・・・・」
しかし、あの情報が罠だという可能性を完全に否定するとは、草壁も底がしれているな・・・・・・
『お〜い烈辰くん、烈辰くんってば、烈辰くん!』
「はっ、はい!、何ですかヤマサキ博士。」
ウィンドウのヤマザキに何度も呼びかけられ、普段表情を崩さない烈辰が珍しく驚いた表情を見せ返事をした。
『ちゃんと聞いてた?』
「いえ・・・・」
『ハァ、じゃあもう一度説明するよ。キミはA級ジャンパーだけど、今回は変則的にジャンプして貰うよ。
ジャンプ先の場所に対するイメージングはこっちの人間翻訳機ミスマル・ユリカが行うから、
多分、声が聞こえてくる筈だからその声に答えてね。』
「分かりました。ヤマザキ博士。」
『じゃあ始めるよ。』
そう言ってヤマザキはウィンドウを閉じた。
ウィンドウが閉じられた夜天光のコックピットでは烈辰が静かに目を閉じ
精神を統一した。そうすると何処からか女性の声が聞こえてきた
『アキトは私がだ〜い好き!』
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『アキトは私の王子様!』
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『アキトは・・・・・』
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『アキトは・・・・』
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『アキトは・・・』
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『アキトは何処へ行きたいの?』
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「・・・・・秩父山中」
烈辰の夜天光は、ボソンの光に包まれ秩父山中へと跳んだ。
秩父山のうっそうと生い茂った木々の中に一軒の古寺がひっそりと佇んでいた。
その寺には六人の編み笠の男達が粛然と何かを待っていた。
どの位の時が経っただろうか、月は傾き、虫達のざわめきも聞こえなくなっていた。
「丑三つ時か・・・・・」
六人の編み笠の一人がポツリと呟いた。
その時、寺の中央にボソンの光が集まり出した。
ブオオオオオオオン
ボソンの粒子が消えると灰色の夜天光が現れ、静かに地面に座り込んだ。
「「「「「「おお〜!」」」」」」
六人の編み笠達が驚く中、夜天光のコックピットが開き、月明かりによって烈辰の顔が照らされた。
その烈辰は静かに口を開いた。
「決行は明日。」
「筆頭のただいまのジャンプが証拠ですな。」
編み笠の男達が次々と口を開いた。
「ええ、各ポイントの綿密なデータの収集が役に立ちました。」
烈辰はそれら全てに答えていった。
「我らのこの後の任務は?」
「高みの見物・・・・」
「いや、我等は、我等本来の任務に戻るのみ。」
「しかし、筆頭、隊長はいかに?」
六人の編み笠の一人が代表して質問した。
「此度の任務は私が務めます。これは閣下から直接言い渡されました。宜しいですね?」
「「「「「「御意!」」」」」」
「宜しい、では散りなさい。」
「「「「「「ハッ!」」」」」」
掛け声と共に六人の編み笠達は一斉に散って行った。
それを見送った烈辰は月を見上げながら呟いた。
「人形と試験体か・・・・・、我ら火星の後継者にとって目障りな存在・・・・
それは、北辰様にとっても同じな筈。ならば・・・・・
滅びなさい跡形も無く・・・・」
後書き
どうも、道雪です。夜叉と戦神の第三話をお送りします。今回、お墓参りまでいく予定でしたが・・・・
いきませんでした。火星の後継者の幹部連中の事情を書いていたら、一回切ろうと思い墓参りの前で止めておきました。
今回は、烈辰くんを活躍させようと思い書いていたのですが、チャント活躍できたかなぁ〜と思っています。
次回は墓参りと極冠遺跡での決戦前を予定しています。
それでは最後に感想をくれた方、この場を借りてお礼を申し上げます。
では・・・・・・・
代理人の個人的な感想
うわ、草壁に高圧的なヤマサキ(笑)。
一体何があったんだ(笑)。
ヤマサキが盾に取ってる物・・・・
ボソンジャンプの解析?
草壁の奥さん(爆)?
権力を握ったら用済みになるらしいことを考えるとやはりユリカとかかな?