月のネルガル隠しドックでは、戦艦ユーチャリスが静かに己の主が乗り込むのを待っている。
そのユーチャリスの入り口に背を向け、ネルガル会長秘書エリナ・キンジョウ・ウォンが腕組みをして立っていた。
エリナの視線の先には、黒の王子テンカワ・アキトと桃色の妖精ラピス・ラズリの二人が、
並んで立っていた。
「ルリちゃんとナデシコCが合流したそうよ。」
「勝ったな・・・・・」
「ええ、あの娘とオモイカネのシステムが一つになったら、ナデシコは無敵になる。」
「俺達の実戦データが役に立った訳だ・・・・・・・・サレナの状態は?」
「問題ないわ。でも良かったの?、中をあなたが今まで乗っていたsplに戻すなんて。
『アマテラス』では大破したけど、あの機体の方が能力は上なのよ。」
「アイツは共に傷つき倒れ、そして強くなっていった戦友・・・・・・・
それが理由だ。・・・・・・・・アイツも奴との決着を望んでいるだろう。」
「そう・・・かもね。・・・・・・・・・やっぱり行くの?」
「・・・・・・ああ。」
「復讐・・・・・・・昔のあなたには一番似つかわしくない言葉だったわね。」
「昔は昔、今は今だ。・・・・・・・・・・・補給、ありがとう。」
テンカワ・アキトはラピスを連れて、入り口に向かって歩き出した。エリナはテンカワ・アキトの顔を見ないように
顔を背け、静かに目を伏せた。なぜなら、その瞳には涙が溢れそうだったからだ。
「いいえ、私は会長のお使いだから・・・・・・・」
相変わらず強情だな・・・・・・
エリナの涙に気づいたテンカワ・アキトは、バイザーに隠れて見えない表情の中で、唯一露出している口元に
昔と変わらない優しい笑みが浮かべられていた。
「ありがとう、エリナさん。」
テンカワ・アキトは立ち止まるとエリナの耳元で小さく呟き、右手の人差し指で
溢れ出たエリナの涙をすくうと、再びラピスを連れて歩き出した。
「アキトくん!?」
振り返ったエリナの目に映ったのは、ユーチャリスに乗り込もうとするテンカワ・アキトとラピスの後姿だった。
「うっ・・・・うっ・・・・・バカ・・・・・」
ペタンと座り込んだエリナは大粒の涙を流すと、両手を胸元で組み静かに祈った。
「死なないで、アキトくん・・・・・・・」
ユーチャリスの纏うボソンの粒子から漏れた粒は、優しくエリナの頬を撫でた。
その切なる願いに答えるように・・・・・・・・・・・・
今、一つの物語の最後の幕があがろうとしていた。
機動戦艦ナデシコ
〜夜叉と戦神〜
第五話前編
「これは明らかに宇宙規模の反乱である!、地球連合憲章の見地からみれば、
まさしく平和に対する脅威であろう!。我々は悪である。
だが、しかし我々は悪の一字を背負い起たねばならん!。
それは何故か?
時空転移は新たなる世界!、新たなる秩序の幕開けだからだ!
さあ、今こそ勇者達を導き、後の人々が認めるであろう我々の正義を示すのだ!。」
草壁春樹のマイク片手の激しい檄と共に、人間翻訳機ミスマル・ユリカは輝き出した。
その輝きは、火星の後継者奇襲部隊を各地の制圧拠点へと送り込んだ。
それを見送った草壁春樹は、『火星の後継者』首脳陣が集まっている部屋へ向かう薄暗い廊下を
供も連れずに、一人歩き出した。
「成就する、私の野望が・・・・・、ヤマサキ、北辰、もうすぐだ。もうすぐ貴様らを消してやれる。
私の秘密を知るものは、全て消えるのだ・・・・クックックックックッ。」
薄暗い廊下に、陰湿な笑い声を響かせ、その表情には普段、自分の部下達にはけして見せないだろう
禍々しさが浮かんでいた。
「始まりましたね、博士。」
助手Aはスクリーンを見ながら、ヤマサキに話しかけた。
ズズ
「そうだね。」
湯の身片手にヤマサキもスクリーンを見つめていた。
「勝てますよね?」
湯の身を置いて、助手Aの方に顔を向けて笑いながら答えた。
「どうだろうね。まぁ、僕は勝っても、負けてもどっちでもいいけどね。」
「どうしてですか?、負けた捕まったら、良くても無期懲役ですよ。」
「そりゃあ、逃げ切る自信があるからに決まってるさ。
よろしい、キミには特別にその理由を見せてあげよう。ついておいで。」
そう言ってヤマサキはその部屋を出て、廊下の一番奥にある部屋へ入っていった。
「・・・・・・・・ハッ!、待ってください!、博士!」
自分の研究を、けして誰にも見せなかったヤマサキの意外な言葉に驚き、硬直してた助手Aが、
慌ててヤマサキの入っていった部屋に入るとその光景に息を呑んだ。
「これは・・・・・・マシンチャイルド?」
培養液に入った三基のカプセルに入った子供を見つめながら助手Aは呟いた。
「ん〜、残念。この子達はホシノ・ルリやラピス・ラズリ程、電子能力は高くないんだよ。
その代わりに、身体能力や戦闘技術を高めてあるんだよね。だから、僕は闘人形って呼んでるけどね。」
助手Aの呟きに答えたヤマサキは、三基のカプセルの説明をした。
「完成しているのですか?」
「マインドコントロールがまだ不完全だけど、後はこのスイッチで目覚めさせるだけさ。」
「でも、この子達と逃げ切る理由はどう関係しているのですか?」
「よろしい、説明しましょう。この三体の闘人形は、今までA級ジャンパー達で行った実験で得られたデータを基にして、
創った擬似A級ジャンパーなんだよ。現在、火星の後継者に在籍しているA級ジャンパーは一人だけ。
逃げるならボソンジャンプしかないんだよねぇ。」
「なるほど、そうですよねぇ。博士はいつからこんな研究を?」
「木連時代からね。最初は、軍の上層部から優秀な兵士の増産開発を命じられたんだよ。
ほら、木連って地球に比べると人が少ないからそれを補う目的でね。その研究の副産物が『優人部隊』なんだよ。
でもその段階で研究はストップ。軍が研究資金を回してくれなくなってね。木連も疲弊してたし。」
「そんな事があったんですか。」
「まぁね。でも、ストップしていたその研究に、資金を再び出してくれたのが草壁閣下でね。
まあ、閣下も別の思惑があったみたいだけど・・・・・・」
「なるほど、前に言っていた『調整』ってのはこの事なんですか?」
「えっ!!、A君、聞いていたの?」
驚いたヤマサキは助手Aの顔を見つめた。
「はい。あの時、声をお掛けするまでずっと後ろにいましたから。」
「「・・・・・・・・・」」
周囲を沈黙が包んだ。
「そっ、そうなんだぁ〜。ハア、まあ、いいか。僕にとっては別にそんな重要な事でもないしねぇ。」
ヤマサキはボソボソ呟くと、一人納得して助手Aに喋り始めた。
「あの『調整』の意味はねぇ、簡単に言うと今の草壁春樹は、草壁春樹本人のクローンなんだよ。」
「そうなんですかぁ・・・・・・・・・・・・って、ええ〜!!」
助手Aはヤマサキの言葉に、驚愕の叫びを上げた。
「うるさいよ、A君。」
「スミマセン・・・・でも本当なんですか?」
「うん、マジで。」
ヤマサキはあっさりと肯定した。
「・・・・・・・でも、どうして?」
「ほら、『熱血クーデター』ってあったでしょ。その時に本人は死んじゃってたんだよ。
その時、居合わせた僕に本人は『自分の死を隠せ』って言って死んじゃったけど、
隠せって言われても、草壁春樹と言う存在がいないとどうにもなんないでしょ。
仕方が無いからクローンとして見事復活、記憶のコピーも大成功。
で、今の草壁春樹がいるわけ。」
「じゃあ、『調整』っていうのは?」
「『熱血クーデター』当時のクローン技術はあんまり性能良くないんだよねぇ。
研究再開してからまだそんな日がたってなかったし、
だから定期的にあの培養液のカプセルに入らないとクローン君は体が維持できないんだ。」
「この事は、他に誰か知っているのですか?」
「うん、北辰さんにも偶々見られちゃって、知られちゃたんだぁ。
A君、この事は誰にも言わない方がいいよ。多分、この戦いに勝ったらクローン君は、
知っている人間を全て排除しようとすると思うからね。」
「そんな事に巻き込まないでくださいよ〜。」
助手Aは涙ながらに呟いた。
「まあ、これも僕の助手を務めたのが運の尽きだと思ってね。」
ポンと助手Aの肩に手を乗せてヤマサキは慰めた。
「そんなぁ〜。あっ!、だからさっきの闘人形を博士は創ったんですね。」
「そっ、手持ちのカードは多いほうがいいからね。」
ヤマサキは、狡猾な表情を浮かべて部屋から出て行った。
その後姿を助手Aはただ呆然と見詰めていた。
火星の後継者の奇襲部隊が、地球にボソンジャンプし制圧に乗り出した頃、
湖の近くの巨木に寄りかかっている男の目蓋が開いた。
「・・・・・・・・・・生きている?」
「おおっ!、筆頭、気が付きましたか。」
巨木に寄りかかっていた男、烈辰の視線の先には編み笠を被った二人の男が立っていた。
「烈波に烈剛・・・・・・私は一体?・・・・・・っ!、状況は!?」
烈辰は慌てて、自分が気を失っている間の状況を尋ねた。
「はっ!、現在、制圧拠点の攻撃を開始した模様です。ですが、お体の方はよろしいのですか?
なんせ、刀が突き刺さったまま倒れている筆頭を見たときには、肝を冷やしましたのですから。」
巨木にもたれかかっていた烈辰は、顔を上げ烈波と呼ばれる編み笠の男に自分の傷の具合を尋ねた。
「手当てをしたのは烈波ですか?」
「はっ!」
「傷の状態はどうです?」
尋ねられた烈波の顔には困惑の色が浮かんでいた。
「・・・・・それが、不思議な事にもうふさがりかけているのです。」
「どういう事です?」
また、同じように、烈辰の言葉にも困惑の音色が含まれていた。
説明し難かったのか烈波は、烈辰の手当てをした時の状況を伝えた。
「筆頭のお体に突き刺さっていた刀を引き抜いた時、正直、驚きました。
体内の重要な箇所は一切傷ついていないのです。それどころか、抜くと同時に切られた細胞同士が元に戻ろう
としているのですから。その、なんと言うか刀身が体をすり抜けた様な感じなのです。
私も、こんな事は初めてなのでうまく説明出来ません。
ですが、傷は傷ですので、気を失ったのは筆頭が出血多量になった為と思われます。」
「烈波、貴方の言いたい事は解りました。それで、たいした痛みが無いのですね。
それに昔、聞いた事があります。
達人が名刀を手にした時、その技量と切れ味によっては、
二つに切られし物が元の姿に戻る事があると。」
「しかし、一体、誰なのです。筆頭に傷を負わせるほどの剛の者とは?」
「・・・・・・・・・・・・」
刺したのが我等の長とは言えませんしね・・・・・・・
烈辰はその問いに沈黙で答えた。その時、微かに烈波の瞳が、妖しく輝いた事に烈辰は気が付かなかった。
その事が、後に烈辰の行動を妨げる結果になるとは、烈辰でさも予想しなかった。
「んっ?、烈剛、いかがしましたか?」
今までずっと沈黙していた烈剛が烈辰の前に来ると一振りの刀を差し出した。
「これは?」
「筆頭に刺さってた奴。」
烈辰はその刀を受け取ると、マジマジと見詰めた。
北辰が帯刀していた刀に烈辰は興味があった。
「なんと素晴らしい。・・・・・・・・・んっ!?、『北斗』?これがこの刀の名前か。」
鞘に薄く掘られたその名を見て、烈辰は昔、六人衆の一人から聞かされた話を思い出していた。
北辰様のお子も『北斗』と・・・・、確か、幼きときに病で亡くなった。
なるほど、貴方も一人の親でしたか・・・・・・・
烈辰が思考の海に沈んでいる間、烈剛が何かを見つけた様だ。
「筆頭、これ。」
そう言って差し出したのは、ピンポン玉ぐらいの大きさの機械の塊の球体で
何かに突き刺されたのかひび割れていた。
この球体を見て、あの時、突き刺した北辰が烈辰に耳元で囁いた言葉を思い出した。
『主の体内には、主を操る糸が埋め込まれているのだ。』
「これが、私を操っていた糸・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・ふふふ、ははははははははは!」
込み上げてきた感情に耐え切れず、急に笑い出した烈辰の姿に、二人の編み笠は驚いて声をかけた。
「筆頭、お、お気は確かですか?」
「えっ、ええ。大丈夫です。」
自由・・・・・・私はもう自由なのですね!。私は・・・・・私は奴等の操り人形ではなくなった!
烈辰が歓喜に打ち震えていた。その時、一陣の風が舞った。そこには、新たに一人の編み笠が現れた。
「筆頭、ご報告します。」
「いかがしました?」
列辰の表情には先程の高揚は無く、いつもの冷静さが戻っていた。
「はい、ネルガルの動向を探っていたのですが。どうやら、地球連合総会議場に罠を張っている模様です。」
「それは、確かですか!?」
「現在、会議場に入ったのは、ネルガル会長アカツキ・ナガレ以下数名とSSのみで、
総会出席者は一人も現れてはいないのです。それと、未確認なのですが月臣源一郎らしき男も現れたそうなのです。」
その情報を基に烈辰は、ネルガルの罠が一体、何なのか探ろうとしていた。
確かに、総会出席者を人質に取り火星の後継者、いや、草壁春樹へ政権を譲渡させる為の最重要拠点の一つ。
それを防がれるのは我々にとっては死活問題。だが、ネルガルは何故ココを選んだのでしょう?
他にも幾つか重要拠点があるというのに。私は、何か裏があるような気がしてならないのですが・・・・・・・
烈辰が思考の海に沈んでいる時、控えていた編み笠の一人、烈波が報告に来た編み笠に問いかけた。
「しかし、おかしいではないか。突入時間が遅すぎる!、
他の拠点はとうに攻撃を始めてるというのにまだ突入していないのか?」
「はい、突入はまだ開始されていません。総会の開始自体が制圧拠点中、
一番遅いものですからそれに合わして、突入も制圧拠点中、一番遅いのです。」
報告している編み笠の言葉を聞いていた烈辰は、ハッと顔を上げた。
「そうか!、そういう事か!・・・・・ネルガル、やってくれますね。」
烈辰の突然の大声に、事情がはっきりと掴めていない編み笠達は、互いに顔を見合わせながら烈辰に尋ねた。
「筆頭、どういうことですか?」
「すみませんが、時は一刻を争います。烈波、お前はすぐさま火星に戻り閣下に
一刻も早く奇襲部隊を撤退させるよう伝えなさい。」
「・・・・・御意。」
烈波は、説明のしない烈辰にどこか納得いかない表情をしつつ、瞬く間に消えていった。
「さて、烈剛と貴方はすぐに総会議場に行き、そこにいる我々の軍に合流し機動兵器を回して
貰いなさい。もし、突入を開始しているのなら奪っても構いません。入手にしたのなら総会議場に突入し
ネルガル会長アカツキ・ナガレを捕らえなさい。」
「「御意!」」
二人の編み笠も先程の烈波と同じ様に瞬く間に消えていった。
「最も突入開始が遅い総会議場、そして、其処には未確認ながらも月臣源一郎がいる。
制圧部隊のほとんどは元木連将校。英雄視されている月臣・源一郎に今までの草壁の悪行を洗いざらい
喋られれば、部隊の士気は一気に落ち込む筈、最悪、投降する者さえ現れるかもしれない。」
烈辰は、この戦いの敗北を感じつつ、ボソンの粒子を纏い始めた。
「・・・・・・・・・・・間に合うのでしょうか?」
烈辰の呟きは、ボソンジャンプと同時に消えていった。
『岩戸』に籠る火星の後継者首脳陣は、制圧速報ニュースを聞き
順調に制圧が完了している事に満足していた。垂れ幕に書かれた制圧拠点の上には
制圧完了を現す花が着けられていた。
「閣下、順調ですな。」
シンジョウ・アリトモ中佐の満足そうな言葉に、草壁春樹も追う行に鷹揚に頷いた。
「新しい秩序の幕開けだ・・・・・」
その時、新たな制圧速報ニュースが伝えられた。
「ニュースをお伝えします。現在、連合総会議場と統合平和維持軍本部の制圧に時間がかかっている模様です。」
草壁春樹は、最重要拠点二箇所の制圧が遅れている事に苛立ちつつも詳しい状況を伝えさせた。
「詳しい状況が知りたい。」
「はい。統合平和維持軍本部については、高野中将率いる維持軍が奇襲により混乱した本部に討伐軍を向けました。
現在、平和維持軍本部で奇襲部隊と討伐軍が戦闘中です。
次に、連合総会議場です。詳細は解りませんが、突入後、機動兵器同士の戦闘が始まった模様です。」
「おのれ、高野五十六!、どこまで私の邪魔をすれば気がすむのだ!」
草壁春樹は、『高野』の名を聞いて歯軋りする思いだった。
その時、ウィンドウに映るキャスターが大変な慌てようで新たなニュースを伝えた。
その内容は、火星の後継者首脳陣を、激しく動揺させる程の衝撃的な内容だった。
いち早く正気を取り戻したシンジョウ・アリトモ中佐は、キャスターに状況を説明させた。
「当確すべて取り消し!?、どういう事だ!、説明しろ!」
「はあ、それが敵の新兵器と、その説得に・・・・・・」
キャスターの言葉と共に現れた新たなウィンドウには、月臣源一郎が説得を行っている映像が映っていた。
「月臣!?」
草壁春樹の驚愕の声が、室内に響き渡った。
ばかな・・・私が・・・・私が敗れるというのか・・・・・・・・・
月臣源一郎の説得により、次々と投降する者が現れている映像に、
自分の野望が音を立てて崩れていく感覚に草壁春樹は襲われ始めた。
まだだ!、私にはプラン甲が残っている!、まだ負けられんのだ!
草壁春樹は、自らを鼓舞しながら、周りで意気消沈している首脳陣を励まそうと口を
開いたが、その言葉が発せられる事はなかった。
何故なら、それは、草壁春樹にとって悪魔にも等しき存在の一つがボソン粒子を纏い現れたからだ。
「わが基地上空にボソン反応!」
「何っ!!」
ウィンドウに映った純白の戦艦の映像に、草壁春樹はすぐさま迎撃命令を発した。
「・・・・ナデシコ!、守備隊に連絡!あの戦艦を打ちお・・何!」
草壁春樹が見ていた映像が突然、ホシノ・ルリのデフォルメとお休みの文字が現れた。
その瞬間、基地内の全てのシステムがナデシコに掌握された。
一例として、基地周辺のステルングーゲル守備隊の全てが不時着し、操縦不能などの異常が起こった。
首脳陣が集まる部屋も照明が落ちた為、部下達にろうそくを立てさせる始末である。
「みなさん、こんにちは。私は地球連合宇宙軍所属ナデシコC艦長のホシノ・ルリです。
元木連中将草壁春樹、貴方を逮捕します。」
ウィンドウに現れたホシノ・ルリは、草壁春樹に対して逮捕と言ってはいるが、
事実上の降伏勧告をだした。
「黙れ!、魔女め!」
周りの連中は、そんなホシノ・ルリに対して罵詈雑言を浴びせかけた。
そんな中、床几に座ったまま、静かに目を瞑っていた草壁春樹が口を開いた。
「ホシノ艦長、十分・・・いや、五分程時間が欲しい。」
「何故ですか?、貴方にそんな権利はないと思いますが?」
ホシノ・ルリは内心、自分の最も大切な二人の人生を滅茶苦茶にした、この男に対する憎しみで一杯だった。
「頼む、顔を洗いたいのだ。それが出来れば・・・・・」
目を開けた草壁春樹はどこか虚ろな表情で、ホシノ・ルリにさらに懇願した。
「・・・・・・・・・わかりました、五分程待ちます。ですが、この状態は維持しますのでお忘れなく。」
ホシノ・ルリもこれ以上、草壁春樹の顔を見ていたくなかったのか、すぐさまウィンドウを閉じた。
この抜け殻のような草壁春樹が生み出した五分が、火星の後継者の存亡を決めるとは最早、諦めた首脳陣の誰もが思わなかった。
草壁春樹は、床几から立ち、周りの首脳陣に声をかけた。
「お前達はここで待機していろ。私は顔を洗ってくる。」
そう言って部屋から出た草壁春樹は自室に向かった。
「私は負けた・・・・・・負けたのか・・・・・・」
一人呟いきながら自室に入った草壁春樹を待ち受けていたのは隻眼の男、北辰だった。
「北辰・・・・、何のようだ!。私を笑いに来たのか!?」
北辰の顔を見た途端、先程の虚ろだった草壁春樹は、一転して感情を爆発させた。
「フッ!、ジャンプによる奇襲は諸刃の剣である。『アマテラス』がやられた時、我々の勝ちは五分と五分。
地球側にA級ジャンパーが生きていた時点で我々の勝ちはもう・「もうよい!」
北辰の言葉を遮った草壁春樹は北辰を睨みつけながら口を開いた。
「最早、我等の負けは決まった。世界の覇権を手にした暁には、貴様とヤマサキを処分出来たというものが。」
「ほう、本音が出たな。では、どうするのだ、無様に玉砕覚悟の特攻か?。今、ナデシコさえ落とせば、
勝てはせぬが、負けることもないぞ。六連も余っているしな。」
北辰の侮蔑的な言葉にも、どこか達観した様子の草壁春樹は気にもせずこれからの事を話した。
「傀儡の私にも意地がある。潔く投降するつもりだ。
だが、今のままでは私の本来の志を継ぐ者達全て捕まってしまう。
出来れば、一人でも多く逃がしてやりたい。」
北辰は草壁春樹の口からでた『志』という言葉に反応した。
「一つ、聞こう。主の志とは?」
「クローンとはいえ、祖国を愛する気持ちには変わりはない。
例え、プログラムされた感情だとしても、私はそれを受け入れたい。
そして、覇権を握り、木連主導の世界を創りたかった・・・・・・・・」
「・・・・・・よかろう。主の願い聞いてやるわ。
我が手足の六人衆をナデシコに向かわせよう。どうなるかは、わからんがな。」
その言葉を聞いた草壁春樹は驚いた顔で北辰を見詰めた。
「本気か?、貴様を消す気でいた私に何故手を貸す?」
「フン、主ごときで我が消せるか。ただ、我は、主の志が気にいっただけよ。」
そう言って北辰は、草壁春樹の自室から出て行こうとした。
その後姿に草壁春樹は声をかけた。
「貴様はどうするのだ?」
「我は、あの男との決着が残っている。では、さらばだ草壁の写しよ。」
北辰は振り返らぬまま、草壁春樹に答え、そして出て行った。
草壁春樹は、その姿を見送ると洗面所に行き冷水で顔を洗った。
「・・・・・・・行くか。」
自室から出てきた草壁春樹は、どこかスッキリした顔つきで火星の後継者首脳陣が集まる部屋に戻ってきた。
「時間です。元木連中将草壁春樹、貴方を逮捕します。」
「ああ・・・・・・だが、部下の安全は保障してもらいたい。」
草壁春樹の表情には先程の虚ろさはなく、力強さが戻ってきていた。
頼むぞ、北辰。私の志を継ぐ者達の命運、貴様に預ける・・・・・・
後書き
どうも、道雪です。夜叉と戦神の第五話前編をお送りします。本当は一話に纏めたかったのですが、
半分に分けました。今回は皆さんの色々な秘密を書いたのですが、伝わったでしょうか?
ここの北辰さんは、少々北辰パパです。
では、次回こそ夜天光とブラックサレナの戦いを書きます。これは来年になると思いますが。
それでは来年も皆さん、よろしくお願いします。では・・・・・・・・・
代理感想
ども、代理人が死ぬほど困ってたので代理人として駆り出されますた龍志です。
あー全体的には劇場版そのままで余り気になりませんが
草壁が、いってる事が矛盾してるのはクローンだから腐りかけてるんでしょうかね?
自分の秘密を知るものを殺すって―のは独裁者の常套手段ですし。
政治活動。もしくは木連の溜めにはヤマサキは殺せないはずですし。
まぁ後半のアレも本音聞いた後だとどうも言い訳っぽく…(苦笑
まぁそこらへん読みきってて腹の中嘲笑いながら死にに逝くんだとしたら北辰も格好良いですが。。
なんてーか、北(;y=-(゚д゚ )・∵. ズキューン)…が被るような。ね。
では投稿ありがとうございました〜