「リュウ・ホウメイ?」 「そうだ、その人が、オレが知る限り世界一の料理人だ。 その人に認められたら一人前だな」 アキトのためを思い、アキトのためにホウメイさんのことを教えてみるが、 実は、これこそ、オレが思いついた最後の策。 ルリちゃんと共に、ヒヨコアキトを説得しようと努力してきたが、 この頑固なバカは一向に、受け入れる気配なし。 そして悩みに悩んだ末の解決策だ。 料理に関するアドバイスは、素直に聞くからな、 良い師匠を紹介してやろうかというオレの言葉に食いついてきたヒヨコを誘導する。 このままホウメイさんのところに行って、弟子入りすれば、 結果的にナデシコにも乗ることになるはず。 さすがに二年程度で認められるはずもないし、 こいつの性格上、認められてもいないのに弟子をやめるなんてことは、 絶対にしないだろうし。 結果的にナデシコに乗りさえすれば、とりあえずは良いか。 でも、なぜかルリちゃんは、この案にあんまり乗り気じゃなかったような・・・ 『鉄人』 この二週間、黒い亡霊、もとい黒アキトと共に、 ヒヨコの説得工作に励んでいたはずのルリ。 彼女もまた、諦めたわけではないのだが、 「ルリちゃん、手伝って」 「は〜い」 同時に、現在の生活を楽しんでもいた。 呼ばれて、いそいそと台所へ向かう。 チキンライスに絆されたのかも知れない。 現在の彼女の心境といえば、 考えてみればあの頃みたいに、アキトさんとほのぼの暮らすのが私の夢なわけで、 このままナデシコと関わらなければ、それはそれで結果オーライ? まあ、ゆーれいより、肉体のあるアキトさんの方が・・・・・・ねぇ? なにが、ねぇ? なのかは知らないが、 黒アキト、ピンチ? 見捨てられつつあるのも仕方ないかと思われる体たらくブリだが、 ルリも、まあ、確かに幸せそうではある。 まあ、そんなこんなで、それぞれの事情を抱えた三人は、 ホウメイさんへの弟子入りを目指して、地球へと旅立つことになるのだった。 今の生活が、なかなかに気に入っているルリは少々渋るのだが、 あっ、そういえば、ランダム・ジャンプで目がつけられることもないですし、 イネスさんとの接点なくなりますね(邪笑) この時期、地球に経つメリットを見つけ、承諾したのである。 こうして、コックを目指す少年と、妖精と亡霊の珍道中が始まる。 そして、思わぬ展開が待っていた。 ルリちゃんがひとりで火星に来たくらいだから、 三人で地球に向かうくらいわけはない。 もっともオレは実体がないのだが。 途中、ルリちゃんが戸籍を捏造していたことが発覚した以外は、 特に何事もなく、 その後、ルリちゃんが、ネットでホウメイさんの居場所を探しておけば、 まったく問題は起こらなかったはずだ。 しかし、ついオレが、 「そういや、サイゾウさんの飯を食ってみたらどうだ?」 と提案したのが悪かった。 それは良いかも、と雪谷食堂を目指し、 ルリちゃんとヒヨコが飯を食っているのを、眺めていたまでは良い。 そこで、ヒヨコがサイゾウさんに訊いたのだ。 「リュウ・ホウメイっていう料理人、知りませんか?」 と。 そして、彼は答えてくれた。 おお、有名な人だからな、知ってるぞ。今は京都の山奥にいるらしい、と。 サイゾウさんの言うことだから、疑いもしなかった。 ルリちゃんが、調べて確認をすることもなかった。 翌日には京都に行って、人に聞きながら、ホウメイさんを目指す。 「なんか、えらく険しい山ですね?」 「背負ってあげようか、ルリちゃん?」 という微笑ましいような妬ましいような光景を横目に、 辿り着いた先で待っていたのは、 そびえる崖、流れ落ちる滝、 仙境と見まがうような風景の中、包丁を持って仁王立ちする老人だった。 岩肌に。しかも水平に。 瀑流をものともせず、滝の中に立っていた。 着流しの着物に、長く真っ白なヒゲ、その出で立ちは、まさに仙人。 間違いない。 間違いなく人違いだ。 だがしかし、 「あなたが、リュウ・ホウメイさんですか?」 違う違うと首を振るオレとルリちゃんに気づかず、問いかけるヒヨコ。 そして、老人はかくしゃくたる態度で答えてくれた。 「いかにも。我が輩こそ、天下一の料理人、劉鵬明である!」 そしてヒヨコは、俺たちが止める間もなく弟子入りを志願したのだった。 「オレを弟子にして下さい!!」 「諾」 激しく殺意を抱かせる老人だった。 「ルリちゃん、どうにかして・・・弟子入りを取りやめさせるべきじゃ・・・」 「・・・そうですね」 リュウ・ホウメイと劉鵬明(りゅう・ほうめい)。 音は一緒だが、まったくの別人。 このままでは、ますますナデシコが遠ざかる。 「ルリちゃん、早い方が良い。あのジイさんに・・・」 「そうですね。ちょっと話してきます」 向こうで、なにやら料理人になりたいという思いの丈を語っているヒヨコと老人。 彼らに、どう言い訳すればいいのか、よくわからない。 まさか、素直に人違いでした、などと言えば気分を害するのは間違いない。 だが、こういう場合、ルリちゃんなら、なんとか巧く誤魔化してくれるだろう。 申し訳なさそうに、おずおずと話しかけるルリちゃんは、 「あの・・・鵬明さん」 「ん、なんじゃ、お主は? 兄妹には見えんが・・・」 「えっと、私は・・・」 「もしや・・・幼妻か?」 「はい、そうなんです!」 「うむ、やはりか。わが輩の目に狂いはなかった。かっかっか」 「夫共々よろしくお願いします」 ぺこりと頭を下げて、あっさりと寝返りやがりました。 ルリちゃん・・・君ってこんな娘だったっけ…。 端から見ても、今のルリちゃんの周りにはお花がいっぱい咲いていそうだが、 少なくとも、ナデシコの花ではあるまい・・・。 果たして、輝ける未来は訪れるのだろうか。 幽霊になっても、頭痛というのはあるのだと、新たな事実を知ったのだった。 「料理とは、それすなわち戦いじゃ!」 「はいっ」 「活きの良い獲物を見極め、急所を一瞬にして絞め、 鮮度が落ちぬ間に斬り捌くことから始まる。 川魚に関しては、昨日までで合格じゃ、よくやった」 「はい」 そして一週間、 ヒヨコは、夕日を背に熱血していた。 川面に映る魚影に一瞬で手を伸ばしてつかみ取る。 さらに、瞬く間に包丁で下ろしてしまう。 まさに、料理ではなく戦いのようであったが。 「熱血してますね」 どうも、憑いていき辛いノリだ。 「でも・・・昔のアキトさんって、結構あんな感じじゃありませんでした?」 「・・・あまり覚えてないよ」 そうだったかも知れない。 「アニメを見て、ゲキガイン! とか叫んでいるよりは、健全だと思いますけど」 「それはオレじゃないよ。・・・たぶん」 ヒヨコを止める術も思いつかぬまま、流されている。 このままではいけないとは思うのだが、 ルリちゃんも、これはこれで、などと言って、ヒヨコの世話をしているし・・・。 「今日はイノシシ狩りじゃ。例え食材が離れたとこにいようとも、 料理人の魂を持ってすれば、容易に仕留められる。 まずは振れ、無心で振れ、獲物に向かってただ振り抜け!」 「はい!」 でもまあ・・・強く育ちそうな気がしないでもないが。 「まずは手本を見よ、神鳴流斬空閃!!」 おい!!!!
あとがき 電波入りました。
代理人の感想
神鳴流? なんかどっかで聞いたような・・・・(検索中)・・・・って、あれか(爆)。
しかしまぁ、次回で一応終わりのはずなんですが、なんか次回じゃ収拾つかないような気がしますし、一方ではもう終ってるような気もしないではないし。
どうなるんでしょうねぇ(苦笑)。