時を紡ぐ者達 第0話

「アキトさん、いい加減に帰ってきてください!」

「何度も言っている。君の知っている天河アキトは死んだ」

ここ火星衛星軌道上で二隻の戦艦がデットヒートを繰り広げていた。

片やコロニー襲撃犯、天河アキトの乗る戦艦ユーチャリス。

もう一方は火星の後継者の反乱をたった一隻で鎮圧した星野ルリが乗る機動戦艦ナデシコC。

「何を言っているんですか! ユリカさんも、もうじき退院できるんですよ。

もう一回やり直せるんです!!」

「それは無理だな」

「どうしてですか!?」

「ルリちゃんは知らないだろうが、俺の命は後一ヶ月ぐらいなんだ」

ナデシコCの艦橋に沈黙が満ちる。

「嘘ですよね、アキトさん。私を騙す為にそんな嘘を・・・」

「本当なんだ。もうやり直せない」

アキトの断言に、ルリはうな垂れた。

だがルリはこの時、ユーチャリスに居るはずのラピスが居ないことに気付いた。

「アキトさん、ラピスは?」

「ラピスは月で降ろしてきた。一ヶ月ぐらいなら、五感はダッシュとバイザーで補えば良いからな」

この時、ルリはアキトの顔に死相が現れているのが分かった。

「俺の遣り残したことはもう何も無い。それでも・・・」

ド―――ン!!

ユーチャリスから爆炎があがる。

「どうした!?」

この問いにユーチャリスのAIであるオモイカネダッシュが応答した。

『火星の後継者の攻撃です。相手のステルス性能が想定以上に高く、探知できませんでした』

そして不運とは重なる物で

「ジャンプユニットに重大なエラーが発生、ランダムジャンプします」

(死神には相応しい死に方だな)

そんな自虐的なことを考えながら、アキトはルリに最後の通信を送った。

「ルリちゃん、どうやらお別れのようだ。ユリカとラピスを頼む」

「アキトさん、早く脱出してください!!」

ルリの悲痛な叫びが響く中、虹色の光がユーチャリスを包んでいく。

「俺はどこで道を誤ったのかな?」

グオオオオオオン!!

そんなアキトの呟きを残し、ユーチャリスは光に包まれ消滅した。少女の悲痛な叫びと共に。

「アキトさん!!」

「ここはどこだ?」

アキトがランダムジャンプで跳んだ場所は

一面のお花畑だった!!(謎)

「俗に言う天国と言う奴か。ふっ、まさかな」

「何、独り言を言っているのですか?」

「誰だ!?」

アキトが振りかえって見ると、そこには一人の女性が居た。

おぼろげながら見えるその女性は、腰にまで届く銀髪と銀色の瞳の持ち主だった。

そして、白いワンピースを着ていた。

「『誰だ!?』は無いでしょう、天河アキトさん。 いきなり現れたのはそちらなんですから」

やや機嫌が悪いようだ。良く見ると、彼女の後ろにある円形テーブルの上には紅茶とお菓子がある。

どうやら、ティータイムの最中だったようだ。

「すまない。・・・ってなんで俺の名前を知っているんだ!?」

「あなただけじゃありません。

私はあなたの知らない多くの人々や、古代火星人のことも知っています」

「まさか、お前は」

「あなたの想像と通り、私はあなた達地球人類が演算ユニットと呼んでいる物のAI。

そして、ここは零次元空間と呼ばれている所」

「お前のせいで、俺やユリカ、火星の人達がどんな目にあったのか知っているのか!?」

怒気に満ちた声でアキトは尋ねた。

だが、この声に演算ユニットは心外だ、という表情をして答えた。

「私は演算ユニット、つまり機械に過ぎません。

 そして機械とはあくまでも道具なのです。

 あなた達が不幸になったというなら、それは使う側である、あなた達に問題があったのでは?」

この指摘にアキトは沈黙せざるを得なかった。

「まあ、ここで口論してても仕方がありません。

 気分を落ちつかせるために、紅茶でも飲みませんか?」

彼女はそう言って、アキトに紅茶を勧めた。

「別にいい。どうせ味は分らん」

「そうでしたね、じゃあ五感を回復させましょうか」

彼女がそう言った後、アキトの体は光に包まれた。

この時、アキトは自分の体の機能が回復していくのを感じた。

「あなたの体内にあったナノマシンの機能を正常化させました。五感をはじめ、全ての機能が回復しています。

 おまけに、機能の止まっていたナノマシンも活動し始めたために、身体機能が著しく向上しています」

「本当か?」

アキトはバイザーを外した。

「はっきり見えるし、自分の声が聞こえる」

自分の頬を抓ってみる。

「痛い」

今度は、演算ユニットが勧めた紅茶を飲んでみる。

「匂いがわかる。それに味も」

驚きを隠せないアキトに、演算ユニットは微笑みながら尋ねた。

「どうです、久しぶりに味わう紅茶の味は?」

「ありがとう、感謝するよ。

 後、先に言ったことは謝る。

 君の言った通り、問題が有ったのは演算ユニットである君ではなく、人類の方にあったからね」

「解って頂けてよかったです」

しばらく二人はティータイムを楽しんだ。

そして、ティータイムを終えた後、演算ユニットはアキトに尋ねた。

「天河さん。過去に戻って、全てをやり直してみたいですか?」

「そんな事が出来るのか?」

「私は演算ユニットですよ。不可能なことではありません。ただ・・・」

「ただ?」

「過去に行けるとしても、そこはあなたの居た世界とは少し異なる世界。言わば、『平行世界』ですが」

「何故?」

「一つの世界に、同じ存在が二つあると最悪の場合、その世界の存在が消滅するからです。

 それでも、行きたいですか?」

この時アキトの脳裏にこれまでの人生が走馬灯のように映し出されていた。

両親の死

蜥蜴戦争

死の料理

ネルガルの陰謀

クリムゾングループ

火星の後継者

北辰

(よく考えると、俺の人生は余り恵まれた物じゃなかったな。と言うか、なんで俺ばっかりこんな目に会わなきゃならないんだ?」

思考がどんどんネガティブになっていくアキト。

「どうします?」

演算ユニットは再び尋ねた。

「俺にも幸せになる権利はあるはずだ。俺の復讐で犠牲になった人には申し訳無いが、俺はやり直させてもらう。

自分なりの幸せを掴むために!!」

かなり自己中心的なことを言うアキト。

さすがにこんなことを言うとは思わなかったのだろう。演算ユニットは唖然としていた。そして笑い出した。

「どうした?」

アキトが不審そうに尋ねた。

「いえ、すごく自分に素直だなあ、と思って」

「はあ」

「そういえば、昔にもあなたみたいな人がいました」

「どんな人だったんだ?」

「理由は言えないけど、元の世界に居られなくなってここへ辿り着いたのです。そして、過去に行きました」

「どうなった?」

「成功したようです。その後、何やら大きな組織を作ったみたいですけど」

「組織?」

「そう、理不尽な理由で自分の世界に居られなくなった者達を支援するための」

その直後、演算ユニットは何かを思いついたような仕草を見せた。

「そうだ、天河さん。彼らに協力を要請したらどうですか? 彼らの実力は私が保証しますよ」

「信用できるのか?」

「その点も保証します」

「解った。彼らに協力を要請しよう」

「では事情はわたしから話しておきますね」

「助かる」

アキトがそう言うと演算ユニットは姿を消した。そして、だいたい10分後。

「彼らは要請を受託しました。今からあちらに転送しますが、よろしいですか?」

現れるなり、直ぐにアキトに尋ねた。

「ああ、勿論だ」

アキトの体がボゾンの光に包まれていく。

「何から何まですまない」

「気にしなくていいですよ。それでは御武運を」

そして、アキトは消えた。

「さて、彼はどこまで歴史を変えることが出来るかしら」

何やら期待を込めた表情で言う演算ユニット。

「歴史の改変作業を見ることは、私の数少ない楽しみだからね。頑張ってね、天河さん」

彼女は、歴史がいじられるのを見ることが趣味なのだ。

おまけに例の組織の設立にも大きく関わっている。

自分の楽しみのためには、歴史を改変させる事も厭わない奴。それが彼女なのだ。

 

後書き

はじめましてearthです。

最後まで読んで頂けて、光栄の極みです。

感想を送っていただければ光栄です。

また次回お会いしましょう。

 

 

 

 

 

代理人の感想

いい性格してるな〜(笑)。

 

でも理不尽な理由で自分の世界にいられなくなったもの達の組織・・・・・

まさか「逃亡者」((c)BA−2さん)だったりして(爆笑)。