時を紡ぐ者達 第4話前編

『アルビオン』。西暦2194年に突如として現れ、急成長を遂げた巨大企業。

その技術力はあらゆる分野で他の企業を凌駕した。

特に通信、医療の分野においてはは他企業の追随を許さなかった。

勿論、そんな企業に脅威を感じない企業はおらず、多数の産業スパイを送りこんだ。

またクリムゾングループ等は、暗殺者すら送り込む始末だった。

だが、これらの企みは全て失敗に終わる。

しかも工作を請け負った組織や、依頼した企業は手痛い反撃をあびる始末。

特に、クリムゾンは報復として重要な研究施設をことごとく壊滅させられた。

機材は勿論、研究員も皆殺しにされたので、新製品の開発に支障がでた。

これらの経緯からアルビオンに対し積極的に手を出そうとする者は居なくなった。

ごく一部を除いて。

 そんな他の企業や組織から恐れられているアルビオンの象徴、本社のある超高層ビルの

最上階の会長室で、天河アキト、改め『天川カイト』は書類の山と激闘を繰り広げていた。

(どこが単に書類に決済すればいいだ!!)

彼は心中、春日井に『話が違うぞ』と文句を言っていた。

経営は殆どHFRがやるとは言え、会長の決済が必要な書類も多い。

だが、それでもアカツキの書類の量よりは少ない。

これはいかにHFRやバックアップにまわっている真澄達が奮戦しているかを示している。

まぁ、そんな事情を知ったとしてもカイトは完全には納得しないだろうが・・・。

「終わったー」

アキトは午前中の仕事を全て片付けた。

「アカツキの気持ちが解ったような気がする」

等と、嘗ての戦友の顔を思い浮かべる。

「思い出に浸るのはまだ早いですよ」

秘書を任されている女性型HFRが突っ込む。

「まだ、あるのか?」

げんなりしたように聞くカイト。

「午後の仕事はこの二倍はあります」

「うげ!」

カイトは顔を真っ青にした。

「それでは」

少し、意地悪そうな笑顔を浮かべHFRは部屋から出ていった。

「はー」

ため息をつき、机に突っ伏すカイト。

「おい、大丈夫か?」

ノックもせずに会長室に入ってきた蘭が、カイトの顔を見るなり尋ねる。

「大丈夫に見えるか?」

「見えんな」

即答する蘭。

「だったら聞くなよ」

と呟いた後、再び机に突っ伏すカイト。よほど疲れている様だ。

「ナデシコの情報、聞きたくないのか?」

「!」

カイトはまじめな表情になった。

「ナデシコは史実通り発進するようだ。まぁ、違うと言えば・・・」

「副提督の件か?」

「ああ、工作の甲斐あってムネタケは乗らなくなった。

 後、ネルガルとの交渉も上手くいった。だが、良いのか?」

「如月が副提督として乗りこむことかい?。別に構わないよ」

「・・・どうして乗らないんだ?」

「同じ人物が二人もいるとややこしいし、何時ばれるとも限らない。

 それに・・・」

「それに?」

「俺は『自分なりの幸せ』を掴むために歴史を変えるつもりだ。

 そんな自己中心的な人物が、ナデシコに乗る資格はないし、必要もない」

その後、押し黙るカイト。

(まぁ、俺としては香織から逃れられるから満足だが)

その一方、心中でそんなことを呟く蘭だった。

「ナデシコの方は如月に任せるよ。俺は裏役に徹する」

「解った」

蘭は会長室から去っていった。

その後、すぐ麗香が入ってきた。そして間髪おかず尋ねた。

「ナデシコに乗らないの?」

「どこでそれを?」

「廊下で聞いてたのよ」

「盗み聞きですか?」

「失礼ね。立ち聞きよ」

「どうやって?」

会長室は完全な防音工事がしてある。普通、室内の会話を聞けるはずはない。

「ははは。気にしない、気にしない」

誤魔化す麗香。

(気にするわ!!)

思わず突っ込みたくなるカイトだったが、話を進めるためにやめた。

咳払いをした後、麗香の質問に答えた。

「今回、俺はナデシコには乗るつもりはない。ナデシコは如月に任せる」

この答えを聞いた時、麗香の顔にちょっとした笑みが浮かんだ。

不思議に思ったカイトは尋ねた。

「・・・何がおかしい?」

「別に」

麗香はこの後、上機嫌そうに去っていった。

彼女が去った後、カイトは自分の端末でカレンダーを見ながら言った。

「下手に歴史を知る俺が乗るとどうなるか解らないからな。

 歴史の大幅な修正は終盤でやれば良い。それまではナデシコと如月に頑張ってもらうとしよう」

しかし、その後の台詞はとんでもない物だった。

「それが一番楽だし」

それが本音か!!

しかし、この時の判断を彼は後に大いに悔やむこととなる。

 カイトとのやり取りから、約1ヶ月後。蘭は佐世保ドックにいた。

「変な形だな」

ナデシコを見て、蘭がまず言った言葉がこれである。

「ははは、手厳しいですな」

蘭の意見に、苦笑しながらプロスが答えた。

「プロスぺクター」

「プロスで結構ですよ。それと、今から艦内を案内するので着いて来てください」

「そうか」

蘭はプロスの後に着いていった。

だがこの時、蘭はプロスがかなりこちらを警戒していることを察した。

(やはり、連中は俺を疑っているようだな。まぁ無理も無いか)

蘭の予想通り、プロスは蘭のことを疑っていた。

その証拠に、蘭の行動はオモイカネで監視されていた。まぁ、ライバル会社からの出向社員なので疑われて当たり前だが。

(やりにくいな。さて、どうするべきか)

等と、今後の対策を練っている内に艦橋に着いた。

「プロスさん、その男の人はだれですか?」

メグミが尋ねた。

「ええと、こちらは副提督の如月蘭さんです」

「副提督? すごいですね」

「ふーん。そう言えば艦長は?」

ミナトのこの疑問に、プロスが少しため息をついた後に答えた。

「遅刻です。まったく勤務初日なんですけどね」

「大丈夫なの、そんな艦長で?」

「連合大学を主席で卒業した逸材です。能力に関しては保証します。ちなみに二十歳の女性です」

「へー。でも女性なんですか。ちょっと残念」

等と、会話が進んでいる艦橋の中に警報が鳴り響いた。

「演習ですか?」

「違う、敵襲だ」

何時の間にか、艦橋に居たゴートが正解を述べる。

「地上の状況は?」

「敵無人兵器、約300が連合軍と交戦中です」

ルリの報告後、艦橋のスクリーンに地上の映像が映しだされた。

連合軍は史実通り、良い様に叩きのめされていた。しかしながら史実と違う点も存在した。

(史実より襲来が早い。そのうえ数も増えているな)

ムネタケが居ない静かな艦橋で、蘭は今回のずれの影響を考え始めた。

だが状況はそんな悠長なことをしていられない程に急速に悪化した。

「地上軍はほぼ壊滅した模様。無人兵器群がドックに向っています」

艦長の居ない今、ナデシコは絶体絶命。

蘭がエステバリスで出撃しようかと考え始めた時、彼女が来た。

「すいませーーん、遅れました!!。私が艦長のミスマル・ユリカでーす!。ブイ!!」

とVサインをしながら艦橋に入ってきた。

「艦長、遅刻の件は後だ。何か作戦は?」

ゴートの問いに即答せず、ユリカはルリに現状を尋ねる。

「現状は?」

「敵無人兵器300機がドックに接近中です」

「・・・。エステバリスの発進を要請します。

 ナデシコは海中ゲートから発進し、浮上後、敵を背後から殲滅します」

「ふむ、ではパイロットに連絡を」

「それは無理です」

ルリが即座に否定する。

「これは先ほどの格納庫の映像です」

そこには必殺技(?)を叫んでこけるエステバリスの姿があった。

「この事故でパイロットの山田さん「ダイゴウジ・ガイだ!」は骨折。出撃不能です」

「どうします、艦長?」

プロスが尋ねるが。

「えー!!なんでー!?」

等と叫ぶユリカの声が明確に答えを表していた。

「他にエステバリスを操縦できる者はいないのか?」

蘭が尋ねる。

「ちょっと待ってください。今、検索します」

ルリが該当者の検索を行った。

「ナデシコでIFSを持っているのは、私と副提督だけです」

「如月さんはIFSをお持ちなのですか?」

プロスが確認を取る。

「一応、持っているが」

「それなら話しは速い。今回だけでいいですから出撃してもらえませんか?」

「別に構わん」

「ありがとうございます」

「礼は後で良い。行って来る」

蘭は艦橋から出ていった。

彼は格納庫に向う廊下を走りながら今回のイレギュラーについて考えていた。

(一体、何が起こったと言うんだ? 予想を余りに外れている)

蘭は今後の歴史がどうなるか、まったく予想がつかなくなりつつある事を実感した。

しかしながら、この世界の歴史が彼らの予想を遥かに越える変化に見舞われることを今は知る由も無かった。

 

 

 

後書き

お久しぶり、earthです。

時を紡ぐ者達第四話前編をお送りします。

ナデシコ発進の話ですが、私は素直に発進させるつもりは毛頭ないのでご了承下さい。

それと、今回カイトはナデシコに乗りません。

最初は乗せるつもりだったのですが、こういう展開も書いてみたいと思い、変更しました。

よって、蘭に代わりに乗ってもらいました。

それでは後編でまたお会いしましょう。

 

 

 

代理人の感想

・・・・・・「楽だし」ってね。

自分の知ってる歴史と同じになる保証はどこにも無いし、

終盤に強引に歴史を変えようとすると色々面倒な事になる様な気もするんだけど・・・・

あ、「そこまでの工作は如月に押しつける」と言う意味か(爆)。