アトラスは自室で睡眠を取っていた。

だが、彼の心地よい眠りは電話の着信音によって終わりをつげた。

「・・・何だ、こんな時間に?」

アトラスはやや不機嫌な声で電話に出た。

しかし、不機嫌そうな表情は電話の声を聞いて消え失せた。

「・・・やるのか?」

「・・・・・・・・」

「そうか。だが失敗は許されない」
「・・・・・・・・」

「・・・そうか。なら言う事は無い」

そう言うと、彼は電話を切った。

彼は暫く考えに耽けた後、ある所に電話をかけた。



   時を紡ぐ者達  第11話



 西暦2202年。

この世界、嘗て天河アキトが居た世界は、明るい雰囲気に包まれていた。

何故なら、コロニー爆破犯である天河アキトの死亡が報道されたからだ。

実際のところ、彼によって殺されたのは火星の後継者が殆どだったのだが、政府と統合軍はアキトに全ての罪を擦り付けたのだ。

その所為で、一般人は天河アキトの死を、冷酷非情なテロリストの死と受け止めていた。

だが、その明るい雰囲気に包まれた世界の主要都市の上空に、とある物体が唐突に出現した。

そして、それは人々が気付く前に人工の太陽と化した。


「一体、何が起こっているんだ!!?」

地球連合軍総司令部は恐慌状態だった。

世界の主要都市が核攻撃を受けているというのだ。

平静を保てるわけが無い。

「すでに、ワシントンDC、ロンドン、パリ、東京、モスクワ、北京、ベルリン、メルボルンからの音信が途絶しています。

未確認情報ですが、火星や木星からも核攻撃を受けているとの報告が」

「何に!?」

だが、彼らの恐慌状態も長くは続かなかった。

何故なら彼らもまた核攻撃を受け、消滅したからだ。

核攻撃を受けた各都市では地獄絵図のような光景が広がっていた。

辛うじて生き残った人々は水を求めてさまよう。

かれらの多くは2度ないし3度の熱傷をおっており、全身が焼け爛れていた。

中には燃え上がった衣服を引き剥がそうとして、服と一緒に焼けた肉も剥がしてしまい、鈍く光る骨を剥き出しにした者もいる。

まさに地獄絵図のような光景が広がっていた。

また、最初の惨禍を逃れるべく地下に逃げ込んだ者たちも多くは彼らに勝る劣らず悲惨な目にあった。

キノコ雲が上昇した直後に発生した火事場風(ファイアストーム)によって重い二酸化炭素が沈降したからだ。

地下室や地下鉄のトンネルにそれらは沈んでいった。

窒息死した者はまだ幸運だった。密閉された場所で襲われた者は、オーブン内のナッツみたいにかりかりに焼きあがった。

なぜなら温度が上昇しても、燃焼を助ける十分な酸素が無かったからだ。

ファイアストームの中に居た生物は完全に死に絶えた。

そして、この光景は地球全土に出現した。

いや、様々な平行世界においてもこの光景は現れていた。


統和機構作戦本部中央司令所。

アトラスは非常事態発生の報を聞き、中央司令所に駆け付けた。

そして、現状確認を行う。

「一体何が起こった?」

「現在、複数の世界が大量破壊兵器の攻撃を受けています」

作戦部長が答える。

「・・・被害は?」

「すでに五つの世界に設置してある支部からの音信が途絶。

他に、第3艦隊、第9艦隊が壊滅したとの報告があります」

統和機構は、正規艦隊として9個艦隊、特務艦隊として8個機動艦隊、そして本部防衛艦隊の3種類の艦隊を保有している。

正規艦隊の主な任務は、駐屯世界とその周辺世界の秩序維持、反統和機構組織の封じこめ。

そして、特務艦隊の主な任務は緊急時における遊撃作戦の展開であった。

よって今回の攻撃で2個正規艦隊を失ったことにより、駐屯世界における秩序が大きく崩れることは必定であった。

「至急、応援を回せ。それと、攻撃元を特定できているか?」

「いえ、まだです」

作戦部長が気まずそうに答えた。

「・・・本部周辺にいる部隊は?」

「は、作戦本部直属の防衛艦隊、及び第7機動艦隊です」

「展開位置は?」

「絶対防衛線線上です」

メインスクリーンに、その様子が映し出される。

「ふむ」

「本部の安全はすでに確保ずみです」

だが、その直後、爆発音と共に非常警報が鳴り響いた。
「なっ、何だ。何が起こった!!?」

作戦部長が狼狽する。

近くに居た司令所要員が蒼白な顔をして答えた。

「し、侵入者です」

「何!!?」

「技術部から、緊急通信が」

メインスクリーンに、パニック寸前の技術部長が現れた。

『こちら技術部、第3研究塔に強化服を着た30名余りが侵入してきました!!』

「防ぎきれるか?」

『不可能です。すでに警備部隊は壊滅しました!!』

「くっ。・・・どの位時間を稼げる?」

『もって10分です』

「分かった。作戦部長、特機は動かせるか?」

「特機ですか? はい、10分あれば」

「五分でやれ」

「了解しました」

「聞こえた通りだ。出きるだけ時間を稼げ。

それと非戦闘員は脱出させろ。あと、機密データは破棄して構わん」

『了解しました』

そして通信が切れた。


 第3研究塔では激しい銃撃戦が起こっていた。

「くそったれ!! なんて火力だ!!」

警備部隊の残存戦力は、研究塔内部で侵入者側に対し、出来うる限りの反撃を行っていた。

だが、彼らの圧倒的な火力の前にあってははかない抵抗であった。

「小隊長、本部から通達です」

「本部からだと?」

「はい、特機が来るから10分は持たせろと」

「10分だと? なに寝ぼけたこと言ってやがる。

このままじゃ後5分も持たんっていうのに」

ぶつくさ言いながら、彼は遮蔽物を利用して銃弾を避けながら侵入者に近づく。

そして。

バン!!

彼が放った銃弾は、強化服のセンサー部分を打ちぬいた。

センサーを失った侵入者に対し、さらに3発の銃弾を同じ個所に撃ちこむ。

侵入者は倒れた。

「まったく頑丈な奴だ」

だが、そんなことを言っているうちに彼が身を隠していた塀が吹き飛ぶ。

「ぐは」

彼は数メートル先の床に叩きつけられた。

そして、彼が消え行く意識の中で見たのは自分に銃口を向けた黒き甲冑を身に纏った侵入者の姿だった。

(くっ、俺もここまでか・・・。まぁ3人は殺したからな。

俺は死ぬのか。・・・いやだ、死にたくない、死にたくない。

あいつらに、妻と息子にもう一度会いたい)

だが、彼の意識は、銃声と共に消えていった。




「ここか」

「はい」

侵入者達は、研究塔最深部にある時空干渉システムが保管されている部屋の前に立っていた。

「時間は?」

「後、5分です」

「よし、急ぐぞ」

彼らは、扉を爆破して部屋に押し入った。

そこで彼らが見た物は、

「こ、これは」

プールの中に鎮座する人の脳の形を模した巨大なコンピューターがあった。

「こいつの起動プログラムを盗むのですか」

やや、気後れ気味な声で一人が言った。

「そうだ。急ぐぞ」

彼らがその作業を始めて、2分後。

「まずい、特機が来た!」

「くっ。作業は?」

「後、120秒ください」

「わかった」


 そのころ、特機は、

「ち! 敵に侵入を許すとは」

「逃すわけにはいきませんね」

「全くだ。特機の名にかけても連中を取り逃がすわけにはいかん」

特機。正式名称、『特別機動隊』。

作戦本部直属の精鋭部隊である。

その実力は、白兵戦闘に置いては並ぶ者が居ないと称されるほどである。

彼らの主な任務は、統和機構やその下部組織に対してテロ攻撃を行う組織の殲滅である。

彼らは『アテナシステム』と呼ばれる特殊強化服を装備しており、外観とその戦闘力の高さから、

敵対組織からは『白衣の死神』等と呼ばれている。

だが、そんな彼らでも今回の戦闘は苦戦させられる物であった。

何故なら、侵入者側の戦術は巧み極る物であり、装備もまた彼らに勝るとも劣らない物であったからだ。

だが、数の差に物を言わせ、彼らは侵入者達を少しづつ駆逐していく。

「隊長、作業終了しました」

「良し、各員、空間転移で脱出せよ」

そして、彼らは消えた。

突然、反撃が止んだことに特機はいぶかしんだ。

「なぜ?」

「突入しますか」

「・・・罠かもしれん」

「ですが、それでは埒があきません」

「ふむ。・・・よし突入する」

だが、彼らが突入したときに見た物はもぬけの空となった部屋であった。

「ばかな、どうやって」

この報告を聞いた統和機構幹部は狼狽した。何故なら、この統和機構本部には許可の無い空間転移が行えないように

強力なプロテクトがかけられているからだ。侵入者達が空間転移で脱出したということは組織内部に内通者が居ることとなる。

「・・・保安部に命じて、組織内部を調査しろ」

アトラスは報告を聞くなり、そう命じた。

この数時間後、さらに驚愕する報告が行われた。

「反統和機構組織が一斉蜂起だと?」

「はい。すでに正規艦隊が出動しましたが、手が足りないと言って増援を求めています」

「分かった、特務艦隊を応援に向わせよう。細かい編成は作戦部にまかせる」

「はっ」

「これから緊急会議を召集する、各部の責任者は第2会議室に集まるように知らせてくれ」

そう言ってアトラスは司令所から出ていった。




 アトラスによる非常召集に応じて、すぐさま多くの幹部が第2会議室に集結した。

「情報部からの報告は?」

「はっ。今回の奇襲攻撃には、どうやら我々の時空転移システムが利用されていた形跡があることが分かりました」

「しかし、転移システムは厳重な管理が行われているはずだが?」

「その件は、我々保安部がお答えします」

「ふむ」

「我々の捜査によると、本部に掛けられているプロテクト、そして時空転移システムを解除したのは同一人物です」

「なっ!」

多くの幹部が衝撃を受ける。

「続けろ」

「はい。我々、保安部が突き止めた人物とは、彼女です」

出席者の前のウインドウに、その人物が表示される。

「こ、この人物は」

「そうです。『新城博美』准将、いや『紅の魔女』と言った方が分かりやすいでしょう」

多くの幹部が狼狽する。

「彼女が?」

「はい。動機は不明ですが、ほぼ間違いありません。しかし、彼女は事件発生後、行方不明となっています。

 それと未確認ですが、幾つかの艦隊の中にも不穏な動きがあるとのことです」

「・・・今、人事を一掃するわけにはいかん。

 監視を強化することで対応させろ。盗まれたデータはあるか?」

「例のシステムの起動プログラムをごっそり持っていかれました。

 また、S級の機密データが多数持ち去られていました」

「・・・技術部長、現時点で『あれ』の起動は可能か?」

「・・・・・・」

「・・・不可能か」

「はい」

「・・・全軍に命じて彼女を追跡させろ。

 それと、反統和機構組織の動きは?」

「作戦部としては、艦隊兵力の増強を要求します」

「兵力が足りないと?」

「はい。武器の性能はこちらが遥かに上回っているのですが、数が」

「連中の戦力は?」

「艦隊兵力は約40個艦隊。機動兵器約25万です」

「我が方の約2倍強か」

「はい」

「・・・予算を大幅に増額しよう」

「ありがとうございます」

「ただし、増額した分の結果はだせ。いいな」

「勿論です」

「では、解散しよう」

「待ってください」

一人の保安部幹部が手を挙げた。

「どうした?」

「保安部としては、事情聴取のため、新城真澄を本部に招集していただきたいのですが」

「彼女にも容疑があると?」

「今の所はありませんが、新城准将の妹である彼女なら何か知っているかもしれません」

「・・・わかった。そのように手配しよう。他にないかね?」

アトラスの問に答えるものはいなかった。

そして会議が終わり、幹部の殆どが会議室から出ていった。

残っていたのは、アトラスの側近と言われる幹部のみであった。

「・・・今回の攻撃での犠牲者は500億人を下らないだろうな」

アトラスは誰となく呟く。

「しかし、なにもしなければ死者の数はこの数倍に上ります」

副官がアトラスの呟きに答える。

「業の深いことだ・・・」

「・・・・・・」

沈黙が、会議室に下りる。

だが、この時、彼らはある異変に気付いていなかった。

彼らが良く知る世界に、彼らの良く知る人物の干渉が行われたことを。






 後書き

お久しぶり、earthです。

時を紡ぐ者達第11話をお送りしました。

相変わらず駄文ですが、最後まで読んでくださってありがとうございました。

・・・それにしても、戦闘シーンというのは難しいですね、何かうまく書くコツは無いでしょうか?


出来れば、感想を送ってください。お願いします。

それでは、第12話でお会いしましょう。






 

 

代理人の感想

いよいよ話が大きくなってきましたね。

でも話が大きくなりすぎるとアキト達の存在感が相対的に暴落する

と言う危険性もありますので気をつけましょう(笑)。