『今回の失態、見過ごせる物ではないぞ』

『そのとおり。君の仕事はEOP達成であるが、他のことを忘れられては困る』

『だいたい、部下の管理もできんのかね』

暗室の中、アトラスの周りに展開している『SOUND ONLY』と書かれたウインドウから叱責がとぶ。

「・・・では私を解任しますか?」

アトラスは静かに聞き返す。

『・・・責任問題はあとだ。今は事態の収拾を最優先にする』

この発言で、他のウインドウからの叱責が止む。

『必要な手は?』

「今から資料を転送します。それらを見てご判断ください」

アトラスが傍らにいた副官に合図をすると、彼は端末を操り資料を送る。

『・・・なるほど、良いだろう』

「ありがとうございます」

『それでは期待している』

ウインドウが次々に閉じられる。

そして、一つ残ったウインドウがアトラスに忠告するように言う。

『裏切るなよ、アトラス』

そして、最後のウインドウが閉じられる。

それを合図に部屋の照明がつく。

「『最高法院』の老人達は気付いたかな?」

アトラスは副官に尋ねる。

「まだ気付いてはいないでしょうが、注意は必要かと」

「ふむ・・・。『ワルキューレ』はどうなっている?」

「A計画は終了しています。今からB計画に取りかかるところです」

「そうか、慎重にな。『ワルキューレ』の成功が無ければ、EOPの価値はなきに等しい(まぁ、私にとってはな)」

「承知しております」

(すべての準備が終るまで、彼女には頑張ってもらわないとな)

「それと、長官。新城真澄が本部に出頭してきたようですが、如何しますか?」

「ふむ、適当な聞き取り調査を行え。どうせ、彼女は何も知らないだろうしな」

「分かりました。・・・新城真澄に真実を教えますか?」

「いや、彼女に真実を教えるのはもう少し後だ。

 それより、例の支援計画についてだが」




    時を紡ぐ者達 第13話




「いや、まったく春日井さんに感謝だな」

「そうね。火星の安定だけでも苦労していたのに、ここまで工作を行ってくれてたなんて驚きだわ」

カイトと麗香は春日井が工作の拠点として設立した会社の社長室で、工作の進み具合に改めて感嘆した。

彼らがこのコロニーについた時には、すでに多くの政治家や軍人と直接会談が行える状態にあったからだ。

無論、その多くは和平派である。

「だが、行動は慎重を期す必要がある。俺達がヘマをすれば多くの和平派の人間が危機に陥ることになるぞ」

「如月さんの言う通りですよ。正念場はこれからです」

蘭と香織が忠告する。

「分かっているさ」

カイトは真剣な表情で答えた。

「ん? もうこんな時間か」

蘭は、腕時計をみて呟いた。

「そろそろ、昼飯にしないか?」

「そうですね」

香織が同調する。

「・・・蘭達は先に行っててくれ。俺達は後から行く」

「俺達?」

「麗香ちゃんにちょっと話があるんでね」

「そうですか」

蘭と香織は部屋を出ていった。

「カイト君、話って?」

「統和機構のことについてだ」

「・・・」

「統和機構というのは一体、どう言う組織なんだ?」

「それは、長官からも話があったと思うけど」

「表向きの話じゃない」

「・・・」

「統和機構は、俺みたいなはみ出し者を支援する見返りに彼女、演算ユニットから技術を提供されていることは聞いた。

 だが、それだけだと納得のいかない点がいくつか出てくる」

「納得のいかない点?」 

「統和機構の保有している技術のなかには明らかに演算ユニットの技術より高い物がある。

 ワープ航法などはその筆頭だ。

 演算ユニットはボソンジャンプの為の演算装置に過ぎない。

 もし、ワープなどと言うボソンジャンプより安全で、確実な空間転移技術があるんだったら他の分野でも

 それなりに進んでいて良いはずだ。そう、古代火星文明よりな。なのに何故、彼女に技術を請う必要がある」

「・・・・・・」

「そして、2つ目。

 統和機構は俺みたいなはみ出し者を支援した後、その世界をどうしているんだ?

 この世界では、アルビオンや火星の臨時政府という組織が作られている。

 他の世界でも似たような物だろう。

 だが、全てが終った後、こういった組織をどうしているんだ?

 あの食堂の話のあと、俺は真澄ちゃんにそのことを聞いた。

 彼女は答えなかったが、彼女の表情から見てあまり良いことには使われていない、そう思えた」

「・・・・・・」 

「そして、最後に世界に介入するだけだったら、あれだけの軍備は必要ないだろう。

 統和機構の保有している力はすでに支援の域を越している」

「・・・まぁそのとおりね」

「・・・・・・」

「最初の疑問の答えは簡単よ。演算ユニットが私達に与えている技術は、遥か未来の技術だからよ」

「未来?」

「そう、彼女は未来に干渉することが出きる。そして、未来の産物を持ち返ることもね。

 私達は、時空間転移技術を除けば、火星古代文明になんて何の未練もないわ」

「・・・・・・」

「そして、2つ目の疑問。

 アルビオンのような組織はすべてが終った後、大抵は統和機構の支部、出先機関のような役割を果たしている。

 カイト君にとっては不愉快なことかもしれないけど」

「出先機関?」

「この世界であらたなはみ出し者が出てきたときのためにね。

 まぁ、それと反統和機構勢力の監視とその世界における権益の確保っていったところ」

「・・・反統和機構勢力? 統和機構には敵対組織が存在するのか?」

「これは、3番目の疑問にも関わること。

 私達の活動はカイト君達のようなはみ出し者には都合の言い事かも知れないけど、その活動を不愉快に思っている輩もいるのよ。

 平行世界とは言え、自勢力が戦争に敗れたりするのを見て、平常心でいられる人物は少ないからね。
 それに様々な干渉を行なう際に起こる軋轢、干渉時に確保した権益を巡る争い。

 こう言った紛争等に対処するのが統和機構作戦部のお仕事の一つなのよ」

「・・・ちょっとまて権益って?」

「まぁ、その世界固有の技術や資源。例をあげれば魔法とか錬金術、賢者の石とかそういったものよ。

 それらは他の世界では、組織に莫大な富をもたらすし、他の世界の発達にも寄与する。

 そして各世界の発展は最終的には組織に大きな利益をもたらす」

「それは干渉した世界の技術や資源で商売しているのか」

「まぁね。
 近頃は経済分野だけではなく、政治や軍事の分野でも積極的な介入をしているわ。

 上層部の連中は、自勢力の権益確保の為とはいっているけど、実際は権益の拡大を目指している。 

 まぁ、そうは言っても実際に大規模介入をしている世界は少ないわ。

 精々統和機構の生命線と言われているような貴重な資源を産出する世界だけ。

 そして、各艦隊はそう言った地域の秩序を維持するために駐屯している」

彼女は顔をやや歪めて言う。

「秩序とは支配体制のことか?」

「まぁね。でも本当の目的は世界の無秩序化を防ぐことにあるの。

 貴重な資源を確実に確保するためには社会秩序の維持が不可欠。でも、貴重な資源が産出する地域に限って、不安定なの。

 壊れた秩序を回復し、維持するためにはどうしても武力を全面にだした支配体制が必要となる」

「独裁じゃないか」

「秩序が完全に崩壊するよりかはマシよ。まぁ、そんな事態を防ぐために艦隊が駐屯しているんだけどね」

麗香は上層部を揶揄するように言う。

「・・・麗香ちゃんは統和機構のやり方に不満を持っているの?」

「まぁね。私はその世界固有の技術はその世界の住人の財産だと思っているわ。

 少なくともよそ者である私達があれこれ口を挟むものではないし、挟むべきではないはずよ。

 それに秩序と言っても、統和機構にとって都合の良い秩序、それを押付けられる世界はたまった物ではないわ。

 確かに、統和機構によって作られた秩序によって多くの人間が救われていることも確かよ。

 でも、それは本当は長い年月を掛けて、原住民が成さなければならないこと。

 そうでなければ成長はないわ」

「・・・・・・」

「人助けは良いことだと思うわ。でも今の上層部のやり方は度を越している」

断言するように言う麗香。

(まぁ、その統和機構の力を借りている俺にあれこれ言う資格はないか。

 それに俺は、自分の幸せが確保できれば世界がどうなろうが知ったことではないし。

 ・・・結構、外道なこと考えてるな)

カイトは話題を変えることにした。

「・・・統和機構でも裏切りがおこるのか?」

「新城准将のこと? ・・・今まで小さな裏切りはあったと思うけどあれほどの大物が裏切ったケースはないわ」

「だが、現に起こっている」 

「・・・私は本部の内部で、なにか良からぬ企みが行なわれていた可能性があると思っているわ」

「・・・統和機構でも内部抗争があるのか」

「所詮、人の敵は人。どんな理想を掲げても、人の作った組織である以上内輪もめは起こるものよ」

自嘲的にいう麗香。

「・・・・・・」

「いままで色んなことを話していなかったことについては謝るわ。

 でも、誤解はしないでね。統和機構の方針はともかく、私達の使命はカイト君のようなはみ出し者を支援することということは」

「統和機構の一員にも関わらず、きちんと話してくれた麗香ちゃんを信用しないわけないじゃないか」

そういって天河スマイルを炸裂させるカイト。

「・・・ありがとう」

やや、顔を赤らめて麗香が言った。

「まぁ、今こんなことを言っていても、しかたがないな」

「そうね。食事にでもいく?」

「そうしよう」




 そして数分後、二人は食堂に着いた。

「まぁ、食事をしながら予定を確認しよう」

「そうだな」

「じゃあ、まずは今日の夜会合を行なう政治家について説明するわ」

『説明』、この言葉が発せられた時、火星にすむ某女性科学者が反応したことを記しておく。

「名前は『陣内 久』、木連議会の中でも数少ない和平派よ。

 史実では、戦時中に『不慮の死』を遂げているとあるけど、おそらくこれは暗殺ね」

「北辰か」

「それは分からないけど、彼には我々から護衛を派遣したほうが良いわ。まぁ気付かれないようにね」

「彼は議会でどれだけの影響力を持っているんだ?」

「和平派の中心人物の一人と言って良いわ。彼が死ぬか、失脚したら間違いなく和平派は力を失う」

「それほどのVIPということか」

「そのとおり」

「・・・春日井さんの言っていたあれが有れば、交渉が有利になるな」

「強硬派も黙らせることがでかもしれません」

カイトの意見に香織が同調する。

「よし、それでは5時間後に」



 そのころ、火星基地。

「・・・どうやら、彼女は統和機構のやり方に不満を抱いているようだな」

 木星での会話を盗聴していた春日井が言った。

『そのようね』

春日井はある女性とウインドウ越しに会話をしていた。

「だが、天川君に内情を話したことは不味いな。上に知られたら、処罰の対象になりかねない」

『報告するつもりはないんでしょう?』

からかうような声で言う女性。

「まぁな」

春日井は苦笑いしながら言う。

「そちらはどうなっている?」

『木連政府首脳はすでに掌握。いまから優人部隊の掌握をおこなうつもり』

「技術レベルは?」

『かなり向上しているわ。すでに夜天光の一番機がロールアウトしたし、プラントを改造したおかげで生産力は大幅に向上している。

 戦艦も大幅に改装している。少なくともナデシコAクラスのグラビティーブラストでは傷一つつけられないわ』

「こちらの交渉の切り札、すでに分かっているのだろう?」

『ボソンジャンプでしょう? それはすでに対応済みよ』

「やはりな」

『まぁ、このことを知っているのは軍のごく一部だけどね』

「・・・本部から連絡があった、どうやら第24潜宙戦隊と第35巡航戦隊が離脱したようだ。

 おそらく、そちらに向ったのだろう」

『そう』

「・・・あまり、無茶はするなよ、新城准将」

『わかっているわ』

ウインドウの向こうで、真澄に良く似た美女が微笑んだ。

そして、ウインドウが閉じられる。

「彼らは自分の行動が監視されているとは夢にも思っていないだろうな。

 そして、私が彼女に通じていることも。

 ・・・EOPか、業の深いことだ」


 
 彼は冥王星基地の兵器製造プラントに兵器の増産を命じていた。 

冥王星基地では、ブラックサレナ改良型、リトープス改級戦艦、双胴型戦闘母艦、ユーチャリスU改級戦艦、新型駆逐艦が

量産される一方、木連向けに、夜天光改、戦闘母艦、相転移砲艦の建造が急ピッチで進められていた。

製造された兵器の何割かは火星防衛軍に引き渡され、宇宙軍を形成していた。

この時期、防衛軍の宇宙艦隊は数的には地球連合宇宙軍に劣るものの、質的には完全に凌駕しており、

兵士の士気も非常に高かった。

火星軍の幹部の中には

「地球連合宇宙軍と真正面から戦ってもひけは取らない」

と豪語している者さえいた。

 だが、春日井は地球連合政府に対し宣戦布告をするようなことは全く考えてはいなかった。

彼にとって見ればこれらの戦力は来るべき最終決戦に臨む為のものであり、無下に消耗させられない。 

「・・・役者は整いつつある。

 紅の魔女。

 天川カイト。

 火星防衛軍。

 木連軍。

 地球連合軍。

 統和機構。

 そして、反統和機構組織。

 予定される最終決戦にたどりつくまでに、一体どれほどの人命が失われるか見当もつかない。

 ふふ、後世の人間が我々の計画の真の目的を知ったら何と言うかな・・・。

 少なくとも良い評価はされんだろうな」

 達観した顔で言う春日井。

 彼は気づいていた、これがすでに戻ることが出来ない道であると。

 そして、自分もすでに手を汚していることを。






 後書き

 時を紡ぐ者達第13話お送りしました。

 駄文にもかかわらず、最後まで読んでくださってありがとうございました。

 なにやらアキトが外道になっているような気が・・・。

 座談会の内容を見て、グサっときているearthでした。

 それでは第14話でお会いしましょう。







大量の投稿に埋もれた代理人ヘルプ、ゴールドアームの感想。


 どうも、このお話には初めて感想を付けさせていただくゴールドアームです。
 なかなかものすごいことになっていますね。
 ナデシコSSのふりをして、ナデシコがどっかに飛んじゃってるお話(笑)
 こういう反則技も結構好きですけど。

 アキトが外道になるくらいがなんですか。
 面白ければすべては許されるんです。



 で、お初と言うこともあって少し真面目な批評を。
 描写の密度が薄いのは、もういまさらですね。
 でも決して悪いわけではないですから気になさらずに。
 ある意味スピーディーな展開は悪くないです。  私から言えることは一つ。
 何を言われようとも気にせず、開き直って自分流を突き進め、です。
 個々の話ではまだまだ欠点も多く、盛り上がりがないだの短くて読み応えがないだの色々と言われると思います。  実は私もそれは感じています。
 ですが、この話の真価は、おそらく完結した時にはっきりすると思います。
 こういっては失礼ですが、この話は完結した時点で、改めて1本のSSとして見た時に、評価が為されるタイプの作品だと思われます。
 つまり現時点ではまだ評価のしようのない中途半端な作品です。
 一冊の単行本として出される話を、各章ごとに連載しているようなものですね。
 座談会の話題が出ていましたが、本来連載作品と単行本として書き下ろされる作品では、話の作り方が違うんです。
 そういう意味ではこの連載は、本来完結するまで書いて書き下ろし単行本として発表される構造になっているんですね。
 ですから私はこれ以上の批判はいたしません。
 すべてはこの作品に、エンドマークが打たれた時の楽しみに取っておきます。



 では、完結を目指して頑張ってください。
 完結しなかったらホントにゴミになっちゃいますよ、このお話。

 ゴールドアームでした。