統和機構本部のある一室で、二人の人間が対峙していた。

1人は、新城真澄。そして、もう1人は彼女の育ての親にして機構bQ、新城厳馬。

「父さんは知っていたのね?」

「知っていた」

「・・・なんで止めなかったの?。こんな狂気じみた計画を?」

「私は狂気じみているとは思っていない」

この台詞に真澄は切れた。

「この計画のどこがまともなのよ!! 自分達の都合で世界を良い様に玩ぶ計画が!!」

「何故、そう思う?」

「私達が介入している世界の人間は生きているのよ。その人達の営みを勝手に消すなんてどうかしてるわ」

「確かにそれも一理だろう。だが、これは世界を再生させる方法でもある」

「世界を、その世界の歴史を否定することが?」

「我々は、何も全ての世界を思い通りに動かそうとするほど傲慢ではない。

 このシステムはあくまで不意の介入によって滅んだ世界を復活させるためのものだ」

「でも5年前の実験で一つの世界が崩壊したじゃない」

「確かにな。だが、一つのことを成そうとするのだ。多少の犠牲はやむを得ない」

「・・・狂気じみてる」

「EOPの成功の暁には元通りになるのだ、問題無い。それに最高法院に比べれば、まだマシだ」

「最高法院?」

「統和機構の上位組織だ。そしてEOPの後押しをしてきた組織でもあり、機構の腐敗と硬直化の原因でもあった組織だ。

 お前も知っている通り、機構は近年、組織の硬直化と腐敗が進みつつあった。

 そんな状況を打破したのが、現長官アトラスだ」

「知ってるわ。彼の改革によって大分、組織がまともに動くようになった」

「富と権力を追い求めている連中にとってEOPは格好の手段。

 連中がアトラスを煙たがっているにもかかわらず、続投させて来たのは彼以外に長官を任せられる人間がいなかったからだ」

「それって人材不足ってこと?」

「彼ほどの人材はいないということだ。

 だが、おそらく彼はEOPが達成されれば暗殺されるか、幽閉されるだろう」

「用済みってこと? 最高法院とやらもやることえげつないわね」

「そういうものだ。だが、それこそが博美が反乱を起した原因でもある」

「え?」

「彼女も私と同じ改革派。そんな彼女にとって機構を退廃させるような連中が組織を牛耳る事態は容認できなかった。

 だから彼女はEOPに基づいて開発されていた時空干渉システムの中枢部と起動データ等を持ち去った。

 その上、各世界に対し大規模な核攻撃、そして反統和機構組織を操って戦乱を巻き起した。

 すべては、時間稼ぎの為に」

「時間稼ぎ・・・って、まさか」

彼女は事態を理解した。

「お前に真実を知る勇気はあるか? もしあるというなら付いてこい」




            時を紡ぐ者達 第17話
     



アルビオン会長室。

「お初にお目にかかります。アルビオン会長、天川カイトです」

そう言うと、カイトは秋子と士郎に頭を下げる。

「こちらこそ、初めまして。

 私は連合軍中将、水瀬秋子。そしてこちらは」

「連合軍中将、高町士郎です」

二人はそう言って頭を下げた。

「で、ご用件は?」

カイトが切り出した。

「はい。貴社が保有している戦艦ユーチャリスUを一時的に連合軍の指揮下に置かせてほしいのです」

「・・・隕石迎撃のためですか?」

「はい。もうご存知だと思いますが、連合宇宙軍は衛星軌道に展開している蜥蜴艦隊の攻撃を受けて、大きな損害を被りました。

 すでに我々には独力で隕石を阻止する力を持ちません」

「だから、我々の戦艦を貸せと?」

「はい」

「・・・我々の船をどう使うおつもりで?」

やや考えた素振りをした後、カイトは尋ねた。

それに答えたのは士郎だった。

「非常に言いにくいんだが、囮になってもらえないだろうか?」

「囮?」

士郎と秋子は頷いた。

カイトは詳しいことを尋ねた。

そして、二人の作戦案を聞いた後、彼はしばし考え込んだ。

(・・・二人はまだ正確なユーチャリスUの戦闘能力を知らないようだな。

 だが、仮に説明しても信頼してくれるかどうかは怪しい。

 何と言っても戦闘力が桁外れだからな。ここは彼等の作戦案に従うか?

 ここで軍に恩を売っておくのも手だし、いざとなれば・・・)

カイの悩む姿を見て、秋子と士郎は不安に駆られた。

二人は、カイトが彼等が立てた作戦に不安を感じている、と思ったからだ。

常識的にみれば、ユーチャリスUが無事に生還する確率は低い。

だが、ユーチャリスU以外にこなせる船は連合軍には無いというのが二人の下した結論だ。

彼等のように軍人は民間人を守るべきだと考えている人間からみれば、こんな作戦を実行するのは忸怩たる思いであろう。

だが、それ以外に彼等は隕石を止める術を持たないのも事実だった。

「私も、この提案が非常に都合の良い物だとは分かっています。

 ですが、お恥ずかしいことに我々にはこの作戦しかないのです。お願いします」

「私からもお願いします」

秋子と士郎はふかぶかと頭を下げて言った。

「・・・・・・」

カイトもさすがに驚いた。彼は軍人が民間人に頭を下げるというのを見たことが殆どなかったからだ。

「どうか頭を上げてください」

「では?」

秋子の問いに彼は頷いて言う。

「・・・はい。あなた達の要請に伴い、我々は全力をあげてこの作戦を支援します」

「本当に良いのでか?」

「はい」

「ありがとうございます」

秋子の言葉を聞きながら彼は思った。

(彼等のような軍人がいるとは軍もまだ捨てたものではないな。

 ・・・しかし、保険をかけておく必要がある。春日井さんと麗香ちゃんと相談しておくか)



 火星基地。

「つまり、冥王星基地で建造した戦艦を貸せと?」

春日井はウインドウに映っているカイトに聞き返した。

『そうだ。火星防衛軍に編入する予定だった戦艦をまわしてくれれば良い』

「隕石を阻止するためにか?」

『そうだ。彼女には悪いが、さすがにこれはやり過ぎだ』

「まあ否定はできんが(まあ、彼女は目的のためには味方の犠牲も問わない人物だったからな)」

カイトとしては火星基地に来た時、火星防衛軍の戦力の充実振りを見ていただけに、何故春日井が即答を避けるのか分からなかった。

『ともかく、こちらとしてはユーチャリスU改級戦艦2隻は欲しい。これくらいなら構わないだろう?』

「・・・わかった。ユーチャリスU改級戦艦2隻と双胴型戦闘母艦1隻、それとリアトリス改級戦艦3隻をそっちに寄越す」

当初、冥王星基地ではリトープス改級を生産していたが数を重要視し、より低コストで揃えられるリアトリス改級戦艦に

切り換えたのだ。

実際にリトープス改級1隻分のコストでリアトリス改級2隻を揃えることができる。

『良いのか?』

急に気前が良くなった春日井を見てカイトは驚いて尋ねた。

「ああ。軍部はこっちで説得しておくから安心してくれ(彼女には悪いが現状のままでは、地球側が不利すぎるからな)」

『わかった。感謝する』

そう言い終えると通信が切られる。

「さて、次は」

彼はおもむろに通信を繋げる。

『どうしたの? こんな時間に』

ウインドウには仁美の姿があった。

「すまないな。彼等に動きがあったんでな」

『どんな?』

「こちらから戦艦5、母艦1隻を引きぬいた。恐らく目的は隕石の阻止だろう」

『かなりの戦力ね。でも隕石の阻止にしては戦力が多すぎない?』

「まぁな。・・・それにしても本気で落す気なのか?」

『さぁ、どうかしら。それより聞いた影護北斗のこと?』

「聞いた。なかなかの実力者とな。だが私はあまりあんな少女を暗殺者に使うのは賛成できないが」

『相変らずね。でも、手段は選んでいられないのよ。私達はね』

通信が切れる。

「・・・わたしにそんな事を言う資格はないか」
一瞬だけ顔をしかめた後、言う。 

「まぁ増援を併せて戦艦6、母艦1の艦隊か。多少、紅月には見劣りするが、彼等の勇戦を期待するか」

彼は気分を切り替えたように楽しそうに言った。 

春日井はこの時、完全に観客であった。

 地球のアルビオン秘密ドックには冥王星基地から送られてきた艦艇が集結していた。

「かなりの性能だな」

カイトは艦のデータを見て、そう言った。

蘭はカイトに言う。

「ユーチャリスUをあわせればまさしく地球最強の艦隊になるな。 

 それにしても何で、軍に協力する気になったんだ?。あれだけ軍の干渉を嫌っていたのに」

「今の軍には英雄が必要だ。だが、それは実力を兼ね備えた軍人である必要がある。

 それを作るためには多少の妥協もやむを得ない」

「つまり、今後の戦争を指導できる指揮官が要ると言うことか」

カイトの言う通り、僅か3日ほどの戦闘で失った戦力は莫大な物であり、その補充には1年はかかる。

だが、問題は失った戦力のことだけではない。軍の首脳陣が民間人を見捨てて逃げ去ったのだ。それによる軍の威信失墜は

避けられない。だが、軍が空中分解してはカイトとしても困るのだ。仮にも地球を防衛していたのは軍なのだから。

だから逆境の中、軍を上手く引っ張っていける軍人が要るのだ。そう、万人が認める、英雄のような人物が。

「まあ、俺としては春日井さんがこんなに艦を寄越すなんて考えてもいなかった。

 もし最初からこれだけの戦力が揃えられると分かっていたら、もっと別の作戦を提案していただろうな」

ややぼやくように言うカイト。

「でも良いじゃない。艦が多ければ戦闘も随分楽になるし、不測の事態にも備えられるわ」

「そうですよ」

麗香の意見に香織が追従する。

「そうだな。・・・でもこの艦は確か」

「無人艦よ。でも、オモイカネを凌駕するAIを搭載しているし、高性能のHFRも乗っているから不測の事態にも対応できる。

 母艦に搭載しているブラックサレナ改もエース級のパイロットの活躍が出来るようになっているから問題ないわ」

「そうか」 

「それより、さっさと出撃しましょう。ことは1分1秒を争うわ」

「そうだな。全艦出撃!!」

かくして、ユーチャリスUを含む7隻の艦隊が出撃した。

目的地は地球衛星軌道上。

ユーチャリスU艦橋。

「全艦、ECS発動」

カイトのこの指令によって7隻の艦艇がECSを発動させると、次々に艦影がレーダーから消え、最後には姿も消えた。

「全艦第一級戦闘配備。一気に行くぞ」

「了解」

7隻の艦隊は、連合軍のどの艦艇も出せない猛スピードで大気圏を突破していく。

「敵艦隊発見。数、72。大型戦艦6、中型戦艦12、その他54隻」

「ステルス艦ではないな」

カイトは呟く。

「・・・連中から言えば、ステルス艦の役割はもう終わってるわ。衛星軌道を封鎖するなら通常の艦隊でも十分よ」

しかし、ここで麗香が何か不安げな表情をしているのがわかったカイトは尋ねる。 

「どうした? 何か心配ごとでも?」

「・・・ちょっとね。どうも私は星の屑作戦の目的がこの隕石落としだけではないような気がするの?」

「何故?」

「言っては無かったんだけど、私、星の屑作戦に参加する艦艇を多少調べたのよ。

 そうしたら、何隻か不自然と言うか、星の屑作戦が本当にあの隕石を落とすだけだったら必要のない艦があったの」

「・・・何が?」

「カタパルト艦。大質量の岩石をカタパルトで加速して地表にぶつけるための艦。

 主に惑星攻略戦の時に使われるものよ」

「・・・つまりあれは囮だと?」

「それはわからない。隕石が本命で、カタパルト艦が保険とも考えられるし」

歯切れが悪い麗香。

「有効射程は?」

「100万キロ程度」

「・・・かなりの範囲を捜索する必要があるな」

「そう言うこと」

彼等がそう言っている間に、彼らの艦隊は木連艦隊を攻撃圏内に捕らえようとしていた。

ユーチャリスUのAIが彼等にそのことを知らせる。

「・・・まぁまずは目の前の艦隊を叩こう」

「それもそうね。カイト君、サレナで出るの?」

「いや、あの程度なら相転移砲の一撃ですむだろう」

「・・・そうね」

かくして、ユーチャリスUとユーチャリスU改から放たれた相転移砲によって敵艦隊は為すすべも無く消滅した。



   無論、この無人艦隊が一撃で消滅したことは仁美もすぐに探知した。

「・・・相転移砲艦を向かわせなさい、それと相転移砲搭載型の戦艦も」

「しかし、それだとカタパルト艦と月基地の防衛網が薄くなりますが」 

「本国から増援を送り込むから心配ない。それに相転移砲を搭載した艦がないと時間稼ぎにもならないはず」 

「わかりました。月基地から砲艦4隻と主力艦隊から相転移砲搭載型戦艦を2隻回します」 

「護衛の機動兵器部隊も忘れずにね。後、有人艦艇はできるだけ向かわせないように」

「はい」

真奈美はすぐさま月基地と主力艦隊に指令を送った。

(それにしても何で、こんな派手な手を? すくなくとも目的が隕石の破壊なら別にここで戦闘する必要は無いはず)

仁美はしばし考え込む。

(・・・囮? まさか地球側にはもうまともな戦力は残っていない。

 それにあんな強力な艦隊を囮に使うなんていう贅沢な作戦を立てるようなゆとりは無いはずよ。

 ・・・だったら何故?)

仁美は考え込んだ。

彼女は、すでに連合宇宙軍は壊滅状態と判断していた。

確かに保有している艦艇の半数を失っている現状ではそれは当たり前の判断だった。

(隠し玉でもあるということかしら?。でも偵察しようとしても、あの艦隊に察知されて邪魔される可能性がある。

 無駄に偵察艦を失うことになる危険性も・・・)

「・・・何隻か無人偵察艦を派遣しなさい。地上の様子を偵察するように」

「地上のですか?」

「そう、彼等は囮の可能性が高いわ。少なくとも隕石を本当にとめたければこんなところで派手に暴れないはずよ」

「わかりました」

「・・・連合の首脳は?」

「すでに南米に逃げ去った模様です。また北米に展開していた部隊も多くは総司令部から離れ、陸軍はサンフランシスコ、

 ニューオリーズ、ニューヨーク付近、空軍の主な部隊は南米基地に脱出した模様です。

   海軍の動きですが、2個空母機動部隊がハワイ付近に、1個空母機動艦隊がニューオリーズの海軍基地に集まっています」

「皆そろって逃げ出すとは・・・」

「北米では、隕石の情報が一般にながれ大混乱に陥っている模様です」

「治安は?」

「最悪です。すでに治安を守るべき警察組織もまともに機能していません。

 また、この混乱は世界各地に波及しつつあります」

「予定通りね」

「はい。この混乱状態がしばらく続くだけで、地球経済は大打撃を受けます」

「・・・それに連合軍の上層部もまとめて消えてもらういい機会。

 ジャブロー基地に逃げ込んで震えている軍高官の愚か者に鉄槌をくだしてやるわ」

不敵な笑いを浮かべる仁美。

「自分の保身しか考えられない愚か者には速やかに退場してもらいましょうか」

 そのころ、トラック諸島。

太平洋において、ハワイ基地についで、大規模な軍事基地であるトラック基地には水瀬中将と高町中将の率いる部隊が集結していた。

秋子が司令長官をつとめる第7艦隊の旗艦戦艦『Kanon』の艦橋では衛星軌道上における激しい戦闘が映し出されていた。

勿論、こまかいことまでは把握できない。だが、分かる事もあった。それは今なら宇宙に行けるという事である。

「・・・すごいですね、これは」

思わず、秋子は言った。

「それにしても、あれだけの艦を持っていたとは」

カイト達は衛星軌道に上がるとすぐに、ECSを解除し、派手な攻撃を繰り返していた。

すでに彼等によって殲滅された木連の戦闘艦は200隻近くにものぼる。

「秋子さ、いえ、水瀬提督。すでに全艦出撃準備終了していますが」

近くにいた戦艦Kanon艦長、『相沢祐一』大佐が話しかけた。

「・・・そうですか。高町中将の艦隊は?」

「すでに終了しているとの通信がありました」

「そうですか。 ・・・では第7艦隊出撃」

「了解しました」



 そのころ、同じくトラック基地に停泊していた第4艦隊では、

「この作戦に失敗すれば、当分再建は出来ないな」

第4艦隊旗艦戦艦『トライガー』の艦橋で士郎がそう呟いていた。

「だめよ、あなた。最初から失敗することを考えたら」

『トライガー』の艦長である高町桃子大佐が咎めるように言う。

「それもそうだな。・・・って任務中は、『あなた』とは呼ぶなと」

「良いじゃない。この船に乗っているのは皆、知り合いなんだし」

「かといって」

士郎が反論しようとするが、

「ううう・・・・士郎さん、ひょっとして私のことが嫌いになっちゃったの?」

目を潤ませながら言う桃子。何気に芝居っぽいが。

というか後に目薬がある。

「ご、ご、ごめん。別にそういうつもりで」

「じゃあ、『あなた』って言っても問題無いわよね」

「・・・わかりました」

観念したように言う士郎。

どうやら彼は女性に頭が上がらない性格のようだ。

「・・・提督」

ほっておくと二人の世界にいってしまいそうな士郎と桃子を咎めるような声がした。

「なぁに、恭也?」

「高町桃子大佐、ここは・・・」

「別に良いじゃない、名前で呼び合っても。ねぇ、あなた」

黙り込む恭也を無視して、士郎に確認をとる桃子。

「・・・ああ」

「ほら、士郎さんもああ言っているんだし、問題無しよ」

「・・・わかりました。水瀬提督の第7艦隊はすでに出航しています。すみやかに出撃命令を」

「おっと、そうだったな。よし、第4艦隊出撃せよ」

この命令を受け、恭也は二人の元を後にした。

高町恭也中佐。戦艦『トライガー』のエステバリス部隊の指揮官を務める人物であり、連合軍でも指折りのパイロットだ。

だが、何気に私情を持ちこむ義母、高町桃子に振りまわされる苦労人でもあった。(笑)

何はともあれ、こうしてトラック諸島から次々と艦隊が出撃していく。

内訳は、第7艦隊が戦艦6隻、巡洋艦18隻、正規宙母1隻を中核とする51隻、

高町中将率いる第4艦隊は戦艦2隻、巡洋戦艦2隻、巡洋艦12隻、正規宙母3隻、軽宙母2隻を中核とした44隻、

2個艦隊併せて95隻。

ルナ2会戦、そして衛星軌道からの砲撃によって大幅に戦力を失った宇宙軍において秋子と士郎がひねり出せる最大のものだった。


 トラック諸島から2個艦隊が相次いで出撃しいていくのを確認したカイト達は、ワープによる月基地への奇襲攻撃を敢行しようとしていた。

木連の補給基地は主に月面に集中しており、ここを破壊、もしくは一時的にでも占領できれば戦局は一気に地球側に傾く。

仮に、それらが無理でも敵の注意を大いにひきつけることができる。

無論この行動は士郎や秋子が指示した物ではない。

彼等は単に作戦序盤に、木連の目をひきつけてくれ、と頼んだだけ。言わば独断である。

「敵の配置は?」

「ちょっと待って」

麗香がそう言って、数秒後ウインドウに表示された。

「敵は月の裏側に戦力を集中しているようだな。

 それにしても数が多いな。ざっと見ても戦艦だけでも500隻は居るぞ」

「まぁ、敵の大動脈だから、そのくらい居ても不思議じゃないわ」

「それに、相転移砲を搭載していそうな艦も結構居ます。

 これは一撃必殺と言うわけにはいきませんよ」

香織が突っ込む。

「だが、我々が敵の目をひきつけておかないと、作戦は失敗する。

 あの高町中将や水瀬中将には悪いが、俺は連合軍の艦船は大して役には立たないと思うしな」

蘭がきついことを言う。

たしかに、今の連合軍は木連と正面から戦う力は無い。

仮に彼等と互角に戦おうと思うなら最低でもナデシコCクラスの威力をもつ主砲を搭載する戦艦が多数必要となる。

だが、現在地球でナデシコCに匹敵するかそれ以上の艦を持っているのはカイト達の艦隊に所属する艦艇とおそらくは

ネルガルが建造中のコスモス(主砲の威力に限り)とシャクヤク(相転移砲搭載型)だけであろう。

「たしかに、だが彼等でも隕石の地球衝突を阻止するぐらいはできるだろう。

 俺達が木連の戦力をひきつけている限りは」

どうやらカイトも連合軍艦隊の戦力に関してはあまり信頼していないようだ。

「まぁ、私達の目的は陽動なんだから、精々派手に暴れるとしましょう」

「そうだな」

だが、ここで思わぬ邪魔が入る。

『敵艦隊が接近しています。数、大型戦艦25、中型戦艦60、その他200隻以上。

 また、多数の機動兵器の発進も確認。数、およそ5000 』

「かなりの戦力だな」

「まぁあれだけ暴れれば、本腰をいれますよ」

蘭と香織はそう言うと、格納庫に向かう。

「麗香ちゃん、艦隊の指揮を頼む。俺もサレナででる」

「わかったわ」 

カイトも格納庫に向かって走る。

「本格的な艦隊決戦ね」

麗香はウインドウに映る敵艦隊を見て言った。 

「・・・無人艦が多い。足止めが目的なの?」

少し疑問に思ったが、彼女は次の瞬間、命令をくだす。

「相転移砲用意。目標敵艦隊中央」

するとすぐに発射準備終了の報告がくる。

「発射!!」

ユーチャリスU、およびユーチャリスU改級戦艦2隻から一斉に相転移砲が放たれた。

だが、今回は必殺とはいかなかった。

「敵にも相転移砲搭載艦が居るみたいね」

そう、仁美の指令によって派遣された砲艦4隻と相転移砲搭載型戦艦2隻がこちらの撃ったものを相殺したからだ。

これを見た麗香は、正攻法で敵を撃破するのは効率が悪いと判断した。

「・・・各艦後退しつつ、グラビティーブラストを広域発射用意。それとダミー用意」

この間にも無人艦隊から相転移砲が発射され続けている。

だが無人艦隊のAIはユーチャリスUを含む3戦艦にそれらを相殺されるのを見て、接近戦闘に切り替えた。

バッタや夜天光の無人バージョンが次々に母艦から放たれる。

また、主砲としてグラビティーブラストを搭載している戦艦はカイト達の艦隊を射程に収めるべく、前進を開始した。

『敵機動兵器並びに敵艦隊、グラビティーブラストの有効射程圏内に進入』

この報告を聞いた瞬間、麗香が無人兵器の単純さを嘲笑い、言った。 

「全艦グラビティーブラスト発射、目標敵艦隊中央!!」

広域発射された重力波が次々に無人艦隊に襲い掛かる。

戦艦クラスの艦は持ちこたえたが、機動兵器の半数は回避できず撃破された。

『敵機動兵器、50%消滅』

「全艦、ダミー放出。ワープ直前に自爆させなさい」

7隻から次々に球体の物体が打ち出される。そして、それは次第に戦艦に似た形状に変化した。

「よし、全艦短距離ワープ。目標、敵艦隊上方2000。ワープアウトと同時にECM開始」

『了解。ワープ開始5秒前、4、3、2、1、0。ワープ』

7隻の艦艇は次々に姿を消す。

次の瞬間、7隻の艦艇は木連艦隊上方に現れた。

この動きに無人艦隊のAIは全く対処できない。

その原因の1つは皮肉なことに彼らの機動兵器にあった。

撃破された無人兵器の破片が、レーダー波を撹乱し、正確な情報をつかめなくしたのだ。

よって、無人艦隊はレーダーに辛うじてうつる最大の艦影、麗香が放出させたダミーユニットに攻撃を行なおうとする。

だがレーダー波を撹乱するために搭載されているアルミ箔が、ダミーの自爆と同時に次々に外部に散らばった。

その上、ワープアウトした途端にカイト達によるECMである。

かくして、艦隊の目と耳を完全に奪われた無人艦隊にカイト達の艦隊の攻撃を察知する手段は無かった。

「全艦全砲門開け、目標敵無人艦隊、撃て!!」

ユーチュリスUの艦橋の麗香の号令とともに開始される。

たった7隻による艦隊殲滅戦が。





 後書き

時を紡ぐ者達第17話お送りしました。

なにやら麗香さんばかり目立っているような気がする。

それに加え機動兵器戦が少ない。・・・まぁカイト達の活躍は次回に。

それでは駄文にもかかわらず最後まで読んでくださってありがとうございました。

それでは第18話でお会いしましょう。










代理人の感想

艦隊戦メインだとそりゃ機動兵器の出番は少なくなりますね(笑)。

それはともかく「仁美サイドVSカイトサイド」という図式が

今後も成立しつづけるか微妙になってきたかもしれませんね。

仁美の勢力も結構あちこちに根を張っているみたいですし、

組織対仁美という構造の更に上部の構造もちらりと覗きましたし。

 

まぁ、仁美さん本人の行動原理は一貫して「ジジイは死ね」だったりするかもですが(笑)。