「全砲門撃て!!」

麗香の号令と共に、7隻の艦艇から相転移砲やグラビティーブラストが放たれる。

相転移砲が次々に無人艦隊に降り注ぎ、無人艦艇は空間ごと相転移され消滅する。

また、相転移を逃れた艦艇にグラビティーブラストが次々に命中する。

これらにより無人艦艇は最初の第一撃でその約30%が消滅した。

「撃ち続けなさい!!」

麗香の号令のもと、第2、3撃が撃ちこまれ続ける。

木連の相転移砲搭載型戦艦は、最初の一撃こそは辛うじて持ちこたえたものの、2撃目は耐えられず消滅する。

相転移砲艦はグラビティーブラストを受け、あっさりとそのフィールドを破られ爆沈した。
相転移砲艦は元々、巡航艦に相転移砲を付けた物なので防御力は低い。

そして巡航艦が戦艦の攻撃に耐えられるわけがなかった。

この猛攻によって、無人艦隊はその戦力の7割を失うこととなった。

「後は、掃討戦ね」

麗香は各艦のブラックサレナ改部隊と、ユーチャリスUのカイト達に出撃を命じた。

「天川カイト、出る!!」

「如月蘭、出撃する」

「香織、行きま〜す!!」

ユーチャリスUから3機が、そして、2隻のユーチャリスU改級戦艦や双胴型戦闘母艦『フヨウ』から

次々にブラックサレナ改が次々に出撃する。

「獲物が少ないな」

カイトは残敵を見て残念そうに、そう呟いた。

「まぁ良いじゃないですか。楽ですし」

「そうだな」

一方、蘭は何も言わずに無人機動兵器にDFSを展開させ突撃した。

そのあまりの速さに、バッタは回避行動をとる暇さえなくDFSの前に一刀両断されて爆散していく。

バッタと違い夜天光型は回避行動をとろうとはしたが、歴戦の戦士たる蘭の前には虚しい努力に終る。

また、ブラックサレナ改も蘭を援護すべく敵に攻撃を開始した。

「おっと、このままだと仕事がなくなるな」

「そうですね」

今まで傍観していたカイトと香織も攻撃に加わる。

「ブラックサレナU(以降BSU)、高機動モード・・・行くぞ、蜥蜴ども!!」

その直後、BSUの背中から12枚の翼が展開し、敵中に突入していく。

この行動に対し無人兵器は迎撃すべく、対空砲火を集中するもののレーダーが上手く機能していないことと、

BSUの常軌を逸する機動性のせいで対空砲火はBSUをかすることすらできず、BSUに切り裂かれ宇宙の塵と化した。

「う〜ん、さすがですね。・・・さて、こちらも給料分の仕事をしますか」

香織はレールガンで戦闘艦の機関部を狙い撃ち沈めていく。

こうして、攻撃開始後僅か10分程で木連艦隊は消滅した。




       時を紡ぐ者達  第18話




「300隻以上の艦隊が僅か10分程で全滅した?」

戦艦阿蘇艦橋で報告を受け取った仁美は自分の耳を疑った。

「事実です。また天川艦隊は無人艦隊殲滅後に姿を消しました」

真奈美は申し訳なさそうにそう答えた。

「つまり、ロストしたと?」

「申し訳ありません」

「・・・仕方ないか。偵察艦からの報告は?」

「はい。太平洋方面を担当した偵察艦によると、トラック基地から戦艦9、正規宙母4隻を含む100程の艦艇が出撃したとの報告が、

 それと南米を担当した艦からは、ジャブロー基地の正確な位置を掴んだとの報告がありました」

「・・・・・・」

真奈美の報告に、仁美の頭はものすごい速さで回転し始める。

(ジャブローか。あの秘密基地を早期に攻略することは大きな意味を持つ。

 かと言って、あまり早く攻略作戦を発動すると連中が応援にかけつけてくる可能性がある。

 ・・・連合軍艦隊はどうせ対した戦力にはならないとは思うけど、ほっとくのも問題があるし)

「よし、月面のマスドライバーは直ちに攻撃開始するように伝えて。

 カタパルト艦と護衛艦、並びに降下部隊はルナ2付近に集結させ指令があるまで待機。

 衛星軌道上に展開していた部隊に月基地から増援を送りんで再編成。

 それと南雲艦隊と、無人艦隊の一部を連合軍艦隊に差し向けるように」

「しかし、それだと月基地周辺の防衛網が薄くなりますが?」

「無人艦隊がいくらいても変わらないわ。なんせここには私達の主力がいるのよ」

「・・・そうですね。わかりました」

この後、月面近くに待機していた南雲の下に出撃命令が伝達された。

『南雲大佐。貴官に戦艦10隻を含めた優人部隊70隻と無人艦艇200隻の指揮権を与えます。

 この戦力を用いて連合軍艦隊を殲滅してください。これが総司令部からの命令です』

真奈美の命令を聞き、南雲は尋ねる。

「それは、草壁仁美大佐の命令か?」

『そうですが』

「なら、草壁仁美大佐に伝えてくれ」

『何をですか?』

「我々木連男児の戦い振り、とくとご覧あれと!!」

『・・・わかりました』

真奈美は怪訝そうな表情をした後、通信を切った。

「大佐・・・」

近くにいた副官が尋ねる。その直後、突如南雲は立ちあがり艦内全域に通信をつなげると大声で言う。

「我等が女神、草壁仁美嬢の為に命を投げ出す勇気はあるか!!」

「おーー!!」

艦内のあちらこちらから声が一斉にあがった。

「いいか、絶対にこの作戦成功させる。彼女の前で無様な戦いはできんぞ!!」

「おーー!!」

南雲は仁美によって供与された戦艦『桔梗』の艦橋で激を飛ばす。

どうやら、彼も仁美に心酔(?)している人間のようだ。

「いくぞ!! 全艦出撃!!」


 そのころ、ユーチャリスUの作戦室ではカイト達が今後の行動を協議していた。

「これまでで撃破した戦闘艦は約500隻余り。これは当初衛星軌道上に展開していた艦艇の約5割に匹敵するわ」

麗香が資料をウインドウに表示して説明する。

「敵の動きは?」

「どうやら一旦、戦力を再編成するみたいよ」

「月基地の様子は?」

「詳しくは分からなかったけど、かなりの戦力を引きぬくみたい」

「と、いうことは手薄になると?」

「でも、敵の総兵力が未知数である以上油断は禁物よ。それに敵の兵器の性能が想像以上に高いみたいね。

 特にあの相転移砲搭載型の戦艦は遺跡のフィールドに準じる強度を持っていたし」

「う〜ん。と、言う事は敵の月基地への奇襲は無謀か」

カイトの意見に、蘭や香織も賛成する。

「俺も無謀だと思う。少なくとも敵の戦力の見積もりが間違っていたんだ。

 作戦の中止は止むをえないだろう」

だが、次の香織の意見に全員が凍りついた。

「もし、彼らが私達が陽動だと察知したら、間違いなく大部隊で連合軍艦隊を潰しに掛かりますよ、連中」

「・・・確かに、連中の性能は想像以上に高い。彼らが本気を出して潰しに掛かったらひとたまりもない」

カイトはそう言った後、決断した。

「月基地への攻撃は中止。本艦隊は連合軍艦隊に合流する」

だがその決断の直後、地上が爆撃を受けているとの報告が入るのだった。



 月面基地からのマスドライバーによる爆撃が開始されたのだ。

マスドライバーから打ち出された岩石は猛スピードで地上に降り注ぎ、命中した施設を根こそぎ吹き飛ばした。

「第5レーダーサイト壊滅!!」

「欧州方面軍総司令部壊滅!!。周辺都市部にも被害発生!!」

「アフリカ方面軍総司令部との音信途絶!!」

「キール海軍基地に直撃!!。停泊中の艦艇にも被害発生!!」

連合軍最高幕僚会議の避難したジャブロー基地司令部に次々に悲報が入る。

「くそ!!。あの小娘め、好き勝手やってくれる!!」

忌々しそうに総司令官は呟いた。

だが、彼が悪態をついている間に状況は益々に悪化していく。

すでに欧州全域と北アフリカの軍事施設の半数以上が破壊された。

「何か打つ手はないのか!?」

ルナ2を失い、宇宙軍の半数以上の艦艇を失った連合軍に、マスドライバーによる爆撃を防ぐ力は残されていない。

司令室の人間が諦めムードになっていた頃、緊急連絡が入る。

「総司令官、水瀬、高町提督の指揮する艦隊が大気圏を突破。隕石の迎撃に向ったとの報告が」

「何!?。それは本当か?」

「はい」

(くそ、連中め、独断で部隊を出撃させたな。・・・待てよ、連中が成功すればこの失態を多少は取り返せるな。

 失敗すればすればで連中に責任を押し付けることも)

等と打算を張り巡らす総司令官。

このような男が連合軍総司令官を努めていることが、連合軍にとって最大の不幸だろう。




「マスドライバーによる爆撃で地上はかなりの被害が出ているようですね」 

秋子は戦艦Kanonの艦橋で呟く。

近くでこれを聞いていた祐一は、言う。

「しかし、我々にそれを止める力はありませんし、なにより・・・」

「分かっています。私達の目的は隕石の地球衝突を阻止すること。

 ですが、このマスドライバーによる爆撃はいずれ、連合軍全体に影響を及ぼすでしょう」

「連合軍全体ですか?」

「そうです」

祐一はこの時半信半疑だったが、この秋子の予言は的中することとなる。

無論、喜ばしいことではないのだが。

(・・・この戦争、想像以上のものになりそうですね。戦争集結時に一体どのくらいの死者がでるか見当もつかない)

内心、やや弱気になりかけた彼女は自分を奮い立たせた。

(指揮官たる私が弱気になるわけにはいかない)

そう自分に言い聞かせ、彼女は目下の目的である隕石の迎撃に全力を注ぐ決心を新たにした。


 秋子が自分を奮い立たせている頃。ここ戦艦トライガー艦橋では、

「こいつは酷いな」

士郎はマスドライバーによる爆撃の被害の状況を知るなり、そう言った。

「この攻撃で欧州と北アフリカは丸裸だ」

士郎が今後を思いやられると言わんばかりの表情で言うのを見て、恭也は怪訝そうに言う。

「だが、現状ではあまり問題にならないのでは?」

「確かに現時点ではな。だが、もし蜥蜴が将来この地域に侵攻してきたら一溜まりもない」

「つまり、これは地ならしだと?」

「可能性はある」

2人は沈黙した。

その沈黙はオペレーターによる緊急報告によって破られる。

「正面、距離3000に敵艦隊!!」

「!!」

艦橋の雰囲気が一気に緊張した物に変わる。

「数、約250隻。多数の機動兵器が発進しているようです。現在確認できるもので約3000!!」

絶望的なまでの兵力差だった。 

艦艇数はこちらの約3倍。機動兵器数にしてもこちらを遥かに凌駕している。

「(くっ!。真正面からの勝負となるときつい)総員第1種戦闘配備!!」

士郎がそう命令した瞬間、2つの艦隊を木連艦隊旗艦桔梗の相転移砲が襲った。

この一撃で、士郎率いる第4艦隊の40%が、秋子率いる第7艦隊の30%近くが一瞬で消滅する。

「何が起こった?」

士郎は敵がいかなることをしたのかは完全には分からなかった。

ただ、敵が新兵器を投入し2つの艦隊に大打撃を与えたことは理解できた。

だが敵は手を休める気はないようで、相転移砲に続き大口径のグラビティーブラストが次々に打ちこまれる。

恐らく、普通の艦隊だったら相転移砲の一撃で指揮系統が混乱した艦隊に組織的な行動を取る余裕はなかっただろう。

だが、これは連合軍でも屈指を誇る水瀬、高町提督の艦隊であった。

2人に鍛えられた艦隊は何とか無秩序状態に陥ることなく、陣形を再編成した。

2人の提督は味方の艦隊の被害状況から艦隊を分散させた。


 その様子を艦橋で見ていた南雲は敵将に敬意を払わざるを得なかった。

「地球側にも中々骨のある指揮官がいるようだ」

「そのようです」

副官も同意した。

「だが、彼らが生き残れる方法はもはや降伏するしかない」

分散した敵を叩くために彼は機動兵器部隊を突撃させた。

夜天光改(有人機)に加え夜天光(無人機)と改良されたバッタ達。

質と量で連合軍を遥かに凌駕する部隊であった。

特に夜天光改の総合性能はカイト達のブラックサレナ改に匹敵する。

しかも、新米パイロットでもAIのサポートによって、ベテランとまではいかないものの、それなりの活躍ができる。

連合軍はこの時点において技術面で木連より10年近く遅れをとっていた。



 連合軍はそんな強敵を相手に戦わざるを得なかった。

無論、彼等は真正面から殴り合いたいとは思ってはいなかったが。

「全艦、分散しつつ後退」

砲撃の合間をぬって艦艇が後退していく。

その一方で、各艦に搭載されていたエステバリスを始めとする機動兵器が出撃する。

「高町恭也でる!!」

「御神美由紀、いきます」

トライガーからも隊長たる恭也、そして副隊長にして彼の従妹、御神美由紀少佐も出撃した。

彼女は普段(眼鏡装備)は読書好きの少女だが、いざ戦闘となると戦士に豹変する。

一方、Kanonからもエステバリス部隊が出撃していく。

「水瀬名雪でるよ」

Kanonのエステバリス部隊隊長、水瀬名雪中佐も出撃した。

彼女は普段居眠りしてばかりで三年寝雪(祐一命名)とまで呼ばれた人物だが、戦闘時になると一気に優秀なパイロットになる。

特に彼女は射撃能力に優れ、おそらく香織のそれに匹敵するものである。

「全艦艇、攻撃開始!!。目標敵機動兵器!!」

一方、艦隊から次々に対空砲が放たれるが、バッタのような虫を撃破することは出来たものの、

夜天光や夜天光改を撃破することは出来なかった。

これらの攻撃と連携して、エステバリス部隊が襲いかかった。

名雪率いる部隊は後方から正確極る射撃を行ない次々にバッタを落としていく。

「ふふふ、私のイチゴサンデーのために落ちなさい」

怪しげな笑みを浮かべながらバッタを落す名雪。これを見た隊員たちは呆れるように呟く。

「隊長、また艦長に奢らせる気みたいですね」

「艦長も大変だな」

「たしか艦長って他にもアイス、タイヤキとか奢らせられていませんでしたか?」

「牛丼や肉まんもだ。女にもてるのは良いがたかられるのは御免だな」

「確かに・・・」

「そこ、なにぶつぶつ言ってるの?」

底冷えするような声で名雪が問う。

「「「何でもないっす(です)」」」

彼等はここで異を唱えるほど身の程知らずではなかった。

名雪が突っ込みを入れた頃、黒くカラーリングされた恭也の専用エステバリスは刀型フィールドランサーを持ち突入し、

得意な接近戦で次々にバッタを切り裂く。これに美由紀や他の隊員も続いた。

しかし、夜天光改や夜天光はなかなか落せなかった。

特に夜天光改は強力であり、ノーマルエステでは殆ど歯が立たない。何度か切り結ぶことでそれを理解した恭也は刺突の構えを取った。

「小太刀二刀御神流 奥義の裏参 射抜」

繰り出された連撃の刺突によりフィールドは破られる。むろん恭也はその機を逃さずそのまま胸部に向って刀を刺す。

そして、俗に言う“3倍速の定義”に基づいた方法で新たな敵の方に向きを変え、同じ方法を用いて敵を沈めていく

それを見ていた美由紀も恭也に習い次々に夜天光改を沈めて行く。

こうして、恭也と美由紀は少しづつだが夜天光、そして夜天光改を撃破していったが、

全体から見れば少数であり戦局をひっくり返すほどではなく、連合軍は段々押されはじめついにエステバリス部隊は突破された。


 連合軍側は火力を集中することで、木連の機動兵器に対抗しようとした。

時には隕石に使うつもりだった核ミサイルの一部まで持ち出して迎撃する。

しかしながら戦局は木連有利に進む。

「巡洋艦『鞍馬』撃沈!!」

「戦艦『富士』艦橋被弾、戦闘不能!!」

機動兵器の攻撃で次々に艦隊は撃破されていく。

「対空砲火、薄いわよ!!」

桃子は艦橋で対空戦闘の指揮をとるが、状況は芳しくない。

そして、ついにトライガーにもミサイルが直撃する。

「被害報告!!」

桃子は尋ねた。

「右舷に3発被弾、右舷の対空砲座40%が沈黙。被害は5ブロックに及んでいます。現在延焼中」

「ダメージコントロール急いで!!」

第4艦隊は元々、相転移砲で艦隊の40%が消滅しており艦隊戦力は大いに弱体化していた。

それゆえ、機動兵器の接近が容易となり被害が増大したのである。

無論、第7艦隊旗艦Kanonの艦橋に次々に悲報が飛び込む。そしてそれまでで最大の凶報が飛び込んだ。

「左翼の第5〜7巡航戦隊壊滅!!。敵の機動兵器がなだれ込んできます」

「くっ、予備兵力は?」

秋子は問い返すが、答えは無情だった。

「ありません。すでにこちらの手持ちは旗艦をまもる戦隊だけです」

「・・・・・・」

「水瀬提督、高町提督から通信がはいっています」

「・・・繋げてください」

これを受け、ウインドウに士郎の姿が映る。

『今からそちらに駆けつけます。それまで持たせてください』

「しかし、そちらに残っているのは」

『確かにこちらには巡航艦や駆逐艦しか残っていませんが、時間を稼ぐことは出来ます』

「何をするつもりですか?」

『このままでは全滅します。我々が殿を勤めるので』

「・・・生還率は?」

秋子は勝算とは言わず、生還率と言った。

『・・・・・・』

「少ないようですね」

『はい。ですから志願者のみをこの作戦に参加させます』

「ということは退艦者は?」

『補助艦艇に分乗させました。そちらのほうを頼みます』

「・・・わかりました」





 連合軍艦隊の戦線が崩壊の危機を迎える数十分前、カイト達は連合軍と南雲艦隊との戦闘を確認した。

だが、彼らはすぐに戦線に参戦しようとはしなかった。

「・・・ハッキングできる?」

この発言に麗香は眉をひそめる。

「使うつもり?でもあんまり派手にすると不味いと思うけど」

この麗香の発言は尤もだった。ユーチャリスUとユーチャリスU改級は強力な電子戦能力を持ってはいたが

あまり派手にやりすぎると軍から余計な介入を招きかねない。

だが、

「構わない。あれだけの兵器を作れる技術を持っているんだ。今更隠していても仕方がない」

カイトはこれまでの戦闘から木連の技術水準はすでに少なくとも10年は進んでいると考えていた。

それだけの勢力と戦うのに手段を選んではいられない。

「でも有人艦艇の乗組員はどうするの?」

「乗員の扱いが面倒になる。彼らにはここで退場してもらう」

「・・・まぁそうでしょうね」

だが、彼らの思うようには進まなかった。

戦艦桔梗艦橋。

「南雲司令!!、全艦がハッキングを受けています」

「何!?」

仁美はソフトウェアの貧弱な木連にすでに大幅な梃入れをしており、電子戦でもそれなりの防御力があったのだ。

「どこからのハッキングだ!?」

「今から割り出します」

オペレーターが急いで逆探にあたる。

しかし、彼の必死の努力にも関わらず敵により少しづつだが制圧される艦艇が出てきた。

「くっ。逆探はまだか?」

 その頃ユーチャリスUでは以下のような会話が行なわれていた。

「完全制圧は?」

カイトが麗香に尋ねたが、答えは無情だった。

「まだ。はっきり言って連中のプロテクト厚過ぎ。ここまでやるかってほど厚いわ。

 ・・・しょうがない、有人艦に関するハッキングは諦めるわ。無人艦艇のみにしぼってみる」

「と、いうことは連中の有人艦の相手はしなければならないな」

カイトは電子戦のみで勝利を得ることは不可能と見て、7隻に臨戦態勢をとらせる。

だがちょうどその頃、南雲たちもついに逆探に成功し、カイトたちの居場所を突きとめた。

「全艦、左舷60度に一斉回頭。有人機を向かわせろ!!」

だが、回頭中にユーチャリスUを含めた3隻の相転移砲が放たれる。

そして、3隻から放たれたエネルギーの奔流は70隻余りの有人艦を包む。

70隻の大半が消滅したものの、10隻の戦艦はいずれも戦闘が続行可能だった。

「さすがに戦艦は難しいか」

カイトはウインドウに映る戦艦をみて忌々しそうに言った。

「!!。敵も撃って来るわ」

こうして、南雲率いる戦艦部隊とカイト達は相転移砲の撃ち合いを繰り広げる。

一方で麗香は辛うじて無人艦艇と無人機動兵器の6割を掌握。

これを用いて戦線を撹乱した。





 無論、この木連艦隊における混乱はすぐに秋子、士郎両名の知るところとなった。 

「どうやら、アルビオンの艦隊が加勢に来てくれたようですね」

Kanon艦橋で秋子は呟いた。

「しかし、今こそチャンスなのでは?」

祐一の台詞に秋子は言う。だが、それは彼の予想に反するものだった。

「確かに撤退のチャンスですね」

「何故です?。今攻勢に出れば敵を殲滅できると思いますが」

祐一の言いたい事は秋子にも分かっている。

彼女とてこの戦闘で多くの艦船と部下を多く失っており、感情では彼らの敵討ちを願ったがそれを理性が許さなかった。

「今から攻勢に出れば、時間的に隕石の阻止が難しくなります。

 それに加え、こちらの艦隊はすでに壊滅状態。我々が加勢に加わっても足手まといになるだけです」

この時点で、秋子率いる第7艦隊の現存艦艇は戦艦2、巡航艦5、駆逐艦10。

この内、戦闘可能な艦艇は戦艦1、巡航艦2、駆逐艦6といった惨憺たるありさまだった。

そして、士郎率いる第4艦隊も現存艦は戦艦1、巡洋戦艦1、正規宙母1、巡航艦2、駆逐艦3。

このうち戦闘可能な艦艇は戦艦1、巡航艦1、駆逐艦2というありさまであり、エステバリスの消耗率は70%

をこえると言う状態であった。

2個艦隊合わせても戦闘可能艦艇は戦艦2、巡航艦3、駆逐艦8、計13隻。

艦艇の消耗率も80%を越えており、彼らに戦う力は殆ど残っていない。

彼らが唯一出来ると考えられるのは隕石の地球衝突を阻止する程度だろう。

実際、彼らはまだいくらかの核を保有していた。

「高町提督にも連絡を。それと彼等に健闘を祈ると伝えてください」

秋子は士郎に艦隊の撤退を要請する。

「・・・全艦は当宙域から離脱せよ」

士郎は秋子からの連絡を受け、第4艦隊を撤退させる。

「くそ!!。この艦では奴等には勝てないのか」

相転移砲の直撃を受けても戦闘が続行可能な戦艦10隻を含む艦隊と戦い、全滅しなかったことだけでも彼らの手腕は

相当な物である。まぁ、そんなことは彼にとって何の慰めにもならなかっただろうが。

 連合軍艦隊が戦場を離脱して行くのを確認したカイトは、秋子からの電文をみて呟く。

「『健闘を祈る』か。あの二人はまだ隕石を阻止する気なのかな、それともたんに逃げ出したのかな?」

蘭がこの呟きに答えるように言う。

「連中は軍の中では良識派だ。少なくとも逃げ出すような真似はしないだろう」

「それもそうだけど、二人とも、今は目の前にいる艦隊との戦いに備えなさい」

麗香の注意を受け、カイトは肯く。

「確かに敵の機動兵器もわんさか出てきたようだし。

 今から格納庫に行ってくる。麗香ちゃん、指揮よろしく」

そう言うなりカイトは艦橋から降りていった。そして蘭も。

「よろしくねぇ・・・。今回は楽には勝たしてくれそうにないわね」

だが、口調と裏腹に彼女の顔には笑みが浮かぶ。

「おのれ、横槍を入れるとは!!」

 麗香の笑みとは対照的に南雲は憤怒の表情で指揮を取っていた。

まぁ確かに完全勝利まで後一歩という状況で、いきなり奇襲を受け手痛い損害を被ったのだ。怒るのも無理は無いだろう。

「相転移砲、充填急げ!!。出力80%で連射しろ。僚艦にも伝達!!」

「了解」

 かくして、盛大な相転移砲の撃ち合いが展開される。

その一方で、お互いの機動兵器が熾烈な戦いを繰り広げていた。

ブラックサレナ改のグラビティーライフルから放たれた黒き矢は正確無比な精度でバッタや夜天光の最も装甲の弱い部分を貫く。

黒き矢に貫かれたものは次々に沈黙するか、宇宙の塵と化す。

勿論、木連側も黙ってはいない。夜天光改に搭載されている小型グラビティーブラストが次々に重力波を放つ。

重力波を探知した大半のサレナ改はこれを避けるが、数機に命中し手傷を負わせた。

「くそ!!。こいつでは完全に倒せないか」

 夜天光改のパイロット達は舌打ちをして接近戦闘に切り替えるべく突撃する。

数で勝る木連に対し、カイト達は質の面でまだアドバンテージを有していた。

カイト達3人はサレナ改と連携し効果的に機動兵器を次々に駆逐していく。

「よし、このままいけばあと僅かだな」

 しかしながら、戦艦同士の砲撃戦はやや不利な状況であった。

さすがに性能が勝っているとはいえ、相転移砲搭載艦で10対3と言う数の差があるので完全に南雲の相転移砲を相殺しきれない。

「くっ。こちらが少し押されてるわね。リアトリス改のグラビティーブラストは余り効果がないし、かと言って『あれ』は」

 麗香は戦況全体を映し出したウインドウを見て考える。

(敵の機動兵器の駆逐は時間の問題ね。・・・無人艦を使ってみますか)

 彼女はカイト達に作戦を伝達するや否や麗香は無人艦艇とリアトリス改の火力を木連無人艦隊の一点に集中させる。

電子制圧できなかった木連側の無人艦隊の陣形に穴をあけるためだ。

多数のグラビティーブラストが一点に打ちこまれ、一撃目こそは耐えた艦も一点集中砲火の前に次々に沈む。

無人艦艇のAIは他の艦艇を当てることで陣形が崩れるのを阻止しようとするがあまりの火力の集中にそれを果たせなかった。

麗香は木連側の無人艦隊に穴を開いたのを見て、乗っ取った艦艇を突入させる。

最初、南雲はこれを殆ど無視した。まぁ、相転移砲の直撃を受けても戦闘可能な艦艇に無人艦のグラビティーブラストは効かない。

しかし、麗香の思惑は別のところにあった。

「た、大佐!!。無人艦隊が突っ込んできます!!」

「何!?」

無人艦艇の相転移炉を暴走させて突入して来たのだ。それを見た南雲は慌てて言った。

「ま、不味い。3,4番艦は一斉回頭!!。相転移砲で殲滅しろ!!」

南雲艦隊の慌て振りを見た麗香は新たに指示を出す。

「リアトリス改級戦艦は敵の側面から廻り込んで攻撃開始。それと戦闘母艦は後方へ退避」

そのころ麗香の冷静な指揮とは違い、南雲達はかなり慌てていた。

「しかし、それでは」

「構わん。急げ!!」

だが、南雲艦隊の何隻かが回頭するのを見た麗香は回頭中の艦艇に攻撃を集中する。

集中砲火をあびて、次々に落伍して行く2隻の戦艦。

そして、時は来た。

「た、大佐、無人艦爆発します!!」

上擦った声が南雲に聞こえた瞬間、それは起こった。

接近してきた50隻あまりの艦艇が一斉に自爆する。

相転移炉を暴走した状態での自爆により、通常を遥かに超えるエネルギーが放出される。

そのエネルギーの濁流は南雲の艦隊を次々に飲みこんでいった。

そして、全てが終った後に現れたのは。

「ち!!。しぶとい」

麗香は舌打ちする。

南雲の戦艦の内、実に8隻があの攻撃に生き残ったのである。恐るべき防御力だった。

「でも、大分、戦力は落ちたみたいね。一気に片をつけさせてもらうわ」


「くそ!!。各艦の被害状態は?」

南雲は僚艦に通信を開こうとするが、なかなか通じない。

相転移炉が暴走したあと爆発した影響で、レーダーはもとより通信系統まで撹乱されていた。

この時点で南雲艦隊は完全に指揮系統が死んだ。

そして、烏合の衆となった彼らにカイト達と側面から回り込んできたリアトリス改級戦艦が襲い掛かる。

彼等は通信が死ぬことを予め知らされていたため、素早い行動に移ることが出来たのだ。

そして、逆にこの不意打ちに近い攻撃により南雲艦隊は浮き足立つ。

レーダーが死んだ両軍が出きることは目測で攻撃することだけだった。

「くそ!!。目測で良い、撃て!!」

だが、レーダーが使えない今、カイト達の機体に対空砲を命中させることはほぼ不可能だった。

「無理です!!。敵機の速度が速すぎます!!」

だが、その直後、衝撃が襲う。

「な、なにごとだ!?」

「左舷ブロックに被弾!!。装甲を貫通しています!!」

「何?。歪曲場はどうしたのだ!?」

「連中は特殊な実体弾を使って攻撃していると思われます。歪曲場では防げません」

 この時、彼等が受けたのは特殊砲弾『穿』。そう香織の機体に搭載してあるものと同じものである。

貫通力に特化したこの砲弾は南雲の戦艦のディストーションフィールドを簡単に突き破れる。

だが、破壊力がお世辞でも高いとは言えないうえ、無誘導兵器のためか命中率がやや低い。

命中させるには接近して撃つしかないのだが、リアトリス改は防御力が低い。接近する時に敵の砲撃を受けるわけにはいかない。

今回の作戦では接近は出来ても味方のレーダーも使えなくなるため、命中率の低下をカイト達との連携を組むことで補ったのだ。

「くそ!!。全艦撤退しろ!!。急げ!!」

次々に味方艦が落伍していくのを見た南雲は撤退を決意した。通信は通じないが、旗艦が逃げ出すと他の艦も次々に続いた。

「勝ったわね。・・・でも課題が残った」

彼等の艦隊の被害はそこまで大きなものではなかった。

防御力の薄いリアトリス改級3隻の内、1隻が中破。2隻が小破。

そして、ユーチャリスUとユーチャリスU改級は小破。ブラックサレナ改の未帰還機は数機に留まっていた。

だが、相転移砲を搭載した敵が今回の数倍の戦力でくれば間違いなく押し切られるのは明らかであった。

「それにもう少し無人艦の爆発が遅かったら、こっちのフィールドが耐えられたかどうかは疑問なところだし」

(戦力の増強が必要か)

麗香は脳裏に渋い顔をするであろう春日井の顔が浮かんだ。






後書き

 お久しぶり、earthです。

南雲敗退。まぁ生き残ったからいずれ雪辱戦に出てきてもらいましょう。

実は最初は完全勝利させるつもりだったんですが、それだとそれでミリタリーバランスが崩れすぎるし。

と、いうことで多少損害を負ってもらいました。・・・でもやっぱり被害が少なすぎたかな?

どうでしょう?。それにしてもカイトの出番が無いなぁ〜(笑)。まぁ北斗が出れば増えるでしょう。あと北辰も。

それでは駄文にも関わらず最後まで読んでくださってありがとうございました。

第19話でお会いしましょう。











代理人の感想

ナデシコSSを評して「戦争にヒーローの出る幕はない」

と仰った方がいますが慧眼ですね。

戦争を描いてると、どうしても「ヒロイックなアキト」は活躍させ辛くなります。

戦争ですから。

 

後、流れ的に水瀬・高町両提督の対隕石作戦も今回で書ききって欲しかったかな、と思いました。

長くなるから削ったんでしょうか?