戦艦阿蘇の艦橋で仁美が南雲艦隊の状況報告を受けていた。

「南雲の艦隊が敗退した?。あの陣容で連合軍艦隊に遅れはとるとは思えないけど・・・まさか」

「はい。どうやら天川艦隊と遭遇したようです。詳しい戦闘経過の報告はまだ来ていませんが」

「・・・・・・真奈美、部隊の集結は?」

「ルナ2のですか?。すでに終了しています。あとは命令があれば」

「出撃命令を出すように。それと天川艦隊の動きを監視しなさい」

「了解しました。それでは」

 真奈美は早速、命令書の作成に向おうとする。その時、仁美はふと思い出したように聞いた

「・・・そういえば連合軍艦隊のことが報告されていなかったわね。彼等は?」

「報告はありませんでした」

「確認を急ぎなさい」

「・・・了解しました」

(あれだけの戦力と戦って連合軍が生き残れるとは思えないけど、用心に越したことはないわ。

 ・・・彼等が生き残った場合、隕石の阻止に向かうかしら?。

 でも生き残ったとしてもそんなに戦力が残っている可能性は少ないはず。それでもやる?)

しばらく熟考した後、彼女は命じた。 

「それと紅月の第2艦隊を隕石の監視へ差し向けなさい」

「連合軍が阻止に向うと?」

「どちらかと言うと、天川艦隊が向かう可能性がね」

「しかしそれだと戦力不足になりますが」

「少なくとも彼に与えた戦力は戦艦だけでも天川艦隊の戦艦に劣らない船。天川艦隊と戦闘になっても一方的にはやられないはず。

 彼らの目を足止めする程度なら第2艦隊だったら余裕のはずよ」

(私としては隕石が直撃してもしなくてもあまり問題無いしね)



時を紡ぐ者達  第19話




 仁美の指令が伝えられた数分後、連合軍総司令部と化したジャブロー基地にルナ2からカタパルト艦による

爆撃が行なわれた。大質量の隕石は次々に大気の層を切り裂き、大音響とともに地上に降り注ぐ。

無論、ジャブローの対空陣地はこれを阻止すべく決死の防空戦を行なうが、大きな成果をあげることは出来なかった。

「Bブロックの対空施設壊滅!!」

「第5滑走路被弾、発進不能!!」

「Eブロックの対空ミサイル陣地に命中。発射直前だったミサイルが誘爆、延焼中!!」

 司令室にはジャブローの被害が次々に報告される。そして、ついに最大の凶報が入る。

「宇宙船発進口付近に被弾。付近の岩盤と装甲板が落盤、地下施設が」

「何!?」

 メインスクリーンには、大きな穴が開き、地下施設が露出している様子が映し出されていた。

「・・・何といことだ」

 総司令官は絶句した。難攻不落と豪語されたこの要塞は、すでに防空施設を失い、さらに重要な地下施設が無防備な

姿をさらけ出したのである。だが、彼らの苦難はこんなところでは終らなかった。

「敵艦多数、基地上空に出現!!。機動兵器降下してきます!!」

「何!!」

 そう、ルナ2に集結していた部隊がワープを用いてジャブローに奇襲攻撃をかけてきたのだ。

バッタや夜天光改が次々にジャブロー基地に侵入する。それに対処するべき部隊はすでにその多くが沈黙しており成すすべが無かった。

また、木連戦艦は艦砲射撃を浴びせ、残っていた地上施設を次々に潰していく。

基地防衛隊や、北米から脱出してきた部隊が決死の防衛戦を繰り広げるものの指揮系統がこの奇襲で麻痺したために、各個撃破され

ていった。ジャブローの陥落は時間の問題と成りつつあった。

『ジャブローに蜥蜴侵攻』

この報はアルビオン本社からカイト達に伝えられた。

「・・・どう思う?」

カイトは麗香に尋ねた。

「彼女の目的がジャブローの攻略なら、別に隕石を北米に落す意味はないはず。

 それに、軍首脳部を排除するなら別に北米に奇襲攻撃をかければ良い話しだし・・・」

「北米基地より攻略が簡単なのか?」

「ジャブローの方が面倒よ。でも、連中の軍事力から言えば別に不可能では無いけど」

「・・・」

「・・・ひょっとして北米、南米方面軍の主力をまとめて叩く気かもしれないわね。

 何と言っても、ちまちま潰していくより、軍の中枢もろとも葬ってしまったほうが楽かもしれない」

「つまり連合軍最強の北米方面軍と、数ある連合軍基地でも最高クラスの軍需工場をもつジャブローを両方叩く、と」

「その通り」

「もしこれが成功すれば、連合軍の受けるダメージは」

「生産力は20%減。地上戦力も10%を失うはめになる」

「それはきついな」

「今の軍首脳じゃこの戦争、まともに戦っていけないのは明らかだけど、あまりにも急速に指揮官が失われると不味い。

 失った生産力はこちらがカバーできても指揮はカバーできないから」

「・・・問題は指揮系統の立てなおしだな」

「そう。アホ連中が全滅した後、速やかに指揮系統の再建を行なう必要がある。時間との勝負になるわ」

彼らにはここでジャブローに急行するという手があったが、それをすれば北米が壊滅してしまう。

二つを天秤で量った結果、カイトは隕石の阻止を優先した。

隕石の阻止を優先することを決した時、カイトはふと思い出したかのように言う。

「この報告は水瀬、高町提督に伝わったかな?」

「あの爆発の影響のせいでまだ通信状況が悪いから、伝わってないと思う」

「そうか。彼らで隕石の地球衝突を阻止できると思う?」

「完全破壊は無理でしょうけど、軌道を変えることは出来ると思うわ」

「・・・そうか。艦隊を急行させよう。妨害があったら不味い」



 ジャブローが猛攻を浴びていた頃、第4、7艦隊は隕石迎撃の為に艦隊を迎撃ポイントに布陣した。

「迎撃準備は?」

士郎の尋ねに、オペレーターが答える。

「すでに終了しています。後は隕石が有効射程内に収まるのを待つだけです」

「そうか」

 そのころ生き残ったとはいえ彼等の被害は馬鹿には出来ない物であり、艦内では応急修理が急がれていた。

まぁあれだけ一方的な敗北を被れば当たり前だが。

「はぁ〜」

 美由紀は格納庫でため息をついた。

他の格納庫にいるメンバーも似たり寄ったりで、誰も進んで口をあけようとしない。

(何か格納庫が広くなったような気がする)

彼女の隊で生き残ったのは僅か数機に過ぎなかった。第4艦隊全体でも生き残ったエステバリスは30機余りにすぎない。

そして、生き残った機体も全機が修理を必要としており、稼働率はかなり低い。

これは第7艦隊でも似たようなもので、実質的な稼働率はほぼ0に近かった。

士郎と秋子はこの状況を受けて整備班に修理を急がせたが、彼等も艦の応急修理をする必要があり、そう簡単にはいかない。

かと言って、悠長にしていられないと言うのも事実であった。

「応急修理は?」

「60%といったところ」

 士郎の問いに桃子は渋い顔で答える。

「恭也、エステバリスの整備状況は?」

「まともに使えるのは俺と美由紀の機体ぐらいしかない。はっきりいって作戦行動は不可能だ」

「予備機は?」

「もう無い。それに有ったとしても動かせる人間がいない」

恭也は暗い口調で言った。

彼は報告に来るまで、医務室で地獄のような光景を見ていた。

室内には怪我人があふれかえり、血の匂いが漂い、兵士達の悲痛な声が響く。

失明した者、腕がない者、膝から下がない者。そして、死んでいるにもかかわらず床に放置されている者。

まさしく地獄。歴戦の戦士であり、永全不動八門一派御神真刀流小太刀二刀術の使い手である彼もその光景には吐き気がした。

「・・・そうか、わかった」

 士郎はそう言うと黙り込んだ。一方、恭也は報告が終ると整備を手伝うべく格納庫に向った。

「水瀬提督に、回線をつないでくれ」

通信士に命令するなり数秒後、ウインドウに映った秋子と2,3の協議を行う。

そして、通信を終えて、10分後。ついに隕石が現れた。



「全艦艇、全核弾頭装填」

 この指令で、各艦艇に残されていた核弾頭が砲弾に装填されていく。

彼らは残された艦艇の核を一点に集中することで隕石の軌道をそらすつもりだった。

失敗は許されない、と言う事実が砲撃を担当する人間に猛烈なプレッシャーをかける。

「各艦、装填終了しました」

士郎は報告を受け取った後、命令を発した。

「第4,7艦隊所属の全艦に告げる。この瞬間から全艦の火器管制は各艦のロボットシステムを通じてトライガーが一元的に把握する」

 本来、第7艦隊は旗艦であるKanonが火器管制を行なうのだが、先程の戦闘で管制が出来なくなっていたのでトライガーが

これを勤めることとなったのだ。

「有効射程距離まであと180秒」

 だが、ここで邪魔が入る。

「敵艦隊発見。右舷前方、距離4000。数45、未知の大型艦多数含む!!」

「何!?」

「多数の機動兵器が発進しています」

「くっ(ここまでなのか)」

しかし、敵の動きに異変が起こる。木連艦隊が急に方向を転換したのだ。

「どうした?」

「・・・アルビオンの艦隊が現れました!!」

艦橋は歓声に包まれた。

「静かにしろ、隕石はどうなっている?」

「は、はい。有効射程まであと140秒!!」

「そうか。全艦艇に隕石の迎撃に集中するように伝えろ」

「わかりました」



 紅月の第2艦隊の旗艦である戦艦『シリウス』の艦橋で、司令官であるアーレン少佐は言う。

彼も真奈美と同じく、博美(仁美)の反乱に荷担した人物であり、統和機構作戦部でもそれなりの用兵家でもあった。

彼は一応30過ぎの白人男性であるが、童顔であることからよく学生に間違われる。

そのため、常に伊達眼鏡を着用していると言う人物だった。

「不味いな。このままだと隕石の地球衝突が阻止されてしまう」

「しかし、天川艦隊を放っておくわけにも」

副官に対し、アーレンは分かっているという風に仕草を示した後言う。

「新城、いや草壁司令に連絡は取ったのか?」

「それはすでに」

「そうか、なら良い」

この後、彼らは交戦状態に突入した。 



 そのころ天川艦隊と交戦中、という報告を受け取った仁美は、主力艦隊出撃を決定した。

「紅月第1、3艦隊に出撃命令を。指揮は私がとる」

「わざわざ陣頭指揮を執られるのですか?」

「そう。何か問題が?」

「今回の作戦の目的はほぼ達成しています。わざわざ御姉様みずから陣頭指揮をとる必要はないでしょう」

「でも最後の仕上げが残っているわ」 

「最後の仕上げは私にお任せください。御姉様は月面で全体の指揮を」

「・・・では、貴方に第3艦隊と、無人艦艇300を任せる」

「はい。必ず作戦を遂行して見せます」
 
真奈美は艦橋から退出した。

「・・・・・・」

仁美は沈黙したまま、世界地図をウインドウに映して呟く。

「連合軍が泡を食って出撃させた宇宙艦隊をほぼ壊滅させたおかげで当分制宙権は我々のものになった。

 それに加え、指揮系統が機能していなければ、いくら巨大な生産力と人員を誇る連合軍でも各個撃破は容易のはず」

 今回の作戦の目的の1つである宇宙軍の撃滅はほぼ成功していた。

わざわざ、隕石の予告を行ったのもすべては地球各地に展開している宇宙軍を誘い出し殲滅するためであったのだ。

そして連合軍首脳陣の排除と言う目的も達成は間近に迫っている。

彼女の手元には、ジャブロー基地の戦況が刻一刻と入ってきており、そのどれもが木連軍の優勢を物語っていた。

 だが、彼女は単に軍首脳陣を排除するためだけにジャブローを攻略しようとしているのではない。

彼女が単に基地を潰そうと言うのならいくらでも手はあった。

彼女があえてジャブローを占領しようとしたのにはそれなりのわけがある。

だが、その理由にはここでは触れない。

「真奈美の朗報を待つとしますか」



「くそ、手強いな」

仁美と真奈美の会話がなされていたころ、カイトは舌打ちをしていた。今、彼らはアーレンの第2艦隊と激しい戦闘を繰り広げていたのだ。

第2艦隊は数こそ少ないものの、戦闘力はカイト達の艦隊に勝るとも劣らない物であり、彼等に苦戦を強いている。

「全機、突撃!!」

カイトはBSU持ち前の機動性を生かし、一気に戦線を突破しようとする。

DFSが次々に夜天光を切り裂く。だが、夜天光部隊の先にはもっと手強い部隊が存在した。

「何だ、こいつらは!?」

明らかに、他の部隊とは違う動きで、カイトを翻弄した。

しかも、性能も通常の夜天光とは大違いであり、搭載している武器の性能はBSUのものと勝るとも劣らない。

「くそ、どけ!!」

  DFSがぶつかり合い、衝撃波が周辺を襲う。

彼がてこずっているのは、夜天光でも、夜天光改でもなかった。

正式名称は『アルテミス』。嘗て、統和機構の次期主力兵器候補として考えられていたものであった。

基本性能は『メタトロン』を凌駕するものであったが、予算の問題と、搭乗員の問題から採用されることのなかった機体である。

この機体は1機そろえるだけでも、メタトロン3機分の予算を必要とした。そして何より乗る人間を選ぶ。

テストパイロットが実験場で死亡したともいわれる曰く着きの機体だった。

だが仁美(博美)はその性能に目をつけ、反乱時に試作機数機を奪い、秘密工場で数十機を製造し紅月に配備したのだ。

無論、簡単にばれないように外見を大幅に変えて。

しかし、パイロットがいないという問題は解消できず、この機体に新型電脳を積み込み、無人機として運用しているのだ。

そんなことは知る由もなく、カイトは『アルテミス』相手に苦闘を続けていた。

「・・・敵の抵抗が大きい。抑えられるか」

麗香は艦橋で呟いた。

「サレナ改の消耗率が10%に達しているか。・・・全軍、敵の各個撃破に専念」

戦況は思わしくなかった。だが、かと言って戦線崩壊の危機に立たされているわけでもない。

勝ってもなければ、負けてもない、と言うのが実情だろう。

だが、彼女はここで無理に勝つ必要はなかった。少なくとも連合軍が隕石の迎撃を行う時間を稼げれば良かったのだから。

今のところはそう思っていた、彼女は。



 連合軍艦隊はカイト達と木連艦隊の流れ弾を考慮し、迎撃ポイントを若干修正して再度、核攻撃を行おうとしていた。

「全艦、発射準備終了しました」

「・・・よし、では全艦一斉攻撃開始!!」

士郎の号令と共に、連合軍艦隊から次々に核砲弾が放たれる。

第一撃目は、まず相転移エンジンに集中した。

猛烈な閃光が周辺部を包み込む。

「やりました、隕石の推進機関は完全に沈黙。また爆発により軌道がややずれていきます」

オペレーターが明るい声で報告した。

エンジンをつけて航行していた隕石は核爆発と、自分を推し進めていた機関の爆発によりその軌道を変えつつあった。

「気を抜くな、次弾用意」

「了解。・・・発射準備終了」

「発射!!」

隕石の一点に、ありったけの核が撃ちこまれる。

「全弾命中!!。やりました、隕石の軌道が変わりました」

「やった!!」

艦内は歓声に包まれる。だが、それも束の間だった。

「!!。敵艦隊発見!!。距離4000。数・・・」

「数は?」

「数400余り。その内、8隻が超大型艦!!」

「何!?」

彼らが発見した艦隊は、真奈美率いる紅月第3艦隊と、護衛の無人艦隊であった。



 阿蘇と同型艦である第3艦隊旗艦戦艦アレスの艦橋で真奈美は連合軍の機敏な行動に驚いた。

「・・・どうやら、隕石は軌道を変えられたようね」

「はい。一歩遅かったようです」

参謀の1人が真奈美の呟きに答えるように言った。

「・・・アレスでピンポイント射撃を行なう。目標、巨大隕石」

「破壊するのですか?」

「1箇所に集中砲火を行なって軌道を変えるだけ」

「しかし、それだと隕石の半分が消滅しかねません」

「半分で済むなら安い物。しっかり狙いなさい」

「他の艦に任せては?」

「演算能力で劣る艦艇に任せたら、失敗しかねないわ」

「はぁ」

「私達の目的は隕石を地球に落とすことにあるの。そう、それなりの被害がでる規模のを」

「・・・了解しました。では、他の艦艇には連合軍艦隊と天川艦隊の妨害を排除するように命じます」



「敵の主力か・・・」

麗香は舌打ちする。すでに紅月の一部の艦艇が彼等を半包囲しつつあった。

「このままだと、包囲殲滅されかねない・・・。全艦全速後退、敵の勢力圏内からの離脱を図る」

(隕石の地球衝突を阻止したのだから、これ以上の長居は不要、さっさと引き上げるとしましょうか) 

確かに、巨大隕石は地球から離れて行きつつあった。だが、

「敵が隕石を砲撃している?、まさか」

そのまさかであった。

隕石は阿蘇からのピンポイント射撃を受け、隕石はその三分の一を失いながらも軌道を再び地球への落下コースをたどりつつあった。

「不味い!!」

士郎や秋子は焦った。

そして、これは秋子にある決断を促す。

「総員退艦、本艦をぶつけます!!」

それは奇しくも、史実においてフクベ提督が行おうとした戦法であった。

「しかし!!」

祐一の異議を秋子は黙殺する。

「時間がありません。これは命令です」

「・・・了解しました」

確かに、隕石は阻止限界点に近づきつつあり、時間は残されていなかった。

そして、祐一が退艦命令を発令しようとしたその瞬間、敵味方共に予期せぬ出来事が起こった。

「巨大隕石が分裂しました。軌道がそれていきます」

「何!?」



「作戦は一応、成功するみたいね」

アレスの艦橋で、真奈美は呟いた。

「はい。4つに分裂した隕石は、その内、3つが地上の落下コースをたどっています。

 落下場所は計算中ですが、作戦の成功という点は間違いないでしょう」

真奈美の意見に、仁美は頷いて何かを言おうとした瞬間、予想落下場所の計算が終わった。

計算結果がウインドウに映される。

「・・・これは、また」

「見事なまでに人口密集地帯の近くにおちるようですね」

「・・・全艦艇に、隕石への攻撃阻止に全力を注ぐように命じなさい。敵がこれを見たら黙っていない」

彼女は、隕石が分裂してしまった以上、砲撃で再度軌道を変えることは不可能と考えていた。

そんなことをすれば隕石そのものが消滅しかねないからだ。

「一応、最後の目的も果たせそうね」

「そうですね。しかし、連合軍にここまで骨のある指揮官がいたとは」

「それと、水原麗香も。・・・どうやら地上での戦いは気を抜くことはできそうにないようね」

そのころ真奈美の命令を受け、紅月艦隊は連合軍艦隊と天川艦隊に対して攻勢に出た。


 明かに押され始めた麗香は焦る。

「こいつら、優人部隊とは明らかに違う。それに・・・」

麗香がちらりと横の隕石が映っているウインドウを見る。隕石が阻止限界点に達するまであと幾ばくもなかった。

『麗香ちゃん、隕石の予想落下場所は?』

「ちょっと、待って」

カイトの問いを受けた麗香は急いで計算し、そしてその結果に唖然となった。

「落下場所は、ヨーロッパ中央、アメリカ東海岸、それに中国南部」

『なっ、どれも大都市付近じゃないか』

「予想される犠牲者は二億以上になるわ」

『二億か、宝くじならありがたい数字なんだがな』

「冗談を言ってる場合じゃないわ。どうする?」

『三つ同時に止める方法は?』

「艦隊全滅を覚悟すればあるけど」

『・・・却下だな。今、艦艇をすべて失うわけにはいかない。効率よく被害を抑える方法は?』

「無し。戦力差が離れすぎてる。何より機動兵器が互角だから数の勝負になってる」

『中にはかなり手強い奴もいるが』

「そう言った連中はカイト君が引きうけていてくれるから戦線が辛うじて持ってるわけ。

 でも、あの艦隊旗艦と思われる大型艦が戦線に加わると、戦局は一気に変わる」

『こちらが不利になるということか』

「そう言うこと。下手に攻勢にでると薮蛇よ」

『・・・俺達は隕石の被害は抑えることが出来たのか?』

「少なくとも地球そのものに与える被害は軽減できた。

 人的被害もそれなりに軽減できたと思う。まぁ、被害が狭く深くから、浅く広くなったという感じかしら」

『そうか。・・・これで終戦になると思う?』

「それは無いわ。この隕石衝突が彼らの仕業だと分かったら、反木星派が台頭するでしょうし」

『この戦争は長くなりそうだな』

「そうね。まぁ今は防衛に専念しましょう(二度と同じ事態が起きないように何か手を打つ必要があるけどね)」

『そうだな』





 かくして、3つに分裂した巨大隕石は地球を襲った。

ヨーロッパは中央部に落下した隕石から放たれた凶悪なまでのエネルギーに襲われ、周辺諸国は軒並み壊滅することとなった。

後日の調査では、1800万人もの人間が即死。2000万人以上の人間が二次被害で死亡。

この一撃により、ヨーロッパの先進国は大半が中進国以下に転落することとなる。



 中国南部とアメリカ東海岸に落下しすると思われた隕石は、やや位置をずらし、沖合いに落下した。

彼らの落下時に作り出した巨大な津波が沿岸部を襲い、沿岸部の都市は軒並み壊滅。

特に中国南部近海に落下した隕石によって生み出された津波は、フィリピンを始めとした東南アジア諸国、台湾、沖縄をも襲った。

これによる被害は一次二次合わせても軽く一億人に昇ることになり、同時に東南アジア方面軍はほぼ壊滅状態に陥った。



 隕石が衝突した数時間後、ジャブローは陥落。

連合軍首脳陣はほぼ全滅したとの報告が入る。カイト達は高町中将と水瀬中将を軍の中核に据えるべく独自に政治工作を開始すること

を決定した。この時点で彼らはこの戦争の第二幕に備えるべく活動を開始したのだった。







 統和機構本部某所。

「・・・これが真実」

真澄はあまりの衝撃に、声を失いかけていた。

「そうだ」

厳馬は重々しく頷く。

「・・・父さんは私にこれをみせて何を望むの?」

「お前が選択する道は3つある。

 このことを密告するか、見てみぬふりをするか、そして」

「協力するか、でしょう」

「・・・そうだ」

「私は少なくとも、密告するような真似をするつもりはないわ。

 それにそんなことをしようとする仕草を示したら、すぐに抹殺されそうだし」

「・・・・・・」

「良いわ。協力する」

「良いのか?」

「ええ。私もあなたに恩返しがしたいし、何よりああ言った連中の言うことを大人しく聞きつづけるというのも癪だしね」

「・・・そうか」



 ここでも、新たな戦いの幕開けが行われようとしていた。

さまざまな勢力、人物の思惑が交差しつつ、事態は新たな局面を迎える。





  後書き

お久しぶり、earthです。

星の屑作戦編終了。次からは地上編に移りたいと思っています。

・・・ちょっと話に無理があったかな(汗)。まぁそれは置いといて、

駄文にも関わらず最後まで読んでくださってありがとうございました。

第20話でまたお会いしましょう。






代理人の感想

う〜む、終わってみれば後手後手の対処療法しかできなかった地球連合軍及びカイトたちに対して、

やはり仁美の戦略勝ちという感じですね。

これからの展開はわかりませんが、作戦目標は完遂されていることを考えても、

現状では仁美のシナリオ通りと理解していいでしょう。

 

戦争とは騙し合いである、と昔の偉い人はいいましたが

カイト側が仁美をだまくらかして勝利を手にする日は来るんでしょうか?

まぁ、その前に対立の構図自体が書き変えられる可能性もありそうですけど。